「入れて」
「駄目だ」
「入れて」
「駄目だ」
「入れて」
「駄目だ」
アリエス宮、ルルーシュの部屋の前では激しい攻防戦が繰り広げられていた。
だが、ドアの守り手はナイト・オブ・ラウンズの第1席を担う男。ビスマルクの防御は鉄壁だった。
アーニャが左へ行けば、ビスマルクも左へ行き、アーニャが右へ行けば、ビスマルクも右へ行き、アーニャの侵入を一歩たりとも許さない。
「うーーー……。」
この攻防を繰り返して、既に約30分。苛立ちを隠しきれず、唇を尖らして唸るアーニャ。
余談だが、アーニャはルルーシュ覚醒の報をマリアンヌへ伝えた後、シャルルが急遽来訪すると聞き、寝間着から普段着のメイド服に着替えている。
但し、それはシャルルへ気を使ったからではなく、アーニャ的にルルーシュ以外の者へ下着同然の姿を見られるのが嫌だったからである。
「駄目なものは駄目だ。
……と言うか、もう寝ろ。どうしてもと言うのなら、陛下達のお話が終わったら起こしてやる」
歴戦の戦士であるビスマルクにとって、アーニャの威嚇など、子猫がじゃれついてきている様なもの。ドアを背にして、両手を腰で結びながら足を肩幅に開き、その愛想の無いむすっとした顔を微動だにさせない。
ちなみに、シャルルの来訪は言うまでもなく、極秘中の極秘である。その為、アリアス宮は普段と変わらず、夜間灯のみが点けられている状態。アッシュフォードから派遣されている老夫婦の使用人達も、この事実を知らず、既に就寝している。
「お願い……。入れて?」
アーニャはこうなったらと作戦を変更。
ビスマルクへ一歩前進。間近から上目遣いを向けて、胸の前で両手を組むと、首を小さくちょこんと傾げた。
「だ、駄目だ!
……と言うか、何処で憶えた! そんな媚び方!」
このアーニャの攻撃によって、初めて鉄壁の防御にヒビが入る。
ビスマルクは動揺に思わず仰け反り、後頭部を間抜けに背後のドアへぶつけるが、やはりラウンズの第1席を担う男は不屈。すぐさま立ち直る。
「こうすれば、大抵の男の人はイチコロだって……。マリアンヌ様が」
「マリアンヌ様! 貴女という人は!」
「他にもある。確か、こうやって……。」
「や、止めろ! そ、それはルルーシュ殿下の時の為に取っておけ!」
しかし、アーニャの背後に隠れて、ほくそ笑む軍師は強大だった。
アーニャがエプロンドレスのスカートの裾をたくし上げて、それを口へくわえようとしているのを見て、ビスマルクはビックリ仰天。目をギョギョギョッと見開き、慌ててアーニャの両手を同時に叩き、そのままスカートも叩いて下ろす。
それこそ、驚愕のあまり、見開く目が右眼だけでは足らず、左眼の封印が危うく解きかけたほど。
もっとも、アーニャがルルーシュ以外の者へ下着を見せる筈もなく、たくし上げたのはスカートのみ。その下のペチコートまでは上げていない。
「じゃあ、入れて」
「だ、駄目だ!」
そして、再び繰り返される激しい攻防戦。それはアーニャが疲れ果て、廊下に寝てしまうまで続いた。
******
「では、こう言うのか?
お前はその『ゼロレクイエム』とやらで一度は死んだ。
しかし、その後……。ナナリーの願いによって、生を再び得たと?」
ルルーシュの覚醒。それはブリタニア皇帝たるシャルルにとって、待ちに待った日だった。
その報が伝えられると、シャルルは既に就寝中だったが、すぐさま跳び起きて、その報を持ってきたビスマルクと共にアリエス宮を秘密裏に訪れた。
「そうだ。あの時、俺は確かにナナリーの声を聞いた。『生きてくれ』と……。
無論、それだけが原因ではない。
だが、それこそが俺を大きく突き動かしたモノに違いない。
そして、そのモノとはお前達も良く知っているR因子、俺とナナリーの中に有るソレこそが原因だ」
「ぬうっ……。」
そして、ルルーシュとの対面。約1時間に渡って語られたルルーシュの話はとても信じられないものだった。
しかし、それを嘘の一言で片づけるには、ルルーシュが知っている事実は多すぎた。話の主題となったギアスは勿論の事、アーカーシャの剣やラグナレクの接続、それ等全ての根元たるコードに関しても。
そうした数々の秘密を知る者は極々限られている。この帝国のNo2である宰相の座に就く第2皇子『シュナイゼル』すら知らない事実だけに馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばす事は出来なかった。
なにしろ、コード保有者が持つ不老不死、コード保有者から与えられるギアス。それ等、人智を超えた神秘の数々を知っているだけに、時を遡ると言う戯言も有るのではと考えざるを得なかった。
シャルルはリクライニングさせたベットに身体を横たえたルルーシュを茫然と見つめて、言葉を失い、ただただ唸るしか出来なかった。
「もっとも、その後は俺の願望かも知れん。
だが……。おかげで、随分と愉快な事になっている様だ」
一方、ルルーシュは気になっていた。シャルルではなく、その隣に居る母親のマリアンヌを。
マリアンヌは電動車椅子に座り、ルルーシュとシャルルの会話に口を一切挟む事なく、この約1時間ずっと黙っていた。
その閉じた目を伏せて、重ねた手を閉じた両脚の上に置き、身を怯える様に縮める姿は弱々しく、ルルーシュが知るナナリーの姿を彷彿させた。
だが、それは母親へ対する幻想を捨てたルルーシュにとって、有り得なさ過ぎる姿であった。あの強い自己主張の塊がただ黙ってじっとしている姿が信じられなかった。
それ故、一通りの話が済んだのも有り、ルルーシュは口の端をニヤリと歪めて、様子見に突いてみようと考えた。
「くっくっくっ……。母上、仏教にこんな言葉があるのをご存じですか?
因果応報……。人は良い行いをすれば、良い報いが有り、悪い行いをすれば、悪い報いが有ると言う意味です」
「っ!? うううっ……。」
「マ、マリアンヌっ!? ああああ……。
ルルーシュ、貴様っ!? 自分の母親へ向かってっ!?」
効果は覿面だった。マリアンヌは向けられたルルーシュの悪意に身体をビクッと震わせると、顔を両手で覆い隠しながら嗚咽し始めた。
しかも、その様子を見て、すぐさまシャルルはマリアンヌを慰めようと手を伸ばすが、また拒絶されたらという思いから、強い躊躇いが起こり、手を引っ込めたり、伸ばしたりを繰り返して、無様にオロオロと焦りまくり。
挙げ句の果て、マリアンヌへ触れられない苛立ちをルルーシュへと転嫁して怒鳴り声を轟かせた。
「黙れ! お前達が自分で蒔いた種ではないか!
正しく、因果応報だ! 本当の事を言って、何が悪い!
そもそも、お前達に親たる資格は無い!
どうせ、お前達の事だ! この世界でも、ナナリーを捨てたのだろう!」
「ぐっ……。そ、それは……。」
元々、あまり知らない両親ではあるが、もっと知らない両親が目の前に居り、思わず茫然と目が点になるルルーシュ。
しかし、その手に世界を一度は握った男。頭の切り替えは早く、勝負所も心得ていた。唾を飛ばして怒鳴りまくり、ここぞと糾弾する。
前回、Cの世界にて、両親と再会した時、全て語るには時間が足りず、言い切れなかった心の内をぶちまける。
「それは守る為……。そう言いたいのか?
なら、滑稽だよ。シャルル・ジ・ブリタニア!
日頃、お前は弱肉強食を唱えていながら、誰よりも弱い! 貴様など、張りぼての帝位にしがみつく、裸の王様だよ!」
「な゛っ!? この儂までもっ!?」
「お前が真の強者と言うなら、何故にナナリーを手放した!
真の強者なら、どうして、自分の手で護ってやらない! 他者へ委ねた時点でお前は只の臆病者だよ!
そもそも、自分の兄一人を御し得ず、妻一人を護れない男の何を以て、強者と言うんだ! 片腹、痛いわ!」
「黙って聞いていれば、戯れ言をペラペラとっ!?
この小僧がっ!? つけ上がるなよ! お前のコードなど、いつでも奪えるのだ!」
「止めて! あなた!」
ルルーシュが毒を一つ吐く度、シャルルは憤りの度合いを上げてゆき、遂に怒髪天。
その両眼に赤い紋章を輝かせながら憤怒の表情となり、ルルーシュが持つコードを奪わんと、開いた右手を思いっ切り振りかぶって、ルルーシュの顔面へと勢い良く振り下ろした。
ところが、その迫り来る右掌へ対して、ルルーシュは避けるどころか、それを平然と待ち構えていた。
「……何故、避けない?」
そして、正に寸前。コンマ1秒でも脳内伝達が遅れていたら、確実に当たっていたと言う紙一重の距離でシャルルの右手は止まった。
シャルルが表情に困惑を浮かべる。己が放った殺気は本気のもの。その証拠にマリアンヌがシャルルの突然の行動に驚愕しながらも、慌ててシャルルのマントを掴んで止めようとしていた。
確かに戦いの場から退いて久しいとは言え、歴戦のマリアンヌすら騙した殺気。それにも関わらず、ルルーシュは身構えたり、目を瞑ったりといった人間の防衛反射行動さえも行わなかった。
つまり、それはシャルルが必ず止めると絶対の自信を持っていなければ、不可能な覚悟。その理由が知りたかった。
「忘れたのか? 動けないんだよ。
……と言うか、それ以前に避ける必要が無いからな」
「どういう意味だ?」
一拍の間の後、シャルルが右手を引くと、そこにあったのは予想通り、ルルーシュの勝ち誇った笑顔だった。
余談だが、ルルーシュが指先一つすら動かせず、ベットから起きあがれないのは至って単純な理由。
アーニャの献身的介護があり、コードを保有しているからこそ、身体が健康体へ戻ろうとして、ルルーシュは一見すると健常者に見えるが、約10年間を眠り続けていた事実は変わらない。
その為、意識は覚醒したが、身体中を走る動作神経はまだ覚醒しておらず、それ等を起こすリハビリを必要としていた。
「コードを奪うつもりなら、俺が起きるのを待つまでもなく、とっくにやっていた筈だ。
しかし、お前には出来ない。
どうしてかと言えば、今の俺は弱者だからだ。指一本すら満足に動かせないほどのな。
だから、お前には出来ない。
何故なら、それがお前の矜持だからだ。
そう、お前が事ある毎に言っている『弱肉強食』だよ。
一見、弱肉強食であるからこそ、奪うべきだと考える者が多いだろうが……。それは誤りだ。
お前の価値観から見たら、何も出来ない弱者から奪う事こそ、弱者がやる事。只のこそ泥だ。
なら、お前が提言する弱肉強食とは似て非なるもの。常に強者たらんとするお前には絶対に出来ないんだよ!」
ただただ、シャルルは驚くしかなった。
日頃から、シャルルは国是として『弱肉強食』を唱えてはいるが、その真意を理解している者は少ない。
シャルルが知る限り、それは片手で足りるほどしか居らず、皇帝を支えるはずの貴族ですら、最も期待していた第2皇子のシュナイゼルですら、思い違いをしている。
そんな日常に嫌気が差して、ここ数年は政治へ対する興味をすっかりと失い、一日でも早く嘘の無い世界を作ろうと、計画に、ラグナレクの接続に傾倒していた。
しかし、自分を理解する者がもう1人、目の前に居た。
この約1時間の話を聞く限り、どう考えても、自分を憎んでいるとしか考えられないのにも関わらず、自分という人間を知っている事実。それはシャルルにとって、驚きであり、喜びだった。
「一つ、聞きたい」
「何だ?」
「アーカーシャの剣が半年ほど前に成長を止めた。何か、心当たりは有るか?」
「ああ……アレか。だろうな。
丁度、その頃だ。ソレを壊したのは……。俺がこの世界の住人となった影響だろう」
先ほどの憤りは何処へやら、たちまち表情から険を解いてゆくシャルル。
そんなシャルルを不審に思いながら、ルルーシュが質問に応えると、シャルルは『やはりな』と呟き頷いて、マリアンヌへ振り返った。
「マリアンヌ……。儂等の負けだ」
「……あなた」
もし、ここで目が見えていたら、さぞやマリアンヌは驚いた事だろう。
何故ならば、シャルルは自身の敗北を宣言しながらも笑っていた。清々しいほどの満面の笑顔だった。
無論、シャルルとしても、まだ納得がいかない部分は多々あったが、計画の要が破綻しているのでは負けを認めるしかなかった。
例え、唯一の逆転方法であるコードをルルーシュから奪ったとしても、それは正にルルーシュが言う通り、己を否定する事に繋がり、それもまた敗北であった。
「ルルーシュよ……。お前は何を望む?」
「愚問だな。そんなモノ、決まっている。
この今一度の生はナナリーがくれたもの。
だったら、俺が望むのは、ナナリーが求めた優しい世界。
そう、きっと他人が他人へ優しくなれる世界だ。お前達が望んだ自分にだけ優しい世界とは正反対のな」
「そうか。ならば……。」
それ故、シャルルは自分自身が定めた国是に則り、ルルーシュへ帝位を譲り渡す決心をした。
もう一度、信じてみようかという気持ちになった。嘗ての己が憧れた父と母が目指した世界を。ルルーシュが言う優しい世界を。
自分に打ち勝ったルルーシュなら、それをやり遂げるだろうという確信もあり、その世界が見たくなった。
「待て……。勘違いするなよ?
だからと言って、俺はお前から何かを譲って貰うつもりは毛頭無い。
お前とて、自分の半生を賭けて行ってきたモノをいきなり横取りされては面白くあるまい?」
だが、ルルーシュが慌てて待ったをかける。
ルルーシュは驚くというよりも焦った。振り向き戻ったシャルルの顔が急に老け込み、まるで実年齢以上の老人の様だった為に。
また、ルルーシュはこの様な弱々しい姿のシャルルを見たくは無かった。ルルーシュにとって、シャルルは不倶戴天の敵ではあるが、敵であるからこそ、常に不遜でなければならなかった。
「……どういう意味だ?」
「また奪ってやると言っているんだよ」
「ほうっ!?」
シャルルは眉を怪訝に顰めるが、ルルーシュの『奪ってやる』と言う言葉に反応して、眉を跳ねさせると、その表情を輝かせた。
心がワクワクと沸き立って、口が自然と笑みを描き、ルルーシュの願い通り、覇気を漲らせて取り戻してゆく。
「所詮、俺が話したモノはあくまで俺の世界での話。この世界とは関係のないものだ。
第一、お前が納得したところで他の者は納得しない。それに値するだけの事をお前はやってきたのだからな。
必ずや、シュナイゼルが国を割る。俺の世界でも、そうだった様に自分は後ろへ隠れて、オデュッセウス兄上でも擁立してな。
そうなったら、世界は今以上に大混乱だ。戦火は有りとあらゆる場所へ飛び火してゆき、やがては世界そのものが荒廃するだろう。それは俺の望むところではない」
そのルルーシュが語る未来図は一理も、二理もあり、シャルルは帝位を今渡すのは時期尚早と考え始める。
事実、シュナイゼルは大きな野心を持ってはいるが、謀略家としての一面が強すぎ、自身もそれを承知しているせいか、帝位へ就く人望と能力を持ちながら、その意思を見せていなかった。
恐らく、それは自分が没するか、病に倒れるまで続き、その後は誰かしらを帝位に就けて、シュナイゼルは裏で実権を握るだろうと、シャルルは考えていた。
しかし、ここでルルーシュが帝位へ就いたら話は変わる。ルルーシュの才気をまだ実際に見た訳ではないが、この約1時間の話を聞く限り、ルルーシュの本質もまた謀略家であるのは間違いない。正しく、『ゼロレクイエム』が良い例である。
ならば、シャナイゼルとルルーシュは明らかに相容れない。二匹の蛇が互いの尾を食らいつき、最後は頭が残るまで戦い続け、それは神聖ブリタニア帝国の破滅を意味する。
「だから、賭けをしよう」
「賭け……。だと?」
「そうだ。賭けだ。
数年の間に……。そうだな。5年……。いや、3年も有れば、十分だ。
シュナイゼルの対抗馬となるだけの声望を3年で得てやる。
その時、どんな形でも良い。改めて、勝負といこうじゃないか。
そして、俺が勝ったら、俺はお前の椅子を貰う。
その代わり、お前が勝ったら、お前へ俺のコードを譲ろう。それなら、お前も遠慮無く奪えるし、計画も再開できるのではないのか?」
ルルーシュが受けて立つかと挑戦的な眼差しと共に口に弧を描かせる。
痛快だった。シャルルは強き皇帝を演じる為、良く笑ってはいたが、ここまで心から笑ったのは、何年ぶりとなるのかが解らないほどに愉快だった。
「わぁ~~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!
実に面白い! その賭け、受けて立とうではないか!
だが、ルルーシュよ! 本当に良いのか! 儂が勝った時、今日の事を後悔しても知らんからな!」
「フフフッ……。ルルーシュったら」
「ち、違うぞっ!? ま、間違っているぞっ!?
こ、ここはだな。そ、そんな……。ほ、ほんわか気分になるところではなくてだなっ!?」
釣られて、マリアンヌも口元を右拳で隠しながらクスクスと笑い、誰も見ている者は居なかったが、それは正に家族の団欒の姿だった。
******
「……ビスマルクよ」
「何で御座いましょう」
アリエス宮へ訪れた時同様に樹と藪の生い茂った獣道を歩くシャルルとビスマルク。
ルルーシュとの会談を終えると、既に闇夜は明け始めており、獣道は往路とは違い、足下に不安を覚える事もなく、森が発する清々しさも感じられた。
「陳腐な言い草ではあるが、子とは親が無くとも育つものなのだな」
「陛下と瓜二つでしたな。特に意地っ張りなところが……。」
「ふっ……。そうだな。要らぬところばかり似おってからに」
やがて、その森を抜けると、地平線に姿を現した朝日が右手側から照らしつけ、その眩しさに思わず顔の前に手を翳して立ち止まる2人。
この地を神聖ブリタニア帝国の首都と定めた昔、土をわざわざ盛りつけて、人工の小高い丘を造り上げ、帝都を眺められる様に作られた皇居。
しかし、シャルルも、ビスマルクも、自分が、主が、皇帝の座に就いてから、今日まで常に走り続けてきた。嘘の無い世界、ただそれだけを目指して。
こうして、立ち止まり、お互いに自分の国どころか、住んでいる街すら、ゆっくりと眺める事など一度たりとも無かった。
シャルルとビスマルクの主従2人は、すぐ傍に有りながらも今日まで気付かなかった美しい光景に心を奪われ、今歩いてきた森から聞こえる鳥のさえずりに酔いしれながら佇む。
「……ビスマルクよ」
「何で御座いましょう」
どれほどの時が経ったのか、最初に再び歩き出したのはシャルルだった。
すぐさまビスマルクが後を追おうと歩き出すが、すぐに5歩ほど歩いてシャルルが立ち止まる。
「儂に『もしも』があったその時は……。頼む」
そして、背を向けたままの言葉。それは命令ではなく、願いであった。
ビスマルクは息を飲みながらも、その場へ即座に片跪き、右腕を胸の前に置いて、頭を垂れる。
「イエス、マイロード!
この一命に代えましても、必ずやルルーシュ様はお護り致します」
神聖ブリタニア帝国の皇帝へ対してではなく、若き日に理想をお互いに語り合い、忠誠を捧げた我が主へ対して。