魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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 帰ってきて早々、サリアスさんと決裂しかけるなんてヒヤッとすることもあったけれど、俺が片付けなきゃいけない当面の課題はクレイをどうするかという事だ。

 

 恐らく奴はレイラが勇者である事を知っていた。これはほぼ確定だろう。そして知っていながら黙っていたと見ていい。その事を考えると、俺達が魔族だという事にも本当は気付いているのかもしれない。

 

 勿論俺の思い過ごしという可能性もある。俺たちが一般人であったとしても、レイラが勇者だという事実は非常にインパクトのある話だ。そういう意味で反応を楽しんでいる可能性もあった。いや、自分で言っててなんだけどそれは流石に楽観的すぎるか。

 

 何しろこの間レイラが勇者になった時に、安全のために社宅や工場からみんなを待避させた件がある。あの時はそれしか方法が無かったから仕方ないけど、もし俺達が魔族である事をクレイが知らなかったとしても、あれで何か勘付かれたと思った方がいい。

 

 俺たちが魔族だと気づいたクレイは果たしてどうするだろうか。予想される行動は二つ。普通に潰してくるか、知った上で利用するかだ。奴のことだから後者を選びそうだけど、猶予ができそうだなんて安心もしていられない。

 

 うーむ、やっぱりあいつは邪魔だな。まさに目の上のたんこぶ。どうにかしてクレイの尻尾を掴みたいけど、まるで方法が思いつかない。困った話だ。

 今俺に出来ることは、いつでも魔界に逃げ帰れるように準備をしておくくらい。

 

 明日、クレイが俺に頼んできた軍の内部調査の期限の日がやってくる。そこで何か成果が得られるように色々考えてはいるけれど、果たして奴がそれに乗ってくるかどうか。これはあんまり良い手じゃないからなぁ。望み薄だ。

 

 

 ───

 

 

 当日、俺は前回クレイと会話したオンボロ工場にサリアスさんと共にやって来ていた。一応考えられる手はいくつか用意した。上手く行くかは未知数だけど。

 

「じゃあ入ろうか」

 

「分かりました。先導いたします」

 

 一応上空には魔王様の使い魔(偵察機)が旋回中だ。勿論、今回は前回みたいな失敗は繰り返さないように社宅にも工場にも同じものを用意して貰ってる。

 ついでとばかりに蜘蛛型のちっちゃい使い魔もポケットに入れてきた。こいつを部屋に入った後でこっそり放つ。これで出て行った後も中の監視がバッチリ出来る。

 

 準備は万全だ。俺は自分に言い聞かせた。

 

「おーい、言われてたものを持ってきたぞ。いないのか!」

 

 部屋の中に入って俺が怒鳴ると、壁につけられたスピーカーからすぐに反応があった。

 

『分かっているからそう大声を出すな。まぁ座りたまえよ』

 

 呼びかけに対して間髪入れずに返事をしてくるクレイ。まるでずっと見てたかのようだ。

 いや、実際に見てたんだろう。どっからかは分からないけどこのオンボロ工場の外にも監視装置みたいなものがあるのかもしれない。気持ち悪いなぁ、人のこと言えないけど。

 

 気を取り直して前回と同じように樫の椅子に座った俺は、調査結果の書類が入った封筒をポンとテーブルに放った。

 

「これが頼まれてた件の報告書だ」

 

『ほう? 何か分かったか』

 

「後で自分で読んでくれ」

 

 これが第一の作戦だ。こうしてしっかり報告書を作ってここに置いておけば、奴はこれをどうにかして取りに来るはず。

 そこを使い魔を駆使して見張っておけば、後を尾ける事もできるかもしれないという目論見だった。

 

 しかし、クレイはそんな作戦はお見通しだと言わんばかりに言い放った。

 

『悪いがそこには取りに行けなくてな。書類の類は受け取れないのだ。今、ここでお前の口から説明してくれ』

 

「……ああ、そうかよ」

 

『それと今後も書類は必要無い。よく覚えておいてくれたまえよ』

 

 この野郎、わざわざ釘まで刺してきやがった。絶対に俺の方から辿れるようにはしないつもりらしいな。

 これで一つ目の作戦は失敗だ。しかしこうなると二つ目も上手くいきそうに無い。次のも似たようなもんだからな。

 

 俺は苦々しい思いをしながら軍の内情について簡潔に説明した。

 配置転換というよりはただ解雇するのが殆どだとか、それでも立場がある人達は辞めさせられないから、魔界との国境以外の駐屯地に異動になるとか。

 

 デリウス王国は何も魔界とだけ国境を接しているわけでは無い。

 魔界との反対側には人間の国家が二つある。

 デリウスの南西にある神聖セリア王国と南東にあるシズ王国。今のところ特にデリウスと関係が悪いわけではないけど、取り敢えずお偉いさんだけはそこに移ってもらってお茶を濁そうという事らしい。

 流石にお偉いさんはその辺の雑兵とは訳が違うので、簡単に首は切れないんだろうな、というのが俺の予想だ。

 

 そんな感じで俺が自分の見解も交えた説明を終えると、クレイは満足そうに鼻を鳴らした。

 

『ふん。まぁ良かろう。合格点だ。ご苦労だったな』

 

 はっ! なーにが “ご苦労だったな” だよ。この反応じゃ、どうせこいつは初めから全部答えは知ってたんだろう。それで俺がちゃんとした解答を持ってくるかどうかを試したんだ。

 

 あれ? しかし、そうなるとクレイってやっぱり軍関係者なんだろうか。

 この前はいかにも関係無いですよって態度を取ってたけどそれは嘘でやっぱり関係者なのか? いや、もしかしたらそれすらもブラフで実は本当に関係無い……あー! 腹立つなぁもう!

 

「……用が終わったなら帰らせて欲しいんだが」

 

 イライラしてきた俺がぶっきらぼうに言うと、奴はそんな俺の様子を見て楽しんでいるのか、まるで世間話でもするかのように言ってきた。

 

『まぁそんなに急ぐ事も無いだろう。特に予定は無いだろう? ゆっくりと話でもしようではないか。()()()()()()()()()なんかはどうだ?』

 

 サリアスさんがピクリと微かに動く。その目はその場にクレイがいたら斬り殺しそうなほどに鋭い。

 クレイの野郎、ぶっ込んできやがったか。望むところだ。

 

「はっ! よく言う。お前が言ってた意味がこの前ようやく分かったよ。お陰でこっちは色々と損害を被ることになった。……あのな、あんなヒントで分かるわけ無いだろうが」

 

 あくまで俺達が魔族とはバレていないものとして演技する。クレイが俺達が魔族だと気づいていたなら開き直っても良いけど、こっちからは絶対に隙は見せない。

 

『損害? ふむ。果たして何か被ったのかね? 勇者サマは死ぬでもなく魔界を満喫してお前の元に戻ってきたようだが?』

 

 身体の芯をヒヤッとした何かが駆け抜ける。

 

 ……こいつ、いったいどこまで把握してんだ? 

 レイラが勇者化してから街には一度も姿を見せてないんだぞ。普通の状態に治って帰ってきたのなんてつい数日前だ。

 つまり、このメルスクの街からでは、レイラが勇者になったなんて情報を得られるはずがないのだ。

 そうなるとクレイは魔界にも目があるって事になるんだろうか。

 

 スパイ。協力者。裏切り者。色々な憶測が頭の中を交差する。これはかなり厄介だな。

 一応勇者に関して聞かれた時の返事は用意してたけど、返答内容をちょっと変えよう。

 

「へー……流石情報通と豪語するだけはあるな。ああそうだよ。本人曰く撃退されたらしい。魔界で何があったかは言いたくないそうなんでちゃんとは聞いてない。あと、損害ってのは臨時休業で閉めてた分の事だ」

 

 魔界でも魔王軍関係者のトップはレイラが味方になった事を知ってるが、それ以外の下級兵士や一般人は撃退したという認識をしているはずだ。

 だからもし魔族の一般人の中にスパイがいて、クレイに情報を伝えていたとしても、今の俺の返事はおかしいと思わない。

 

 まぁ、もし魔王軍の幹部連中に裏切り者がいたらもう何も信じられないしおしまいだけど。いや、待てよ。だったらそれをこいつから引き出せば良いんだ。

 

「なぁクレイ。逆に聞きたいんだがな。魔界では一体何が起こったんだ? なんで勇者が無傷で人間界に戻ってこれた? 別に魔王が死んだって訳でもないみたいだし、知ってるんだったら教えてくれよ」

 

 もし俺達が魔族である事をクレイが知っていたらとんだお笑いだが、あくまで人間として興味がありますよ、という(てい)で聞く。少し間があって、クレイは答えた。

 

『……それはまずお前が勇者サマに聞くべきことではないかね?』

 

「……それもそうだな」

 

 うーん、躱されたか。いやしかしこの反応、クレイは俺達が魔族だとはやっぱり知らないんじゃないだろうか。俺の取り越し苦労? 

 まぁだからって放置はできない。どっちにしろこいつを見つけ出してどうにかしなきゃならないのは一緒だ。どう転んでもあんまりやる事は変わらない。

 

 もうこれ以上突っ込まれても嫌なので、クレイの攻勢が弱まった所ですぐに切り出す。

 

「そろそろ帰らせてもらおうと思うが、最後に一つだけ」

 

 ちょっと忘れかけていたけど、俺は用意していた望み薄の第二の作戦を発動した。

 

「俺からお前に連絡を取りたい場合はどうすればいいんだ」

 

 要するに、なんらかの連絡手段が無いと困る、だから寄越せ! という事だ。

 連絡手段が有ればそれを利用して上手いことクレイにたどり着けるかもしれないと思ったのだ。だがクレイは動じるでもなく答えた。

 

『ここに来たまえ。来ればいつでも相手をしてやろう』

 

「いつでも? 真夜中でもか?」

 

『必要ならば』

 

「……ああそうか。助かるよ」

 

 何だこいつ、暇か? いや、本人がずっと見張ってるわけじゃなくて部下とかに見張らせるんだろうけど。

 しかし、クレイが見てない隙にこの廃屋をこっそり調べようかと思ってたのに、ずっと見張られてるならそれも出来ない。これでこっちから何か調べるのはこれで殆ど不可能になった。

 

『ああ、帰るのならその書類は持って帰ってくれたまえよ。置いていかれても困るからね』

 

「……」

 

 俺はバシッと引ったくるようにテーブルから書類を取ると無言でその廃屋を後にした。

 

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