リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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元西軍武将 真田幸村の機動六課入隊を巡る一騒動は、紆余曲折の果てに、どうにか幸村、佐助共に無事に機動六課への加入を受け入れる事で決着が付いた…

これで家康、機動六課はさらなる戦力の強化を得て、そして仲間同士の絆をより深め、躍進していくと誰もが信じていた…

フォワードチーム センターガード ティアナ・ランスターを除いては……

三成「リリカルBASARA StrikerS 第十五章 …秀吉様。どうかこの私に出陣の許可を!」


ホテル・アグスタ篇(ティアナ成長篇・前編)
第十五章 ~ティアナの悩み そして再び動き出す西軍~


「はぁ! せいや! はぁぁ!」

 

「ん…な…何?……」

 

早朝の機動六課隊舎―――

スバルとティアナの私室。

不意に聞こえてきた掛け声にティアナが目を覚ますと、スバルが自分のベッドの脇で天井から吊る下げたサンドバックを使って自主トレに励んでいた。

 

「スバル? アンタこんな朝から何やってんの?」

 

ティアナが寝癖混じりの頭を掻きながらゆっくりと身体を起すと、熱心にパンチの練習をしていたスバルがティアナに気付く。

 

「あっ!? ティアごめん。 起しちゃったみたいだね」

 

「いや、それは別にいいけどさぁ…あんたこんな朝早くから自主トレ?」

 

「うん! ほら、先週の騒ぎで使用禁止になってた訓練所。今日から解禁されるじゃない? 一週間ぶりに家康さんと個別訓練ができるから、しっかり身体動かして、温めておかないと!」

 

「だからってこんなわざわざ起床時間前からする必要あるの? 朝練のウォーミングアップの時でいいじゃないのよ」

 

ティアナはそう言うがスバルは首を横にふってきっぱりと言い放つ。

 

「ダメだよティア。 家康さんの特訓は朝から全力全開だから、こういう時間にやっておかないと身体が追いつかないんだよ」

 

スバルはそう言って再び自主トレに励みだした。

 

「はぁ…もう好きにしなさいよ」

 

ため息交じりでそう話すと再びベッドに横になるティアナ。

それからしばらく目覚まし時計の針の音とスバルの掛け声と、サンドバックに拳が打つ音のみが部屋を支配していたが、やがてティアナが不意にスバルに語りかけた。

 

「ねぇ…スバル」

 

「ん? なぁにティア?」

 

「アンタってさぁ、家康さんが来てから随分と変わったわよね」

 

「えっ!?」

 

ティアナの言葉にスバルは思わず手を止める。

 

「そっかなぁ? 私はそんな自覚ないけど」

 

「そうね。確かにその底なしの明るさと能天気なとこは前からちっとも変わらないわね…でも…」

 

ティアナは再び身体を起すとスバルの顔を見てどこか寂しそうな表情で話す。

 

「家康さんが来て、アンタが弟子になるって言いだしてからアンタは確かに変わったわよ。 今まで以上に明るい笑顔を浮かべる事が多くなったし、戦闘面においてもここ1カ月の間で急にフォワードチームのメンバーの中で成長してきてるって、昨日なのはさんだって言ってたわ」

 

語りながらティアナは第五管制塔事件の時や、黒田軍襲撃の際の時のスバルを思い出す。

どちらの時もスバルの戦いぶりはすさまじく、家康達には及ばずともその動きから急激な成長を遂げている事がよくわかった。

 

「えぇ~?! そうかなぁ? アハハハ…」

 

一方、当のスバルは自覚がないのか照れくさそうに笑っていた。

そんなスバルを見て、ティアナは小さなため息をつきながら、眉を顰めた。

 

(自分の事なんだから、普通は自分が一番自覚するべきとこでしょうが……バカスバル)

 

ティアナは心の中で少し苛立ちを覚えた……

 

 

数時間後―――

一週間前の襲撃事件からの復旧工事が終わり、すっかり元の様に戻った機動六課訓練所では、今日から平常メニューでの訓練が再開された。

 

「よし!では今日の訓練を始めるぞ!」

 

今日はヴィータがメイン教官として立ち、その隣には補佐として家康、幸村が立っていた。

そこから少し離れた場所では政宗となのは、小十郎とシグナム、ロングアーチのシャリオが訓練の様子を見守っていた。

 

「いいか! 今日はそれぞれ個人の戦闘能力の強化が目的の訓練だ。スバルは家康、エリオは幸村、そしてティアナは私と、一対一の個人指導で行くぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

ヴィータの声に元気よく返事するフォワードチームであるが、ティアナだけは一人浮かない顔をしている。

 

「おいティアナ! 聞いてるのか!?」

 

「えっ…は、はい!!」

 

ヴィータに睨まれて、慌てて返事を返すティアナ。

 

「では訓練始め!!」

 

ヴィータの掛け声と共に訓練が開始された……

 

 

「はああああああああああああああああああ!!!」

 

「腰が低い! もっと背筋も上げるんだ!!」

 

スバルは家康の指導の下、打撃の基礎訓練を行っていた。

開始数分で訓練用の服を泥まみれにしながらスバルは家康の抱えたサンドバックにパンチを打ちこんでいく。

 

「いいかスバル。 拳は大きく振るだけじゃなく小さく振る事もできるようにしろ! 敵の攻撃はこちらが攻撃している時が一番回避しずらいからな」

 

「はい! 家康さん!」

 

家康の指導を受けて訓練に人一倍精を出すスバル。

一方スバルと家康達の訓練する場所から少し離れた所では―――

 

「“火走”ぃぃぃぃぃ!!」

 

「まだまだぁ!! 動きが遅いでござるよ!!」

 

エリオは、幸村から武田家直伝の槍術の奥義の伝授を受けている最中であった。

 

「いきます! …“烈火”ぁぁぁぁぁぁ!」

 

「まだ遅い! もっと素早く槍を捌け!!」

 

幸村はエリオ相手に自身の技の繰り出し方を熱く伝授し、一方のエリオも熱心に幸村の教えを受けながらストラーダを振りかざしていた。

 

 

その姿を遠目に眺めるティアナはどこか憂鬱そうな表情を浮かべ、それから逃れるかのように視線の先を、少し離れた場所で話し合うなのは、政宗、小十郎、シグナム、そしてロングアーチ通信士兼自称『技師官』のシャリオ・フィニーノと話すキャロの方へ切り替えた。

 

「というわけで、キャロには今日から少しでも任務中に身を守る事ができるように、剣術の勉強をしてほしいと思ってるの」

 

耳をそばだてて聞いてみると、どうやらなのはが、今日からの新しいメニューとして近接戦闘が不得意なキャロの為に特別メニューを考えたらしい。

 

「えっ…でも私剣なんて習った事ないのですが…?」

 

「心配するな。剣術なら俺が一からしっかり教えてやる。判らない事があればなんでも俺に聞けばいいさ」

 

戸惑っているキャロに小十郎は、優しく諭しながら、木刀と道着を手渡した。

木刀はシャロの背丈に合わせた小太刀サイズの短めのもので、道着の袴はキャロに合わせて薄ピンク色の特注品だった。

 

「フィニーノ。お前にはこの木刀のサイズに調節させて、俺の刀を基にした一刀を用意してもらいたい。ルシエ専用の刀だ」

 

小十郎はそう言いながら、腰に下げていた二振りの刀の内、普段多用している愛刀『黒龍』をシャリオに預けた。

『黒龍』を受け取ったシャリオはその見事な拵えに思わず、うっとりと目を細めながら見つめる。

 

「はぁ~~…これがフェイトさんやシグナムさんの話していた地球原産の“日本刀”ですかぁ~~~~/// 本物を触るのは初めてですよぉ~」

 

機動六課では通信士、フェイトの補佐官的な役割を担っているシャリオだが、その一方では『デバイスマイスター』としての異名を持つほどに、手先が器用で、フォワードチームの各隊員のデバイスを設計・調節役を担う事があると聞いた小十郎は、デバイス以外の武器の製造もできないかと相談してみたところ、2つ返事で「できる」と返答を貰った事で早速この大役を仰せ使う事となったのだった。

 

「くれぐれも手荒に扱うなよ。コイツは俺の政宗様への忠義の証でもあるのだからな。本来、刀とは使い手である武士の“魂”の結晶。そいつを肝に命じてくれよ」

 

「わかりました! 日本刀型デバイスなんて初挑戦ですから、腕が鳴ります! きっと、素晴らしい逸品を仕上げてみせますよ!」

 

目を輝かせながら、自信満々に言ってのけるシャリオだが、小十郎は呆れるように頭を振った。

 

「デバイスじゃねぇ。キャロ(こいつ)に必要なのは、“純粋”な刀だ。余計な機能を付け加えて、ものの質を落とすような事するんじゃねぇぞ」

 

「む~~~…片倉さんはロマンがわからない人ですねぇ~」

 

「ロマンなんか必要ねぇ。武器において大事なのは実用性だ」

 

「ロマンですよ!」

 

「実用性だ」

 

「ロマン!」

 

「実用性だ」

 

武具に対する価値観の相違から小十郎に食って掛かっていくシャリオ。

そんなシャリオを一瞥し、やれやれと頭を振りながら、政宗はキャロに言った。

 

「安心しな。小十郎の剣の腕は恐らく日ノ本でも5本の指に入る剣豪だと思うぜ。この俺以外で小十郎から直にその剣の伝授を受けるなんて、すげぇluckyな事なんだぜ」

 

「そ、そうなんですか!? でも…余計に私なんかが覚えられるかどうか…」

 

政宗が説く小十郎の剣の腕前に、息を呑むキャロだったが、それを聞いた事でますます自分が果たして剣術など習得できるか不安に駆られる。

すると、そんな彼女の不安に気づいた小十郎が、右腰に下げていたもう一本の愛刀『山吹』を鞘から引き抜きながら、彼女に近づいた。

 

「ルシエ。こいつを持ってみろ」

 

「えっ…!? は、はい!」

 

キャロは言われるがまま小十郎から『山吹』を受け取ると、刀の峰側を手のひらに乗せ、柄の部分をしっかりと握りしめながら持とうとした。

だが、刀身の重さにバランスが取れず、思わず身体が斜めに傾いてしまう。

 

「お、重いです……」

 

キャロが素直に感想を呟くと、小十郎は納得したように頷いた。

 

「そうだ。政宗様が子供の頃…まだ“梵天丸”と呼ばれ、剣術師範として俺が稽古を付けていた時、初めて本物の刀を手に取らせてみた時も同じ感想を述べていた。だが、この御方は今や“六爪流”という己の剣を見出し、そして極めている。人というのはいつどんな時にどんな才能を発揮するかもわからない…政宗様が己が剣を極めたように、お前もこれから努力する事で新しい才能を極める事ができるかもしれない。政宗様も俺もそこに目をつけたからこそ、お前に剣を教えようと思ったのさ…」

 

「才能……?」

 

キャロはなんとか全身を使って支え持った『山吹』を見て、政宗達も認めたという自分の才能について思い返していた。

自分が刀を握り、スバル達と同じように前に出て戦う事など、今まで想像した事がなかった……。

自分の才能といえば、白銀の飛龍“フリードリヒ”を従え、さらに実際に召喚した事はまだないが、黒き火龍“ヴォルテール”の加護受けている事以外でいえば、数種類の補助系魔法を扱う事…それを除けば、自分自身の戦闘能力は、機動六課の隊長副隊長達やフォワードチームのメンバーは言わずもがな、一般的な武装局員よりも低いかもしれない。

そんな自分が、剣豪と呼ばれる小十郎の手ほどきを受けたところで、果たしてそれを実際にものにできるのか…不安で仕方がなかった。

そんなキャロの心中を察したのか、なのはが横から優しく話しかけてきた。

 

「大丈夫だよキャロ。小十郎さんだけじゃなくてシグナム副隊長にも一緒に教えてもらう予定だから、どうしても判らない事があれば2人からよく教えてもらといいよ」

 

「はっきり言って私と片倉の剣術は大きく異なるが…まぁ教えられる事があれば、遠慮なく教えるからな」

 

「なのはさん…シグナム副隊長…?」

 

すると小十郎も、キャロの肩に手を乗せながら優しく諭した。

 

「…ルシエ。不安な気持ちはよく分かる。だが、『やってみて諦める』事と『やらずに諦める』のは全然違う事だ。お前が自分の才能を信じるか否かはお前の心ひとつだが、まずは“やってみる”事が大事だ。こうして高町やシグナムも協力すると言っているんだ。恐れる事はない」

 

小十郎はいつになく優しい笑みを浮かべながら、不安に駆られるキャロの心を宥めるように語り掛ける。

それを聞いたキャロも、心の重石が少し軽くなってく気分がした。

 

「は…はい! 頑張ります!」

 

「うむ、良い返事だ」

 

キャロは精一杯力を込めた返答をすると、小十郎は改めて彼女の剣士としての素質を感じ取ったのか満足げに頷いていた。

すると、政宗が意地悪そうな笑みを浮かべながら割り込んでくる。

 

「Ha! どうだ小十郎? この際、こないだの真田みたく、キャロと師弟の契として『殴り愛(boxing Love)』でもやるか?」

 

「ま…政宗様! お戯れを!!」

 

政宗と小十郎のやりとりに笑うなのはやキャロ達の姿を遠目に見ながら、ティアナの表情がさらに暗くなった。

そこへ―――

 

「おい! ティアナ! さっきからなにボケっとしてるんだ!? 早く迎撃訓練を始めるぞ!」

 

「す…すみません!!」

 

ヴィータの怒声で、我に返ったティアナは慌ててクロスミラージュを構え、訓練を始めた。

その姿を少し離れた木の上から見つめるひとつの影…

 

「う~ん……あれは色々と迷いを抱えてる表情だねぇ…」

 

影は、そうつぶやくや否や、その次の瞬間には姿を消した。

 

 

「よし! 午前中の訓練はここまで! 午後は外で警備任務があるからそれまでに各自、休憩と昼食をとるように! 以上だ!」

 

「「「「ありがとうございました!!」」」」

 

午前の訓練が終わり、フォワードチームと家康達はそれぞれ昼食をとる為に、隊舎へと戻った。

そんな中、ティアナだけは一人訓練所に残り、もう少し戦闘訓練を続ける事を選んだ―――

 

「しかし、ティアナも随分熱心だな。食事も惜しんで訓練とは…」

 

「ここ数日、ずっとそうなんですよねぇ…あんまり無理し過ぎないといいんだけど…」

 

隊舎の廊下では着替えを終えた家康が、管理局陸士部隊の制服をぎこちなく身に纏いながら、同じく制服姿となったスバルと話しつつ、食堂へと向かっていた。

 

「…そういえば、ここしばらくティアナと一緒に食事をとってないかもしれないが…もしかしてずっと…?」

 

「はい。毎日、訓練が終わっても30分は自主練を続けているみたいなんですよぉ。なんで急にそんなに気合入ったりしてるんだろう?」

 

「まぁ、ティアナも色々考えての事なのだろう。身体に障りない限りは、思うようにさせておいて上げていいのではないか? 勿論、無理は禁物だが」

 

「はい。そこは私もちゃんと見守ってますし、なのはさん達だってちゃんと見てくれているとは思います」

 

そんな事を話しながら、2人が食堂に入ると…

 

「おっ! 来たねぇ! 六課随一の仲良し師弟コンビ!」

 

食堂の配膳カウンターに並んでいた隊舎の若手スタッフ達が家康とスバルをからかうように冷やかした。

 

「皆さんったら! その呼び方辞めて下さいよぉ!」

 

「ハハハ…確かに何度聞いても、こそばゆいな」

 

家康とスバルはそれぞれ赤面しながら、頭を掻きつつ、配膳を待つ列に並んだ。

 

「そうだ! 徳川さん。こないだ整備班の連中と飲みに行ったんだって? だったら、今度はウチの班の皆と飲みに行きましょうよ?」

 

「おいおい、家康さん達を飲みに誘うなら、女の子呼ぶのは避けた方がいいぜ。人気皆持ってかれちまうからな」

 

列に並んだスタッフ達はそれぞれ家康と談笑を交わしていく。

今や家康は、その持ち前の明朗な人柄で、機動六課の前線メンバーやロングアーチメンバーだけでなく、隊舎で働く一般職員達ともすっかり顔なじみになっていた。

非魔力保持者であるにも関わらず、精鋭揃いの六課の主戦力に名を連ねるイレギュラー的存在ながら、飾らず誰に対しても、優しく公平に接する爽やかな若者である家康は世代を問わず、関わる者の殆どから忽ち人望を集める事となった。

おかげで、最近ではこうして師弟関係が周知の事実になっているスバルとの仲の良さを冗談半分で冷やかされるなんて事も起きたりしていた。

 

そんな隊舎の職員達から人気なのは家康だけではなかった…

 

「ガツッ!ガツッ!バクバク!!……んぐ!…いいかエリオ! 武田の流儀のひとつ! 飯はとにかく腹いっぱいかきこめ!! ガツガツッ!!」

 

「ふぁい!兄上!…ガツガツ!!…バクバク!!」

 

食堂の一角のテーブル席では、卓上一杯に用意された白米、味噌汁、その他多種類の純和食のおかず…それらを物凄い勢いでかきこんでいく幸村とエリオの姿があった。

 

「おい、幸村。 飯が逃げるわけじゃねぇんだから、そんな飢えた獣みてぇに食うなよ」

 

「エリオもそんなに慌てて食べたら胃がもたれちゃうよ」

 

フェイト、ヴィータが二人に注意するが、二人の若武者(バカむしゃ)は聞く耳を持たない。

 

「ばにをいうが! ゔぃーばぶぉの! これもすべてはエリオを立派な武士にする為…んがくっくっ!!」

 

「うわっぷ!! 食いながら話しかけてくんなよ! 米粒が飛んで顔に付くっつぅの!!」

 

そんな幸村とヴィータのやりとりに周りで食事をしていた女性スタッフからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

 

「申し訳ございません、フェイトさん! でもこれも一日も早く武田の武士として精進する為の体力造り…んがくっくっ!!」

 

「うん…体力づくりはわかったから、まずお茶を飲もうね」

 

幸村と同じ様に咽るエリオにフェイトは苦笑しながらお茶を渡して、飲ませた。

一週間前の幸村との“兄弟”の契を交わして以来、エリオの性格は良い意味(?)で色々と吹っ切れていた。

元々、優しく思慮深いが、若干押しの弱い一面もあったエリオであったが、幸村の“弟”として本格的に師事するようになってからは、まるで幸村から性格をそのまま移されたかの如く、元来の真っ直ぐな性格はさらに一本気となり、そして今まで見せた事がない豪快さや、時に『熱苦しい』と称される程にハイテンションな言動が増え、それまでの彼をよく知っていた隊舎のスタッフからは驚かれた。

しかし、それが慣れてくると、幸村とエリオの『熱血兄弟』(命名者・はやて)が繰り広げる半ばコントのようなやり取りは六課に務める職員の間では定番の風物詩のひとつとなっており、中でも極めつけは…

 

「では、食事の後の締めとして…エリオ!」

 

「はい! 心得ております! 兄上!」

 

「エリオ!」

 

「兄上!」

 

「エリオォ!」

 

「兄上ェ!」

 

「エリオォォォォ!」

 

「兄上ぇぇぇぇぇ!」

 

「だぁから! こっち向いて叫び合うなっての! 食いカスがアタシの顔に飛んでくるんだよ!!」

 

「二人とも! テーブルに足を乗せない!!」

 

この熱苦しく互いの名を叫び合う武田軍の“お家芸”と、それに対してツッコむか、叱りに入るヴィータとフェイトのやり取りも、職員達からは格好の面白ネタのひとつとなっていた。

 

「……やれやれ。落ち着いてメシも食えねぇのかよ?」

 

「にゃははは…」

 

騒ぎすぎてフェイトとヴィータに叱られる幸村とエリオを目配せ、呆れながらそれぞれ自分達も食事を終えた政宗となのはが空けた食器の乗ったトレーを返しに行こうと立ち上がった時、数人のツナギ姿の男性スタッフ達が近づいてきた。

 

「筆頭! 今朝、筆頭が頼んだバイクの雑誌持ってきましたけど読みますか?!」

 

「おっ! speediじゃねぇか、テメェら。気が利くねぇ」

 

政宗を「筆頭」と呼ぶ、このスタッフ達は機動六課のヘリ・車両整備班の作業員達だった。何故彼らが、これほどまでに政宗を慕うようになったのかというと、機動六課に身を寄せてから数日後、幸村や小十郎達と共にこの世界の言語や文化、そして文明の利器をある程度、覚えた政宗は、その中で『バイク』という現代でいう馬の役割に近い機能を果たす二輪車両に強い興味を引かれていた。参考資料として見せられたバイクの写真に、自分が日ノ本にいた時に愛馬に取り付けていた装飾とよく似たデザインの『ハンドルバー』なるものが付いた一台を見たのをきっかけに、バイクの事を知りたがった政宗は、実物を見ようと、六課の関係者の車両を集めた駐車場へ足を運んだ時、偶々そこにいた整備班スタッフ達と出会った。聞けば、彼らはバイクが趣味だというので、政宗は彼らからバイクについて色々と聞いたり、彼らの私物という実物のバイクを見せてもらったりしていたが、その内に、彼らが昔暴走族の端くれをやってた事を聞き、ますます意気投合する事になった。

何を隠そう政宗率いる伊達軍は、現代で言うところの『暴走族』と言っても過言ではない位の荒武者揃い。

全員がそうだった訳ではないが、服装は自由に改造するわ、丁髷か月剃が定番な戦国時代において今で言うリーゼントやモヒカンといった奇抜な髪型をするわ、自分の旗に“喧嘩上等”“唯我独尊”などを書いて掲げるわ、盗んだ軍馬で走り出すわ…正直、下手な野武士よりも荒くれ者の集まりであった。

その為、元暴走族であったという整備スタッフ達とも非常に気があったのである。こうして、あっという間に彼らを手懐けてしまった政宗は今や、整備班員達の間で『筆頭』と敬称で呼ばれるカリスマ的存在となっていた。

 

「政宗さん。バイクの免許でも取ろうと思うの?」

 

「ん…まぁ、“免許”とかいうのはよくわからねぇが、この『driving』ってのにはなかなか興味があるからな」

 

なのはからの質問に答えながら、政宗は受け取ったバイクの専門誌を広げて見た。

 

「ほぉ、ここに載ってるbikeはどれもniceなdesignじゃねぇか。こうなってくると、俺も本格的に自分用のbikeが欲しくなってきたぜ」

 

「おっ!? それじゃあ、皆で走り出す為のバイク盗みに行きますか? 筆頭!」

 

「おいおい、仮にも治安維持部隊の職員が言う台詞じゃねぇだろ、それ……」

 

「あはははは……」

 

心做しか、思考や言動がかつての暴走族時代の…っというより伊達軍の若手兵士のようになりつつある整備スタッフ達を政宗はツッコみ、なのはは苦笑いを浮かべた。

…っとそこへ…

 

「政宗様。 ただ今戻りました」

 

何故か農作業の服を着て、鍬を担いだ小十郎が食堂に入って来た。

 

「小十郎? お前なんだ? その格好?」

 

「農作業でもしてきたのですか?」

 

政宗となのはの問いに、小十郎が嬉しそうに話し始めた。

 

「実は八神に頼んで、この機動六課の敷地にこの小十郎専用の畑を拵えさせてもらったのです。 この様子だと我々は当分この六課に厄介になりそうですから、せっかくなのでここでも趣味を持っていいかと思いまして…」

 

「ほぉ。 そいつはExcellentじゃねぇか。 久しくお前の作る野菜にありついてなかったからなぁ」

 

政宗が嬉しそうに話すと、なのはが横にいた政宗に尋ねた。

 

「へぇ~、小十郎さんって野菜の栽培ができるんですかぁ?」

 

「Ha!できるなんてもんじゃねぇぞなのは。小十郎の作る野菜の味は天下一品だ。そこんじょそこらの野菜なんかとは比べ物にもならねぇ本物の中の本物の野菜だぜ」

 

「へぇ~それは食べてみたいなぁ…でも、あれ?」

 

なのはは思い出した様に首を傾げた。

 

「だけど、小十郎さん。土地はどこを使ったんですか? この六課の敷地内って、地盤の問題とかもあって、畑に適した土地っていうのは限られてくる筈なんだけど…」

 

「あぁ、それなら八神が『とっておきの土地を貸してやる』って言ってくれたんでな…」

 

 

その頃…六課隊舎 ヘリポートでは…

 

「こ……これは……何ですか?」

 

ヘリパイロット ヴァイス・グランセニックが冷や汗を浮かべて問いかける先には完璧に耕された広大な畑……

それだけであれば、まだよかったのだが、彼がこんなにも顔を青ざめているのには理由があった。

それは、ここは本来、“ヘリポート”であるハズの場所だからだ。

 

「ヴァイス陸曹。部隊長の意向で今日から六課の屋上ヘリポートは『機動六課菜園』に変更されたのでよろしくですぅ」

 

「よくねぇよ!! どうすんですかこれ! これじゃあヘリを離陸させることも着陸させることもできないじゃないですか!!」

 

笑顔でそう告げるリインに、ヴァイスが不満を爆発させるようにツッコんだ。

 

「御心配なく! ヘリポートなら新しく用意しておきましたから…」

 

「えっ!?本当に!?どこ!?」

 

「あそこです」

 

そう言ってリインが屋上の端から下へ指差した先には…職員用駐車場の端に追いやられるようにして置かれたヘリと、汚い字で『新ヘリポート』とか書かれたお粗末な看板があった。

それを見て言葉を失うヴァイス。

 

「あっ…あれ…新しいヘリポート? あんな狭い敷地にどうやってヘリを着陸させろと?」

 

「それはあれですよ…………『根性』で頑張ってください♪」

 

「なんじゃそりゃああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

理不尽過ぎるリインの励ましに、絶叫するヴァイスであった。

 

 

「おいおい、はやても随分、無茶苦茶な事やりやがるな…お前らも仕事場を雑に扱われて不満じゃねぇか?」

 

話を聞いた政宗が呆れつつ、その場に居合わせたヘリの整備スタッフ達に同情するように尋ねる。が…

 

「いえ! 筆頭のお話にあった噂の“片倉印の野菜”がここで栽培されるのなら、ヘリの一機や二機、どうって事もありませんよ! なぁ、皆!」

 

「「「「おぅ!!」」」」

 

「お前らなぁ…仕事に対するprideってもんがねぇのかよ?」

 

政宗はそう冷や汗を浮かべながらツッコむのだった。

 

その後も食堂各所で、家康達はそれぞれ隊舎のスタッフ達を相手に談笑を続けるのだった。

だが、そんな自分達の様子を遠巻きに睨みつけながら、聞き耳を立てる人間がいた事に家康達は気づく事がなかった…

 

 

「チィッ!…所詮、八神部隊長の鶴の一声で入っただけの次元漂流者のくせに……いい気になりやがって…」

 

彼の名前はジャスティ・ウェイツ―――

機動六課・ロングアーチ通信主任で、この隊舎においては部隊長のはやて、部隊長補佐のグリフィス・ロウランに次ぐナンバー3…そして、この隊舎内においては稀有といえる家康や政宗、幸村達、機動六課に滞在する『センゴクブショウ』なる民間人協力者達を快く思っていないスタッフの一人であった。

基本的に機動六課のスタッフ達は主戦力となるメンバーは勿論の事、バックヤード要員のロングアーチ隊員。さらにはその他隊舎運営の為のスタッフに至るまで、基本的にはやてが公私共にその人となりを確かめた上で選出した人員が揃っている故に、隊内で大きな意思の相違などが生じる事は滅多にない事だった。

だが、そんな中でジャスティだけは数少ない例外といえる人物だった。

 

スタッフの中にはやはり“次元漂流者”という理由もあって家康達の存在を珍しがる者も少なくはないが、それもほぼ全員が、隊の為に積極的に協力してくれる家康達に好意的に思っていた上の事であった。

しかし彼の場合は、突然現れた民間人協力者で、自分と同じ魔力保有指数も皆無にも関わらず、入隊まもなく機動六課の戦力に担ぎ上げられ、剰えなのはやフェイト達のような隊の中心的人物にまで名を連ね、しゃしゃり出ている事が気に入らないという、安いプライドである。

 

「また一人で過ごしているのかい? ジャスティ」

 

不意にかかった声の主の正体を察したジャスティは露骨に不愉快な顔を浮かべる。

振り返るとそこにはロングアーチの通信士 アルト・クラエッタ、ルキノ・リリエを引き連れた機動六課ロングアーチ副官グリフィス・ロウランの姿があった。

 

「ロウラン…なんの用だ?」

 

「いや、偶にはロングアーチ同士一緒に食べるのも悪くないかと思って誘いに来たんだが…どうかな?」

 

そういうグリフィス達の手には買ってきたばかりの昼食の乗ったトレーがあった。

だが、ジャスティはプイとそっぽを向きながら無愛想に返した。

 

「フン…昼食を一人で食べようが俺の勝手だろう…余計なお世話は無用だ」

 

「ちょっとジャスティ主任! そんな言い方は…!」

 

「どうですよ。グリフィスさんが折角誘っているのに…」

 

アルト、ルキノがそれぞれジャスティのそっけない態度を窘めたが、ジャスティは聞く耳を持たないと言わんばかりに席を立ち、まだ食べかけである皿を手に返却口へと向かう。

すると途中で足を止め、振り返りながら3人に向かって露骨に不機嫌な眼差しを投げかけた。

 

「そんな事よりもルキノ。例の解析データの集計はもう記帳し終わったのか?」

 

「えっ!? あっ…ご、ごめんなさい。それがまだで…」

 

ルキノが慌てて謝るが、ジャスティは見下すように鼻を鳴らした。

 

「フン…これだから半人前は困る。同僚同士で仲良しごっこするのもいいが、少しは同僚の役に立てるように精進する事も頭に入れておいてもらいたいね。ロングアーチ同士足を引っ張られるようでは、俺も通信主任として困るからな」

 

っと最後に厭味ったらしく言葉添えしながら、ジャスティは皿を持って食堂の返却口へと向かっていった。

そんな彼の背中をグリフィスは困惑したように、アルトは顔を顰め、そしてルキノはしょんぼりと肩を落としながら見送るのだった。

 

「なによあれ!? 今にはじまった事じゃないけど、ジャスティ主任ってホント感じ悪っ!」

 

ジャスティが食堂から出ていった後、アルトが抑えていた怒りを発散するように一人すっかりおかんむりになっていた。

そんなアルトをグリフィスは穏やかな口調で宥めていた。

 

「まぁそう言うなアルト。彼も性格は少々気難しいが、機動六課の仲間なんだ。それに一応はお前達の上司でもあるのだぞ」

 

「でもグリフィスさん! ルキノの事をあんな厭味ったらしく「半人前」だなんて…! いくら上司でも言っていい事と悪い事があるでしょうに! アイツが私達より上の位にいなかったら、ぶん殴ってやってるとこよ!」

 

「いいのよアルト。頼まれていたお仕事を終わらせられなかった私も悪いんだし、ジャスティ主任の言い分も間違ってはいないんだから…」

 

ルキノはそう言って気にしていない様子を見せたが、アルトはそれでも納得できない様子を見せていた。

 

「どうかしたんですか? アルトさん」

 

不意にかかった声に、憤っていたアルトの気が少し削がれる。

見ると、他の皆に遅れて昼食をとりに来たティアナがちょうどテーブル席に着こうとやってきていたところだった。

 

「ティアナ。今からご飯?」

 

「えぇ。少し自主練してて…ところで食堂の外まで声が聞こえてましたけど、何かあったのですか? アルトさん」

 

「それならちょうどよかった。ちょっと聞いてくれる? 実はね…」

 

アルトはティアナを無理矢理テーブルの空いた席に座らせると、さっきの出来事について話して聞かせた。

 

「ジャスティ主任かぁ…そういえば私達ってロングアーチの人達とはそれぞれそれなりに親しくなったけど、未だにあの人とだけお仕事以外で話した事ないんですよね」

 

しばらくアルトの愚痴の聞き役に徹していたティアナだったが、とりあえず落ち着いてきたのを見計らって、自分の意見を述べる。

 

「でしょう? 彼、六課が立ち上がった当初から仕事一筋というか、なんかエリート意識強いというか…とにかくなんかとっつきずらい雰囲気あったんだけどね…なんか最近はますます無愛想になったというか…私達に不満全開? みたいな感じになってるというかね…」

 

するとそれを聞いていたグリフィスが顎に手を当てて、何か考え込むように唸っていた。

 

「う~ん…実はそれは僕や八神部隊長も気づいていたんだけど…どうも家康さんが六課にやってきた頃から、あんな感じになったというか…」

 

「家康さんが…?」

 

ティアナが訝しげながら聞いた。

すると、それを聞いていたルキノが思い出したようにこんな事を話し始めた。

 

「…そういえば、最近スタッフの間でちょっとした噂があるんです。 「ジャスティ通信主任は、家康さん達の事をあんまり快く思っていないんじゃないか?」とか…」

 

「ええぇ!? なんでなのよ!?」

 

アルトが驚きながら言った。

 

「うん。彼、元々実戦部隊志望だったらしいんだけど、魔力保有指数が入隊基準値より上回らなかったから管制官の道に進む事になったらしくて…それで同じ魔導師でもない民間人協力者にも関わらず六課の主力メンバーとして活躍している家康さん達が気に食わないって話じゃないかってスタッフの人達は噂してるみたい…」

 

「えぇ~!? 信じられない! 家康君達って、ちょっとクセは強いけど皆いい人達ばっかりなのに!」

 

ルキノの説明を聞き、アルトは呆れと驚愕が混じったような声を上げた。

はやてを除くロングアーチメンバーの中では、シャーリーと並んで家康と接する事の多いアルトは、既に彼らの人となりを把握しており、その評価は至って好意的となっていた。

なのは達同様に、戦力としてのみならず人としてもよくできた家康達を嫌う理由が、アルトには信じられなかった。

それはグリフィスも同じ思いであった様に、同調するように頷いた。

 

「そうだな。魔導師か否かだなんてこの際、詮無き事だ。皆さん、この六課の大きな力となっていて、八神部隊長や高町隊長達、フォワードの皆も認めている仲間なんだ。ジャスティもそれを早く受け入れてくれる事を祈りたいな」

 

「そうそう! 今の六課で、家康君達をよく思っていない人なんて、ジャスティ主任(あの人)以外いないでしょ! アハハハ!」

 

「……………」

 

軽い調子でそう言いながら笑うアルトであったが、その言葉にティアナが一瞬複雑な面持ちでアルトに目を配った事に、アルト自身は勿論、グリフィス、ルキノも気づく事はなかった。

 

 

バシュッ! バシュッ! パンッ! バシュッ!

 

ホログラムの標的を投影させて、そこに向かって魔力弾を撃つ。

射撃手としては基礎中の基礎であるこの訓練を、ティアナは時間を惜しんで真剣に取り組んでいた。

結局、昼食もそこそこで切り上げたティアナは、午後からの任務地へ出立するまでの1、2時間の間に少しでも訓練に励もうと、一人隊舎の裏手にやってくると、再び自主練を開始したのだった。

取り組みながらティアナの脳裏を過るのは先程の食堂でのアルト達との会話だった。

 

 

―――今の六課で、家康君達をよく思っていない人なんて、ジャスティ主任(あの人)以外いないでしょ!―――

 

 

アルトはそう一笑に付していたが、正直それは今の自分にとっては笑えない一言だった…

っというのも、僅かばかしだが自分もまたこの機動六課において『家康達の存在を快く感じていない』人間である事を自覚していたからだった。

実は、ティアナの心の底には、家康達がやってくる以前からある“負”の想いが燻り続けていた…

 

 

この機動六課に所属する者達はどれをとっても常人を遥かに超えた実力や才能を持つ者達ばかりである。

Sランク以上の実力を持つ魔導師 なのは、フェイト、はやて、シグナム、ヴィータ―――

若干10歳で魔術師ランク“B”を取ってる騎士の卵 エリオと、竜召喚士という特異なスキルの所持者であるキャロ―――

そして父親に武装隊指揮官を持ち、自身も強大な魔力の保持者である親友 スバル―――

 

それだけでも周囲との才能の差に引け目を感じていたティアナであったが、そんな彼女の劣等感をより強く痛感させる事となったのが、他でもなく家康達“戦国武将”であった。

 

武器や魔法を一切頼らず、己の拳の力のみでガジェットを300機あまり簡単に撃破するほどの実力を持つ徳川家康―――

しかもそんな彼でさえも、六課にいる武将達の中ではまだ若輩というのが驚きだ。

 

“六爪流”なる6本の剣を当時に操るという今までに見たことが無い型破りな剣術を使う伊達政宗―――

 

二槍というこちらもまた常識を逸する戦闘スタイルと、フェイトに劣らぬスピードを武器にする真田幸村―――

 

『龍の右目』の二つ名に恥じぬまでの、完成された剣術と卓越した知略を駆使して政宗を支える片倉小十郎―――

 

相手の動きを的確に見越す優れた洞察力や、巧みな罠や術を駆使して敵を翻弄する猿飛佐助―――

 

どの武将達もティアナが今まで見たことがなく、その常識を遥かに凌駕した強者達である。

 

しかも、驚く事に彼らの誰一人も魔力を一切持ち合わせていないのだ。

それでいて、“気”なる特殊な力を用いる事で、彼らは雷や炎などを自由自在に操る能力を持っているという、まさにこのミッドチルダのルールを無視したかのようなチート人間達である。

おそらく魔力云々抜きにして、純粋に戦うだけであれば彼らの実力は、なのは達とも互角…否、もしかしたら彼女達をも凌ぐ程かもしれない。

 

されども、ここまで超人的な力を見せられると逆に諦めも着けるものだった。

だが、それでいてティアナが劣等感を更に燻ぶらせる事となったのは、そんな戦国武将の教えを受けた事で、実力を急成長させつつあるスバル達の存在だった。

 

キャロが今日から受ける事になった小十郎の剣術は、政宗の言う通り確かに『本物』である。

あの『舞うような』それでいて『豪快な』剣術をキャロが身に付ければ、間違いなく最前線で戦うだけの実力を得られるはずである。

 

そしてエリオ…彼の実力もここ数日で大きく変わりつつある。

先日の黒田官兵衛、後藤又兵衛両名による六課襲撃事件以降、幸村から槍術を学ぶこととなったエリオは、最近では日常生活においても非常に積極的かつ野性的な性格に変わりつつあり、そして戦闘面においても今までの騎士としての確実に敵を討つ正確さと優雅さを重視したものから、豪快で大雑把ながらも強力な一手を打つ『武士』の戦い方に変わり、その実力も大きく上がりつつある。

 

だがやはり大きく変わったといえばスバルだ。

家康と師弟関係を結んでから1カ月…このわずかな間でスバルの戦術、実力は共に大きく変わった。

シューティングアーツを捨てると宣言したスバルの選択に初めはほんの数日で元に戻ると信じていたティアナであったが、それがどうだ?

いざ家康の戦術を身に付けたスバルの実力は、これまでのものを遥かに上回る活躍ぶりをみせた。

これまでシューティングアーツでは魔力と併用する事で、はじめてその実力を発揮されていたスバルの拳が、今では拳の力のみでガジェットを破壊し、それでいてシューティングアーツで身に付けた技を超える威力を持った技を数多く繰り出せるようになったのだ。

極めつけはその十分に温存できるようになった魔力と、家康から教わった『気』の力との組み合わせで可能となった『戦極ドライブ』という大技だ。

あの技はおそらく、なのはの魔力リミッター解除時の『ディバインバスター』を超える威力を持ち合わせている筈である。

第五監視塔事件の際にはじめて見せたスバルの大技は、ティアナに驚愕と共に劣等感を抱かせる事となった。

その後も黒田主従襲撃事件の際にもスバルは家康、幸村をサポートして後藤と戦ったのにも関わらず、ティアナは現れたガジェットドローンと戦う事で精一杯であったのだ。

認めたくは無いが、今の自分の実力はスバルとは大きく差を空けられている。

そればかりか、六課の中に置いても下から数えた方が早いはずだ…

 

(やっぱりこの部隊で……凡人はあたしだけ……)

 

そんな劣等感がティアナの心を大きく蝕んでいた。

 

別に家康達が疎ましいわけではない。ただ、彼らの存在によって、自分以外の周りがどんどん先に進んでいってしまっている事に焦りや不安が生じ、そのやり場のない苛立ちが自ずと家康達に向いてしまうのもまた事実であった。

 

「でもそんなの関係ないわ……私は…今ここで立ち止まってるわけにはいかないんだ」

 

ティアナは自分を慰める為か、それとも己の熱り立ちそうになる心を鎮める為か、そう呟くとさらに特訓に熱を入れてかかった。

そんなティアナの様子を少し離れたところに生える木の上から一人の男が見守っていた……

 

「…まさに“水底に沈み彷徨う”って感じか…かつての真田の大将そのまんまだねぇ。さて…どうなる事やら…?」

 

男…猿飛佐助は、そんなティアナを複雑そうな面持ちで見据えながら、呟くのだった……

 

 

スカリエッティのアジト スカリエッティの研究室―――

薄暗く、仄かに小さい明かりだけが灯る室内に、スカリエッティ、三成、皎月院、大谷、そして“ナンバーズ”の1番でスカリエッティの秘書 ウーノと、もうひとり、丸渕のメガネをかけた、明るめの茶色のお下げ髪に白いケープを纏ったナンバーズの女性が居合わせていた。

 

「さて、三成君……今回の“計画”を説明する前に、まずは君達に見てもらいたいものがある」

 

開口一番、そう言うとスカリエッティがウーノに合図を出した。

それを受けたウーノは身体の周りにピアノの鍵盤の形を模したホログラムコンピュータのコンソールを展開させ、手慣れた手付きでコンソールを操作していく。

すると、一行の前に大型のホログラムスクリーンが投影され、そこにある資料写真が映し出された。

赤い宝石のような光る結晶体のようなものが金属製のケースの上に浮かんでいる。

 

「………なんだ? それは?」

 

顔を顰めながら、訝しげに尋ねる三成に対し、大谷は小さく唸りながら、憶測を述べた。

 

「もしや…それが以前、ぬしが話していた“レリック”なる魔石か?」

 

「そのとおり! 流石は大谷殿。 察しがいい。 そう、この“レリック”は私の計画に必要不可欠な存在となる『賢者の石』。性質としては高エネルギーを帯びる「超高エネルギー結晶体」であり―――」

 

「無駄に長い説法は無用だ。それよりその魔石とやらが、一体なんだというのだ?」

 

写真に映る結晶体…『レリック』について説明しようとしたスカリエッティを鬱陶しそうに遮りながら、三成は催促する。

だがスカリエッティは動じる事なく、諭すように話しかけた。

 

「まぁまぁ、話は最後まで聞いた方がいいと思うよ。三成君。このレリックはこれから私だけでなく、君の“願い”を叶える為に重要な役割を果たす事になるのだから」

 

「!? なんだと…?」

 

スカリエッティの言葉に、三成が眉を顰める。

 

「……つまりは、貴様とうたが言っていた“儀式”を成功させる為に必要な一手という事か?」

 

「まぁ、簡潔に言えばそういう事だねぇ。残念ながら、レリック自体はあくまでもその”動力源”に過ぎないけど…それでも”アレ”を成功させる為には、相当なエネルギーが必要となる。レリックは最適な媒体というわけさ」

 

皎月院がそう説明した。

すると、話を聞いていた丸渕メガネの女性が話に割り込んでくる。

 

「その為にも、“レリック”と名前の付く品はできる限り、私達の手に集めておきたいのですのよねぇ~。特に最近では凶王様の宿敵の“徳川家康”って人が手を組んだ“機動六課”にレリック集めを邪魔されて、収集率が悪くなっているのが目下の問題なんですよぉ~」

 

女性…ナンバーズ・4番 “クアットロ”は、この場の雰囲気には場違いにも程があるような甘ったるい声で、馴れ馴れしく説明してきた。

そんな彼女に対して、三成は今にも斬りかからんばかりに、忌避と嫌悪の感情の籠もった刃の如き一瞥を向ける。

 

「……つまり、西軍(我々)に魔石集めの手伝いをしろと?」

 

「そういう事ですねぇ~。あっ! 勿論、凶王様のお手を煩わせるなんてそんな恐れ多い事はしませんよぉ~。できれば、西軍についた腕の良い方々の助力をお借りしていただけるなら嬉しいんですけどねぇ~」

 

三成はさらに腹立たしい気分になった。

元々、スカリエッティの“娘達”というナンバーズには良い印象を抱いていない三成だったが、このクアットロは特にいけ好かずにいた。

一見謙った物の言い方で話しているが、その馴れ馴れしく、軽薄な言葉からは妙な胡散臭ささえも感じられる。それもまた、三成の彼女に対する嫌悪感情を増長させていた。

 

「そのような使い同然の仕事など、外様の連中か、貴様らの”妹”共にでも任せればいいであろう?」

 

「あぁ~。それはダメですよぉ~。まだ後期発組の子達の何人かは調節中ですし、中にはまだ目覚めてさえもいない子もいるんですよぉ。他の武将の方々にしたって、あの人達みたいな、期待外れな方に任せてしまっては、元も子もありませんし、ねぇ…」

 

そう言いながらクアットロは、部屋の隅の方で、正座させられている二人の男達…黒田官兵衛と後藤又兵衛を見下すような眼差しで一瞥した。

クアットロの言葉を聞き、又兵衛は屈辱に震え、官兵衛も悔しそうに歯を食いしばっていた。

 

「お、おい! “4番(クアットロ)”とやら! 『期待外れ』とは言ってくれるじゃねぇか! そりゃ、確かに小生達は、失敗はしたけどよぉ、『期待外れ』はねぇじゃねぇか?」

 

官兵衛はそう異議を唱えるが、そこへ大谷が輿に乗って近づいた。

 

「唯の『期待外れ』であれば、それに相応する役目はあるので問題はない…だが、混乱に乗じて敵に内応を目論むような『獅子身中の虫』であれば、余計に質が悪いというものよ…」

 

「ゲゲッ!? …な、なんのことだ…? 小生にはさっぱり……?」

 

先の六課襲撃の折に、家康に取り入る計画を謀ろうとしていた自分の意図を遠回しに突いてきた大谷に、官兵衛は顔を青ざめながらも必死に誤魔化そうとするが、そこへ隣にいた又兵衛が…

 

「あ~…すんませ~~ん。コイツ、こないだの襲撃中に徳川家康の阿呆に思いっきり取り入ろうとしてましたぁ~~…」

 

「ま、又兵衛えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」

 

躊躇う様子もなく、官兵衛が立てた計画を大っぴらに暴露してしまった。

そこには『主君を庇い、守る』という家臣としての矜持や忠誠など微塵もない。

 

「なんだとッ!!? おのれ、官兵衛えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 縊り殺してやるうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

当然、それを聞いて烈火の如く怒り狂う三成と、「やっぱり」と言わんばかりに呆れと嘲笑の目つきで見下してくる大谷。

すると、そこへ皎月院が割って入り、制止した。

 

「まぁ、待ちな。 黒田が素直にわちきに従おうとはしないだろうとは思っていたけど、それでも敢えて斥候として選んだのはわちきなんだ。コイツは確かに阿呆で信用できないけれども、まだ使い道はあるはずだ。だから…今回の不敬に関してはわちきの顔を立てて、勘弁してやってくれないかい?」

 

「うたっ!? しかし、コイツは……!?」

 

「安心しな。コイツには当分、徳川方と接触させはしないよ。しばらくはこの穴蔵の中で、アンタ達の妹の世話でもさせようかねぇ?」

 

皎月院はウーノとクアットロの方を見据えながら言った。

すると、クアットロは思い出したように手を打った。

 

「そうだ! だったら、一人ピッタリな子がいるんですよぉ~。ちょうど、黒田さんみたいな“アホ”で、私も手を焼いてるんですけどぉ~。その子ならアホ同士ピッタリだと思いますよぉ」

 

「クアットロ。貴方、言葉が過ぎるわよ」

 

ウーノがピシャリと窘めた。

 

「ならば、官兵衛よ。ぬしは当分、ここで“謹慎”しながら、その戦闘機人(人形共)の小娘の養育係でもやっておくがよい。それと…」

 

大谷はそう言いながら、官兵衛の手にかけられた手枷に向かって、両手で奇妙な印を切り、そして叫んだ。

 

「“封”!!」

 

そう言い放った瞬間、官兵衛の手枷に濃い紫色のオーラが宿る。

同時に、手枷にさらなる重石が加わったかのように、その重量が倍以上に重く感じられた。

 

「なっ!? …なんだこりゃ…? 刑部! 一体、何をしやがった!?」

 

「ヒッヒッヒッ…謹慎だけでは、謀反の罰としては手ぬるいのでのぉ。ぬしの手枷に術をかけて、鍵だけでは開かないように施してやったぞ」

 

「な…なぁにぃぃ!?」

 

官兵衛が血の気の引いた顔で驚愕する。

 

「その手枷を外すには、我が今しがたかけた“術”を解いた上で、鍵を外さねばならなくなった…つまり、我らに手向かい、徳川と結んで我を倒して鍵を奪っただけでは、ぬしのその手枷は永遠に外す事ができないということよ…」

 

「ななっ!? なんだとおぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

絶叫する官兵衛に、皎月院が嘲笑うかのように言葉を添えてきた。

 

「これで、アンタはわちき達に…豊臣に逆らう事ができなくなったって事だねぇ。こうなったら、一日も早く、三成や刑部の信頼を得られるように胡麻をする方法でも考えな」

 

「ぐぐぐっ………な、なぜじゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

悔しそうに地団駄を踏み、叫ぶ官兵衛。

そんな官兵衛の姿を見て、又兵衛が腹を抱えて笑い出した。

 

「ケーケッケッケッケッケッ!! ざまぁねぇな阿呆官!! 俺様の邪魔をした報いって奴だなぁ! せいぜい、大好きな穴蔵の中で木偶のお守りでもやってろ! その間に、この又兵衛様がその“れりっく”ってやつを集めまくって、豊臣直臣の座に躍り出てやっからよぉ!!」

 

又兵衛が得意げにそう宣言するが、そんな又兵衛に対しクアットロは淡々とした調子で言い放った。

 

「あっ。別に“何兵衛”さんも働いてもらわなくて、結構ですよぉ。っというか“謹慎”は貴方もですからぁ」

 

「へっ…!?」

 

一瞬なにを言われたのかわからず、目を丸くさせながら、硬直する又兵衛。

そこへ、皎月院が容赦なく宣告する。

 

「当たり前じゃないかい。黒田の邪魔が入ったとはいえ、アンタも失敗した事に変わりはないんだよ。おまけにわちきの命令に背いて、真田だけでなく徳川までも手にかけようとしたそうじゃないかい? 謀反を企てる奴は論外だけれども、功名に逸って命令通りに動かない奴も信用はおけないねぇ」

 

「そ、そんな…っ!? 悪いのは全部、阿呆官だろうが!!?」

 

必死に抗議する又兵衛に、皎月院は手を上げて黙らせた。

 

「それはわかっているさ。だから、アンタの謹慎は黒田よりは軽くしておいてやるよ。だけど、今後アンタを西軍の主な作戦に使うか否かは、別の作戦の折にアンタの働きを見て判断する事にするよ。勿論、今回の作戦からは外れてもらうからね」

 

皎月院からの冷淡な宣告に又兵衛はがっくりと肩を落とし、そして隣で未だにショックに打ちひしがれていた官兵衛に向けて、粘着質な目つきで睨みつけた。

 

「おい、阿呆官! テメェのせいで、俺まで “無能”扱いされちまっただろうが!!」

 

そう食って掛かる又兵衛に、官兵衛もすかさず反論する。

 

「なにをいうか又兵衛! そもそもお前さんが、あの時小生の言う通りにしていればこんな事にならなかったんだよ!!」

 

「なぁに言ってんだ! オマエ殺す、もう殺す、絶対殺す!」

 

2人の口論はヒートアップしていき、とうとう互いに取っ組み合いの喧嘩にまで発展してしまう。

 

「なんだと、このあまんじゃく兵衛!」

 

「うるせぇぞ!阿呆官!」

 

「いやいや、お前がうるさい!!」

 

「いやいやいや、テメェがうるせぇ!!」

 

「いやいやいやいや―――!!!」

 

子供の喧嘩のように稚拙な罵倒合戦を繰り広げながら、組み合う又兵衛と官兵衛を心底軽蔑するように睨みつけながら、三成が長刀を抜きかけたその時だった――

 

バシュッ! バシュッ! バシュッ!

 

「「ッ!!?」」

 

突然、又兵衛と官兵衛の足元に、乾いた打撃音を響かせながら紅い電流が走り、特殊な石でできた床を刳り削った。

突然の事に官兵衛、又兵衛が目を丸くしながら硬直していると、薄暗い部屋の暗闇からコツコツと靴音を響かせながら、二振りの一本鞭を携えた一人の男が近づいてくる。

金と薄紫の派手な色合いの厚着に、黒いスカーフのような布を巻き、腰に二本の鞭を携えたブロンド髪の青年が白々しいまでに満面の笑みを浮かべながら、薄闇の中から歩いてくる。

その手にある鞭は普通のそれと違い、太いワイヤーの骨組に剃刀のような鋭利な刃が何重と連なった所謂『連結刃』のような特殊な構造となっていた。今しがた床を抉ったのもこの鞭によるものであろう。

 

「全く…やっと本陣へ招集されたと思いきや…着陣早々、醜い“穴熊”と“蜥蜴”の痴話喧嘩を見せられるとは、なんとも不愉快極まりませんね…」

 

「ッ!? お、お前さんは…“五刑衆”の……ッ!?」

 

暗闇から現れた男の正体に、官兵衛は驚きと警戒心を含んだ表情を浮かべる。

 

「セニョール・黒田。それから後藤…とか言いましたね? 生憎ですが、此度の作戦はこの私が主導権(イニシャティーバ)を一任されている故、謹慎処分になった貴方方にこれ以上、ここに留まって頂く必要はありません。これから筆頭参謀(ペルソナル)・大谷達と大事な打ち合わせを行いますので部外者の黒田軍(あなたがた)は早急にお引取りを」

 

「アディオス」と気障な物言いの言葉を添えながら、男が指をパチンと鳴らすと、暗闇からガジェットドローンⅢ型が現れ、機体から伸ばした2本のベルトアームで官兵衛、又兵衛をそれぞれ吊り上げてしまう。

 

「ぐぁっ!? テメェ! 離せ! 離せっつってんだよ! このポンコツ! ぶっ壊すぞ!!」

 

「くそおぉぉぉぉ! なぜじゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アームの中で暴れ、藻掻く又兵衛と官兵衛を連れて、ガジェットドローンは男と引き換えに暗闇へと消えていった。

その様子を見ていた皎月院が感心するように言った。

 

「ほぉ…合流して数日も経ってないってのに、もうガジェットドローンをここまで手勢として使いこなすとは…さすがは“五刑衆”に名を連ねるだけの事はあるね」

 

「あんなカラクリ兵器程度、この私の手にかかれば造作もありません…それよりも此度の作戦。私めに白羽の矢を立てて頂き、光栄に思いますよ。御内儀(ヌエストラ)・皎月院…」

 

男は優雅な振る舞いで一礼した。

皎月院は冷たい微笑を返す。

 

「黒田程度に勝ったくらいで、いい気になっている機動六課(あの連中)に、豊臣の本当の恐怖……“五刑衆”の恐ろしさを思い知らせてやるのもいいと思ってね。アンタはその役目としては十二分に相応しいからね」

 

「……此度は獲物を仕留めるのではなく、あくまでも痛めつける程度ですか?」

 

男が鞭を張って、その撓り具合を確かめながら尋ねた。

 

「…不満かい?」

 

「…いえ。寧ろその方が私としても好都合。上等な獲物は、じっくりと甚振りながら仕留めてこそ価値があるもの…一狩りで仕留めてしまえば勿体ないでしょう?」

 

そう言いながら、男の鞭を握る手に力が入り、鞭に邪悪な紅い電流が走った。

 

「あまり主の趣味に力を入れすぎて、殺してしまわぬようにな……特に徳川の首をとってしまえば、三成が黙っておらぬぞ」

 

大谷がそう忠告すると、男の口元が不敵に吊り上がった。

 

「…ご安心を。群れの(ドン)の獲物を横取りしようなどという無粋な振る舞いを考えるのは、それこそ知恵のない下賤な獣の考える事…」

 

「ヒヒヒ。『下賤な獣』か……」

 

大谷は愉快げに言った。

 

「……それで、私は一体何をすればよいのでしょうか? セニョール・スカリエッティ」

 

男は気障っぽく一礼しながら、スカリエッティに尋ねた。

 

「あぁ。君にはこれから“ホテル・アグスタ”という場所に出向いてもらう。そこで骨董美術品のオークションが行われるそうだが、索敵用のガジェットドローンがそれに強い反応を示していてね…もしかしたら、レリックかそれに相応する高エネルギーのロストロギアが紛れ込んでいる可能性があるかもしれないので、我が“協力者達”と共に探ってきてほしい……っというのが表向きの理由であるけれど…」

 

「……まだ何か?」

 

男が尋ねた。

すると、皎月院が懐から取り出した髑髏水晶を宙に浮かし、妖艶な赤黒い光を照射した。

そして、男の前に照らし作られた光の靄の中に一人の腰まで伸ばしたベージュに近い金髪を後手に括り、丸渕のメガネをかけた爽やかそうな印象の青年の姿が映し出された。

 

「…こいつは誰だ…?」

 

三成が怪訝な顔で尋ねる。

すると、ウーノが手早くホログラムコンピュータのコンソールを操作し、彼に関する情報をモニターに投影しながら、説明した。

 

「ユーノ・スクライア…時空管理局“無限書庫”司書長にして、ミッドチルダ考古学士会所属の考古学者です。此度のアグスタのオークションに来賓として参加が予定されています」

 

「ほう…なかなかの美貌ある風貌ですが、この青二才をどうするのです? 殺すのですか?」

 

ブロンド髪の男が尋ねた。

 

「いや。この男は三成の“願い”を叶える為に重要な、ある“ロストロギア”についての情報を知っている。それもレリック以上に大事な…ね?」

 

皎月院の言った『願い』という単語を聞いた三成の顔つきが一変する。

そしてブロンド髪の男に向かって、鋭い眼光と共に命じた。

 

「ならば絶対に殺すな! 生け捕りにして連れてくるのだ! 私の“願い”を実現させる為ならば、私は手段を選ばぬ!」

 

三成の決意の言葉を聞いたブロンド髪の男は意外そうな表情を浮かべた。

 

「三成殿らしくない命令ですねぇ…ですが」

 

男は目を細めながら不服を込めて言った。

 

「生け捕りというのは正直、私には不向きかもしれません。私は無傷で獲物を捕らえる狩りができる程、器用な男ではありませんので…」

 

「フン…苛虐性が………では、左近を連れて行け。貴様は家康の共鳴者共を引きつけている間に、左近にそのスクライアとやらを、捕らえに行かせろ!」

 

三成は吐き捨てるように追加で命令を加えると、男は納得した様に冷たい微笑を浮かべ、一礼した。

 

「承知……では、私はそろそろ参ります…“蟒蛇(うわばみ)”の狩り…じっくりご堪能ください…五刑衆“主席”殿」

 

男はそう皮肉っぽく言い残し、さっと薄闇の中へと歩き、去っていった

男が消えると、その様子を見ていたスカリエッティが興味深そうに呟いた。

 

「さて…ここはお手並みを拝見とさせてもらうとしよう…常勝豊臣が誇る最高幹部集団“豊臣五刑衆”のお手並みを……」

 




作者charley個人的にお気に入りな長編ベスト3に入る『ティアナ成長編』が始まります。

お気に入りと言っているだけあって、今回もオリジナル版より改変する点はかなり増えていると思います。

ちなみに、何気にリブート版で追加されたオリジナルロングアーチメンバーのジャスティ通信主任。
彼がオリジナル版でいうどんな役割に当たるか…? 察しの良い人であればもうわかるかもしれません。
わからない方はpixivで投稿されているオリジナル版を読んでみて考えて下さい。
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