魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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自分のお店を構えよう

 

 それからしばらくは平和な日々が続いた。

 

 新工場“アマル2000”は順調に稼働を始めたし、メナス製と違ってうちで作った物は評判も良かったので、売り込みをかけたらすぐに契約が取れた。

 

 レイラとは、あれからちょっとだけギクシャクしていたが、今は何でも無かったように元通りに戻ったし、ミスターXも相変わらず姿を見せていない。

 

 トールの方はと言うと、意外な事にそれほど大きなミスなくギルドマスターの職を全う出来ていた。

 

 つまるところ、忙しくはあったが予想外の事件とかは無く、平穏そのものだった。しかし、こうも何もないとけしからんと言う人物が出てくる。我らが魔王軍の長、魔王ギルス様だ。

 

『グレゴリー。最近スリルがなくてつまらん。なんとかしてくれ』

 

「いや、そんな事言われましても……」

 

 久々にかかってきた電話に出たら、割と無茶な要求が飛んできた。

 魔王様は相変わらず俺の目と耳にリンクして暇をつぶしていたが、近頃は平和すぎて暇つぶしにならないらしい。

 

『恋愛物はあんまり興味無いからもうちょっと派手な奴はないのか? あの中佐とやり取りした時とか結構スリルあって良かったぞ』

 

 恋愛物?? 魔王様が何の事を言ってるか分からんけど、リヨン中佐とのやり取りはマジで危なかったやつだから。決して楽しませる為とかではない。

 

「はぁ……あれは狙ってやったわけじゃないですよ。あんな事が頻繁にあったらこっちの身が持たないですって」

 

『そうだけどさぁ、暇なものは暇なんだよ』

 

 仕方ねえ。一応魔王様の暇つぶしも目的の一つだし、いくつか予定してた作戦を実行するいい機会か? もうちょっと時間をかけて練ろうかと思ってたんだけどな。

 

「じゃあかねてより計画していたある案を実行しますよ。その名も“この街の名士になろう作戦”を」

 

 いずれ人間界で影響力を持つならば、地盤を固めておく事は必要になる。その為には地域の行事に参加したり、手伝いとかをするのが遠回りのように見えて一番早い。

 

 特に効果的なのがこの街の商店街に店を出すことだな。色々な人と交流できて金儲けも出来る。一石二鳥だ。

 

 魔王様にその辺りをざっくり説明すると、ちょっと興味が出てきたらしい。

 

『へー、なんかよく分からんが面白そうじゃないか。是非やってみてくれよ』

 

 ゴーサインも出た事だし、実行に移すとするか。

 

「ま、その為には商店街に店を出す所からスタートなんですけどね」

 

『気の長い話だな。まぁ長く楽しめると思って我慢するよ』

 

 そうと決まったらちょいと下見に行こうかね? どうせ自前の店舗も欲しいと思ってたとこだしちょうどいいや。

 

 

 ーーー

 

 

「どうも初めましてカリウス会長。私はグレゴリーと申しまして、回復薬の製造販売をしております。本日はよろしくお願いします」

 

「お噂はかねがね。こちらこそよろしくお願いしますよグレゴリーさん」

 

 俺は商店街の中である程度目星をつけてから、商店街のある地区の町会長に会いに来ていた。

 

「さて、今日はどういったお話でしょう?」

 

「いえ、そんな大した話じゃないんですがね? 私どもは工場はあれど、通常の店舗は持っておりません。そこで今度どこかに店を構えたいと考えていまして」

 

「ははあ、なるほど。それでわざわざうちの所にまで来てくださったわけですか。いや分かりました。勿論グレゴリーさんなら何の問題もないですよ」

 

 メナスの作ってた回復薬が酷すぎて、普通に作っているだけなのに評価がうなぎ登りだ。

 

「ああそうですか? いやぁ我々、店舗を持った経験が無いものですから是非ともその辺りの事をご教授願いたいと思いまして、今日お伺いさせていただいた次第です」

 

 店をただ出すって言ったって何のノウハウも無いのにスムーズに店を構えられるはずがない。だからそういうのも込みで教えてもらいたくてわざわざ訪ねてきたのだ。

 

「私は回復薬の事はあまりよく知りませんが、あなたの作った回復薬はとても評判がいい。その店が出来るのならば我々の商店街にとってもプラスになります」

 

 おお、結構感触はいいな。この街にはここ以外にももう一つ商店街はあるけどこっちの方が良さそうだ。もう一つの方は忙しくて会えないって言われたからな。

 

「それでしたら今度ここかここの角の空いている───」

 

 俺は早速地図を見ながらどこに店舗を出したいかの交渉に入った。結局、カリウス会長は空いている候補地の中でも一番いい場所を貸してくれる事を快く承諾してくれた。さらに言えばノウハウを教えるための人材まで派遣してくれる事になった。

 

「いや〜今日は良いお話ができて良かった。ではまた今度伺いますから」

 

「ええお待ちしております。そうだ、最後にひとつだけ。この商店街に初めて店を構えるのならぜひ町会にも入っていただきたい」

 

 ああ、あるよねそういうの。商店街でやるお祭りとかも開催すんのかな? 多分手伝って欲しいとか言われるんだろうけどその為に来たようなもんだから寧ろちょうどいいな。

 

「勿論ですとも。ぜひ参加させていただきたい」

 

「そう言って頂けると助かりますよ」

 

 グレゴリー商会の第一号店を出店する目処が立った俺は上機嫌で家に戻っていった。

 

 

 ーーー

 

 

それからしばらく経った日、店舗を開く目処が立った俺達は、店舗の改装に取り掛かっていた。ほぼ居抜きで中身は変える必要がなかったけど、お色直しは絶対必要なんでね。

 

「ああ、マゴス君。それは壁に打ち込んじゃっていいやつだから。それとバートン、ちょっと曲がってないかその看板」

 

「え、どっちに曲がってるっすか?」

 

「右をもうちょっと上げて。そうそう、しっかり頼むよ。それはグレゴリー商会の第一号店の看板なんだから」

 

「やあどうもグレゴリーさん。せいが出ますね」

 

 改装工事をトンカチトンカチやっていると、町会長のカリウスさんが幼い息子さんと一緒に挨拶にやってきた。

 

「ああカリウス会長、ご無沙汰しています。そちらは息子さんですか?」

 

「ええ、まだ7歳になったばかりでして。今日、グレゴリーさんの事を話したら見にいってみたいって聞かなくて連れてきてしまいました」

 

 え、なんで? こんな小さな子が興味持つような要素、俺にあるか? そう思っていると、その男の子はカリウス会長の影からちょっとだけ顔を覗かせると遠慮がちに聞いてきた。

 

「おにいさんって冒険者なの? あっ、僕の名前はリュウトって言います」

 

 ちゃんと出てきて話しなさいと会長に怒られているリュウト君。多分この子、冒険者に憧れて気になって付いてきちゃったんだろうな。俺が冒険者でもあるって話は前にカリウス会長にしたし、回復薬自体そもそも冒険者向けだし。そう思うと可愛らしいものがあるな。

 

「初めまして。私はグレゴリーって言います。今度ここに回復薬のお店を開くことになりました。よろしくね」

 

 目線を合わせて割と丁寧に話したら、リュウト君はカリウス会長の影から出てきてお辞儀をした。そして目を輝かせながら宣言してくる。

 

「僕、大人になったら冒険者になりたいんです! どうやったらなれますか!」

 

 どうやったらも何も、登録だけだったら誰でも出来る。でもそういう事を聞きたいんじゃないんだろうな。俺みたいに名ばかりじゃなくてバートンとかサリアスさんみたいにバリバリ依頼をこなせるようになりたいんだろう。

 

 チラッとカリウス会長を見るとなんとも言えない困ったような顔をしていた。ははぁ、なるほど。その顔はあまり冒険者になって欲しいとは思ってない顔だな。実際、冒険者なんて安定した職ではないので気持ちは分かる。

 

 だったらこう答えるのが正解だな。

 

「冒険者になりたいんだったら沢山勉強しなきゃだめだよ。世の中には学ぶ事がいっぱいあるからね。だからお父さんの言う事をきちんと聞いて勉強するんだよ」

 

 思っていた内容とは全然違う答えだったのか、微妙な顔をするリュウト君。でもそれは正しい。本気で冒険者稼業で生きていくつもりなら勉強はそこまで重要ではないし、剣の腕でも磨いていた方がいいからだ。

 

「そうなんだ……」

 

「そうですよ。頭が良くないと一流にはなれません。それはどんな事でも一緒です」

 

 たまたまそばで話を聞いていたサリアスさんも俺の意図を察して合わせてくれる。バートンだけが、そんな事なくない? と言いたげな顔をしているがサリアスさんが黙らせる。

 

「分かった。なら僕、沢山勉強するよ!」

 

 よしよし、人の話を聞ける子は成長するよ。頑張って勉強しなさい。そしてそのままお父さんの後を継ぐなり何なり、もっと安定した職に就くといいよ。

 

 チラッとカリウス会長を見ると、会長はリュウト君に見えないようにこっそりとこちらに会釈していた。どうやら当たりだったみたいだな。

 

「さて、リュウト君も納得した事だし、中でも見ていきますか?」

 

「いや、今日は中までは遠慮させてもらいますよ。挨拶に来ただけですからね」

 

「そうですか。ではまた今度開店した時にでも」

 

「ええ、そうさせてもらいます。その時にはまた息子と一緒に来ますよ」

 

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