リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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規格外の強さや才能を持った人材の揃う機動六課の中で、自分“凡人”に過ぎない…
そんな劣等感や嫉妬心を抱えたまま、ホテル・アグスタの警備任務に挑んだティアナ。

しかし、その焦りや鬱屈した思いは任務中もさらに増長していき、遂には半ば暴走行為からミスショットまでも犯してしまった。
そんな中、ティアナ・そして機動六課の前に現れたのは、豊臣が誇る5人の最高幹部『豊臣五刑衆』の第三席 小西行長であった…

左近「リリカルBASARA StrikerS 第十七章 いざ…入ります!」


第十七章 ~ティアナの恐怖 “蟒蛇”小西行長の狂虐~

突如姿を見せた『小西行長』なる男の放つ途方も無い覇気にヴィータ、ティアナ達はただ息を呑む事しかできずにいた。

目の前に佇む男の表情は一見爽やかな笑顔を浮かべているが、その眼の奥に見えるのは明らかな殺気、そして凶気だった。

常人であれば恐怖のあまり立つことすらままならないこの状況の中で、なんとかヴィータ達はそれに耐え、冷静さを保つ事に必死だった。

 

「豊臣…五刑衆……? …要するにテメェもあの黒田官兵衛(ボウリング野郎)みたく、家康の宿敵の“凶王”とかいう野郎の仲間ってわけか?」

 

ヴィータが冷や汗を浮かべながらも、行長を睨みながら尋ねた。

だがそれを聞いた行長は「フフフ…」と顔を少しそらしながら笑う。

 

「あんな“穴熊”と同じ土俵に乗せられるのは少々不本意ですが…一応はそういう事にしておきましょうか……それよりも…貴公の名前をお聞かせ願いたい」

 

「あぁ? …どういうつもりか知らねぇが……機動六課・スターズ分隊副隊長 ヴィータだ……」

 

行長の意外な質問返しに、ヴィータは怪訝な顔つきになりながらも答えた。

すると行長は何を考えたのか鞭を腰に下げると、懐から取り出した何かに袖口より取り出した小筆で何かを書き記した。

 

「…結構。では貴方に良い物を差し上げましょう」

 

そう言いながら、行長は手に持っていた何かを指で弾き、ヴィータの元に投げて寄越した。

ヴィータが投げ渡されたそれは、紅い十字形のペンダント…所謂『ロザリオ』だった。

まるで鮮血のように真っ赤に染まった十字架の裏にはスペイン語(南蛮綴り)の文字でこう書かれていた。

 

 

 

 

『VITA』

 

 

「な…なんだよ…?! これ…?」

 

ヴィータが微かに顔を青ざめさせながら聞いた。

すると、行長は微笑を崩さずに宣告するように言った。

 

「そのロザリオは………これから冥府へと渡る貴方への私からの“手向け”ですよ」

 

「ッ!!!?」

 

そう話すや否や行長は再び2本の鞭を手にとった。すると、鞭全体に赤白い電流が走る。

同時にそれまで笑顔の中に隠されていた殺気と闘気が、はっきりと感じ取れるように膨れ上がっていく。

 

「何やってんだお前ら! 早く逃げろ! コイツはお前らの敵う相手じゃねぇ!!」

 

ヴィータはティアナ達の方に振りかえって逃げるように促した瞬間、行長が振り翳した片方の鞭が風を切る音と共にヴィータへと迫った。

実質的にはシグナムのレヴァンティンのシュランゲフォルムを思わせる連結刃の様な形状のその鞭は、直撃すれば、ヴィータの首を一撃で斬り落とすであろう。

ヴィータは冷静に初撃をグラーフアイゼンで打ちつけて、弾き返した。

 

「アイゼン!」

 

そして、その勢いを利用して地面を蹴ると、行長に向けて飛びかかりながら、5つの鉄球を取り出した。

 

「おらぁぁッ!!」

 

真正面にいる行長目掛けて、グラーフアイゼンで打ち飛ばした。

しかし行長は飛来してくる鉄球に微塵の動揺も見せず、もう片手の鞭を軽く振るう。

鞭は蛇のようにしなやかな軌道をとって、自分に向かって飛んでくる鉄球をすべて払いのけた。

 

「ッ!? くそ!!…だったら、これはどうだ!!」

 

ヴィータは、今度は8個の鉄球を取り出して、カートリッジを1回リロードさせる。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

ヴィータの打ち出した鉄球は赤いオーラを纏いながら先程よりも高速で行長に向かっていく。

しかし行長は、それすらも微笑を崩さずに見つめ、2本の鞭を舞の様な優雅な手付きで振るうと、鞭は電流を放ちながら向かってくる魔力付きの鉄球による追尾弾をも全て払い除けてしまった。

 

「何ぃっ!?」

 

軌道が逸れた追尾弾が地面に落ち、爆音と砂埃を上げる中で行長は、ヴィータの方に尚もゆっくりとした歩調で近づいていく。

その足並みからは完全に余裕さが感じられ、わざとらしく忍び寄るような歩を進める仕草が逆に、慇懃無礼さをも感じさせ、ヴィータの焦りと苛立ちを引き立たせた。

 

「フフフフ、どうしましたか? まさかそれが攻撃のつもりですか?」

 

「ぐぅっ!…舐めやがってええぇぇぇぇぇッ!!?」

 

行長の完全に嘲るような態度に、腹を立てたヴィータは魔力弾を使った中距離戦から得意手である近接戦闘で叩き潰す方向に切り替えた。

 

「アイゼン! ラケーテンフォルムだ!!」

 

カートリッジをリロードさせ、ハンマーフォルムの槌部分に鋭利なスパイク状の突起物が出現してより近接向けとなった『ラケーテンフォルム』へと変形させたグラーフアイゼンを手にとったヴィータは一気に行長との距離を詰める。

 

「おおおおおらぁぁぁ!」

 

気合の叫びを上げながら、グラーフアイゼンを振りかぶり、行長に連撃を浴びせていく。

 

「……実に品の無い攻めですね。まるで美しくない……」

 

鞭を匠に振るい、ヴィータの連撃を弾き、自身に届かせない行長。

その表情は動揺する事なく、落ち着いていた。

 

「本当の“美しさ”とはどういうものか…獣の貴方にご教授して差し上げましょう!」

 

行長はヴィータの連撃の一瞬の隙を突き、グラーフアイゼンを弾きながらそう宣告した。

そして、片手に持った鞭を大きく振るい、それをヴィータ達の方に向かって飛ばす。

ヴィータは障壁(シールド)を張ってで防御するも、そのまま宙へ打ち上げられた。

だが、行長の攻撃の本命はその瞬間だった。

 

「そこです!」

 

行長はもうひとつの鞭を振るい、空中で態勢を立て直そうとしていたヴィータの身体に鞭を何重に巻きつけた。

 

「しまったッッ!!?」

 

「フフフ…早速、獲物がかかりましたね。釣打責(つりうちぜめ)!」

 

行長は鞭を勢いよく引くと、その先端が巻き付いたヴィータを一気に自分の下へと引き寄せながら、その勢いを利用して、彼女の腹部へ容赦のない蹴りを打ち込んだ。

 

「ぐぶおぇぇぇぇぇぇっっっ!!?」

 

鋭い蹴りが吸い込まれるようにしてヴィータの腹部へと突き刺さる。

ヴィータが少量の血の混じった胃液を吐きながら、戦いの動向を見守っていたティアナ達の前へと勢いよく吹き飛ばされる。

 

「ヴィータ副隊長!!?」

 

キャロが悲鳴のような声を上げた。

地面に転がり伏したヴィータだったが、それでもフォワードチームやホテルを守らんとする気迫を糧にどうにかすぐに起き上がってみせた。

 

「ゲボッ! ゴホッ! し…心配すんな……今のは…少し油断しただけだ……!!」

 

血や胃液の混じった唾に噎せながらも、振り向かずに答え、グラーフアイゼンを構えなおそうとするヴィータ。

そんな彼女を見て、行長はさらに邪悪な笑みを浮かべる。

 

「フフフフ…その気丈さ……果たしてどこまで保ちますかな?」

 

行長はそう言うや否や、再び鞭を一閃する。

今度は引っかかるまいと、ヴィータは地面を蹴って、空高く舞い上がろうとした。

だが、行長は鞭をもう一度振り、飛び立とうとしていたヴィータの片足に絡めつかせた。

 

「くそっ!!?」

 

ヴィータは無理矢理に加速して空まで逃げようとするが、その前に行長は再び鞭を引き寄せ、ヴィータの小柄な身体を容赦なく地表へ叩きつけた。

砂埃の立ち込める中、仰向けに倒れたヴィータの顔を、行長は容赦なく何度も何度も足蹴にし、踏みつけた。

 

「グァッ!?…グフッ!?…ギェッ!?…ガハッ!!?」

 

「エストゥペンド! やはり女子供が苦痛に悶える声は、実に良い音色ですねッ! ハハハハッ!」

 

苦悶の声を上げるヴィータを見下ろしながら、行長は狂気的な高笑いを上げながら、足蹴にする片足にさらなる力を込めた。

 

「ヴィータ副隊長!!」

 

「いやっ!! いやあぁぁぁぁぁ!!」

 

そのあまりの凄惨な光景にティアナが悲痛な叫びを上げ、キャロに至っては目に涙を浮かべていた。

 

(そっ、そんな…ッ!? あのヴィータ副隊長がこんな一方的に……!!?)

 

ティアナは、足や手が小刻みに震えるのをどうしても止められずにいた。言うまでもなく、それが“恐怖”によるものであると自覚していた。

あのはやてが誇る『最強』の守護騎士の一人 ヴィータが手も足も出ない…つい数分前、自分の不手際で危うくミスショットしそうになった仲間の窮地に颯爽と現れたハズの彼女が、突然現れた西軍の新手を前に、今は為す術もなく、ボロ雑巾の如く、一方的に甚振られている。

戦いというものは敵の猛攻を上手くあしらい、耐えしのぎながら、反撃を繰り出していく、技と技の応酬である筈だが、今、目の当たりにしているものはそんなものではなった。まさに文字通りの、一方的な蹂躙…自分が知る上で負ける事など考えられないと信じていた存在が、非魔力保持者である筈の男に、まるで赤子をひねるかの如くあしらわれているのだ。

 

(これが……家康さん達が戦ってきた………“豊臣”の強さだって言うの…?)

 

これまでずっと百戦錬磨の騎士である彼女の姿しか見てこなかったティアナは、余計に恐怖を覚えた。

今まで常人ではないと見ていた人が追い詰められている。つまりそれはその上にさらなる強者がいると言う事…

 

「やめろおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

そこで、ティアナ、キャロと共に動けずにいたエリオが遂に我慢できず、突然動き、尚もヴィータの顔を踏みつけて嬲っていた行長に向かって、ストラーダを構えながら突進した。

だが、すかさずその闘志を感じ取った行長は瞬時に跳び退き、エリオの攻撃を回避した。

 

「なんですか? 貴方は…? せっかくのお楽しみの…邪魔をしないで頂きたい!」

 

行長は鬱陶しそうにエリオを一瞥しながら鞭を振り上げ、そして一閃した。

蛇の様に鋭く蛇行しながら鞭の凶刃がエリオに向かって飛んでいく。

 

「エリオ君!」

 

キャロが悲痛な叫びを上げた。

逃げる暇もなかったエリオは覚悟を決めて、目を瞑った。

 

ガキィンッ!!!

 

「ッ!!?」

 

響き渡る金属音にエリオが目を開けると、そこにはどうにか行長の踏みつけから抜け出したヴィータがエリオを庇うようにして立ちふさがっており、グラーフアイゼンを構えて、敢えて、行長の鞭を巻き付かせる事で、エリオを庇い立てしていた。

 

「ぐぐっ……早く逃げろって……言っただろ…!? この…“化け物”は……お前らの手には負えねぇ……」

 

「ヴィータ副隊長!? でも……!?」

 

「ハハハハハハハハッ!!」

 

ボロボロになりながらもエリオを守ろうとするヴィータに、エリオはどうにか助太刀を嘆願しようとするが、その前に行長の高笑いが響いた。

 

「自らが傷付こうとも部下達を庇う尊き心……実に美しいものですねぇ……ですが…実に“中途半端な”美しさだ!!」

 

相変わらず笑顔は崩さない行長だったが、その視線は氷のように冷たく、そして闇の様にドス黒い。

その視線をヴィータの背中から見てしまったエリオは、顔を恐怖に強張らせている。

 

「ひとついい事を教えて差し上げましょう。私は“美しい”ものを好む質なのですが、その実“醜い”ものも決して嫌いではありません。 人間の持つ愚かしさ、浅ましさ……醜い一面というものは、形は悪けれど、時に面白味というものが感じられ、大変興味を唆られます……」

 

「………………?」

 

突然、奇妙な力説を語り始めた行長に怪訝な顔を浮かべるヴィータ。

 

「では……真に“評するにも値しない程に醜きもの”とはなにか? その答えは簡単……それこそ“中途半端な美しさ”しかないものですよ!!」

 

刹那、行長はグラーフアイゼンに絡ませていた鞭に念を込め…

 

 

 

 

 

 

渦雷責(からいぜめ)!!」

 

 

 

 

 

 

バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

技名を唱えると鞭に赤白い稲光が走り、グラーフアイゼンを伝ってヴィータに電撃が襲いかかった。

 

「ぐはあぁぁぁっ!!」

 

電流に苦しめられながらヴィータは、そのままグラーフアイゼンごと投げ飛ばされると、地面を勢いよく転がった。

身体に残留する電撃に苦しみ、悶えるヴィータを見て、行長は黒い愉悦に満ちた笑みを浮かべる。

 

「“美しく”も“醜く”もなれない半端者よ……この私が貴方に相応しい姿に変えて差し上げましょう!!」

 

「ぐぐぐっ……いつまでも……調子こいてんじゃねぇぞぉぉぉ!!」

 

ヴィータは叫びながら、地面を蹴って飛びかかると、両足に加速魔法をかけて、一気に行長の懐に迫りながら、グラーフアイゼンを振りかぶる。

 

「ラケーテン……ハンマァァァーーーーーーーーーー!!!」

 

変形した槌の後方の噴射口から魔力を噴出しながら、ハンマー投げのように高速回転しながら対象に接近していく。命中すれば、確実に吹き飛ばせる……筈だった。

だが、行長は回転しながら迫るヴィータに動じる事無く、すかさず鞭をヴィータ…ではなく、近くに落ちていた先程、森から姿を現す際に伐採した倒木に向かって一閃し、鞭の先端に巻きつけると、行長に迫ろうとしていたヴィータ目掛けて投げ飛ばした。

 

「ぐぅっ!!?」

 

思い切って放った大技が敵に命中するかと思われた目前で、突然真横から不意に飛んできた倒木にヴィータが驚く間もなく、遠心力を付けて回転していたグラーフアイゼンの一撃は飛んできた倒木を粉々に粉砕する。

だが、行長はすかさず後方に飛び退いて下がった為にその破片が当たる事は殆どなかったのに対し、思わぬ形で木を粉砕する事になったヴィータは大量の木片が全身にぶつかり、中にはバレーボールほどの大きさの木片が額に命中し、一瞬視界が歪み、その姿勢が崩れてしまう。行長はそれを見逃さなかった。

 

独楽死磔(こましばり)!」

 

空中に浮かんだまま隙を見せたヴィータに向かって、行長は鋭く鞭を伸ばした。

鞭はまるで生きているかの如く、ヴィータの身体に巻き付いて胸から足元にかけてその小柄な身体を縛り上げる。

 

「ぐあぁっ…!? ああぁ………っ!」

 

まるで大蛇のように、鞭はヴィータの身体を締め上げる。さらに鞭全体を構成する剃刀型の刃がバリアジャケットを切り裂き、ヴィータの柔らかい皮膚へと少しずつ食い込んでくる。刀や槍と違い、決して深くまで食い込んでくる事はないが、無数の棘が全身に突き刺さったかのような激痛と、緊縛による圧迫が二重にヴィータを苦しめ、藻掻けば、藻掻くほどにその苦悶と痛みは増長していく。

さらに刃による激痛には追い打ちの如く、傷が染みるような感覚まで後付されているようだった。

 

「フフフフフ…よく痛むでしょう? この私の愛器『黒縄鞭(こくじょうべん)』の刃には、とても濃厚な塩が塗り込んであるのです」

 

行長は手品の種明かしをするように嬉々と語った。

 

「常人であれば、一撃でもこの鞭で切り裂かれた者は、傷と塩の二重の激痛に悶え、のたうち回って早々に戦意が折れるものですが…その身体でここまで耐えた貴方はなかなか大した忍耐の持ち主ですね。ですが…それもここまでですよ!」

 

その言葉と共に行長はヴィータに巻きつけた黒縄鞭を、独楽回しのように勢いよく引いた。

するとヴィータの身体は紐独楽のように回転しながら吹き飛ばされ、同時に身体に食い込んでいた無数の小さな刃が外れた事で、全身の至る箇所にできた細かい傷から血を溢れ出しながら地面に叩きつけられた。

 

「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

キャロが口元を押さえ悲鳴を上げ、エリオも、先程ヴィータ自身から言われた言葉を忘れて助けようと身体の震えを必死に抑えながら、もう一度助けに入ろうとした。だが、足が動かない…眼の前でヴィータを圧倒する男 行長の残虐非道な凶行と、行長自身の殺気と狂気に圧倒され、感じていたのは紛れもなく“恐怖”だった…

だが、エリオ以上に行長の“恐怖”に押しつぶされかけている人間がもう一人この場にいた。

 

「ひぃ…ひぃ…ひぃぃっ!!?」

 

ティアナだった―――彼女の悲鳴は最早、声にならなくなってしまっていた。

その脳裏はエリオやキャロとは比較にならない程の驚愕、そして混乱と恐怖によってかき乱されていた。

 

「ぐぐっ……ぐぐぐぅ………」

 

それでもヴィータはなんとか立ち上がろうとする。

既に紅い騎士服(バリアジャケット)はズタズタに切り裂かれ、全身が切り傷に塗れ、顔は何度も足蹴にされた事で幾つも痣ができ、歯の何本かはへし折られていた。

それはフォワードチームの誰もが見た事がなかった悲惨な姿だった。

 

「ほぅ…まだ立ち上がれるだけの気力がありましたか……つくづく貴方は“獣”の如き底しれぬ忍耐の持ち主ですねぇ。その打たれ強さだけは認めて差し上げましょう」

 

皮肉っぽく言い放つ行長に、ヴィータは既に息も絶え絶えになりながらも、その目に宿る闘志だけは少しも衰えていなかった。

 

「て、テメェなんかに……やられてたまるかよ……!? ホテルにも………アタシの大事な教え子達にも……手出しはさせねぇ……ッ!!?」

 

ヴィータはその異名の名の通り、『鉄』の如き確固たる意思を示すように、行長を睨みつけて言った。

そんなヴィータに対し、行長は笑顔を浮かべたまま…

 

「フフフ…いい度胸ですね…感動的です……だが…実に“愚か”だ」

 

嘲笑うような言葉とともに2本の黒縄鞭を同時に一閃し、ヴィータの両手首に巻きつけた。

 

「ぐううぅっ!? あぁぁぁぁっ!!」

 

「…そんな貴方にもう一つご教授して差し上げましょう……“無意味な努力とは身を滅ぼすもの”であると……」

 

ヴィータはすぐさま両手に巻き付いた黒縄鞭を外そうとするが、固く締め付けてくる2本の鞭がそれを許さない。

 

 

 

「その身をもって思い知りなさい……甘美な“痛み(ドノー)”、そして“絶望(デセスペラシオン)”と共に!」

 

 

 

刹那―――

行長が両手に握った黒縄鞭を力一杯に引っ張った。

 

バキリッ!と何かがへし折られる音色と共に、鞭の巻き付いていたヴィータの両手が引きちぎれ、宙に舞った後、地面に転がる。

同時に、今まで数え切れない程の修羅場を乗り越えてきたヴィータでさえも経験した事のなかった激痛が襲いかかった。

 

 

 

 

「うわ、わ、わあ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁっ!!!!?」

 

 

 

ヴィータは苦悶の叫びを上げ、勢いよく地面を転げまわる。

 

 

「「ヴィータ副隊長っっ!!?」」

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

その凄惨過ぎる場面に、ティアナとエリオは声を揃えて絶叫し、キャロは顔を青ざめながら悲鳴を上げた。

 

 

 

《ロングアーチよりスターズ2へ! ヴィータ空尉! 一体どうしたんですか!?》

 

《ヴィータちゃん!? ティアナ! エリオ! キャロ! そっちでなにがあったの!? 返事をして!!》

 

 

 

一同の悲鳴は念話を通してロングアーチやシャマルの耳にも届いたようで、それぞれ必死な声質の念話で呼びかけてくるが、ティアナ達は誰もが冷静に応答する余裕などなかった。

 

 

 

 

グア゛ア゛ア゛ァッ!? ア゛ァッ!!? あ……アタシの……手が…ッ!…手があああああああぁぁ!!?

 

「ブラ-ボ! 私はこの瞬間がたまらなく好きなのですよ! 痛めつけた獲物が醜く藻掻き、足掻きながら己の血で赤く染まり果てていく姿を見るのは実に楽しい!」

 

 

黒縄鞭に付いた血を拭い去り、行長は激痛に苦しむヴィータを見下ろしながら、悪意と狂喜に満ちた笑みで言い放った。

 

「さぁ。お次はどこを削ぎ取って差し上げましょうか? 足ですか? 耳ですか? それとも鼻など如何です?」

 

この場の凄惨さに不釣り合いな満悦な笑みを浮かべながら、ゆっくりと地に伏して悶えるヴィータに近づきながら尋ねる。

だが次の瞬間、行長とヴィータの間に何かが割り込んでくる。

 

行長が後退すると、それはオレンジ色の魔力弾だった。

 

 

「………許さない……!!」

 

「ん?」

 

「許さないわよ!! この外道!!」

 

掠れる様な声に導かれるようにして、魔力弾が飛んできた軌道を目で追っていくと、そこには怒りとも恐怖の入り混じった様な苦い表情を浮かべ、震えを抑えられずにいながらも、クロスミラージュの銃口をこちらに向けて構えるティアナの姿があった。

 

「今度は貴方が相手ですか…? いやはや、『機動六課』という部隊は実に威勢の良い女子供ばかりなのですね……」

 

「ふざけるんじゃないわよ…!! …よくもヴィータ副隊長を……アンタはここで私が!!」

 

「ティアさん! 僕も助太刀を―――」

 

エリオがストラーダを構えながら、行長の背後に回り込み、挟み撃ちにしようとするが、ティアナは念話でそれを遮った。

 

(エリオ!! アンタはキャロと一緒にヴィータ副隊長をシャマル先生のところへ連れて行ってから、家康さん達を呼んできて!! コイツはそれまで私が一人で止める!!)

 

ティアナの言葉にエリオは驚嘆する。

 

(そんなっ!? ヴィータ副隊長でさえ手も足も出なかったっていうのに、ティアさんだけでなんて無茶ですよ!!)

 

(やってみないとわからないでしょ!!?)

 

エリオの忠言を無視して、ティアナはクロスミラージュの引き金に指をかけて、いつでも行長を撃てるように構えた。

だが、必死に気丈かつ威圧的な表情を保とうとするティアナの脳裏は、混乱の極みとなっていた。

 

 

 

 

嫌だ―――逃げたい―――死にたくない―――でも……諦めたくない!―――

 

 

 

 

兄さんの様な立派なエリート魔導師になる為にも…家康さんの弟子として一人どんどん先に進んでいくスバルに負けない為にも…

私の夢が…執務官になる夢が…こんな…こんな狂人なんかを恐れていて……

 

 

「おやおや…震えてますね…あんな“戯れ(フェーゴ)”を目の当たりにした程度で、もう怖気づいたのですか? 怖いのであれば無理はなさらないで下さい。どうぞお好きにお逃げなさい」

 

行長は、獲物を追い詰めた蛇のような余裕に満ち溢れんばかりの余裕の嘲笑を浮かべながら、皮肉を言い放った。

 

「黙れ! 自分の…上官をここまでやられて……ここでおめおめと引き下がるわけがないでしょ!!」

 

「ほぉ、仇討ち……ですか? それは実に殊勝な事ですね。では……」

 

 

そう言うと、行長は何を思ったのか、2本の黒縄鞭の内の片方を腰に掲げ戻し、1本だけを手に身構え直した。

 

 

「?……なんのつもりよ…?」

 

「フフフフッ…貴方のその健気な勇気に敬意を示して…私は片手だけで貴方の相手をして差し上げましょう。その方が…少しくらいは公平(フスタ)に楽しめそうですからねぇ」

 

「…ッ!!!?」

 

行長の言葉を聞いたティアナの眉間に青筋が浮かんだ。

 

「こんな私でも“慈悲”の心はありましてねぇ…力無き者を相手する時には少しくらい“生きる望み”を与えてやりたいと思う時もあるのですよ。 特に“思わず哀れんでしまうくらいに雑魚(デビィ)と相見えたりすれば特にね」

 

「………ほ…………」

 

次の瞬間、ティアナの顔が突然、何か悪鬼のようなものにとり憑かれたかのように禍々しく歪んだ。

 

 

ほざくんじゃないわよおおおぉぉぉッ!!!

 

 

 

怒りで半分狂乱したティアナは、行長への敵意、憎悪を込めて咆哮を上げた。

底知れない屈辱、憎悪…負の感情に支配されたかのようなティアナの豹変に、エリオもキャロも思わずゾクリと背筋が凍りつく様な恐怖に駆られた。

 

一方のティアナは、どこまでも自分をこき下ろしてくる行長に対する怒りが、皮肉にも一時だけ脳裏を過ぎっていた恐怖の感情を忘れさせてくれた為、今度はためらう事なくクロスミラージュの引き金を引く事ができた。

 

 

「シュートバレット!! ヴァリアブルシュート! クロスファイアシュート!!!」

 

 

ティアナは矢継ぎ早に自分が習得しているありったけの射撃魔法を放ち、叩きこむ、その全てが行長目掛けて殺到し、爆音と共に土煙を巻き起こす。

 

「どうだっ!?」

 

最後に叩き込んだクロスファイアシュートは、魔力のない人間がまともに食らえば、消し炭になる程の威力である筈だ。

 

しかし…

 

「マンマ・ミーア。いけませんねぇ! せっかく、より公平に戦って差し上げようと、回避もせず、真正面から受けて立って上げたというのに…この程度の遅い弾丸しか撃てないのですか?」

 

土煙の中から行長がゆっくりと歩を進めながら現れ、涼しい顔をしながら言った。

その身体には微かに砂埃が付着しているだけで、まともに魔力弾を食らった痕跡はどこにもなかった。

見ると、その手には確かに片方だけの黒縄鞭が握られており、もう一つの鞭は腰に下げられたままだった。

 

「まさか……私の弾が……ランスターの弾丸が……あんな鞭一本で全部弾かれたって事……ッ!!?」

 

自分の技という技が全て通じなかった事実を前に、ティアナの脳裏に、再び行長への途方もない恐怖の感情が蘇り、恐慌状態に陥っていた。

 

「フフフフ…しかしまぁ“座興(レクリエアシオン)”として見れば、なかなか面白いじゃありませんか。さぁ、続けましょうか? ご自分の命が賭かれば、最高の“恐怖(ミエゴ)”を味わえて、もっと面白いですよ?」

 

「ッ!!?」

 

まるでゲームを楽しむかのような行長の言葉に、ティアナは声も出せなかった。

 

 

無理だ…この男は強い……自分が想像していたものよりも遥かに……

 

行長は相変わらずにこやかな笑顔だが、そこから放たれるオーラはまるで道端の小石を見るかの如く冷たく、そして禍々しい…

 

 

 

 

ガタガタと震えるティアナに、行長がゆっくり近づきはじめた。

 

 

 

 

その落ち着いた足取りがティアナの恐怖を煽り…

 

 

 

 

彼女の魔導師としての強い信念と想い、そして、そのプライドも自信も何もかも砕け散らせた。

 

 

 

 

 

 

…ゃ……いやだぁっ!!…いやぁああああああああああ!!

 

「「ティアさん!!」」

 

 

ついに耐え切れなくなったティアナは狂乱気味に叫びながら、踵を返すと、そのまま逃げ出そうとした。

背後から、エリオとキャロの声が聞こえたが、構う余裕は既になかった。

 

「おやおや。どこへ行くのですか? 面白いのはここからじゃ……ありませんかぁ!」

 

背後から行長の声が聞こえてきたかと、突然ティアナの首に細長い何かが巻き付いた。

その直後、ティアナの身体は後ろ手に引っ張られながら、地面に倒され、引きずられ始めた。そこで初めてティアナは自分の首に巻き付いたのが行長の黒縄鞭である事に気づいた。

行長は黒縄鞭を飛ばし、逃げようとしていたティアナをいとも簡単に捕らえてしまったのだった。

 

「嫌…っ! いやっ!? イヤァァッ!!?」

 

ティアナは引きずられながらも必死に藻掻き、首に巻き付いた鞭を解こうとするが、鞭は生きた蛇のようにしっかりと首に絡まりついて離れなかった。

そして、あっという間に行長の元へと手繰り寄せられたティアナは首から鞭を解かれながら片手で前髪を掴まれると、持ち上げる形で無理矢理立ち上がらされた。

 

「尊敬する上官殿の仇を討つのではなかったのですか? その仇が今こうして目の前にいるのですよ? ほら、もう一度その“遅い”双銃(飛び道具)を私に撃ちこんでごらんなさい! さぁ!」

 

行長はまるで閉じているかのような細目の奥に隠れた禍々しい凶気を投げかけながら、ティアナを容赦なく挑発する。

 

ティアナは自分を掴み上げる行長を見て、腰を抜かさんばかりに怯えながらも、震える声で反論しようとした。

 

「わ、私は……私は……」

 

「貴様! ティアさんを離せ!!」

 

行長の背後からエリオがストラーダを振りかぶりながら、飛びかかろうとした。

だが、行長は振り返る事もしないまま、ティアナの首から解いた黒縄鞭を一閃し、頭部に振り下ろされたストラーダを掴み、防いだ。

受け止められたエリオの目が驚愕で開かれる。

 

「……また貴方ですか? お楽しみの邪魔をしないでくださいと…何度言わせたら気が済むのですか?」

 

「まさか!?」

 

気が動転したエリオは魔力を全開にして、ストラーダの穂先に付いた噴射ロケットを吹かし、なんとかして絡みついた黒縄鞭を振り解こうとしたがうまくいかない。

 

「躾がなっていませんね。貴方には引っ込んでいてもらいましょうか」

 

言い放った行長は、黒縄鞭をもう一度一閃し、ストラーダごとエリオを地面に引き倒した。エリオの小さな身体は地面を勢いよく転がり、キャロの治癒魔法による応急処置でどうにか切断された腕の出血は止まりながらも、激痛に耐えきれずに気を失っていたヴィータの近くに転がり倒れた。

 

「エリオ君ッ!!!?」

 

地面に倒れたエリオに、キャロが悲鳴を上げながら駆け寄る。

それに一瞬だけ気をとられそうになりながらも、ギリッ…ギリッ…と徐々に前髪を掴まれる力が強くなっていく痛みが、ティアナの意識を行長へと戻した

 

「フフフフフ…どうですか? ご自分の仲間が次々と傷つき、倒れていく様を見るのは? ですが…そうなったのも全て貴方のせいです!」

 

「わ……わたしの………せい……?」

 

ティアナは震える声で返した。

行長はティアナを、まるで醜いものを見ているかの様な蔑みの眼で見ている。

 

「えぇ。セニョリータ・ヴィータが現れる前から、貴方達の戦いを森の中からゆっくり鑑賞させて頂いてましたよ。そうしたらどうでしょう? 実に杜撰で、無定見で、脇目も振らぬ無謀な采配…挙げ句に仲間討ちとは…なんとも滑稽な“茶番”に、思わず笑いが止まりませんでしたよ。ハハハハハハッ!!」

 

露骨に嘲笑う行長に対し、ティアナの目に悔しさに満ちた憤怒の炎が現る。

だが、既に戦意をへし折られたティアナに、その悔しさを糧に、行長に抵抗に移す事はできなかった。

 

「そんな貴方の安っぽい矜持や、自尊心、功名欲……そして生半可な“義”に駆られた貴方が、仲間や上官を傷つけ、危険に晒した! なんと“中途半端”で情けない事でしょうか……!」

 

「わ…私は……そんなつもりじゃ……」

 

ティアナは必死で頭を振り、行長の言った事を否定しようとする。

だが、行長は冷静かつ冷酷に、彼女の反論を切り捨て、心を射抜く言葉を次々と投げかけてくる。

 

「言ったはずですよ? 私は“美しいもの”を好みますが、“醜い”ものも決して嫌いなわけではないと……私が本当に嫌いなものは……貴方のような、“美しく”も“醜く”もなれない! なにもかもが“中途半端”な存在です!!」

 

「私が……中途………半端………?」

 

「えぇ。貴方のその目を見た時…すぐに察しました。貴方の胸に宿しているのは周囲への“嫉妬”、自分自身への“劣等感”…そしてそれらを打ち明ける事のできない“孤独感”……そして“不満”! 幾多の負の感情…心の“穢れ”を抱えながら、己の信じる“正義”などという綺麗事を切り捨てようという勇気さえも持てない! つまり貴方は “美しく”も“醜く”もなれない半端者という事です」

 

行長はティアナの心を揺さぶるような芝居がかった口調で語りかける。

 

「違う……違う……違う……ッ!!? 私は……私は………ッ!!?」

 

投げかけられる言葉を必死に否定するティアナだったが、その顔に明らかな動揺の色が広がる。

 

その様子を行長は楽しそうに見つめた。

 

 

 

 

そして不敵な笑みを浮かべると、ティアナの耳にゆっくりと口を近づけ、告げた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…では貴方の本質をお聞かせしましょう。 貴方は才能のない自分の無力さを人に八つ当たりし、功名を立てる事で己を保とうと考え、その為には恥も外聞もなく振る舞い、仲間を危険に晒し…挙げ句に自分の命の危機を前に仲間さえも見捨てようとする……実にひ弱な自我と自尊心を持った中途半端な、“負け犬”というやつですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行長の言い放った言葉と共に、ティアナの耳にはっきりと聞こえた。

 

自分の散々へし折られていた魔導師としてのプライドが止めと言わんばかりに粉々に砕け散っていく音を――

 

 

 

「…ひ弱な自我と…自尊心…!? 中途半端な……“負け犬”…!?」

 

 

 

 

ティアナのその瞳から徐々に光が無くなっていく。

そんなティアナを見て、行長は愉悦に満ちた冷たい薄笑を浮かべながら、彼女を地面に叩きつけるように投げ出した。

 

「ティアさん!?」

 

キャロに抱えられたエリオがティアナの名を呼ぶが、ティアナはまるで糸が切れた人形のように顔色をまっ白にして茫然自失になっていた。

 

 

 

 

「フ…フフフ……フフフフフフフ……」

 

 

 

 

そんな姿を見下ろしながら、行長は含み笑っていたが…

 

 

 

 

「エクセレンテッ! やはり、人を直接甚振るのも楽しいですが、心を壊し、絶望へと打ち沈めるのもまた一興ですねぇ!! フハハハハハハハハハハッ!」

 

「「ッ!!?」」

 

 

 

 

 

見下ろしていた頭が突如として上がり、行長は心からこの状況を楽しむかのように笑い始めた。

そのあまりの狂気的な姿に、エリオとキャロは戦慄し、恐怖と嫌悪感で顔を顰める。

 

 

 

「さぁ、仕上げにかかりましょうか…その中途半端さが現れた貴方のその顔…その首もろとも私が切り落として差し上げましょう!!」

 

 

 

行長は愉快そうに笑いながら、地面に倒れたままハイライトの消えた瞳で虚空を見つめ、動けずにいるティアナに向けて黒縄鞭を振りかぶった。

 

 

 

「“負け犬”の貴方には手向けのロザリオも必要ありませんね。一思いにお逝きなさい!」

 

「「ティアさん!!!?」」

 

 

 

鞭を振り上げる行長を見て、エリオとキャロが叫んだ。

突然、ティアナ達の後ろから二つの巨大手裏剣が飛んできて行長の鞭を弾いた。

 

 

「おや? 誰かと思えば……」

 

エリオ、キャロ、そして行長が手裏剣の飛んできた方向を振り返ると、そこには大手裏剣を構えた佐助が立っていた。

 

「急にティアナ達と連絡がとれなくなったから何かあったのかと思ってきてみれば……こういう事か…」

 

「「佐助さん!!?」」

 

エリオとキャロが叫ぶ。

佐助はいつもの飄々とした態度とは全く違う、冷徹な声で二人に短く指示する。

 

「二人とも!ティアナとヴィータを連れて、早くシャマルのところへ行け! それから急いでこの事を徳川の旦那やスバル達にも知らせるんだ!!」

 

「わ…わかりました!!」

 

「佐助さんも気をつけて下さい!!」

 

佐助の指示を受けたエリオは気絶したヴィータの身体を抱え、キャロは自我喪失状態のティアナに肩を貸しながら、立ち上がらせると、急いで退却した。

彼らを見送りながら、佐助は行長の前に立ち、対峙した。

 

「……まさか、こんなところで貴方に会えるとはねぇ…武田の忍…猿飛佐助…」

 

「こっちこそ…まさかよりによってアンタがお出ましになるなんてびっくりしたよ…“肥後の蟒蛇”。 いや…『豊臣五刑衆』第三席 “獄将”…小西行長さん」

 

佐助は行長に引けをとらない程の殺気を込めた視線を返しながら、行長の回りを回るようにゆっくりと歩を進める。すると、行長も同じく回るように歩を進めはじめた。

 

「アンタがココいると言う事は…やはり、石田三成(凶王の旦那)や西軍の大御所の方々は全員ご集合って事かい?」

 

「……既に東軍に寝返った貴方の質問に、私は答える必要を認めませんが…」

 

行長は腰に下げていたもう一本の黒縄鞭を手に取った。

 

「ですが…一度は同じ豊臣の庇護の下に集った同志のよしみで、特別にお答えしましょう。貴方の仰るとおり、既に西軍…否、“豊臣”はこの異郷の地 ミッドチルダにて着実に再編成に向かいつつあります。 既に私を含む『五刑衆』は、主席である三成殿を含め、“第二席”を除いて全員が着陣済み…先日の黒田官兵衛率いる斥候部隊…そして今日の私の出陣は、我々から東軍、そして徳川の新たなる味方『機動六課』への“挨拶”と受け取って下さい」

 

「“挨拶”…ねぇ……」

 

「そして、西軍には武田に代わる新たな同志がつきました。彼の者の名はジェイル・スカリエッティ! 我々は彼の者の協力の下、関ヶ原で失った戦力を補い、そしてそれ以上の強固な軍団を築きつつある!」

 

そう説明しながらも、行長の身体からは闘気と殺気が溢れている。

説明される話を聞き入りながらも、佐助はいつ斬りかかられてもいいように、一時も気を緩める事はなかった。

 

「なるほどねぇ…しかし、随分ご丁寧に内部事情を話してくれちゃったみたいだけど、マズくないかい?」

 

「いいえ。どのみち、黒田(穴熊)の失態のおかげで、貴方方もこのくらいの情報は既に把握していると思いましたので。それに…」

 

「?」

 

「……裏切り者の貴方は、ここで死ぬ運命なのですから!」

 

そう叫びながら、行長は懐から取り出した紅いロザリオを佐助に向かって投げつけてきた。

佐助の足元に転がったそれにはスペイン語(南蛮綴り)でこう書かれていた。

 

 

『SASUKE SARUTOBI』

 

 

 

 

 

 

「さぁ、そのロザリオに、もうひとつ色を添えるとしましょう! 裏切り者の(モーノ)から流れ出る懺悔と後悔の鮮血の赤色(ロホ)を!!!」

 

「―――ッ!? そうはいくかっ!!」

 

 

 

 

 

直後、2人から莫大な闘気と殺気が放たれる。

そして“猿”と“蛇”は同時に駆け出し、大手裏剣と黒縄鞭がぶつかり合った。

 




リブート版の行長のドS加減、いかがでしたでしょうか?

これ…ヴィータファンだけでなくティアナファンの方にも謝らなきゃいけないくらいにやりすぎちゃいましたね…ホント、すみません!

次回は小十郎&シグナムVS島津のじっちゃんの予定ですが、そちらはもう少しソフトな描写で描く予定ですのでご安心を。
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