魔王の部下も楽じゃねえ!   作:普通のオイル

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一時的な解決

 

 サリアスさん強すぎじゃね? ちょっと四天王って存在を舐めてたわ。いや、決して軽く見てた訳じゃないんだけど実際目にするのと話を聞くんじゃ全然違うなって。

 

 一部始終を見ていた俺の感想はまあそんなところです。

 

 で、一部始終を見ていたのは俺の隣にいたレイラもである。

 

 大丈夫かなこの子? まだ小さいのにこんなもの見ちゃってショックを受けてやしないだろうか?

 

「……っ」

 

 ああやっぱりショックよね。なんてったって15人分の死体だもの。離れてても強烈だよな。

 

 この世界は人の命が軽いから冒険者なら死体くらい見たことはあるかもしれないけど、いきなりこんな殺戮劇見せられたら流石に衝撃が強すぎるか。はぁ……悪いことしたな。トラウマとか大丈夫だろか?

 

 まあそれはおいおい考えるとして、危険は去ったし後は街に向かうだけだ。俺は隠れていた場所から出ていって、サリアスさんの元へ向かう。

 

「お疲れ様、サリアスさん。怪我とか無い?」

 

「ええ私は大丈夫です。このリーダーの男だけ生かしておいたんですが……毒を飲んで自害したようです……」

 

 なんか喋ってんなとは思ってたけどそういう事か。

 

「……何も死ぬ事はないのにな」

 

「彼は家族を人質に取られて無理やり従わされていたようです。死ぬ間際にそんな事を言っていました」

 

「……そいつは胸糞悪い話だな。自分の部下を道具みたいに扱う奴がこの世で一番嫌いだよ俺は」

 

「ふふ、グレゴリー様の下で働ける我々は本当に幸せですね」

 

 なんだなんだ、急に褒められると照れるぞ。

 

「……まあこれからも部下は大切にするよ」

 

 なんか知らんけど好感度が上がった気がする。あんま褒められるとサリアスさんにいろいろ貢いじゃいそうだ。ま、それは冗談としても今回の働きにはちゃんと報いなきゃいけないな。

 

 

 ーーー

 

 

 俺達が街に近づく頃にはすっかり雨も上がって晴れ間がのぞいていた。

 

 馬車の中で窮屈そうにしている村人達には、魔族に襲われたのではなく人間に襲われたのだと言って回るように既に言い聞かせてある。

 

 この情報を更に拡散するにはどうするのが一番良いか。実はもう考えてある。あとは拡散してくれる人物との交渉が上手く行くかどうかだけだ。

 

「もうすぐ街に入りますけどどうしますか?」

 

「ああ、そのまま例の農夫がいる宿まで向かってくれる?」

 

 村人達をあの集落の生き残りの老人に直接引き合わせる。下手に軍やら衛兵を介すと公にされないかもしれないからな。まぁ俺の読みが当たっていればそれは無いけど念のためだ。

 

「じゃあサリアスさん、彼らの感動の再会がひと段落ついたら街の中央広場まで連れてきて。あ、俺はここで降りるよ」

 

 俺は返事も待たずに馬車から飛び降りる。予め説明しといたし、サリアスさんなら頃合いを見計らって実行してくれるだろう。

 

 さてとここからすぐの所にいつも居ると言っていたが、今日は居るだろうか?

 

 裏路地を抜けて目的の場所まで向かう。角を曲がったところにちょうど目的の人物は居た。

 

「やあやあ。テリー、そのお仲間さん達も。2週間ぶりくらいかな?」

 

「おや? 誰かと思えばグレゴリーさんじゃないか」

 

 俺が会いに来たのはこのテリーという少年だ。テリーはこの街のスラム街に住む孤児達のリーダーでかなりの情報通。そしてこの前、盗賊共の馬車を見つけるのにも一役買ってくれた。

 

「また仕事の話なんだけどやる?」

 

「どうだろ? 内容によるかな」

 

「君にとってはそんなに難しくないと思うよ」

 

 俺はざっとやってもらいたい事を説明した。

 

 果ての集落の拐われた村人達が生還した事。更に魔族じゃなくて魔族の振りをした人間に拐われていたらしい事。そして中央広場で祝賀パーティが行われるという事。

 

 この3つを街中に広めて貰いたいと伝える。

 

「ふーん。まあ出来なくは無いかな? 幾ら出す?」

 

「逆に幾ら欲しい?」

 

「そうだなぁ……金貨5枚」

 

 ほう、結構吹っかけて来たぞ。そんだけあれば一月は何もしなくても食べていける。だがこれは絶対にやって貰わなければならない事なんで、()()()()()()()()()

 

「そっか。ならこれでどうかな?」

 

 俺は彼らの目の前に金貨を10枚並べて見せた。彼らのギョッとした顔がちょっと心地良い。びびったか? 俺はな、今ちょっとだけ金持ちなんだよ。なぜならサリアスさんが依頼で稼ぎまくってくれたからな! 最低だな俺!

 

「グレゴリーさん。あんた本気で言ってる?」

 

「テリー、この仕事は迅速且つ念入りにやって貰いたいんだ。期限としては今日中に、それに街の人の半分が知るくらい広めてほしい。それをやってくれるならこの金を払うよ」

 

「乗った」

 

 おう、即答か。まあ倍の金額出すって言ってるからな。当前か。

 

「じゃあよろしく頼むよ。また何かあれば頼むかもしれない」

 

 それは君たちの今回の仕事ぶりに掛かってますけどね、と暗に告げておく。これなら張り切ってやってくれるだろう。

 

 さてと。交渉は無事済んだ事だし、後はパーティの準備でもしますかね?

 

 

 ーーー

 

 

 俺が中央広場にやってきた時には、既に再会を終えた村人達も到着していた。近づくにつれ、村人達の会話が聞こえてくる。

 

「んだんだ。こーれが人間だったんだよ〜、オーガでなくて。魔族の振りしてたんだよ、オラ達もビックリだべさ!」

 

「へー、オーガじゃ無かったんだな」

 

 よしよし、約束通り広めてるな。その調子だ。

 

「あっ! グレゴリー様」

 

 サリアスさんとマゴス君が俺を見つけてタタタと走り寄ってくる。

 

「これから私達は何をすれば良いでしょうか?」

 

「そうねぇ……ここにテーブルを持ってくるからちょっと待っててくれる?」

 

「テーブルですか? 分かりました。待ってます」

 

 俺はそう言って二人を待機させると近くにあった手頃な店に入る。やる事は簡単だ。金を叩きつけて店の食い物をあるだけ持ってこいと言うだけ。ついでにテラス席用のテーブルも借りてくる。結構重いことに気づいて、やっぱり二人にも来てもらえば良かったと反省する。

 

「手伝うわよ」

 

 そう後悔しながらテーブルを運ぼうとしていると、後ろから声がかかる。振り返るとあのちっこい彼女がいた。

 

「おお! ちっこいの!」

 

「レイラよ! レ・イ・ラ! あんた殴られたいの!?」

 

 おっと。心の中で呼んでたらついつい口からも出てしまった。

 

「悪い悪い。手伝ってくれるならぜひお願いしようかな」

 

 俺がお願いするとレイラは頷いてテーブルを持ち上げる。そして少しこちらを伺いながらこの小さい彼女は驚く事を聞いてきた。

 

「あなた、魔族を助けたいの?」

 

 !? うおい、まてまてまて。どこらへんを見てそう思ったんだ。普通は戦争を回避するためにやってるって思うだろ……じゃなくて落ち着け俺、動揺するな。

 

「ん? なんでそう思ったか知らんけど俺は戦争を止めたいだけだよ」

 

「ふーん、その割には随分と魔族の仕業じゃないって事を強調するなって思って」

 

 ぎくり。

 

「そりゃあそう強調しないと戦争になるからだよ。他意はない」

 

 嘘です。他意ありまくりです。めっちゃ魔族のこと大事に思ってます。

 

「ふーん。まあ別にどうでもいいわ」

 

 危ねえ。なんとかやり過ごしたけど焦るわ。それにしてもそんなに魔族に入れ込んでるように見えたかね? だったら改めないとまずいな。まぁこういう状況はそんな頻繁には来ないだろうから気にしなくても良いとは思うけど。

 

 広場に近づくと、テーブルを運ぶ俺達に気づいたサリアスさんが走り寄ってくる。

 

「グレゴリー様! それにレイラさんも。言ってくだされば私がお手伝いしましたのに」

 

「俺もそう思った。だから次はついてきてよ」

 

「次ですか? またどこかに行くんですか?」

 

「そう。また別の店に行くからさ。ところでマゴス君は?」

 

「彼は今、噂を聞きつけて集まってきた人達の対応をしています」

 

「ああそう? ならいいや。俺達だけで行こう」

 

 早速テリー達が噂を広めてる効果が出てきたかな? こりゃ急がなきゃな。

 

 俺達はその後三軒の店を順番に回って行って、最初の店でやった事と同じ事を繰り返した。違いがあるとすればサリアスさんがテーブルを持ってくれた事くらい。後は広場に戻って料理が運ばれてくるのを待つだけだ。

 

 広場に戻るとマゴス君が泡を食った様子で俺の元に駆け寄ってきた。

 

「グ、グレゴリー様! なんか軍の関係者までお見えになってるんですが! 僕は一体どうすればいいでしょうか!」

 

 早いな、もう来たのか。予定ではもう少しかかるかと思ってたけど来たんなら説明するしかない。

 

 そう思って向こうのほうを見ると立派な制服を着た軍関係者が既に拐われた村人達から直接話を聞いていた。初めは半信半疑だった軍人達だが、村人と話をしているうちに段々と険しい表情になっていく。

 

「中将殿……これは……」

 

「うむ。分かっとる。君、大至急本部へ行って事と次第を説明してきなさい。私も後から行く」

 

「は。承知しました」

 

 おっと。これは説明しなくてもいい感じかな? 村人達が忠実に言われた事を実行してくれたんで助かった。

 

 そしてこれでもう一つ分かった事がある。今回の事件の主犯であるクレイはやはり()()()()()()()()()()()という事だ。

 

 軍人が戦争をしたがっていて、クレイと結託している、あるいはクレイ自身が軍内部の人間ならば、噂を聞きつけてのこのこやって来たりはしない。何故ならなるべく長い時間魔族のせいにしておきたいからだ。という事は一応俺の読みは当たっていたという事だな。

 

「はぁ……無駄な出費になったな」

 

 このパーティーで村人が生還した事を大々的に広める事は保険のつもりであったので、軍が報復行動に出ないと決めたなら、恐らく決めるだろうけど、もうあまり開催する意味は無い。

 

「良かったんですよ、これで。お金ならまた私が稼ぎますから」

 

 そう言ってサリアスさんが俺を慰めてくれる。善意で言ってくれているんだろうが、俺のヒモっぷりとクズっぷりが際立つので素直にありがとうとも言いづらい。だってサリアスさんが稼いだお金、今日で半分くらい使っちゃたんだもの。

 

「ほんとに申し訳ない」

 

「どうせなら楽しまなきゃ損ですよ。私達も行きましょう?」

 

 そうだな、せっかくだし俺も楽しむか……そう思いながら俺はパーティー会場となった中央広場に向かってみんなと一緒に歩いて行った。

 

 魔王城に来ていた人間の使者は、集落壊滅の件はこちらの不手際であったと謝罪して帰って行った。そんな連絡が魔王様によってもたらされたのはその日の夜の事だった。

 

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