魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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困ったお客様

 

 店の開店準備に入ってから2週間、ようやく俺たちはグレゴリー商会の第一号店の開店に漕ぎつけることが出来た。

 

 開店のお祝いやら何やらの慌ただしい儀式を終えて、ようやく通常の営業形態に入る。すると、そこそこの人が回復薬を買いにくることが分かった。

 

 その多くはご近所さんだ。最初の開店祝いに来てくれた人達にお礼として回復薬を配りまくったのが良かった。

 

 貰った人達が調子が悪かった時に、そう言えば貰ったなという軽い気持ちで使ったら、目に見えて効果があったそうだ。

 

 本当はそんな栄養ドリンクみたいな疲労回復効果はあまり無いはずなんで、おそらくプラシーボ効果によるものだと思う。

 

 だけど、消費者がそう思ってくれているのならもういっか別に。ということでそのままにしておくことにした。

 

 別にこの世界に景品表示法があるわけでも無いし、疲労回復の効果が薄くても誰も文句言わんだろ。だってそもそもそんな効果があると銘打って売ってるわけじゃ無いんだし。

 

 とまぁそんなこんなで手頃な価格設定と、疲労回復効果を期待してか当初の予定よりもかなり多く売れた。いや、売れちゃったという方が正しい。

 

 なんで売れちゃった、なんてそんな嬉しくなさそうな表現をするかというと、ある所が文句を、と言うよりかは要望を出してきたからだ。

 

 いったいどこかと言うと、それはグレゴリー商会の最大のお得意様であるデリウス陸軍様だ。

 

「我らが軍上層部はこう仰せだ。回復薬が民生用と全く同じ効果というのは如何なものか、軍用にはもっと強力な物を納品してほしいとな。どうだ? 笑えるだろう?」

 

 そう冗談めかして告げるリヨン中佐は心底困ったという感じ。可哀想なリヨン中佐は少しやつれているようにも見える。

 

「正直意味が分かりませんね。どういう理屈ですかそれは」

 

 俺が両手でお手上げのポーズを取ると、中佐はどこか遠くを見ながら腹立たしげに舌打ちした。

 

「奇遇だな。私もさっぱり分からんのだよ。出来れば軍上層部に君が直接そう言ってくれると助かるのだが」

 

「勘弁してください。私がバラバラにされちゃいますよ」

 

 そんな意味不明な持論を展開してくる軍上層部なんて、絶対に気難しい爺さんに決まってる。そんな見えてる地雷を踏みに行くなんて馬鹿のする事だ。そんな自殺行為は絶対にお断りだね。

 

 リヨン中佐も俺の答えは初めから分かっていたようで、深いため息をついた。

 

「私もね、分からないなりに色々と考えてみたんだが、どうやらあの耄碌した爺さん連中。軍だけの特別感というかプレミア感が欲しいようなのだよ。ふざけた話だろう?」

 

 これはもう半分愚痴だな。この人は俺に愚痴を言いにきたんだ。それとやっぱり爺さんなんだな、軍上層部は。俺はそんなどうでも良い事を思いながら相槌を打った。

 

「なるほど。そうなると困りましたね。今のところ軍に納品している物と店で売っている物は全く同じですからね」

 

 というかそれだけじゃなく、冒険者ギルド内で売っている物も全部同じだ。でもそちらはあまり市井で評判にならなかったから軍が知る由も無かったんだろう。で、今回店で売り出して評判になったので、軍の耳に入っちゃったという訳らしい。はぁ……めんどくさいお客様だなぁ。

 

「そうするとアレですね、民生用を薄めて売る他ないですよ。現状の技術力ではこれ以上高濃度には濃縮出来ませんから」

 

 正直それ以外に方法は無い。研究開発で、もっと高濃度にする方法を模索する事は出来ると思うが、時間は掛かるしあんまりやりたくない。だっていったい誰が金を出してくれると言うのか。喫緊の課題でもないので前回みたいに軍が予算を付けてくれるとはとても思えない。

 

 だがしかし、その俺の提案にはリヨン中佐が難色を示した。

 

「いや、今更薄めて売り出してみろ。それでなんでそうしなければならなくなったのか市民が真相を知ったら大変だぞ。批判が軍に行くことになる。そうなったら今度は私がバラバラにされてしまうよ」

 

 濃度を半分にしたからって値段も半分にできるわけじゃ無いしね。容器のコストとか人件費とか掛かるし。そうなるとやっぱり文句は言われそうだ。

 

「確かにそれは困ります。軍としても中佐としても批判が行くのは避けたいでしょうしね」

 

 うーむ、軍と俺との間で板挟みになってるリヨン中佐がかわいそうだな。これはちょっと協力してあげた方がいいかも。

 

「分かりました。少しだけ時間をください。なんとか丸く収まるように考えますから」

 

「いや、ありがたい。もし上手く解決したら何かしらの礼はさせてもらう。私個人としてだけでなく補給課としてもだ」

 

「そうですか? まぁ上手く行くとは限りませんからそんなに期待しないで待っていてくださいよ」

 

 見返りを期待しつつ、リヨン中佐と約束したその日の午後、早速俺はアマル2000工場主任のカイルを呼び出して相談を始めた。

 

「かくかくしかじかで困ったことになったんだけど、もっと濃縮するってのは無理な相談だよな?」

 

「うーん……これ以上は厳しいですね。研究開発を進めれば可能だとは思いますが時間もかかるし、仮に出来たとしても飛躍的に濃度を上昇させるのは不可能です」

 

「だよなぁ……いや分かってたけどさぁ」

 

 予想通り難しいらしい。困ったな、どうしたもんか。いっその事、民生用は販売しない事にするか? 

 

 いや、もう店を持っちゃったし、機会損失甚だしいからそんなのは絶対にダメだ。うーむ、もっとなんかスマートな方法が絶対あると思うんだけどなぁ。

 

「軍人さん達にも困ったものですねぇ……規格を一つに絞ってるから安くついてるのに」

 

「全く、本当に困ったお客様だよ」

 

 結局、俺達はウンウン悩んだ末に何も良い案を思いつく事が出来ず、その日1日を終えた。

 

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