魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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忙しすぎて死ぬ


クレイ

 

 予定通り、各員に連絡をして態勢を整えた俺は、サリアスさんと共に、指定された地点に急行していた。手紙の主が指定してきた場所は川沿いの工業地区で、うちの工場に程近い場所だった。

 

「ここか……静かだな」

 

 その場所には周りの建物と同様に、何かの倉庫のようなものが建っていた。大きさとしては普通の一軒家に毛が生えたくらいだ。

 

「周辺に怪しい人影は無いです。視線も特には感じません」

 

 いつもは割と余裕そうなサリアスさんが、今日はいつになくピリピリしている。

 

「……入ればいいのかね」

 

 門を開けてそろりそろりと入り口に向かう。そして、出入り口の扉をノックして中に誰かいないか確かめる。返事は無い。

 

「なんだよ……いないじゃないか」

 

 これはもしやと思ってドアノブを回すと、案の定鍵が掛かっていなかった。

 

「お邪魔しまーす……」

 

 中に入ると、薄暗い殺風景な空間が広がっていた。調度品の類はほとんど無く、あるのは質素な樫のテーブルと椅子がひとつだけ。

 

「何が “お話ししましょう” だよ。どこにもいねえじゃねえか」

 

 俺が悪態をついていると不意に天井から男の声がした。

 

『待っていたよ。グレゴリー君』

 

「!」

 

 バッと、サリアスさんが短刀を引き抜いて俺の前に出る。サリアスさんでも気配に気づかないだなんて只者じゃないぞ! そう思ったけれど、よく聞くと声は天井につけられたスピーカーのような物から出ていた。

 すぐに平静を取り戻した俺は、天井のスピーカーを睨み付ける。

 

「随分な歓迎の仕方だな。姿を見せる気は無いってか」

 

『これがこちらのやり方でね。その方がお互い流血もなくていいだろう?』

 

 こいつ……どうやら実際に会ったら刺されるかもしれないという自覚はあるらしい。

 

「お前はいったい何者なんだ」

 

『おやおや、随分な剣幕だな。そうだな、本当は違うのだが分かりやすいだろうからこう名乗らせてもらうとしよう。私は “クレイ” だ』

 

「……!」

 

 クレイ。まさかここでその名を聞く事になるとはね。それは、果ての集落の住民を拐って、罪を魔族になすりつけた主犯の人物の名前だ。あれから影も形も無かったが、こんなところで出てくるとは。

 それに “クレイ” という名前が俺達にとって “分かりやすい” と知っていると言うことは、やっぱり気づかない内に俺たちの事は調べられていたようだ。確かに可能性として頭の片隅にはあったけど、いったいいつの間に……

 

「……お会いできて光栄だよクレイ。正確には直接会えてはいないわけだが」

 

『ああ、こんな形での面会になってしまって申し訳ないと思っているよ』

 

 この男。全く悪びれたように聞こえないのが凄いところだ。

 

「で? わざわざあんな回りくどい方法で俺を呼び出したんだ。それなりの用が俺にあるんだよな?」

 

『勿論だとも。だがその前に一つ確認をしておきたい。君はどうも私の事を嫌っているようだが、私は君に何か嫌われるような事をしたかな?』

 

 よくまぁいけしゃあしゃあと……集落を壊滅させた罪を魔族になすりつけたのはお前だろうが。俺がコイツを嫌いなのはそれが主要因だ。だけどそれは、自分は魔族であると自ら白状するようなものなので、言うことは出来ない。

 

「……俺達はお前の部下に襲われたんでね。嫌いにもなるさ」

 

 代わりにそれらしい理由を伝えると、クレイはさらっと何でもないことのように認めた。

 

『あれはちょっとした行き違いのようなものだ。謝らせて欲しい。それに君達に損害は無かっただろう? 代わりに私の部下は15人ほど殺されているのだ。それで手打ちにしてくれないかね?』

 

 自分の部下を殺されたのにケロっとした感じで交渉材料に使うあたり反吐が出る。

 

「知らないな。それと好き嫌いは別の話だ」

 

 そんな事まで強制されたらたまったもんじゃない。因みにお前を好きになることは金輪際無いと思う。

 そう伝えたら、クレイの奴も何故か妙に納得した様子を見せて、あっさりと次の話題に移った。

 

『確かに。ここで好き嫌いは重要では無いな。では今日君を呼んだ本題に入るとしよう』

 

 俺は開き直って部屋に置いてある樫の椅子にどかっと座って先を促した。

 

「どうぞ?」

 

『ふむ、君。私の協力者にならないか?』

 

「はぁ? 何だって?」

 

 こいつ、なんかとんでもない事を言い出したぞ? ただ、敵対の意思が無いというなら恐らく魔族とはバレていない。これでちょっとは安心できるかもな。まぁもしかすると、魔族だと知っていた上で利用しようとしている可能性もあるので、必ずしもそうとは言えないか。うーむ、確証が持てん。

 

『まぁそんな顔をせずに話を聞きたまえよ』

 

 俺が露骨に怪訝な表情をしていたら、その事についても言及してきた。どうやらマイクだけじゃ無くてカメラみたいなものまで仕掛けてあるらしい。

 

『これでも私は君の諜報能力は高く買っているつもりだ。今回ここに来るように仕向けたのは確かだが、それでももっと時間がかかるか、そもそもこちらのメッセージに気づきすらしないのではないかと思っていた』

 

 あの紳士ハットの営業はやっぱりコイツが意図的に仕掛けた罠だった。俺はまんまとそれにハマったわけだ。

 

『つまり今日ここにきた時点で君は私の()()()に合格したのだ。どうかね? 少し考えてみないか?』

 

 嫌なこった! なんでこんな得体の知れない奴の協力者にならないといけないんだよ。だいたいコイツの言う“協力者”ってのはいつでも使い捨てにできる手駒って意味だろ? 誰がそんなのになるかってんだ。内定辞退だこの野郎。

 ……しかしまぁ俺たちの事をこれ以上探らせないようにする為に、協力する振りはしてもいいかも知れない。

 

「そうだな。条件による」

 

『勿論報酬は用意しよう』

 

「……まさかと思うがお給金払いますって言うんじゃ無いだろうな?」

 

『当然だ。そんな下らん物じゃないさ。私は君より遥かに多くの情報を握っている。その中には君の知りたい情報もあるはずだ。それを少しばかり流す、というのはどうかね?』

 

 遥かに多く、というところでドキッとする。でもこんな奴、俺達が魔族であると知っていたらすぐに脅してきそうな気がするからまだバレていないとは思う。けれど、やっぱり確証が無い。

 

「……そんなあるかどうかも分からん物のために協力出来るかよ」

 

『そう言うと思ったよ。君はどうしてか私を嫌いなようだからな。そんな君の為に君が欲しそうな情報を用意した。もしも君が首を縦に振ってくれるなら、それを“前払い”で渡そう』

 

 ほう、太っ腹だな。受けてもいいかも知れないけどまだダメだ。何をするのかを聞いてない。

 

「……具体的に何をすればいいんだ?」

 

『今はまだ言えないな。ただ……手始めに軍部の動きを調べてもらいたい』

 

 ん? てっきりクレイは軍関係者だと思っていたけどそうじゃ無いのか? いや、あえて俺にそれを調べさせる事で、関係は無いと思い込ませるブラフの可能性も……

 

『最近陸軍内部で再編の動きがある。これについて、どのように再編するつもりなのかを探ってほしい。軍と付き合いがある君にとってはそれほど難しく無いはずだ。これはテストの延長だと思ってくれればいい』

 

 テストだって言うんならやってやってもいい。ただ、ぎりぎり及第点くらいを狙ってやるけどな。

 

「期限は?」

 

『今日から2週間だ』

 

 メリットは一応上辺だけは協力体制が作れると言う事。そうする事で俺達の秘密がバレていたとしても漏らさないでくれるかもしれない事。デメリットは一時的に、このいけすかない男の言いなりになる事くらいか。腹は立つが受けた方がいいな。

 

「……俺はあんたの部下になったわけじゃあないぞ? だが、協力体制を敷く事は吝かじゃない。だからそれを受けてやる」

 

『賢明な判断だ……たった今、君達の家の郵便受けに資料を入れておいた。君が喜んでくれるといいのだが』

 

「……ああそうかよ」

 

 くそ! 魔王様の使い魔(偵察機)は今俺がいるここの上空を旋回中だ。今から家の方に戻しても郵便受けに投函した奴の後は尾けられない!

 一応これから協力関係を築こうと言っているクレイの目の前で、尾けてくれ、なんて電話は出来ないし、多分既にもうそいつは居なくなってると思う。

 クレイの尻尾を捕まえるのはそう簡単にはいかないらしい。

 

「用事は終わりか?」

 

『ああそうだ、帰る前にひとつだけ。これは私からの贈り物としての忠告なんだが……』

 

 そう勿体ぶったクレイは思いもよらない名前を口にした。

 

『あの時に捕らえていたレイラという少女についてだ』

 

 背中をゾワっとした冷たいものが駆け抜ける。なんでこいつの口からレイラが出てくるんだよ。

 

「どういう意味だ……?」

 

『そうか……やはり知らないか。私から言えることは、彼女があの洞窟にやって来たのは決して偶然では無いという事だ』

 

 クレイの言葉でレイラと初めて会った時のことがフラッシュバックする。俺がレイラと出会ったのはこのクレイが起こした事件の最中だ。“依頼の最中にばったり出くわしたのよ”───あの洞窟で捕まっていたレイラは確かにそう言っていたはずだ。でもそれが偶然ではなく意図された物だとしたら?

 

『頑張りたまえよグレゴリー君。彼女は不都合な真実を未だに隠している。それではまたな』

 

「あっ、おい!」

 

 それっきり、まるでテープがプッツリ切れたかのようにスピーカーは無音になった。

 

「グレゴリー様……レイラさんはいったい……」

 

 会話が終わった事でようやくサリアスさんが不安そうに口を開く。

 あの野郎……最後にとんでもない爆弾を残していきやがった。レイラが俺に隠し事? あのレイラが俺達に全く悟られる事なく? そんなことあり得るのか?

 いや、もしかするとそんなのは全部クレイのでたらめで、俺を不安にさせて楽しんでるだけの可能性もある。というかそうであって欲しい。

 俺はレイラのことで頭がいっぱいのまま、その場を後にした。

 

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