「久方ぶりだな、グレゴリー君。わざわざ呼び出してすまないね。リヨン中佐から話は聞いているかね?」
しばらく経ったある日、ジャネット大佐から呼び出された俺はトールと共に、なんちゃらコレクションの提督がいそうな、どえらい執務室に来ていた。
「ええ、何でもあの集落壊滅事件で報告したいことがあるとか?」
俺がリヨン中佐から伝え聞いた通りに話すとジャネット大佐はバツが悪そうに答えた。
「まぁ報告したいことがある、というよりかはただ単に調査が完了したというだけなんだがな。今回は一応当事者である君にも伝えておかなければと思っただけだ」
調査が完了したっていう言い方から考えて、これは何も分からなかったんだろうな。そうは分かっていてもズバズバ言えないので適当にお茶を濁す。
「それはわざわざありはとうございます。結局あの後、私が話した洞窟から新たに何か分かった事はあったんですか?」
「残念ながら君から知りえた情報以外には特に出てこなかったよ」
「あぁ、そうですか。それは残念です」
実はあの日、村人を救出してからの出来事は全部正直には話していない。
話した内容は、
ぶっちゃけ、あの洞窟にたどり着いたプロセスが知られたらまずいのであって、他は正直に言っても何にも問題がないのでそれ以外は普通に話した。
あぁ、そう言えばあの時洞窟に縛って置いてきた盗賊はどうなったかと言うと全部逃げられた。
街に帰る途中で会ったクレイの手下の半分が洞窟に向かって行ったのは確認したのでそいつらと一緒に逃げたんだろうと思う。
あの時魔王様の偵察機……じゃなかった使い魔に、洞窟に向かっていったクレイの手下を追跡して貰えば良かったけど、気が動転しててそこまで考えが及ばなかった。あれは割と致命的なミスな気がする。しかしそんな事を今更悔やんでもしょうがない。
「あの犯人共が通信機で連絡を取っていた相手 “クレイ” についてはどれほど調査しましたか?」
「詳しくは機密情報になるから申し上げられないが、実施した内容はほとんど無駄に終わったと言っていい」
そう大佐は答えてくれたけど、正直あんまり信用してない。軍人は戦争が起こった方が色々と都合が良かったりするから隠してる可能性もある。
まぁだからこそ嘘発見機のトールを連れてきたんだけど。
その後、特に盛り上がることもなく適当に世間話をして俺とトールは引き揚げた。帰る道すがら、俺はトールの肩に手を置きながら顔を寄せる。
「で、どうだったの?」
「ん? ああ、別に嘘はついてなかったぜ。全部真だ」
なーんだハズレ。まぁそんな簡単に当たったら面白くないか。
「ふーん。まぁ大佐クラスでも知らされてない可能性があるからまだ疑念が晴れたわけじゃないけどね」
俺がちょっと残念そうにそう言うと、トールが不思議そうに聞いてくる。
「いやしかし、なんでお前は軍に対してそんなに疑り深いんだよ。前に部下でも殺されたのか?」
「いいや? 別に特に恨みは無いけど軍が一番疑わしいからなぁ。あの事件の主犯としては」
戦争を起こしたい連中なんて軍隊か軍隊に関係ある団体くらいしかない。それにもう一つだけ疑っている理由がある。
「あの事件の解せない点が2つあってさ? あぁ別にコレ、話しても大丈夫な奴ね」
「了解」
「1つ目はさ、普通戦争起こしたかったら、わざわざ住民捕まえるか? 殺しちゃえばいいじゃないの」
連れ去って洞窟に押し込んどく意味がさっぱり分からない。魔族が自国民捕まえて連れてっちゃいました、よりも魔族が自国民虐殺しました、の方がよっぽど開戦の理由としては強くなる。
「うーん……まぁ流石に殺すのは良心の呵責に耐えかねたとかか? ……いや、それは無いな」
「だろ? これから戦争やろうって奴がそんなの気にするわけがない。で、それは一旦置いといて、もう1つの疑問がこれだ。盗賊共がずーっとオーガの振りをし続けてたって話」
「ああ、なんかそんなこと言ってたな。……そういや意味が分かんねえな? なんでそんな事を?」
俺達が盗賊どもを縛り上げた時、住民を連れてきてから何週間も経過していたのに、依然として奴らはオーガの振りをし続けていた。
結局あの時はごちゃごちゃしてて有耶無耶になったけど、考えれば考えるほど摩訶不思議だ。
「で、まぁ俺はその二つの疑問を解消するある仮説を立てたわけよ」
例えばあの村人達があのままオーガに捕まっていると思い込み続けたとする。そこに俺達ではなく、デリウス陸軍が颯爽と助けに現れる。オーガは即座に退治されて無事に村人は救出される。こんなシナリオ。
「で、そうなったらどうなると思う?」
「どうなるって……めでたいな?」
「そうそう、めでたいだろ? 国民はみんなこう思うだろうな。“最近戦争無くて軍なんて要らないと思ってたけど、やっぱり軍は必要だね!”ってな」
何しろ魔族に捕らえられていた村人を全員無事に救出するのだ。信じがたい奇跡。軍の評価はうなぎ上りだろう。
「……まさか全部自演するつもりで?」
トールは暫く考え込んだ様子で歩き続けた。
「もっと言うとな? そんな感じで国民がお祝いムードの時に、軍が予算増やして欲しいなって言い出したら断れるか? 少なくとも完全に無視は出来ない。そうなりゃめでたく
一応辻褄は会う。でも自分で言っといてなんだけど、ちょっと飛躍し過ぎな感じはする。実際ただのマッチポンプならもっと上手いやり方はありそうだし。
「……けどお前、そうなるとクレイって奴は戦争をしたいわけじゃないって事にならねえか?」
「そうなんだよねぇ……」
そこがちょっと難しいところなんですよね〜。でもそれは軍が戦争をしたいという前提に立ってるからおかしいと思うんじゃないだろうか?
例えば、あくまでも軍が戦争をしたがる理由は国内での権力や使える予算を増やすため。こういう前提に立って考え直したら、俺が考えた妄想も多少は現実味を帯びてくるかもしれない。
……まぁそれでもやっぱりこの説は無いな。もしも俺がデリウス軍だったとして、マッチポンプをやるんだったら住民や盗賊共は全部関係者で固めるからな。わざわざ何も分かってない民間人を使ったりなんて絶対にしない。
うーん。なーんか惜しいとこまで来てると思うんだけどなー。何かが足りないんだよなぁ。何かが。
「で、まぁよく分かんないからこそ今日お前を連れてきたって訳だよ。そんなわけでこれからもこんな事を頼むかも分からん。その時はよろしくな」
ーーー
それからしばらく経ったある日、我らが町会長、カリウスさんがとある相談を持ちかけてきた。
「参りましたよ。あのロイスさんとこの脇から入れる細い道があるでしょう? どうやらあの先の空き家だった場所にちょっと怖い人達が入ってしまったみたいで」
怖い人達というのはヤのつくお仕事とか足して20のお仕事とかそんな感じの人達の事らしい。
「そりゃ参りましたね。治安が悪くなりそうだ。何か策はあるんですか?」
無論追い出すための策だ。誰が土地を買おうが法律違反では無いので正式な手続きで追い出すのは難しい。だから恐らくは非合法な手段を使って追い出す事になる。
「まだ何も思いついていない状況です。困ってしまったのでそういう方面に強そうなあなたの知恵を借りられないかと思って会いに来た次第なんですよ」
そういう方面に強そうって……いったい俺はカリウスさんにどういう存在だと思われているんだろうか? 店に軍関係の人がちょこちょこ出入りするようになったせいだと信じたい。
「そんなこと言われましても……そうですね、他の勢力に頼るっていうのはどうでしょう?」
「いや、私こういう経験初めてでして。そういった組織とは無縁なのです。むしろグレゴリーさんはそういった組織はご存知ありませんか?」
いやだからご存知無いよ。腕っ節の強い冒険者抱えてるからってそんな実力で排除しちゃえるような組織と面識あるとか思わないで欲しい。まさかデリウス軍ぶつける訳にもいかないしね。
うーん、どうしようかな。ちょっと情報集めて大した事なさそうだったら俺達魔王軍で片付けちゃうか? 多分ちゃんと準備すれば追い出せるとは思うんだよな。ただ、その後の報復とかがめんどくさそうだ。
つまりあれか。こっちの後ろ盾になってくれる団体を探せばいいのか。
「少し時間をください。色々考えてみます。勿論何もできないかもしれませんが」
「本当ですか! もし無事に解決できたならお礼は必ずいたします」
なんかどっかで聞いたようなセリフだな。ああそうだ、回復薬の件でリヨン中佐から似たようなセリフを聞いたんだ。どうせなら今回、そのリヨン中佐の貸しを使ってもいいかもしれないな。
カリウス会長に別れを告げた俺は、早速中佐に会いに軍の本部に向かった。
「───と、言うわけで、中佐の名前を貸してほしいんです」
俺が事情を説明すると、中佐は腕を組んで難しそうに答えた。
「うーむ、君には借りがあるしなんとかしてやりたいが、私の一存では難しいものがあるな。そもそもあまり軍は治安維持には関与してないからな」
むー、こりゃ期待外れだな。まぁ当然っちゃ当然か。なんか他の手を探すとしよう。
「そうですか……じゃあ他を──」
「ああ、いや待て。そういう荒くれ者に対して最適な団体を俺は知っているぞ。近衛師団だ。一人、上の立場の人間を知っているから紹介してやろう」
なるほど近衛師団ね。よくよく考えたら街の治安維持を行ってるのは近衛だからそっちの方が専門家か。
「ならそれでお願いしますよ。私としても変なのに商店街をうろうろされるのは困りますから。追い出すなら徹底的に追い出したい」
「すぐに連絡を取るよ。君の空いている日時を教えてくれ」
こうして近衛の幹部に会う算段をつけた俺は、家に戻って、どうやって荒くれ者共を追い出そうか考え始めた。