魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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最優先の供給先

 

 リヨン中佐と話し合った後日、俺とサリアスさんで、今までメナス製造所と取引していた相手先に話を聞いて回った。するとやはり予想通り、どこも供給が絶たれて困っている状態であることが分かった。

 

「いくつかの病院は備蓄が無くなって回復薬を他の都市から買い付けているようですよ? この街の回復薬は今までずっとメナスが独占してきたので、他に作っている所が無いみたいです」

 

「はー、これはもっと最初から調べとけば良かったな。冒険者相手に商売するって言う頭しか無かったから盲点だったわ」

 

 メナスが独占してんのは分かってたんだから当然そうなるわなぁ。俺ほんと馬鹿だよな。ていうかこんなの目の前に札束落ちてんのに気づかないで蹴っ飛ばしてたくらい馬鹿じゃんか。

 

「メナスの工場を貰えたらこの人たちにすぐに話を持って行こう」

 

 まず間違いなく貰えるとは思うので今から話を持っていっても良いくらいだ。そうでないにしても月にどれくらい必要なのか聞いて回っても良いな。

 

 そんな風に聞き込み調査を続けていたある日の事、クラウス君がミスターXについて、と言うよりかはレイラに関する情報について報告を上げてきた。

 

「レイラさんについて分かったことがあります」

 

 割と真剣な表情で話し始めたクラウス君は次にこう(のたま)った。

 

「彼女の出身に関する情報は何も分かりません。分かったことと言えば、今から2年前にデリウスより更に南の国からここメルスクに来た、という事くらいです」

 

 まぁこれも彼女の自己申告ですが……と嘆くクラウス君。どうやらその情報も冒険者ギルドに保管されていた登録書に記載されていた内容で、適当に嘘を書いていても分からない代物のようだ。かく言う俺も出身地の情報はでっち上げだ。

 

「あー、て事はあれか? “何も分からない”が分かりましたっていうトンチ的な……」

 

「まぁその……つまりはそういう事です。すみません……」

 

 クラウス君が頭を掻きながら謝ってくる。俺自身もおふざけはよくするから、そういう茶目っ気は嫌いじゃないよ。

 

「なるほど。こりゃもうあれだ。出身に関しては直接聞いた方がいいやつだな。それで? レイラがここに来て2年の間に誰からか恨みを買うような事はしてないの?」

 

「彼女はああ見えて性格は温厚そのもので、誰かと喧嘩してたなんて噂すらありません。寧ろ諍いがあれば止めに入るくらいのいい子です」

 

 そうなると分かんねえな。あれかな? ミスターXは過激なロリコンさんとかかな? レイラってかなり可愛いしそういう変なのに付き纏われてる可能性も無きにしもあらずか。

 

 いや、それだったらもっと前から尾けられてる筈だからおかしいか。そもそもバートンによるとプロっぽいって話だったしな。

 

 困ったことに何も分からなくなったぞ。振り出しに戻るってのはこういう感じか……

 

「分かったよ。調査お疲れ様。ミスターXとレイラに関してはしばらく調べなくていいから。通常の業務に戻ってほしい」

 

 レイラとバートンが一緒に依頼を受けるようになってから、ミスターXは現れていない。優先度は下がったと言っても良いだろう。

 

「すみません。力不足で」

 

「いや、クラウス君で分からなかったらこの世界の誰にも分からないよ。本人を除いてはな」

 

 俺はそう言ってクラウス君を励ますと不思議度が増したレイラに想いを馳せた。

 

 

 ーーー

 

 

 数日後、リヨン中佐が許可証やら何やらの書類の束を携えて、製造所にやって来た。

 

「正式に許可が降りた。メナスの工場を使っていいし、君の提示した金額も全額出ることになった」

 

 中佐曰く、工場に関しては国有地であるから無期限の貸与という事になったそうだ。別にその辺はどうでも良かったのであまり気にしていない。

 

「それはありがたい。こちらとしても早く製造したいとちょうど思っていた所です。工場にはいつから入れますか?」

 

「君がこの書類を受け取った時点からだ。つまりもう入れるということだよ。内装を変えたいのであればもう今から出来る」

 

 そりゃありがたい。それじゃあカイルとちょっと見てくるかな。

 

「ならば私はここの研究者と一緒に工場へ視察に行きますよ。中佐はどうなさいますか?」

 

「私もついて行かなきゃならんのでね。ご一緒させてもらうよ」

 

「ああ、そうですか。ではご一緒に」

 

 何やら作業をしていたカイルと、リヨン中佐を伴って元メナスの工場に向かう。そろそろ呼び名も変えなきゃな。名前は何にしようか? 第二工場? それじゃ味気ないか。あとでみんなに良い名前がないか聞いてみよう。

 

「全く相変わらず馬鹿でかいな。この工場は」

 

 ようやく辿り着いたリヨン中佐が例の工場を見上げながらため息をつく。街外れの川沿いに建てられたレンガ造りのその建物は、今はしんと静まり返ってのっぺりと佇んでいた。

 

「いやぁ、ほんとに大きいですね。これって私が責任者になる感じでしょうか?」

 

 カイルが見上げながら呟く。俺はそんな彼の肩にポンと手を置いた。

 

「そうだよ。今日からここが君の城だ。君も男なら一国一城の主には憧れるでしょ?」

 

「いや、別にそんな事はありませんが……とにかく中を見てみないことには」

 

「それもそうか」

 

 カイルの言葉に促されるように俺たちは工場に足を踏み入れる。中は近衛に調査された跡があったが、機材などはそのまま捨て置かれた状態で残っていた。

 

「古い機械ばっかりですね。本気で大量生産するならこれじゃ全然だめですよ。全部撤去しないと」

 

 撤去費用も計上済みなんで、後は持っていって貰うだけだ。

 

「ここがこんだけ広かったら今借りてる第一工場の方はもう必要なさそうだな。あっちを住宅専用にでもするか? いや、もういっそのこと別の場所にデッカい家を買うってのも……」

 

 どうせ儲かるだろうし、もうちょっと待ってお金が貯まったら別の場所に馬鹿みたいに広い豪邸でも建ててやろうか。多分、こういうのを獲らぬ狸の皮算用って言うんだろうけどな。

 

「良いんじゃないですか? あの借家もいい加減引き払いたいですし。なんならここの方がマシな気すらしてきました」

 

 うんまあ確かにそれは言えてる。あのオンボロ借家よりはこの工場の方がマシだ。

 

「いずれにせよ、その野望のためには君の頑張りが不可欠なんだよ。てことで頑張ってくれ。人集めはこっちでなんとかするからさ」

 

「分かりました」

 

「そろそろいいかね?」

 

 一人で置いてけぼりをくらっていたリヨン中佐が腕組みしながら聞いてくる。おっと、忘れてた。

 

「お前たちがここの工場を使ってどう金儲けしようが知ったことではないが、最優先の供給先は軍だという事は忘れんでくれよ? 法律で決まってるからな」

 

「勿論ですよ。ちゃんと定期的に買って頂けるお客様を蔑ろになんてしませんとも」

 

 軍人を怒らせたら怖いからな。法律なんか無くても最優先で回しますよ。それにうちに依存してくれた方が戦略的にもいいしな。物資の供給元を魔族に握られてるという恐怖を味わうがいい! いや、もしそんな事になるとしたら戦争してる時だけどさ……

 

 

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