魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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孤児たちのリーダー

 

 ステイシアとギルドに行く前に、もう一つだけ手を打っておこうと思った俺は、久々に孤児たちを束ねるリーダーのテリーの元を訪れていた。

 

「おや? 誰かと思えばグレゴリーさんじゃないか。久しぶりだね?」

 

「やぁテリー。元気にしてたかい?」

 

 相変わらず路地裏の一角を占拠していた彼とその仲間は、今日は俺がステイシアを連れているのを見て冷やかしてくる。

 

「ヒュー、綺麗なお姉さんだね。彼女?」

 

「いいや、美人秘書ってやつさ。そう聞くと俺が偉く見えてくるだろ?」

 

 軽く冗談を言ったら、ステイシアがちょっと気を良くしたような感じで口角を上げた。

 

「へぇ。自分で言うあたり驕ってない感じがしていいね」

 

「そりゃあどうも。それで、俺がここに来たって事は……どういう事か分かるだろ?」

 

「まあね。また仕事をくれるのかな?」

 

 俺はテリーの言葉を聞くと、懐から、例のポーションが入っていた密閉瓶を取り出して、よく見えるように差し出した。

 

「こいつをね。探して欲しいんだよ」

 

 テリーに瓶を渡しながら、もしかするとこの街には存在しないかもしれない事も付け加える。

 

「ふーん? なんでこんな瓶を?」

 

「何? 理由を聞きたいの?」

 

「いいや? 遠慮しとくよ。僕らはお金さえくれればなんでも構わないからね」

 

 別に説明しても良かったけど、面倒くさいので聞かなくていいなら助かる。

 

「ま、俺達も独自で探してはいるから俺達が先に見つけちゃったら報酬は無しだ。もし君達が先に見つけたら“ここ”に来るといい。金貨5枚出すよ」

 

 俺は、そう言いながら社宅の住所が書かれたメモをテリーに渡した。

 

「やるやらないは自由だから。運が良ければまた会おう。じゃあな」

 

 

 ーーー

 

 

 その後、テリーと別れた俺とステイシアは、ギルドで帽子を被った営業についての目撃情報を集めた。すると、営業が被っていた帽子はかなり目立つ物だったようで、数人から話を聞けた。

 

「ええ、それは勿論覚えていますとも。かなり背の高い方でしたわね」

 

 そう答えるのはギルド職員の一人、シナリー嬢である。彼女はちょうど、営業がポーションを持ち込んで来たときに受付に居たようだ。

 

「なんというか凄く紳士的な雰囲気でしたので、とても良く印象に残っておりますわ。冒険者にはああいう方はいらっしゃいませんから」

 

 そういう意味では俺とステイシアも割と場違いであるので、あまり人の事は言えない気がする。

 

「ははは……因みに、それ以外に何か特徴はありませんでした?」

 

 シナリー嬢はうーんと首を捻って考え込むと、ちょっとして何か思い出したのか、ピンと人差し指を立てる。

 

「そうだ! 髭が立派な方でしたわ! イメージにぴったりの」

 

「ほうほう、髭ね……」

 

 彼女が言うにはその男は、立派なカイゼル髭を生やしていたらしい。

 紳士ハットにカイゼル髭。何というか絵に描いたような営業さんだ。明治時代の貴族風と言ったほうがより分かりやすいか。

 

「これなら簡単に見つかるのではないでしょうか? そんな見た目の人はそう多くありませんから」

 

「ああ、そうだね」

 

 ステイシアに一応同意した俺だったが、心ではあまりそうは思っていなかった。

 どうもおかしいような気がするのだ。ステイシアの言う通り、あまりにも “簡単すぎる” 。俺達の前に一瞬姿を見せてそれっきり消え失せた割には。

 

 その後、何人かに話を聞いた回った結果、そこそこの目撃情報が集まったが、どこからやって来て、どこに帰っていったかまでは相変わらず不明なままだった。

 

「トールはこの件どう思う?」

 

「……いや、よく分からん。だがとにかく何かおかしいって事だけは何となく分かるぞ」

 

 調べて分かったことをトールに話して意見を求めると、トールは腕を組んだまま、うーむと唸った。

 

「俺が貰った住所も偽物だったわけだし、このギルド以外には特に姿を見せていないのも変だ。どうも気持ち悪いな」

 

「目的が分からんのが一番怖いよな」

 

 人は、何かしらの利益や目的のために行動を起こす物だ。ところが、その男に限って言えばその目的がまるで分からないのだ。

 

「今のところさっぱり分からないから、とにかくトールも用心だけはしといてくれよ? 多分そいつの目的なんてロクでもないことだろうから」

 

「まぁお互いにな。何か分かったらすぐに連絡をよこすよ」

 

 取り敢えずの情報を集め終えた俺は、もう夕刻の良い時間であったから、他のみんなと情報を共有するべく、家に戻ることにした。

 そんなモヤモヤした気分で家に戻ると、同じくスッキリしない表情のマゴス君とアイリスちゃんが二人で話し合っていた。

 

「ただいま。二人とも早いね? 何か分かった?」

 

 そう聞くと、二人は困ったような表情で調査結果を話し始めた。

 マゴス君が話してくれた内容は、ほとんど俺とステイシアがギルドで得た情報と同じだった。

 

「人物像はより固まったんですが、いかんせん、どこから来てどこに帰っていくのかなどの情報が全く分からないんですよ」

 

「へぇ、そっちもそんな感じだったのか?」

 

 俺がこっちもそんな感じだったよと伝えると、マゴス君とアイリスちゃんがますます分からんという顔をして、首を傾げた。

 

「クラウス君の方は何か進展があったか聞いていますか?」

 

「いいや、何も。何か進展があったなら戻ってくるか、電話かけてくるかするだろうから確認はまだしてない」

 

 それでもあんまり遅いようだったら電話してもいいかもなと思っていると、来客を告げる呼び鈴が鳴った。

 

「ん? 誰だろう」

 

 みんながドアの方向に目を向けると、ドアに近かったステイシアが玄関の戸を開ける。すると、そこには薄汚れた格好をした見知らぬ少年が立っていた。

 

「一体何の御用ですか?」

 

 ステイシアが若干警戒した様子でその少年に話しかけると、彼は両手を上げて戯けたように笑った。

 

「そんなに警戒しないでくれよ。オイラはただの伝令さ。グレゴリーさんの家はここで合ってるかい?」

 

「合ってるよ。俺がそのグレゴリーだ」

 

 俺が部屋の真ん中から大声で返事をすると、その少年はホッとしたように要件を伝えた。

 

「いや〜間違ってたらどうしようかと……テリーの兄貴からの伝言だ。“瓶を売ってる店を見つけたよ” 以上だ」

 

 え? もう?

 

「……なぁ君。それは間違い無いのか?」

 

「さぁ? オイラには何とも。でもテリーの兄貴は下手な仕事はしないぜ?」

 

 俺達は顔を見合わせた。今朝がた依頼を持ちかけて、もう見つけたと言うのか。いったいどんな人海戦術を使えば1日で見つけられるんだ? とはいえ、もしかしたらクラウス君が先に見つけてるかもしれない。俺は魔王シアター改を手に取った。

 

「あー、もしもし? クラウス君? グレゴリーだけど」

 

『あっハイ。クラウスです。何か御用ですか?』

 

「あーいや、進捗はどうかなと思ってさ。瓶は見つかった?」

 

『いえ、まだ何も情報が掴めていない状況です。もう少し粘ってから戻ろうかと思ってた所ですが』

 

 まぁそうだよね。一日じゃ普通は分からない。

 

「そうなんだ。実はね、こっちでちょっと瓶に関する情報が掴めたんで戻って来てくれる?」

 

『え? わ、分かりました。すぐ戻ります!』

 

 ふーむ、どうやらテリー達の圧勝だったらしい。このスピードなら金貨5枚出す価値はあるな。これはちょっと本気で彼らを味方に引き入れることも考えたほうがいいかもしれない。

 俺は玄関のところにいる少年に向き直った。

 

「その場所まで案内してくれないか? 確認したら報酬を渡そう」

 

「兄貴の言ってた通りだな。すぐに案内するよ。兄貴も待ってるからな」

 

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