リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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家康、そして機動六課と合流した伊達、真田の両主従達は、関ヶ原以外の日ノ本で起きたある出来事…そして自分達がこの世界にやってきた経緯を説明する。

一方、聖王教会屈指の理知的な人物であったカリム・グラシアが何故、理知とは無縁極まりないザビー教なんかに心酔する事になったのか、その真相が明かされる…!

※始めに言っておきます。カリムファンの方、ごめんなさい!

エリオ「リリカルBASARA StrikerS 第七章出陣します!」


第七章 ~回想!蒼紅時空超飛の真相と、とある“聖母”降臨の経緯~

時は5日前に遡る。

それはカリム・グラシアがまだ純粋な聖王教徒としての理性を保っていた頃…

聖王教会本部・医務室―――

謎の落雷騒ぎの直後、カリムとシャッハによって中庭で発見された身元不明の少年は一先ず、怪我がないか検査する為に屋内の医務室へと運び込まれたのであった。

ベッドに寝かせた少年の傍らに付き添いながら、2人は少年の今後の処遇について話し合っていた。

 

「う~ん。とりあえず、ここまで運び込んできたのはいいのですが…これからどうしましょうか? どう見たって、この子は信者や付近の住民の子供でもありませんし、それに近くに転がっていた乗り物も調べてみたら質量兵器の可能性が高い事がわかりました。要注意人物として管理局に引き渡すべきではないでしょうか?」

 

シャッハはそう言うが、カリムは哀れむような表情を浮かべて返した。

 

「シャッハ。この子はまだ意識を失っているのですよ。いくら、質量兵器と一緒に倒れていたからって、この子を無碍に危険人物と決めつけるのはよくないと思います。それにもしかしたら、あの変わった乗り物とこの子はなんの関係ない可能性だってあるのだし、全てはこの子が意識を取り戻してから、事情を聞く事でいいんじゃないでしょうか?」

 

「そ、そうですか…? 騎士カリムはおっしゃるのであれば…それで構いませんが…」

 

「心配しないでください。責任は私がとります。とにかく今はこの子を休ませてあげましょう」

 

シャッハはカリムの言葉に半分納得していない様子を見せていたが、それでも彼女の心優しさを尊重し、言う通りに従う事にした。

その時、ベッドで眠っていた少年が大きく息を吐き出すと、ゆっくりと目を開いた。

 

「う~ん………ザビー…様…?」

 

「あっ! 気が付いたみたいですね! よかった! シャッハ、急いで担当医の医務官を呼んできてください!」

 

「は、はい! わかりました!!」

 

シャッハはこの場にカリムを一人残す事に一握の不安を覚えるも、しかし彼女の指示とあれば断るわけにもいかず、一先ず言われるがまま、医務官を呼びに部屋を出ていった。

そして、部屋にはカリムとまだ意識が朧げな少年が残された。

 

「う~ん…ここは…一体どこなのです? 懐かしいような…そうでもないような…?」

 

「君、大丈夫ですか?」

 

ゆっくりと身体を起こした少年にカリムが優しく語りかける。

すると、少年はカリムの声に気づき、彼女の方を見上げその顔を見ると、ハッと目を見張って驚いた様な顔を浮かべた。

 

「め…め…女神っ!?」

 

「まぁ!」

 

少年の口から出た率直な感想にカリムは思わず赤面してしまう。

 

「だ、誰ですか貴方は!? ザビー様はどこ!? 僕は宗麟!? どうしてこんなところに!! 宗茂! ギャロップ宗茂はどこに行ってしまったのです!? あぁ! ザビー様! 僕は一体、どこにきてしまったのですか!?」

 

少年はカリムの美貌を見た事で一瞬で意識をはっきりさせ、そして積を切ったようにハイテンションで叫び出した。

 

「落ち着いてください。ここは聖地・ベルカの聖王教会本部。私はここの教会騎士の一人 カリム・グラシアといいます」

 

「は? せいちべるか…? せいおう…きょうかい…?」

 

目をパチクリさせながら、首をかしげる少年の反応を見て、カリムは彼が所謂“次元漂流者”である事を直感した。

同時に少年の口から出た幾つかの謎のワードを探ろうとまずは少年の素性を調べる事から初めた。

 

「まずは貴方の名前を聞かせてもらえませんか?」

 

カリムの質問に少年は憤慨しながら、身を起こした。

 

「…僕の名前を知らない!? それは妙な話! 日ノ本においてザビー様第一の信者であるこの豊後の大友家当主“大友宗麟”の偉名は、北は蝦夷から南は西表にも広がっている筈なのに!!」

 

「宗麟さんですね。その“ヒノモト”とか“ブンゴ”っていう国の事は残念ながら私にはわかりません」

 

「なんと!? という事は、ここは南蛮ですか!?」

 

「ナンバン…っというよりは異世界といいますか? 恐らく、貴方は時空を超えた次元漂流者かと思われます」

 

「?…話がよくわからないです」

 

混乱する宗麟に、カリムは順を追って説明する事にした。

ここは次元の海の中心に位置する異世界・ミッドチルダ。その極北地区で聖王教の聖地“聖地ベルカ”にある聖王教会。

そして、宗麟は何らかの形で元いた世界から、次元の海を超えて、ここへ飛ばされてきたものであるという事。それを“次元漂流者”と呼ぶ事…

その証拠に宗麟の言った“ヒノモト”や“ヒゴ”という国の事は、管理世界内の殆どの国々の地理に精通している博識家であるカリムも知り得ない事であった。

 

「つまり、僕は星の海を超えてきた迷える子羊であると…?」

 

「えぇ…そういう事だと思います」

 

「おおぉう! なんたるちーやのがっくりちーや! この宗麟! 『関ヶ原の戦い』なる天下分け目の大戦が勃発して、我が大友最高戦力のギャロップ宗茂も西軍に無理矢理引き抜かれ、ザビー様にどうすれば皆が救えるか教えていただこうと、南蛮目指して船を漕ぎ出しかけた時に運悪く嵐に遭って、海に沈められたかと思いきや…海ばかりか星の海なんて越えて、こんな未開の土地にやってきてしまうだなんてぇぇぇぇぇ!!」

 

おいおいと噴水の如き涙の雨を流しながら、宗麟が自ずとこの地に飛ばされてきた経緯を超簡潔的に説明してくれた。

そんな宗麟を宥めながら、カリムはベッドの脇に置かれた一冊の本に目が行った。

それは倒れていた宗麟が、尚も肌見放さず持っていた本であった。本の表紙には下手くそな横文字でこんな事が記されていた。

 

『ワッタシの“愛”の教えネ~! 著者・ザビー』

 

 

それは先程から宗麟が度々口にしている人物の名前であった。

 

「あの…宗麟さん。さっきから、貴方の言っている“ザビー”って一体何なのでしょうか?」

 

その質問を耳にした途端、宗麟の目の色が変わった。

 

「何だとは失礼な! ザビー“様”とお付けなさい! いいですか! ザビー様は戦乱に満ちた日ノ本に“愛”という救いの手を差し伸べようとしてくださった “ザビー教”の偉大なる教祖! あの御方の愛に勝るものはこの世にふたつとないでしょう!!」

 

「ザビー教? 愛?」

 

カリムは宗麟の口から出た新たな謎ワードに不思議と興味を引かれる思いに駆られた。

すると、宗麟はそんなカリムの心に灯った僅かばかしの好奇心を見逃さなかった。

 

「ほぅ。もしかして貴方、ザビー教に興味がおありで?」

 

「えっ!? いや、別にそんなわけでは…ただ、同じ宗教を信ずる者として、気になっただけで…」

 

カリムは丁重に断ろうとしたが、宗麟は不敵な笑みを浮かべて返した。

 

「フフフフ…僕はわかりましたよ。アナタ… “愛”に飢えていませんか?」

 

「愛…?」

 

カリムは戸惑った。

 

 

「そう! “愛”です! 人間の感情の中で最も尊い気持ち、それは“愛”!! しかし、悲しいことに人は日々の努めの中で身体や心に余裕がなくなった時、この至上の感情を忘れそうになるもの! “愛”を無くした時、それは同時に己のなすべき道を進む“情熱”を失うもの!! 情熱を無くして人は精進などできないのです!!」

 

「………………」

 

 

宗麟の力説を聞きながら、カリムは数十分前に自分の心の中に過ぎった僅かばかしの疲れを思い出していた。

柄にもなく、疲労を抱いた原因…それはこの子のいうとおり自分の中で宗教に対する“情熱”、そして“愛”の精神が日々の激務に追われて失われそうになっていたからなのではないのか…

そもそも、自分にとっての“愛”とは…聖王教を信じる事だけなのか…? 教会騎士としての使命を忠実に果たす事だけが自分の示す“愛”の形なのか…?

 

“愛”とは……?“愛”とは……?

 

 

「ザビー様は言いました。己の“愛”を信じ、“愛”に全てを賭す事で、その“愛”で多くの人々を救えるという事を!!」

 

「“愛”…で、でも私は聖王教を信じ……」

 

「アナタの信ずるその“せいおうきょう”なる宗教に“愛”はあるのですか? それを信ずる事でアナタの“愛”は育まれたのですか?」

 

「………………」

 

最早完全に誘惑するような宗麟の口調に、カリムは自覚せぬ間にどんどん心惹かれつつある事に気づかなかった。

 

「古い戒律や伝統を只々忠実に守るだけでは本当の“愛”は育まれません!! これからはどんな宗教も、“愛”を持って、新しい扉を開いてその先にいかなければならないのです!! ザビー教はその礎なのです!!」

 

「…ハッ! 完全にこの子のペースに乗せられてる…!? ダメよ! 私が信ずるのはザビー…あれ?」

 

自分の意思とは別に勝手に口から出た言葉に違和感を懐くカリム。

 

「あなた~の心を救いたい、僕は~宗麟~♪」

 

宗麟は突然、謎の歌を歌い出した。

その歌を聞いた途端、カリムは突然自分の視界が大きく歪んでいく感覚を覚えた。

歪む視界の中で、宗麟の言葉が何度も反響して聞こえてきた。

 

「わ、私に救いなんて…私は聖王教しか……!!?」

 

「カリムさんとおっしゃいましたね? 目覚めの時は今です! 今を逃せば、アナタは永遠にご自分の“愛”を見失う事になるでしょう!!」

 

「わ…私は……私は………」

 

必死に理性を保とうとするカリムだったが、宗麟はさらに追い打ちをかけるように…

 

 

 

ザ~ビザビザビザビザビザビザ~~~♪ ソ~リソリソリソリソリソリソ~~~♪

 

 

 

謎の歌を歌って、混乱するカリムの頭を更に揺さぶる。

 

「な…なにこれ……? 頭が! 頭が、歪んでいく………!?」

 

「僕がこの地に降り立ち、アナタと出会ったのも、きっとザビー様が導いてくださった運命! 運命であるならこの宗麟! ザビー様の使命を断るわけにはいきません! 僕と一緒にこの世界を染めましょう! そう、ザビー教の新たなる女神…“聖母”として!」

 

「私が、“聖母”…? ふ……フフフ。そ、それもいいかもしれないわね……!」

 

「全てはザビー様より洗礼を賜ってからです! さあ、行きましょう! “聖母カリーム”!」

 

「くっ……わ、私は…私は……」

 

カリムの綺麗な黒い瞳に徐々に虹色の光が宿っていく。

そして、瞳の色が完全に変わった時、カリムはベッドの傍らにあった本を手にとった。

 

 

 

 

「……私は自由よおおおおぉぉ! もう聖王教会なんかに縛られないわ! 真実への扉は、この胸の中にあったのね!!」

 

 

 

 

「僕が鍵となりましょう! 全ては愛ゆえに! 僕とアナタは、ザビー様の名の下に今、“友達”となったのです!!」

 

宗麟はベッドから立ち上がり、カリムの手をとった。

カリムも宗麟の手を固く握り返した。そして歌う。

 

 

ザ~ビザビザビザビザビザビザ~~~♪

 

「これこそ…私が望んでいたものだわ! ザ~ビザビザビザビザビザビザ~~~♪

 

ザ~ビザビザビザビザビザビザ~~~♪

 

ザ~ビザビザビザビザビザビザ~~~♪

 

ザ~ビザビザビザビザビザビザ~~~♪

 

ザ~ビザビザビザビザビザビザ~~~♪

 

 

完全に洗脳されてしまったカリムが出会ったばかりとは思えない程に息を合わせ、宗麟と歌う。

傍から見れば、奇怪極まりない光景が医務室で繰り広げられた。

 

「騎士カリム! 遅くなりましたが、担当の医務官を―――」

 

…っとそこへようやく医務官を捕まえたシャッハが戻ってきた。

が、部屋に入ると、いつの間にかベッドから起き上がっていた少年と、彼と手をとりあって歌うカリムの姿を見て、思わずその場で硬直してしまう。

 

「き、騎士カリム…? 何をなさっているのですか…?」

 

シャッハは恐る恐る尋ねるが、次の瞬間、カリムの口から衝撃的な言葉が返ってきた。

 

「騎士カリム? 誰の事かしら…? 聖王教会騎士 カリム・グラシアなんていうクソ真面目なだけの面白味のない予言女はたった今、死んだわ」

 

「へっ!?」

 

カリムの口から出た今まで一度たりとも聞いた事のない内容の言葉に、意味がわからずに呆気にとられるシャッハの前に、カリムは宗麟の本を片手に両手を広げ掲げる“降臨”のポーズを取りながら、協会本部全体に響き渡るようなボリュームで声高らかに宣言した。

 

 

 

 

「私は“ノストラダムスカリム”! ザビー様の愛を受け継ぎし“聖母”よ!! アッハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

「「「「「き、騎士カリムうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!??」」」」」

 

 

カリムの突然の豹変を目の当たりにして、シャッハは勿論、彼女の後ろにいた医務官やその他の教会騎士達も混乱と恐怖に歪んだ表情で慄き、そして絶叫した。

後にシャッハは、この時の事を「自分達があと1分早く医務室に戻ってこれていたら、取り返しのつかない事になる前に止められていた」と深く後悔する事となった。

 

 

 

 

 

 

「……っというわけなんです」

 

「そ、それは災難でしたね…」

 

「え、えぇ…災難過ぎます…」

 

そして現在―――

機動六課が第五航空監視塔にいたガジェット達を無事制圧した頃…

聖王ザビー教会・礼拝堂の片隅では、シャッハから事の経緯を聞いたはやてとシグナムが、そのあまりにカオスな内容に唖然となっていた。

 

「それからの事はあまりにも急転直下な展開に私も正直記憶が曖昧になっていて…とにかく、あのザビー教とかいう意味不明な邪教にすっかり惚れ込んでしまった騎士カリムは、それから3日も経たない内に、あの大友宗麟とかいう金髪チビと一緒になって、教会本部にいた私以外の騎士や修道士やその他、聖王教信者の皆さんを次々と抱き込んでは宗旨変えさせていき、しまいにはあの様な有様に…」

 

シャッハがそう指を指し示した礼拝堂の奥には…

 

「ザビー様はこうおっしゃいました! 『人は愛を欲スルだけでは、真の愛を得るコトはデキナイのデ~ス。 愛を求めたくば愛を掴むべク、立ち上がらなければイケナイノデ~ス!』」

 

「「「「「イェス、ザビー! イェス、ザビー!」」」」」

 

トンスラ頭に“濃い”顔つきの巨漢のオッサン…ザビー教教祖“ザビー”なる人物の顔の描かれた巨大な肖像画が壁に高々と掲げられ、その前の祭壇に立ったカリムが『ザビー教経典』なる本を片手に力説を述べていた。

その目には一点の迷いなど存在せず、完全にザビー教の“愛”に染められた事を意味していた。

そして、礼拝堂に居た教会騎士達は、全員息を合わせて両手を挙げるという、ザビー教定番の謎の挨拶で答え、カリムが述べた教祖ザビーの言葉のありがたみに心酔していた。

 

「この私がミッドチルダにおけるザビー教第一の信徒として降臨した今、必ずやザビー様の“愛”をこの聖地ベルカは勿論、ミッドチルダ…否、全ての世界に広く染め上げ、そしていつの日か…ザビー様をこの地にお迎えして信ぜましょう!! それがこの“聖母・ノストラダムスカリム”の使命なのです!!」

 

「おおぉぉ!! カリーム!」

 

「我らがザビー教の新たなる女神・カリーム!!」

 

最早、すっかり古参幹部信者のように振る舞うカリムに、信徒達はさらに熱狂的に崇め奉る。

すると、祭壇脇に立っていた宗麟が、信者たちに向かって発破をかけるように騒ぎ立てた。

 

「お前達、なんですか! 気合が足りませんよ! せっかくの聖母カリームのありがたい御言葉です! もっともっとありがたく承るのです!!」

 

「「「「「ソーリー、ソーリン!……イェス、ザビー! イェス、カリーム!」」」」」

 

「もっともっと~!」

 

「「「「「イェス、ザビー! イェス、カリーム!」」」」」

 

「まだまだ~!」

 

「「「「「イェス、ザビー! イェス、カリーム!」」」」」

 

「イェス、クリーム!」

 

「ちょっと待て! 誰です! 今“クリーム”って言った奴は!!」

 

最早、『意味不明』という言葉しか言いようのないザビー教徒達のやり取りを前に、はやて、シグナム、シャッハは言葉を失っていた。

 

「騎士カリムぅぅ! あれだけ純潔で賢明だった貴方がこんな事になるなんて…あぁぁなんて嘆かわしいぃぃぃ!」

 

特に長年彼女の秘書を務めていたシャッハのショックは大きく、ハンカチを噛みしめて嘆き悲しんだ。

それを慰めながら、小声で話し合うはやてとシグナム。

 

「なぁ、シグナム。これ…どないしたら、えぇやろう?」

 

「主…薄情なのは重々承知ですが、ここは一先ず早急に逃げるべきかと…騎士カリムは最早、“手遅れ”です。そればかりか、ここにいれば私達もあの邪教集団に洗脳されかねません」

 

シグナムが、まるで何かに取りつかれたようにカリムや宗麟の言葉の一語一語に敬意を示すザビー教徒達を見据え、冷静に解析しながら話した。

 

「そ、そうかもしれんけど…でもなんとかカリムの目ぇ覚ます事できひんかな? いくらなんでもあれは……」

 

はやては、姉のように慕っていたカリムの変わり果てた姿を見据えながら、打開策をどうにか考えようとしていた。

だが、そんなはやてに当のカリムは…

 

「そうだわ、はやて。この際、アナタ達もザビー教に入っちゃいなさいな。今入信するともれなく、この素敵なチビザビー君人形を10万ワイズのところ、なんと9万9999ワイズで買えるお買い得チャンスよ♪」

 

そう言いながら、肖像画の巨漢男の姿をデフォルメしたような悪趣味なぬいぐるみを掲げてみせた。

 

「えっ!? い、いや! 遠慮しときます!…ってかプレゼントじゃなくて売りつけるんかい!!」

 

「しかも1ワイズしかまけてないっていう…」

 

早速覗かせたザビー教の悪徳宗教っぷりにドン引きしながらツッコむはやてとシグナム。

その時だった…

 

《八神部隊長。たった今、フォワードチームが第五航空監視塔のガジェットドローンの鎮圧を完了させました》

 

はやてとシグナムの許に、部隊長補佐のグリフィス・ロウランから念話で連絡が入る。

 

(ほんまかグリフィス君!? それで、なんか問題とかは起きてないか!?)

 

勧誘されかけ、最早一刻も早くここから逃げるべきと悟ったはやては、声を弾ませながらグリフィスに問いかけた。

 

《えっ?!…いや……その…別にこれといった問題とかは起きてませんが…》

 

(はぁ…せっかくここから逃げ出す口実が作れると思ったのに…)

 

そんなはやての様子に少々引きながらも淡々と答えるグリフィス。

はやてはその返事を聞き、深くため息をついた。

 

《はぁ?…あの…どういうことですか部隊長?…》

 

 今のこちら側の現状を知る由もないグリフィスが戸惑いながらはやてに聞く。

 

(別に。こっちの話や……それで他に報告する点は?)

 

(えぇっと…あっ!?そう言えば今回の任務中に高町一等空尉やハラオウン執務官が、家康さんと同じ世界からの次元漂流者を数人保護し、連れてきたのですが…)

 

《ッ!? なんやて!? なんでそれを早く言わへんねん!!》

 

途端にはやての目がキラーンと輝きを取り戻した。

はやては、迷わず手を挙げて

 

「あ、あのカリム! ちょっと急用ができたさかい、私もシグナムも今日のところは帰らせてもらうわ!!」

 

「えっ!? せっかく、これからアナタ達の“洗礼名”でも考えてあげようと…」

 

「そ、それはまた後日ゆっくり聞かせてもらうわ! ろ、六課の仕事やから!」

 

はやては早口でそう言うと、シグナムの手を引いてその場から全速力で走りだす。

 

「あ!?…あの?…主!?」

 

「ほな、さいならぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

シグナムに理解させる暇も与えない内に、はやては彼女の手を引っ張って礼拝堂を出て行った。

それを唖然と見送るシャッハ。一方宗麟ははやての態度に立腹している様子だった。

 

「オーマイ・ザビー! 恐れ多くもカリーム直々の洗礼の儀を無碍に断るだなんて! あの『八神はやて』とかいう小娘は少々礼儀がなっていません!!」

 

(お前がいうな!!)

 

心の中でツッコむシャッハ。一方、カリムは穏やかな物腰を崩さないで宗麟を宥めた。

 

「仕方ないわ宗麟君。 はやては、私が後援になって立ち上げた機動六課の部隊長なの。今は色々と大変な任務が多くて多忙だからしょうがないわ」

 

(ッ!? 騎士カリム…)

 

そう宗麟にフォローを入れるカリムを見て、シャッハは僅かながら安堵しかけた。

ザビー教に毒されて尚も、自分が機動六課の後盾という重要な立ち位置にいることを忘れず、はやてを思いやるその思慮深さや穏やかさに変わりはないという一面に気づいた事は、ここ数日絶望しかなかったシャッハにとっては心の救いとも言える吉報に感じられた。

…っとそこへ。

 

「っというわけで、今からは予定を変更して、そこにいる“ニューソードマスター”シャッハのザビー教シスターとしての新衣装の試着会でもしましょうか?」

 

「へっ!?」

 

カリムの口から言い放たれた言葉に、シャッハの僅かに軽くなりかけた心の重石がさらに倍になって降り掛かってきた感覚を覚えた。

 

「えっ!? き、騎士カリム…? 仰っている意味がわかりませんが…」

 

シャッハがそういうが、カリムは指をパチンと鳴らして合図を出すと、近くにいたザビー教に染まった教会騎士2人が立ち上がるや否や、礼拝堂の端にいたシャッハを取り押さえ、そのままカリムの前に引き出した。何時もと違うカリム達の放つ迫力に流石のシャッハもたじろぐ。

 

「シャッハ。アナタもこの“聖母”カリムの秘書なのだから、いい加減にその地味な修道服を変えないと…ザビー教の一員がそんな陰気な色に染まっているようじゃ“愛”を見つけられないわよ」

 

「な、何勝手に私をザビー教に入れられているのですか!! 私は未来永劫、聖王教のシスターです!!」

 

「安心しなさい。私達はザビー様の教えを受けて新たに生まれ変わった聖王教…“聖王ザビー教会”! だから聖王教には変わりないわよ」

 

「大違いじゃないですか! 全然別物ですよ!!」

 

無茶苦茶な理屈を平然と諭そうとするカリムに必死にツッコむシャッハ。

そこへ宗麟がいけしゃあしゃあと口を挟んでくる。

 

「まぁ正直“ギャロップ宗茂”や“チェスト島津”に比べると幾分か格は落ちますが、せっかくザビー教信者の中でも五本の指に入る名誉ある称号のひとつ“ソードマスター”の称号を与えるに相応しい腕っぷしのあるアナタなのですから、もう少し身なりもそれに相応しいものに着替えてもらわないと…」

 

「だからいらねぇっつってんだろ! そんな訳のわからない称号! ってか誰だよ!“ギャロップ宗茂”とか“チェスト島津”って!!?」

 

「シャッハ。観念なさい! これはザビー様からの“愛”の賜物よ!」

 

言ってカリムが取り出したのは金一色な上に宝石のあしらわれたフリルの付いた悪趣味極まりない修道服だった。

その神を冒涜しているとしか言いようのない服を目の当たりにし、シャッハは落雷を受けたかのように硬直してしまう。

 

「なっ……!!」

 

「ささっ、早く着替えてちょうだい。教会一真面目なシスターである貴方がこれを着こなす事で素晴らしい広告塔となる事でしょう。さぁ皆も手伝ってあげて!」

 

その掛け声と共に、礼拝堂にいたザビー教に入れ込んだシスター達がゾロゾロとシャッハの周りに集まってきた。

シスター達はシャッハを逃さぬように周りを取り囲んで立ち並んだ。

 

「あっ、貴方達…目を覚ましなさい! 貴方達が信じるべきなのは…」

 

「「「「「ザビー様です。ザビー様の“愛”に不可能はありません」」」」」

  

祭壇から華麗な回転飛びを披露しながら、シスター達の前に降り立ったカリムの言葉に呼応してシスター達は包囲の輪を狭めていく。

 

「それでは始めるわよ♪ レッツ・チェンジ・ザビー!!!」

 

「ぃいやあああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

そして彼女達に囲まれその輪の中で見えなくなったシャッハが絶望の叫び声を挙げていた。

 

 

 

 

機動六課隊舎。

 

部隊長オフィスにはなのは、フェイト、ヴィータ、スバル達フォワードチームと家康、政宗、小十郎、佐助と、第五航空監視塔で鼻血による出血多量で貧血状態になって幸村がソファー座って輸血を受けながら、それぞれ部隊長のはやて到着を待っていた。

 

はやて達が聖王教会から戻ってくるまでの間に、なのは達は、自己紹介を兼ねてこの異世界 ミッドチルダに関する説明と、魔導師や時空管理局、そして機動六課に関する説明、最後に家康がこの機動六課に協力するに至った経歴などをすべて話した。

 

「というわけで、私達が説明すべき個所は大体これくらいですね」

 

フェイトがそう言って説明を一段落終わると、政宗達が緊張で溜め込んでいた空気を吐いた。

 

「しかし……幾多の星の海をまたいで成り立つ“異世界”の国とは…なんともfantasticな話だぜ…」

 

「俺や政宗様も、普段であれば「そんな話など単なる夢物語だ」と言い切っているところだな」

 

「でも片倉の旦那。 実際こうして俺達の目の前の現実で起きてる事なんだから、これは認めざるを得ないんじゃないか?」

 

まだ半信半疑な小十郎に佐助が話す。

すると家康も小十郎に語りかける。

 

「正直ワシも最初は半信半疑だった。しかしなのは殿達の話を聞いたり、共に戦う内に全て本物であり現実であると知ったんだ」

 

「まぁ、確かに徳川の言うとおりだな。夢にしては、俺や政宗様も随分長いことこの世界に居過ぎてるし、実際あのカラクリ共を斬った時に確かな手ごたえを感じた。夢の中だったら絶対に感じられない感覚だったな」

 

小十郎がそう断言すると突然フェイトが意味深げに話し始めた。

 

「ではもう一度確認しますけど、皆さんは“本当に”、伊達政宗さん、片倉小十郎さん、真田幸村さん、猿飛佐助さんで間違いないんですよね?」

 

何故か再度確認するフェイトに4人は頷いた。

それを確認するとフェイトは徐にホログラムコンピュータを起動させ、とある資料フォルダを取り出した。

そこに書かれていたのは、

 

伊達 政宗 1567~1636 

出羽国と陸奥国の戦国大名。仙台藩の初代藩主。

伊達氏第16代当主・伊達輝宗と最上義守の娘・義姫(最上義光の妹)の嫡男。幼少時に患った疱瘡(天然痘)により右目を失明し、隻眼となったことから後世独眼竜と呼ばれた。

 

片倉 景綱 1557~1615

戦国時代から江戸時代前期にかけての武将である。伊達氏家臣で、伊達政宗の近習となり、のち軍師役を長年務めた。

仙台藩片倉氏の初代で、景綱の通称「小十郎」は代々の当主が踏襲して名乗るようになった。

 

真田 信繁 1567~1615

武田信玄の家臣であった真田幸隆の孫。大坂の役で活躍し、特に大坂夏の陣では寡兵を持って徳川家康の本陣まで攻め込み、徳川家康を追いつめた。

江戸期以降、講談や小説などで、真田十勇士を従えて宿敵である徳川家康に果敢に挑む英雄的武将・真田幸村(さなだ ゆきむら)として取り上げられ、広く一般に知られることになった。

 

猿飛 佐助

講談や立川文庫の小説などに登場する“架空”の忍者。

真田幸村に仕え、真田十勇士の1人として知られる。

 

 

それは、自分達の名と共に全く身に覚えのないような情報と、生没年、さらには自分達とは似ても似つかないような中年男性の肖像がそれぞれに政宗や幸村の名で上げられていた。

 

「Ah? 陸奥仙台藩藩主?」

 

「片倉…景綱…?」

 

「はて…真田十勇士とは…?」

 

「俺様は架空の忍者!? どういう事これ!?」

 

聞き覚えのない情報と自分の名前と同じ名前を持つ全くの別人。

しかし、確かに自分達と共通する事も数多く、直ぐにそれが自分達の事を言っているのだと分かった。

 

じゃあ、自分達は何者なのだ?

 

自分達は紛れもなく伊達政宗、片倉小十郎、真田幸村、猿飛佐助だ。

訳か分からず頭が混乱する4人。

まるで自分の存在が否定された様な感じである。

 

「4人の反応からして、やっぱり“表”の世界の事は知らないみたいだね」

 

なのはが政宗や幸村達を様子を観察して、そう断言する。

誰が見たって呆けている4人はショックを受けているのだろう。

 

「かと言って嘘を付いている様にも見えないね」

 

フェイトはそう言いながら資料画面を閉じた。

 

「これで理解しただろ独眼竜、真田。 単刀直入に言うと…ワシらが天下をかけて戦ってきた日ノ本は、“パラレルワールド”と呼ばれる世界らしい」

 

家康からそれを聞いた時、政宗達は少々眩暈が起こっていた。

 

 

「つまり…こういう事だな。 アンタ達の世界の日ノ本…そのニホンって国か…? それと俺達の世界の日ノ本は地理こそ同じ『日ノ本』だが、その構造は言ってみればcoinの表と裏のようなものであり、それぞれ歴史や技術などが微妙に異なっている。

そして、アンタらはその“表側”の世界から…俺達は“裏側”の世界からやってきた…そういう事だな?」

 

「まぁ、わかりやすく言うとそうなります」

 

政宗が話をなんとかまとめ上げて結論を出すと、それに頷いて同意するなのは。

それを聞いて小十郎や佐助もなんとなく理解できたが、幸村だけはまだ理解できないのか必死に頭を抱えて考えようとするが、わからないでいた。

 

「気になるのは…俺達が何故“裏側の日ノ本”からやって来れたのかって事だよな? 普通は俺たちみたいな事例は珍しいんだろ?」

 

「えぇ。同一の次元に存在する別世界から飛ばされるという事例はありますが、裏側の別世界から人が飛ばされるという事は極めて稀なケースですね」

 

フェイトがそう言うと、4人は腕を組んで唸り、各々思考を巡らせる。

それを見て家康が、自分の憶測を話しだす。

 

「やはり…同じ世界の人間であるワシが最初にここへ飛ばされた事と関連があるというのか?」

 

「まっ、それが一番推測としては妥当だろうよ」

 

そう簡単に断言してしまう政宗だったが、今はそれ以外に推測できる可能性は政宗達の頭には全くと言っていいほど過ぎらなかった。

とりあえずこれ以上考えても答えは出てこない為、この話題に関してはここまでとなった。

 

「あのぉ、こっちに来る時に何か変わった事とか無かったんですか?」

 

そう政宗達に問いかけたのはキャロ。

よく有り勝ちなパターンでは、異世界に転送される際には直前に『不思議な本を開いた』とか、『事故にあった』とか、何かしらアクシデントが起きている。

キャロの言葉に政宗達は思い返していた。

 

そして……

 

「「「「あっ!!」」」」

 

4人は同時に声を上げた。

 

「何かあるのですか?」

 

「話してくれるか? もしかしたらワシらが日ノ本に帰る為の手がかりになるかもしれない」

 

「あぁ。あれは……」

 

なのはと家康に促され、政宗は語りだした。

向こうの世界で何があったのかを……

 

 

*

 

 

天明・関ヶ原…東と西が衝突する終焉の戦…

それと時を同じくして、信州は上田の地において、もう一つの“分け目の戦”が始まろうとしていた…

 

信州上田城―――

甲斐武田軍臣下 『戦国の奇術師』の異名を誇る西軍方屈指の策士“真田昌幸”が当主を務める真田家が治める居城にして、美濃へと続く街道筋の関所としての役目を担う重要な城塞であった。

 

これを守るのは勿論、昌幸が率いる真田軍。

それに相対し、この難攻不落の要塞を攻め落とそうとするのは徳川軍と同盟を結び、東軍の主力として期待されている奥州の独眼竜 伊達政宗率いる伊達軍。

互いに生涯の宿敵同士であり、それぞれ東西両陣営の中枢を担っている2つの勢力がぶつかり合うこの戦いは、遠く離れた中央の最前線にて雌雄を決しようとする東西両軍の命運を分ける非常に重要なものであった。

 

伊達軍の意図は、この上田城の本丸庭に隠し造られたという『真田井戸』と呼ばれる隠し通路。

東軍方の忍が入手した情報によれば、この井戸から天下分け目の戦の主戦場である関ヶ原へとつながっているとの事で、昌幸が考案した『真田井戸を伝って関ヶ原へ進軍し、徳川方を既に布陣している豊臣方と挟み撃ちにする形で一気に殲滅』という作戦を阻止すると同時に、あわよくば上田城ごと真田井戸を奪取する事で、一気に関ヶ原までの道を駆け抜け、そのまま東軍の増援として戦線に加わるというものであった。

勿論、そんな伊達軍の意図を既に把握していた昌幸は、長男で『信濃の白獅子』との異名を持つ“真田信之”と共に真田井戸のある本丸の防衛に徹し、次男で、訳あって真田家主君『甲斐の虎』こと“武田信玄”の名代として甲斐武田軍を預かっていた真田幸村に城の前で伊達軍を迎え撃つ大役を任せた。

 

これこそ関ヶ原と並ぶ、日の本の明日を賭けた決戦 『上田合戦』である。

 

結果如何により、中央の戦況をも左右しかねない大一番であり、また同時に、『奥州の蒼き龍』『甲斐の若き虎』の長きに渡る因縁、それを決する戦いでもある。

この世の誰もがそう認識していた…

あの事件が起きるまでは…

 

 

信州上田城城門前―――

砂混じりの激しい風が吹き付ける中で、東の竜と、西の虎は今まさに最後の戦いに挑まんとそれぞれの思惑を胸に対峙していた。

 

「独眼竜 伊達政宗! いざ尋常に勝負!!」

 

「上等だ! 最高の気合を入れて、俺を楽しませてくれよ! 真田幸村!」

 

政宗は六爪を、幸村は二槍をそれぞれに構え、お互いに足を踏み出すタイミングを少しずつ見計らいながら、目先に立つ好敵手を睨みつけ、そして同時に全力を出して相手に向かって駆け出す。

 

「Get up! Ya―――haッ!!」

 

「燃えよ! 我が魂!!」

 

2人がぶつかり合い、それぞれの武器が交じり合うと同時に2人を中心に激しい衝撃と突風が周囲に吹き荒れる。

政宗と幸村、互いに己の並ならぬ闘志をそれぞれの力…雷と炎に還元して、それぞれに振るう刀と槍に纏わせて相手にぶつけた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

「Ha! Coolにいこうじゃねぇか?!」

 

口ではそう言いながらも、政宗も幸村に負けぬ程に熱く胸を滾らせ、刀を振るう手により力を込めた…

 

 

「政宗様…この戦こそ、武田との雌雄を決す最後の戦い…どうか貴方様の悔いの残らぬよう、存分になされよ…」

 

そして、この戦いを遠巻きに見守っている一人の男の姿があった…

竜の右目…奥州伊達軍副将 片倉小十郎である。

長きに渡り主君 政宗の背中を守ると共に、その戦いに対する熱い想いを幾度と無く間近で感じてきた小十郎は、政宗にとって幸村との戦いが如何に他の戦とは違うものであり、そして彼自身にとって何よりも重要なものであるかを知っていた。

それ故に、天下分け目の大一番であるこの勝負に際しても、小十郎は決して主君の戦いに横槍を入れようとは思っていなかった。

 

「おっと! 竜の右目がよそ見してちゃダメなんじゃないの?」

 

「!?」

 

その言葉とともに、不意に小十郎の前に一人の影が現れ、巨大な手裏剣を携えながら斬りかかってきた。

それを鮮やかに避けながら影を一刀両断にする小十郎。

だが、小十郎の斬撃が浴びせられると同時に影は灰のように散って消滅し、それと共に小十郎の真後ろに一人の青年が音を立てずに舞い降りた。

真田忍隊隊長にして、甲斐武田軍副将代行 猿飛佐助…

彼もまた、主君が宿敵と対峙しているこの時に、互いに宿敵同士の『右目』と『影』として、小十郎との雌雄を決しようとしていた。

 

「猿飛…あの日逃した借りは今ここで返す…!」

 

「右目の戦か…真剣勝負よりしんどそうだね」

 

殺気を込めた鋭い視線を放ちながら、小十郎は身を落ち着けるように刀を構えなおすと、佐助は軽々しそうな口調で話すが、小十郎に返す視線は彼に勝らぬ程に殺気が込められたものであった。

 

「いくぞ!」

 

「あぁ!」

 

小十郎と佐助は、互いに一撃で決めんと、それぞれに一押しに思う一手を繰り出そうとした…

その時であった―――

 

ピカッ!!

 

「「!?」」

 

突然、どこからともなく輝いた閃光に2人の攻撃の手が止まり、その表情が一変する。

光は上田城の中から差してきていた。2人が振り返ると、城の本丸と思われる場所に向かって天に向かって登る2つの謎の光の柱…

 

「んな!? ちょっと、右目の旦那! いくら天下分け目とはいえ、仕掛にしては大掛かり過ぎるんじゃいのさ?」

 

「違う! 伊達軍(俺達)はまだ何も上田城に仕掛けてなどいない! 一体、あれは…」

 

そう驚く小十郎の顔を見て、佐助は冷静に頷いた。

 

「うん…その驚きようを見るに、どうやらアンタらの策ってわけでもなさそうだね。こりゃあ本丸にいる昌幸の大旦那や信之の旦那達が無事か心配だ! 片倉の旦那! 悪いが俺達の決着は少しだけ預かってもらって―――」

 

佐助がそう告げながら一旦上田城へ向かおうと地面を蹴りかけて、ふと足元を見ると、そこには徐々に周囲に広がろうとしていく謎の金色の発光が見えた。

それは上田城から上がっている2本の柱と同じ光だった。

さらによく見れば、自分達のみならず、離れた場所で激しく戦っている政宗と幸村の下にもそれは迫っていた。

 

「ッ!? 政宗様! お待ちください!!」

 

「真田の大将!!」

 

「「!?」」

 

すぐにただ事ではないと予感した小十郎と佐助が、未だ激闘に夢中で気がついていない政宗と幸村に向かって叫び、決闘を中断させる。

それぞれ“右目”と“影”が発した叫びを聞いて、思わず動きを止めた政宗と幸村。

しかし…

 

「…What!?」

 

「んな!? こ…これは!?」

 

直後、光が一気に4人を覆い尽くすまでに広がったかと思いきや、政宗と幸村の身体が自ずと光に吸い込まれるように地面へと沈んでいく。

 

「政宗様!?」

 

「大将ぉ!?」

 

小十郎と佐助は、互いに主の名を呼ぶと、慌てて助けに駆けつけようとする。

しかし、謎の光は小十郎と佐助までもその中へ引きずり込み始めた。

 

「くそ!…政宗様! 政宗様!」

 

「大将! 今助けるからな!!」

 

2人は必死に主の名を叫びながら、光に飲まれて進む事すらままならない状態ながら、手を伸ばしてその体を掴もうとする。

 

「くっ…こ…小十郎……!」

 

「佐助! 佐助ぇぇぇぇ!!」

 

政宗と幸村も、既に下半身が完全に光に飲み込まれ、上半身も着々と沈みゆく中で必死にもがき、お互いが信頼を置き合う忠臣に向けて手を伸ばした。

 

「政宗様!」

 

「小十郎…!」

 

「大将!」

 

「佐助ぇぇぇぇぇ!!」

 

政宗と小十郎、幸村と佐助の手がそれぞれ相手の手をしっかりと掴んだ直後、4人の身体は光の中に完全に吸い込まれた。

 

 

そして、光が完全に消えた時…上田城前から4人の姿は忽然と消えていたのであった…

同時に、上田城から伸びていた2つの光の柱も煙のように消えたのだった。

 

 

 

――――

 

 

「…っとまぁ、こんな感じだな」

 

政宗がそう言って回想話を〆た。

 

「気がついた時、俺と政宗様はどこかの森に…」

 

「俺様と真田の大将は、あの街の中のどっかにある建物の屋上にいたってわけ。それで数日間俺たちも、独眼竜の主従も、右も左もわからないままさまよい続けて…」

 

「今日のあの騒ぎに駆けつけたわけでござる…」

 

小十郎、佐助、そして最後に幸村が締めて、政宗達の話が完全に終わり、暫くの間、沈黙が続いた。

 

「やはり、ワシの時と同じか…」

 

「ん? って事はお前も…?」

 

家康の言葉を聞き、政宗は何か察したように尋ねる。

 

「あぁ、ワシも関ヶ原でお前達と同じその光に包まれて、この世界へ飛ばされてきたんだ」

 

家康は政宗達に関ヶ原の合戦場で自分と三成の身に降りかかった出来事を話した。

 

「なるほど…関ヶ原でも上田と同じCaseが起きてたってわけか…」

 

「なんと!? それでは三成殿や左近殿も行方不明ということか…!」

 

政宗は家康もまた同じ状況で同じ要因が原因でこの世界に飛ばされた事を納得し、幸村は自分達の同盟相手である三成も謎の光によって消えた事を知り驚いた。

すると、今までの話を聞いていたなのはが話をまとめ始める。

 

「政宗さん達の話を聞いて確信したけど、やっぱり家康君達が裏側の地球からミッドチルダに来た原因は、やっぱりその『謎の光』っていう現象にあるみたいだね」

 

「その俺たちをここへ送り込んだFlashの事も気にはなるが、今は……」

 

「これから其達はどうするか…でござるな」

 

政宗と幸村は、そう言いながら互いに睨み合った。

中断されたとはいえ2人は因縁に終止符を打つための大事な決闘を行なっていた最中であった。

できるものなら、今ここでもう一度戦いを再開したい…

両者共にそう考えていた。

 

「どうする? 今ここでpartyの続きと洒落込もうか? ん?」

 

「政宗殿…貴殿が望むというのであれば…いつでも…!」

 

そう言って、突然二槍を構え出す幸村。

 

「Ha! You doing,okay?」

 

そう言いつつ腰から六爪を引きぬく政宗。正に一触即発の状態が暫しの間流れた。

そして、両者が動こうとした次の瞬間―――

 

「ストーーーーーーーーーーーーップ! 六課を血祭りに上げる気ですか!?」

 

「政宗様!! お戯れも時と場所をお考えください!!」

 

2人の間に飛び込んで来たティアナと小十郎が2人を制した。

 

「Ha! 何しやがるんだ小十郎! 邪魔すんじゃねぇ!!」

 

「政宗様!今は我々の立場を考えてください!」

 

「あぁ、うるせぇな!! お前の小言は聞き飽きたぞ!」

 

政宗を抱えて制止する小十郎に、必死にもがいて抵抗する政宗。

 

「離されよ! 其は武田の誇りを胸に勝負をかけて尋常に挑もうと……!」

 

「大将! もはや喋ってることがバラバラだよ!!」

 

「お願いだから抑えて下さい!幸村さん!」

 

一方幸村も、二槍を振り回しながら政宗に戦おうとして佐助やティアナ、フェイト達に喰いとめられる。

それぞれが怒声や奇声を上げながらやかましく騒ぎ立てる。

 

だが次の瞬間…突然、政宗と幸村の間を一筋の魔力弾が通過した!

 

「「「「「「「「「「えぇっ……」」」」」」」」」」」

 

刹那、部隊長室全体に走る殺気に、全員がその場に硬直する。

そして、政宗と幸村は恐る恐る魔力弾が撃たれてきた方向に目を向けると…

 

「2人共~…あんまり悪ふざけしちゃダメですよ~~。 少し落ち着きましょうねぇ~?」

 

レイジングハートを構えながらなのはが笑顔で、されど明らかに殺気を全開にしながら立っていた。

 

「「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」」

 

その殺気は政宗と幸村ですら一瞬でひれ伏し、土下座して震えながら謝りだす程であった。

なのはのその姿に政宗や幸村だけじゃなく、家康達も恐怖した。

 

「な…!? い…いつものなのは殿じゃない!? なんて覇気なんだ!? ま…魔王・ 織田信長と同格か、いやそれ以上…もが!?」

 

家康が思わず禁句を口走ろうとして慌ててスバル達フォワードメンバーに口を抑えられて止められる。

 

(ダメです家康さん! なのはさんの前で『魔王』という単語は禁句なんです!)

 

(実はなのはさん、普段はとても優しいんですけど、本気で怒りだしたら全てを塵と化してしまう程に暴れだす事から密かに『白い魔王』って恐れられてもいるんです!)

 

(し…白い魔王!? なんだそれは!?)

 

スバルとキャロの忠告を聞いて仰天しながらなのはの方を見入る家康。

確かに今のなのはの身体からは凄まじい程に『恐怖の気』が感じられる。

こんなにも強大な禍々しさを帯びた気を感じるのは幼少期…尾張の魔王 織田信長に仕えていた頃以来である。

 

(とにかく、絶対になのはさんを本気で怒らせない為にも『魔王』という言葉は、なのはさんに向かって言ってはいけませんから)

 

(う…うむ…気をつけよう)

 

家康は、なのはの意外な一面を知って軽く引くのであった。

 

その時だった。

突然にドアが開いて聖王ザビー教会からなんとか生還してきたはやてとシグナムが入ってきた。

 

「ごめん皆!すっかり遅なってもうた!」

 

「すまないな。待たせたみたいで…!?」

 

「「「あ、おかえりなさいはやて部隊長」」」

 

戻ってきたはやて達に挨拶をするフォワードチームだったが、はやて達の視線は当然ながら別の所に向けられる。

 

「なのはちゃん……何をしてるん?」

 

未だに土下座状態の政宗&幸村を見て、はやてが尋ねた。

 

「にゃははは~~~♪ ちょっとO★HA★NA★SHIしてただけだよ~」

 

「………………………」

 

深い笑みで淡々と答えるなのは。その周りでは彼女の威圧感に小十郎や佐助、フェイト達がドン引きしていた。

 

((この世界の人間って…一体…))

 

小十郎と佐助は異世界の恐ろしさを改めて感じるのだった…

 

その後、家康の仲介で、ひとまず政宗と幸村はしばらく休戦を結ぶ事で一先ずの決着がつく事となった。

 




オリジナル版では幸村、政宗が相対していたのは大坂・真田丸でしたが、やはり「関ヶ原と大坂の陣を同じ時にやったら違和感がある」と考えて、真田幸村伝を下に『上田合戦』に置き換える事にしました。まぁ、これでも幸村の兄 信之が西軍として参戦していたりと史実を知っている人からすれば、「なんだこりゃ?」とツッコミの声を頂く事間違いないでしょうけど…
ちなみに、本文にちょっとだけ名前が出ていた真田昌幸、信之親子は勿論、「真田幸村伝」に登場したあの2人です。リリバサ本編ではいつ参戦させるかはまだ未定ですが、必ず出す予定です。
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