魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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人の振り見て我が振り直せ?

 

 勇者が現れたらどうするのかという方策は実はまだ詳しく決めてはいなかった。ただ、今まで通り倒してはいおしまい、で終わらせるつもりは無く、生かす方向で検討はしていた。

 

 俺が考えているのは遅滞行動と防御戦闘の組み合わせによる時間稼ぎ戦術だ。

 

 勇者が騙されていて突っ込んでくるのならば、何とか説得して味方に引きこみたい。勇者は魔族に対する恨みは特に持っていないはずなので、勝算は十分にあると思う。ただ、その為には時間を使わせて正気に戻ってもらう必要があった。

 

 ただ、言うだけは簡単なんですよ。問題はあの勇者相手に防御戦闘しながら後退なんて可能なのかって話だ。今までの勇者は実質不意打ちで片付けてきたみたいなもんだし、どの部隊も勇者とまともにやり合わないようにしてきた。だから正面からぶつかるとなるとかなり不安だ。

 

 かと言ってほっとけば真っ直ぐ突っ込んでくるしな……ほっといて好き勝手させる案も一応考えてみたけど、多分魔王以外に興味を示さなくて、真っ直ぐ魔王様の元に行っちゃうと思う。

 いくら魔王様が最強で負けないからって素通りは流石に避けたい。そんな事になれば俺や魔王軍の存在意義が問われるしね。

 

 しかし勇者覚醒が現実味を帯びてきた以上、いくつかのパターンで方針をちゃんと決めとかないとなぁ。はぁ……めんどくさ。

 

 

 ーーー

 

 

 あくる日。俺がアマル2000工場にたまたま寄ったらカイルが血相を変えて飛んできた。

 

「グレゴリー様。これ、やっばいですね! いったいどこで手に入れたんですか?」

 

「おいおいカイル。口調がバートンみたいになってるぞ」

 

 カイルのやつ、俺が渡したタマちゃんエキスの解析をようやく終えたらしい。これで俺が騙されてた訳じゃないと分かってくれたようだ。

 

「だってこれ、普通じゃないですよ! こんなの出回ったら、世の中ひっくり返るじゃないですか!」

 

「まぁそうなんだよね〜」

 

 完全な解毒薬だなんてどれほど欲しがる奴がいるか。今ある特定の毒に対応した解毒薬を提供している薬屋さんは軒並み廃業、とまでは言わないけど大打撃だ。

 

「ところでそいつの成分って少しくらい分かった?」

 

「いえ、ちょっと調べましたけど水を含んでいて少しアルカリ性に寄ってるってことぐらいしか……魔界(あっち)に帰ればもっとやりようはあるんですけど」

 

「うーん、そうか」

 

 ここの回復薬生産工場にはそんな立派な研究施設みたいなものは無いので、その辺は仕方ないのかもしれない。かと言ってカイルを魔界に帰すのは厳しい。結局は専門家が一人は人間界にいないといけないから入れ替わりで誰か来る事になる。それじゃあ意味が無い。

 じゃあこのエキス自体を魔界に送って誰かに研究させるっていうのはどうだろうか。でも俺の目が届かないとこで好き勝手されるのも嫌だな。なので却下。

 

 そうなるとなんか上手い方法は無いものか……ああ、そうだ。

 

「……もし魔界(あっち)と同水準の設備がここにあればもっと研究出来る?」

 

 俺の悪魔の囁きにカイルは顎に手を当てて考え込んだ。

 

「……うーん、ある程度まではいけると思いますが試料が足りないと思います。それだけの量じゃ完全に解析するのは難しいですよ」

 

「じゃあこれももうちょっと調達できるって言ったら?」

 

 俺はタマちゃんエキスが入った小瓶をチャプチャプさせながらニヤリと笑った。

 

「マジですか?」

 

「マジですよ」

 

 カイルがマジとか言うの珍しいな。それくらい興味あるってことか。

 

「……出どころは教えてはくれないのですよね?」

 

「残念ながらそれだけは言えないな。悪いけど」

 

 シリウスさんと約束しちゃったからね。

 

「産地なんかが分かればもっと早く進むと思ったのですが流石にダメですか……分かりました。それでも構わないのでやらせて下さい」

 

 未知の物に対する探究心からか、カイルはその条件で研究を続けることを承諾した。

 

 

 ーーー

 

 

 バートンをレジア湖に派遣したり、レイラの誕生日プレゼントを選んだり、対勇者の作戦計画を練ったりしていたら、あっという間に1週間ほど過ぎてしまった。もう早いもので、明日がレイラとの約束の日である。

 

 そんな日の夕方頃、ステイシアがプンスカ怒った顔で店の二階にやって来た。

 

「もう! 何なんですかあいつは!」

 

 普段冷静なステイシアの貴重なお怒りシーンかもしれない。珍しい事もあったもんだ。なーんて言ってる場合では無い。普段冷静な人が怒っているという事は凄く不安定だってことだ。いつこっちに飛び火するか分からん。何とかせねば。

 

「おお……落ち着け落ち着け。なーにがあったの」

 

 話してみ? と促したら、聞いてくださいよ! と怒涛の勢いで話し始めるステイシア。

 

「あの、ケイウスとかいうナルシスト野郎の事ですよ!」

 

 ケイウスってのはこないだトールから聞かされた勇者かもしれないっていう人物の名前だ。先週からステイシアに素性だとか行動パターンだとかを探るよう指示していた。

 

「そういえば一昨日初めて接触したとか言ってたね。それでその男はたった3日で何をしでかしたの?」

 

 接点を持って3日でここまで嫌われるとか、そのケイウスというのはよっぽどの事をしたに違いない。

 ステイシアは信じられません! という表情で訴え始めた。

 

「あいつ! 私に惚れられてると思い込んでるんです! それで私の事つけ回して来るんですよ!」

 

 要約するとこういう事らしい。一昨日初めて接触した日から、ケイウス君はどうもステイシアが自分に気があって話しかけてきたと思ったようである。その結果、ナルシストっぷりを発揮したケイウス君は「やぁ、子猫ちゃん」みたいな薄ら寒い感じで、ステイシアを見かけたら追っかけて来るようになっちゃったのだとか。

 ステイシアもステイシアの方で、別に気があるわけではないけど、任務の事もあるし、決定的に嫌われる訳にもいかなくて、仕方なく曖昧な返事をしていたらケイウス君、ますますエスカレート。お茶に誘うわデートに誘うわ根掘り葉掘り聞いてくるわで、アタックがどんどん強烈に。辟易したステイシアが愚痴りに来たのが今ココ、という事のようだった。

 ……ああ、これはあれですね。勘違い野郎って奴ですね。

 

「お前のその自信はどこから来るんだよって小一時間問い詰めたいです! これだからナルシスト野郎は!」

 

 おおこわ。でも、ステイシアみたいな美人さんに曖昧な返事されたら勘違いしちゃうのも分かる気がするなぁ。だからしょうがないね⭐︎

 ……なーんて言えば、仕事じゃなかったらすぐ断ってますよ! つって俺に怒りの全エネルギーが収斂して消し炭になるので絶対に言わない。俺もナルシストは別に好きじゃないしな。だから擁護はしない。俺の為に犠牲になってくれ!

 

「私はああいう自分大好きなナルシスト野郎は微塵っっも興味無いんです! いーや、あえて言いましょう。大っ嫌いです!」

 

「……まぁまぁ。でも確かに子猫ちゃん呼びはちょっとキモいな」

 

 そんな奴マジでいるんだなという感じ。俺が女の人をそう呼ぶ日は一生来ないと思うね。間違い無く。

 

「そうでしょう! ほんっとにあり得ない!」

 

 それからステイシアは、如何にナルシストがおかしいかという一般論を話し始め、次に自分の好みの男性像の話になり、一周回ってケイウス君の気持ち悪さをもう一度熱弁した。

 俺はその話に適当に相槌を打ちながら思った。件のケイウス君は普通に痛い奴だが、俺だって他人事じゃ無い。前世でもよく聞いた話じゃないか。ちょっと女の子に良くされたからって勘違いしてはいけないのだ。

 

 ぐぬぬ。なんかこう、荒れてるステイシアを見てたらすっげえ不安になってきた…… 人の振り見て我が振り直せとはよく言ったものだけど、俺自身は大丈夫だろうか? レイラに渡すプレゼント、こんなんで良かったのかな。うわぁ、なんかめっちゃ心配になってきたぞ……

 

 しかし、今更買い直すなんて、もうできやしないので、腹を括って明日を迎えるしかないのであった。

 

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