魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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よく分からない勇者の生態

 

「今日の近衛の動きにサージェスが勘付いてる様子は?」

 

「今のところ全くありません。奴はいつも通りまだ自宅にいます」

 

「メナスの工場の方に何か動きは?」

 

「平穏そのものです」

 

「病院の方も器具がすり替えらえたりとかは無い? これも大事な証拠になるからね」

 

「全くありません。昨日の夜の時点ではそのままでした」

 

「なら後は近衛が捜査に入ってそれでおしまいか。意外と時間が掛かったなぁ」

 

 サージェスをどう辞めさせるか。今回俺達は割とオーソドックスな方法を取った。奴の罪状を洗いざらい調べあげてそれを公権力に匿名で告発する。それが一市民でしかない俺たちに唯一出来た事だ。

 

 ただ大変だったのは公権力である近衛の内部にもサージェスの協力者がいた事。これを調べるのには骨が折れた。途中で気付かれては元も子もないので徹底的に調べあげたが、お陰で1ヶ月も掛かってしまった。

 

「じゃあ俺は奴の家の近くまで行ってサージェスが逮捕される瞬間でも見に行ってこようかね?」

 

 俺は壁にかけてあったコートを羽織る。外はまだ暗く、ようやく東の空が白くなり始めたばかりだった。

 

 

 ーーー

 

 

 まだ通りに人が居ないこの明け方の時間帯、サージェスの邸宅のすぐ近くに10名ほどの衛兵が息を潜めていた。

 

「よし、定刻だ。入るぞ」

 

 衛兵の一人がサージェス宅のドアをドンドン叩く。

 

「おはようございまーす! 衛兵隊のものですがー! サージェスさんは居りますかー!」

 

 やがて少しして家政婦がドアを開く。それと同時に衛兵隊はドアを大きく開けて中に押し入った。

 

「きゃっ!? 何ですか! あなた達は!」

 

「衛兵隊の者だ。ちょっと旦那さんに用がある」

 

 そのままずかずかとサージェスのいる寝室まで歩いていく衛兵隊。それに釣られるように家政婦もついて行く。

 

「旦那様ー! あの、旦那様ー!」

 

「えーと……ここだな」

 

 寝室を見つけ出した衛兵が寝室の扉をバンと開ける。中では騒ぎで目を覚ました、事態をよく飲み込めていないサージェスがベッドに横になっていた。

 

「近衛師団、第7衛兵隊の者です。国家に対する忠誠義務違反の疑いでお宅を強制調査します。また、近衛師団の権限で一時的に身柄を拘束させていただきます。これが師団長が発行した許可状です」

 

 有無を言わさず衛兵隊の隊長が許可状をサージェスの眼前に突き出す。突然の事態に、サージェスは何が何だか分かっていない様子だ。

 

「よし、連行しろ!」

 

 連れて行かれる段階になって漸く事態を飲み込めたサージェスは、今更になって喚き出す。

 

「おい! 貴様ら一体誰の差し金だ! こんな事してタダで済むと思ってるのか!」

 

「おい、早く連れて行け。近所迷惑だ」

 

 喚くサージェスに目もくれず、衛兵隊長は調査に取り掛かる。サージェスは自分が窮地に陥った事を理解し始めていた。

 

 

 ーーー

 

 

「おお、出てきた出てきた。可哀想にサージェスのやつ、パジャマのまんまだぜ」

 

 衛兵に拘束されて家から出てきたサージェスを遠巻きに見ながら俺はサリアスさんに話しかけた。

 

「長かったですね。本丸のサージェスは抑えているので恐らく他も順次調査に入ったと思います」

 

「さてと、じゃあいいもん見れたしもうちょっとしたらギルドに向かうかな。トールにも聞かせてやろう」

 

 後はトールをギルドマスターの椅子に座らせれば、ようやく回復薬の製造事業を始められる。そうすればやっと金の心配はしなくても良くなるな。全く、金を稼ぐってのは本当に苦労するよ。

 

 

 ーーー

 

 

 サージェスが捕縛されてから2週間ほどが経った。

 

 後日談としてはそんなに面白い話はない。まず、サージェスは死刑は免れそうだが一生シャバの空気は吸えないだろうって事。これはお仲間のメナスの方も似たり寄ったりだ。

 それで俺達は回復薬製造所を予定通り造ったし、トールも無事にギルドマスターの座についた。

 

 ああ、面白い話がひとつだけあったな。これはトールに勇者についての情報を聞き出した時のことだ。

 

「なんだって!? 勇者は一般人と見分けが付かないだって!?」

 

 冒険者ギルドの受付カウンターで俺は叫び声をあげた。

 

「馬鹿! お前静かにしろよ……! 誰も居ないからって……あのな、勇者は最初は普通の一般人でしかないんだ」

 

 トールが何か変なことを言っているが、さっぱり理解できない。あの強大な勇者が一般人と見分けが付かないなんて、そんなことがあるのか?

 

「もっとちゃんと分かるように説明しろ。なんで分からないんだよ?」

 

「だから、召喚された直後は本当に普通の人間で何の力も持ってないんだよ。俺自身もそうだったんだ」

 

 トール曰く、召喚直後の勇者は力も強くなければ特殊能力も使えないらしい。それがある日突然“覚醒”して強大な力を得るらしかった。

 

「じゃあ何か? お前も召喚直後は“真実の目”は使えなかったわけだ」

 

「そうそう。力も弱くて中級冒険者にしかなれなかったしな」

 

 何てこった。今、マゴス君に召喚された勇者についての情報を集めるよう指示してるが、トールの言を信じるならばほぼ何も分からないって事になる。ただ、覚醒前の勇者は真実の目が使えないらしいからそれだけはほっとする点か。

 

「それで? 見分けが付かないってのはどういう事だよ。お前は真実の目が使えるだろ」

 

「ところが分からないんだよ。ちょうど2代前にクリスって名前の勇者がいただろ?」

 

 ああ、たしかにそんな名前の勇者がいたような気がする。そいつは魔族領に突撃してきて途中で討たれて死んだ。一応後で確認しとこう。

 

「そのクリスがどうした」

 

「そいつはこのギルドで中級冒険者をやってたんだよ。でも俺が真実の目で見た時は勇者のゆの字も無かった」

 

「は、なんで?」

 

「そんなの分かったら苦労しねえよ……で、続きだがそのクリスがある依頼を終えて帰ってきた事があった。別に普通の討伐依頼だ。だけど帰ってきたときに物凄いオーラを感じたんだ」

 

 ただならぬオーラを感じ取ったトールが不審に思って真実の目で見たところ、はっきりとクリスの情報に勇者と明示されていたらしい。

 

「それでクリスはそのまま魔族領に突っ込んでいっちまった。その後どうなったかはお前の方が詳しいだろ?」

 

 いやいや謎すぎるだろ勇者の生態。ある日突然覚醒するとかどんなサイヤ人だよ。やっぱあいつら人間やめちゃってるわ。

 

「覚醒か……何か条件はないのか? お前ん時はどうだったんだよ」

 

「俺か? うーん、俺の時は……あ、俺の時は依頼を受けてはなかったけど、ちょうど魔物を殺し終えた直後だったな」

 

「なんだか釈然としないなぁ……じゃあ魔物を殺す事がトリガーになってる可能性が高いのか」

 

「ああ、そうかもしれない。あんま考えたこと無かったけど」

 

 ということは勇者の卵は冒険者稼業をやっている可能性が非常に高い訳だ。しかもここメルスクは魔界に一番近い冒険者の街。勇者の卵がここを目指していてもおかしくはない。

 

 ていうかなんでそんな大事な話を今までしないねん。こちとら勇者の情報を集めてるって言ったよな? 本当にこいつ、協力する気あんのか?

 

「あのな。お前は関係無いかもしれないけどこっちは死活問題なんだ。分かってることは全部話せよ」

 

 俺がイライラしているのに気づいたトールが慌てて弁解する。

 

「いやいや! そんくらいお前ら知ってるかと思ってよ。聞かれたら全部言ったさ。だいたいお前らだってどれくらい情報を持ってるのか俺に一切言わないじゃ無いか……」

 

 む。確かにそれを言われると反論できない。やっぱり味方とは言っても魔族では無いからどこか心の中で線引きをしてしまっていたのかもしれない。怒るのは筋違いか。

 

「確かに。もうお前とは一蓮托生。もう情報は全部共有すべきだな。イライラして悪かったよ」

 

「……まあきちんと確認しなかった俺も悪いんで気にしないでくれ」

 

 はぁ、しかしそうなると情報収集は難航するなぁ。ここで活動する危険性も爆上がりだ。またちょっと何か方策を考えなきゃならないな。

 

「じゃあトールはとにかくこまめに冒険者の情報を見てくれ。あんま意味はないだろうが何か分かったらすぐに知らせてほしい」

 

「あいよ。その代わりと言っちゃなんだがギルドマスターの業務を手伝ってくれると助かる。正直自分でもこの地位は器じゃないと思ってるんでね」

 

 ほう? 自分で器じゃないと思ってるなら、本当に実力がない人間よりはよっぽどマシだな。自分の力量を認識してる奴ってのは意外としっかり仕事はこなすもんだ。

 

 俺は多少気を良くすると、トールに別れを告げて家に戻った。

 

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