「俺にはな、真実の目っていう特殊能力が使えるんだ」
真実の目? 聞いた事があるぞ。見たものの本質を見通す力。なるほどそれがあったから俺達が魔族だと分かったわけだ。だが俺の記憶違いでなければその能力は……
「トール、お前もしかして……」
「ああ、そうだよ。俺は
やっぱりそうだ。真実の目、この能力は勇者にのみ備わった力だ。
確かに存在は知っていたし警戒もしていた。ただ、次の勇者が出現するまでは、まだ一年程あるのでそこまで気にはしていなかったのだ。
それがまさかこんな所に元勇者がいるとはね。完全に油断してた。
「はぁそうか……元勇者ね。それは考えてもみなかったよ。だいたいの勇者は魔族領に突っ込んできて返り討ちにあって死ぬからな」
無謀にも突撃してきて息が続かずに途中で討たれる。勇者の認識なんてそんなもんだから、元勇者なんて存在がほとんどあり得ないのだ。
「確かにそうだな。多分そんなの俺くらいだから安心していいぜ?」
お? トールの奴。まるで俺たちの味方みたいな語り口じゃないか。今までの会話にそんな要素あったか?
「なあトール。ところで俺達はいつから仲間になったんだ? どうもお前の口からはそういう風に聞こえるけどな」
「そのつもりだぞグレゴリー、公言したことはないがお前達同様、俺も勇者召喚を止めたいと思ってるんだ。俺にも協力させろ」
うわお。勇者が魔族に協力を申し出てきたよ。本気で言ってんのかこの男。いや、協力してくれるならこれ以上ないくらい重要ポストの人間だけど。
「俺が言うのもなんだけどお前、よく信じたなこんな話。俺が嘘を言ってる可能性は考えなかったのか?」
「だから言っただろ? 俺には真実の目が使えるって。使い方次第で言ってる言葉が本当かどうかも分かるんだよ」
なーるほど。そりゃあ正直に答えといて良かったわ。下手に嘘ついてたらウキウキ人間界ライフが終了するところだったのか。危ない危ない。
「ならお前に嘘は吐けないな」
「ああ、くれぐれも裏切るような真似はしないでくれよ。俺も嬢ちゃん達と殺し合いなんてしたくないからな」
それは分かったとしてもこの男、どうして勇者召喚を止めたいんだろうか? トールにはあまり関係がないように思えるが。そう思って問いただすと、これ以上無駄に突っ込んで無意味に死んでいく命を増やしたくないだけだ、とのこと。
「それに俺も騙されてたからな、奴らに。政府の連中が許せないってのもちょっとある」
「騙されてた? お前がこの国にか?」
トールが言うには、召喚された勇者は皆、魔王を倒せば元の世界に帰れるようになると言われるらしい。それもあって、勇者は皆がむしゃらに魔王殺害を目指すのだ。
「あーなるほど。真実の目を使ったら連中の言ってる事が嘘だって分かった訳だな?」
「そういう事。まあこの能力をこんな特殊な使い方してるのは俺くらいで他の奴はまんまと騙されたようだがな」
なるほどな。まあだけど人間が勝手にやってる召喚と、魔界の魔王になんの関係があるのかって冷静に考えたら分かりそうなもんだが。しかしそんなのはポンといきなり新しい環境に放り込まれたら“そういうものか”って思っちゃうんだろうな。
「っていうかお前さ、元の世界って……いや何でもない」
俺はそこまで言いかけて口を噤んだ。
もし、元の世界はもしかして地球なのか? なんて聞いて当たっていたら俺自身が転生者だと言ってるようなもんだ。
俺はこの事実を誰かに伝えた事は無いし、今後伝えるつもりも無い。それをまだ完全な味方とも言えないトールに知られるわけには絶対にいかない。だから俺は黙っていることにした。
「元の世界に帰る方法はいろいろ調べたんだがな。やっぱり無理らしい。もうとっくに諦めたよ」
「そりゃ悪い事を聞いたな……」
なんか勘違いしてくれたので適当に合わせる。しかしそうか……帰る方法はないのか。別に俺に未練はないんで気にはならないけどな。だいたい俺は死んでこっちに来てるからちょっと事情が違うし。
「気にすんな。俺はもうこの世界の方が長いんだ。それにこの仕事も結構気に入ってるしな。ま、俺についてはこんなとこだ。他になんかあるか?」
「そうだな。真実の目が使えるって事は随分前から魔族がいることには気付いてたんだろ? なんでほっといたんだ?」
マゴス君やクラウス他、数名の魔族が諜報部の調査でギルドを出入りしてるのには気付いていたはずだ。
「ん? まあ今までみたいにお忍びで来てるくらいだったらわざわざ騒ぐほどのことじゃないからな。見て見ぬ振りしてたんだよ。だいたい俺はもう勇者じゃないから厄介ごとには関わりたくない」
諜報部のみなさーん。どうやらバレバレだったみたいですよー。こりゃあ他にも元勇者が居ないか最優先で調査しなきゃな。他にもトールみたいなのが居ないとも限らんし。
「じゃあ今度はお前の番だ。お前は何者なんだ? 見たところ強くはないのにあの嬢ちゃん達に慕われてる。俺は不思議でしょうがねえよ」
魔族って実力主義社会じゃないのか? なんてトールは首を捻っている。
ここまできたら腹を括って全部話した方が得策だな。それでこの男を完全に味方に引き入れる。
俺は魔王軍での自分の立場や、どうして人間界に潜入することになったのかを話した。魔王様の暇つぶし、というのだけは逆に信憑性がなくなるので言わないでおく。
「重要人物なんだろうとは思ってたがなるほど参謀長か……いや、なんで本人が前線に出てきてんだ? 普通後方で作戦とか考えるんじゃないのか?」
「うちは普通じゃ無いんだよ……」
魔王様ー。勇者にも言われてますよー。やっぱりおかしいですよー。あぁ……そういやこの部屋の中、通信が切れてるんだった……そろそろ部屋を出た方がいいよな。
「そろそろ向こうの方に戻ってもいいか? 結構時間経っただろ? 他の奴が心配して待ってるかもしれん」
この部屋に入って30分くらい経った。そろそろ魔王様も心配して連絡する頃かもしれない。というかよくよく考えたらやっぱり魔王様はスルーしてんなコレ。
「確かに。結構話し込んじまったな。なら最後に一つだけ……
「……無いよ」
ねぇそれズルくない? これで“ある”って言えば自分から白状する事になるし、“無い”って答えて仮に嘘だったらやっぱり真実の目で分かる。これじゃこっちだけ丸裸じゃん。
「ふむ、真か。悪いな。こっちも命がかかってるんでね。まあこれから仲良くしようや」
「はぁ……やり辛えなぁ。こちらこそよろしく。お互いなるべく誠実に行こう」
俺は立ち上がってトールと握手をする。トールもその筋骨隆々の腕でがっしり握手を交わしてきた。
冒険者ギルドのサブマスター、トールが仲間になったぞ! やったね! はぁ……他のみんなになんて説明したらいいのやら……