リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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後藤又兵衛…そして黒田官兵衛の襲撃という予想外の事態に見舞われた機動六課。
この窮地を前に幸村は、スバル、エリオ、そして宿敵・家康と共闘する事を決意する。

一方、自分の思惑とは違う展開に焦る官兵衛に六課メンバーの執拗な追撃が襲う。
果たして、2つの激闘の行方は……?

小十郎「リリカルBASARA StrikerS 第十三章 出陣だ!」


第十三章 ~凶刃を返り討て! 燃える2つの虎の魂~

「死ねぁぁぁぁぁっ!」

 

又兵衛の叫びと共に奇刃が投げつけられ、家康達にめがけ、ブーメランのように回転しながら飛んできた。

 

「伏せろ!」

 

すかさず家康が声を上げ、その声を聞いてすぐにその場に屈みこむスバル、エリオ、幸村の頭上を奇刃が大きく軌道を描いて飛んでいく。

 

「ちっ!」

 

「隙あり!」

 

攻撃を外して舌打ちをする又兵衛に、家康が拳を打ち込もうとする。

しかし、又兵衛はバックステップでそれを回避しながら戻ってきた奇刃をキャッチすると、再度家康に向かって踏み込みながら奇刃を薙ぎ払う。

それを察すると、家康は身体を横に回転させて薙ぎ払いを避ける。

それでもなお家康に追い打ちをかけようとする又兵衛だが、そこに今度は幸村が割って入り、二槍でそれを食い止める。

 

「後藤殿! 貴殿には申し訳ないが、これ以上其が恩義あるこの『機動六課』の皆に凶行を及ぶのあれば、この幸村腹に据えかねる! 尋常に勝負なされよ!」

 

「あぁ? なぁに気取った事言ってんですかぁ~? 裏切り者風情がよぉぉぉぉっ!!」

 

又兵衛は怒鳴りながら幸村に向かって奇刃を突き出してきた。

幸村はそれを弾くと、力を大きくこめて槍を振るう。

猛攻に転じた幸村の実力は強く、又兵衛はさっきのように思うように攻撃が効かない事に苛立ちを隠せずにいた

防戦一方になる又兵衛に、横からエリオが乱入する。

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

エリオが自慢の高速な動きを生かした槍裁きで又兵衛を追い詰める。

 

「このクソガキがぁ! おとといきやがれってんだ!!」

 

「僕はクソガキじゃありません!」

 

又兵衛の罵りを、毅然とした態度で言い返しながら、又兵衛の急所を狙い、ストラーダで突いていく。

しかし…

 

「は~い! 引っかかったぁぁッ!!」

 

突然、又兵衛が叫んだかと思いきや、その全身に黒白い稲妻が走り、両手を地面に打ち付けたかと思いきや、エリオの周囲に正方形の檻が地面から生えて出現した。

 

「こ…これはっ!?」

 

突然の事に戸惑うエリオに対し、又兵衛は檻の隅の大柱の上によじ登ると、中に閉じ込められたエリオを見下ろして、ニタァと湿っぽい笑みを浮かべる。

 

「ケッケッケッ…処刑だ、処刑だ、処刑だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

又兵衛は叫びながら、檻の中に飛び込むと、そのまま執拗に奇刃を乱舞し、エリオを追い詰め始めた。

 

「このっ――アアァァッ!?」

 

ストラーダを構えて攻撃を防ぎながら、後退するエリオだったが、檻の隅まで退いた時、僅かに背中が柵に触れた途端、強烈な電流が全身を走り、思わず苦悶の悲鳴を上げる。

 

「ケーッケッケッケッ! この檻は俺様の特製の檻でねぇ。下手に柵に触っちまったら、ビリッビリッビリ~ッ! テメェは忽ち丸焦げになっちまってお陀仏だよぉ~!」

 

「エリオ!」

 

スバルが檻の外からリボルバーナックルで殴り、破壊しようとするが、忽ち強烈な電磁波が全身を走り、スバルの身体を跳ね返してしまう。

 

「ああぁぁぁぁっ!?」

 

「スバル!」

 

吹き飛ばされたスバルだったが家康が抱き止める。

 

「大丈夫か!?」

 

「は、はい! でもエリオが…」

 

スバルがそう言って、檻に閉じ込められたエリオを案じる。

檻の中ではどうにか又兵衛の猛攻に耐えながら、柵に触れないように足を踏みしめるが、又兵衛はそれを見越してか、足を重点的に狙い、奇刃を振り回してくる。

――その最初の1発目の回転斬りでエリオは守りの構えを弾かれてしまう。

そして2発目がエリオの顔に目がけて振り回らされる。

すかさず身体を後ろにそらせて回避しようとするエリオだが、その拍子で一瞬の隙が生じてしまった。

 

「しまった!」

 

「はい、死んだぁ!!」

 

又兵衛がその一言と共にエリオの身体を一刀両断にせんと3発目の薙ぎ払いを繰り出し、エリオの小さな身体を柵に向かって打ち飛ばした。

確かな手ごたえと共にエリオの身体は、体重などを無視し、軽々と檻の柵へ向けて吹き飛ばされ、もろにその身体を柵に預けてしまう。

 

「が、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

「「エリオ!」」

 

黒白の電流がエリオを襲い、苦悶の叫びを上げるエリオに、家康とスバルが檻の外から悲鳴のような声を上げる。

又兵衛はそれを気持ちよさそうな面持ちで聞き入っていた。

 

「ケーヒッヒッヒッッ! やっぱり、生意気なクソガキ程、いい声で泣くねぇ~~ッ!」

 

その姿を見て家康の表情に怒りがこみ上げてくる。

 

「又兵衛…お前という男は……どこまで卑劣なんだ!!」

 

「あぁぁっ? 卑劣も、飛脚もあるかぁ~!? 先手必勝! やられる前にやるのが、俺ら“流浪”のやり方だぁぁぁっ!」

 

家康が怒りを露わにしながら又兵衛を罵倒すると、さも当たり前のように開き直って返す又兵衛。その時―――

 

「紅蓮脚ぅぅぅぅぅっ!!!」

 

槍を軸のように地面に突き立て、自身の身体を独楽のように回転させながら幸村が炎を纏わせた足で檻の柵を蹴り破り破壊する。

自らの檻が破られた事に動揺しながら、又兵衛はそのまま回転したまま突っ込んでくる幸村を避けると、そのまま数十メートル程後方まで飛び退いた。

 

「エリオ殿! 大丈夫でござるか!」

 

バリアジャケットが所々、黒焦げになり、微かに電流を走らせながら、地面に倒れ伏すエリオの下に、幸村が駆け寄る。

 

「バァ~カ! あれだけ、もろに電流食らってたらもうお陀仏だよぉ~~ッ!!」

 

又兵衛は勝ち誇るようにそういった。

だがその直後、倒れ伏していたエリオがゆっくりと身体を起こした。

 

「「「「!?」」」」

 

「ぼ、僕は……大丈夫です…」

 

バリアジャケットの焦げ付きの他、打ち飛ばされた際に、上着の胸の辺りを斬られて掠った程度の切り傷があったものの、エリオは命に別状がない様子だった。

エリオは雷属性の魔力変換体質の持ち主であり、雷に対する耐久性が人一倍に強かった事が幸を成していた。もしもこれが、エリオのような体質の持ち主でなければ、最悪死に至っていたかもしれない。

エリオの無事に幸村や、家康達は安堵するが、又兵衛は不愉快と苛立ちとで、更に歪んだ表情に変わる。

 

「命冥加なガキがぁぁぁっ! 殺す! 絶対殺してやるうぅぅぅぅ!!」

 

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

又兵衛は怒りの声と共に奇刃をエリオに向かって投げようと構えるが、そこにスバルが飛びかかってきて、又兵衛の顔面に目がけてリボルバーナックルを振り下ろす。

 

それを瞬時に回避した又兵衛は先ほどエリオに使った奥義『逆上遊下の牢獄』に今度はスバルを閉じ込めようと、身構える。

しかし、エリオと違ってスバルは家康から直接手ほどきを受けており、さらに先程のエリオに対する攻撃の一部始終を見ていた為、又兵衛が攻撃を繰り出す前に懐に飛び込んで一撃を食らわせるのは実に容易いものであった。

 

「はああああああぁぁぁぁ!!」

 

スバルは又兵衛の目の前でかがむと、姿勢を起こしながら、金色の“気”のオーラを纏わせたリボルバーナックルを又兵衛の顎に向かって打ち込み、真上に打ち上げた。

 

「なっ!? …はぁっ!?」

 

「覚えておいたほうがいいよ。 戦いでは二度も同じ手が通じる事なんて絶対にないってね!」

 

スバルはそう言いながら着地すると、カートリッジを3発リロードさせながらリボルバーナックルを構えた。

するとリボルバーナックルから魔力の蒼いオーラと“気”の金色のオーラの両方が混ざった独特な色合いのオーラが放たれる。

 

「スピットバンカー!」

 

スバルが技名と共に落下してくる又兵衛に向けて正拳を放つと、魔力と気の組み合わされた螺旋状の風圧が又兵衛を更に吹き飛ばした。

 

「ぐばあああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

その技に幸村は見覚えがあった。

 

「あっ…あれは家康殿の『天道突き』!? 一体どうしてスバル殿が!?」

 

「あれはワシも教えた覚えは無い筈…スバル…何時の間にあの技を!?」

 

師である家康もスバルが自分の『天道突き』を見よう見まねで覚えていた事に動揺する。

それもスバルの繰り出した天道突き…『スピットバンカー』は魔力も組み合わさった事で、衝撃の力がより強くなっていた

師弟関係を結んでからまだ数週間しか経っていないながらも、ここまでスバルが自分の教えを身に付けていた事に家康は驚きと共に感心した。

 

「て…て…テメェ……やりやがったなぁ……!」

 

又兵衛がふらつきながらも立ち上がり、家康達を睨みつけた。

 

「テメェらぁぁ…絶対に……ブッ殺スウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

半狂乱の咆哮を上げながら、又兵衛はスバル、そして後方にいる家康達目掛けて飛びかかってきた。

 

 

その頃、官兵衛は訓練所の端の自分達が最初に潜入した場所の近くまで転がり着いていた。

 

「がはぁっ!」

 

訓練所の果ての防波堤にぶつかる事でようやく止まった官兵衛はフラフラになりながら立ち上がる。

だが、そこへ小十郎を先頭にフェイト、ヴィータ、シグナムの4人が駆けつけてくる。

 

「もう逃げ場はねぇ…おとなしく観念するんだな。黒田官兵衛!」

 

「くそっ……」

 

黒龍を向けながら降伏を勧告してくる小十郎に、悔しげに歯を食いしばりながら、どうにかこの状況を打破する方法を考える官兵衛。

だが、そこへさらに、遅れて政宗、なのは、はやても駆けつけてきた。

政宗は小十郎の隣に立ちながら、六爪の一刀を向けて、勝ち誇った様に言い放つ。

 

「テメェが連れてきたEgg machine(ガジェットドローン)共も、もうじき猿飛とフォワードの2人(ティアナとキャロ)が片付けちまいそうだぜ! 後はテメェとテメェの手下のlizard野郎だけだな!」

 

「だから、あれは小生の差し金じゃなくてだなッ!! …畜生! きっと、“皎月院”か、 “スカリエッティ”とかいうあの底意地悪そうな白装束野郎の仕業だな!!」

 

「Ah? 皎月院…?」

 

「ッ!? スカリエッティ!!?」

 

官兵衛の口から出た2つの人物名…“皎月院”と“スカリエッティ”という名前に政宗、フェイトがそれぞれ反応を示した。

政宗の方は訝しげる様な口調で尋ねたのに対し、フェイトはまるで摩利支天の敵の名を聞いたかのように驚愕と敵意の念が顔に浮かんだのを傍らにいた小十郎は見逃さなかった。

 

「貴方達! スカリエッティとどういう関係!? どうして貴方が彼の名を口に出したの!? 答えなさい!」

 

フェイトは今まで家康達の前で見せたことのなかった程の激情を顔にさらけ出しながら、バルディッシュを強く握り締め、魔法刃の鋒を官兵衛に向けた。

 

「フェイトちゃん! 落ち着いて!」

 

彼女らしからぬ行動に傍らにいたなのはが思わず宥めに入る。

一方、フェイトの気迫に若干慄きながらも官兵衛は、開き直るように鼻を鳴らした。

 

「はん! 小生の話を聞く耳も持たない奴に説明してやるなんて、ちと不公平ではないのかい? そんなに聞きたかったら、小生を……否、ここは我が黒田軍最終兵器“角土竜”を倒してから聞いてみる事だな!…っとは言ったものの、上手く掘り進んできてくれよ…」

 

官兵衛はそう言うと指笛を鳴らす。

するとどこからともなく、ゴトゴトと振動が生じ、何か地中から這い出てくるような轟音が聞こえてきた

 

「な…なにが…?」

 

なのは達が身構えながら警戒していると…

 

 

ドゴオオオオオオオォォォォン!!

 

 

突然、地面を突き破り、一台の大型トラック程の大きさの奇怪な外見の重機が姿を現した。

巨大な歯車のような形の車輪に、前方にはブルドーザーのシールドのような形の盾、後方には何故か巨大なゼンマイが設置されていた。

これこそ、黒田官兵衛の開発した隧道採掘重機兼巨大兵器“削岩重機(さくがんじゅうき) 角土竜(つのもぐら)”である。

その最大の武装は、車体上部に取り付けられた一対二本の巨大螺旋槍(ドリル)…が地中から現れたそれは、何故かボロボロになって既に使い物にならなくなっていた…

 

 

「って、あれぇぇぇっ!? か…肝心の螺旋槍(ドリル)がぶっ壊れてんじゃねぇか!! やっぱり無理やり穴掘らせたのがマズったか!!?」

 

大手を振って呼び寄せた割に、締まらない登場をした“最終兵器”に、政宗達もなのは達も、今しがた激昂していたフェイトでさえも思わず呆気にとられ、そして呆れ顔で見つめていた。

 

「おい。それがおたくの“最終兵器”ってやつか? 随分とまたjunkな最終兵器じゃねぇか」

 

政宗が特大の皮肉をぶちかますと官兵衛は顔を真っ赤にしながら震えた。

 

「う、うるせぇやい! …っていうか、なんでここの土地メチャメチャ地盤が硬いんだよ!? これじゃあ、小生の角土竜だって掘り進めたらこんな事になっちまうだろうが!!」

 

「自分からそんなもん持ち込んできといて、何言ってんだよお前!!?」

 

訓練所の地盤の硬さに怒る官兵衛の理不尽な言い分に、思わずヴィータがツッコんだ。

そんな官兵衛のやり取りを見ていた、なのはとはやては念話でこんな会話を交わす。

 

(な…なのはちゃん。あの官兵衛って人…もしかして相当、“アホ”なんちゃうか?)

 

(は、はやてちゃん! いくら敵でもそこまで言ったら失礼……かな…?)

 

最早、半ば“アホ”扱いしつつあるなのは達の心中を察したのか、官兵衛は半ば自棄気味に主武装の壊れた角土竜…否、この場合“角”がないから唯の『土竜』と呼ぶべきか…とにかく自慢の最終兵器へと乗り込んでいった。

 

《畜生!! やってやる!!》

 

キュイイィィィィィィィィィィィィィィ!!

 

角土竜の車内から官兵衛の声が聞こえてきたかと思いきや、角土竜は政宗達に目がけて猛スピードで突っ込んできた。

 

「みんな、避けて!!」

 

いくら主武装がないとはいえ、巨大な鉄の塊が猛スピードで突っ込んできたら、いくらバリアジャケットや防具を身に着けていても、生身の人間が食らったらひとたまりもない。

はやてが叫ぶと、皆がそれぞれ空や横に向かって飛んだり、避けるなどして角土竜の特攻を回避した。

 

「この…叩き潰してやる!!」

 

しびれを切らしたヴィータが角土竜の暴走を止めようとグラーフアイゼンを再びギガントフォルムにして、正面から突っ込んでいく。

しかしなのはは、すぐにこの攻撃が無茶であると気付いた。

 

「ヴィータちゃん! ダメッ!」

 

なのはが叫んで、ヴィータを止めようとしたが一歩遅く、轟音と共にヴィータは突進する角土竜に弾き飛ばされ宙に舞った。

 

「うわああああああああああああああ!!」

 

「ヴィータ!!」

 

落下してくるヴィータをはやてが受け止める。

すると地上にいる政宗と小十郎がヴィータに向かって忠告した。

 

「半壊してるといえ、あのgiantなbodyと、デタラメなspeedだ! 下手に攻撃すれば今みたいに弾き飛ばされてしまうぞ!」

 

「それに本体も何か特殊な鋼鉄が用いられているようだ。恐らく力任せに叩いてもあまり効果はなさそうだな…」

 

「じゃあ一体どうやったら…」

 

フェイトが政宗に対処法を聞こうとするが、そこへ半ば暴走したように走り回る角土竜が突進してきて、追い打ちをかけてくる。

 

《おらおらおらぁぁぁぁぁぁ! 螺旋槍がなくともコイツは十分使いもんになるんだよぉぉ!!!》

 

角土竜は壁や障害物にぶつかってはその場で車体を180度回転させて、再び一直線に突っ込んでいく…それをくりかえしながら、政宗達を追いたてる。

 

「くっ…こうなったら距離を保って、魔法を撃ち込んで止めるしかないね! 政宗さん! 小十郎さん! 2人には陽動をお願いできませんか!?」

 

角土竜の届かない高度まで飛び上がりながら、なのはは地上にいる政宗に呼びかける。

 

「簡単に言ってくれるぜ。コイツはあのEgg machine(ガジェットドローン)よりもheavyな相手だぞ?」

 

「そう言いながら、政宗様。戦う気満々のようですな…」

 

口では文句を言いながらも残りの5本の刀を抜き、六爪流の構えを見せる政宗に、小十郎が苦笑を浮かべながら隣に並び、黒龍を構えた。

その様子を見ていたなのは達は、今度は自分達の戦術を考える事にした。

 

「さて、なのはちゃん。 『魔法を撃ち込む』とは言うたけど、どうやってあのでっかい暴走ブルドーザーを止める? 小十郎さんの言う通り、半分壊れかけとはいえ装甲はかなり頑丈そうやから、適当な魔力弾では通じひんと思うんよ」

 

「それに私達は『リミッター』の問題もあるからね…」

 

はやてとフェイトがそれぞれ懸念すべき点について語った。

時空管理局の部隊には戦力の均一化を図るために戦力上限が設けられている。

それを守りつつ、六課の戦力を充実させるために隊長陣には『リミッター』と呼ばれる能力制限が施されている。例えば、なのは、フェイト、はやての3人は全員が魔導師ランクS以上の実力者であるが、『リミッター』によって普段はAAまたはAAAクラスまで制限されてしまっている。

この『リミッター』を解除することが出来るのは機動六課の“後見人”と呼ばれる三人のみ、しかも回数制限もある。

 

「…っとはいえ、安易にリミッターを解除するわけにもいかないし。それにここは私達の隊舎だからね。全力全開で撃ち込んで、隊舎も損壊させちゃったりしたら、マズイもんね」

 

なのはが苦笑を浮かべながら呟くと、フェイト、はやてにそれぞれ目配せして、それぞれに考えついた意思を確認する。

 

「…っとなると久しぶりに…」

 

「うん。“スリーフォーメーション”でいこか?」

 

なのは達はお互いの顔を見合わせて頷き合う。それは3人の中で良い打開策が考えついた事を意味していた。

一方、地上では伊達主従以外の標的が空中に退避したのを知ったのか、角土竜は政宗達の前方に回り込むと、エンジンを数回激しく空拭かせた後、猛スピードで突っ込んできた。

 

「政宗様!?」

 

流石にこれはマズいと察したのか小十郎が珍しく焦りの色の強い声を上げる。いくら、政宗とてあんな巨体の装甲車に真正面からぶつかれば、轢き殺されるのは間違いない。

しかし、そんな小十郎の心配を他所に、政宗は六爪を胸の前にクロスさせるように構えると、果敢に向かってくる角土竜に向かって駆け出して行った。

 

「PHANTOM DIVE!!!」

 

そして、飛び上がって身体を回転させながら六爪の片割れ(三刀)を斬り下ろし、青白い稲妻を纏わせた3本の刀で角土竜の盾を抑え込み、その進撃を止めてしまった。

その衝撃により、角土竜の盾は大きく亀裂が走ってしまった。

 

《ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!? な、なんてことすんだよおぉぉぉぉぉ!!?》

 

「今のうちだ!!」

 

政宗が真上にいるなのはに呼びかけると、なのは達はそれぞれ三角形を描くように政宗に食い止められた角土竜の周りを取り囲んだ。

それぞれカートリッジシステムや呪文を詠唱させる事で、展開した魔法陣に魔力を集積させていく。

そして、3人のデバイスの穂先がそれぞれ政宗に食い止められている角土竜に向けられると準備は整った。

 

「ディバインバスター!」

 

「プラズマスマッシャー!」

 

「クラウ・ソラス!」

 

3人が技名を唱えると同時に、それぞれのイメージカラー…桃色、黄色、白色の魔力砲が三方面から角土竜に向かって発射される。

その様子を見た、政宗は咄嗟に六爪を引きながら、バックステップで距離を取ると、そのまま小十郎と共にさらに後方に退避した。

 

《おのれ! 独眼竜! こうなったら、この角土竜の巨体でお前さんを押しつぶして…って、あれ?》

 

目の前の政宗にばかり目をとられていた官兵衛は、自分を取り巻く3人の魔導師達の存在に気がついておらず、ようやくそれに気がついた時、既に角土竜に3本の光の筋が届こうとしていた時だった。

その光筋の正体に気づく暇もなく、角土竜の車体に魔力砲が直撃した。

 

ドオオオオオオオォォォォォォン!!!

 

爆炎を上げながら、角土竜は木っ端微塵に粉砕されてしまった。

『リミッター』をかけられているとはいえ、時空管理局内でも屈指の才能高い若き魔導師3人が同時に放った魔力砲は、半壊した角土竜を破壊する事くらい容易い事であった。

 

「なぁぜじゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

爆炎の中から、またも鉄球と一緒に転がり出てきた所謂『ピンボール』状態の官兵衛が、角土竜の残骸と共に吹き飛ばされ、おなじみの悲鳴を上げながら、訓練所の中を疾走していった。

 

「……ほんま、ボウリングの球みたいに、よぅ転がる人やなぁ…」

 

冷や汗を浮かべながら呟くはやてに、なのはもフェイトも苦笑を浮かべながら頷くのだった。

 

 

官兵衛が苦肉の策で引き出してきた最終兵器『角土竜』が破壊され、官兵衛が3度目となる人間ピンボールを披露していた頃…

家康、幸村、スバル、エリオと戦う又兵衛の戦いも佳境を迎えていた。

 

「はぁ…! はぁ…! はぁ…!」

 

血と手汗、砂塵に塗れた奇刃を片手に又兵衛は息を切らせながらも、尚も衰える事のない殺気と憎悪を滾らせながら、対峙する家康達を睨みつけていた。

しかし、4対1という不利な状況下とほぼ休憩なしに激闘を繰り広げた結果、スタミナの方はそろそろ底が見えかけてきている事が伺い知れた。

幸村もそんな状況を見て取ったのか…

 

「後藤殿! 勝負はもうついたでござる! これ以上、無駄に事を構えても互いに利にあらず! 降伏めされよ!」

 

っと降伏を進めるが、又兵衛は更に憎悪の走った眼で幸村を睨み、そして叫ぶ。

 

「あの、さぁ…何ぃ調子こいちゃってんですかぁ! オマエェ!?」

 

叫びながら、又兵衛は地面を蹴って、幸村達へと急襲すると、奇刃をさらに力を籠めて無造作に振り回してくる。

地面を獣のように俊敏な四足歩行で疾走する又兵衛の猛攻に、家康達はそれぞれ防戦一方になる。

 

「ホント、もう…死ねよぉぉっ!! …徳川も…真田も…ガキ共も…死ねっ!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね!! 俺様をバカにする奴らは、みんっっな! 死ねぇエエエェェェ!!」

 

又兵衛の狂気的な叫びと、それに合わせてさらに加熱する猛攻に、家康、幸村だけでなく、共にその執念を間近で受けたスバルとエリオでさえも、思わず生唾を飲んだ。

 

「こ…この人……正気じゃないよ……ッ!?」

 

スバルは青ざめながら呟いた。

今まで自分が出会ってきた家康、政宗、幸村、小十郎、佐助…どの人物とも全く異なるタイプ…家康達が武士(もののふ)の善=光の部分を示しているとすれば、又兵衛はその真逆…武士(もののふ)の負の感情…憎悪、猜疑、殺意、欲望…その全てを禍々しくそして陰惨に凝り固めた狂戦士(バーサーカー)…そう表現するのが相応しいであろう。

 

「この姿も…戦国を生きる者の真…?」

 

同じく家康そして幸村の背中を見て、戦国に生きる猛将達の魂に感銘を受けていたエリオもまた、ショックを隠せずにいた。

一方、家康と幸村はこのまま狂乱した又兵衛を相手に小競り合いを繰り返しても、無駄に体力を削られていくばかりと直感して、どうにか攻撃を防ぎ、退きながらこの状況を打破する術を考えていた。

 

「家康殿! 何か良い知恵はないでござろうか!?」

 

「…………」

 

又兵衛の乱舞をいなしながら、家康は考える。

すると、何かをひらめいたのか、突然にハッと目を見開く。

 

「すまない! スバル、エリオ! 僅かな時でいい。お前達2人で又兵衛を引き止めて貰えないか?」

 

「えっ!? い、いいですけど…」

 

スバルとエリオが頷き、了承するや否や、家康は幸村の手を引き、疾風の如く速さで後方へと距離を空けて飛び退いた。

 

「家康殿…ッ!? 何を…っ!?」

 

「真田…この状況を打破するにはワシとお前…2つの “絆”を合わせる必要がある。ひとつ…ワシに手を貸してくれないか?」

 

「?」

 

戸惑う幸村に、家康は又兵衛に聞こえないように小声で、自ら考えた策を説明していく。

 

「このおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネ! キケケケキャアアァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

一方、又兵衛は最早、残像さえも残さない速さで奇刃を振り乱し、防戦を引き受けたスバルとエリオを着実に追い詰めていた。

2人とも既にダメージと疲れが限界近くに達しており、これを全て捌き切るのは難しくなっていた。

乱撃が時折、二人の腕や頬を掠って、小さな切り傷から血が噴き出してくる。

少しでも気を緩めてしまえば、腕の一本を切り落とされかねない状況に立たされていた。

 

「家康さん! そろそろ私達、限界です!!」

 

後方にいる家康に向かってスバルが悲鳴に近い声で呼びかけると、家康は丁度幸村に大方説明を終え、幸村がそれに頷いて了承したところであった。

 

「よし! よく頑張った! では、そのままお前達はワシが合図をしたら、そのままワシと真田の後ろに退け!!」

 

「「えぇっ!?」」

 

家康の指示に防戦姿勢のまま戸惑うスバルとエリオ。

 

「少し、派手にやるからな! お前達も巻き込まれないようにだけ気をつけろ!」

 

それだけ言うと家康は、幸村と共に、スバルとエリオを押したまま、こちらに向けて迫ってくる又兵衛に向かって走りながら、“気”を高めていく。

すると家康と幸村の全身に、少しずつ金色と紅蓮のオーラが纏わりついていく。

それは、先程の決闘の決着を付けた時に見せたものによく似ていた。

 

「徳川ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 真田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 死ね!死ネ!!死ネヤァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

それを知らずに又兵衛はスバル、エリオを押して、家康、幸村に近づいてきた。

そして、家康と幸村の目が光る。

 

「今だ! 2人とも、退け!!」

 

「「は、はいっ!!」」

 

家康の号令が飛び、スバル、エリオは又兵衛の乱舞の中に生じた僅かな隙きを見つけると、すかさず後ろの飛び退き、そのまま家康、幸村の頭上をバックステップで飛び越えながら、できる限り距離を空けて、後ろに下がった。

 

すると、家康と幸村は互いに背中を合わせるように立ったかと思うと…

 

「熱く…燃えたぎれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「門を象れ!! 熱き“絆”よ!!」

 

それぞれ意味深な掛け声を上げた直後、スバルとエリオの視界が突然、水墨画のような白黒と和紙のような風景へと変わり、さらに家康と幸村の回りには黒い墨の様な“気”のオーラが渦巻くように集中する。

そして、又兵衛が二人に斬りかかろうと頭上に差し掛かった時、2人が天に向かって手を掲げると共に、幾つもの風刃を伴った“気”のオーラが上昇気流の様に地面から突き上げられ、巨大な衝撃波となって襲いかかっていた又兵衛を吹き飛ばした。

そして、衝撃波が消えると共に二人の真上には、『背中に羽の生えた虎』と『小さなタヌキを伴った巨大な太陽』の墨絵と共に、ある一文が浮かび上がった

 

 

 

異虎東照婆娑羅図

 

 

 

「ぐはっ!!?」

 

又兵衛は衝撃波に吹き飛ばされるとそのまま地上数十メートルの高さまで舞い上がり、そして、その勢いのまま地面に落下していく。

 

「ぐぅ……まっ…まぁだ終わってねぇぇぞおぉ…っ!!?」

 

家康、幸村の大技に大ダメージを負いながらも、必死の執念で又兵衛は落下したまま姿勢を直し、そのままの勢いを利用して再度、家康と幸村に襲いかかろうとした。

だが、そこへ訓練所の端の方から思わぬ闖入者が割り込んできてしまう。

 

「どわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 誰か止めてくれえぇぇっ!!!」

 

ボウリング球……否、鉄球と一緒に高速で転がり続ける官兵衛であった。

 

「っ!? あ、あ、阿呆か――――っ!!?」

 

転がりながら迫ってくる官兵衛に、又兵衛は落下しながらもどうにか衝突を避けようと身体を捻ろうとしたが、運悪く二人はピンポイントで激突してしまう。

 

「「ぐぎゃっ!!?」」

 

間抜けな悲鳴を上げながら、又兵衛は官兵衛の回転に巻き込まれる。それと同時に、『西の二兵衛』を巻き込んだ“ボウリング球”はそのまま爪で弾かれたように、空高くに打ち上げられ、そのまま訓練所の敷地を越えて、海の果てに向かって飛んでいってしまった。

 

 

「阿呆官、テメェ! この野郎おおオオォォォーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

「なぜじゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 

又兵衛の怒りの叫びと、官兵衛の“決め台詞”がエコーをかけながら空に響かせ、“ボウリング球”は海の向こう…空高くへと飛んでいき、最後はキラリと星となって光りながら消えたのだった。

 

「「「「……………………ッ!?」」」」

 

思いもかけない戦いの幕切れに、家康、幸村もスバルもエリオも唖然としながら、2人の飛んでいった方向を見据えていた。

 

「真田!」

 

「大将!」

 

そこへ、官兵衛を追ってきた政宗やなのは達とガジェットの群れをどうにか駆逐する事のできた佐助達が駆けつけてくる。

いずれもバリアジャケットが砂埃で汚れ、それぞれ激戦だった事が伺えた。

一同を代表してなのはが尋ねてくる。

 

「家康君、幸村さん。ボウリングさん…じゃなかった。官兵衛さんと……なんとか兵衛さんは?」

 

「又兵衛か? いや、それが…」

 

家康が今しがた起きた事をどう説明すればよいか言いよどんでいると、スバル、エリオが苦笑を浮かべながら、代わりに説明した。

 

「えっと…なんか家康さんと幸村さんがいきなり2人で“背景を墨絵にしながらふっとばして”…」

 

「そこへ転がってきた“官兵衛って人がぶつかって、そのまま2人共、空の果てまで飛んでいって”しまって…」

 

「「「「「はっ?」」」」」

 

二人は目の前で起きた事をそのまま説明したが、何も知らないなのは達にとっては珍妙な説明でしかなかった。

そう言って指差した大空には当然、西の二兵衛達の姿はもうなかった。

スバルとエリオの珍妙な説明に、なのは達も政宗達も思わず呆気にとられる。

 

「…? どういう状況なの? それ…?」

 

ティアナが呆れながら尋ねた。

 

「えっと…な、なにはともあれ、窮地は脱したのでござるよ」

 

「そ、そう。そういう事だな! ハハハ…」

 

自分達でも説明のしようのない幸村と家康は一先ず、そう説明する他なかった…

 

 

 

 

家康、幸村の決闘は、黒田官兵衛、後藤又兵衛主従とガジェットドローンの編隊の乱入と襲撃という思わぬ結果で幕を下ろす事となった。

事の仔細を聞いたはやては直ちにロングアーチのグリフィスに連絡し、近隣部隊にも要請してもらい、隊舎近辺の湾岸エリアや空域を捜索したものの、官兵衛、又兵衛共に発見される事はなかった。

現場の検証を終えた家康達は、一先ず、対策会議を開く事になり、隊舎へと戻った。

そして、又兵衛との戦いで一番怪我の具合が重かったエリオと幸村の2人は念の為に医務室で検査を受ける事となり、皆と別に医務室へと足を運ぶ事になった。

 

「うん…二人共、傷も深くないようだし、身体の各種バイタルも正常……軽い手当だけで済みそうね」

 

診察用のイスに座ったエリオと幸村に対し、魔法や一般的な診察方法を交互に駆使して、診察・治療しているのは、白衣を着た金髪の女性…機動六課・後方支援要員(ロングアーチ)の主任医務官 シャマルである。その他の医者も看護師の姿も見受けられない。

シャマルはヴィータ、シグナムと同じ、元々ははやてを守護する守護騎士(ヴォルケンリッター)の参謀で、機動六課設立後は専ら医務官としてこの六課の医務室を一人で切り盛りしているのだ。だがその腕は抜群、内科・外科なんでも応対可能という万能な名医であった。

 

「それにしても、エリオ君は、今日は随分、貴方らしくない怪我の仕方してるわね」

 

「えっ!? そ、そうですか?」

 

右足に負った小さなたくさんの切り傷に治癒効果(ヒーリング)のある魔力光を当てられながら、シャマルが何気なく言った。

 

「えぇ。いつもなら、騎士として効率よく敵を打破する知的かつ鮮麗な戦いを好むのはずなのに、今日はガンガン前に出て戦ったって事が傷の付き方からわかるわ。まるでヴィータちゃんみたい」

 

シャマルはそう言ってクスリと笑った。

彼女の話を聞いていた幸村が素直な眼差しで称賛する。

 

「ほほぉ。怪我の付き方から患者の戦法まで見抜くとは…シャマル殿も大した戦術家でござるな」

 

「戦術家だなんて大袈裟ですよぉ。私は医務官として色々な魔導師の方を診察してきたり、はやてちゃんやシグナム、ヴィータちゃん達を支えたりして、自然に身についただけですから」

 

シャマルは照れ隠しで笑いながら、治癒魔法(ヒーリング)の施術を終え、魔力光を消し去りながら、魔法で消えきれなかった傷跡に魔法薬の塗り薬を塗っていった。

 

「いや。『常に将として前に出る事ばかりでなく、時には将の後ろに付いて回り、物事を見定める為の目を育む事も大事である』という事を、某も”親父様”からよく教わったでござる」

 

「親父様…?」

 

幸村の言葉に出てきた単語に疑問と興味を懐き、首をかしげる。

 

「ウフフ…はやてちゃんの言う通り、幸村君って本当に素直な子ね」

 

シャマルはすっかり気を良くした様子で、2人のカルテを書き上げると、それをファイルに収めて本棚に仕舞うと立ち上がりながら言った。

 

「2人共、一応怪我は全て施術を施したけど、幾つかの大きな傷は、今夜一晩は万一に熱を帯びてきたりするかもしれないから、念の為に鎮痛剤を用意しておくわね」

 

「お、お願いします」

 

「うむ。かたじけない」

 

「それじゃあ。薬剤室からお薬取ってくるから、少しだけ待っててね」

 

そういうと、シャマルは医務室に隣接されたドアを通って、隣に備えた薬品の備蓄倉庫へと入っていった。

それからしばらくの間、医務室内に沈黙が続いた。

やがて、これではダメだとエリオが意を決して話しかけた。

 

「えぇっと…幸村さん。今日はありがとうございました。今日の戦いの途中、僕がピンチになった時、幸村さんに助けてもらって…」

 

「否、感謝するのは其の方でござる。お主やスバル殿があの時、後藤殿との戦いで助太刀してくれなければ、其も家康殿も、このくらいの傷ではすまなかったかもしれないでござるからな。本当にかたじけない」

 

そう言って幸村は頭を下げるが、エリオの表情はなぜか暗かった。

 

「でも僕は…今日の戦いで、改めて思い知らされました…僕は、魔導師としてはまだまだです」

 

唇を僅かに噛み締めながらそう呟くエリオの顔には悔しささえも滲み出ている。

 

「何故でござる? お主の身のこなし…あれこそ子供の往なす技とは思えない見事なものでござったぞ」

 

幸村は首を捻った。

エリオの様子から、それは謙遜ではなくどうやら本気で自分の不甲斐なさを痛嘆している事が伺えた。

 

「怒らないで聞いて下さい…僕は今まで、僕の憧れる『騎士』の生き様こそが全てだと思っていました。そして『騎士』を超える強者(つわもの)なんてこの世にいないという考えが心のどこかにあった事も嘘ではありませんでした」

 

「………仔細、お聞かせ願おうか?」

 

エリオの心中を汲んでか、幸村も真剣なそれまでになく真剣な表情でエリオに尋ねた。

 

「家康さんがこの機動六課にやってくる前から、フェイトさんやなのはさん、はやて部隊長から少しだけ聞いた事がありました。なのはさん達の故郷『地球』には『武士』という騎士によく似た強い人達が昔いたって…でも僕は実際に会った事がなかったそれを聞いてもどうしても、それと僕の尊ぶ『騎士』が同じ土俵に立つ存在とは思えませんでした」

 

「自分が尊敬するものを至高とする考えに至るは、人として誰であれ、至極当然の事。恥ずべき事ではないでござる」

 

幸村はエリオを慰めるようにそう言うが、エリオは頭を振った。

 

「いえ…今だから言えるのですが……僕、実は家康さんがやってきてからも、しばらくその考えがどうしても拭う事ができずにいたんです」

 

エリオはフェイトに保護されてから今まで立派な『騎士』になる為に、時に独学で、時にフェイトの友であり、べルカの誇り高き騎士であるシグナムやヴィータの下で騎士としての戦術や立ち振る舞いをずっと勉強し続けてきた。

 

その中でエリオは何時しか『騎士』こそが真の強者の象徴であると信じて疑わない気持ちが芽生えていた。

だが、家康がやってきて、スバルが弟子になってからその確信は呆気なく崩される事となる。

話だけで聞いていた『騎士』と似て非なる存在=『武士』である家康と出会った時、エリオは内心『騎士』に比べたら大したものではないのだと見縊っていた。

実際『武士』の戦い方は騎士とは違い、優雅さが無く技も荒削りなものばかりであった。

 

しかしスバルが家康の弟子になり、その戦い方が変わっていった頃からエリオは少しずつその考えを改めていき、逆に感心を抱くと共に自身の今まで『騎士』の道こそすべてと考えていた自分が進むべき道に疑問を浮かべるようになっていった。

 

そして、今日の幸村と家康の決闘でその関心は羨望に変わった。

強き漢達がその熱き“誇り”と“魂”を胸に、どんな強大な敵を相手にも果敢に挑む勇猛さと、自分の知りうる常識を越えた技術を持った者…それが“武士”…だが―――

 

「同時に目の当たりにした『武士』の“負”の一面も、僕にとっては衝撃的でした…」

 

「…後藤…又兵衛殿の事でござるな…?」

 

幸村が低い唸り声を上げた。

 

「あの人の見せた“憎悪”、“殺意”、そして“功名への執着”…人間の負の感情が暴走し、力を振るう先を間違えてしまえば、人をあんな風にしてしまうんだって……ショックでした」

 

「うむ…先の天下分け目の戦では、黒田殿と共に我らに御味方くだされた武将ながら、あの所業は…武士として」

 

天下分け目の戦の折、幸村は信州上田、黒田主従は関ヶ原で石田軍の大谷吉継に従属する形で、それぞれ各地に従軍していた為、又兵衛との接点はあまりなかったが、今日の一件を通して、改めて彼の凶悪さを思い知らされ、少なからず動揺していた。

 

「いえ。僕からしてみれば、あそこまで自分の利、功名に徹底し、自分を失ってまでも貫こうとする姿……人間としての“本質”を垣間見たような気がします。あれもまた…“武士”の一面なんですね…?」

 

エリオが尋ねると、幸村は渋い顔つきで頷いた。

 

「遺憾ながら…後藤殿の様に“義”に背き、野心のみを糧に生きている者も少なくない…否、寧ろ、某や政宗殿、そして家康殿のように“義”を重んずる武士の方が、戦国(我ら)の世では稀有なのかもしれぬ。そなたも、さぞ失望された事であろう?」

 

「いいえ。寧ろ反対です。幸村さん達の見せた“義”や、あの又兵衛って人の見せた“野心”……それぞれ道は全く違っても、自分が心に決めた道を徹底的に通そうとする生き様……そこには“正学を越えた筋”というものを感じました」

 

「…“正学を越えた筋”…」

 

エリオの口から出た重みのある言葉に思わず、幸村は相手が年端も行かない10歳前後程の少年である事を忘れ、身構えそうになる。

幸村は、このエリオ・モンディアルという少年もまた、同じ頃の少年少女達とは一線を画する程に壮絶な人生を経験してきているのであろうと直感していた。

 

「だから……」

 

「ん?」

 

「だから、幸村さん………」

 

そこで一度言葉を止めたエリオは、息を吸って呼吸を整えながら、昂ぶりかける気持ちを落ち着かせると真剣な表情で幸村を見つめ、そして頭を下げた。

 

「幸村さん……お願いです! 僕に…幸村さんの槍術を……否、武士(もののふ)としての生き様を教えて下さい!!」

 

医務室中にエリオの声が反響する。

幸村はその声の大きさと思わぬ申し出に面食らった。

 

「そ…其が……そなたに…武士の道を…!?」

 

「はい。僕に“武士”としての生き方を教えてほしいんです!」

 

エリオの言葉に幸村は激しく戸惑う。

何せ今までそんな事を願われた事など、一度もなかった事だった。

 

「し…しかし…エリオ殿は、『きし』という(つわもの)への道を尊んでいたものではなかったでござるか…!?」

 

幸村は今しがた聞いた話を思い出しながら、エリオに問いかける。

しかし、エリオは確たる信念を抱いた表情で、首を横に振った。

 

「確かに今日までの僕の志すべき道は『騎士』でありました。しかし、今日の幸村さんの決闘…そして後藤又兵衛との戦いで…僕ははっきりと決心がつきました。 幸村さん達みたいになりたい! “武士”の道を極めてみたい! そう決めたんです!」

 

幸村はエリオの訴えに言葉を失った。

 

「なれど、其もまだまだ未熟…政宗殿や片倉殿、ましてや家康殿程の器もござらぬ。それでも良いのでござるか?」

 

「そんな事は関係ありません! 僕は…“幸村さんに”教わりたいのです!!」

 

エリオの直向きな眼差し、そして熱を帯びた決意の言葉から、彼が如何に真剣に幸村に弟子入りを嘆願しているか察した。

 

「どうして、某でないといけないのでござるか? もしよければ、その理由も聞かせてもらいたいのだが…」

 

「はい。昼間、幸村さんの決闘中に、政宗さんから、幸村さんが一時自分の生きる道を見失いかけた時のお話を聞きました…」

 

「政宗殿から…?」

 

「はい。それで、実は僕も…幸村さんとは少し違うのですが“生きる道が見えなくて苦悩してた時”があったんです」

 

そう言うと、エリオは幸村と家康の決闘中に政宗達に話した自分の過去…出生や正体の秘密から、研究組織での非人道的な扱いに至るまで…その全てを打ち明けた。

話を聞きながら、幸村は、政宗や佐助と同じ様に、驚愕と同情の入り交じった沈痛な面持ちになっていった。

 

「エリオ殿……さぞお辛い事であっただろう…この幸村、その胸中、お察しいたそう」

 

幸村の声には心からの労りが込められていた。

 

「いえ、僕は大丈夫です。 それでこの話を聞いた佐助さんから、『僕と幸村さんは似た者同士だ』って言われたので…」

 

「佐助が…?」

 

幸村は呆れるように苦笑を浮かべた。

一時迷走していた間、佐助は幸村に対して敢えて突き放つような非情な態度をとっており、総大将としての自覚が出てくるようになってからは、また以前のように気楽な軽口の数が増えてきたものの、時に余計な事までも口にしてしまう悪癖も復活してきたようだ。

 

「あやつも随分適当な事を申すな…某よりもエリオ殿の方がよっぽど大変な半生であっただろうに…親父様や兄上と共にお館様に仕えていた某など、まだ十分幸せなものでござる」

 

「? 親父様…? 兄上…? それって幸村さんのお父さんとお兄さんですか?」

 

エリオの問いかけに、幸村は、今はどこにいるかもわからない主君・信玄と並んで尊敬する2人の武人の顔を思い出しながら、力のこもった声質で語り出した。

 

「我が親父様は甲斐武田家重臣 “真田安房守昌幸”! その類まれなる智謀を持ってお館様の軍師として支え、『信州の奇術師』、『戦国一の食わせ者』等と日ノ本中の国々からも一目置かれる御方! そして我が兄上にして、真田家嫡男 “真田源三郎信之”は、真田家次期当主として親父様を支え、そして自身も『信濃の白獅子』の二つ名を持つお館様にも引けを取らぬ猛将。家康殿も認める強者(つわもの)にござる!」

 

「…すごい。真田家って幸村さん以外にも凄い人達が…」

 

「…うむ。親父様、兄上共に真に凄い人達でござる。…それこそ、某がまだまだ追いつく事などできぬ程に………」

 

不意に、幸村の言葉の勢いが弱まる。

 

「だからこそ…この幸村。果たして、エリオ殿の師になったところで果たして、お館様や親父様のように、そなたを武士として導く事ができるか……不安なのでござる…」

 

「幸村さん…?」

 

幸村は不意に首から下げていた6枚の小銭がぶら下げられた首飾りを手にとった。

 

「それは?」

 

「我が真田の家紋の由来にもなった『六文銭』にござる。 日ノ本では古より『人が死したる時、“三途の川”と呼ばれる現世と常世の境を流れる川を渡る時に渡し賃として六文…つまりこの古銭6枚分が必要』という言い伝えがあるにござる…故にいつ死すとも知れぬ某と兄上に、これを肌見放さずに身につけておけと、『天下分け目の戦』に際し、それぞれ親父様がお与え下さったのでござる」

 

そう説明しながら、幸村は様々な思慮の渦巻く眼差しで六文銭を見つめた。

突然、弟子入りを志願されたという驚き、戸惑い…図らずも西軍の同志から“裏切り者”のレッテルを張られた葛藤、一方では宿敵・家康との決闘で得た己の信念に対する区切り……本当にこれでよかったのか…? 自分はこの異郷の地で何をすべきなのか…?

様々な思惑が頭の中を過ぎっていく。

その時だった―――

 

 

 

―――なぁに迷っているんだい? 小倅殿。漢だったら、ここできっぱり腹くくらにゃならんでしょうに――――

 

 

 

「「えぇっ!!?」」

 

 

突然、どこからともなく聞こえてきた声に、幸村とエリオは驚き、思わず目を配らせる。医務室の中には他に誰もいない…部屋の主のシャマルはまだ薬剤の備品倉庫から帰ってきていなかった。当然、他に誰かが医務室に来た様子もない。

でも、確かに2人の耳には誰かの声が聞こえた。

 

「一体…誰が……」

 

エリオが部屋の中を見渡していると…

 

 

ピカッッッ!!!

 

 

突然幸村の手にあった六文銭が光を宿し初め、瞬く間に部屋中を照らす光を発した。

 

「うわっ!?」

 

「な、なに!?」

 

突然の事に戸惑う間もなく、幸村、エリオの視界が真っ白に染まった……

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 

幸村とエリオが瞑っていた目を開いた時…そこは隊舎の医務室ではなく、一面真っ白な不思議な空間だった。

当然、今の今まで2人の回りにあった全てのものはなくなり、そればかりか、地面さえも存在せず、まるで宙を浮いているかのように、2人は空間の中心に漂っている状態だった。

 

「…どこ? ここ」

 

「一体…何が起こって…?」

 

「さァさァ、そこなお二人さん! こちらにご注目!」

 

「「!!?」」

 

突然の事に戸惑っていたエリオと幸村に、不意に背後から声がかかる。

今しがた医務室で聞いたのと同じ声だった。

振り返ってみると、白い空間の真ん中にひとつのソフト帽のような形の烏帽子が浮かんでいた。

 

「ぼ…帽子!?」

 

「ッ!? あの帽子は…もしや…!?」

 

何故か帽子がひとつだけ浮かんでいる事にエリオは戸惑うが、幸村はその帽子を見るなり何かを悟ったように驚愕の表情を浮かべた。

 

「この何の変哲もない烏帽子にご注目あれ!………あ、そぉれィ!」

 

再びさっきの声が烏帽子の中から聞こえてきたかと思いきや、烏帽子が独りでにクルクルと回転し始め、その中から白い煙が立ち出てきた。

そして、煙が止まり、晴れた時、そこには一人の壮年の男性が立っていた。

洋風のマントを元に赤、黄色、青の三色を基調としたマジシャンのような形の和装を身に纏い、紳士風の口髭、顎髭を蓄え、そして回っていた烏帽子を右手でサッと手に取ると、ダンディな振る舞いで頭に被ってみせた。

 

「お………おお………」

 

幸村とエリオは男性を呆然と見つめる。否、幸村は声をかけようとしていたのだが言葉が思うように出てこない。

そんな幸村の姿を見て、男性は悪戯が成功した子供のように、「してやったり」と言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

「なぁんだいその顔はぁ? まるで狐に化かされたような顔しちゃってさぁ。幸村(小倅殿)♪」

 

「お、親父様っっ!!?」

 

「えぇっ!? …っていう事はこの人が……幸村さんのお父さん!?」

 

幸村の父にして、『戦国一の奇術師』 真田昌幸―――

その思いがけない形での登場に、エリオは勿論、幸村さえも動揺を抑えられずにいた。




まさかの予想外な形で初登場! 戦国一の奇術師 真田昌幸。

信州上田の戦いの最中、消えたはずの彼が幸村とエリオの前に現れた理由は一体…?

ここへ来てオリジナル版との差違がバンバン出てきますね。っていうかオリジナル版ではエリオと幸村が義兄弟になる下りが少し軽過ぎたかなってずっと気になってたんですが、どうせ昌幸や信之も登場した事だし、ここらで真田家の話も交えながらもっと深く掘り下げてみようと考え、リブート版では(現実ではないけど)昌幸がかなり早い段階で初登場となりました。
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