コードギアス ナイトメア   作:やまみち

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第二章 第06話 吸血鬼の羽ばたき

 

「あっ!? もしもし、先輩?」

 

 ナイト・オブ・ラウンズ、それは一騎当千の実力を持った皇帝直属の12人の騎士。

 階級は与えられていないが、有事の際や戦場においては将官クラスの権限と皇帝以外の命令を断る権限すら持ち、臣の最高位者である宰相ですら頭ごなしの命令は決して出来ない。

 乗騎となるナイトメアフレームは特別なカスタム機。実験段階のモノや最新鋭のモノが与えられ、彼等によって蓄積されたデーターは量産機のモノへと繋がってゆく。

 その最強の剣達が集う詰め所は皇居と後宮の一角にあり、高い城壁によって、敷地をグルリと囲まれた皇居と後宮へ出入りする為には、2つの門の間にあるラウンズの詰め所前を必ず通らなければならなかった。

 

「聞きましたよ! 酷いじゃないですか!

 せっかく、私がラウンズに推薦したって言うのに!

 どうしてです! 先輩と俺のダブルオレンジなら無敵ですよ!

 どうせ、また先輩が熱をあげている……。。ええっと、何でしたっけ? ほら、アレですよ?」

 

 皇居と後宮の美観を損ねぬ様に外装が中世の石造りの城となっているラウンズ詰め所。

 その4階建ての城から突き出した2階の物見櫓。オープンテラスとなっている小さな休憩所にて、髪を逆立てた赤毛の男はコーヒーをテーブルに置いての電話中。

 彼の名前は『ルキアーノ・ブラッドリー』、その破壊と殺戮を楽しむ戦いぶりから『ブリタニアの吸血鬼』の異名で敵から恐れられているラウンズの第10席の座に就く者。

 

「うおっ!?

 何もそこまで怒らなくても……。って、切っちゃってるよ」

 

 そんな吸血鬼にも頭が上がらない先輩が存在するらしい。

 いきなり怒鳴られて驚き、慌ててルキアーノが左眼をギュッと瞑りながら左腕をピンと伸ばして、携帯電話をあてがっていた左耳から離す。

 一拍の間を置き、携帯電話を恐る恐る左耳へ戻すが、聞こえてきたのは不通音。電話は既に切られていた。

 

「はぁぁ~~~……。先輩も惜しいよな。

 あの……。ほら、何て言ったっけな。あの家……。あれ……。あれだって……。」

 

 ルキアーノは電話の相手へまだまだ言い足りなかったが、今すぐ電話をかけ直しても無駄だと長年の付き合いから知っていた。

 それ故、失敗したと言わんばかりに後頭部を右手で掻き、今日は諦めて、携帯電話を軍服の内ポケットへ入れると、コーヒーカップを手に取った。

 そして、件の先輩を怒らせる原因となった固有名詞がどうしても思い出せず、その手掛かりにアリエス宮の方角へ視線を向けたその時だった。

 

「んっ!?」

 

 ラウンズ詰め所前にある一本道。その両脇に植えられた人の背より高い垣根の切れ目に3人の少女の姿を見つける。

 いずれもニヤニヤとした笑みを漏らして、1人はバケツを両手に持ち、1人は垣根から顔をこっそりと出して、1人は腕を組んで立っていた。

 

「確か、あれは……。」

 

 ルキアーノは見覚えがある腕を組んで立っているだけの少女の名前を思い出しながら、3人組が注視している先へ視線を辿ると、3人組の方角へ歩いてくる少年と少女が居た。

 最早、垣根に隠れている3人組が何を企んでいるかは明白だった。ルキアーノは面倒なモノを見つけたと舌打ちながらも席を立ち上がる。

 何故ならば、3人組の腕を組んで立っているだけの少女は第5皇女のカリーヌ。皇族と貴族以外は人と認めない強い選民思想を持つ皇族や大貴族に良くある典型的な性格の持ち主。

 また、第5皇女という微妙な立場がそうさせているのか、目上以外は全てを見下して、特に自身より皇位継承権の低い皇子、皇女への人当たりは苛烈であり、良く騒ぎを起こして、何かと噂の絶えない人物だった。

 もっとも、普段のルキアーノだったら、文字通りの高みの見物を決め込み、そのドロリとした人間模様を愉悦して楽しむところだが、ここは残念ながらラウンズの詰め所。問題を見つけてしまった以上、それが大事となる前に止める義務があった。

 

「……ったく、あの皇女様も良くやるよ。

 だけど、これもお仕事、お仕事……。宮仕えは辛いよな」

 

 しかし、心の有り様とは行動となって如実に表れるもの。

 まずはコーヒーをゆっくりと味わい飲み干すと、ルキアーノは両手を後頭部で組みながら口笛を吹き、特に急ぐ事もなく普通に歩き出した。

 

 

 

 ******

 

 

 

「アーニャ、本当に無理をしないで良いんだぞ?」

「大丈夫。病気じゃないから」

 

 この日、アーニャは体調を崩していた。

 それを何故かと深く詮索してはならない。月に数日、健康的な女の子なら必ずそうなってしまうのだから仕方がない。

 ただ、よっぽど辛いのか、顔色を青ざめさせて、明らかに動作の一つ、一つが普段より鈍い。

 無論、ルルーシュは強く諭して、こんな時くらいは休めと命じていたが、アーニャは首を決して縦に振ろうとしなかった。

 なにしろ、アーニャは遂に念願だったルルーシュの騎士に正式就任。昨夜、アリエス宮にて、ささやかながらも客を招いての就任式を済ませており、その輝かしい記念すべき第一日目をベットで寝込んでいるなど有り得なかった。

 しかし、ソレが原因となり、アーニャは普段なら容易く気付けたものを気付けず、ルルーシュへ災難が襲った。

 

「のわっ!?」

 

 突如、垣根の合間からの放水。アーニャの一歩先を歩くルルーシュは見事にずぶ濡れ。

 アーニャは目をギョギョッと見開き、その垣根の合間へ視線をすぐさま振り向けると、勝ち誇って笑う3人の少女が居た。

 

「ぷっ!? ……あっはっはっはっはっ!?

 ねぇ、今の聞いた? 『のわっ!?』ですって! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!?」

 

 特にカリーヌは愉快で、愉快で堪らないらしく、胸を張りながら喉が奥が見えるほどの大口を開いた羽根扇で隠しての高笑い。

 だが、ルルーシュは小さく舌打ちこそしたが、帽子を左手で取り、濡れて目元にかかる邪魔な髪を右手で撫で梳き、表情は涼しいまま。

 

「ごめんなさいね? でも、この娘も悪気は無かったのよ?

 だって、そうじゃない? そんな黒ずくめの格好で居たら、ゴミと間違えても仕方ないじゃない!」

 

 それが癪に触ったのか、カリーヌがやや苛立ち、ルルーシュを怒らせようと罵倒した次の瞬間だった。

 凄まじい殺気がルルーシュの隣で爆発したかと思ったら、雲一つない晴天に反射した閃光がカリーヌの喉元を目がけて走る。

 

「止めろ!」

「止めなさい!」

 

 しかし、ルルーシュともう1人の女性の声が重なって、その凶行を止める。

 正しく、間一髪。双方にあった約5メートルの距離を瞬時にして詰め、アーニャが左腰から抜き放った2本の剣は交差を描き、カリーヌの首をハサミの様に断ちきろうと迫っていた。

 その上、いつの間に現れたのか、黒い頭巾に黒いフェイスマスク、灰色の制服を纏った者達が剣を抜き放ち、その8本の切っ先をカリーヌへ向けて、周囲を取り囲んでいた。

 余談だが、アーニャの騎士服はルルーシュが前の世界で知っているラウンズとしてのアーニャの服装とほぼ変わらない。

 違いはラウンズを象徴するモノが無くなり、胸元に描かれていた紋章が消えて、パーソナルカラーで彩られたマントを着ていない。

 そして、何と言っても違うのは黒いチューブトップ。ルルーシュが『女の子はヘソを出しては駄目だ!』と強く反対した為、黒いチューブトップがロングとなり、ヘソ出しでは無くなっている。

 これはマリアンヌとユーフェミア、ユーフェミアの母から不評だったが、ルルーシュは断固として意見を変えなかった。

 また、アーニャが持つ2本の剣は片方が以前にコーネリアから貰ったもの。もう片方はルルーシュの騎士となった記念にマリアンヌから貰ったものであり、それはマリアンヌが現役時代に使っていたものでもあった。

 

「アーニャ、剣を引け」

「でも!」

 

 まさか、まさか、こんな展開になるとは、カリーヌは考えてもいなかった。

 なにしろ、カリーヌにとって、幼い頃のルルーシュは手頃なストレス解消相手。こうした遊びは日常茶飯事であり、恐れを抱く理由など一片も有りはしなかった。

 ソレもその筈。ルルーシュの母、マリアンヌは庶民の出身であるに対して、カリーヌの母は伯爵家の出身。皇位継承順位こそ、ルルーシュがカリーヌより上だが、家格はカリーヌが断然に勝っていた。

 だから、カリーヌは勘違いをさせない為、また身の程を弁えさせてやろうと画策した。ルルーシュが幾らシャルルの寵愛を得ようが、自分の方が上なのだと解らせようとした。

 その結果、向けられたのは本気の殺気。視線を下げれば、2本の剣が自分の首を完全に捉えており、ちょっとでも前後左右の何処へ動いても、その刃が肌へ触れるのが解った。

 カリーヌは息苦しさを覚えて、顎を上げるのが精一杯。口での呼吸が出来ず、鼻で必死に息をしながら驚愕に目を見開ききって動けずにいた。

 取り巻きの貴族の少女2人に至っては殺気を向けられた瞬間に失神。その場へ崩れ落ちており、ドレスのスカートを濡らして、栄養を垣根へ現在進行形で供給中。

 

「俺は引けと言った」

「……はい」

 

 アーニャは悔しくて、悔しくて堪らなかった。ルルーシュが馬鹿にされた事は勿論だが、それ以上に自分が不覚を取った事に対して。

 即刻、カリーヌの首を落としてやりたい気分だったが、ルルーシュから命じられては剣を下ろす以外は有り得ず、涙をじんわりと瞳に溜める。

 

「お前達もだ。子猫がじゃれついてきたくらいでいちいち騒ぐな。

 今回は平和ボケしていた俺のミスに過ぎない。帝都とはこういう所だったと忘れていたな」

 

 カリーヌを取り囲む8人もまたルルーシュから命じられて悔しさに耐えた。

 彼等、彼女等は正体はギアス饗団に所属するギアスユーザーであり、同時にルルーシュが覚醒するまで行われていた非道な実験の犠牲者達でもある。

 それ故、彼等、彼女等は生き地獄から救ってくれた新たな饗主であるルルーシュへ絶対の忠誠を誓っており、ルルーシュが死ねと言ったら即座に死ねるほど。

 もっとも、ルルーシュの本音を言えば、そんな忠誠を捧げてくれるよりも、可能なら一般と変わらない普通の生活に戻って欲しかった。その方がよっぽど嬉しかった。

 その理由は言うまでもない。彼等、彼女等の存在は前の世界での義理の弟『ロロ』の存在を思い出させるからである。

 だが、幼少期から長年に渡って施された洗脳によって、一般常識と倫理観に欠けており、既に饗団を無くしての生活は不可能となっていた。

 今とて、ルルーシュが殺すなと言うから、カリーヌの殺害を止めたが、ルルーシュが何故に止めたかまでは理解していない。

 彼等、彼女等から見たら饗主のルルーシュは絶対の存在。それを虫の分際で貶したのだから殺して当然と言うのが彼等、彼女等の認識だった。

 そこでルルーシュは彼等、彼女等を年齢、性別、洗脳の深さ、能力、ギアスの強度によって振り分け、外界との繋がりを少しづつ持たせながら社会復帰を促すプログラムの一環として諜報機関を立ち上げた。

 その中でも特に優秀な能力と強力なギアスを持つ者達こそがこの8人。饗主護衛団と呼ばれるルルーシュ直轄の部隊であり、朝昼晩と常に影ながらルルーシュを護っていた。

 

「枢機卿、今の者達は?」

 

 そんな事情を知る由も無く、ルルーシュと同時にアーニャへ静止を叫んだ若い女性は驚くばかり。

 彼女が止めようとしたのはアーニャのみ。それが実際に蓋を開けたら、他に8人も居たのだから当然の疑問だった。

 しかも、その8人は現れた時がそうだった様に去る時も一瞬。今や、その姿は何処に在るのやら、気配すら完全に消えており、ルルーシュへ問う表情は自然と厳しくなった。

 

「……誰だ?」

「はっ! 申し上げ遅れました!

 ナイト・オブ・トゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーに御座います!」

 

 だが、ルルーシュが彼女へ視線を振り向けた途端、彼女は電流を受けたかの様に身体をブルッと震わせると、その場へ即座に片跪いて頭を垂れた。

 そう、その両サイドに赤いリボンを巻き付けた金髪のロングヘアーが特徴的な彼女の名前は『モニカ・クルシェフスキー』、ラウンズの第12席の座に就く者。

 本来なら、ラウンズたるモニカとルルーシュを比べたら、モニカの方が圧倒的に上位者。ルルーシュが皇族であるが故、頭を軽く下げる事はあっても、片跪いてまで頭を下げる必要は無い。

 

「お役目、ご苦労です。

 しかし、気にする必要は有りません。今のは私の手の者です」

「ですが、ここで騒ぎを起こされては……。」

 

 しかし、モニカは気付いたら片跪き、頭を垂れていた。

 それどころか、向けられたルルーシュの意識に強烈な威圧を感じ、視線を地面へ縫い付けられたかの様に上げる事が出来なくなり、モニカはラウンズの自分が気圧されている現実に戸惑うしかなかった。

 だが、ラウンズとしての義務があった。先ほどの黒い頭巾の集団が何者なのか、ここがまだ皇居であり、後宮の敷地内である以上、その詳細を知っておく必要があった。

 

「だから、気にするなと言った筈です。

 お互いの為にね。クルシェフスキー卿、貴女は何も見ていない。……そうでしょう?」

「ぎょ、御意!」

 

 ところが、ルルーシュから放たれる威圧感が更に強まり、モニカはただただ頷くしかなかった。

 そのラウンズが屈服するという前代未聞の光景を唖然と見ていた事の発端のカリーヌだったが、ルルーシュの視線が再び向けられて強がる。

 

「な、何よ!」

「さて……。」

「お、お待ち下さい! す、枢機卿!」

 

 一方、モニカは自分へ向けられていた威圧感が解かれて、胸をホッと撫で下ろし、いつの間にか強張っていた全身を弛緩させる。

 しかし、ルルーシュが放つ威圧感はますます強まり、それを浴びているであろうカリーヌの身に何かがあっては大問題となる為、モニカは慌てて顔を上げ、目の前の光景に我が目を疑った。

 

「……えっ!?」

 

 目を力一杯にギュッと瞑り、その顔の前で腕を交差させながら右足を半歩退かせて、迫り来る報復に怯えまくりのカリーヌ。

 そのカリーヌが本日着用しているレモン色のドレススカートを堂々と捲り上げて、ルルーシュは濡れた顔や衣服を拭っていた。

 当然、スカートが顔の高さまで捲り上げられているのだから、カリーヌの乙女の秘密は大暴露中。小生意気な赤い紐パンが丸見え。

 その状態にまるで気付かず、カリーヌはいつまで経っても来ない報復を怪訝に思いながらも十数秒が経ち、ふと垣根の合間を通り過ぎていった一陣の風に下半身の寒さに気付く。

 

「い、嫌ぁぁ~~~っ!?」

「おっと、失礼。だが、悪気は無かったんだ。

 こんな所にボサッと立っているからな。メイドがタオルを持ってきてくれたかと間違えたよ」

 

 慌ててカリーヌは悲鳴をあげながら捲り上がっているスカートを両手で叩き下ろして、そのまま股間を押さえながら腰を落として女の子座り。

 一拍の間の後、ルルーシュを気丈に睨み付けようとするが、その茶化した言葉とは裏腹に冷たい眼差しで見下ろされ、その眼差しから逃げる様にすぐさま顔を俯かせる。

 そして、今日は汗が滴るほどの真夏日にも関わらず、カリーヌは顔から血の気を失わせて、身体をブルブルと震わせると、ドレススカートの中を急速に生暖かく濡らしてゆく。

 

「ふっ……。アーニャ、行くぞ」

「……はい」

「気にするな。この暑さだ。すぐに乾くさ」

「……はい」

 

 ルルーシュはカリーヌへ鼻を鳴らして失笑。しょんぼりと項垂れているアーニャの肩を抱きながら立ち去る。

 3歩も歩けば、もうカリーヌへ対する興味は完全に失い、一度も振り返る事は無かった。

 

 

 

 ******

 

 

 

「くっくっくっくっくっ……。

 あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!?」

 

 ルキアーノは愉快で愉快で堪らず、後から後から湧き出てくる笑みに腹を抱えながら仰け反る。

 案の定、ルキアーノはラウンズ詰め所前で起きた出来事の現場へ間に合わなかったが、その一部始終をこの一階の窓から見物する事は出来た。

 ルルーシュがカリーヌをヘコませた方法も気に入ったが、特にルキアーノが気に入ったのはルルーシュが放ち、ランウンズのモニカすらも跪かせた威圧感だった。

 今、思い出しても肌がゾクゾクと粟立ってゆくのを感じ、ルキアーノの男性自身はギンギンにエレクト。危険な快感の波が全身を駆け巡り、たまらず身体がプルプルと震える。

 ルキアーノは面倒臭がって歩かず、真面目に走るべきだったと後悔を覚える。

 事実、モニカはルキアーノを追い越していったのだから、走っていたら十分に間に合っていたのは間違いない。

 なにせ、現場との距離はかなり離れており、ルルーシュの威圧が自分へ向けられたモノでは無いにも関わらず、『ブリタニアの吸血鬼』の異名を持つ自分がコレである。

 もし、これが間近で自分へ向けられていたら、どうなっていたのかと思うと、これがまた愉快で堪らなかった。

 当然、この快感を与えてくれたルルーシュの正体が知りたくなり、それを知る術を笑う一方で考えていると、背後の部屋のドアが勢い良く開け放たれ、ルキアーノへ怒鳴り声が飛んできた。

 

「ええい! やかましい! 私の部屋の前で騒いでいるのは何処の馬鹿だ!」

「エニアグラム卿、グットタイミング! あれが誰か解るか! あれだ! あれ!」

 

 だが、ルキアーノは怒鳴り声にめげるどころか、これ幸いとルルーシュを何度も指さして、部屋から出てきた銀髪の女性へルルーシュの正体を知らないかと目を輝かせながら尋ねる。

 ショートヘアーの左サイドを三つ編みにする彼女の名前は『ノネット・エニアグラム』、コーネリアの士官学校時代の先輩であり、ラウンズの第9席の座に就く者。

 

「あれ、あれって……。お前、知らないのか?

 ……と言うか、昨日の謁見。陛下から必ず見るようにと通達が有っただろうが?」

 

 ノネットはルキアーノが指さす先へ視線を向けて、目をパチパチと瞬き。ルキアーノへ茫然とした表情を向ける。

 なにしろ、ルルーシュが全世界生放送で時の人となったのは昨日の事。まさか、それを知らない者が居るとは思ってもみなかった。

 

「有った様な、無かった様な……。」

 

 しかし、ルキアーノにとって、興味が有るのは血の滾りを感じさせてくれる戦いのみ。

 それ以外の事はほぼ無関心。作戦命令書以外、自分の決裁が必要な書類ですら、2人の副官へ任せっきり。皇帝の命令も例外ではなく、ルキアーノは腕を組んで真剣に考え込む。

 

「有ったんだ!」

「ほら、私ってば! 昨日の夜、EUから帰ってきたばかりだから!」

 

 そんなルキアーノに苛立ち、両手を腰に突きながら怒鳴り付けるノネット。

 たまらずルキアーノは腰を引いた上に一歩後退。どんな敵も恐れないルキアーノだが、先輩後輩関係だけは大事にしており、ラウンズの中で規律に厳しいノネットは恐れる先輩だった。

 

「まあ、良い。教えてやる。

 あの御方は枢機卿、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様だ」

「……枢機卿?」

「私も良くは知らん。だが、陛下のお気に入りなのは確かだ」

「へ、陛下のお気に入りっ!?」

 

 ノネットは目線を右手で覆い隠しながら溜息を深々とついて呆れる。

 だが、シャルルのお気に入りであるルルーシュを皇帝の剣たるラウンズが知らないままでいるのはもっとまずいと考え、ルルーシュに関する情報を教える。

 ルキアーノは聞き慣れない初めて知る役職名に怪訝な表情を浮かべるが、更なる追加情報を聞き、驚きのあまり思わず茫然と目が点。

 

「あとはお前の部下達へ聞け。誰か、1人くらいは昨日の謁見を録画しているかもな?」

 

 その反応に無理もないと苦笑して、ノネットは口元を右拳で隠す。

 それほど自分達が忠誠を捧げているシャルルという皇帝は人へ興味を全く示さない。興味を示すのは実力のみ。

 唯一の例外は、ナイト・オブ・ラウンズの第一席に座するビスマルク。あとは約10年前までなら、寵姫だったマリアンヌもまた例外に入るだろうか。

 

「陛下のお気に入り……。陛下のお気に入り……。陛下のお気に入り!

 陛下のお気に入りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!

 ふっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!?」

「……相変わらず、あいつだけは良く解らんな」

 

 突如、ルキアーノは何やらブツブツと呟き始めたと思ったら叫び、大発狂。

 今度はノネットが身体をビクッと震わせて、驚きのあまり茫然と目が点になり、高笑いをあげながら駆け去って行くルキアーノの背中を成す術無く見送った。

 

 

 


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