魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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そんなに期待されても困っちゃう

 

 魔王様の調査結果が本当であれば、人間界の誰かが果ての村を壊滅させたことになる。あるいは魔王様の調査から逃れた魔界の誰かがこの事件を起こしたかだ。

 

 出来れば前者であって欲しいなと願いながら、俺達はその襲撃の生き残りから話を聞くべく、とある宿を訪れていた。

 

「おめえ達か? オラの話を聞きてえってのは」

 

「ええ、話辛い事でしょうが出来れば当時の状況について分かる限りのことを教えて欲しいのです。何か力になれるかもしれない」

 

 俺の言葉を聞いた農夫は前に衛兵にもしたという話を悔しそうに語り始めた。

 

「オラ達の家があった場所から西の方、ちょうど魔界の方だっぺな。そっちの森から5、6人の鬼が出てきたんだべ」

 

「え、でも……」

 

 それを聞いたマゴス君が何かを反論しかけたが、俺が手で制す。人間の言う鬼とは間違いなくオーガの事だ。マゴス君もオーガであるので、言いたい事の一つや二つもあるだろうが、この人にそんな事を言ってもしょうがないのでここは我慢してもらう。

 

「何故オーガだと分かったんですか?」

 

「そんなのおめえ、角があったからに決まってるべ」

 

 何を当たり前の事を、という表情で農夫が述べる。確かにそれはオーガの特徴だ。だが逆に言うとその点しか判断材料はない。それに普通のオーガは魔法を使えない。

 

「貴方がそいつらを見たとき、そいつらは()()()()()使()()()()()()()()()()()?」

 

「ああ、確かに手から火を出していたべ。とうとう魔界の兵士が攻めてきたと思ってオラ、何も出来ずに逃げる事しか出来なかっただ……」

 

「……」

 

 嘘はついてないようだ。それにそもそもこの農夫にはそんな嘘をつくメリットはない。

 

 この時点で俺はほぼ確信していた。恐らく人間の盗賊か何かがオーガのコスプレでもして集落を襲ったのだろうという事を。それでオーガに濡れ衣だけを着せようとしているに違いない。ふざけやがって。

 

「なあ、あんた達冒険者だろう? オラの村の仇を取ってくれねえか? 村にはオラの母ちゃんがいたんだ。だども母ちゃんも他のみんなも拐われちまった。オラは魔族が許せねえ……!」

 

「任せてくれ」

 

 俺が言うと農夫はハッと顔を上げた。

 

「俺が責任を持ってこれを起こした奴に落とし前を付けさせる。必ずだ」

 

 

 ーーー

 

 

 その後、家に戻った俺達は襲撃を起こした犯人を探し出す為の方針を話し合っていた。

 

「それで……どうやって見つけだすかだ。まず、犯人は人間であると断定して話を進めるけど異論はある?」

 

「ありません。オーガ族である事は絶対にあり得ませんから」

 

 俺の質問にマゴス君が力強く答える。

 

「私もありませんよ。普通のオーガは魔法、使えませんものね」

 

 それにどうやら人間は忘れてしまったみたいだが、基本的に魔族は魔法を使えない。今の魔王様になって100年ほどは戦争も起きていないので、そんな簡単な事も人間は忘れてしまったようだ。

 

「でもまあ一応、魔王様にお願いしておくかね」

 

 俺は懐から魔王シアター改を取り出してボタンを押した。すると魔王様が秒で出る。多分今も俺の目を通してリアルタイムでこっちの状況を見てたなコレは。

 

『なんだ。ちゃんと聞こえてたぞ。あとさっきの生き残りの男から話を聞いた時に、魔法が使える奴をもう一度調査するように手配しておいた』

 

「流石は魔王様、仕事が早いですね。あ、一応このまま繋げておきますね」

 

 他の二人がえっ? という顔をしてるけど、この作戦では魔王様の協力も恐らく必要になるので参加してもらう。

 

『それでグレゴリー、お前の見解は?』

 

「そうですね。生き残った男の話によると、拐われた人間がちょうど10名居ます。この人数を人目に付かずに捉えておくのはかなり難しい」

 

 拐った村人を馬車に押し込んで移動するのにも限界ってものがあるし、ましてやぞろぞろ連れて歩けば一発で露見する。

 

「ですから、襲った集落からそう遠くなく、且つ人目に付かない場所に仮拠点が必ずあります」

 

「ええと……例えば山小屋みたいな物でしょうか?」

 

 そうそうそんな感じ。そういう隠された場所に拐った人達を一時的に押し込んでおく筈だ。だからそこを見つける事が出来ればほぼ勝ちだ。とはいえ、普通にそれを見つけるのはとてつもなく難しい。

 

「本当はその仮拠点を直接見つけたい所ですが、ここは人間界。魔王軍の物量で無理矢理探す事はできません。なので別の方法を考えなきゃならない訳です」

 

『何か良い考えは?』

 

「今のところは何も」

 

『なんだよ。らしくないじゃないか』

 

 まーたこの魔王様(ひと)は無茶を言う。というか魔王様といいサリアスさんといい、いったい俺をなんだと思ってるんだ。

 

 俺なんかちょっとだけ前世の知識がある弱弱デビルよ? というか仮に俺がコナン君だったとしてもこの情報量じゃ解決できないと思うの。

 

「人も物も情報も足りてないですからね。だからこそこの場で方針を決めようと言う訳ですよ」

 

『そんなこと言われてもなぁ。お前らなんか考えある?』

 

 急に魔王様に振られた二人はふるふると首を横に振る。まぁ俺だって良い方法は浮かばないし無理もないよ。あ、いや、とりあえずひとつだけはあるんだった。

 

「……そう言えば魔王様の使い魔って今何匹くらいいましたっけ?」

 

 俺が疑問顔で言うと何かを察した魔王様が若干嫌そうな感じで答える。

 

『50くらいだが……待て。まさか使い魔総動員して無理やり探せってんじゃないだろうな』

 

 おっと。結論としてはそういうことなんだが、なんとか魔王様にはやる気を出してもらわなければ。

 

 というかそもそも無茶振りで俺をこんな敵地ど真ん中に放り込んでるんだからそれくらい我慢してやってほしい。

 

「いや、闇雲に探せってんじゃありません。捜索範囲は絞りますよ」

 

 そう言って俺はマゴス君に指示を出して地図をテーブルに広げさせる。俺は地図のある一点を見つめながら言った。

 

「この地図は見えてますね? ちょうどこの点が集落のあった場所です。ここを基点に……」

 

 俺は紐にくくりつけたペンで集落を中心にぐるっと地図上に円を描いた。ちょうど集落から1日で行けるかどうかくらいの範囲だ。

 

「この円の中。この範囲だったらどうです?」

 

『どうですって言う割には結構広いじゃないか。この範囲だとそうだな……全部探すのに最低でも一ヶ月はかかるぞ?』

 

 魔王様が不平を言うが、これはひいては魔族全体に関わる事なのでしっかりと働いてもらう。

 

「本当は魔王軍の軍人を使えれば良いのですが人間側に戦争でも始めたのかと勘違いされたら事ですから。それは魔王様だって望むところではないでしょう?」

 

 もしそんな事態になれば、今まで魔王様が掲げてきた、人間界とは戦争をしないという目標が一発でおじゃんになる。魔王様もそれは分かっているからか渋々承諾した。

 

『分かった分かった。探せばいいんだろう……まぁもしかすると意外とあっさり見つかるかもしれないしな。その……山小屋?』

 

 山小屋から離れてほしい。それ以外に洞窟とかあるでしょ……こんな調子で本当に見つけられるんだろうか。

 

「別に山小屋とは限りませんからね……まぁとにかく保険の一手みたいなものはこれで打てたのでもう少しスマートな方法でも考えましょう。諜報部のマゴス君的にはどういう方面で行くのが良いと思います?」

 

 俺は保険かと呟く魔王様を無視してマゴス君に意見を聞く。

 

「そう、ですね。犯人達は10人も拐ったという事ですけど、それだけ拐ったからには何かしら目的があると思うんですよ」

 

 ほうほう、なるほど。だが実は俺もそれは考えてた。

 

「そんな人数拐ってどうするつもりなんでしょうか? まさか奴隷として売るとか……? それなら許せませんね……」

 

 サリアスさんが自分の意見に憤りを見せる。

 

「確かに人間界じゃ奴隷狩りも人攫いもあるし、奴隷落ちして買われちゃえばいくら身の潔白を証明したところで買ったほうは知ったこっちゃないで通るからね」

 

 現代日本で育った俺や、魔族からするとどうにも理解できないんだけど、人間界には奴隷狩りにあう奴が運がなかったという風潮が昔から蔓延しているらしい。

 

 なので売ろうと思えば意外と簡単に売れちゃうらしいのである。だがしかし今回だけは盗賊どももそれは出来ないはずだ。

 

「でもなあ、今回はみんな魔族に連れてかれたと思ってるわけでしょ? それなのにその集落の人間をほいほい売ったらそれが直ぐに嘘だって分かるじゃない」

 

 これほどまでに噂が広まっている以上、例え他都市の奴隷商だったとしても買うはずがない。なぜなら果ての集落壊滅という犯罪に加担していると思われてはたまったもんじゃないからだ。

 

「そうなんですよね……そうするとやっぱり分からないですね」

 

 うーむと考え込むマゴス君。そこで思いついたように魔王様が口を開く。

 

『あー、それは例えば他国の奴隷商に売りに行ったらどうなる?』

 

 魔王様の言う通り、この事件の事をまったく知らない他国へ行けば売れるだろうし足もつかないかもしれない。けどそれはあまりにも現実的じゃない。

 

「そんな10人もぞろぞろ連れて行ったらもうそれ盗賊じゃなくて行商人ですよ」

 

 輸送費だってタダじゃないし食費も掛かる。それに集落の人間である事が露見すればパーになる事を考えると、悠長に旅が出来るとは思えない。

 

『そう、だな……』

 

 俺は魔王様を黙らせた事に若干の罪悪感を感じながら、ここらが頃合いだろうと自分の考えた基本方針を示す。

 

「……えー、これ以上会議を長引かせてもいい考えは出ないでしょうから、俺の考えを言います。反対意見があれば聞かせてください」

 

 俺の言葉に皆が注意深く聞く態勢に入る。正直に言うと勘弁して欲しい。何しろ俺にもこれがベストな方法かどうかは分からないからだ。

 

「先程のマゴス君の“売りに来るかも”という意見については実は俺も少し考えていました。ですがそれはどうにも難しいようだ、というのは皆さんの共通認識になったかと思います」

 

 俺の言葉にサリアスさんがコクコクと頷く。

 

「じゃあどうするんだという話なんですが……俺が思うのはこうです。売りには行かないで全員自分たちの元で働かせる。これしか無いでしょう」

 

 シーンと静まり返る部屋の中。いやぁまあ言いたいことは分かる。でもみんなしてそんな目で見なくてもいいじゃない。

 もしかしたら最初は金目当てだったかもしれないけど、噂が予想以上に広まっちゃって売るに売れなくなっちゃったってパターンもあるかもしれないし、そんなに大外れの意見って事はないと思うんだけどなぁ……いかん、自信なくなってきた。

 

「その……なんというか……普通ですね?」

 

 参謀は優秀って聞いてたけどこんなもの? みたいな若干冷めた目をしてマゴス君が聞いてくる。おう、普通で悪かったな。勝手に期待して勝手に失望するのはやめてくれると俺が喜ぶぞ!

 

「まあそう思うよね。俺もそう思うし。だけど今の情報だけだとせいぜいこれくらいしか言えないんだ。それでどうやって見つけ出すかだけど……」

 

 ここでタメを作って深呼吸。そしてあたりを見回してごく普通の対処方針を示す。ああ、俺の株がどんどん下がってくなぁ。

 

「とにもかくにもまずはもっと多くの情報が必要になる。だから具体的な行動はまだ起こさないで、もうちょっと情報収集しよう。今の俺達に出来ることはせいぜいそれくらいだよ」

 

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