リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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今回はリリバサリブート版、初の完全新作ストーリーです。

オリジナル版では登場時点から既に原典のゼスト・グランガイツの役割を代わりに担っていたお馴染みのリアルチート武将『島津義弘』と『立花宗茂』。

彼らが何故、少女ルーテシアと出会う事になったのか…?
何故、ゼストはオリジナル版で登場しなかったのか…?
その真相がこの話で明らかになります。

ヴィータ「リリカルBASARA StrikerS 第九章、出陣だ!」


第九章 ~西国武士の義 ある幼き召喚師の別れと出会い~

第53無人世界「イチュピカ」―――

そこはかつて、古代ベルカの時代よりも遥かに昔に栄えた文明が存在していたとされているが、急激な気候変化による環境悪化や、それに伴う様々な生物の怪進化などが原因で、今では住民は死に絶え、無人の地になった時空管理局の管轄内の中でもいわくつきの無人世界であった。

現在は、一応は管理局の管理下にあり、この地に存在した古代文明の歴史的探求を目的に考古学者のチームなどが派遣される事はあるが、この地を降り立つ者を待ち受けるのは“魔物”へと成り果てたこの世界独自の生物達による『捕食』という名の洗礼であった。

結果、この世界にやってきた人間のほとんどは魔物の餌になるか、四肢を食いちぎられるなどの悲劇に遭い、五体満足でこの世界から帰還できる者は50人に1人といわれている。

 

そして今もまた、勇敢か無謀か…この世界に足を踏み入れ、“住人”達の洗礼を受けている者達の姿があった…

 

「ウオオオオオオオォォォォォォォッ!!」

 

ガキンッ! ザシュッ! ズバアァッ!!

 

果てしなく広がる荒れた大地に激しい剣戟の音が響く。

 

「グルオオオオオォォォォォォっ!!」

 

「……ッ」

 

この荒野に住まう幾多の魔物のヒエラルキーの中で頂点に立つのが“魔竜”と呼ばれる生物達だ。

魔竜という名前だけあって、次元世界の生物の中でも珍しい人間以外で強大な魔力を有している生物であり、機動六課のフォワードメンバー・キャロ・ル・ルシエの相棒の子竜 フリードリヒも魔竜の一種である。

だが、本来の魔竜は、その有り余る魔力に自我を制しきれず、野生種のほとんどが、目につくもの全てに遅いかかる程の獰猛さを見せる。

 

 

今、襲いかかる魔竜の群れはいずれも小型種ではあったが、それでも自動車一台分程の体格を有し、さらに一度に100匹程の群れで襲いかかってくる集団戦法を得意とする厄介な性質を持っていた。

 

「……まさか、ここで魔竜の群れに襲われるとはな……いつもならば、この程度の魔物など造作もないのだが…」

 

「すまねぇ旦那…! さっきの遺跡でアタシが無理矢理旦那と融合しちまってなければ、こんな奴らに苦戦なんてしなかったのに……」

 

大振りの槍のデバイスを振るい、喰らいついてくる魔竜達を一刀両断していく、堂々たる体格を持った壮年の男性魔導師 ゼスト・グランガイツの傍に浮遊した全長約30センチあるか無いかの小柄なサイズの、黒い羽を生やし、燃えるような紅い髪をした融合型デバイスの少女 アギトが悔しそうに歯を噛みしめながら謝った。

 

「いや…この“イチュピカ”にレリックがひとつ隠されている可能性があるという情報をスカリエッティから聞いた時に、今回はいつも以上に苦戦を強いられる覚悟はできていた……情報が空振りだったのが、少々痛手だがな…」

 

「畜生! あの変態野郎(スカリエッティ)! いい加減な情報(ガセネタ)掴ましやがって!!」

 

アギトは自分達をこの世界に来るように仕向けた男に向けて唾棄するように悪態を吐き捨てた。

そこへ、アギトを一口で飲み込まんと魔竜の一体が大口を開けながら喰らいかかってきた。

 

「うわあぁぁ!?」

 

「アギト!!」

 

咄嗟にアギトを庇うように、彼女の前に躍り出たゼストは、槍型デバイスを豪快に振るい、アギトを襲おうとした魔竜とその周囲にいた5体を纏めて両断した。

さらに槍型デバイスを巧みに取り回すと、背後から飛び掛ってきた2体を丸ごと貫いた。

すると、彼の真上をホバリングしていた一際大きい1体が口から黄色い液体を吐き出してきた。

それに気づいたゼストはアギトを抱えて咄嗟に後ろに飛び退くと、彼が今まで立っていたあたりに液体が降り注ぎ、ジュウッ!と音を立てながら白い煙を上げて、地面の砂を瞬く間に溶かし始めた。

 

「ッ!? これは強酸!?」

 

「はぁ…はぁ…! どうやら、コイツが群れの長のようだな……グウゥッ!!?」

 

突然、ゼストが苦悶の声を上げながら、片足を押さえる。

見ると、身に纏ってたバリアジャケットの脛の辺りに強酸の飛沫がかかり、バリアジャケットごとゼストの足を溶かしつつあるのが見えた。

 

「ッ!? 旦那! しっかりしろ! す、すぐに治癒魔法を―――!?」

 

ゼストの負傷を見て、慌ててアギトがそう言うが、そこへ先程強酸を吐きつけた一体が急降下しながら食らいついてきた。

手負いのゼストと小柄なアギトが相手なら、敵ではないと侮ったのだろう。

 

「コイツ…邪魔すんじゃねぇよ!!!」

 

そんな魔竜の舐めた態度に怒りを顕にしながら、アギトは巨大な火炎弾を形成すると、食らいかかっていた魔竜に向けて放ち、その頭を一発で吹き飛ばした。

 

「……っ」

 

「大丈夫か!? 旦那!」

 

「ぐっ…心配するな。アギト…少し、酸の飛沫を浴びただけだ。それより下がっていろ…あとは…俺がやる」

 

そう言って、槍型デバイスを杖の代わりにして立ち上がるゼストに、アギトが慌てて止めに入る。

 

「ダメだって旦那! まずはその足を治癒しないと! 少量とはいえ、あんな強力な酸浴びちまったんだ! 放っておいたら…」

 

「グルルルルル………」

 

「ッ!?」

 

突然聞こえてきた唸り声に振り返ると、そこにはさっきアギトが倒した魔竜が、吹き飛ばしたはずの頭を瞬く間に再生させながら、地面を這いずり、ゼスト達に近づいてきていた。

 

「なっ!? コイツ…頭を吹っ飛ばしてやった筈なのに!?」

 

「ッ!」

 

ズブッ!!

 

驚くアギトを他所に、ゼストは酸で火傷した足を引きずりながらも、飛びかからんとしてた魔竜に向かって槍型デバイスを突き立てた。

狙うは心臓。今度こそ魔竜は動きを完全に止めた。

 

「……やはり、この世界の魔竜達は保有する魔力が強すぎて、半不死の生命力を得ているようだ。確実に倒すには身体を断ち切るか心臓を突くしかないか…」

 

「旦那。それより早く足の治療を―――」

 

アギトがそう言って、ゼストの足に治癒魔法を施しかけた時だった―――

 

「―――ッ!!」

 

突然、ゼストの背筋にゾクリと寒気のようなものが走るのを感じた。

 

「アギト! “ルーテシア”は…ルーテシアはどうした!?」

 

「えっ!? ルールーなら、ガリューを護衛にして、先に転送ポートに向かわせたけど…」

 

アギトの言葉が終わらない内に、ゼストは魔力で浮遊すると、そのまま今の自分が出せる限りの力を尽くして飛び立った。

 

「旦那!?」

 

突然に驚きながらも、アギトも空を飛んでゼストの後を追った。

 

「旦那待ってってば! まだ治癒も終わってないのに、無理したらダメだって!!」

 

アギトの言う通り、足にはまだ激痛が走り、おまけに激戦の疲労やダメージが明確に表れているのか、視界が時折激しく歪む。

それでも、ゼストには急ぎ行かねばならない理由があった。

ある程度の距離と高度を飛行してきた時、辺りを見渡してみると、自分の思惑が外れていなかったことを悟った。

遙か前方…荒野の一角に浮かんだ魔法陣の周りで交戦する複数の影…

 

「ガリュー………」

 

「…………………」

 

渦中の中心にいたのは漆黒の身体に紫色の羽を持った人間の様な体躯をした昆虫―――俗に言う召喚獣と、その主である薄紫色の髪を腰まで伸ばし、黒い服を纏った無表情の少女…

少女から「ガリュー」と呼ばれた召喚獣は、自分達を取り囲む30体近くの魔竜を相手に、少女を守るようにしてたった一騎で立ち向かっていた。

紅い二対の複眼が並ぶ顔からは表情は伺えないものの、体中についた傷や汚れが既に彼が満身創痍である事を物語っていた。

 

「「「グオオオオオォォォォォォ!!!」」」

 

「……………ッ!!?」

 

一斉に襲いかかってきた5体もの魔竜を抱え込むようにして押さえつけ、必死で少女を庇おうとするガリューであったが、その隙きにさらに10体近くがガリューの上を飛び越えて、少女に向かって襲いかかろうとした。

 

「……………」

 

しかし、感情を失っているのか、それとも端から存在しないのか、この危機的状況を前にしても少女は恐怖に怯える事はおろか、眉一つ動じさせる事がなかった

 

「はああっ!」

 

そのとき、上空からゼストが舞い降りながら間に割り込み、槍型デバイスを地面に打ち付けて、衝撃波を撃ち放つと、食らいつかんとしていた魔竜達を纏めて吹き飛ばした。

 

「……ゼスト」

 

「ルーテシア。大丈夫か?」

 

ゼストは少女…ルーテシアの方を振り向いてその無事を確認すると、残る魔竜の群れと戦うガリューの方を向いて走り出した。

そこへ遅れてアギトが駆けつけてくる。

 

「ルールー! 大丈夫か?! 」

 

「…アギト。私は大丈夫。でも…ゼストが…」

 

ルーテシアは相変わらず無表情を崩さないがその口ぶりから、身体のダメージを押して戦っているゼストを気遣う気持ちがにじみ出ていた。

それを聞いて、アギトもさらに不安に駆られた。現に魔竜達を次々と薙ぎ払うゼストの息は、さっきよりも荒くなっている。

 

「旦那! これ以上、無理はダメだって!! ルールーも無事だったんだ! ここは一旦退却して…」

 

「ダメだ! 今、退けば転送ポートの転送予定時間までに間に合わん! ここは俺がフルドライブでどうにか時間を稼ぐから、お前達だけでも―――」

 

「そんな…旦那! 唯でさえ、フルドライブの繰り返しで身体が限界だってのに、その怪我で戦い抜こうなんて無茶だってば!!」

 

「言うな! 俺は…せめてお前達だけはなんとしても―――」

 

ゼストがそう言いかけた時、足元の左右の地表を突き破って新たな魔竜が2体挟み撃ちで襲いかかってきた。

 

「くっ……!」

 

ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!!

 

ゼストは咄嗟に、槍型デバイスの石突側に設置されたカートリッジシステムをリロードさせ、3発の魔力薬莢を排出させると、穂先の刃に金色の魔力光が宿り、それを振るうと同時に襲いかかろうとした二体の魔竜だけでなく周りにいた十数体以上の数の魔竜をまとめて薙ぎ払った。

 

「………グフッ!」

 

ところが、敵を薙ぎ払った直後、ゼストは片手で口を押さえながら、苦悶の声を上げる。押さえた手の指の隙間からは微かに血が滲み出ていた。

っとその時だった。

 

ザシュッ!

 

「ぐぅ…………!!」

 

新たに地中から伸びでた鋭い尾がゼストの胸を貫く。それと同時にゼストの前で轟音と粉塵を上げながら荒地が吹き飛び、その持ち主とみられる正体が現れた。

これまでの魔竜達を凌ぐ巨体を誇る紅い身体の魔竜。恐らくこの魔竜の群れのボスと思われる巨竜はゼストを貫いたまま、その長い尾を打ち払うと、そのままゼストの身体は力の抜けた紙人形のように荒野の中を2、3度バインドしながら転がり倒れた。

 

「旦那ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アギトの悲痛な声に反応するかのように紅い巨竜は咆哮を上げながらルーテシア達に狙いを定めて突進する。

だが、それをガリューが阻む。

 

「ガリュー! お前だってもうボロボロだろうに、無理すんじゃねぇよ!!」

 

アギトの言う通り、ガリューは両腕のリストブレードを武器にどうにか巨竜と打ち合うが、既に戦いの疲労がピークを迎えていた上に、外皮の装甲が分厚い巨竜に対して、高機動戦闘に特化したタイプであるガリューでは相性が悪く、次第にじわじわと追い詰められていく。

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

そこへ、どうにか身体を起こしたゼストが槍を振るい、割り込んできた。

しかし、巨竜に貫かれた胸の傷はどう見ても致命傷となっており、息も絶え絶えになっている事は目に見えていた。

 

「これで…終わらせる!!」

 

ガシュッ! ガシュッ!

 

ゼストは最後の賭けと言わんばかりに、ガリューが巨竜の片目目掛けて放ったサミングを受けて、僅かに怯んだ一瞬の隙を突いて、カートリッジを2発分リロードさせながら、槍を大きく振り上げる。

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ザシュウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥッ!!!!

 

最後の力を振り絞って発した力強い掛け声とともに槍を真正面に一閃させ、巨竜の身体を一刀両断に切り裂く。紅い巨竜は断末魔を上げながら絶命し、大量の体液、血を流しながら二分され、荒野に倒れ伏した。

 

「うっ!………ぐふぅっ!」

 

「旦那あああぁぁぁぁ!!」

 

巨竜を仕留めて安心して力が抜けたのか、ゼストは突然その場に崩れ落ちて、倒れ込んでしまう。

アギトを先頭にガリュー、ルーテシアが駆けつけ、ガリューが抱き起こすがゼストはすっかり弱りきって虫の息だった。

 

「旦那! しっかりしろ! 今すぐ応急処置をするから―――」

 

そう言って治癒魔法の処置に入ろうとするアギトだったが、その手を止めたのはゼスト自身だった。

 

「いや…もういい……どうやら俺は…ここまでのようだ……」

 

「ッ!? そんな…何弱気な事言ってんだよ!? 旦那にここで死なれちまったら、この先、誰が私やルールーを守ってくれるんだよ!!」

 

今にも泣きそうな声でアギトが叫ぶが、そんな彼女に追い打ちをかけるかの如く、再び近くの荒れ地が爆発して吹き飛んだ。

粉塵の中から現れたのはさっきの巨竜の色違いの2体…それぞれ黒と銀の巨竜だった。

 

「冗談だろ……? こんなのってありかよ………!?」

 

「…………………」

 

普段は勝ち気で負けん気の強いアギトだったが、この状況に対しては冷静に理解できた。

このままいけば確実に殺されると…

 

「やめろ…来んな…来んなあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アギトが叫ぶと、ルーテシアが一瞬だけ眉を釣り上げて、真剣な眼差しになると、左手にはめたグローブをかざしながら小さく呟く。

 

「白天王………」

 

だが、それを聞いたアギト、ガリューがルーテシアを止めに入る。

 

「ダメだって、ルールー!ガリューも限界だってのに、この上で白天王まで召喚したりしたら、それこそ今度はルールーの身体が無事じゃすまなくなっちまう! ゼストの旦那がこんなになって、その上ルールーまで傷ついちまったら、アタシはもう生きていけないよ! 頼む! やめてくれ!!」

 

そう言って、必死に説得するアギトだったが、その間にも2体の巨竜は目の前にいる格好の獲物であるルーテシア達目掛けて襲いかかってくる。

最早、万事休すな状況を前にアギトは目をつぶり、そして心の中で叫んだ。

 

(誰か……! 助けてくれよ!!)

 

その時だった。アギトの心の声に答えるかのように、晴天のはずの空から2筋の稲妻が落ちてきた。

それもアギト達のいる場所から数メートルほどしか離れていない目の前の地表に。

突然の閃光に思わず、アギト、ガリュー、そしてルーテシアさえも顔をそむける。

そして、光が止み、アギト達が顔を戻すと、稲妻が落ちた場所にいたのは…

 

半裸の上半身に巨大な綱を巻き付けた、大柄でたくましい肉体と白い髪と髭が特徴の老人――――

 

銅に◯の印が描かれた金色の甲冑に、同じく◯印の後ろ立てが施された兜、藍色の戦装束を纏った髭面の強面の壮年の男性―――

 

2人の堂々たる体格を持った武士(もののふ)達だった…

 

「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!」

 

突然の乱入者に一瞬躊躇する様子を見せながらも、すかさず2体の巨竜は大口を開けながら、標的を2人の男達に切り替えて襲いかかろうとした。

すると、それに気づいた男達はすかさず…

 

「かぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつ!!!!」

 

「むんっっ!!!!」

 

老人はその巨体に劣らぬ巨大な刀身を持った大剣、壮年の男性は二振りのチェーンソーのように小刻みに動く刃の付いた大振りな双剣で、それぞれ向かってきた巨竜を一体ずつ真正面から受け止めて食い止めてみせた。

 

「ッ!? なんかぁ? こん得体のしれん化け物は!? “宗茂”どん! こら、どないなっちょっとね?」

 

「さて…手前も状況がよくわかりません…確か、我らは共に関ヶ原にて東軍の猛攻にどうにか抗戦している最中筈だったのですが……?」

 

「ふぅむ…まぁよかね。まずは…」

 

そう言いながら、老人は大剣で巨竜を押し戻しながら、楽しそうに笑みを零す。

 

「ここにおる山のようにでかか物の怪(もののけ)を退治しようじゃなかと。のぅ、宗茂どん」

 

「“島津”殿。あまりお戯れは…」

 

この状況でどこか楽しそうに呟く「島津」と呼ばれた老人を窘めようとする壮年の男性…「宗茂」であったが、押し戻して尚も獰猛性を失わずにかかってくる巨竜を前に、その目に闘志が宿った。

 

「…と申しながらも、そうも言ってられない様ですな…」

 

「グアッハッハッハッハッ!! こげんな獣と戦うなんてはじめてじゃ! 示現流の一太刀…物の怪(もののけ)に通じるか楽しみね!」

 

そう言いながら、老人と壮年の男性は大剣を抱えながら向かって駆け出していった。

アギトは突然現れたこの2人の背中から微量の魔力の反応がない事を察し、すぐに両名とも魔導師ではない事に気づいた。

 

「なにやってんだよ! そこのジジイ共! 死にてぇのか!!」

 

手負いだったとはいえオーバーSクラスの魔導師ランクを誇るゼストを屠った巨竜を相手に、真正面から特攻という命知らずにも程がある行動に出た2人の非魔力保持者達にアギトが口悪く忠告する.

しかし、2人の男達は向かってくる巨竜に向けてそれぞれ大剣と双剣(チェーンソー)を振りかざし…

 

「チェストオオオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「そおおりやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

ドバァァァァッ!!

 

ザシュッッ! ザシュゥッ!!!

 

 

「んなっ!?」

 

「…………っっ!!?」

 

「「ッッッ!!!!?」」

 

そのボリュームだけで辺りの荒野を轟かせんばかりの掛け声を上げながら、老人は文字通り一太刀、壮年の男性も二振りのチェーンソーを一撃ずつで、それぞれ相対した巨竜達を両断して、地面に沈黙させてしまったのだった。

その剛剣ともいえる見事な太刀筋にアギトは勿論、虫の息になっていたゼストや殆ど表情を顕にする事のないルーテシアやガリューでさえも、それぞれ微かに反応を示し、驚きの感情を示す程だった。

あれだけの巨体を誇った魔竜が二体、たった一、二撃で撃破された。それも微塵も魔力もない2人の老壮年の男達に…

 

「…………………」

 

ゼストは残りわずかな自分の体力を振り絞ってどうにか身を起こす。するとそれに気づいた男達がゼスト達の存在に気づいた。

 

「ッ!? こんてけん! 深手を負っとぅようじゃ! 宗茂どん!」

 

「はっ! そこの御仁! 大丈夫ですか!!」

 

その中で深手を負っているゼストを見た2人の男達が駆け寄ってくる。

するとアギトはゼスト達を庇うように男達の前に立ちはだかった。

 

「アンタ達、一体何なんだよ…?! まさか…管理局の回しもんじゃねぇのか!?」

 

「よせ……アギト…」

 

アギトは警戒心を隠さずに問いかけるが、それを制したのはゼストだった。

無理に身を起こした為か、すぐに身体の力が抜け、倒れそうになるのを壮年の男性が背中に手を伸ばして抱えた。

 

「…すまない。危ないところを……助かった。礼を……言わせてくれ………」

 

「無理はいけません。 とにかく、手前が応急処置を……」

 

ゼストは力なく頭を振った。

 

「いや………俺はもう助からない………その代わり…お前達に……ひとつ…頼みたい事がある………」

 

「……なんね?」

 

老人はゼストの前に膝をついて、視線を合わせるようにしゃがみながら話を聞いた。

 

「お前達は………管理局の………魔導師ではないな………それに………あれだけの武芸の……才能………相当の武人と見た………お前達の……名前を教えてくれないか?」

 

ゼストの言葉を聞いて、その胸の内に宿る強い武人としての誇りを感じたのか、老人と壮年の男性はお互いに顔を見合わせ、そして頷いた。

 

「おいの名は“島津義弘”。西国は九州・薩摩の大将じゃ」

 

「同じく、手前は九州・豊後『大友家』の重臣。“立花宗茂”と申します」

 

「は? キュウシュウ…? サツマ…? オオトモ…?」

 

老人…島津義弘と壮年の男性…立花宗茂の口から聞き慣れない単語に訝しげるアギト。

同じく、ゼストは彼らの口から聞き慣れない単語から、彼らが“次元漂流者”である事を直感した。

 

「ヨシヒロと…ムネシゲだな……俺はゼスト……ゼスト・グランガイツ……今はこの様だが………お前達と同じ類の人間だ…」

 

「……そんようじゃな。おまはんの目ぇと、その見事な拵えの槍ば見ればわかるたい」

 

義弘はゼストの傍らに転がっていた槍型デバイスに目をやりながら小さく笑みを浮かべて言った。

 

「それで、ゼスト殿。手前共への“頼み”とは?」

 

宗茂がゼストを案じながら尋ねた。

 

「俺は………訳あって、ここにいる子供達…アギト…それにルーテシア・アルピーノという…この子達の事を…守ってきていた……だが、もう俺は……ここまでのようだ……だから……代わりに…お前達に……2人の事を…頼めるか……巡り合うべき相手と…巡り会えずにいた……不幸な子供だ………」

 

「旦那……」

 

ゼストは、アギト、そしてルーテシアの順に、穏やかな視線を送りながら、言った。

アギトは目元に涙を浮かべながら、ゼストの話を聞き入っていた。

 

「……出会ったばかりの……お前達に……こんな頼みを押し付けるのは…いささか忍びないが……誰かが…守ってやらなくては……2人は……“奴”に…いいように利用されてしまう……」

 

「“奴”とは?」

 

宗茂が尋ねた。

 

「ジェイル…スカリエッティ……次元犯罪者だ……奴は…表向きはルーテシアに…協力しているが…その実…何を考えているのか………グフッ!!」

 

「旦那ぁぁっ!!」

 

「ゼスト殿!」

 

血を吐き、いよいよ息が荒くなってきたゼストにアギトが悲痛な声を上げながら駆け寄り、宗茂も今しがた出会ったばかりとは思えない沈痛な面持ちで語りかける。

言葉を交わした数こそ少なくとも、互いに強気武人の魂を持つ者同士、事切れる寸前のゼストの想いに宗茂は深く感銘を受けていたのだ。

そして、それは義弘も同じであった。

 

「ゼストどん。おまはんはまっこと強か武人ね。おまはんのその想い、この島津義弘……しかと受け取ったばい」

 

「ご安心めされよ。そこの御二方の事は、手前共にお任せくだされ。必ずや、貴方に代わって…」

 

義弘、宗茂の言葉を聞いたゼストは安堵するように頷き、息を大きく吐いた。

息と共に口の両端から血が垂れて、筋を走らせた。

 

「ぐうぅぅっ!……!?」

 

「旦那ぁぁぁっ! いやだよ! 死なないでくれよ! 旦那ぁぁぁっ!!」

 

苦悶の声を上げるゼストに縋りながら、アギトが涙声で呼びかける。

すると、義弘はスッと立ち上がると傍らに突き立てていた自身の愛剣を手に取ると、腰に下げていた大徳利の蓋を開け、剣の刀身に酒をかけ始めた。

 

「な…!? 何してんだよ…!?」

 

「武士の情けじゃ。このまま苦しんでばかりじゃ辛かろう……今、楽にしちゃるばい」

 

不審がるアギトを他所に、義弘は大剣を構え、ゼストを見据える。

 

「お、おい! やめてくれよ!」

 

アギトは慌てて止めようとするが、ゼストは首を横に振って止めた。

 

「構わない。アギト…このまま下手に回復処置を施しても……俺はもう…まともに戦えない…なれど…俺は…人造魔導師………簡単には…死ねない………誰かが止めを刺さなければならないんだ………それならば…せめて…俺が見込んだ武人の手にかかりたい………」

 

「旦那ぁぁ……」

 

ボロボロと涙を零すアギト、ずっと様子を見守っていたガリューも表情のわからない顔からも悲しみの念が伝わってくるように見えた。

 

「お嬢様方にとっては、酷い光景かもしれません……お辛いようでしたら、目を背けてください」

 

宗茂はアギトとルーテシアを配慮してそういったが、ルーテシアもアギトも、目を背けようとはしなかった。

2人の覚悟を確認した宗茂は、義弘に向かって静かに頷いた。

義弘も頷き返し、大剣を大きく振りかぶった。

 

「ゼストどん……悔いはなかとね?」

 

「……………頼む!…」

 

ゼストは最後の力を振り絞って、宗茂の支え無しで身体を起こし、介錯を受けやすいように身体を預けた。

そして、義弘とゼストはお互いの目を見て、無言で頷き合う事で、最後にもう一度、双方の覚悟を確認した。

 

(……………メガーヌ……クイント………レジアス……ッ!!?)

 

自分の前に振りかざされた大剣に反射した光がギラリと顔を照らしつける中、ゼストの脳裏に浮かんだのは、自分が“管理局の魔導師”であった頃の仲間達、そして…親友の姿だった。

 

 

「南無阿弥陀仏………チェストオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!」

 

 

念仏を唱えた後、鎮魂の気合を込めた掛け声と共に義弘の介錯の一閃が振り下ろされた―――

 

 

 

 

スカリエッティの研究所―――

日の光の一切届かぬ地底深くにあるその研究所には生体ポットや起動前のガジェット・ドローンが並び、壁には岩がむき出しの部分すらあり、余計にその場を殺風景な様にしている。

そんな研究施設の一角にある部屋では、中央に置かれたゼストの槍型デバイス、そして丁寧に包まれたバレーボールほどの大きさの“布包み”の置かれた机代わりの円形の台座を挟んで、下座側に義弘、宗茂、アギト、ルーテシア、そして上座側にジェイル・スカリエッティと大谷吉継、皎月院がれぞれ立って、台座の上に置かれた2つのものを見据えていた。

 

「…なるほど。ミスターゼストも、実に“騎士”らしい気骨ある最期だったようだね」

 

イチュピカで起きた一部始終の出来事を聞かされたスカリエッティがそう感傷の欠片も感じさせない口調でそう言うと、ずっとすすり泣いていたアギトがキッと非難の眼差しで睨みつけた。

そんなアギトの視線を受けても、気にしないようにスカリエッティは青白い陰気な笑みを浮かべながら続ける。

 

「まぁ、欲を言わせてもらえば、私の手掛けた“実験体”ならば、もう少し頑張ってほしいところだったけどね」

 

「なんだとテメェ!!」

 

「アギト殿!」

 

スカリエッティの嫌味に堪忍袋が押さえられなくなったアギトが火炎弾を形成して放とうとし、宗茂に慌てて抱え止められた。

 

「大体、テメェがアタシらに『イチュピカ(あの世界)にルールーの探しているレリックが隠されてる』かもしれないなんて、いい加減なガセネタを掴ませなけりゃ、ゼストの旦那は死なずにすんだんだぞ!! つまりはテメェが旦那を殺したみてぇなもんだろうが!!!」

 

「アギト殿! 気持ちはわかりますが、どうか落ち着いてくだされ!」

 

アギトは涙で腫らした目でスカリエッティを睨みつけたまま、罵倒したが、スカリエッティは表情一つ変えようとしない。

そればかりか、アギトの罵倒をまるで、褒め言葉を受け取ったかのように、涼しい顔で受け止めていた。

 

「私は“クアットロ”の計算を元に、君達の探しものである『No.11』の現在地の“予測地点”としてあの世界の情報を君達に提供しただけだよ。それにレリックを探し求めるのに多少生命の危険を伴うのは、今に始まった事ではない。今回の一件は単にミスターゼストの”運が悪かったのだよ…」

 

「「「ッ!!!?」」」

 

最後までルーテシアやアギトの為に戦い、そして彼女達を想い散った誇り高き武人…ゼストの死を“運”の一言で片付けるスカリエッティの薄情さに、アギトだけでなく義弘や宗茂の顔にも憤りの色が浮かんだ。

 

「ともあれ…島津義弘殿に立花宗茂殿。ルーテシア達の窮地を救っていただいたのが、貴方方、西軍の将だったのは実に幸運な事だった。改めて、西軍の同盟相手として礼を言わせてもらうよ」

 

「この期に及んで、見え透いた世辞の礼ば、必要なかとね。そげん気持ちのこもっちょらん礼ば、逆に不愉快じゃて」

 

一応は礼を言いながら頭を下げるスカリエッティだったが、義弘も宗茂も不信感を隠さない眼差しで睨みつけていた。

それを見かねた大谷が珍しくスカリエッティを窘めた。

 

「スカリエッティよ…そうこれ以上、島津や立花を挑発するでない……その“ゼスト”なる武人が如何なる人となりであったのか我らにはわからぬが、かの者はそこにいる西国の“鬼島津”そして“大友の盾”をも認めさせるだけのものを持っていたのであろう。それだけ高潔な武人を愚弄することは、そこなる2人の武人を愚弄する事と同じ。左様な事で、西軍(われら)の貴重な味方が減ることになっては困るのでな…」

 

義弘はアギトを宥める役割を宗茂に任せ、一歩前に進み出ると、尋ねた。

 

「にしても大谷どん。一体、おまはんらは何を企んどるね?この日ノ本とは異なる“みっどちるだ”なる国で、こげん連中とつるんで天下ば取ろうっちゅうんか? おいには、おまはんらがやりたい事の意味がまったくわからんね」

 

義弘にとっては、西軍とゼストの言っていたスカリエッティなる男とが同盟を結んでいたという事実でさえ、些か信じられない気持ちであった。

ゼストを介錯した後、転送ポートから無事にミッドチルダに戻ったルーテシア達、そして義弘と宗茂を待っていたスカリエッティが寄越した迎えのガジェット・ドローンの編隊の中に西軍の大谷吉継、皎月院の姿があった時は驚きを隠せず、また、大谷達としても義弘と宗茂がいた事に少なからず動じている様子を見せていた。

そして、義弘達は自分達がここにいる経緯を語り、大谷達からこの世界の事情と、スカリエッティと西軍との繫がり、そして西軍がこの世界で起こそうとしている事について一通り聞かされる事となった。

それでも、自分達とは縁もゆかりもないハズの、このミッドチルダで天下分け目の戦の続きを起こそうという大谷達の意図は、何度聞いても理解できなかった。

 

「我らが総大将 三成の目的は東の大将 徳川家康の首一つ…その家康がスカリエッティの敵である時空管理局と手を組んだとなれば、それ即ち、貴奴らも西軍(われら)の敵…理由としては理に適おう?」

 

「……大谷殿の理屈はたしかに理には適っています。しかし…本当にそれだけの理由で手を貸すというのですか?」

 

アギトを抱えたまま宗茂が訝しげるようにして尋ねる。

すると、今まで静観していた皎月院が長煙管を片手に不敵に笑みを零した。

 

「…相変わらず、アンタ達も一筋縄でいかないねぇ。 わかったよ。アンタ達は何が欲しいのか言ってみな。聞ける範囲なら応えてやるよ」

 

「……おい達の望みばふたつ…このゼストどんの“首”と形見の槍ば、おい達に預からせてもらおう。語り合ったのは僅かじゃったが、おいにはわかる…ゼストどんは、長い間戦に生き、そして数え切れぬ程の苦難を越えてきたまっこと強か漢じゃ…せめて安らかに眠らせてやろごたね」

 

「……そして、ルーテシア殿とアギト殿の身柄は、我々がゼスト殿の後を引き継いで引受けさせていただきたい」

 

義弘、宗茂がそれぞれ言った要求に皎月院もスカリエッティも予想通りの答えが来たと言わんばかりに余裕の笑みで返した。

 

「そういう事ならお安い御用さ…わちきらがアンタ達の要求を呑むのなら…アンタ達も引き続き、西軍についてくれるのだね?」

 

皎月院が牽制するようにそう尋ねると、義弘が毅然とした表情で返した。

 

「……勘違いするでなか。おい達ばゼストどんの最期の頼みに応え、このルーどんの望みば、叶えてやろう思っとうだけじゃ。ルーどんがおまはんらと協力しとぅ間は、おい達も力ば貸すが、それも全てばルーどん、アギトどんの為じゃ。何を考えとぅか知らんが、決しておまはんらの企みなんぞに協力するつもりなどは毛頭なかね。スカリエッティとかいったな? 青二才。おまはんもそげん事ば、肝に銘じちょれよ?」

 

義弘は、ゼストの残した言葉、そして今しがたのやりとりから、既にスカリエッティに対して不信感しか抱いていない事が伺えた。

だが、スカリエッティはそんな事を気にする男ではなかった。

 

「…つまり、私がルーテシアの味方である限りは、貴方方も私の味方でいてくれるというわけだね? それならば、心配する事はない。私はルーテシアを裏切るつもりも無ければ、切り捨てるつもりもない。お互いの目的の為…今後とも良い関係を築いていくつもりだ」

 

「…その言葉…二言はございますまいな?」

 

「……勿論」

 

宗茂が念押しで尋ねると、スカリエッティは頷いて応えた。

すると、その様子を見ていた皎月院がニヤリと冷たい笑みを浮かべた。

 

「話は決まったね。それじゃあ、島津と立花にはこのガキ共のお守りになってもらう事でいいね? 刑部?」

 

「よかろう…」

 

大谷も頷き、話は無事に纏まった。

すると、皎月院は一連のやり取りを無表情のまま見つめていたルーテシアを見据えながら、話し出す。

 

「それにしても…このルーテシアとかいう小娘も随分、冷たいもんだねぇ…自分の親代わりになってた奴が死んじまったというのに、涙ひとつ流さないのかい?」

 

「テメェ! ルールーをバカにすんじゃねぇ!!」

 

皎月院の嘲ける口調にアギトが食ってかかる。

一方、義弘は肩をすくめながら、啖呵を切って返す。

 

「皎月院とやら。おまはん、人の心ば読むんが上手いっちゅう噂じゃが…それも欲望や野心といった汚い心に限られとぅようじゃな。おまはんはわかりゃせんかね? ルーどんの瞳の奥に溢れとぅ、深い“悲しみ”が…」

 

「悲しみ?」

 

皎月院がバカにするような口ぶりで聞き返した。

 

「何があったぁか知らんが、ルーどんはおのが感情を表現できんよぅなっとる。じゃが、その瞳の奥には、ゼストどんの死を悲しみ、悼んどぅ気持ちがしっかりと宿っとる。それば、こん子の瞳ば見ればわかるとね。こん子は大切な人ば死を悲しむ事のできる、優しい子じゃて」

 

「…義弘の…じっちゃん」

 

ルーテシアの事を高く評価し、同時に信頼し、庇ってくれる義弘に、アギトは嬉しく思った。

出会ったばかりの自分達をここまで言ってくれる義弘の優しさに、亡きゼストの面影が重なって見えた気がした。

 

「話ば終わりじゃ。約束通り、ゼストどんの“首”と形見ば、おい達が引き取らせてもらうね。行こか、宗茂どん、ルーどん、アギトどん」

 

「はっ! では手前共はこれにて御免!」

 

「………………」

 

義弘がそう言ってルーテシアとアギトを促し、宗茂が台座から布包みと槍を慎重に手に取ると、4人はそのまま踵を返して部屋を出ていった。

その様子を見送りながら、皎月院は呆れるように溜息を漏らした。

 

「全く…相変わらず無骨な連中だねぇ。あの腕っぷしは本物と認めるけど、性格はわちきが嫌いな類だよ」

 

「まぁ、そう申すな。なにはともあれ、“鬼島津”と“大友の盾”を一度に手に入れられたのは思わぬ大収穫。あのルーテシアなる小娘を上手く使えば、あの2つの九州最強戦力は我らの思いのまま…そうであろうな? スカリエッティ…」

 

「あぁ。ルーテシアの事は私に任せておいてくれたまえ。彼女は私にとってもよい『研究素体』であるのだから…上手く西軍の為に動いてもらうようにしてみせるよ…フッフッフッ…」

 

スカリエッティの含み笑いには陰湿で邪悪な意思が籠もっていた。

 

 

 

 

ミッドチルダ某所―――

深い山々や森に囲まれた山岳地帯…その中で一際高く、四方八方からこの壮大な光景を見渡せる山の頂近くにやってきた義弘、宗茂、ルーテシア、アギトは、

この地にゼストの首を埋葬する事を選んだ。

頂の岩壁近くに石を大量に積み上げた塚に、運んできたゼストの首を埋葬し、愛用していた槍型デバイスを墓標代わりに立ててあげた。

 

「ふぅ…これで一先ずは首塚としての体は成りましたな」

 

「おぅとも。まっこと武人に相応しい墓ね…」

 

完成した首塚を満足そうに見ていた宗茂と義弘。

そこへ、席を外していたルーテシアが戻ってきた。

その手には一輪の小さな白い野花があった。

 

「?…それは?」

 

「お花……ゼストに備えてあげたい……」

 

ルーテシアは呟くようにそういうと、首塚の前に花を備えてあげた。

その様子を見ていた義弘も小さく頷き、ルーテシアの横に立ち、大徳利を取り出すと、静かに中身の酒を墓標代わりのゼストの槍にかけ流してあげた。

 

「ゼストどん。後の事ば、おいらに任せんね…安らかに…眠りんしゃい」

 

「貴殿とは、もっと早く相見えたかったです…きっと良き“剣友”になった事でしょう」

 

ゼストへの送り酒をかける義弘の後ろで、宗茂が静かに合掌しながら哀悼の意を示した。

そこへアギトがゆっくりと近づいてきた。義弘は酒を収めると、静かに語りかけた。

 

「アギトどん…おまはんはおいが憎かね? 介錯とはいえ、ゼストどんに手をかけたのはおいじゃ。おまはんがおいを恨んでも仕方なかね。仇を討ちたくば遠慮せんとかかってきんしゃい」

 

「…島津殿」

 

宗茂は、義弘とアギト。両者の間に流れる緊張感の含んだ空気を不安な面持ちで見守っていた。

だが、アギトは頭を横に振った。

 

「……いや。あたしにその気持ちはない。寧ろ感謝してるよ…じっちゃんや宗茂の旦那は、あたしやルールーを助けてくれたし、ゼストの旦那の頼みを聞いて、代わりにあたしらに協力すると言ってくれたんだ。その気持ち、嬉しかったよ…」

 

「……さよか」

 

義弘はそういうと、改めて両手をあわせて黙祷を捧げると、それにならってアギト、ルーテシアも手をあわせた。

ふと、ルーテシアの顔を見ると、その感情の薄い表情に変化はないが、目元には微かに涙が浮かんでいるのが見える。

義弘は改めて、ルーテシアが今抱えている“悲しみ”が痛いほどよくわかる気がした。

 

「……ルーどん。改めて聞かせて欲しかが、おまはん達は、どしてその『れりっく』の『11番』なるものを探しちょるんじゃ?」

 

「……………母さんを取り戻したいから……」

 

ルーテシアが静かに言った。

 

「御母堂様を…?」

 

宗茂が尋ねる。

ルーテシアは頷きながら言った。

 

「母さんは…ドクターの研究所の中でずっと眠ってる…でも “11番”のレリックを使えば、目覚めてくれるって……だから私は…アギト、そしてゼストと一緒にドクターに力を貸してレリックを探していた……」

 

「なるほど…それで、此度はわざわざあの地に出向いて……」

 

「でも…あたしはどうしてもあの野郎(スカリエッティ)が信用できねぇんだ! その“11番”のレリックを使えばルールーのおふくろが目覚めるなんて吹き込んだのだってアイツだけれど、それも本当なのか確かな保証もねぇ! それにアイツらと関わる度にルールーは感情に乏しくなっちまってる!きっと何かされてるんだよ! その上、今日だって…あたしらの大事なゼストの旦那の死を『運が悪かった』だけで片付けやがって………っ!!」

 

話しながら、アギトの声が徐々に涙声になっていった。

アギトは、元々“融合型デバイス”という稀有な存在として研究施設で非人道的な扱いをされていたところをゼストとルーテシアに助けて貰ったのだと聞いていた。

アギトにとって、ゼストやルーテシアは『仲間』という関係では言い表せない程の絆があったのであろう…

 

「………………」

 

その時、話を聞いていた義弘がそっとアギトの傍に手を差し伸べた。

いきなりの事にアギトは慌てた。

 

「じ、じっちゃん…!?」

 

「辛かろう…」

 

義弘が憂い顔で言った。

 

「!?」

 

「おまはんらは、ルーどんの為に、ゼストどんと共に苦楽を共にして闘ってきたんじゃ。さぞ、今の心は寒かったろうに。じゃって…遠慮ばせんとよかね。思いっきり泣くがよか」

 

義弘の言葉に、アギトの積もりに積もった感情が、大量の涙になって両目から溢れ出してくる。

 

「!? …う……ううぅ……うわああああぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

アギトは義弘の差し伸べた手に縋りつきながら思いっきり泣いた。

すると、それを見ていたルーテシアが義弘に近づいて、言った。

 

「義弘」

 

「ん?」

 

「………私も……ちょっとだけ……泣いてもいいの…?」

 

感情を上手く表に出せない自分はどう表現すればいいかわからない。でも今は、悲しみたい…

自分の心の中に微かに灯る感情の明かりをどうにか点ける手立てを模索しようとするルーテシアの健気な姿に義弘は優しく頷いた。

 

「よか……“泣く”事もまた…人ば強く生きる為に必要な大事な道じゃ……」

 

ルーテシアの頭に手を乗せながら、義弘はそう諭した。

ルーテシアは義弘に縋り付くと声を殺して泣いた。

彼女達を黙って受け止める義弘も、その様子を見守る宗茂も黙ってそれを受け入れ、そして見守る。

それから、ルーテシアもアギトも思いの丈をぶつけるように泣き続けた…

 

 

「ごめん……じっちゃん…旦那…」

 

しばらくして…思う存分泣き続けたアギトはようやく落ち着きを取り戻すと、バツが悪そうな顔で義弘と宗茂に謝った。

柄にもなく、大泣きした事が今になって恥ずかしくなってきた様子だった。

ルーテシアも相変わらずのポーカーフェイスだったが、その頬は僅かばかし赤らんでいるようにも見えた。

だが、義弘も宗茂も優しく頷いて受け止めていた。

 

「気にせんね。どうじゃ? 思いっきり泣けばすっきりしたじゃろ?」

 

「我が主も、心燻りし時にはよく泣いておられましたからな……まぁ、あの人の場合。泣き方が大げさでちょっと鬱陶しいけど……」

 

義弘と宗茂の穏やかな言葉に、アギトの顔は自然と朗らかなものとなっていく。

その目にはさっきまでの悲しみの念は残っていなかった。

 

「義弘……? 宗茂……?」

 

不意にルーテシアが2人に声をかけた。

 

「ん? なんね?」

 

「本当に……2人は、ゼストに代わって私に力を貸してくれる?」

 

改めて尋ねてくるルーテシア。その目線には僅かばかしの心配の気持ちが残っているようにも見えたが、義弘も宗茂も微笑みながら応えた。

 

「当然じゃ。ゼストどんと約束したんじゃ、この鬼島津。『示現』の名にかけて、おまはんとアギトどんを守り抜くと。のぅ、宗茂どん」

 

「はい! 手前もこの“雷切”に誓って! ゼストどののご遺志を守って、貴方を御守りしんぜましょう!! ……正直。宗麟様よりも“何万倍”もまともなご主人様ができてワシ超嬉しいの!」

 

義弘と共に格好良く宣言してみせた宗茂だったが、つい言葉の最後に心の声が出てきてしまった。

その声はアギトの耳にも届いていた。

 

「ん? 今、なんか言った? 宗茂の旦那」

 

「えっ!? い、いやあの! き、気のせいです! 気のせいですよ! うん!!」

 

慌てて、必死に誤魔化す宗茂。宗茂はその武人然とした性格の反面、心の中で色々と呟くのがクセになっているのだが、偶に気の緩みからそれが言葉になって口から漏れてしまう事も少なくなく、それが宗茂にとっての悩みのひとつとなっていたのだった。

 

「…………フフッ」

 

そんな慌てふためく宗茂を見ていたルーテシアの口元がほんの一瞬だけ吊り上がったのをアギトは見逃さなかった。

 

「ッ!? ルールー!? お前…今笑って…?」」

 

「………何? アギト…」

 

アギトは驚いた様子で確認したが、ルーテシアの顔はいつものポーカーフェイスに戻ってしまっていた。

どうやら、ルーテシア自身も自覚のない笑顔だったのかもしれない。

しかし、確かに一瞬だがルーテシアが笑ったのを見たアギトは心の中で確信した。

 

(できる…!義弘のじっちゃんと宗茂の旦那なら…ルールーを変える事ができる…!!)

 

アギトの胸に一握の希望が宿るのを尻目に、義弘は地面に突き立てていた大剣を引き抜いて担ぎ上げた。

 

「それじゃ、行くとするかね。宗茂どん、アギトどん、ルーどん」

 

「はっ!」

 

「おうっ!」

 

「………うん」

 

義弘がルーテシアを、宗茂がアギトをそれぞれ肩に乗せると、4人は山を降りていく…

 

この日、ゼスト・グランガイツというかけがえのない仲間を失った幼き召喚士 ルーテシア・アルピーノだったが、同時に島津義弘、立花宗茂という新しい仲間を手に入れる事ができた。

一つの大きな悲しみを経験しながらも、人間としての温かい情と崇高な“義”を目の当たりにした彼女の凍てついた心は、少しながらも氷解したかのようだった…




リブート版初の完全新作ストーリー如何でしたでしょうか?

StrikerS原典でもそれなりに重要キャラだったゼストを早々に退場させてしまったのは少々申し訳ないような気持ちもありますが…最初から未登場だったオリジナル版よりはキャラクターへの敬意が示せたかなと思います。

さて、次回からはリリバサ最初の長編『家康VS幸村編』になります。
これまで以上に改変すべき箇所が増えてくると思いますが、なんとか早く皆様に読んでいただけるように頑張りますので、宜しくおねがいします。
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