魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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暴風カナリス

 

「グレゴリー様も王都に一度は行かれますよね?」

 

 ステイシアが王都に二店舗目を構える件で俺にそんな事を聞いてきた。

 

「うん、まぁ流石に自分の目で確認したいからね」

 

「そうですよね。私も、もうほとんどこっちでやれる事は終わったのでそろそろ王都に下見に行きたいなと思ってまして」

 

「そしたら王都に行く日程も決めなきゃいけないな」

 

 辺境のメルスクから王都へはかなり遠い。徒歩だと3週間近く掛かる。

 街と街を繋ぐ乗合馬車があるからそれを上手く使えばもう少し早く王都に行く事は出来るけど、定期的にいつも出てるわけじゃないから途中の区間が安定しない。

 最速は自分で馬を買って乗っていく方法だろうけど、俺は馬なんて乗れないのでそれは却下。

 

 もっとマシな交通機関がありゃあ良いんだけどなぁ。魔法で動く機関車みたいな物は無いものか。

 まぁそれは置いといて、実際いつ行くかだ。

 

「なるべく早く行きたいとは思ってるんだけど、カナリスさんがもうすぐ来るからどうしたもんかなって」

 

「あぁ、そうでしたね」

 

 あの人をこの街に置いて王都に行くのはかなり不安だ。というかそもそもカナリスさんが素直に待ってるビジョンが見えない。絶対 “私も参りますわ” って言うに決まってる。

 

「なら、カナリスさんが来る前に先に出発してしまえばいいのではないですか? 居留守じゃありませんけど」

 

 普通ならそう思うところなんだろうが、そう上手くいかないのがカナリスさんなのだ。

 

「ここに来て俺が居ないって知ったら、あの人の事だから追っかけて来る気がする。もしくは俺不在のメルスクで好き勝手やるか。そうなったらどんな結果が生まれるか俺には想像もつかないよ」

 

 俺が苦々しい顔をしてそう言うと、ステイシアは眉間に皺を寄せた。そしてふと思ったのか控えめに伝えてくる。

 

「あの……その方は本当に味方なんですか?」

 

 確かに。言われてみれば敵に対処するとき並みに頭を使っている気がする。あれ? そう考えたらあの人ってマジで味方じゃ無いんじゃね?

 

「うーん、味方の筈なんだけどなぁ……ま、そんなわけで王都に行くのはしばらくは様子見かな? もしくは俺を置いて先に行って貰うってのもありかもしれない」

 

「はぁ、そうですか」

 

 口では様子見だなんだと言ったけれど、カナリスさんがやって来たら、なし崩し的にずっと居座ることになるような気がする。というか多分そうなると思う。そうなったらもう王都に一緒に行く事を想定しといた方がいいかもな。はぁ、先が思いやられる……。

 

 

 ───

 

 

 そうこうしているうちにとうとうその日がやってきた。

 ある日の午後、突然懐の魔王シアター改が震えて誰かが呼び出していることを告げた。俺はいつも通り魔王様だろうと思って電話に出る。

 

「はい、もしもし?」

 

『聞こえるかしら、カナリスよ。これはグレゴリーさんで合っているのかしら?』

 

 うげ、とうとう来たか……。

 

「えーと、多分間違ってるんじゃないですかね」

 

『あら、やっぱりその声グレゴリーさんじゃありませんの。(わたくし)、今街の入り口の前に居るのですけれど、あなた迎えに来てくださる?』

 

「どっちの入り口ですか? 北? 南?」

 

『魔界から来たのだから北に決まっているじゃありませんの。変な事をお聞きになりますわね?』

 

 いやいや、俺達がこの街に初めて来た時は怪しまれないようにわざわざ遠回りして南門から入ったんだぞ。そういうとこ全然気にしてなさそうなんだよなぁこの人。

 

「はいはい、分かりました北門ですね。今から向かいます」

 

 俺はステイシアにお茶の用意だけしておいて欲しいと頼んで、一人北門に向かった。

 行ったらすぐに分かった。勿論カナリスさんは変身の技を使っているからいつもと姿は違うのだが、カナリスさん自慢の金色の長髪はそのままだった。そこを変える気は無いのかもしれない。

 

「どーも。お久しぶりですね、カナリスさん」

 

「あなたどちら様?」

 

 分かんないよねー。カナリスさんと違ってオーラ無いからねー。

 

「グレゴリーですよ……さっき行くって伝えたでしょう」

 

「冗談ですわ。その覇気の無いところは相変わらずですわね」

 

 変身していてもって事なのか、それとも前会った時からって事なのか、はたまた両方なのかは分からない。とにかく俺はため息一つついて踵を返した。

 

「覇気なんか無くて結構ですよ。とにかく案内しますからついて来てください」

 

 歩き出した俺に、一応素直についてくるカナリスさんだったがこのお嬢様、周りをキョロキョロしすぎである。

 

「あら、神聖セリアの教会がありますわね。滅びてしまえばよろしいのに」

 

「あんまり街中でそういう事言わないでくださいよ。誰が聞いてるか分かりませんから」

 

 デリウスの南東の国家である神聖セリア王国。この国は宗教国家で、布教のためにデリウスにやって来てあちこちに教会を建てているのだ。そしてそのうちの一つがここメルスクにも存在していた。

 

「忌々しい。アレが居なければ先の大戦もあそこまで酷くはならなかった筈ですわ」

 

 もはや人間ですらなく、物扱いである。

 

「後で聞きますから。今はおとなしくついて来てください」

 

 まぁカナリスさんが教会を嫌うのもよく分かるのだ。というか俺だって嫌いだし。

 何が嫌ってこの宗教、教義が酷いのだ。ざっくり言うと、人間こそが神によって選ばれた種族であるから魔法が使える。だからこそ、その魔法で世界を平定しなさい、というイカれた教え。

 

 この宗教が無ければあの人魔大戦ももう少し早く停戦に持ち込めていたはずだ、という結論が出ている。だから、この事を知っている魔族はみんなセリア教を蛇蝎のごとく嫌っていた。

 

「ここです。着きましたよ」

 

「意外と大きいですわね」

 

「そりゃあ頑張りましたからね」

 

(わたくし)を除け者にして楽しくやっていたということかしら?」

 

「いえいえ。たまたまカナリスさんにお伝えする機会が無かっただけです」

 

 扉を開けて入ると社宅の中は妙な空気に包まれていた。みんな共有スペースから退散して各自の部屋に戻ったかのかもしれない。

 多分ステイシアが他の連中にカナリスさんが来る事を伝えた結果なんだろうが、いつもと違うせいでこっちも変に緊張してくる。

 

「荷物を運んでくれるボーイはおりませんの?」

 

「ここはしがない安宿ですから。全てセルフになっております」

 

 これが冗談なのは、そこそこ長い付き合いなので分かる。しかも分かった上で上手く返さなきゃいけない。カナリスさんの冗談を適当に流したり無視したりすると、途端に機嫌が悪くなるから大変なのだ。

 

 俺の返答に少しだけ気を良くしたカナリスさんは、奥の共有スペースにソファを見つけてそこに優雅に座った。初めて来たようには全く見えないのがこの人の凄いところだ。

 

「お茶を頂けるかしら?」

 

「お待たせしました。紅茶をお持ちいたしました」

 

 うおっ! びっくりした。俺がステイシアを呼ぼうと思ったら、ちょうど見計らっていたのか、ステイシアが紅茶を持ってスッと奥から出てきた。

 

「こちらレジアのサレスティーです。カナリス様のお口に合えば良いのですが」

 

「ありがとう、いただくわ」

 

 俺がびっくりしてるのを他所に、カナリスさんは顔色ひとつ変えずにステイシアが持ってきた紅茶を啜った。持ってくる方も持ってくる方だけど貰う方も貰う方だわ、俺には到底ついていけねえよ。もう俺黙ってようかな。

 

「あなた、お名前は?」

 

「ステイシアと申します。今はグレゴリー様の秘書をやらせて頂いています」

 

「ふーん……という事は当然(わたくし)達が人間ではない事も知っておりますわね?」

 

「はい。存じております」

 

 ちょ! 黙ってようかと思ったけど流石にこれはひとこと言っとかなくては。

 

「カナリスさん! もし彼女がその事実を知らなかったらどうするつもりだったんですか!」

 

 俺が少し声を荒げると、カナリスさんは涼しい顔でもう一度紅茶を啜った。

 

「何を仰るかと思えばグレゴリーさん……ズボラな貴方がこの方を側につけて気付かれない筈がないではありませんの」

 

 ぐぬぬ……実際にソッコーでバレた身としては一ミリも反論ができねぇ。縋る思いでステイシアを見たら申し訳なさそうに目を逸らされた。悲しい。

 めざといカナリスさんはそれを見て全て察したようで、目を細めてフッと笑った。

 

「どうやら本当に()()ようですわね。その少し抜けているところも相変わらずですのね?」

 

「ええまぁ、お陰様で相変わらず元気にやらせて貰っていますよ」

 

「その分だとどうせこちらでも仕事が山積みなのでしょう?」

 

「……まぁ、はい」

 

 いや確かに仕事山積みだけどさぁ! なんだろう。このなんとも言えない懐かしい感覚は。あぁそうだ、これはオカンに叱られてる時の感覚だ。ああ、日本の家族はみんな元気かなぁ。

 

「聞いておりますの?」

 

「聞いていますよ」

 

「なら結構。あの時のように(わたくし)が貴方の仕事を進めますわ」

 

 蘇る魔王城での記憶。カナリスさんがまるでブルドーザーのごとく仕事を推し進めた結果、俺は関係各所に頭を下げて回ることになったのだ。嫌だなぁ、でもこうなったらもうカナリスさんからは逃げられない。

 どうせこうなると思ってたんだよ。だからこれは想定内、完璧に予想通りだ。嘆かわしいのは回避不可能という点だろうか。とにかくこうなった以上、予定していた通りカナリスさんには王都についてきてもらおう。

 

「……実は一つ、先延ばしになっている案件があります」

 

「よろしい。聞かせなさい」

 

 俺は王都に二店舗目をオープンする件で、現状どうなっているかとか、この先どうする予定であったかなどを話して聞かせた。

 

「──という事で、王都に行く予定だったのですが、カナリスさんを放っておくわけにもいかず、やむなく延期をするつもりでした」

 

「なるほど。大まかには理解しましたわ」

 

 そしてカナリスさんは紅茶の残りをグイッと呷るととんでもない事を言い放った。

 

「1週間で王都に行く支度をなさい。その間(わたくし)も自分の準備を進めておきますわ」

 

 ほーら始まった。1週間後に王都に行くつもりだよこのお嬢様。まだこの街どころか人間界の事もロクに知らないってのに。

 

「カナリスさん。まだここでの生活に慣れていないでしょう? どこかでボロを出さないか心配ですよ。せめてもう少し時間をかけましょう」

 

「1週間もあれば充分ですわ。だいたい貴方がそれを言うのはおかしいのではなくて?」

 

 チラッとステイシアの方に目線を送るカナリスさん。はい、もう仰る通りでございます……。

 

「もしもそんなに心配ならばステイシアを貸してくださらない? 分からなければ彼女に聞きますわ」

 

 む。まぁステイシアなら安心か。よく気がつくしね。ただ、そのまま永久に貸し続けることになりそうなのが怖いところだ。

 

「ステイシア。頼めるかな?」

 

「分かりました。どうぞよろしくお願いいたします。カナリス様」

 

 そんなこんなで1週間後に王都に行くのが決定してしまった。これから殺人的に忙しくなりそうだ……。

 




8章終わり
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