魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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1章 経緯とかそんな感じ
お前、人間界行ってくんない?


 

 突然ですが俺、橋尾(はしお)(かける)20歳童貞は転生致しました。

 

 いやね? まさか青信号で渡ってる時に横から車がぶっ飛んでくるとは思わなかったわ。

 

 そりゃあ最近暴走運転とか話題にはなってたよ? けどまさか自分がっていうのが正直な感想。

 

 そんでまあ天国にでも行くのかな〜と思ってたら見知らぬ場所で目が覚めたんですわ。いや〜心踊ったね、これが噂の異世界転生かって。

 

 きっと特殊な能力が生まれつき与えられてたり、なぜかモテまくったりして無双とかできるんだ! やったぜチート万歳だ! 

 

 そう思っていた時期が、私にもありました。

 

 無いんですよ、何にも。生まれ変わったこの体、超能力とかレアスキルとか本当になーんにも無いの。

 

 というかまず人間ですらなかった。種族は人間の敵である魔族って奴。でもそれだけ聞いたらなんか強そうに聞こえるじゃん? なんか画数多いし。だけど俺はここでもハズレを引いたわけ。

 

 魔族にもいろいろ種類があって、強いのはとことん強い。例えばスーパーエリートな竜人族とかパワータイプの鬼族とか。でも俺がなったのは低級悪魔って言って、魔族のワースト5に入るような超弱い奴だった。

 

 具体的にどれくらい弱いかって言うと街中にいるちょっと腕っ節の強いおっさんに普通にぶち殺されるくらい。なんなら前世の方が強いんじゃね? アホかな? 草生えるわ。

 

 そんな感じでいきなりハードモードで始まった異世界生活だったけど、わりかし身の危険を感じる事は無かった。何故なら魔界で一番安全と言われてる魔王城の城下町で生まれたから。

 

 この世界の人間界と魔界は仲が悪くて常時敵対してるんで、たまに勇者を名乗る人間が魔王討伐に魔族領に乗り込んでくる。それでそいつは魔王城があるこの街を目指してくるんだけど、たどり着く前に他の魔族が出張って倒すか、運良く辿り着けても最強な魔王様がぶちのめすので被害らしい被害は受けたことがない。

 

 そんなわけでゆるゆると安全に育った俺は、魔界でも一番良いと言われている就職先、魔王軍に就職した。

 

 え? なんでお前みたいなクソ雑魚がエリート集団の魔王軍に入れたのかって? そりゃあもう如何なく発揮しましたよ。知識チートをね。

 

 生前、軍事シミュとか戦史とか大好きだった俺は、魔王軍の筆記試験をトップで通過してやった。

 

 強さ自体は下の下もいいとこだけど、この頭脳を野放しにしとくのは惜しいと偉い人に思わせることに成功したってわけ。

 

 それで頭脳労働者として作戦立案とか任される部署、まぁつまり参謀本部みたいな所に配属されるに事になった。

 

 “みたいな”ってのがここで重要な所な。なにがヤバイってこの組織。俺が入った時は超適当で、あんまり部署とかの概念が無かったんですわ。

 

 当然部隊とかも適当で、強い人の指示に従っとけばいいか〜みたいな。もうね、これは軍隊じゃ無いですよ。ただの強い奴の寄せ集め。よく今まで負けなかったなと思う。

 

 と言う事で我慢ならなかった俺は、まずは組織改革に尽力しました。当たり前だよね。

 

 勿論、いきなりこんな入りたての若造、それもクソ雑魚低級悪魔がギャーギャー言っても誰もついてきてくれないので、みんなが幸せになるような改革から始めて支持を集めた。労災保険作ったり福利厚生施設作ったりしてな。特に食堂はこだわったんで凄い受けた。

 

 そんで人心掌握(人じゃねえけど)してから、管轄とか方面とかも分けて、部隊ごとの運用方法を明確にしていった。要は現代地球の軍隊と同じように編成し直した感じだわな。

 

 それでしばらくしてみんながこの方式に慣れてくると、これが如何に素晴らしい事なのかに気づき始めた。特に幹部とか四天王とか言われる上の人達は頭がいいから、もっといろいろ改革してほしいって俺を慕うようになったんだわ。

 

 そうなると下々の者どもも俺の事を敬うので、結果として俺の地位はぐんぐん上がっていって参謀長まで上り詰めることが出来ちゃったわけ。いや〜、やっぱ俺天才だったわ。自分、調子乗っていいっすか?

 

 ……まあ調子にのったわけじゃ無いけど、うまくいってる時って面倒事が降りかかってくるものよね。

 

「なあ、グレゴリー。いい加減ここであのクソ面倒な勇者を返り討ちにするのも飽きてきたと思わないか?」

 

 そう言って俺に無茶振りしてきたのは魔界を統べる魔王、ギルス様だ。因みにグレゴリーってのはこの世界での俺の名前ね。

 

「何を仰ってるんですか。ここのところは他の皆さんが頑張ってくれるお陰で苦でも無いでしょうに」

 

「いや、だからこそだよ。あいつらがここまで来ることってもう無いじゃんか。正直暇なんだけど」

 

 あー、逆にね? 俺が魔王軍に入る前はちょくちょく魔王城近くまで勇者が来ることはあったけど、俺が組織改革してからはそういうの無くなったからね。それが魔王様的にはお気に召さないと。

 

 はぁ……意味がわからん。これだからバトルジャンキーは。だいたい軍のトップが前線で戦うとか地球なら敗北寸前だぜ。

 

「無茶を言わんでくださいよ。魔王様にもしも何かあったらどうするんですか?」

 

「ああ、それは困るから勿論()()前線には出ないぞ?」

 

 あれ? この魔王様(ひと)なんか自分で言い出しといてやけにあっさり引いたぞ? 

 

「クククその顔、やっぱりお前は勘がいいな。そこで最初の話に戻るんだよ。この魔王城で勇者を返り討ちにするのも飽きたって話に」

 

 おやぁ? もしかして俺は何かとんでもない地雷でも踏み抜いたんじゃなかろうか? 魔王様の何か企んでいる時特有の凄く怪しい笑顔に若干警戒レベルを上げる。

 

「この俺様が人間界に出向いていって、あのクソ面倒くさい勇者召喚を止めさせるっていうのは制約があるから出来ないだろ?」

 

 魔王に選ばれた魔族が正式に就任すると、魔王城から()()()()()()()()。一種の呪いみたいなもので、離れすぎると死んでしまうのだ。具体的には城下町より外側には行けなくなる。

 

「それじゃあ魔王軍総出で人間界に全面戦争仕掛けるかって言われたらそれは部下が死ぬ事になるだろうからやりたくない。人間側だって嫌だろうしな」

 

 元々俺が来る前も魔王軍にポテンシャルはあったし、組織改革した事で立派な軍事組織になったので、ぶっちゃけ全面戦争したら人間の国家は全部落とせると思う。

 

 それでも犠牲は絶対に出るし、その後の統治は誰がやんの? 多分俺。ってな話なので俺もやりたくない。

 

「そこで俺は考えたんだ。どうやったら退屈さと勇者という二つの問題を一挙に解決できるのかを」

 

「……」

 

 俺は、この先この身に降りかかるであろう困難をなんとなく感じ取って黙りこくった。

 

「グレゴリー。お前、俺の代わりに人間界に潜入して人間の世界を乗っ取ってきてくんない? そんで勇者召喚やめさせるの」

 

「はいっ!?」

 

 いやなんでそうなるんですかねぇ!? 無茶苦茶だよ! 過去にないくらいの無茶振り。俺はその場で数センチ飛び上がった。

 

「いやいやいや! 無理ですよ! 俺のような低級悪魔が人間界に行ったらすぐ殺されちゃいますって!」

 

 俺はギルス様のような魔王とは違って弱い。というか弱い魔族トップ5には確実に入る貧弱さなのだ。人間界で魔族って事がバレたら多分すぐぶっ殺されちゃう。ほんともう実質スライムとかと変わんないから。

 

「いや大丈夫大丈夫。俺が魔王プロテクション掛けてあげるし、強い奴護衛に連れてっていいから。それに変身の秘術が使えるんだからそうそうバレないって」

 

「んー、そうですかぁ? ……いやしかしですよ」

 

 魔王プロテクションというのは、掛けられた者の防御力がかなり上がるという魔王の力の一端だ。それに護衛も付けていいならばなんとかなるかも。そう納得しかけた俺だったが、もう一つの問題が片付いていない事に気がついた。

 

「仮に俺が人間界に行ったとしても魔王様が退屈なのは解決しないんじゃないですか? 定期報告で満足出来ます?」

 

「フッフッフ、それに気づくとは流石はグレゴリー。だがそちらも既に手は打ってあるのだよ」

 

 そう芝居がかって言った魔王様は、懐から変わった模様の板を二枚取り出して頭上に高々と掲げた。なんだ、この魔王様、最初から俺に行かせる気満々じゃないか。

 

「一見何の変哲も無いように見えるこの板こそ、世紀の大傑作。魔王シアターだ!」

 

 ネーミングセンスがポンコツなのは相変わらずだわ。ていうかなんだそれ。俺はそんなの聞いた事無いぞ。

 

「なんですかそれ。初耳ですよ。もしかしてまた極秘とか言って俺に隠れて研究費つぎ込んじゃったんですか?」

 

 極秘の研究ってのは敵にばれないようにするんであって、俺にばれないようにするわけじゃないんだよなぁ。

 

「え? いや……まあこれは魔王軍にとって必要な物であるから……じゃなくてだな! これは凄いんだぞ!」

 

 あ、誤魔化したぞこの魔王様。

 

「なんと! この受信板を持っている者は、こっちの送信板を持っている者の目に映る景色と聞こえてくる音をまるでその場にいるかのように感じ取ることが出来るのだ!」

 

 おお、それは確かに凄い。今現在も音声のやり取りが出来る通信機みたいな物はもうあったけど、映像も送れるのは画期的だ。百聞は一見に如かずって言うしな。たしかに魔王軍には必要な物だ。ところで問題は開発費である。

 

「凄い装置じゃないですか! で、それ作るのにいったい幾ら掛かったんです?」

 

「そうだろうそうだろう! なんとこんな凄い物がたったごひゃく……」

 

 魔王様は言い掛けてハッと口をつぐんだ。なにぃ? 五百ぅ……?

 

「……まさか500万ですか。500万シルバーも使っちゃったんですか!?」

 

 しかもたったって言ったぞ! それだけあれば魔王城の食堂の改装工事が出来るくらいの金額なのに!

 

「……500シルバーくらいかな〜なんて……」

 

 そんな昼飯代くらいの金額で出来るかっての。はぁ……しょうがないな。

 

「……まぁ魔王様が暇で暇でしょうがなくてその解決の為にお金使っちゃったのは俺にも責任の一端があります。ですから今回は咎めません」

 

 事実上、俺は魔王様の御目付役でもある。そんな役職は無いんだけど参謀長がそういう役回りになるのが慣例らしいからしょうがない。

 

「……許してくれるの?」

 

「今回は、です。その……魔王シアターでしたっけ? それ持ってちゃんと俺が人間界に行くので今後はそれで我慢してください。くれぐれもお金を使うときは俺に相談してからでお願いしますよ」

 

 まだ作ってないけど今度監査とか作るつもりなんだからもっとしっかりしてほしい。

 

「……グレゴリー。お前は優しいなぁ、今度給料上げてあげるよ」

 

「……分かってませんね魔王様」

 

 そういうとこやぞ……俺はガックリしながら人間界に行く事を決意した。

 

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