夢現の世界から彼は彼女は   作:chee

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君と『私』と恋心

『ごめんね』って、心の内で君に何度謝っただろう。

 

 

急に()()()()に来て心細かった私に一番寄り添ってくれた親友。そんな事情があるとも知らずに私に笑いかけて来てくれる君の隣があまりにも居心地が良すぎてしまったから。

 

私はやめられなかった。君にどんどん依存しちゃいそうなのが分かっていながら。

 

最初はただのロールプレイのはずだった。でも、もう本心から好きだから。俺も、私も、もう玲ちゃんが好きになっちゃったんだ。

 

 

「…………」

 

 

深夜になるといつも眠れず、何度も頭から追い出した杞憂()が私の中に舞い戻ってくる。

 

『もっと私は明るくあらなきゃいけないのに』

 

……っていうのも元はロールプレイの一環だったが、もう私は凹んでる自分を玲ちゃんに見せたくない一心で毎日を明るく楽しく過ごしていた。でもどうしても一人になると色々な不安が押し寄せてきて。

 

嫌に慣れてしまった慣れてるはずのない生活。あれもこれもと誤魔化しながら毎日うまくやっていたはずなのに。どうしても、どうしても、そこだけは(玲ちゃんの前)でだけは何も誤魔化せなくて、誤魔化したくなくて。

 

 

私は……

 

 

俺は……

 

 

 

『私』は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眩しい。

 

窓から部屋にまっすぐ陽が差して。私の顔に直接日光が当たる。普段とは違う陽の角度。

 

……真っ昼間だった。

 

今日は平日だが、学校には行っていない。

 

どれだけ悩んだところで気持ちの整理なんてつかないけど、今のまま学校に行く(玲ちゃんに会う)のはできる気がしなくて。自分の気持ちが分からないなんて宣いながらも、俺の気持ちと向き合えばいいのか、私の気持ちと向き合えばいいのか、もう、何もわからなくなってしまっていた。

 

ゴロン。

 

ベッドの上で仰向けい寝ころんでいた体をうつ伏せにするように寝返りを打つ。枕に顔を埋めて直射日光から目を守ると、そのはずみにパジャマの下でノーブラの胸がふにゅんと潰れた。そういえば、この胸の感触に妙な気恥ずかしさを覚えていた時期もあったっけなんて、そんなどうでもいいことに思考を飛ばすとさっきまで悩み倒していて凝り固まった顔に少し笑みが漏れだしてきた。

 

なにもすることがない。

 

なにもしたくない。

 

それで何もせずにいても時は進み続ける。毎秒音を鳴らし続ける時計の秒針が私の中の何かを急かすようで、どうにも居心地が悪い。

 

でも、もう疲れちゃったから、今日くらいはね。今日くらいは休んでいてもいいでしょ。

 

 

そう割り切ってもう一度眠って(逃げて)しまおうと目を閉じたその時、家の中にチャイムが鳴り響いた。

 

パパは仕事、ママは大学に用があるとかで出かけていて、瑠美は学校から直接バイト。つまり今この家には私しかいない。

 

「……私が行くしかないかぁ」

 

誰かが家にいたら任せて私は眠りこけていたんだけどな。居留守しようかとも思ったけど何か大事な届け物とかだったら申し訳ないし、仕方がナイン所で玄関まで下りて防犯用のチェーンのかかった扉を開けた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

目が合った。

 

目が合ってしまって、目を逸らした。

 

「楽羽さん、体調はどうですか?」

 

「……まぁ、ぼちぼちかな」

 

「お見舞いにちょっとしたスイーツを買ってきたんですが、食べれそうですか?」

 

 

ーーー今は、会いたくなかったなぁ。

 

 

玲ちゃんは半開きの扉の向こう側からいつもの笑顔を向けて来てくれる。

 

今のまま玲ちゃんの好意を受け入れても、きっと余計なことをしちゃう。

今の私の態度はきっと玲ちゃんも気を悪くしちゃう。

何より私はまだ玲ちゃん相手にまともに話せる気がしないだから。

 

 

だから私は、この扉を閉める。

 

 

ばたん、と若干閉まりの悪いドアを無理やり閉める音が鳴る。後は、この扉越しに帰ってもらうようにお願いするだけ。

 

 

……するだけなのに。

 

 

 

腕が勝手に扉にかかるチェーンを外し始める。

 

 

 

―――いやだ。

 

 

私がどんな状態でもやっぱり玲ちゃんには会いたくて。

 

 

―――まだ会いたくない。

 

 

玲ちゃんと二人で過ごす時間はあんなにも楽しいんだから。

 

 

―――やめてくれ……()は絶対に後悔することに……

 

 

なにより、私は今すぐにでも玲ちゃんに会いたいのだから。

 

 

―――ずるいじゃんか。会いたくない理由ばっかり『俺』に押し付けて。

 

 

―――『私』は玲ちゃんへの気持ちを隠そうともしないで。

 

 

―――『俺』ばっかり自分お気持ちを押し込めなきゃいけなくて。

 

 

 

 

それでも、私は玲ちゃんが好きだから。

 

 

 

 

 

扉が、開いた。

 

 

 

 

「ありがとうございます。じゃあ、おじゃましますね…………楽羽さん?」

 

「……玲ちゃん」

 

「どうしました?」

 

 

「今は……玲ちゃんとは……話したくない」

 

 

 

多分、伝わった。伝わっちゃった。話したくないって言っちゃったから。まだ治ってないとか誤魔化し方はいくらでもあったのに。

 

 

「えと、なんだか聞いても……」

 

「大好きだから」

 

「…へ?」

 

 

玲ちゃんの顔が一瞬で赤みを帯びた。それでも、すぐに疑問の表情に戻る。

 

 

「私は……『私』が、玲ちゃんのことが好きっていのは当たり前の事なんだけど、それでも、いま()の感じてるこの気持ちは、多分、()()から」

 

「違ってて、間違ってて、勘違ってて、私はそれを受け入れるわけにはいかないから。その気持ちを玲ちゃんにぶつけるべきじゃないから」

 

「でも、玲ちゃんと会えば、嬉しくて、楽しくて、気持ちが抑えられないのが、こんなにも、辛いから」

 

 

「……だから、今は、会いたくなかった」

 

 

後悔っていう言葉を今までにないほどに噛みしめる。もっと言い方があったんじゃないか、もっと誤魔化しようがあったんじゃないか…………そして、そもそも玲ちゃんとの付き合い方を考えるべきだったんじゃないか。

 

そんな考えたくもないような後悔が降って湧いて頭の中を埋め尽くすけど、何一つ受け止めることができなくて、玲ちゃんを正面から見据えることができない。

 

どうすればいいかわからない。なんて取り繕えばわからない。

 

 

もうどうしようもない。

 

 

そんな絶望感の中で、急に。

 

 

「……何を言っているんですか」

 

 

いきなり両肩を掴まれる。

 

痛いくらいに力のこもった玲ちゃんの両手は震えていて。

 

顔が近い。

 

必死に私の顔を覗き込む瞳も震えていて。

 

どうしてか、この瞳から目を逸らしちゃいけない気がした。

 

 

 

「……やっと、目が合いました」

 

 

 

もう、放さない。放してくれない。絶対に。

 

 

「玲ちゃん、私は……」

 

「……知りませんよ、そんなの」

 

「…え」

 

「好きな気持ちを抑えるのが辛くて会いたくない?そんなの知らないですよ!私がどれだけその気持ちを、この気持ちをっ……!!」

 

 

少し、玲ちゃんの目の端が煌いて見えた。それはきっと見間違いでなければ涙で。

 

 

「私だって好きだったのに!ずっと楽羽さんは友達としか思ってくれてないのを分かってたから、私はこうして我慢してきたのに……!なのになんですか!?やっと振り向いてもらえたと思ったら!間違っているからだなんて…………」

 

 

そんなの嘘だ。って、そう思いたかった。でも、その玲ちゃんの目に浮かぶ輝きの中に、いつの日かの夜に私が玲ちゃんを想って流した(恋心)と同じ何かを見出してしまって。

 

私は、私だけは、その激情が嘘だと、否定できなかった。

 

 

 

「……私の、気持ちは、どうなるんですか」

 

 

 

玲ちゃんの、気持ち。今吐露されたばかりの、私が目を逸らして、そして眼前に突き付けられてしまった、あまりにも純粋な好意。『会いたくない』なんて言ってしまったこんなどうしようにもない私への怒りや寂しさに乗せてぶつけられた、私以上にずっと玲ちゃんを思い悩ませてきたであろうその感情が、私の瞳の奥から、決別すると違ったはずの恋心()を嫌というほどに引っ張り出してくる。

 

 

 

「そんなの、わ゛かんないよぉ゛っ…!」

 

「わかんなくないですよ!とても単純なことじゃないですか……」

 

「だって、私は……」

 

「関係ないですよ……女の子同士だからとか私は気にしません。ここ数か月楽羽さんの雰囲気が少し変わったのだって、その上で私はずっと楽羽さんを見てきましたし、私の気持ちは、変わらないんですから」

 

 

 

玲ちゃんの声に、私の肩を力いっぱいに抱いていた手に、優しさがあふれていて。

 

 

 

もう、限界だ。

 

 

 

「玲ちゃん……」

 

 

「……はい」

 

 

「大好き……大好きなの……」

 

 

「はい。じゃあ、ずっと私と一緒にいましょう。私だってこんなにも楽羽さんのことが……す…好き…なんですから」

 

 

 

 

あふれ出る涙が堪えられなくて。

 

もうこの気持ちが抑えられなくて。

 

 

 

 

私は、私が『《《私》」』になって初めて、声を上げて泣きじゃくった。




これにて一応は完結です。

後日談としての二人のその後や他キャラと絡ませる幕間のような話は、思いついたら追加するかもです。

ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!
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