リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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機動六課・フォワードチーム センターガード ティアナ・ランスターは悩み、そして焦っていた……

規格外のハイスペック、ハイスキルを持つ仲間達…家康達“戦国武将”の存在―――
そして、家康達に教え、導かれてますます力を増していく親友・スバル―――

ティアナの周囲への劣等感、焦燥は少しずつ彼女の心を荒ませつつあった……

そんな中、六課の次なる任務として『ホテル・アグスタ』の警備任務に赴く事になったティアナは失われつつある自信を取り戻そうと、人一倍の気合で任務に臨むが…

大谷「リリカルBASARA StrikerS 第十六章 不幸よ…さんざめく降り注げ!」




第十六章 ~ティアナの焦り ホテル・アグスタの攻防~

ミッドチルダ・西南部方面沿岸部 ヘンシェル諸島―――

人口 約53000人。特産物は主に南国特有の果実や、デバイス作成に必要なレアメタル、化学燃料の原料となる重油など、それなりに資源・産物に恵まれ、さらに観光業の収入も相まってミッドチルダの中でも財政面に豊かな地方である。

反面、諸島に属する島々自体は、どこも緑豊かな森と水源に囲まれ、空気が澄んだ美しく裕福な土地を成している。

この半島では、独自に施行された自然保護条例によって化石燃料を極力使用していない為、大気汚染が進んでおらず、綺麗な自然を保っていた。

そんな島の一角にある小さな無人島。

ヤシの木が豊富に生え、穏やかな波が打ち寄せる音が心地よく響く、砂浜に少女…ルーテシア・アルピーノは佇んでいた。

 

「……………………」

 

穏やかな景色には相応しくない、憂鬱ささえも感じさせる無感情な表情でどこか遠い物を見つめるように空を見上げるルーテシア。その後方に、ある一際大きなヤシの木の真下…大きな木陰となった場所に腰を下ろした西国薩摩の猛将 “鬼島津”こと島津義弘は、愛用の大徳利を片手に大好きな芋焼酎を呷りながら、彼女の事を見守っていた。

すると、ルーテシアの前に小さなホログラムモニターが投影され、スカリエッティの顔が映し出された。

 

《やぁルーテシア。 ご機嫌いかがかね?》

 

「ドクター…どうしたの?」

 

ルーテシアは表情を変えずに、モニター越しに映るスカリエッティと会話を始める。

 

《まずはこのあいだの黒田君達の件について礼を言わせてもらうよ。君が索敵魔法で2人を見つけ出して、すぐに転送魔法をかけてくれたおかげで、管理局に発見される前に2人を無事に回収する事ができた》

 

話を聞きながら、ルーテシアは一週間前にスカリエッティから依頼された内容を思い出していた。

一週間前。ルーテシアはスカリエッティから『緊急の頼み』として、彼と共闘している西軍武将 黒田官兵衛、後藤又兵衛両名が、『機動六課』なる敵対勢力への尖兵として向かったものの、返り討ちにされ、そのまま海に落ちて、管理局に捕まりそうになっている為、索敵・救出してほしいと頼まれた。自分の護衛役にして協力者であった ゼスト・グランガイツの非業な死の一件もあった事から当初、同行する融合騎のアギトはこの協力に猛反対していたものの、ゼストに代わって護衛役についた義弘と立花宗茂は、官兵衛の名前を聞いて、どうにか助けてやってほしいと頼んできた。

曰く、官兵衛は義弘、宗茂とは同じ地方の領主故に、少なからず馴染みの深い仲であったという。

生命の恩人である義弘、宗茂の頼みとあっては、アギトもそれ以上無下にする事はできず、ルーテシアは依頼を受け入れ、自身の召喚獣を駆使して、とある無人島に流れ着いていた官兵衛と又兵衛を発見すると、転送魔法でスカリエッティのアジトへとお繰り返してやったのだった。

 

「別に構わない……それよりまた私にお仕事?」

 

ルーテシアがそう言うと、スカリエッティは白々しいまでに作ったような穏やかな笑みを浮かべて話した。

 

《いや、念の為に君に伝えておきたい事があってね。実はとあるホテルで骨董品のオークションがあるのだが、そこにもしかしたらレリックも出品されている可能性があるみたいなんだ……とは言っても、普通に考えて、唯のオークションにレリックが出品されるなんて常識的ではないからね。おそらくは索敵用のガジェットドローンによる誤認識の可能性が高いかも知れないけど、念の為に君の耳にも入れておいてあげようと思ったまでさ》

 

「……そう。ありがとうドクター」

 

《君は本当に素直だね。ところで…》

 

スカリエッティは急に話題を変えてルーテシアに問いかけてくる。

 

《ミスターゼストに代わって、君の護衛に立っている2人の御仁は、役に立っているかね? そうでないのなら、私から三成君に頼んで、さらに増援を寄越してもらっても―――》

 

「いい………二人共しっかり私を守ってくれるし、それに私にはアギトやガリューだっている」

 

《そうかい?》

 

「それと…二人は“部下”なんかじゃない…私の大切な“仲間”だよ…」

 

《そうか……それは失礼したね。ルーテシア》

 

ルーテシアが珍しく少し強めの口調で諌めると、スカリエッティは相変わらず薄ら笑いを浮かべながらも、素直に謝罪の言葉を述べた。

 

《では、もしも現地に赴くつもりなら、後で目的地の地図を送っておくけど…もしかしたら、君を邪魔する連中も現れるかもしれないから、念の為にあの御仁方のいずれかには同行してもらう事をお勧めするよ》

 

そう言うと通信が切れ、ルーテシアは踵を返し、木陰でくつろぐ義弘の元に近づいていった。

 

「ん? どげんしたと、ルーどん?」

 

「………ドクターからの通信……」

 

ルーテシアが木陰の中に腰を下ろしながらそういうと、その中に含まれた『ドクター』という単語を聞いた義弘の眉が露骨に顰んだ。

 

「なんじゃと? 今度はどげん小間使いみてな仕事押し付けてきたとな? あの若造め…」

 

日ノ本から異世界に漂流する事となり、再び西軍の将として動く事となった義弘ではあったが、そのきっかけとなった一件以来、一応の雇い主の一人であるドクター=スカリエッティの事は、アギト同様に快く思ってはいなかった。

 

「…大丈夫。今回は私の用事…“レリック”が見つかったかもしれないって…戦いになるかもしれないから、義弘か宗茂を連れて行った方がいいって」

 

『戦い』という言葉を聞いた途端、義弘の表情が今度は子供のように生き生きとしたものに切り替わった。

 

「ほぉ~! 久しぶりの戦かぁ~? それなら、おいば大歓迎じゃ! さっそく宗茂どんや、アギトどん達にも用意をするように知らせば、いけんのぉ」

 

伊達に『鬼島津』の名を誇るだけあってか、その胸に宿す薩摩隼人としての血は異世界に飛ばされようと衰える事なく、寧ろ日ノ本では決して出会う事のできない新たな強敵との戦いに胸踊らせる毎日であったが、こうして明確に戦の機会を与えられたとなれば、黙っていられなかった。

すると、ルーテシアは静かに首を振りながら告げた。

 

「大丈夫…今回は……私と義弘だけでいい」

 

「ん? おいだけでよかと?」

 

「うん…」

 

ルーテシアが静かにうなずくと、島津は浜辺に響くような愉快な笑いを発した。

 

「グワッハッハッハッハ! そうかそうか! おまはんもまっこと謙虚な奴じゃのぅ! よかよか! おまはんが言うならおいだけでも、しっかりとおまはんに協力してやるけんのぅ! 宗茂どんやアギトどんには、ここで夕餉の魚ば獲って待ってもらうとしようかのぉ」

 

島津はそう言うと、ひょいとルーテシアを肩に担ぎ、さっそく今回の任務先に向かうべく歩き出す。

 

「……ありがとう…義弘…」

 

その肩に黙って乗ったままルーテシアは小さな声で礼を言った。

 

 

ホテル・アグスタ―――それが、今回の任務先の施設の名前であった。

ミッドチルダでも指折りの高級ホテルのひとつで、多くの次元世界などから大富豪や政財界の大御所などが娯楽、静養、政務など様々な用事で訪れる事の多い場所である。

今日はそこで骨董オークションが開かれるのだが、その中で数点出展が予定されている取引出品許可されているロストロギアをレリックと間違えてガジェットが狙っているという情報が入った為、その対策として機動六課が警備任務を受け持つ事となった。

すなわち家康にとっては二度目、政宗、幸村達にとっては初の機動六課としての任務である。

そして、今回はスターズ分隊、ライトニング分隊全員に加え、部隊長を含むロングアーチの医務官・シャマルと部隊守護要員・ザフィーラも加えた六課の主力メンバーほぼ全員が、参加する事になっていた。

 

「私達は内部の警備に回るから、皆は、副隊長達の指示に従ってね」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

なのはがフォワードメンバーに指示する傍ら、はやては家康達、外部協力者達にそれぞれ指示を出す。

 

「政ちゃん、ゆっきーは、私、なのはちゃん、フェイトちゃんと一緒に内部での警護。家康君、小十郎さん、佐助さんには副隊長達と一緒にホテル周辺の警備をお願いするわ」

 

「わかった!」

 

「OK」

 

「承知申した!」

 

「うむ…」

 

「了解っと」

 

「…っとは言っても、家康君の場合は、必然的に相性のいいスバルとコンビで動いてもらうのがえぇか」

 

はやてがそう言うと、それを聞いたヴィータも頷きながら話す。

 

「それがいいと思うぜ。今や家康とスバルのコンビは六課随一の『名コンビ』といっても過言じゃねぇくらいだからな。アタシやシグナムがいなくても、この2人になら安心して任せられそうだ」

 

ヴィータの言葉になのは達、他の隊長、副隊長も賛同しているのか、それぞれ微笑を浮かべながら頷いた。

すると、それを聞いた幸村とエリオが対抗意識を抱いたのか眉を顰ませる。

 

「ムムムッ…!? 兄上! 聞きましたか!? 僕と兄上が家康さん、スバルさんに劣るとも言われましたよ!」

 

「なんと!? いくら、師弟の契を結んだのが我らより一日の長があるとは申せ、それは聞き捨てならぬ事! エリオ! こうなれば、一日も早く我らも互いに精進し、家康殿、スバル殿に負けぬ信頼を勝ち得ようぞ!!」

 

「はい! 兄上!」

 

「ェエリオ!」

 

「ぁ兄上!」

 

「ェェエリオ!!」

 

「ぁぁ兄上ぇ!」

 

「ェェェエリオ!!」

 

「ぁぁぁ兄上ぇぇ!」

 

「っていつまでやる気だテメェら! 日が暮れちまうだろうが!!」

 

お決まりのパターンで、定番のやり取りを始めようとした幸村とエリオに、政宗のツッコミが炸裂した。

そんな政宗達のやり取りに、その場はなのは達の笑いが包まれる。

しかし、そんな温かい談笑の話に一人だけ入れずにいた人物がいた。

ティアナだった―――

 

(スバルと家康さんが、六課の『名コンビ』……か……)

 

ティアナは、己の胸に燻る鬱屈した想いを極力表情に出さないように気をつけていたものの、無意識の内にその片手の拳を固く握りしめていた。

 

「………………」

 

そんなティアナの様子を、佐助が真剣な面持ちで見つめていた。

するとそこへ一体の蒼い狼… “盾の守護獣”ことザフィーラが近づいてきた。

 

「皆の輪に入らないのか? 猿飛」

 

ザフィーラはそう言って、佐助に話しかけてきた。

 

「おっ!?これは、ザフィーの旦那。珍しいじゃないッスか、旦那の方から話しかけてくるなんて」

 

佐助はわざとらしく戯けた口調で返した。

佐助を含む、武将達が、ザフィーラが唯の犬ではないと知ったのは家康と幸村の決闘騒動から2日後の事だった。

元々、口数が少ない寡黙な性格である故に、家康達の前で話す機会がなかった為、一番滞在歴が長い家康でさえも、それまでザフィーラへの印象は『やたらでかい六課のペット』という認識しかなかったものだったので、ザフィーラが人間同様の知性を持つ守護獣で、且つヴィータやシグナム、シャマル同様、はやての『守護騎士』=ヴォルケンリッターの一員であると知った際には全員が驚いたものだった。

ともあれ、改めてザフィーラも六課を構成するメンバーと知ってからは、家康達はちょくちょく彼とも会話をするようになり、特に佐助は、独自の愛称として『ザフィーの旦那』と呼ぶまでになっていた。

 

「いや、普段は軽口の多いお前にしては、今日はやけに一歩引いた様子でいるからな。気になったまでだ」

 

「いやいや。俺様、本来はそんなおしゃべりってもんでもないッスよ。それを言ったら、旦那は逆に口数少なすぎるッスけど」

 

「我は元より守護獣。 守護獣は必要以上に語ったり、主達の輪に入らぬものだ」

 

佐助の飄々とした声に反して、お固い口調と声質で突っぱねるザフィーラ。

すると佐助は苦笑を浮かべながら首を横にふる。

 

「相変わらず、お固いッスねぇ。 もっと気楽にいかないと、それこそ唯の犬と間違えられやすくなっちゃいますって」

 

そう言ってザフィーラの背中をバシバシ叩く佐助。

そんな佐助の冗談をも、冷静に聞き流すザフィーラ。

 

「気楽と言う割には……お前もここしばらく、何か思うところを抱えているみたいだがな?」

 

「!?」

 

ザフィーラのその言葉で、佐助の表情が変わった。

 

「へぇ…気づいてたんッスか?」

 

口調を急に低くしながら静かに語る佐助。

 

「我は常に後ろから、この機動六課を見ている。 だから多少の他人の隠している心境を察する事は容易いのだ」

 

「ふぅん。流石はザフィーの旦那。 案外、忍向きかもしれないッスね」

 

佐助は、他の誰にも聞こえないように話す。

 

「それで? 旦那は、俺が今考えてる事、もうわかったりしてるんスか?」

 

佐助がふざけた口調で、されど僅かに闘気を立たせながらザフィーラに問いかける。

しかし、ザフィーラは動じる事なく首を横に降った。

 

「具体的まではわからん。 だが、大凡の事はわかる。お前が注意深く観察しているものは…おそらく “心の迷い”…違うか?」

 

「……………………」

 

ザフィーラの指摘に、急に黙りだす佐助。

その様子から図星であるとザフィーラは確信した。

すると、佐助の方も腹を割って、その心中を明かし始めた。

 

「俺達もここに来て一週間経つけど…この『機動六課』ってさぁ、一見、仲の良い者同志が集まって和気藹々とした良い感じの雰囲気の部隊だけど……その全員が何らかの心の傷や迷い、隠し事を抱えている。ここに最初に来た時にすぐにそれがわかったよ」

 

「猿飛……」

 

「まぁ、それだけだったらね。 俺らの世界でも当たり前の事だったし……誰の心にだって“迷い”はある。兵卒(つわもの)なら尚更さ。それ自体は別に大した事じゃない。ただ…」

 

佐助は、ティアナの方に目を配りながら、その目をさらに細める。

 

「一人……どうしても今は見放す事ができない程に“重症”の奴がいるのが気になってねぇ…」

 

「?」

 

佐助の言葉に首をかしげるザフィーラ。

すると、佐助は急に元の口調に戻り、表情も和らげた。

 

「まぁ、とにかくさぁ。 俺様は別に悪いようにはしないから、安心して下さいって。ザフィーの旦那♪」

 

「………………………」

 

それだけを言うと佐助は、それ以上の詮索を誤魔化すかのように、今度は『殴り愛』を始めようとしていた幸村とエリオを止めに向かった。

佐助の言葉の意をもう一度問い直そうかとも考えたが、ザフィーラはそれ以上口にしようとはしなかった。

 

「お待たせしましたぁ。ごめんなさいね。用意に手間がかかっちゃって…」

 

そこへ遅れて合流したシャマルが、何やら大きめのかばんを5個運んできた。

 

「えっと、シャマル先生。その荷物は何ですか?」

 

かばんが気になったキャロが尋ねる。

 

「これ? これは隊長達と政宗さん、幸村さんの今日の“お仕事着”よ」

 

そう言ってほほ笑みながら、シャマルは答えた。

キャロや話を聞いた政宗、幸村達は首を傾げた。

 

 

ホテル・アグスタ―――

到着した機動六課は内部を警備するはやて、なのは、フェイト、政宗、幸村と、施設周辺の警備を担当する家康、小十郎、佐助、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、シャマル、ザフィーラに分かれて、それぞれの仕事に取りかかった。

内部警備担当のなのは達、政宗達は着替えを済ませるとさっそくオークション会場へと足を運ぶ。

 

――オークション会場の入口

 

オークション開始までまだ数十分あるというのに既に会場には各界の著名人達が次々に集まっていた。

そんな中ではやて、フェイト、なのはも、それぞれのイメージカラーに合わせた綺麗なドレスに身を包んで受付へと続く来賓客の列に並んでいた。

そして彼女達の後ろには…

 

「この姿はさすがの俺もEmbarrassedだぜ…」

 

「こ…この姿はお館様や親父様に見せられないでござる…」

 

それぞれ黒と白のタキシードに身を包み、胸に造花を付けた政宗と幸村が立っていた。

ちなみに政宗は眼帯が付けられない代わりにサングラスをかけていた。

そしてさすがに会場に武器は持ち込めない為、2人の六爪や二槍はヘリに置いてある。

 

「フフフッ。この姿も似合ってるで。政ちゃん、ゆっきー」

 

「政宗さんはどこかのSPみたいですね」

 

「幸村さんは、大企業の御曹司みたいな雰囲気だね」

 

はやて、なのは、フェイトはそれぞれに2人の服を評価するが、どうも腑に落ちないのか二人の表情は固い。

そうこうしている間になのは達が受付の前に立つ番が近くなった。

 

「でもはやてちゃん。私達どう言って会場に入るの? 潜入警備って言うわけにはいかないし」

 

「あぁ、それやけどな。 私らは一応ここでは“地方から来た上流階級の社交会の集まり”って事で通してるんや。 もちろんオークションの主催者側には潜入警備の話は通してるから、受付だけ,通れば問題ないっちゅうこっちゃ」

 

「なるほど。つまりあのGatesさえなんとかclearすれはnon problemってわけか?」

 

「正解! 政ちゃん賢い!」

 

はやてが笑いながら政宗を誉める。

そしてなのは達の番が来た。

はやてがチケットを取り出して受付の男性に見せる。

 

「こんにちは。『バサラ交友会』の名義で予約した者ですが」

 

「はい。バサラ交友会様…5名様ですね」

 

受付の男性が参加者の書かれた名簿からはやて達の偽装の団体名を見つけてニッコリと応対する。

だが、幸村が前に出て胸を張りながら堂々と宣言する。

 

「うむっ! 本当は『潜入警備』で来たのでござるが、『社交界の集まり』という事になっているのでござるぞ!

 

「えっ!?」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

馬鹿正直な幸村の言葉に、にぎやかであった会場の入り口が静まり返り、そこに居た来賓の紳士淑女、ホテルスタッフ全員の視線が、なのは達に集まる。

そして―――

 

いやあ! このホテルはなんてすばらしいんでしょうねぇぇ! 感動しましたよ私!!アハハハハハハ!!

 

それにこの受付の台の素材も良い材質使ってますねぇぇ! これ大理石ですか!? アハハハハハハ!!

 

わぁすごい! この絨毯、絹で出来てますよね!? そうでしょこれ絹でしょ!? アハハハハハハ!!

 

冷や汗を大量に浮かべながら明らかに棒読みで不自然なお世辞を繰り返し、必死に誤魔化しにかかるはやて、なのは、フェイト。

 

「へ…Hey 見ろよ真田!この壁って檜だな!? 檜だよなこれ!? ハハハハハハハハハ!!

 

痛たたたたた!!? ま、政宗殿!? 抓っちゃってる! 抓っちゃってるでござるよぉぉぉぉぉぉ!!

 

なのは達と同じく下手なお世辞を言いながら、政宗は早速大ヘマを犯した幸村をヘッドロックすると、その頬を抓り上げて、制裁するのだった。

 

「は…はぁ……?」

 

そんな明らかに挙動不審な5人の来客の奇行を、受付の男性はただ見つめる事しかできなかった…

数分後、なんとか会場に入ることのできたはやて達に、幸村が油を絞られたのは言うまでもなかった。

 

 

ホテル・アグスタから少し離れた山の頂―――

断崖絶壁の上に立ち、そこから望む景色を感慨深く見つめる一人の男の姿があった。

 

「……ここは実に美しい景色ですね。しかし…“完璧”ではない……中途半端な美しさとは、時に醜きものよりも余計に醜く見えるものです……あの造形物のように……」

 

男が目を配った先にあったのは、深々とした森に囲まれたホテル・アグスタだった。

 

「完璧な美しさを損ねるもの…そこに集いし者達は完璧でない美しさを愛でる有象無象……そういう連中程、無性に切り刻みたいと…そう思いませんか? 左近殿?」

 

両手に持った連結刃のような鞭を二、三回撓らせながら、男はニタリと邪悪な笑みを浮かべた。

彼より少し離れて後に立つ石田軍遊撃隊隊長兼西軍一番槍 島左近は、両腕を頭の後ろに回しながら近くの木にもたれ掛かりつつ、険しい顔つきで聞いていた。

 

「やれやれ…相変わらず、ヤバい思考してるッスねぇ、“先輩”も。そんな性格だから、諸国の武将達から『豊臣の“明智光秀”』なんて例えられちまうんスよ」

 

左近は、日ノ本でも有数に危険極まりない将兵にして、戦国乱世をより苛烈なものとさせる一片を担った男の名前を例えに出して、皮肉るように言った。

 

“明智光秀”―――

かつて、その圧倒的な武力と勢力をもって、日ノ本を蹂躙した『第六天魔王』“織田信長”の重臣…そして、魔王と互角かあるいはそれ以上に、狂気的、猟奇的な所業で、“魔王の狂刃”“死神”と恐れられた武将であったが、織田の天下統一が目前と迫ったある時、京の本能寺に駐屯していた織田本隊に謀反を起こし、奇襲。信長の正室 “濃姫”、小姓 “森蘭丸”を殺害し、遂には信長自身をも焼け崩れる本能寺の業火へと消し去り、戦国最強と目された織田を瞬く間に滅ぼした…所謂『本能寺の変』を引き起こした張本人として、豊臣の天下が統一された後も、豊臣が崩壊した後も、日ノ本の武将達の間で語り草となっていた。

ちなみに、信長を討った光秀のその後は、豊臣軍によって、自前の軍を撃滅されたとあるが、光秀自身の消息はそれっきり、わからずにいた。

『敗走中に野武士狩りに遭い、寄ってたかって嬲り殺しにされた』

または…

『今尚も日ノ本のどこかを脱げ回り、密かに天下を横取りしようと目論んでいる』など色々な噂が立っているが、その行方を追っていた豊臣本軍も今は無く、真相は完全に闇の中へと消えた。

 

「…この私を、あんな殺し狂いの変態なんかと一緒くたにされるのは心外ですね」

 

男はギロリと目を光らせながらそう言いつつ、左手をゆっくりと上げた。

袖口から一匹の蛇がシュルリと男の手の上を這い出てきた。淡黄色の不鮮明な横縞が入った大柄の蛇である。

 

「うげっ!? なんスか? それ…」

 

蛇を見た左近は思わずギョッとしながら、数歩退き下がった。

 

「“キングコブラ”…日ノ本にはいない “死神”と呼ばれる最強の蛇だそうですよ。相対した敵を必ず死に至らしめる。襲撃まで気づかれる事なく、その毒は一噛みで巨大な虎はおろか象一頭をも倒してしまうのだとか……セニョール・スカリエッティから私の着陣を祝い、頂きました。“蟒蛇”の私に相応しい友と思いませんか?」

 

(………アンタも十分、“変態”だっつぅの!!)

 

危険極まりない毒蛇を微塵も臆する事なく平然と愛でる男の姿に、左近は半ば恐怖心さえも抱く程にドン引きした。

 

「さて…ガジェットドローンの配置は済みましたかな?」

 

男はコブラを袖口に引っ込ませると、左近の方を振り向いて尋ねた。

 

「あ、あぁ……“先輩”の指示通り、あのホテルを中心に200機ずつ配置しといたッスよ」

 

「結構。では予定通り、“ユーノ・スクライア”なる者の探索と捕獲は貴方に一任します。私は狩り(カーザ―)を楽しませて頂きますよ」

 

「了解……ッス。どうぞごゆっくり…」

 

左近が返答する間もなく、男は絶壁を駆け下り、そのまま崖下に広がる森の中へと消えていった。

男がいなくなった事を確認すると左近はくたびれた様に溜息を漏らした。

 

「相変わらず趣味悪いな。“小西”の奴……あんな下衆野郎と相対する事になる敵さん方にも、少しだけ同情するわ…」

 

左近の呟きには、心の底からの軽蔑の念が込められていた…

 

 

ホテル・アグスタ敷地内―――

内部の潜入警備に向かったなのは達と別れたフォワードチームと家康はそれぞれ複数・家康とスバル、ティアナとエリオ、キャロ、小十郎とシグナム、ヴィータとシャマル、佐助とザフィーラの5手に分かれて、警備を開始していた。

そして今、家康とスバルは中庭のような場所を歩きながら、周辺に怪しい存在がいないか目を配らせていた。

 

「なるほど、これは結構広いな……中には、なのは殿や独眼竜達もいるから心配はないだろうが…」

 

「ガジェットはやっぱり来ますよね……?」

 

「そうだな。この前までと違い、ここは無関係な一般の民も多い。 失敗は尚の事、許されないぞ」

 

「はい! ちゃんと守りきらないと!」

 

家康の言葉に、スバルは力強く返答した。

 

「それにしても…今日ははやて殿の守護騎士団が全員集合か……全員揃ったのを見たのはワシも初めてかもしれないな」

 

守護騎士(ヴォルケンリッター)の話は、六課入隊当初にはやてから聞かされていたが、その構成員であるフォワード隊の副隊長2人、ヴィータ、シグナムだけでなく医務官であるシャマルや、本来なら部隊の留守を守るべき立場のはずのザフィーラ、そしてリィンフォースⅡも同伴して、同じ任務に出向く様子を見たのは今日が初めて見た家康は、改めてその貫禄ある荘厳ぶりに感心していた。

 

「はい。なのはさんも密輸取引の隠れ蓑になるって言ってたし、本物が紛れ込む可能性を考慮してるのかもしれません」

 

スバルの話によれば、オークションには取引許可の出ている封印済みのロストロギアも数多く出品されるので、それをレリックだと勘違いしたガジェットが来る可能性が高いとされていた。

しかも、このホテル・アグスタはミッドチルダでも上流階級の人間が多く利用するとされている為、万が一彼らに被害が及ぶ事になったら一大事である。

そのため今回は守護騎士全員が動員される程、厳戒な警備態勢が敷かれていたのだった。

 

「それにしても…やっぱりすごいな。直臣達が全員集合する姿は…ワシも“徳川四天王”の皆を思い出すよ」

 

「?…“徳川四天王”?」

 

スバルが聞いた。

 

「あぁ。言ってみれば、ワシの補佐と護衛を担う徳川の中でも指折りの実力者4人を集めたワシの直参家臣…まぁ、『守護騎士団(ヴォルケンリッター)の徳川版』といえばわかりやすいかな?」

 

家康曰く、『徳川四天王』を構成するのは、家康と共に関ヶ原で謎の光に飲まれ、行方不明となった戦国最強の異名を誇る猛将“本多忠勝”―――

外交官、軍師として四天王のみならず、その他の徳川家臣団を纏め上げる“酒井忠次”―――

忠勝の装備をはじめ、徳川軍が有する様々な兵器・武装の開発・整備を一手に担う天才技術者“榊原康政”―――

徳川の属国の中でも最強と目される女地頭の国 井伊家の御曹司で幼いながらも四天王の名に恥じぬ戦闘能力と権謀算術に秀でた若き将 “井伊直政”―――

この4人が揃う事で、家康は今までどんな苦難な戦も乗り越える事ができたという。勿論、忠勝以外の3人も、全員が先の関ヶ原の戦いに従軍していた。

 

「もし、全員が揃ったら、一度はやて殿の守護騎士団と手合わせさせてみたいものだな」

 

「あははは…そうなったら、すごい事になりそうですね」

 

スバル曰く、守護騎士達も“最強”の名に相応しい戦力であるそうだ…

はやての使っている魔導書型のストレージデバイス『夜天の書』に副隊長のシグナムとヴィータや医務担当のシャマルそしてザフィーラはその八神部隊長個人が保有してる個人戦力。

そしてはやて直属の融合型デバイスでもあるリィンフォースⅡ曹長を含めて、六人が揃えば文字通り、一国の軍隊にも匹敵すると称しても過言でない程の戦力を誇る事となる。

それを聞いた家康はますます興味を抱いた。

 

「改めて聞けば聞く程凄いなぁ、はやて殿は…日ノ本のいずれかの国の主であったのなら、間違いなく天下を望めたかもしれないな」

 

「…それ、あながち冗談でもないかもしれませんね」

 

もし、はやてにこの話をしてみたところで、同意するかどうかはわからない。しかし、『日ノ本であれば天下を取るのは容易い』と評した家康の言葉は決して過言でないものだとスバルは感じていた。それほどまでに、彼女と守護騎士達の強さは管理局全体を見ても規格外なものなのだ…

 

(まぁ、普通負けるなんて想像つかないもん……守護騎士(ヴォルケンリッター)の皆さんが……)

 

スバルにとっては、なのはやフェイト、そしてはやてやヴォルケンリッターを凌ぐ強大な戦力なんてない。そう考えるのが当たり前と思っていた。そう信じていたのだ……

 

 

ホテル・アグスタ・裏口―――

 

シグナムと小十郎は共に裏手の警備に赴いていた。

 

「……………………」

 

だが、小十郎は警備もそこそこに、先程から右腰に差した刀を見下ろして、気難しい表情を浮かべながら唸っていた。

 

「どうした? 片倉?」

 

小十郎の異変に気づいたシグナムが尋ねた。

 

「いや…実は、今フィニーノにルシエ用の刀を新調してもらおうとして、その試作用の見本として俺の『黒龍』を預けているのはお前も知っているよな?」

 

「あぁ。今朝の訓練で預けていたのは見ていたが…ひょっとして、その刀はシャリオが用意したものか?」

 

小十郎の腰に差された赤鞘の太刀を一瞥しながら、シグナムは聞いた。

 

「あぁ、流石に丸腰は困るからな。どうにか代わりのものを…と急ごしらえで取り寄せて貰ったのはいいが……これがあまり俺の手に馴染まなくてな……」

 

小十郎はそう言いながら、太刀を鞘から引き抜いて見せた。

刀身は黒龍よりも僅かに長く、小刻みの波模様の重花丁子の刃文が見事にあしらわれた決して粗悪ではない代物であった。

だが、小十郎はその刀を不服のこもった目で見つめていた。

 

「確かに物は悪くない……しかし、コイツはどちらかというと“観賞”する為の品だ。“見る”為の良さと、“戦う”為の良さとは、全然話が異なってくる」

 

「…確かにこのミッドチルダで手に入る刀といえば、どうしても観賞用の品が多いからな」

 

「…恐らく、コイツを使ったところで、俺は実力の半分も活かしきれないだろうな」

 

小十郎は溜息を漏らしながら、刀を再び鞘に収めた。

同じく武人気質のシグナムは、小十郎の考えがよく理解できた。

特にシグナムや小十郎のような生粋の剣豪にとって、戦う上で最も重要なのは『得物との相性』である。

シグナムの愛用する片刃剣型デバイス『レヴァンティン』然り、小十郎の愛刀『黒龍』然り、長年使いこなしてきた剣や刀があってこそ、その神がかった剣の才能を大いに発揮できるものである。

ましてや、自分の受け付けられないような武器を手にとって戦いに挑んだところで、自分の思う通りの戦いができるのは、それこそ本当の意味で天賦の才能を持ったもののみであろう…

 

「すまないシグナム。今日の俺は、足手まといになるかもしれん…」

 

小十郎は面目なさそうに謝るが、シグナムは微笑を浮かべながら頭を振った。

 

「気にするな。それならば、私が何時もの倍の数の敵を斬って補えば済む話だ。お互いに武人同士。上手く連携して乗り越えようではないか」

 

「…シグナム」

 

シグナムの言葉を聞き、小十郎も小さく笑みを零した。

 

「お前とはなかなか気が合いそうだとは思ったが…どうだ? この任務が終わって、俺の『黒龍』が戻ったら、一度手合わせ願おうか?」

 

「あぁ。それもいいかもな」

 

ここまであまりゆっくり話した事のなかった“武士”と“騎士”は思わぬ形で、意気投合した。

そして、それから警備の傍ら、お互いの主…はやて、政宗の自慢や愚痴を交わし合う事で、さらに親交を深めるのであった。

 

 

その頃、ホテルの西側ではティアナ、エリオ、キャロが警備任務についていた。

最終的な意思決定権は少し離れた場所についているヴィータが担っているものの、一応この場での指揮権はティアナが任される事になった。

それでもティアナの胸の内には、様々な葛藤…疑問…そして焦燥感とプライドが渦巻いていた。

 

 

―――今や家康とスバルのコンビは六課随一の『名コンビ』といっても過言じゃねぇくらいだからな―――

 

 

(……スバルは私の相方なのに………私といるより、家康さんといる方が信用されてるのかな?……)

 

隊舎を出る前に聞かされたこの言葉が、ここへ来るまでのヘリの中や、警備についてからもティアナの脳裏に何度も浮かんでは消えるのを繰り返していた。

 

(私って何なのだろう……? 私は何のために……この部隊にいるのかしら……?)

 

一瞬、過りそうになる負の感情に、我に返ったティアナは慌てて、頭を振った。

 

「ダメよ! そんな後ろ向きに考えちゃ……才能で敵わなければ、努力を積めばいい…ここでそれを証明すれば…私は…私は…」

 

ティアナが呟きながら両手に持ったクロスミラージュを強く握り締めていると…

 

「ティ~アナ♪」

 

「キャアッ!!?」

 

背後から突然声をかけられて悲鳴を上げたティアナは、振り返ると同時にクロスミラージュの銃口を声のした方に向けた。

 

「おいおい。いきなりそんな物騒なもの向けないでくれる?」

 

「猿飛さん…!?」

 

そこにいたのは腰に大型手裏剣を装備した佐助であった。

 

「なにしてるんですか? こんなところで…」

 

「なにって…俺も外の警備ついてんだからさぁ。強いて言うなら、他の班の皆の様子を偵察に来た…ってとこかな?」

 

「……だったら、ここは問題ないのでとっとと自分の持ち場に戻ってくれます? ここは一応、私が指揮権任されていますので」

 

ティアナはぶっきらぼうに言いながら、そっぽを向く。

現在、機動六課にいる5人の武将の中でもこの“猿飛佐助”という男の事は、特に苦手に感じていた。

その軽々しく、時に馴れ馴れしさも感じる口調や態度もそうだが、時折、自分の胸の内を覗かれているかのような感覚を覚えるのだ。

佐助は“忍者”なる諜報、裏工作、時には暗殺等に秀でた兵と聞いたが、その為かもしれない。軽いようでその実、人の心を平気で読み解いてしまう程の鋭さを、ティアナは自然と警戒してしまっていた。

 

「冷たいねぇ。女の子なんだから、もう少し愛想よく振る舞わないと、男の子が寄ってこないぞぉ~」

 

「私、別に男になんて興味ありませんから」

 

「うぇっ!? …ってことはティアナってあれ? “百合”って奴?!」

 

「違います!!」

 

おちょくるように話す佐助にティアナがもう一度拳を振ろうとした時、突然彼女にロングアーチからの通信が届いた。

 

《ロングアーチより各員! ガジェットドローン陸戦Ⅰ型が接近中! 機影30、35……!》

 

《同じく陸戦Ⅲ型も来ましたっ! 機影2、3、4……!》

 

敵が接近している。

隊舎にいるジャスティ、シャリオからの通信にティアナの表情が変わった。

その様子を見た佐助もただ事ではないなと察し、すぐに仕事モードの顔になる。

 

(エリオ!キャロ! 敵が来たわよ! 警戒態勢に入って!!)

 

エリオとキャロに念話を送りながら、ティアナが自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「才能がないなら…努力で発揮してやるわ……私なりのやり方で…」

 

そんなティアナの呟きに佐助は一瞬苦い表情を浮かべながらも、一先ず今は自分の持ち場へと戻る事にした。

 

 

ホテル・アグスタ・オークション会場―――

 

「それでは次の商品…エントリーナンバー82、第97管理外世界『地球』より届いた日本刀…かの『愛』を掲げる無敵の武将が愛用したとされる、折れやすいが替えが効く『名刀 無敵剣(むてきけん)』でございます!」

 

一方外の緊急事態を他所に、アグスタの内部では、予定通りオークションが進んでおり、なのは達は、客に紛れてその様子を見守っていた。

 

「Ah? なんだよ。あのガラクタ刀は? 伊達軍の若い連中にもあんな安っぽい刀は持たせたことねぇぞ」

 

そんな中、政宗はオークションに出品された『名刀』と呼ばれる刀に眉を窄ませていた。

戦国乱世の最中を生きてきた政宗からすれば、オークションに出されるアンティークの刀などガラクタ程度にしか思えなかった。

 

「フフフ…やっぱり本物の武士は、鋭い観察力を持ってるんだね」

 

「そいつはどうかな? exceptionな奴もいると思うぜ」

 

なのはが横から笑って話しかけると、政宗は顎で示しながら答える。

 

「えっ?!」

 

なのはが政宗の示した方を見ると…

 

「70万ワイズ!…70万ワイズ出すでござる!!……あぁぁ! また負けたぁぁぁぁ!!」

 

「ほな私は100万ワイズ!……ってあぁ~…上行かれてもうたかぁ…」

 

「二人共、潜入警備なんだから、そう熱くならないで」

 

すっかり仕事の事を忘れて、初めてのオークションに夢中になった幸村と、何故かはやてまでもが、他の参加者に紛れて必死にオークションに参加しようとしてフェイトに窘められていた。

 

「あははは…幸村さんすっかり夢中になってるね」

 

「なにやってんだか、アイツ…はやてまで一緒になって…」

 

政宗が軽蔑するように呟くと、なのはが横からフォローするように囁いた。

 

「まあまあ政宗さん。幸村さんはオークションなんてはじめてだから興奮してるだけなんだよ。ほら初めて珍しいものを見ると興奮して見境つかなくなるっていうし…」

 

「…じゃあ、はやてはなんなんだよ?」

 

「えっと…はやてちゃんのあれは……いつもの悪ノリ?」

 

「…………Phew…」

 

政宗は呆れるように頭を振る。よくもあんなお調子者が『最強』と目される守護騎士の主にして一介の部隊長とは…改めて、政宗は人間の才能の有無や優劣の不条理さを感じた。

そんな事を話していると、オークションは次の商品へと移っていた。

 

「エントリーナンバー83 第30管理世界『アッシオ』にて発見された隕石でございます! こちらの隕石、一見唯の隕石に見えますが、実はこちら。かの希少なマジックメタル『バサラダイト』が含有した希少な品でございます!」

 

司会者が紹介したそれは青色の結晶体と銀色の鉱石が混ざりあったような奇妙な形状をした手のひらサイズの隕石だった。

 

「ほぉ…Meteor stoneか…いいねぇ。あぁいう宇宙の産物こそ俺はromanを感じるぜ」

 

隕石としては珍しく水晶体のようなそのフォルムに興味を抱く政宗。

一方なのはは、出品されたそれを見て、何か考えるように顎に手を当てた。

 

「? どうした? なのは?」

 

「いや…あの隕石、見た目がレリックに似ていると思って…」

 

話しながら、なのははもう一度出品されている隕石を目視して、その全体像を確認する。

 

「Reric? 六課(お前ら)が追ってるMagic jewelの事か?」

 

「うん。もしかして、ガジェット達はあの隕石をレリックと勘違いして、ここへ来るのかもしれない」

 

「…だとすると、どうするんだ?」

 

政宗が尋ねた。

 

「念の為に、私達が回収して専門の封印ボックスに収めておいた方がいいかも。そうしたら、ガジェットもここにレリックはないと認識して引き上げるかもしれないから」

 

「でも、そのためにはあれを俺達が落札しないといけないんだろ? 金子はいくらまで出せるんだ?」

 

政宗がそう言うと、なのははその場にスマートフォンサイズのホログラムコンピュータを展開して、ある文章資料を確認した。

 

「うん。この場合、再封印目的だから六課の所属する『古代異物管理部』からの経費で落ちるとして…それでも用意できそうなのは1000万ワイズくらいが限度かな…?」

 

なのはは割り出した計算結果を政宗に告げる。

政宗はこのミッドチルダの通貨『ワイズ』やその細かいレートについてはまだよくわからなかったが、それでもなのは曰く「政宗さんの世界の日ノ本でいう1両小判が大体1万ワイズと思ってくれたらいい」と話していた事は覚えていた。

 

「OK! だったら、あのMeteor stone。俺が手に入れてやるよ」

 

政宗はそう言いながら、懐から使う予定のなかった入札札を取り出した。

当然、なのはは驚き、慌てて尋ねる。

 

「えぇ!? 政宗さん、オークションできるの?!」

 

「Auctionってのは、まだよくわからねぇが…ようは他の連中よりも高く金を積めばいいって事だろう?」

 

政宗は不敵に笑いながらそう返した。その顔は既に勝利を確信したかのような自信に満ちあふれていた。

 

「それでは10万ワイズより入札を開始します。皆様、どうぞご入札を!」

 

司会者の言葉に合わせて、「11万!」「15万!」「20万!」「30万!」…っと少しずつ入札を開始していく他の入札者達。

なのはは、まずは他の入札者の様子を見て、ライバルがある程度限られてきた頃を見計らって、自分の理想とする額で入札するものと考えていた。それが本来のオークションのやり方というものである。

だが、そんな典型的な形式で進むと思われたオークションに突如、一石投じる存在が現れた。

 

「One thousand!!」

 

言うまでもなく、政宗であった。

政宗は迷いなく、入札札を上げながら、用意できる金子の最高金額を高らかに宣言した。

 

「ちょ、ま、政宗さん!?」

 

「政宗殿!?」

 

「「政宗さん!?」」

 

政宗の豪快にも程がある行動に、なのはや、幸村、フェイト、はやては勿論の事、会場にいた他の来賓達や、オークションのスタッフ達も思わず目を瞠る程に驚き、会場は騒然となった。

 

「い…1000万……1000万ワイズが出ました……他にございませんか? 1000万ワイズ…よろしいですね?」

 

司会者が若干震え声になりながら確認するが、他の入札者達も政宗の大胆不敵な振る舞いとその自信に満ちた態度に圧倒されたのか、誰もそれ以上の額を上げる事ができなかった。

 

「1000万ワイズ…1000万ワイズで終了です!」

 

落札を知らせる木槌が鳴り、政宗の落札が決定した。

 

「Ha!どうだ! こういう駆け引きってのは、時に勢いも大事なんだよ」

 

「す、すごい……でも、政宗さんってば、大胆過ぎだよぉ~~~!!」

 

なのはは緊張の糸が切れたようにイスから崩れ落ちそうになった。

だが、政宗は「何を言ってんだ?」と言わんばかりに、なのはの肩を軽く叩く。

 

「生憎、それが伊達の流儀って奴さ。You see?」

 

政宗はそう言いながら、近くを通ったウェイターからシャンパンの入ったグラスを受け取ると、勝利の美酒と言わんばかりに一気に呷るのだった。

 

 

一方ホテルの周辺の森では、迎撃に赴いた機動六課とガジェットの編隊による激しい戦いが繰り広げられていた…

 

「はあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「一撃だ!!!」

 

スバル、家康は見事なコンビネーションで、向かってくるガジェット達をそれぞれの拳で破壊していた。

二人の担当する場所には特に厄介な大型のガジェットⅢ型が多く集まっていたが、それでも二人はまったく引けをとらずにいた。

 

「どうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

リボルバーナックルを打ちこんでガジェットⅠ型を吹き飛ばし、それをⅢ型にぶつける事で隙を作り、その間にⅢ型の真下に回ったスバルは…

 

「スピットバンカー!」

 

蒼いオーラを纏ったリボルバーナックルでⅢ型の中心に拳を叩きこむ。

空高く吹き飛ばされたⅢ型は上空を飛来していた数機のⅡ型を巻きこんで大爆発する。

その傍では家康が別のⅢ型のベルトアームを掴むと、それを激しく振り回して何度も地面に叩きつける。

 

「天風…武玄陣!!!」

 

家康はベルトアームを掴んだままⅢ型をジャイアントスイングのように激しく回転させる。

すると家康の周囲に竜巻が起こり始めて、次々と周囲のガジェット達を吸いこんでいく。

そして時を見計らって家康は巨大な竜巻の真ん中から上空に向かって掴んでいたⅢ型を放り投げると、右手に気弾を発生させ、それを上空に撃ちあげる。

すると気弾は竜巻の真上にまで飛ばされたⅢ型に命中し、大爆発を起こすと同時に竜巻に巻き込まれていた他のガジェット達もその衝撃を受けて竜巻諸共粉砕された。

 

金蒼師弟の活躍でその場に居たガジェット達はほとんど撃墜することができた。

しかしまだ安心はできない…

 

《ロングアーチからスターズ3、イレギュラー1へ! 敵増援部隊が接近中! 数は…50!》

 

2人の耳にジャスティからの通信が届いた。

ちなみに『イレギュラー』とは家康達のコードネームで、家康は『1』と呼ばれていた。

また、魔法が使えない家康達にはロングアーチから念話送受信用のワイヤレスイヤホン型デバイスが支給されており、それを用いる事で家康達も念話に参加する事が可能となっていた。

 

「次の奴らがくるぞ! スバル!用心しろ!」

 

「はい!!」

 

二人は、破壊したガジェット達の背後から新たに迫ってくるガジェットドローンの編隊を睨みつけながら、共に拳を構え直した。

 

 

一方、こちらは裏側を警備する小十郎とシグナム。

 

「無駄だ!!!」

 

迫ってくるガジェットドローン達を刀で次々と薙ぎ払っていく小十郎。

その鮮やかな剣術で一刀両断にされた機体は次々と爆発して砕け散って行く。

ガジェット側も小十郎の周囲に展開して彼を押さえようとするが、前に出れば無論斬り伏せられ、横に迫れば薙ぎ払われ、後ろに出ても一突きで地に落とされた。

 

「相手がカラクリ軍団だけでよかったぜ…生身の将相手にこんな“鈍ら”では、気分も乗らねぇからな」

 

小十郎は相変わらず、今使っている刀を酷評しながら電撃を宿し…

 

「霞断月!!」

 

身体を一回転させながら雷の走る刀を振りまわす。

同時に強力な斬撃と電流がガジェット達を襲い、小十郎を取り囲んでいたガジェット達は一気に殲滅される。

 

「行くぞレヴァンティン!!」

 

その近くではシグナムが大剣型デバイス レヴァンティンを構えながらガジェット達に飛びかかるとカートリッジをリロードさせながらその刃に紫の光を宿し…

 

「飛竜…一閃!!」

 

振り下ろすと共に強力な衝撃波を撃ちだして目の前に立つガジェットの群れを吹き飛ばした。

そのシグナムの背後に数機のガジェットが回り込んで後ろからレーザーで狙い撃とうとするが…

 

「甘い!!」

 

シグナムはガジェットの行動を見越していたかのように叫びながら振り返ると、レヴァンティンを蛇腹剣状の『シュランゲフォルム』に変えて、ガジェット達をあっという間に斬り伏せた。

 

「なかなかやるな。シグナム」

 

「フッ…お前もな。実力の半分も出せないと言っていた割には十分に戦えているではないか?」

 

互いに誇り高き剣士同士の二人は共に微笑を浮かべると新たに迫ってくるガジェット達に向かってそれぞれ飛びかかっていく。

だが、そんな2人の姿を遠くから見つめる視線があった事に2人が気が付かずにいた……

 

 

「おおぉ! まさか、伊達の“竜の右目”もこの世界に来ちょったとばのぉ!」

 

ホテル・アグスタの外観が一望できる山の頂に立って愛剣である巨大な剣をドンっと構えながら、島津義弘は遠目で見える小十郎とシグナムの奮闘を楽しげに眺めていた。

 

「それに『竜の右目』と一緒におるあの女剣士…なかなかえぇ太刀筋じゃのぉ。 井伊の女地頭の豪傑ば、思い出しちょるばい!」

 

義弘がそう言いながら、後ろで魔法陣を展開してなにやら呪文を唱えているルーテシアを振り返った。

 

「そっちの仕事ば終わりそうと? ルーどん」

 

「あと、もうちょっとだけ……」

 

呪文の合間を縫ってルーテシアがそう返答すると、義弘は早く行きたくてうずうずしているかのように愛刀を肩に担いだ。

 

「忠勝どんがここにおらんのは残念じゃが、こりゃ久々に手ごたえのある戦ば、できそうじゃのぉ」

 

「吾は乞う…小さき者…羽搏く者…言の葉に応え、我が命を果たせ…“召喚”インゼクトツーク―――…できた」

 

背後からルーテシアが小さく声を上げる。

振り返ってみると、魔法陣から複数の卵のようなものが入った触手型の管が生え伸びており、それが弾けると、中から竹とんぼのような形の無機質なフォルムの虫が飛び出してきた。

そして、ルーテシアが「いってらっしゃい」と唱えると、無数の虫は空に散らばるように飛んでいった。

 

「これでドクターの玩具をすべて有人操作できる……義弘、後の事は大丈夫だから好きにしてもいいよ」

 

「そうか? ほいなら、おいも仕事ばかかってくるけん。念の為、ガリューどんを控えさせておくがよかね。 万が一、敵に見つかって危なくなったら、すぐに、おいに知らすっのど」

 

「わかった…」

 

義弘はそういうと大剣を構えたまま、戦場に参加するべく山道を駆け出して行った。

 

「さて…ゼストどんに勝る戦士がこの世界におるか……手合わせが楽しみじゃばい」

 

老人とは思えぬ健脚をみせながら、義弘は既に自らが挑まんとする敵との戦いに心を踊らせていた。

 

 

そしてその頃―――

 

《スターズ3、イレギュラー1、敵編隊第二陣を撃滅完了!!》

 

まだ、敵編隊が到着していなかったホテルの西側では、ティアナ達が他の班の防戦の模様を中継映像で見ていた。

中でもやはり、注目していたのは家康、スバルのコンビの戦いだった。

 

「家康さんとスバルさん…凄い…」

 

「流石はヴィータ副隊長も認める名コンビ……」

 

「…………………」

 

エリオとキャロが素直に感心、称賛する横で、ティアナは険しい顔を浮かべながら、“相棒”の奮闘ぶりを見つめていた。

改めて見ても、彼女の成長ぶりが嫌という程、思い知らされる気がした。

既に150機を超えるガジェットを撃破したにも関わらず、その顔には微塵の疲れも浮かんでいるように見えない。

その上、自分が知らない内に習得した新しい技までもバンバン出し、そして家康とお互いに背中を預けあった息のある掛け合い……まさにこれこそ理想的な『コンビネーション』といえるものだった……

 

(………どうしてよ……どうして………?)

 

見れば見るほど、知れば知るほど…その心の中に燻るのは焦り、嫉妬、劣等感、不安、そして苛立ち……ティアナの中にある黒い感情は着実に彼女の脳裏から冷静さを奪いつつあった。

 

《ティアナ! そっちに敵の新手が向かってる! Ⅰ型が70機程だが、気をつけろ! キツいようならアタシもそっちに回ってやる!!》

 

ヴィータからの念話にティアナが目つきを鋭くしながらクロスミラージュを構え、向かってくるガジェットを迎撃すべく、それぞれ戦闘準備にかかっていた。

 

「二人とも用意はいい? 迎撃開始よ!」

 

「「はい!」」

 

ティアナの言葉に、エリオ達が応えると同時に、森の中からガジェットの編団が現れた。

ヴィータの言ったとおり、Ⅰ型が70機程の中規模の編隊だった。

 

「これはかなりの数ね…二人とも副隊長達はいないけど、気合い入れていきましょう! 日頃の成果をここで見せてやるわよ!」

 

「「えっ!? は、はい!」」

 

ティアナの無駄に威勢のいい口切りに、エリオとキャロが若干違和感を抱いた。

そんな彼らを尻目にティアナは先陣を切って、迫ってくるガジェットの一体一体に魔力弾を放った。

しかし、現れたガジェット達はAMFが導入されており、あまり効果は見られない。

おまけに、その動きも急に人が操っているかのように素早くなって尚且、トリッキーなものに変わっており、ついには命中すらままならなくなってしまう。

 

「なっ…!? どうなってるの!? まるで遠隔操作みたい!」

 

ティアナは焦りの表情を浮かべるが、なんとか冷静を保とうと、敵の動きをよく見ながら魔力弾を撃つ。

するとガジェットの一体がティアナに向かって触手コードを放ち、攻撃を仕掛けてくる。

 

「!?」

 

ティアナがクロスミラージュを構えようとした時…

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

エリオがティアナの前に立ってストラーダを何度も突き出してガジェットの触手コードを弾き、ついにはその機体すら粉々に砕く。

その姿を見て驚くティアナ。

 

「エリオ!? 」

 

「ティアさん、大丈夫ですか!? これはいつものガジェットの動きではありません! 誰かが有人操作している可能性があります!」

 

そう言いながら、次々と他のガジェット達を墜していくエリオ。すると、傍でフリードを従えていたキャロも言った。

 

「誰かが近くで、召喚魔法を使った気配も感じました! 恐らく、その影響かと思います!」

 

「ここは僕が奴らを引きつけますから、ティアさんはキャロと一度防衛ラインまで退いて、ヴィータ副隊長の応援を呼んでください! 有人操作のガジェット相手に、射撃魔法で応じるのは不利です!!」

 

エリオがそう提言すると、それに応えるように3人の耳に念話が入った。

 

《エリオの言う通りだ! お前らはアタシが向かうまでは、防衛ラインに下がって、なんとかこらえてくれ!》

 

《ティアナ! キャロ! そこはエリオに任せて、2人は下がって!》

 

ヴィータ、シャマルからの念話を聞いたティアナの表情には、驚愕と共に苛立ちの色が見え始めた。

 

「な…なによ…なんなの…? 私は…役立たずだから、下がっていろって……そう言いたいわけ……?」

 

ティアナの頭の中に黒い感情が噴水のように溢れ、広がっていく感覚を覚える。

その異変にいち早く気づいたのはキャロだった。

 

「ッ!?…ティア…さん……?」

 

キャロが恐る恐る尋ねるが、ティアナはギロリと輝きの消えた眼でガジェット達を睨みつける。

 

「ふざけないでよ……私だって……私だって………」

 

ティアナは呟きながら、クロスミラージュをそのままグリップにヒビが走りそうなくらいに強く握りしめる。

 

「はああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そして、まるで自棄になったかのように、乱射しながら、次々とガジェット達に魔力弾を撃ちこもうとする。

 

「ティアさん!?」

 

キャロの驚く声など相手にもせず、ティアナは一心不乱に魔力弾を乱射する。

 

《ティアナ!? 一体どうしたの!?》

 

突然、自分の指示に反した行動をとりはじめたティアナにシャマルは狼狽えながら念話で呼びかけてくる。

 

(ここは大丈夫です! シャマル先生! ガジェットは……必ず私が撃滅しますから!)

 

《ダメよ! 今のエリオやヴィータちゃんの話を聞いてなかったの!? 今の貴方の戦法では太刀打ちできない! それに貴方自身もなにか変よ! 指示を無視するなんて貴方らしくないわ!》

 

《そうだティアナ! 言われたとおりにしろ!》

 

ティアナの口調からただならぬ気配を感じたシャマル、ヴィータは、改めてティアナに最前線からの退却を命じるが、ティアナは応じようとしなかった。

 

(ここまで来て退却なんてできません!! ここですべて迎撃します!!)

 

《ティアナ! これは命令よ! スターズ4、ライトニング4は直ちに退却してヴィータ副隊長が戻るまで防戦を徹し―――!》

 

シャマルが言い切る前にティアナは無理矢理念話を遮断してしまった。

 

(てぃ、ティアさん!! 命令無視はマズいですよ!!)

 

ガジェット達をどうにかいなしつつ、エリオが念話越しに諌めるが…

 

(うるさい! この持ち場は、私が指揮官なんだから、最終的な判断は私が下すのよ!!)

 

(ティアさん……?!)

 

ティアナの怒気の含んだ声にエリオもキャロも、戸惑うばかりだった。

シャマルの言う通り、明らかに今のティアナはいつもの彼女ではない。冷静さを失い、功を急いているとしか思えない短慮且つ強権的な振る舞いである。

 

(エリオ! アンタはそのままガジェットを引きつけてて! 私が一気にかたをつけるから!)

 

(ティアさん!?)

 

そういうと、ティアナはカートリッジをロードしながらクロスミラージュの銃口を、エリオ目掛けて殺到しようとしていたガジェットの群れに向ける。

 

「そうよ…そのまま…」

 

ティアナの周りに、複数のオレンジ色の魔力弾が現れる。

 

「証明してやる…私だって戦えるって事を…! 凡人なんかじゃないって事を!!」

 

ティアナの眼の奥には最早執念とも呼ぶべき、負の感情が炎となって灯っているように見えた。

 

「クロスファイア……」

 

ティアナはよくガジェットの群れを狙い…

 

「シュート!!」

 

無数のオレンジ色の魔力弾を一気に発射した。

魔力弾の雨がガジェット達に魔力弾が当たり、一気にガジェットは全滅かにみえた。

 

だがそこで、ティアナの行動は致命的なミスであった事に気づかされる。

 

「てぃ、ティアさん! エリオ君が!?」

 

「えっ!?」

 

キャロの悲痛な叫びにティアナがよく見ると、それは魔力弾の内の一発がエリオの後頭部に向かって飛んでいく光景が…

 

「―――ッ!?…エリオ逃げて!!」

 

ティアナが叫ぶがその間にも魔力弾はエリオとの距離を確実に狭めていき、エリオの顔面に直撃するかにみえた。

だがその時、赤い小さな影が横から入り込み、持っているハンマーで魔力弾を弾いた。

 

「「「ヴィータ副隊長!?」」」

 

ティアナ達が驚きの声を上げる。

 

「ふぅ…危なかったぜ……」

 

ヴィータはなんとか間に合った事に安堵の息を漏らし、そしてすぐさまティアナに向かって厳しい剣幕で睨みつける。

 

「ティアナ! この馬鹿!! 無茶やった上に味方撃ってどうすんだ!!」

 

ヴィータは今までにないくらい激しく怒り、ティアナを叱る。

 

「なんでエリオの忠告や、アタシやシャマルの指示も無視して、あんな無茶苦茶な事をしやがったんだッ!!?」

 

「…い、今のは……私なりの作戦―――」

 

「ふざけろよ! 直撃コースどころか、最早敵味方関係なく纏めてふっ飛ばしかねない勢いだっただろうが!? てめぇ、エリオを捨て駒にでもする気だったのかよ!?」

 

ヴィータの容赦のない糾弾に言葉を失うティアナ。

勿論、ヴィータの気迫だけではない。危うく自分は仲間を撃ちそうになってしまっていたという大きなショックも彼女を呆けさせる原因となっていた。

 

「違うんです! ヴィータ副隊長! ティアさんは―――」

 

「うるせぇ馬鹿ども!!」

 

そんなティアナを気づかいエリオが変わりに弁明しようとするが、ヴィータがそれを遮る。

 

「もういい…後はアタシがやる! 三人まとめてすっこんでろ!!」

 

怒鳴られた3人は唖然とするしかなかった。

…その時だった。

 

 

――――フフフフフフッ…キャンキャンとはしたなく鳴きますねぇ…実に品のない獣だ……――――

 

「「「「!!?」」」

 

 

 

突然どこからともなく聞き覚えのない声が4人の耳に入った。

 

「だ…誰だ!?」

 

ヴィータが周囲を見回そうとしたその時…

 

 

突然、ヴィータ達の先に広がる森の奥から爆音と共に砂埃が巻き起こり、何かに薙ぎ払われた森の木々が次々と空中に打ち上げられては、隕石のようにヴィータ達の前に落ちてきた。

 

「な…なんだ!?」

 

ただならぬ事態に、ヴィータがすぐさまグラーフアイゼンを構える。

その間にも森の木々は次々と薙ぎ払われ、そしてついにはヴィータ達の目の前に広がっていた森の端の木々が一瞬で切り裂かれ、そのまま倒されたのだった。

 

そしてすべての木々が無くなった荒野に立ち込める砂埃の向こうから、一人の男が優雅な佇まいで近づいてきた。

金と薄紫の派手な色合いのコートのような形をした厚手の和服に、黒いスカーフのような布を巻き、その両手には連結刃のような形状の特殊な鞭がそれぞれ1本ずつ握られている。

 

「傀儡共の生温い遊戯(フェゴ)を見るのも飽きました。 そろそろ、私も楽しませて頂くとしましょう」

 

その短めの金髪に相応しい、中性的かつ“美青年”と称しても過言でない美丈夫な風貌は、その顔に相応しい爽やかな笑顔を浮かべていた。

だが、その目の奥に宿っていたのは、途方も無い程に深い“殺気”そして“凶気”であった……

美青年は、周囲に浮遊するガジェットの編隊の残りを一瞬だけ一瞥すると、鞭をゆっくりと振り上げる。

そして、その視線をヴィータ達に向けたまま、片手に持った鞭を振り上げ、振るってみせた。

すると…

 

「んなっ…!?」

 

「「「ッ!!?」」」

 

ヴィータ達は我が目を疑った。

残っていたガジェットドローンが次々とさいの目切りにされ、爆発する事なく、細切れ状態となってバラバラにされていく。

 

「私の“狩り”に余計な機械傀儡は無用です……」

 

そして、ガジェットの粉々になった残骸が雨のように降り注ぐ中を美青年は、ゆっくりとヴィータ達に向けて歩み寄ってくる。

 

「貴方方が『機動六課』……ですか? かような女、子供を兵士にする部隊が、徳川の新たな同盟相手とは…凶王三成も随分と見くびられた様ですねぇ」

 

その華麗な振る舞いや口調の中に含む異常な殺気に、ヴィータ、ティアナ、エリオ、キャロは今までにない恐怖を感じ、本能的に数歩後ろに下がり、身体が小刻みに震え出していた。

 

「テメェ…一体誰だッ!!?」

 

武者震いが止まらないながらも、ヴィータが精一杯の威勢と威嚇を見せながら叫ぶと、美青年は鞭を持った両手を広げながら、高らかと名乗りを上げた。

 

 

「お初にお目にかかりますお嬢さん(セニョリータ)。私の名は“小西行長”……覇王・豊臣秀吉直参…豊臣軍執行幹部『豊臣五刑衆』第三席……そして…貴方を冥府(インフィエルノ)へと誘うべく参上した使徒(アポストル)でございます」

 

 

男…小西行長の名乗りを聞き、ヴィータは本能的に直感した。始めて会うはずなのに、彼が家康の話に出てきた“凶王・石田三成”や、このあいだ戦った黒田官兵衛や後藤又兵衛達と同じ“西軍”の一員であること、それもかなり上の地位に立つ者だということがわかる。

 

そして、この男が、官兵衛はおろか又兵衛さえも比べ物にならない程の狂気、殺気に染まった危険人物であるという事を……

 




遂に登場しました!
『豊臣五刑衆』第三席にして、リリバサオリ武将屈指のヤバイやつ(苦笑) “小西行長”!

先にいうと行長は、リブート版では更にドSでヤバいキャラにしようと思っていますので、ドSの方はお楽しみに(笑)そして、ヴィータファンの方はごめんなさい(汗)
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