魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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ある休日のお話

 

「工場なんて言っても大きな機材はほとんど必要ありませんからね。結局はどの材料を使うかですし」

 

 そう話すのはあの技術畑のドワーフ族、カイルだ。ここにきてから2ヶ月近くの間、ずっと回復薬の研究開発をしてもらっていた。

 

「面積がそんなに必要無いのはいいな。後は何人雇うかだけど、1日に200本作るとしたらどれくらいの人が必要になる?」

 

「そうですね……ええと3人は欲しいですね。まずはそれでお願いします」

 

「分かった。ちょっとばかし時間が掛かるかもしれないけど使えそうなのを見つけてくるよ」

 

「お願いします。あ、それとグレゴリー様。一応これが出来上がった試作の回復薬です。飲んでみます? 効果は実感できないと思いますが」

 

 そう言ってカイルはガラス瓶に入った緑色の液体を見せてくる。中身は見えた方がいいという事でこんな瓶に入っているが、その見た目はさながらモンハンの回復薬だ。

 

「じゃあ一応飲んでみるかね」

 

 瓶を受け取り、蓋を開けてクイッと呷る。味はめちゃくちゃ苦いのかと思ったらそうでもなく、寧ろ甘めだ。

 以前、メナスの製造所で作られたあのインチキポーションを飲んだ時は水でも飲んでるのかと思うくらい薄かったのでそれと比較するとこちらの方が全然飲める。というか普通にイけるぞ。

 

「効果はよく分からんけどこの味なら売れるよ。間違いない」

 

「そう言って頂けると苦労した甲斐がありました」

 

 いやぁ、優秀な技術者がいてくれると助かるね。後は人員の確保と材料調達のルート確保だな。

 

 俺は一度カイルと別れてまずはレイラが滞在する宿に向かった。新しい商会が出来た報告と、うちで働く気はあるかの確認だ。

 

「よお元気? 前に言ってた商会が出来たんで、うちで働くか確認しにきたぞ。商会ってのは回復薬の製造所なんだけどさ……」

 

「……突然やって来て捲し立てるのやめた方が良いわよ。あんたの悪いとこね。最初から丁寧に話してくれる?」

 

 あん? 悪かったな早口で。こちとら忙しくてな。この後、市場にも行って材料の価格も調べなきゃならんのよ。

 

「ったく、しょうがねえな……」

 

 意外と簡潔に説明するのって難しいよねと思いながら回復薬製造所を作ることになった経緯を話す。勿論サージェスの犯罪を暴いたとかのドロドロした部分は無しだ。

 

「てことでメナスの製造所が()()潰れちゃったんで、だったら丁度いいから俺たちが参入しようってなったわけ」

 

「はぁ……それで()()アーネストさんとピルグリムさんがマスターを辞退して、()()あんたと仲のいいトールがギルドマスターに就任したのね。ほんと不思議ね」

 

 あれれ、おかしいですよ? なんかこの少女、陰謀論をぶちかましてきましたよ? 我々は清廉潔白なのに疑うなんてオカシイナー(棒)。

 

「そんな疑り深い君にある格言を教えてあげよう。“強者は運すらも手繰り寄せる”。いい言葉だろ」

 

「それ、誰が言ったのよ」

 

「俺が今考えた」

 

「……」

 

 ああやめて。お願いだからそんな虫を見るような目で見ないで。

 

「……とにかく、俺は脅したり騙したりの悪いことはしてねえよ。ちゃんと穏便に話は付けたさ」

 

「認めたわね……」

 

 えー? いいじゃん別に。ピルグリムなんて名画まで持ってったんだぞ? 正当な取引じゃんか。まぁレイラはその事実を知らないから正当な取引をしたかどうかは分からないんだろうけど。

 

「もうそんな話はどうでもいいだろ。で? どうすんの? 来るの来ないの? どっちなの?」

 

「行くわよ」

 

「あーあ! 超お得な就職先なのになー勿体ないなー絶対後悔するのになー、って来るんかい!」

 

 色々と難癖つけてきたからてっきり断るのかと思っちゃったよ。

 

「誰が行かないなんて言ったのよ。初めから行く気だったわ」

 

「あ……そうなの?」

 

「でも報酬はいらない」

 

「はぁ?」

 

 行くって言ったり給料はいらないって言ったり、レイラが何考えてるか全然わからん。

 

「その代わりにね、仕事の空き時間に剣術を教えて欲しいの」

 

「え、俺に?」

 

「あんたになわけないでしょ……勿論サリアスさんかバートンさんによ」

 

 ああなるほど。つまり金銭報酬ではなく、代わりに剣術の師匠が報酬として欲しいってことか。あれ? でもこないだ会った時はもう戦いたくないとか諦める的な事を言ってた気がするけど気が変わったんだろうか?

 

 俺がそんな風にはてなを顔に浮かべていると、レイラは俺の疑問に答えるように言った。

 

「やっぱり諦めないで頑張る事にしたのよ。だから剣術をちゃんと習おうと思って」

 

「なるほどね。そういう事なら勿論いいよ。あーでもサリアスさんは槍使いだからな。剣ならバートンの方がいいかもしんない。帰ったら聞いてみるよ」

 

「ありがとう。そういえば今日はサリアスさん、護衛には来てないの?」

 

「流石に四六時中俺につきっきりだと大変だろうと思ってな。今日はお休みして貰ってる」

 

 ちょっと街に出るくらい、そんなに危険もないという事はこの2ヶ月で分かったので、そういう時は護衛は付けないことにしたのだ。なので今日はサリアスさんは魔物狩りに出かけている。

 

「なら今は一人なんだ。これからのあなたの予定は?」

 

「えっと、市場に行って(くだん)の回復薬の材料の相場でも見に行こうかと思ってるけど」

 

 レイラは顎に手を当てて少し考え込むと、やがて立ち上がった。

 

「じゃあ私もついて行こうかな。今日は暇だし」

 

「ん? まあ別にいいけど」

 

 休日に可愛い女の子と市場に出かける。これってアレではないか? リアルが充実した人達がやるっていう、もはや陰キャからすれば伝説とも言える行為。いわゆる“デート”というものでは?

 

 レイラってちっこいけど可愛いからな。将来美人さんになるタイプ。やっべえ! なんか意識したらめっちゃ緊張してきた! 

 

「どうしたのよ。固まっちゃって」

 

 うるせえ! こちとら前世含めデートなんかしたことねえんだぞ! 固まって当然だわ!

 

 ……とまあ、そんな事を言っても何にもならないので、なんとか再起動をするとさっきまでの感じを思い出しつつ自然体で話す。うん、あれだ。妹と出かけてると思えばいいんだ。

 

 そういえば妹は元気にしてるだろうか? 俺が死んで悲しんでるかな。あんまり悲しんでないといいけど。

 

「いや、ちょっと考え事しててな。じゃあ行こうぜ」

 

 生前の事を思い出してちょっとセンチな気分になりつつ、俺は人生2回目にして初めてのデートに出かけることにした。

 

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