魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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オペレーション・タマちゃん

 魔王様に説明したら案の定、面白そうだなやってみろよって言われた。ったく他人事だからって……まぁ予想通りなんで驚きはしないけどね。

 

 そんなわけで二人の所に戻ってきたわけだけど、シリウスさんが凄く期待に満ちた目で俺を見てくる。勿論それはお願いしてきた張本人なのだから理解はできる。ただ、なぜかレイラも同じように見てきてるのは謎だ。

 

 なんだかよく分からないけど、とりあえずシリウスさんにだけは釘を刺しておこう。

 

「あー、先に言っておきますけどねシリウスさん」

 

「はい」

 

「よーく考えた結果、あなたに協力してもいいかもしれないと思い始めました。それに、少し前に思いついた案もあります」

 

 そこまで俺が言ったらレイラがシリウスさんの方を見て、ふふん、と得意そうな顔をした。

 

 なんだ? 俺が協力するかどうか賭けでもしてたのか? そんな事を少し考えたけど、シリウスさんの歓喜の声に思考を引き戻される。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ本当です。ただし! この案はさっき思いついたという事と、細部も詰めていない穴だらけの案なんだ、という事を理解して聞いてください」

 

 俺は、二人が聞く態勢に入ったのを確認してから魔王様に話した内容と同じ説明を始めた。

 

「そうですね。まぁまずは作戦名から言いましょうかね。作戦名は題して “タマちゃん作戦” です」

 

 俺は堂々とそう宣言したけど、二人はクエスチョンマークをたくさん頭に浮かべている。

 

 そりゃそうだろうな。二人はおろか、この世界の人間は誰一人として由来が分からないだろうから。

 

 いつだったか忘れたけど東京の多摩川にラッコだかアザラシだかが迷い込んだ事件があったと思う。そいつは“タマちゃん”という名前がつけられて一躍ブームになったので、覚えている人も多いんじゃなかろうか。

 

 あの事件が無かったらこの案は思いついていないから、それにあやかって作戦名にしてみたのだ。

 

 と、言う訳でこの世界の住人に分かる筈がない。まぁ名前に関して深く突っ込まれても困るから、もう概要に入っちゃおう。

 

「……ま、名前は置いておくとして作戦内容は単純です。そこのムルクーの存在を隠すんじゃなくて逆に世に広めるんですよ。観光資源にしてしまえばいい」

 

 俺が最初に聞いたときに思ったんだけど、隠す必要あるのか? ってな話。別に体内で万能薬を生成するという事実が知られたらまずいんであって、ムルクーの存在自体知られても平気な気がするのよね。

 

 しかしそんな事をシリウスさんがすんなり納得できるかは別だ。現に俺の話を聞いてフリーズしてしまっている。

 

「で、でもそうしたら冒険者に狙われないかしら……?」

 

 そんなシリウスさんに代わってレイラが聞いてくる。

 

「おいおい、レイラまで何を言ってるんだ。お前はトールの事を忘れちまったのか?」

 

「あぁ! なるほどこの辺はメルスクの……」

 

 レジア湖周辺はメルスクの冒険者ギルドの管轄地域だから、ギルドマスターの権限で好きに御触れを出せる。つまり、トールにレジア湖に住んでるムルクーは無害であるから狩猟しちゃダメよと言わせればいい。これで “冒険者に狙われるかもしれない問題” は解決だ。

 

 固まってしまったシリウスさんにそう説明すると、まだ考え込んでいる様子の彼女は絞り出すように言った。

 

「……ですが、冒険者はよくとも、心無い人間に狙われるかもしれません……」

 

 そうなんだよね。そこはまだ100%安全を確保する方法は思いついてない。80%くらい確保する方法は考えてんだけどね。

 

「その通りです。ですからそのリスクをどう減らすかで考えついたのが観光資源化するって話なんですよ」

 

 例えば狩猟が禁止されたとして、それでも無理やり害そうとする輩がいたとする。でもそれは違法行為であるから、やるにしても人目にはつかないようにしようとするはずだ。

 

 そうさせない為に“監視の目”を増やす。

 

「こんなに言うことを聞いてくれて、丸っこくてかわいい生き物なんて他に居ないですよ? マスコット化すれば観光客の増加間違いなしです。そして増えた客自身に見張って貰えばいい」

 

 あの多摩川のタマちゃんをどうにかしてやろうという人間は存在したんだろうか? いたとしてもあの衆人環視じゃ無理だったろうと思う。それと同じような状況を作ればいい。

 

「まぁそれで客が増えれば昼間の安全は確保できます。勿論増やせるかどうかはシリウスさん自身の手にかかって居るのをお忘れなく」

 

「……分かりました。それで仮に昼の安全が確保できたとして、夜はどうすればいいでしょうか?」

 

「……実はその点を逆に聞こうと思っていたところなんです。昼間は自由にさせる代わりに夜はジッと潜っててもらうって事は出来ませんかね? それだけで全然違うんですが」

 

 夜の間にレジア湖の深いところに潜んでいる生き物をどうこうするのはかなり難しい。というかほぼ不可能。だからそうして貰えるならばそうして貰いたい所。

 

「……恐らく出来ます。今、昼間でも出来ているのですから夜普通に水底で寝ていなさい、と言うのはそれほど難しい話ではありません」

 

 え、じゃあもうほとんど解決じゃない? 懸念してた夜もオッケーならもう安全と言ってもいいだろ。なんか他に抜けてるとこあるかな? パッとは思いつかないから一応聞いてみるか。

 

「どうですこの案は。意外といける気がしませんか? 何か他に気になる点はあります?」

 

 考え込むレイラとシリウスさん。そして暫く経ってからシリウスさんがゆっくりと口を開いた。げ、なんかあるのか?

 

「その……本当に、上手くいくのでしょうか?」

 

「そうですね……上手くいくかどうかで他に重要なのは、例の万能薬の存在は絶対に知られてはならないという点です。ですがまぁ聞いた限りでは部外者では私とレイラしか知らないですよね?」

 

 本当は魔王様も聞いちゃってるけど魔王様は良識ある魔族なので言いふらしたりはしないのだ。一応口止めはするけどね。

 

「はい、その通りです」

 

「なら上手くいきますよ。もし生態調査が必要だとかって話になったら、それもまたさっき言っていたギルドマスターに頼んで我々を指名してもらいますから。なぁレイラ?」

 

「ええそうね。きっとバートンあたりが喜んでやるわ。私だって手伝ってもいいし」

 

 サリアスさんだってきっと頼めば喜んでやってくれると思う。うん完璧だな。もし、それだけやったのに問題が起こったとしたら、その時はその時だ。そうなったらまたなんかいい方法を考えればいいんだ。何とかなるなる!

 

 夜遅くに考えてるからなんかテンションがおかしくなってきたぞ……これがいわゆる深夜テンションか。これ以上おかしくなる前に結論を得たいな。もしくは寝たい。

 

「まぁ決めるのは明日でもいいですよ。今夜ゆっくり一晩考えて───」

 

「やります!」

 

 まさかの即答である。えー……もう寝たいんだけど。これじゃ寝れないやんか。

 

「……えーと私が言うのもなんですけど、そんな簡単に決めちゃって大丈夫ですか? 後悔しません?」

 

 いや、ほらなんか今まで守ってきた家のしきたりを破壊する葛藤とか、今後上手くいくかどうかの不安とかそういうのに(さいな)まれて一晩悩むとこじゃないの、そこは。

 

「いえ、後悔はしません。きっと明日まで考えても結論は変わらないと思います。正直に申し上げますと、この案が上手くいくかどうかの確証はまだ持てておりません。ただ───」

 

 そこでシリウスさんはスッと姿勢を正した。

 

「グレゴリー様。貴方という人物に賭けたいと思ったのです。貴方ならばもしも何かが起こっても解決してくれる。そんな気がするのです」

 

 レイラが少しだけ嬉しそうに微笑んだ気がした。

 

「私は仕事柄、多くの人を見てきました。そのお陰か私は多少、人を見る目があるのです。ですから私はその勘を信じることに致します。どうかよろしくお願い致します」

 

 シリウスさんはそこまで一息で言うと、深く頭を下げた。

 

 いやぁそんなまっすぐ信頼を寄せられると困っちゃうね。俺はそんなに立派じゃないし、なんなら今さっき早く寝たいなとか思ってたくらいだ。中身は大した事ないから。

 

 ……でもまぁ悪い気はしない。そうやって褒められると有頂天になって、ちょっと手伝っちゃおうかなって気になっちゃうのも、いい感じに俺の適当な所だ。

 

「……分かりました。シリウスさんの決断を尊重します。ですが今日はもう遅いですから。詳細は明日また相談して決めることにしましょう」

 

「そうしますと……明日もう一泊なさいますか? 勿論お代は結構でございます」

 

「え、ほんとですか? それならお言葉に甘えて是非」

 

 金が掛からないなら一生ここにいたいくらい居心地がいいんで大歓迎だ。多分他の奴らも喜ぶだろ。

 そんな感じでいい感じに話が纏まろうとしてたらレイラが口を挟んできた。

 

「ねぇ、話の腰を折って悪いんだけど、どうしても分からないことがあるのよ……」

 

 なんだなんだ。まだなんかあんのか。そういうのはもっと早く言いなさいよ。纏まりかけの時に言うもんじゃありません。

 

「……どこらへん?」

 

「いや、名前についてなんだけれど、どうして “タマちゃん作戦” なの?」

 

「あー……そこね?」

 

 今そこに疑問を持っちゃうかー……それは俺の前世の記憶から拝借したネーミングだからだよ、なんて言えないのでどうしたもんか。シリウスさんまでそういえばそうですねって顔してるし。

 

「えーとね。別に深い意味は無いよ。ムルクーの見た目が丸い大きな玉みたいだったからそんな名前にしただけ。それになんか響きがいいだろ? タマちゃん」

 

 確かタマちゃん、流行語大賞にもなってた気がするからね。そういう意味でもネーミングセンスは完璧だ。

 

「……そうね、確かにムルクーよりは親しみがあっていいのかしら。あ、いや別にムルクーが悪いって言ってる訳じゃないけど……」

 

 目の前にシリウスさんがいるのを思い出して慌てて言い直すレイラ。しかし、ムルクーという名前にケチつけられたシリウスさんは対して気にしていないどころか、その意見に同調し始める。

 

「タマちゃん……タマちゃん……何故かこうしっくり来ますね。これからこの子をそう呼んでも大丈夫ですか? 可愛らしくてその方が親しみを持てます」

 

 おいちょっと待て。シリウスさんはしきたりとか慣例とかを打破する事に適応しすぎでしょ。一応ムルクーって名前は長いこと一族が呼んできた名前なんじゃないのかよ。

 

 というか、なんか思いつきでタマちゃん作戦とか言っちゃったけど、このままじゃこの生き物の名前がムルクーからタマちゃんに変わっちゃいそうだ。

 

「まぁ、いいのか……?」

 

 よく考えたらどうせここ地球じゃないし、商標もへったくれもねえか!

 

「あー、じゃあもうそれでいきましょう! 今日からその子はタマちゃんで!」

 

 ムルクー改めタマちゃんは、シリウスさんに何度か新しいその名を呼ばれると、あまり今まで名前では呼ばれた事が無かったのか、嬉しそうにキュイキュイ返事をした。

 

 後に、地球から遠く離れたこの世界で“タマちゃんブーム”が巻き起こる事になるのはまた別のお話。

 

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