魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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誕生日の約束

 

「いや〜待たせて悪かったな。最近私も色々と忙しくて」

 

「いえ、こちらがふらっと突然やってきただけなのにわざわざ会って頂けるだけでも有難いですよ」

 

 俺は軍内部で再編が行われるという情報の詳細を確認する為に、リヨン中佐のいる施設にアポ無しで訪れていた。こういうのはわざわざ約束をせずに気軽に何度も訪れるのが良いというのが俺の持論且つやり方だ。

 

「いやいや何を言うか。こちらは君に足を向けて寝られないからな。用事さえ無ければ飛んでいくさ。そう言えば先日もここに立ち寄ってくれたそうじゃ無いか」

 

 この前もふらっと立ち寄ったが、リヨン中佐は何かの用事で出掛けていて会えなかった。

 

「ええ、まぁあの時も特に用があるわけじゃ無くて近くまで来たついでだったんで気になさらないでください」

 

「いやいや。マメに来てもらえると仕事に関する話も気軽にできて我々補給課としても助かるよ」

 

 リヨン中佐がそう言って部屋を見回すが、今日は補給課の面々には用事があるのか、前に来たときに比べると半分程人が居なかった。

 

「……そう言えば今日は皆さんどうされたんですか? 随分と人数が少ないですけど」

 

「ん? うーんと、まぁこれは君にも関係のある話だし、どうせもうすぐ耳に入る事でもあるから別に構わないか……」

 

 そう言ってリヨン中佐は事のあらましを説明し始めた。

 

「国王陛下が事実上の軍縮を行うと決めてしまったのだよ。近々宣言がなされると思うが」

 

 なんだそれは。知らなかったぞ。もしやクレイが言ってた軍の再編がどうのこうのというのはこの事だったんじゃないだろうか。

 

「え! それは皆さん大変じゃないですか! またどうしたってそんな急に……」

 

「いや、ところが別に急でも何でも無くてな? 軍縮派のお貴族様がいるだろう? 前々からあれにせっつかれてはいたんだが、今回とうとう我慢できずに国王陛下がうんと首を縦に振ってしまったんだ」

 

「あー……なるほど」

 

 軍縮派のお貴族様がいる、という事だけは俺も知っていた。確かシャリーンみたいな名前で、この国の中でも結構な有力貴族だったはず。その人は、軍なんか維持してても戦争なんか起きないんだし、軍事費が勿体無いからさっさと経済に回せ、みたいな主張をしていた人だったと思う。ちなみに俺もそう思います。

 

「方針としては魔族に対する脅威度は下がったと判断して、魔族領沿いの戦力を減らそうという事になったらしい。まぁ主に我々メルスクの部隊という事だな!」

 

 リヨン中佐はあっけらかんと言い放ったけど、その言葉の裏には諦めと少しの怒りが垣間見える。

 しかし我々魔族にとっては嬉しい話だ。というよりは魔王様にとっては、か。元々今の魔王様の基本方針は、魔族側からは絶対に手を出すな、だったからその成果がこういった形で現れて、今頃は素直に喜んでいるかもしれない。

 

「その……心中お察ししますよ。というかそれよく考えたら、我々の商会には影響無いんですかね?」

 

 めちゃくちゃ他人事だと思って聞いてたけど、軍縮という事はうちの商会が納めている回復薬の受注数も減るという事にならないか? やべえ、全然他人事じゃ無いんだけど。

 

「まぁ契約は2年契約だからその間は変わる事は無い。その点は安心してくれ。だがまぁ2年より先は減るかも分からんな……まだなんとも言えんが」

 

「そうですか……」

 

「まぁ情勢が変わるかもしれんからそんなに気を落とさないでくれ。えーっとそれでなんだったか……ああ、そうだ。それで何故他の奴が居ないかなんだが……」

 

 リヨン中佐はそこまで言うと一瞬固まって少しだけ言い澱んだ。

 あれだ。多分みんな首切られるから再就職先探してんだ。可哀想に……

 

「……次の働き口ですか?」

 

「……まぁそういう事だ」

 

「国として職の斡旋はしない感じなんですか?」

 

「酷いだろう?」

 

 つまり、しないと言う事らしい。随分無責任な話だ。しかし俺はそこでふと思いついた。就職先を探しているのなら、うちの商会で雇えばいいんじゃないかと。

 どうせ近いうちに王都の方で商会の第2号店を出店するつもりだったのだ。その店を営業するのにもどうせ人を雇う事になる。だったらその予定を早めて今のうちにここの人達を雇ってしまえば中佐に恩も売れて一石二鳥だ。

 本当は優秀な諜報員が欲しいところだけど、そんなものがポロポロ転がってるわけも無いし、無い物ねだりしてもしょうがない。それに軍関係者の方が一般人なんかよりも遥かにマシだ。

 

「あの中佐。実はですね……」

 

 俺は王都に2号店を出店するつもりである事を中佐に話した。

 

 

 ーーー

 

 

「随分長かったですね。何か分かりましたか?」

 

 俺が話をまとめて施設から出てくると、サリアスさんが俺を見つけて駆け寄ってくる。護衛として来ていた彼女には近くの喫茶店で待ってもらっていたのだ。

 

「んまぁだいたい分かったかな」

 

 中佐と具体的な話を詰めていくうちに、実際どれくらい人員が削減されるのかとか、どことどこの組織が統合されるのかとかいった情報も聞くことができた。

 クレイに渡す情報はこんなもんで充分だろう。もっと調べてもいいんだけど、あの野郎のために素直に仕事すんのもシャクだからな。

 まぁそれは置いといてもこんなにうまい話があるなんてなぁ。捨てる神あれば拾う神ありって奴だ。

 

「? 何か随分と嬉しそうですね?」

 

「ん? やっぱり分かっちゃう?」

 

 実はあの後、結局話が進んで4人ほどリヨン中佐の部下を引き抜けることになったのだ。実際には会ってから決めるけれど、リヨン中佐の推薦ならば多分問題は無いと思う。

 そうサリアスさんに話したら、ちょっと呆れたように苦笑いされた。

 

「大丈夫ですか? まだ王都に店を構える場所も決まってないじゃないですか」

 

「あぁ、当分は1号店で修行してもらう事になると思うよ。まぁ何とかなるでしょ」

 

 確かに、最近行き当たりばったりだなぁとは思う。でもこういうのって即決しないと意味ないと思うんだよね。だからやっぱりしょうがないな!

 

「そうなると王都進出の件も加速させなきゃだし、あの野郎に渡す情報の整理もやらないといけないし、タマちゃんの生態調査の調整もしなきゃいけないし……」

 

 うん、忙しいね。この辺の件は他の人に丸投げってわけにもいかないし、ちょっと頑張るかな。

 

 

 ーーー

 

 

 そうしてなにかと仕事に追われる日々を送っていたら、レイラがふらっと店の二階の俺の元にやってきた。

 

「私ね。実は来週誕生日なの」

 

「え! マジで?」

 

 レイラが何の気無しに放った言葉に、俺は書類を書く手を止めて顔を上げた。

 

「おめでとう! いくつになるんだったっけ?」

 

「18よ」

 

 そうか18か。ただ、レイラの見た目じゃ正直全然そうは見えない。

 でも年齢といえば俺なんて前世も含めたら40超えのおっさんだ。ただ、体に精神が引っ張られるのかそんな気は全然していない。そういう意味では俺も結構見えない方か。

 

「……なんか失礼なこと考えてない?」

 

「いえいえそんな。滅相もございません」

 

「ならいいけど……ところで前にした約束って覚えてる?」

 

「え?」

 

 なんでしたっけ? え、なんでしたっけ!? 全然記憶にございませんが!

 

「まぁそんな事だろうとは思ったけど」

 

「はい……すんません」

 

 俺が必死に思い出そうとしているのを見て、しょうがないわねという感じで答えを教えてくれた。

 

「ほら、いつだったか私の剣の腕を見せてあげるって話したじゃない」

 

「……あー! はいはいあれね! 思い出した思い出した!」

 

 以前一緒に依頼を受ける受けないで言い合いをした時のことだ。レイラは確かにそんなような事を言っていた気がする。あの時はまた今度付き合うよと言って断ったが、結局あれから忙しくてすっかりうやむやになってしまっていた。

 

「あー……忙しくて忘れてたわ。ごめん」

 

「いや、確かにいろいろ大変だったからいいわよ別に。ただ、思い出したならやるべき事があると思わない?」

 

 これはあれですね。誠意を見せんといかんやつですね。

 

「……約束を果たすのは勿論のこととして、不義理を働いてしまったので、何か別にお詫びしなきゃいけないと俺は思うのですが、どうすりゃ良いですかね? なんか欲しいものとか有る?」

 

「別にお詫びは要らないわよ。ただ誕生日プレゼントの方は期待しとく。頑張ってあなたのセンスで選んで」

 

「はい、頑張らせていただきます……」

 

 それってつまり、誕生日プレゼントはお詫びの分も上乗せしろって事のような気が……まあいいか。

 しっかしレイラが欲しがるような物って何だ? なんかレイラって貴金属とか高級品とか貰って喜ぶようなタイプじゃないと思うのよね。新しい装備でも渡すか? それはちょっと女の子にあげるような物では無いか。俺のセンスが問われるなぁ……

 

「それで……来週末に一緒に簡単な依頼でも受けない? 忙しくなかったらでいいんだけど」

 

 うんうん考えてたらレイラからデート?のお誘いが来た。俺は予定も確認せずに即答した。

 

「ああ、いいよ。えーと8日後かな?」

 

「そうね。じゃ、そういう事で楽しみにしとく!」

 

 俺の返事に満面の笑みを浮かべたレイラは足取り軽くササッと部屋から出て行った。最近なんか知らんけど良い雰囲気だから嬉しい。

 何というか、ひょっとするとひょっとするんじゃないだろうか? それともDTの思い込みかな? 何しろレイラはみんなに対して優しいからな。

 

 でも本当に関係を進めるなら全てを打ち明けないとダメだ。そういう意味では今度の予定はちょうど良いな。どうせその辺りで時間を作ってレイラに全てを打ち明けようと思ってたんだ。その日の最後にでも全部話すとしよう。

 

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