「どう? アイリスちゃん。あいつらについて何か分かった?」
「ええ、そんなに多くはないですが、どういった組織なのかは分かりました」
アイリスちゃんをメルスクに呼んでから1週間が経過していた。今回彼女に頼んだ事は、あのゴロツキ共の素性を調べてもらう事だ。
「えーと……ではまず名前からですね。大元の組織は“ヘルサイス”というそこそこ大きい組織のようです。生業は主に賭博、風俗、地上げ……まぁロクなものでは無いですね」
“ヘルサイス”ね。なんか随分バカっぽい名前だな。それにやってる事もほとんど暴力団みたいなものだ。
だがしかし、大元が大きい組織となるとめんどくさいぞ。下手に手を出して報復されても困ってしまう。こっちとしても穏便に済ませられるなら済ませたいんだけど、どうせ上手く行かないんだろうなぁ。
「本拠地は王都にあるみたいで、今回はこの街に進出したくて事務所を構えたようなんです。放っておけば酷いことになるのは間違いないですね」
「うわぁ、最悪だなそりゃ」
そんな訳のわからん奴らが闊歩するようになったらうちの商店街は大打撃だ。俺達も商品が売れなくなる可能性が高い。これは絶対に阻止しなきゃな。
「ありがとう。そんだけ分かれば大したもんだよ。初仕事お疲れ様」
「いえ、私だけじゃなくてマゴス君にも手伝ってもらいましたから」
ああ、そうなんだ。一応アイリスちゃんがこっちでの生活に慣れるまで、サポート役としてマゴス君を任命したけど仕事まで手伝っちゃうとは。これは愛か、愛だな。
「ほんじゃあアレだな。とりあえず最初は穏便に話し合いに行くとして、誰を連れてったらいいかだな。せめて護衛に2人は欲しいとこだけど」
実際の所はうちの商会。いきなりぶっ飛ばしに行ってもなんとかなりそうなメンツは揃ってはいる。でも、いくらなんでもそれはあまりにも穏やかじゃないので一応筋は通すべきだ。
「サリアスさんならたぶん何も言わなくてもついて行ってくれると思いますよ。参謀長……じゃなかった会長を信頼してますから」
「今は誰も居ないからいいけど、人間がいるとこでは間違って呼ばないようにね。参謀長ってなんぞやって話になるからね」
「すみません、気を付けます」
人間界では参謀長ではなく、会長と呼ぶか名前で呼ぶようにみんなに伝えてある。
まぁ別に、もしうっかり呼んじゃったとしても、冗談でそう呼ばせてるんですよとか言っとけば俺のお茶目さがアピール出来るので、誰かやらかさないかなと実は思っていたりする。
「それはいいとして、もともとサリアスさんは連れて行くつもりだったよ。問題はあともう一人、強いのも条件としては必要なんだけど強面で威圧感ある奴が良いんだよな」
サリアスさんが聞いたらちょっと不機嫌になりそうだけど、正直サリアスさんに威圧感は無い。たぶん出せるとしても殺気になっちゃうからちょっと今回必要なものとは違う気がする。
「今こっちに来てる人で威圧感のある人ですか? そう言われてみると居ませんね」
そうなのだ。全然威圧感の無い良い職場なのだ。みんなはそんな職場を提供している魔王軍参謀長に感謝するべきなのだ。
「で、誰かちょうどいいのを呼ぼうかと思ってるんだけど、アイリスちゃんは魔王軍で誰か怖い奴に心当たりない?」
「それ、かなり答えにくい質問じゃないですか? そりゃ居ますよ? もちろん居ますけどそれを言っちゃうと……」
いかん。これが無茶振りと言うやつか。
「ああ大丈夫大丈夫。アイリスちゃんが言ってたって言わないから。安心して言っていいよ」
俺が慌ててそう伝えたらアイリスちゃんは、それならばという感じで話し始めた。
「新兵教官のガリスさんは怖いと思いましたね。ちゃんとやってたら怒られないんですけど、他の人が怒鳴られてるのを見たらこっちの胃までキュッてなっちゃいますよ」
指導教官のガリス軍曹、別にオーガ族じゃないけど俺は心の中で鬼教官ガリスと呼んでいる。
かなり背が高く、例えるならばあの有名なベトナム戦争の映画に出てくるハート◯ン軍曹みたいな口調で話す、生粋の軍人だ。
実は、今回来てもらおうかと最初に頭に思い浮かんだ一人である。ただ、あの人はかなり忙しくてたぶんこっちに来る暇は無い。
「ガリスさん、たぶん忙しいから無理だと思うの。もうちょっと暇そうな奴が良いんだけど……」
「うーん……そうですね。見た目だけでいいんでしたら彼なんかいいかもしれません」
ーーー
ゴンザレス、というのがアイリスちゃんが指名した男の名だった。
その男はマゴス君とアイリスちゃんの同期で、魔王軍に入ってから仲良くなったらしい。しかし、新兵教育期間を終えてから違う部隊に配属されてしまったので、最近はあまり会っていないようだった。
そのゴンザレス君を呼び寄せて、今まさに話をしているのだが、なんというか会話が弾まなかった。
「デカイね君。マゴス君と同期なんだろ?」
「……ウス。そうっす」
寡黙だ。絵に描いたような寡黙さだ。どうもこれは緊張してる感じじゃないぞ。元からこんな喋り方な気がする。男は黙って背中で語るのがポリシーみたいなそんなタイプ。
俺は何というか大正時代の男みたいな珍しいものを見た気分になりながら、今回の計画と危険性、やってもらいたい事なんかをざっと説明した。
「───とまあ、そんなわけで君を呼んだんだけどどうかな。やれそうかい?」
「……ウス。やります」
このガタイの良さならそこそこ強いだろうけどほんとに大丈夫だろうか。まあ何事も無ければただ突っ立ってるだけで終わるのでそこまで心配せんでいいか。サリアスさんもいるしね。
とりあえずゴンザレス君とサリアスさんと俺の3人でヘルサイスとやらの元に直談判に行くとしよう。