魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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勇者疑惑の男

 

 次の日、トールから緊急の連絡があるから来て欲しいという連絡が飛んできた。俺はその伝言を持ってきたステイシアと共にすぐに冒険者ギルドに向かった。

 

「おう、結構早かったな。早速で悪いが例の奥の部屋に」

 

「分かった」

 

 来て早々ろくに挨拶もせずに奥に通されるとなるとよっぽどのことが起こったに違いない。俺とステイシアはトールの後を追ってそそくさと例の秘密の会議室に向かった。

 

「で、何があったんだ?」

 

「ああ、実は勇者を見つけちまったかも知れん」

 

「!」

 

 俺はバッと身を乗り出した。

 

「それはどれくらい確証があってそう言ってんだ?」

 

 トールは自身の目を指差しながら静かに告げた。

 

「この“目”で確認したからな。少なくともそいつ自身がそう思い込んでることだけは確かだ」

 

 トールが言うには、最近この街にやって来た、とある少年が非常に怪しいのだという。

 そいつは自分の事を勇者だと周囲に言って憚らないらしく、他の冒険者からも生暖かい目で見られているのだとか。

 

「まだガキなんで、もしかしたらごっこ遊びの延長なのかもしれんが、もしかすると本物かもしれん」

 

「お前の目でも分からないのかよ」

 

「俺の目は本人が本気でそう思って言ってたら、例えそれが間違っていても嘘だとは判定してくれないからな。そこら辺は微妙なんだ」

 

 トールの“真実の目”を使った嘘判定法は本人が嘘をついている自覚が無ければ反応しない。だから今回の件についていえば、その少年が勇者で無かったとしても、自分が勇者であると思い込んでる精神異常者だった場合には、本当であると判定されてしまう訳だ。

 

「『なんだ? お前は勇者なのか?』って冗談半分で聞きながら能力を発動させたら、『そうだよ』って返ってきて嘘じゃなかったからな」

 

「うーん……そうか」

 

 本物の勇者か、もしくは自分が勇者だと思い込んでるやべえ奴か。一応勇者だと仮定して動いた方が良さそうだ。

 

「そいつの行動パターンってどれくらい分かってる?」

 

「結構コンスタントに毎日討伐依頼受けてるぞ。ああそいつは中級だから、そのランク帯の依頼を満遍なくって感じだ。オフの日は知らん」

 

 悠長に調べてる場合じゃ無いと思ったトールが、すぐに俺達に知らせてくれたので、休みの日に何をしてるのかまでは分からないらしい。

 それは俺達の仕事だな。そいつの行動パターンを調べて、なるべく近づかないようにしなきゃ。

 

「後はそいつが“何を望んでいるか”もしっかり調べといたほうがいいぞ。その方が仮に覚醒した時に動きが読みやすい」

 

「ああそう言えば勇者って覚醒直後は頭おかしくなっちゃうんだっけ?」

 

「頭おかしくなるってのは言い過ぎだ」

 

 トールの長年の調査で分かった話だが、覚醒直後の勇者は自分の望みを叶えたい欲が膨れ上がるらしい。歴代勇者はそういう訳でなりふり構わず魔族領に突っ込んできたのだ。なぜなら魔王を倒せば元いた世界に帰れると思っているから。

 

「ま、俺は魔王を倒せば帰れるなんて信じて無かったからそうはならなかったんだけどな」

 

 トールの場合は逆に真実を知るために王宮に突っ込んでったらしいから皮肉な話もあったもんだと思う。

 とにかく“何を望んでいるか”を知ることが出来れば万が一の時に役立つ。

 

「ステイシア。今の話を踏まえてそいつの情報を集めて貰える? 安心して頼めるのがステイシアしかいないんだ」

 

 俺達の中で、唯一人間であるステイシアならば、仮に勇者が覚醒しても魔族が人間界に潜入してるとバレる心配がない。

 

「ええ、いいですよ。ただその間は他の事が出来ませんけど」

 

「……まぁ他の事はサリアスさんにでも頼むよ」

 

 全く最近ただでさえ忙しいのに、訳のわからん奴が居たもんだ。だいたい勇者ってのは自分の事は秘密にしとくもんじゃないのか? やっぱりそいつは偽物なのかな?

 

 とにかく、勇者疑惑の人物の調査をステイシアにぶん投げた俺は、他の連中に注意喚起するために、社宅の方に戻った。

 

 取り敢えず社宅にいた奴に冒険者ギルドに近づかないように伝えた俺は、喫緊の課題であるレイラの誕生日プレゼントについて考えていた。

 

「うーん……何が欲しいんだろ」

 

 女の子の欲しがるものなんてさっぱり分からない。これが花屋のお嬢さんとかだったら何となく分かったかもしれないけど、相手はバリバリの冒険者である。

 うむ、分からん。同じ冒険者の女性であるサリアスさんにでも聞いてみるか。

 

「サリアスさんが貰ったら嬉しいものって何がある?」

 

「あら、何か頂けるんですか?」

 

「あ、いや、そう言うわけじゃないんだけども」

 

 俺が否定したらサリアスさんはちょっとがっかりした顔をしながらも答えてくれた。

 

「うーん、そうですね。私なら最近流行ってるマロングラッセ入りのケーキがいいですかね〜。あのビューレ&マインの」

 

「ビュー……え、なに?」

 

 なんだか知らん単語が矢継ぎ早に出てきたぞ。マロンとか言ってるから栗が関係してるんだろうってことくらいしか分からない。何それ美味しいの、状態だ。

 

「ビューレ&マインですか! 私も食べたいです!」

 

 俺がハテナを浮かべているのをよそに、部屋の反対側で聞き耳を立てていたアイリスちゃんが話に加わってきた。聞くと、そのビューレ&マインというのは何か人気のお菓子屋さんで、本当に食べ物で美味しいらしい。

 

「へー知らなかった。有名なの?」

 

「え、グレゴリー様すぐそこにあるのに知らないんですか! それは損してますよ! 今から行きましょうすぐ行きましょう!」

 

「え? 今から?」

 

「こういうのは思い立ったらすぐ実行ですよ!」

 

 アイリスちゃんの剣幕に押し捲られた俺は、その何ちゃらという店にその場のノリで行く事になってしまった。普段なら部下の言動を嗜めているはずのサリアスさんが何も言わずにしれっとついて来ているあたり、本当に美味しいのかもしれない。

 

 その店は本当にすぐ近い場所にあった。社宅と1号店のちょうど中間地点くらい。そこから少し裏通りに進んだ所に存在していた。なんでこんな所に店を構えているのか謎だが確かに人気店らしく、数組のお客さんが店の中で商品を選んでいた。

 

「マロングラッセ入りケーキってのが欲しいんだっけ?」

 

 俺がそう聞くと彼女達はショーケースの中を目を行ったり来たりさせながら唸った。

 

「あ、でもイチゴのタルトもある……数量限定の……」

 

「マロングラッセも捨てがたいですけどイチゴのタルトも食べたいですね……」

 

「じゃあどっちも食べたらいいじゃない。日頃の感謝も込めて俺が出すよ」

 

 俺が放った一言は彼女達にとっては眼から鱗だったらしい。そんな欲に任せて2つも食べるなんて思いつきもしなかったのか、まさに天啓を得たという感じだった。

 

「そんな事が可能だとは……!」

 

「それは何とも罪深いですね」

 

「そんな大袈裟な。いいじゃん2個食ったって。という事でこれとこれを3つずつ───」

 

 そこまで言って俺はふと思った。俺たちだけがこんな美味しいと評判のものを独り占めして許されるだろうか? 日頃の感謝と言うんなら他の奴らにも買っていった方がいいんじゃないか?

 ええと、ひい、ふう、みい……俺含めて全部で10人か。ええい、今日は贅沢してしまえ!

 

「───いや、やっぱり10個ずつ下さい」

 

「みんなにもですか? 確かに私達だけじゃ悪いですものね」

 

「申し訳ありませんが商品はここに出ている分だけしか無くて……」

 

 よく見たら数が足りなかった。仕方が無いので種類はバラバラで適当に足りない分を購入する。

 ケーキ20個分を3人で分担して持って帰る。冷蔵庫なんていう上等な物は無いけど、魔法パワーによる保冷剤みたいな物はついてきたので、明日までは持つ。

 

 3人でわいわい言いながら、社宅の共有スペースでケーキを堪能していたら、続々と他の奴が集まってきた。

 

「なんかおいしそうな物食べてますね」

 

「お前の分もあるぞ。それも2つ」

 

「本当ですか? おっ! 色々ありますね」

 

 というようなやり取りがなされてどんどん人が増えていく。

 

「うーっす! 帰って来たっすよー! あーっ! ずるいじゃないっすか!」

 

「ただいま〜、あっ!」

 

 そうこうしていたら、バートンとレイラも仕事から戻ってきた。目敏いバートンが非難の声をあげるが、黙って残っているケーキを指差すとへりくだって感謝してくる。

 

「いや〜、有難いっす! 流石はグレゴリー様っすね! 太っ腹!」

 

 てっきとうな誉め方だな……

 

「あら、私のもあるの?」

 

 何故かレイラが遠慮がちに聞いてくる。なんで無いと思うんだ? そんな仲間外れにするわけないじゃないの。

 

「勿論。ただ、1人2個までだから食べすぎないように」

 

「逆に2個も食べていいのね? ありがとう」

 

 嬉しそうにケーキを選ぶレイラを見て何か忘れているのを思い出した。

 そうだ、レイラの誕生日プレゼント選びを考えてたんだ。だというのにいったいどうしてこんな事に……というかビューレ&マインのケーキをこのタイミングでレイラにあげちゃったら1週間後はまた何か別の店のケーキを用意しなきゃいけないじゃないか。

 

 もう無難なやつでいいや。プレゼント選びは一人でやろう……俺はちょっと複雑な気持ちになりながら、イチゴのケーキをちょんちょんつついた。

 

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