ギルドの秘密の会議室で俺とステイシアとトールの3人は顔を突き合わせていた。
「あのね。ステイシアには俺達の事全部話したから。そういう事でよろしく」
「いや、そういう事でよろしくって……本当に? 本当に全部話しちゃったのか?」
トールが困惑しながら俺とステイシアを交互に見つめる。つい昨日、ステイシアにはしばらく話すつもりは無い、なんて言っといてコレなんで、気持ちは分かる。
「トール様。これからは全力でグレゴリー様にご協力をさせていただきますので、よろしくお願い申し上げます」
「あんた、本気でそう思ってるのか?」
トールがジッとステイシアの目を見つめる。多分今、真実の目で嘘かどうかを見極めてるはずだ。
「えぇ、勿論です」
「……オーケー、どうやら“本当”らしい。ったく、どうやって誑し込んだんだ? 昨日の今日で」
誑し込んだとかそんな上等な話じゃなく、ただ単にバレただけなんだよなぁ……あんまり言いたくないけど。
そうトールに本当のところを話したら、お前でもそういうところあんのなwとか言ってめちゃくちゃ笑われた。腹立つ。
いや、俺の完璧な計算によると、どうせいずれはバレてたからね? 決して俺がアホだったとかじゃないから!
「はは、まぁそんなおっちょこちょいは置いといて、ステイシアさん。もしこいつの秘書が嫌になったら、是非代わりに俺の秘書をやってくれ。いつでも大歓迎だ!」
なーに勝手に引き抜こうとしてんだか。彼女は渡さんぞ。
「ふふふ、もしもそうなったら是非お願いしますね♪」
ステイシアがバリバリの営業スマイルでそう答えると、どう考えたって方便なのに、トールは鼻の下を伸ばして、でへへと照れ笑いした。やめろやめろ、いい歳したおっさんがやるとちょっと気色悪いわ。
「へへ、じゃあそういう事なら、忘れないうちに昨日話しそびれた事を話しとこうかな。まぁ別に秘密の話って訳じゃないんだけどよ」
「昨日話しそびれた事?」
「あぁ、こっちで起こった変わった事って奴だよ。お前達に比べりゃ、ほんっとに些細な事だけどな。あー、その前に……ちょっと取ってくるから待ってろ」
トールは一度部屋から出ていくと、すぐにどこからか小瓶をいくつか携えて戻ってきた。
「コレな。お前らが旅行中、
トールから小瓶を受け取って見てみると、随分と似ている。何がって、うちで出してるポーションに色がそっくりだ。せいぜい違うのは入れ物の形状とラベルくらいか。
「んで、
「うちの6掛け? それじゃお前、多分利益なんかほとんど無いぞそれ。赤字になると思うんだけど」
うちの場合、4割も値下げしたら赤字になる。というかうちだけでなく、この業界はどこもそんなもののはず。だから6割の値段でいいよって言うのはちょっとおかしい。
「そうよなぁ……あ、その営業さんには一応考えておきますよって言って断ったんだが、そうしたら何本か試供品だって言って置いてったんだよ」
それで気になってちょっと試してみた結果、効果にほとんど差は感じられなかったらしい。
「まぁ大雑把に体感した感じ分からなかっただけで、もしかしたら差があんのかもしれないから、その辺はお前の方で調べてくれ。という事で、それ全部お前にやる」
「分かった調べてみる。それで? その営業さんってのは、どこのどいつなんだよ」
「なんかマーロン製薬って言ってたかな。一応連絡先の住所を貰ったからそれも後でやる。この商会についてなんか知ってるか?」
うーん、なーんか聞いた覚えがうっすらあるぞ。ちゃんと店の仕事場に戻って資料を見なきゃ分かんないけど、王都の方にそんな感じの名前の会社があった気がする。
「ちょっとパッとは出てこないな……まぁ取り敢えずわかった。それも含めて調べてみるわ」
話を聞き終えて礼を言った俺はステイシアと共に、早速カイルがいるであろうアマル2000の工場に向かった。
「カイル、今ちょっといいか?」
工場の事務室に入って手招きすると、事務机で何かの作業をしていたカイルは、立ち上がって駆け寄ってきた。
「グレゴリー様!……とステイシアさん。いったいどうなさったんですか? ここに直接来るなんて珍しいですね?」
「ああ、渡す物が出来たからな。店に持って帰るのも二度手間だったから直接持ってきた」
机の脇に、トールから貰った例のポーションをずらっと並べる。カイルはそのうちの一つを手に取って興味深げに光にかざした。
「なんですか? これ」
「これはね。同業他社……いわゆる商売
俺は先ほどトールから聞かされた話を、そのままカイルに話して聞かせた。
「ええ! 大変じゃないですか! そんな値段で売られたらうちのは売れなくなっちゃいますよ! どうするんですか!」
「いやいや落ち着けカイル。だからこそ敵を知るためにこうしてお前のところに持ってきたんじゃないか」
専門家であらせられるカイル様にポーションの中身を調べていただこうという訳だ。俺は素人だからそういうのはよく分からないしね。
「なるほど……つまり、うちのと比べてどれくらい効果に差があるか調べたらいいんですね?」
即効性とか、効果時間とか、同じ回復薬とはいえ多少差があるはず。うちのより安い理由を探れたら他の顧客にもしっかり説明できる。
「ついでに成分も調べられたら文句無いね。やれそう?」
「成分はちょっと簡単にはいかないと思いますが……なんとかやってみますよ」
「ありがとう。お金が掛かるようだったら言ってくれ。すぐに用意するから。あ、あともう一つだけあるんだ」
俺は懐から飴玉が入るような小さい巾着袋を取り出して、カイルに手渡した。今日ここに来たのは、これを渡すつもりでもあったのだ。
「……こいつはな、全ての毒を解毒できる優れ物らしいんだよ。あ、出どころは聞かないでくれよ?」
俺がカイルに手渡したのは、タマちゃんから分泌された例の万能薬だった。実はレジア湖から帰って来る時に、シリウスさんからお土産に一つ手渡されたのだ。
そして、詳しく調べる事を、つい昨日ステイシアに提案されたので了承した。俺が裏切る可能性が無くなったからこその提案だろうと思う。
「こいつの謎を解き明かしてほしいんだ。時間のある時でいいからさ。頼むよ」
俺が怪しい笑顔でこそこそ話すと、カイルは可愛そうなものでも見るかのような目で、俺を諭して来た。
「……グレゴリー様。それ絶対騙されてますよ。どこの店でつかまされたんですか? 言ってくれたら私が代わりに返品して来ますから……」
「いやいや! 違うんだって! 確かに今、俺も言っててすごい思ったけど、決して騙されてるとかではないからね!?」
さっきの言い方じゃまるで、騙されて偽物を買わされた可哀想な奴が知人に自慢してる、みたいな図でしかない。
「まぁ、やれという御命令ならばやりますけど……」
あー、この目。全然信じてくれてないぞ。しかし、動物実験でも何でも、やってみればすぐ分かるはずだからとにかくやって貰わなきゃ。
「もう俺が騙されてる可哀想な奴って事で良いからとにかく成分を調べてくれ! どうせバレないだろとか言って捨てるんじゃ無いぞ!」
「捨てたりなんてしませんよ!」
よーし、言質は取った。いい加減カイルの目が辛いから、おバカな上司はとっとと退散するとしよう。
ーーー
「どう? あった?」
「いえ、アーロン工業は見つけたんですけどマーロンは見つからないですね」
俺とステイシアは、店の二階のにある資料室をひっくり返して、マーロン製薬に関する情報を探していた。
「おっかしいなぁ。バロン製菓とアーロン工業はあるのにマーロン製薬は無いぞ」
聞いた事があるような気がしてたのはこれが混ざったのかもしれない。俺の記憶力は案外適当らしい。
「……まぁこのリストも完璧って訳じゃないから多少漏れがあるのかもしれないけど……」
しかし、直接のライバル企業になり得る製薬会社を調べ忘れただなんて、そんな馬鹿な話があるだろうか? 一応人間界に来ている連中はプロの面々なんだ。
「まだその会社が出来てから日が浅い、とかでしょうか?」
「あぁ、なるほど。それはあるかもね」
しかしそうなると、この製薬会社について一から調べなきゃならない訳だ。うーん、誰かにやって貰うにしても人材が足らんなぁ。
「良ければ私がお調べしましょうか? そこまで難しい案件でもなさそうですから、私にも出来ると思いますが」
「あーじゃあお願いしちゃおうかな? 任せちゃって悪いね」
この件をステイシアに託した俺は、しばらくこの件は綺麗さっぱり忘れる事にした。