ふわふわと、漂う。
あ、これは夢だ。そう分かってしまうような非現実感の中でただ自意識だけが漂っていた。
妙に体が軽くて、ふわふわした気分。
その独特な感覚に身を委ね、そのまま、俺の意識は浮上していった。
どこか不思議な目覚めだ。
チュンチュンと、小鳥のさえずる朝。まだぼーっとしている頭でただ窓の外を眺める。あぁ、今日は晴れなんだ。
時計を見る。朝の6時20分。ちょうどいい時間。いつものように朝のランニングに行こう。そう思って、少しずつ頭を働かせながら、とりあえず部屋をぐるりと見まわし………
「……は???」
部屋の鏡に映った自分の姿は、自分で想像していたものと違かった。いや、そもそもこれは自分なのか??
鏡の中では、全く見おぼえのない
「……疲れてんだな。もっかい寝よ」
どうやら夢から覚めていなかったらしい俺は、今度こそ現実の世界に帰るべく、もう一度意識を手放した。
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「いや、えぇ……」
再び目が覚めた俺は、鏡の中に相変わらず居座るその少女を見てもう一度固まった。
視線を鏡から自分に戻すと、俺が着ていたのは鏡の中の少女来ていたのと同じどこかかわいらしいパジャマ。やはりというべきか、あの少女はどうも俺らしい。
「……いや、俺らしい。じゃねぇだろ」
どうなってんだこれ。
どうにもこの非現実が受け入れられなくて、とりあえず、胸部についていた二つの膨らみを揉んでみる。
「……」
俺の知らない感触はこの女体が俺の体であるという事実を物語っていて、正直感触を楽しむどころじゃない。頭がどんどん混乱していく。なんだこれ。何なんだよこれ……
「起きろー。ごはん冷めるでしょ」
ばたんと、急に部屋の扉が開く。そこに立っていたのは俺を起こしに来たであろう瑠美。この朝起きたら女の子になってて乳を揉んでるという俺自身何が何だかわかんない状況を瑠美に見られた。これ、なんて説明すれば……
「………」
…………これ、なんて説明すれば……
「…何朝から発情してんの、馬鹿
いや、これは現実確認の為に揉んでただけで……てか揉んでるなんて言う…な……よ……
待て、今瑠美なんつった。
……
俺のこの姿を見てそう呼んだのか?瑠美は俺を姉と認識していて、この状況を何も不自然に思わなかったというのか?
「早く着替えて出てきてね」
「お、おぅ」
瑠美が扉を閉めて部屋から出ていく。
さっきの瑠美の様子からして俺が女の子な事には全く疑問を抱いていなかった。むしろ呆けていた俺のほうが異常だとでも言うような態度。
まさかと思ってぐるりと部屋を見渡す。
恐る恐る。クローゼットを開けた。
「あぁ…やっぱり…」
入っていたのは女子の服の数々。そして当然のようにあるうちの学校の女子制服。
「あぁ…まじか…」
ここまで状況証拠が揃ってしまったらもう観念するしかない……いや、したくはないが。
……俺、女の子になってしまったらしい。
『俺、女の子になってしまったらしい』だと少し違うか。むしろ、『俺、実は女の子
どこに違いがあるのかといえば、俺だけが変化したのか、俺を含めた世界全てが変化してしまったのかになるだろう。不思議なことに、瑠美は俺をもとから女の子だと思っているし、実際に女の子として俺が過ごしてきた痕跡がこの部屋にはあった。
つまり、
………なんて頭の片隅が勝手に状況整理を始めているが、正直今でもテンパりまくってる。
何?異世界転生?平行世界論??何それ美味しいの??
この科学の発展した現代社会においてそんなふぁんたじーが起こるわけないだろ。ゲームの世界だと言われたほうがまだ納得できる。
……だが、この線もなさそうだ。少なくとも俺はそんなゲームを起動した覚えはないし、プレイヤーの記憶に影響を与えることのできるゲームなんて聞いたことない。というかそもそもそんなゲームはあっちゃいけない。ただの洗脳マシンだ。
「つまり、ひとまずここは現実だとして受け入れるしかないのか…」
「……ホント何言ってんの」
「楽羽、調子悪い?」
「……大丈夫」
ひとまず俺は(女子用の)制服に着替えて食卓についている。下着はとりあえずタンスの一番手前にあったのを着てみた。
そして、母さんによれば今の俺の名前は『楽羽』と言うらしい。
そういえば、もし俺が女の子として生まれてきたらそう名付けるつもりだったと前の世界で母さんから聞いたこともあった気がする。
「でも本当に顔色悪いわよ?元気もないし、声もいつもよりワントーン低い」
「でもいつもみたいに四六時中ベタベタされないのはいいよね」
「眠くて疲れてるの。ごちそうさまー。」
何となく二人といるのが気まずくなって、食事もほどほどに食器を下げて部屋に引っ込む。胃袋も少し小さくなった気がする。
部屋に戻った俺は制服のまま一度ベッドに飛び込んだ。なんか朝ごはん食べるだけですごい疲れた気がする。
とりあえず分かったことはいくつかある。
『楽羽』はどうやらもっと元気系の、瑠美相手にも積極的にスキンシップをとるような少女らしい。そういったようなゲームのヒロインも多く見てきたために何となくの性格は想像できる。
さて、そんな分析も済んだところで、そろそろ向き合わなければいけない問題がある。元の男の体に戻る手立てがが見つかっていないことだ。とりあえずはこの女の子の体で生活しなければならない。
そこで、どうすればひとまずは上手く生活していけるか。残念ながらこの答えを俺は知っている。数多のクソゲーにおいて必要とされてきた必須技能。
『
とりあえず、瑠美や母さんから聞いた『楽羽』像をもとに何となく楽羽のキャラを作り上げ、自分の中にインストールする。そして他の人間から聞いた『楽羽』に応じて適宜修正する。つまり、演じるのだ。この世界の楽羽を。
俺………いや、『
携帯を「0369」のパスワードで開けて中のデータを漁ると、どんな交友関係を持っていたのかもだいたいつかめてきた。玲さん……いや、玲ちゃんともかなり仲が良かったらしい。連絡も割と頻繁に取っていた。
いざ玲ちゃんと対面したときにちゃんと女の子同士のテンションで話せるかはちょっと不安ではあるけれど、まぁ、いきなりそんな機会がくるなんて……
「楽羽ー!!玲ちゃん迎えに来たわよー!!」
「ひぁっ!!!」
どうやら『私』は毎日玲ちゃんと登校するイベントがあるらしい。
……これ大丈夫?早速『ロールプレイ』を維持できるかピンチなんだが??
先行きが不安すぎる!!
「性転換ラブコメ流行れ」
そんな願いを込めながら。