魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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栄養ドリンクみたいな何か

 

「どうですか……? なるべく甘くなるように調整してみたんですが」

 

 俺は、カイルから渡された試作の疲労回復薬をグビリと呷った。

 

 苦い飲み物に甘い何かを無理やり混ぜたような濃い味がする。なんとも表現し難い味……って程でもないな。ぶっちゃけ地球の栄養ドリンクみたいな味だ。これなら効果もありそうな気がする。

 

「味はそこそこだな」

 

 それになんとなく効果も感じられるような気がして来た。多分気のせいだけど。

 

「いやー良かったです。味はちょっと無理やり感あったんで、ダメって言われたらどうしようかと」

 

 ああ、やっぱり無理やりなんだ。でも日本で売ってたような栄養ドリンクと大差無いなので問題無いと思う。

 

「まぁ大丈夫じゃない? それで今までの回復薬と比較してコストはどれくらいかかるの?」

 

「その大きさでしたら材料費だけでだいたい3分の2程度ですかね」

 

 初期投資は仕方ないにしても、材料費が下げられたなら充分すぎるほどだ。よし、これで行こう。

 

「これ、もう2、3本貰ってっていいかな? リヨン中佐とその部署の人達に説明するのに使うからさ」

 

「ええ、勿論です。出来れば感想の方も教えて頂けると助かりますね」

 

 

 ーーー

 

 

「ふーむ、なるほど。これがその疲労回復薬か」

 

 リヨン中佐と補給課の面々は、俺が手渡した薄黄色の液体が入った瓶を興味深そうに見つめた。

 

「これは飲んでみても大丈夫なのかな?」

 

「ええ、勿論。そちらは差し上げます」

 

「そうか。ならちょっと失礼して」

 

 リヨン中佐は瓶をまるでファイトがイッパツな栄養ドリンクのCMみたいにラッパ飲みした。

 

「不思議な味だな。効果は……本当にあるのか?」

 

「そんなすぐに効果があったら怖いですって。それにそもそも疲れてないと意味がないですから」

 

「疲労は充分溜まっているはずだから意味無いはずはないんだがな。少し時間をおいてみるよ」

 

 カイルが時間をかけて作ったものなので効果はある、はずだ。

 

 ちょっと心配になって来たな。一度試供品として店で配ってみてから正式に決めた方が良いかもしれない。全然売れなかった、なんてことになったら痛い目を見ることになるし。

 

「ま、とにかく計画はさっき説明した通りです。それを、市民向けに売っている回復薬と置き換える。そうすれば現在の回復薬を軍専用として納品できる」

 

「そうか。いやしかし、今までと変わらないとなると上層部が納得するかは怪しいところだぞ」

 

「……それはガワを変えるか、名前を変えるかでなんとかなりませんかね? そもそもが無茶な要求なんだからこれくらいで納得してもらわないと」

 

「そりゃあそうだ。そう説得するのは私の仕事か」

 

 そうだそうだ。こっちは出された要求に最大限応えるのが仕事であって訳のわからん軍上層部の説得までは知ったこっちゃねえ。

 

「お互い苦労しますね。ただ、まだ何かいい方法があるかもしれませんから。良い案があったら聞かせてください」

 

「ああ、我々補給課でも何か考えてみるよ」

 

 リヨン中佐はそう言って残っていた疲労回復薬を飲み干した。

 

「あぁそうだった。ところで全然関係無い話で申し訳ないがちょっといいか?」

 

「なんです?」

 

「そういえば君は以前、果ての集落の住民を盗賊から助け出した事があったな?」

 

 あぁ、俺が魔王様に人間界に送り込まれて最初に遭遇した例の集落壊滅事件の事か。

 

「ありましたね。それがどうしました?」

 

「いや、どうもあの事件の調査が終了したらしくてな。ジャネット大佐が当事者のお前にも一度報告をしておきたいそうだ。今度空いてるか?」

 

 へー。あの事件について軍も一応調査とかしてたのか。むしろそっちの方が驚きだ。

 

 俺達もそれなりに調査はしてたけど、クレイについてはカスリもしないので事実上終了していたようなもんだ。だから軍の見解を聞いておくのも悪くないな。

 

「勿論空いてますよ。わざわざありがとうございます。では早速日程の方を───」

 

 

 ーーー

 

 

 中佐に代替案を提示をしてから暫くが経った。

 

 試供品として疲労回復薬を店に並べた最初の頃は、評判はあまり芳しくなかった。確実に今までの回復薬よりも効果があるはずなのにも関わらずだ。

 

 恐らくだけど、疲労回復に効果があると謳って売っているので無駄にハードルが上がってるんだろうと思う。そのせいで効果が感じられにくくなってるのかもしれない。

 

 しかし、発売時の値段は元々の回復薬の3分の2ほどに抑えられていると説明すると、それなら買うよと言ってくれる人が殆どだった。

 

 正式に発売を始めてからはじわじわと売れ行きが上がっていって、最終的には回復薬を売っていた頃と同じくらいの売り上げに戻った。

 

 軍上層部には、リヨン中佐の説得が功を奏したのか、当初の計画通り回復薬をほぼ軍専用にする事で納得してもらえた。

 

 これでやっとなんとか最大の顧客である軍の無茶な要求をいなせた。しかし現実は非情である。しばらくはゆっくり出来そうだとホッとしていたのも束の間、また問題が発生した。

 

「は……? 今度は疲労回復薬の方も納品しろって言うんですか?」

 

「いやもう本当にすまないと思ってる……! こういうことはもうこれっきりにするから頼むよ!」

 

 リヨン中佐は困りきった表情で俺に拝み倒して来た。増産は嬉しいくらいなんで別に構わないんだけど本当に買ってもらえるんだろうか。増産体制に入った瞬間、やっぱ買うのやめた、なんて言われたらたまったもんじゃない。

 

 俺がその事を確認すると、これから2年間は継続的に買ってくれることを約束してくれた。

 

「ありがとう! 礼は必ずするから」

 

「はぁ……まぁ2年間継続購入してくれるんならそれで構いませんので頭をあげてください」

 

 結局、グレゴリー商会は回復薬と疲労回復薬の両方を軍に納品する事になった。俺たちの苦労っていったい……

 

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