魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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やっぱり世の中金次第

 

 俺達の目的地、メルスクの街はデリウス王国の大規模都市で、人口も10万人を超えている。

 

 そして魔界から最も近い大規模都市という事で、魔界から来る魔物を倒して名をあげようとする冒険者が多く集う街でもあった。

 

「マゴス君はここで冒険者として活動してるんだったよね?」

 

「ええ、そうです。そうだ! どうせなら先に冒険者ギルドに行って冒険者になってしまうのはどうですか? その方が身分証もくれてなにかと便利ですし」

 

「俺達はよく分からんから任せるよ。案内してくれ」

 

 俺がそう言うと、マゴス君は勝手知ったる我が故郷とでも言わんばかりに意気揚々と冒険者ギルドに案内してくれる。

 

 怖くないんかな? まあオーガならバレても逃げきれそうだし別に平気か。

 

「この建物です。早速入りましょう」

 

 連れられてきた冒険者ギルドに入る時、もし俺が魔族だとバレたらどうなるだろうかという不安が少しだけ頭を掠めた。

 でもまあ万が一バレてもサリアスさんが助けてくれるだろうし、魔王プロテクションが掛かってるから何とかなるか。

 

 気にしてもしょうがねえかと中に入ると、入り口の近くにいた冒険者風の男がマゴス君に話しかけてきた。

 

「あれ? マゴス? お前なんでここに居るんだよ? それにその後ろの二人は誰だ?」

 

「おおクラウスか。いやぁこれには深い訳があってだな……先に用事を済ませるからちょっと待っててくれないか」

 

 いきなり話しかけられたマゴス君はその男を適当にあしらうと奥のカウンターへと進んでいく。

 俺とサリアスさんもそそくさついて行ったが、その間、クラウスと呼ばれた男は何か変な物でも見るかのようにじろじろと俺とサリアスさんを眺め回していた。

 

 なんかやらかしたか? 心配になった俺はマゴス君にそっと耳打ちする。

 

「……ちょっとマゴス君。さっきの彼が物凄くこっちを見てるんだけど何か俺たちにおかしい所でもあるんかな?」

 

 カウンターで受付の者とやりとりをしていたマゴス君は申し訳なさそうな顔をして俺に耳打ちしてきた。

 

「彼、僕と同じ諜報部の者です……魔族ですよ……」

 

「……」

 

 はあん、そういうね。人間界で一番最初に話しかけてきたのが人間じゃなくて魔族だってんだからおかしな話もあったもんだわ。

 

 後でわかった事だが、魔王様はこの時ビビり倒していた俺を見て爆笑していたらしい。他人事だからって気楽なもんだぜ。

 

 

 ーーー

 

 

 元々冒険者であるマゴス君の紹介ということもあって、冒険者登録自体は簡単に済んだ。

 

 しかし、冒険者の階級を決める為に強さを測る必要があって、それが少しだけ面倒だった。

 

「ではこの敵に見立てた人形に攻撃して下さい」

 

 裏の演習場みたいな所で、職員だか係の人だかがそう言って藁で出来た等身大の人形を指差す。

 

 だけど困ったことに戦いとは無縁の俺には攻撃の仕方なんて一切分からなかった。そりゃそうよ。こちとら頭脳労働者だっつーの。

 

 魔界を出る時に、剣を携えていた方が怪しまれずに済むって理由で一応帯剣をしたんだが、その剣は振るどころか抜いた事すらないのだ。というわけでぶっつけ本番である。

 

「始めっ!」

 

 コレ重くね? 腰に下げてても重いなと思ってたけど、構えたら倍くらい重く感じる。そういや前世で日本刀の模造刀を持ったことあるけどあんな感じだ。これを振って戦うとか無理。出来たら拳銃とか欲しい。

 

 まあ愚痴を言ってても始まらない。係の人も、まさか目の前の人物が今初めてこの剣を抜いたとは思わないだろうなと思いながら藁人形に向けて剣を振り降ろした。

 

 剣は一応それらしい軌跡を描きながら真っ直ぐ落ちてそのまま()()()()()()()()()

 

 なんとか持ち堪えて剣が地面にぶっ刺さるのだけは防ぐ。うっわ外した。そう焦っていると、そんな俺の焦燥を他所に藁人形はバラバラに細断された。

 

「!?」

 

「おお凄いですね! 真空刃ですか! これなら文句なしで上級冒険者ですよ!」

 

 いやいやいや、なんだよそれ! そんなものは知らないぞ。俺はただ間合いが分からなくて外しただけなんだが。

 

 訳が分からなくて後ろを振り返ると、見学していたサリアスさんが私、やってやりました! という表情で小さくガッツポーズをしていた。うわぁ絶対あの人がなんかやってますわ。

 

「良かったですね。彼女に良いところが見せられたみたいで」

 

 何を勘違いしたか知らないが、係の人がそんな風に笑いかけてくる。いや違うんだ。不正なんだ。たった今不正が行われたんだ。あなたがそれに気づいて無いだけだから。

 

 でも訂正するのも面倒だし、別に実際に戦うわけでも無いから、それならもうそういう事にしといていいか。そう思った俺は、苦笑しながら剣を鞘に戻した。

 

 その後に行われたサリアスさんの測定ではサリアスさんが藁人形を目にも止まらぬ速さで消し去った為、本当はもっと強いであろうが測定不能という事で、暫定で上級冒険者という事に決まった。流石は四天王、恐るべし。

 

 

 ーーー

 

 

 という事で無事に? 冒険者になった俺とサリアスさんはマゴス君とクラウス君に連れられて、ひと気の無い公園へとやってきていた。周囲には誰もおらず、とても静かな雰囲気の場所だ。

 

「それで説明してくれるんだよな? その人達が誰なのかを」

 

「ああ、実はこちらの女性は四天王の一人のサリアス様で、こちらの男性は参謀長のグレゴリー様だ。お二人共今は変身の術で人間の姿になっておられる」

 

「は? え、なんで?」

 

 クラウス君は色々と処理が追いついていないのかとても困惑していた。まあ四天王と参謀長が何故こんなところにいるのかは、俺だって知りたいくらいなんで無理はない。

 

「ええと、実はだね……」

 

 俺は要点だけかいつまんでクラウス君に事の顛末を説明した。人間界を裏から操って、勇者召喚をやめさせる為に我々が魔王様に送り込まれたという事を。

 

 ていうか説明してて思ったけどほんと訳分かんないよね? 出来れば君の口からも魔王様にそう言ってやってほしい。

 

「というわけでひとまずはこの街でこれから生活していくのでよろしく。諜報部の活動は極力邪魔しないように気を付けるから」

 

 とはいえ、何かあれば頼るかもしれないけど。

 

「そ、そういう事でしたか。とうとう戦争でも始めるのかと思いましたよ……ええと、何か困ったことがあればいつでも言ってください。協力致しますから」

 

「ありがとう。そういえばひとつだけ確認しておかなきゃな。魔界から一番近い小さい名もないような集落があるでしょ? ここに来る時にそこに寄ったんだけど、襲撃があったみたいですっかり荒れ果ててたんだよね。何か心当たりある?」

 

 ついでなので、何故か消え去っていた集落についての情報収集もしておく。しかしクラウス君はこの件に関しては全くの初耳だったらしい。

 

「え!? あそこの集落無くなったんですか!?」

 

 襲撃自体、ここ最近のことのようだったので知らなかったとしても無理はないんだけど、クラウス君は何故か責任を感じて冷や汗を流していた。

 

「至急調査いたします。分かり次第、マゴスを通してお伝えします!」

 

「我々の方でも調査はするから手が空いている時にでもやってくれると助かるよ」

 

 おや? 諜報部の邪魔はしないつもりだったのに、結局邪魔をしているような……

 

 しかし魔族が手を出したのではないという確証は絶対に必要なんで、仕事と割り切ってやってもらおう。

 

 その後、クラウス君と別れた俺達は街の不動産屋に来ていた。どれくらい金を出せば家が買えるのか見るためだ。

 

「た、高くないか? 手持ちじゃ全く手が出ないんだけど」

 

 魔王城の宝物庫に入ってた分だけじゃ全然足りない。なんでこんなに高いんだよ。ここはそんな都会の一等地じゃねえんだぞ。

 

「どうしましょうか? この築30年の年季が入った家を借りるのが現実的なラインになりそうですけれど」

 

 サリアスさんが紙面をトントン叩きながら呟く。言われた俺も頭でざっと計算するが、確かにサリアスさんの言う通りそれくらいしかまともに借りられそうな物件はない。

 

「全く……向こう(魔界)でもこっち(人間界)でも金に困るとはね……結局世の中金か」

 

 なんとか資金調達の方法を考えなきゃ人間界を乗っ取るどころか日々の生活も出来やしない。こりゃしばらくは資金集めを優先してやらなきゃな。前世で石鹸の作り方とかちゃんと勉強しとくんだったなぁ……

 

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