リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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ティアナ達の前に現れた『豊臣五刑衆』第三席 小西行長…
その圧倒的な武力と残虐非道な凶行を前に、ヴィータ、そしてティアナは完膚なきまでに叩きのめされ、惨敗を喫してしまう。

そして、行長の止めの一閃がティアナに襲いかかったその時…佐助が咄嗟に救援に入り、事なきを得る。
佐助は重症を負ったヴィータ、そして心を折られたティアナ達を逃がすと、単身行長に戦いを挑むが……

皎月院「リリカルBASARA StrikerS 第十八章 出陣だよ…」


第十八章 ~アグスタ防衛戦 豪剣の”鬼”と凶牙の”蟒蛇”~

時は、ヴィータ、ティアナ、エリオ、キャロの前に小西行長が襲撃に現れる数分前―――ホテル・アグスタ裏手の森

「今回の戦いは足手まといになる」…そう懸念していた小十郎であったが、今目の前に広がる光景を見たシグナムは、とても彼が『足手まとい』どころか、寧ろ大活躍であったと称賛したい気持ちになった。

結局、3派に分かれて襲いかかってきた200機近くのガジェット達は今やその全てが地を埋め尽くさんばかりのスクラップの山と化していた。

小十郎の太刀捌きを見るのはこれが初めてではなかったが、これほど見事な倒し方は他に中々と見たことがなかった。

破壊されたガジェットは全て一刀両断され、鏡面のようなその切り口は、剣豪であるシグナムでさえも思わず舌を巻くほどのものだった。

しかもこれが、小十郎曰く『鈍ら』の手慣れない刀を使ったものによるのだから、これがもしも小十郎の本命の愛刀『黒龍』であったなら、この手腕は如何なものなのか…こんな任務中であってもシグナムの武人としての探究心や好奇心は尽きなかった。

 

「少々数が多かったが…大丈夫か、片倉?」

 

レヴァンティンに付着した砂埃やオイル汚れを振り振り払いながら、シグナムが尋ねた。

 

「あぁ。 この“鈍ら”では心許なかったが、どうにか保ってくれてよかったぜ」

 

小十郎も懐から懐紙を取り出して、刀についた埃やオイルを拭きとりながら、そう返した。

やはり、小十郎が懸念していたとおり、刀には多少刃こぼれが生じていたが、彼の見事な太刀捌きによって刀を折る事なく、どうにか戦いを乗り越える事ができたようだ。

これであと50機程、敵のガジェットが多ければ、折れていたかもしれない。

もちろん、次の敵が現れないとも限らないので、早急に研ぎ石で研ぎ直さなければ…そう考えていた時だった―――

 

「「――――ッ!!?」」

 

不意に小十郎とシグナムは、何か電流の様なものが走るような感覚を覚えた。

勿論、直接痛覚で感じたわけではない。

だが、背筋から指先に至るまで、一瞬全身が膠着しそうになるような波のような痺れが身体を走ったのだ。

 

「……片倉?」

 

「あぁ…わかっている」

 

シグナムと小十郎は顔を見合わせて、今しがた自分が感じた謎の感覚を相手も感じ取った事を確認した。

それから、2人は目の前に広がる山や森を注意深く凝視して周った。

ガジェット達を掃討した森は再び静寂さを取り戻し、遠くからは小鳥のさえずりさえも聞こえてくる。

だが、小十郎とシグナムには一見平穏な森の奥から、こちらに向かって近づいてくる強い“気”を放つ何かを気づいていた。

 

「こちらライトニング2…ロングアーチ。私達の担当する方向に敵の残存勢力は残っているか?」

 

それがガジェットなどの類ではない事はシグナムも既にわかっていたが、一応本部に念話を送り、確認してもらう事にした。

 

《ロングアーチからライトニング2へ。モニターで確認しましたが、そちらの敵編隊は既に残存数0です》

 

念話に返ってきたジャスティからの通信を聞いたシグナムは、レヴァンティンをゆっくりと構える。

 

「………まぁ、普通に考えて、ガジェットドローンにこんな“気”を出す事などできんからな」

 

「あぁ……しかもコイツは…生半可な素人じゃだせねぇ……おそらくは……」

 

冷や汗を浮かべた小十郎がその脳裏に編み出した憶測を述べようとしたその時だった。

森の奥の方からズシリと地を揺るがさんばかりの重い足音が聞こえ、それに合わせるように周囲の木々が微かに揺れ動いた。

平穏が戻り、木々に止まって囀ろうとしていた小鳥達が再び、慌ただしい羽音を立てながら飛んで逃げていく。

小十郎とシグナムはそれぞれ刀と剣を構え、こちらに近づいてくる“気”の持ち主に対し、何時でも迎撃できるようにした。その間も振動と共にビリビリと気の波長が2人の身体を走っていく。

そして、森の木々の間からそれは現れた―――

 

「おぉ! これは久しかのぉ! 竜の右目!」

 

雪景色一色の月代(さかやき)に茶筅髷な髪型とは裏腹に、鍛え抜かれた太くたくましい腕の片手をむき出しにし、「丸に十の字」の家紋の入った黒鉄の肩当てにその肩に掲げた身の丈をも超える大剣…そして勇ましい口髭や顎髭を生やした強面の老人を、小十郎はよく知っていた。

 

「……“鬼島津”!? まさか、貴方までこのミッドチルダに来ていやがったとはな…!?」

 

小十郎は驚きながらも、同時にその“気”の持ち主の正体としては妥当だと、納得していた。

西国・薩摩が誇る「鬼」…実際に相見えたのはこれが初めてではないが、やはりその覇気と闘気は、小十郎でさえも思わず圧巻されそうになるものだった。

一方、シグナムは初めて目の当たりにする老剣士を前にして、思わず息を呑む。

背丈こそ、自身や小十郎よりも若干低いものの、その全身から絶えず放たれる“気”が実際の背丈以上に彼を大きな存在にみせているように見えた。

 

「片倉……この御仁は……?」

 

「……島津義弘。俺達と同じ日ノ本の武将…そして“鬼”の二つ名を持つ程の西軍…否、日ノ本でも五本の指に入る豪剣の手練だ…」

 

小十郎はゆっくりと刀を構え直しながら、説明する。

それを聞いたシグナムは緊張と警戒の念を強めるように目を細めながらも、自然と唇の端を釣り上げていく。

 

「片倉の世界の5本の指に入る剣士か……それは心が躍るな」

 

「おおぉ! おまはんは、初めて見る顔じゃが、 この世界の“時空管理局”っちゅう(つわもの)かね?」

 

「……この世界の世情について既に随分熟知しているようですね…如何にも。私は時空管理局・機動六課 前線フォワード部隊『チーム・ライトニング』副隊長にして守護騎士(ヴォルケンリッター)“烈火の将”シグナムと申します。以後、お見知りおきを…」

 

シグナムはこの老人…島津義弘が剣士として最大級の敬意に値する程のものであると直感し、礼儀正しい口調を用いて話しかけた。

そんなシグナムの敬意を示す態度と、その手に握られた片刃剣(レヴァンティン)を一瞥した義弘もまた、彼女が並ならぬ剣の使い手である事を察したのか、自然とその顔に笑みが浮かんだ。

 

「ほぉ、これはよかね! この世界の人間と剣を交えるのは初めてじゃが…どうやら、面白そうな戦いば期待できそうじゃなあ!」

 

そう言いながら、義弘は大剣を天に向かって突き上げ、腰を低く落として構えた。義弘が使い手とする薩摩独自の剣術“示現流”の基本の構え「蜻蛉(トンボ)の構え」と呼ばれる姿勢だ。

 

(…まるで見た事のない構えだな……まさに未知の剣術か……これは興味深い……)

 

シグナムは冷静に観察しながら、頬の肉が緩んでくるのを感じた。

こんな時でさえも、武人の血が騒ぎ、そしてさらなる強敵と剣を交える事が内心嬉しくてたまらなかった。

シグナムは『古代ベルカ式』と呼ばれる魔法の使い手である。

時空管理局の魔導師達は大きく分けて3タイプの魔導師達が存在する。なのは、フェイト、ティアナ、キャロのように中・遠距離からの射撃・砲撃魔法を中心とした『ミッドチルダ式』、スバル、エリオのようにミッドチルダ式を応用しつつ近接戦闘にも対応しうる様に疑似的に再現した『近代ベルカ式』、そしてシグナム、ヴィータ達、守護騎士(ヴォルケンリッター)のように白兵戦などの近接戦闘に特化した『古代ベルカ式』だ。

それ故に、魔法以外にも武術に関する叡智を極める事でより、その技量を高める事から、シグナムは様々な武術…特に剣術に関する文献を研究する事もあった。それは実利目的であると同時に、生粋のベルカの騎士である自分の剣士としての本能とも言うべきものであるかもしれなかった。

故に、自分の知らぬ未知の剣を触れる事は、時には彼女を任務への使命感以上に心躍らせる事があった。

そんなシグナムに対し、小十郎はいつもであれば彼女の武人としての喜びを分かち合いたいところであったが、生憎今はそれを楽しむだけの余裕がなかった。

その理由は彼の使っている得物である。

愛刀『黒龍』ではない代用の二流品…それもガジェット戦で生じた刃こぼれもまだ修繕できていない。この状況で、鬼島津の太刀にこれが耐えられそうにないのは目に見えていた。

 

(っとなるとこの勝負……シグナムが“鬼島津”と、どこまで渡り合えるかが鍵となるわけだが……)

 

今度こそ自分は戦力にならないと諦めた小十郎は、シグナムの腕っぷしに期待しつつ、この状況を打破する手立てを冷静に脳裏で計算していた。

シグナムの剣の腕前は本物である事は既に小十郎も熟知している。しかし、相手は文字通り『一撃必殺』の豪剣の使い手。時に小十郎自身や伊達軍さえもその豪剣を前に何度も苦戦を強いられた苦い経験がある程だ。恐らく、この男にまともに相対して、本当の意味で対等に渡り合える猛者といえば、徳川軍の重臣“本多忠勝”をはじめ、日ノ本でも数える程度しかいない筈である。

仮にここで『黒龍』を手にしていたとしても、小十郎一人で何の対抗策もなくぶつかり合えば、勝算がない筈だ。

そんな強豪 島津義弘を相手にシグナムがどこまで渡り合う事ができるか、小十郎は案じていた。

 

シグナムと義弘は互いに相手を見据えると同時に行動を起こした。

 

「行くぞ、レヴァンティン!」

 

「いくど、青嵐!」

 

シグナムがレヴァンティンのカートリッジをリロードするのに対し、義弘も構えた大剣に雷を走らせた。

 

 

「チェストオオォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

「……ッ!?」

 

 

ガキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

 

義弘が森中に響かんばかりの音量の掛け声と共に、踏み込みながら振りかぶった大剣を振り下ろしてきた。

レヴァンティンの刀身に魔力のオーラを纏わせながら、その一撃を真正面から受け止めるシグナムだったが、その威力の強さに顔を歪ませていた。

 

「くっ……!! なんて力のある剣だ……流石は片倉も認める剣豪……」

 

「おまはんこそ、女子(おなご)がてらに、おいの示現の一刀を真正面から受け止めるとは、やりおるのぉ」

 

「フッ……これでも私はベルカの騎士…この世界を代表する剣の道を極めた者として、貴方に負けるわけにはいきません」

 

「『べるかのきし』…? それがこの世界の剣を極めし武士の名かぁ? ならば見せるがよかね!こん世界ん剣ん道を!!」

 

「…もとより、そのつもり…ベルカの騎士の真髄…存分に味わせてご覧に入れましょう!」

 

義弘が再度振り下ろした大剣をシグナムは回転するように飛び上がりながら回避、義弘の真上に上がると、そのままレヴァンティンに炎を纏わせながら、振りかぶった。

 

「おいは逃げも隠れもせん! おまはんの一太刀。見せてみるがよかね!!」

 

「フッ…流石は剣豪…その度胸は見事なもの…ですが!!」

 

シグナムは地表に向かって下りながら、振りかぶったレヴァンティンをその勢いに任せて一気に振り下ろす。

 

「紫電…一閃!!」

 

シグナムの十八番『紫電一閃』が真正面から義弘に向かって炸裂した。

 

だが義弘は大剣を上段で構え、シグナムの放った紫電一閃を受け止めた。

炎に包まれるレヴァンティンと、雷の走る大剣とが押し合いになるが、義弘が次第に押し返し始める。

しかし、シグナムは気合を入れるように叫び声を上げると、魔力が変換された炎が剣から噴出して押されかけていた鍔迫り合いを再び拮抗状態に押し戻した。

 

「ほほぉっ! おまはん、中々に良い太刀筋じゃのぉ! 我が示現流の門弟に欲しいくらいじゃ!」

 

「お褒めに頂けて恐悦至極…しかし、この勝負は…勝たせて頂く!!」

 

「むむっ!!」

 

再び押し返されそうとしているのを見て、義弘はシグナムの豪剣に驚く

魔法と剣技の合せ技という自身にとっては未知の剣技に対する興味もさる事ながら、何よりシグナム自身のその気迫に感心していた。

 

「よかね。 この鬼島津…この世界で最初に太刀を交えた剣士がおまはんであって、よかったばい!!」

 

「こちらこそ…ここまで心躍る剣を交えたのは久しぶりです」

 

シグナムと義弘は互いに相手の実力を称賛し合い、そして再び互いに剣に込める力を強めた。

 

「ハアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!」

 

「チェストオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!」

 

炎の剣と雷の大剣…鍔迫合う刃を通してぶつかり合う2人の魔力と気が、強い衝撃波となって、戦いを静観していた小十郎、そして周囲の森の木々に伝わり、激しい振動が周囲に取り巻く全てを走り抜ける。

そして…

 

「カアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァツ!!!!!!!!」

 

「ッ!!? ……うわっ!?」

 

「ぐっ……!!?」

 

不意に島津が猿叫と共に放った気の大波が、鍔迫合っていたシグナムを襲った。

その衝撃は真正面から食らったシグナムは勿論、少し離れた場所にいた小十郎でさえも、思わず両腕で顔を庇い、数歩後ろに仰け反ってしまう程であった。

そして、この攻撃を食らった事で鍔迫り合うレヴァンティンにかかった力が僅かに緩んだ瞬間を見逃さず、義弘は大剣でレヴァンティンを押し戻し、数メートルほど後ろへと飛び退くと、大剣に気の力を込め、さらなる電流を走らせた。

 

「示現流…“瞬激”! チェストオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

 

そして素早く飛び込みを決めながら大剣をシグナムに向かって叩きこんできた。

シグナムは咄嗟に防御魔法(シールド)の魔法陣を展開し、攻撃を防ぐが、義弘が放った一撃はシグナムの展開した防御魔法にいとも簡単に罅を走らせ始めた。

古代ベルカ式魔法は攻撃力や防御力などの基礎能力は高い反面、直接的な攻撃が大半である故、防御魔法や補助的な目的の魔法についてはミッドチルダ式に比べると軟弱な点が欠点であった。

 

「ぐううぅぅっ! …なんという気迫……これが貴方の剣技“示現流”か…?!」

 

「左様…島津の太刀は、文字通りの一刀必殺!!」

 

義弘が叫びと共に大剣にさらなる力を込めると、シグナムの展開したシールドはとうとう耐えきれずに砕け散る。

咄嗟に身を後ろに退く事で、直接技を身体に浴びる事こそ避けたシグナムだったが目の前で振り下ろされた豪剣に耐えきれず、そのまま吹き飛ばされる。

 

「ぐはああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「これで“詰み”じゃ!! 示現流…“連獄”! どおおりゃあああああああああぁぁぁぁ!!」

 

吹き飛ばされるシグナムに追い打ちをかけんと、義弘は青白く光った大剣を豪快且つ高速に振り下ろし、地面に倒れ転がったシグナムへと迫った。

 

「シグナムッ!!」

 

そこへとうとう静観しきれなくなった小十郎が間に割って入り、振り下ろされる大剣を刀で受け止めた。

振り下ろされる豪剣が上段構えの刀にぶつかる度に、激しい火花と共に刃がボロボロと削られていく。

 

(くそっ!? やはり、コイツで鬼島津に挑むのは無理があったか……!?)

 

小十郎は顔を顰めながら、どうにか義弘の連続で振り下ろされる大剣に耐えきろうとするが、5、6回目の振り下ろしを防いだところで、パキンと甲高い音を響かせながら、刀は刀身の中心部分で折れてしまった。

 

「しまった!?」

 

「うおりゃああああぁぁっ!!」

 

唖然とする小十郎に義弘が大剣を振り下ろしてくる。

小十郎はそれを咄嗟に避けながら、真後で倒れていたシグナムを抱えると、そのまま10メートル程後方に向かって飛び退いた。

すると、そこで義弘も剣を振り下ろす手を止めた。

 

「……なるほど。おまはん、今は本命の剣ば持っとらんのじゃな? 竜の右目よ…」

 

義弘は静かに大剣を下ろしながら言った。

 

「……あぁ。生憎今の俺は、貴方の剣を受け止める事さえままならねぇ“鈍ら刀”しか持ち合わせがねぇ。せっかく、俺との勝負も楽しみにして来たみてぇだが、生憎だったな。鬼島津」

 

小十郎が悔しそうに、折れた刀を見せながら、正直に話した。

それを聞いた義弘は納得するように頷いた。

 

「なるほどのぉ…どおりで、竜の右目がおいとシグナムどんとの戦いに介入してこんで、おかしかねとは思っちょったが…そういう事情じゃったとはのぉ……」

 

義弘はそう言うと、構えていた剣を肩に担ぎ直した。

 

「? どういうつもりだ?」

 

「おいは、互いに万全の状態の相手と戦うのが信条じゃ。おまはんが本命の剣ばない状態で戦っても、それは互いに全力を尽くす勝負ではなか。一先ず、今はシグナムどんの腕を確かめられた事だけでも大きな収穫じゃばい、今日のところはここで引くとするかのぉ」

 

「ッ!? わ…私は…まだ負けていな―――」

 

シグナムが慌てて立ち上がりながら、再度義弘に挑みかかろうとするが、小十郎が手を差し出してそれを制止した。

 

「待てシグナム! ここは素直に島津の言う通りにすべきだ!」

 

「なっ!? 片倉?! 何故だ!?」

 

奮然と抗議しようとしたシグナムに対し、小十郎は無言で義弘の後方の森を指差した。

 

「っ!?」

 

そこにはいつの間にか展開された3つの魔法陣が展開され、その真上に新たなガジェットドローンの編隊が待機している状態だった。

その数合わせて、100機程はいた。

 

「あれは…転送魔法か!? 一体誰が……」

 

「わからない…だが、あれだけの数のガジェットドローン…刀の折れた俺や、手負いのお前が、まともに相対せば、さらなる苦境に立たされるのは必定…!」

 

「…………くっ!?」

 

小十郎の指摘を聞いてシグナムは悔しそうに歯を噛みしめる。

すると、義弘も自分の増援に現れたガジェットの編隊の正体に気づくと、困った様に小さく溜息を漏らした。

 

「さてはルーどん。おいを心配して…気持ちは嬉しいが、これは少しありがた迷惑っちゅうやつじゃのぉ」

 

義弘は小十郎達の方を振り向きながら言った。

 

「安心せぇ竜の右目、シグナムどん。おいを引かせるっちゅうなら、おいは小奴らには手出しばさせん。纏めて連れて帰るばい。それでえぇか?」

 

「………わかった」

 

小十郎は頷き了承するが、その顔はシグナム同様に悔しそうなものだった。

 

「…しかし、このまま敵におめおめと逃げられるのを黙って見過ごすのは…」

 

それでも納得できない様子のシグナムを小十郎は、どうにか宥めるように言った。

 

「あぁ、わかっている…お前が武人として鬼島津と白黒を付けたがる気持ちに逸るのもよく分かる…そして、ヤツの一太刀を食らった自分が許せぬ気持ちもまた……その屈辱は、この片倉小十郎が分かち合おう……」

 

「……………片倉…」

 

ドキドキと心臓の鼓動が高まる中、シグナムは小十郎、そして相対する義弘とガジェットの編隊を順に目配せる。そして―――

 

「……………あぁ、わかった」

 

静かにレヴァンティンを下ろしながらシグナムが頷いた。

その答えに小十郎はホッと安堵の胸をなでおろした。

そして、再びその視線を義弘の方に向ける。

 

「島津。この場は見逃す代わりに、ひとつだけ答えてくれ。貴方の目的は一体なんだ?関ヶ原の時と同様に、あくまで石田の味方につくつもりか?」

 

小十郎の質問に、義弘は難しげな顔つきで考え込んだ。

 

「う~む…確かに総大将の三成どんのこれからの道行きはおい自身気にはなっちょる… じゃっどん…大谷どんや、“皎月院”とかいうあの得体のしれん女子(おなご)といい、新たに味方についたスカリエッティとかいう青二才といい、西軍を取り仕切っとる連中はどれも腹の底が読めんし、おいら武士の信念を軽んじとる感じじゃから、本音で言えば、三成どん以外の西軍の連中には協力しとうないね」

 

「ッ!? やはり、スカリエッティは既に西軍と手を結んでいたのか…」

 

義弘の口から出た重大な情報に驚くシグナム。

それを聞いた小十郎は更に訝しげな顔付きで尋ねた。

 

「だったらどうして、連中に力を貸すんだ?」

 

「そやちっと違うのぉ。おいは、ある娘っ子の願いを叶えば為に手伝いをしじぁてな。おいはあくまでその子と、ある“武人”との約束ば守る為に、剣を振るっちょる」

 

「……天下の“鬼島津”ともあろう猛者が、子供の為に戦っているというのか?」

 

小十郎は義弘の意外な行動理由に驚きを隠せなかった。

 

「その子供が何を企んでいるのかは知らないが…都合よくお前がここに現れる事が出来た上に、ガジェットまでも戦力にできているという事は、少なくとも子供もまた、スカリエッティとかいう野郎に何か関係ある事だけは予想できるな」

 

小十郎が義弘の背後にいるガジェットの増援部隊に目をやりながら睨みつけると義弘は豪快に笑った。

 

「グワッハッハッハッハッハッハ! さすがは竜の右目! 大した推理ばするのぉ!」

 

すると義弘の足元に紫色の魔法陣が形成された。

 

「さて、話ば終わりじゃ! 竜の右目、シグナムどん。名残惜しいが今日の勝負はここまでじゃ。また会う機会を楽しみにとるぞ!」

 

義弘がそう言い残しながら、あっという間に魔法陣の中へ吸い込まれて消えてしまった。同時に彼の背後に浮かんでいたガジェットの増援部隊とその転送ポートとなっていた魔法陣も同じ様に消えたのだった…

 

「島津…義弘……」

 

シグナムは新たに遭遇した強敵の名を呟いた。

 

「……っとにかく。こちらはなんとか片付いた。一先ず、他の班の状況を確認して…ホテルにいる八神達にもこの事を報告しないとな」

 

折れた刀を鞘に収めながら、小十郎がそう言うと、シグナムは気を取り直すように他のメンバーに対して状況確認の念話を送る事にした。

 

(ヴィータ聞こえるか? こっちはすべて敵の迎撃に成功した。そちらの状況はどうだ?……………ヴィータ?)

 

シグナムはヴィータに念話を送るが、当然ながらヴィータからの応答はまったくない。

 

「どうした? シグナム」

 

「いや…ヴィータとの連絡が取れないのだが…一体どうしたんだ?」

 

シグナムが不穏な予感を感じ、首をかしげていると…

 

《こちらシャマル! シグナム! 聞こえてる!?》

 

(シャマル?! どうしたんだ!?)

 

突然、シャマルからの念話がシグナムの耳に入ってきた。

半ば涙声の声質から、状況の緊迫ぶりが伝わってくる。

 

《大変よ! 今、ヴィータちゃんがティアナとライトニングの2人と合流したんだけど、急に皆念話に応じなくなって…様子がおかしいと思ってたら、突然、ヴィータちゃんの悲鳴が聞こえて、それっきり、いくら呼びかけても応答がないのよ!!》

 

(なんだと!? ヴィータがっ!? わかった! すぐに私と片倉も、ティアナ達の持ち場に向かう!)

 

《お願い! ザフィーラや佐助さんにも救援を頼んだから! とにかく急いで!》

 

狼狽するシグナムの様子を見た、小十郎もただならぬ事態が起きた事を直感した。

シグナムは念話を切ると、小十郎にその内容を伝えた。

 

「そいつは…ヴィータ達の身に穏やかじゃねぇ事が起きたのは確かだな」

 

「とにかく、急ぐぞ!」

 

「あぁ!!」

 

次の瞬間には、シグナムと小十郎は地を蹴ってホテルの西側へと向かって駆け出していたのだった。

 

 

同じ頃―――

ホテルから少し離れた山の中では、全てのガジェットを撃墜した家康とスバルが援軍が来ないか、周囲を警戒していた。

しかし、こちら側も、もう新たなガジェットが飛んでくる様子はなかった。

 

「ふぅ…これですべて迎撃しきったようだな」

 

「そうみたいですね」

 

二人は一先ず安全を確認すると、緊張を解いた。

 

「しかしスバル。お前も大分ワシの戦い方に近づいてきたなぁ」

 

「えっ!? そうですか!?」

 

まさかの師匠からの誉めの言葉に笑顔を浮かべるスバル。

 

「あぁ、大分技や動きにキレがかかってきているし、この分だと、そろそろなのは殿と戦っても勝てるんじゃないか?」

 

「あはは…いやぁ、なのはさんに勝てる自信はちょっと…」

 

スバルが苦笑いを浮かべながら話す。

するとスバルにデコピンをする家康。

 

「痛!? な…なにするんですかぁ!?」

 

「コラ。そういう消極的な気持ちがダメなのだぞ。もっと自分の成長を素直に認めて、もっと前に進む勇気を持たなければ、お前はいつまでも強くなれないぞ」

 

家康が注意するとスバルは慌てて頭を押さえながら謝る。

 

「あっ…ご、ごめんなさい! 私ってばつい、いつものくせで…」

 

「そうだな。 じゃあ、今度はスバルのその後ろ向きな考えを直す為に、“裸相撲”の修行でもするか? 羞恥心を極めると結構人は前向きになるぞ?」

 

「い、家康さん!!!」

 

柄にもなく冗談を言って笑う家康に、スバルが顔を赤くしながらポカポカと何度もその胸を叩く。

 

「ハハハハハハ! 嘘だよ! 嘘! 言葉が過ぎたよ! 悪かった!」

 

そんな微笑ましいやりとりを交わしていた。その時だった。

 

《家康さん! スバルさん!》

 

((……エリオ!?))

 

スバルの耳と家康の付けていた念話受信用インカムにエリオからの切羽詰まった声が届いた。

 

(どうしたの!? そんなに慌てて…?)

 

《た、大変です!! 実は…》

 

エリオは家康とスバルに、“小西行長”という豊臣の最高幹部を名乗る男が襲撃してきた事、ヴィータが行長に敗れて重症を負わされ、仇を討とうとしたティアナも同様に敗れた事、そして今現在は佐助が行長に単独で応戦中である事を伝えた。

 

「ヴィータ副隊長と、ティアが!?」

 

「“小西行長”だと!? まさか…『五刑衆』までもこの世界に来ていたというのか…!?」

 

「……『五刑衆』?」

 

驚愕する家康の口から出た初めて聞く単語にスバルが訝しげる。

 

(エリオ! ヴィータ殿は、どうしている!?)

 

家康が問いかけた。

 

《なんとかシャマル先生と合流して、今はキャロも手伝って応急手当をしています。…でも、全身を切り刻まれた上に、両手を斬り落とされているので、専門的な治療が必要と判断されて、すぐに近くの専門の医療機関に緊急搬送する事になりました》

 

(りょ、両手をッ!? ティアは!? ティアは大丈夫なの!?)

 

スバルは血の気が引くような思いに駆られながら、必死に問いかけた。

まさか…自分の相棒も…?

 

《いえ…ティアさんの方は特に大きな怪我は負ってません。ですが…ティアさんは精神の方がかなりやられてしまったみたいで、今は傍で休ませているところです》

 

「………あの『肥後の蟒蛇』ならやりかねない手口だな。…流石は“獄将”の名を冠するだけの事はある男だ…女子供とて一切の容赦無しか……」

 

家康が怒りに声を震わせた。

 

「……家康さん?」

 

心配そうに自分を覗き込んでくるスバルに我に返った家康は、受信インカムに指をかけながら、手短にエリオへ念話を返した。

 

(エリオ。お前達は引き続き、シャマル殿と共にヴィータ殿とティアナを頼む! “ワシ”はこれから猿飛達の応援に向かう!!)

 

《は、はい!》

 

『ワシ』という言い方に違和感を抱くスバルを尻目に、家康は念話を切ると、今まで見せた事がない程に険しい顔つきになって、彼女の方を向いた。

 

「スバル! お前もシャマル殿やエリオ達のところへ行け! 猿飛への応援はワシ一人で向かう!」

 

「ど、どうしてですか!? ヴィータ副隊長さえも倒してしまう程の強敵なら、応援も多い方が―――」

 

珍しく、自分を戦いから遠ざけるような指示を出す家康に、すかさずスバルは異議を唱える

だが、家康はそんな彼女の異見を手で制し、遮ってしまう。

 

「相手は『五刑衆』だ! 数の差で押せるような一筋縄でいく相手じゃない!」

 

珍しく語気強めに一蹴する家康に戸惑いながらも、スバルは恐る恐る尋ねた。

 

「家康さん…その『五刑衆』っていうのは一体…?」

 

家康は険しい顔付きでスバルを見つめてくる。

スバルは思わず、質問を投げかけた立場である事を忘れ、身構えてしまう。

 

「…ワシがまだ覇王・豊臣秀吉の傘下にいた頃の事だ…秀吉の腹心であった“賢人”竹中半兵衛が日ノ本各地から集めた「強者」の中でも特に腕の立つ精鋭を集め、自らが“主席”という名の指導者となって結成した秀吉の親衛隊…っというよりは、秀吉の覇業を補佐させ、彼の後を継ぐに相応しい人材を育成していく事を目的とした幹部組織が結成された。 その名は…『豊臣五刑衆』」

 

「『豊臣…五刑衆』…?」

 

スバルは驚愕を滲ませたような表情を浮かべていた。

 

「秀吉…そして半兵衛自身が認めた者とあって、選ばれたのは全員が武力または知略に秀で、日ノ本でもその名を知らぬ者のいない猛者ばかり……勿論、ワシの宿敵・三成もその中に選ばれていた。彼らは豊臣の天下掌握後の日ノ本において『秀吉の定めた法』に基づいて豊臣に仇なす者の殲滅はもちろん、豊臣領内における統治権や、秀吉の前での武装・帯刀の許可など様々な特権、そして非常に強力な力を得た強敵揃いだ。それこそ並大抵の武士(もののふ)1人だけの力では敵わない程に…」

 

「……………」

 

「半兵衛、そして秀吉が死に、豊臣が崩壊した事で五刑衆の何人かは出奔し、東軍に下った者もいた……しかし、半兵衛の後を継いで五刑衆の主席となった三成は構成員を再編成し実質、西軍の最高幹部組織として五刑衆を再興した。…小西行長はその再興された五刑衆の第三席につく男だ」

 

「…っという事は、メチャクチャ強いって事ですか?」

 

家康の話を聞いたスバルは汗を流しながらも尋ねる。

家康はゆっくりと頷いた。

 

「あぁ、“メチャクチャ”な程にな……少なくとも、お前達が相対した又兵衛や官兵衛とは実力も冷酷さも桁が違う。 今のフォワードチーム(お前達)が向こう見ずに挑めば…“命取り”になるのは間違いないだろう」

 

その重みのある言葉を訊いた瞬間、スバルは動揺すると同時に、自分達が戦っている相手“豊臣”の途轍もない強大さを改めて思い知ったような気がした。

家康をしてここまで言わしめる程の猛者が、三成を含めて5人もいる……

ヴィータを完膚なきまでに下し、あまつさえ腕を切り落とした上、あの気高いティアナの心を砕いてしまう程の猛者が5人……

与えられた命令を忠実にこなし、機械的な行動しかとってこないガジェットドローンなんかとは違う。考えて、自分達を残酷に痛めつけ、殺そうと襲いかかってくる。

そんな連中の一人が、近くまで迫ってきている…

スバルは顔を青くして息を呑んだ。

 

「わかったな? お前は、シャマル殿やエリオ達と合流してヴィータ殿とティアナを頼む。ワシは小西の迎撃に加勢しに行く!」

 

「は、はい…家康さん。気をつけて下さい」

 

スバルは唖然とした様子で、駆け出していく家康の背中を見送る事しかできなかった。

 

 

 

ホテル・アグスタ 西側防衛ライン―――

数十分前まで風光明媚な山間ののどかな景色が広がっていたこの場所は、今や地表のあちこちが削り取られたり、抉りとられるなどして、木は伐り倒され、草花は撒き散らされ、大地は穴ぼこだらけと、まるで荒野のような状態と化してしまったこの土地で、『豊臣五刑衆』第三席・小西行長と、一人戦いに臨んだ佐助が、激しい戦いを繰り広げていた。

 

「はぁ!…はぁ!…はぁ!」

 

地に膝を着き、息を切らしながら行長を睨む佐助。

対する行長はまったく疲労を感じさせない余裕の態度で笑みを浮かべる。

 

「おや? もうお疲れですか? 武田が誇る真田の忍も、落ちたものですねぇ」

 

「チッ! …いちいち物言いが、癇に障る奴だな…!」

 

佐助はそう言うと、両手の大手裏剣を構え直しながらゆっくりと立ち上がる。

 

「フフフ…無理に手向かう事など辞めて、大人しく私に引導を渡させて頂けませんか? そうすれば、一思いに、痛みのない死を与えて差し上げますよ?」

 

「お断りだね。アンタの言う「痛みのない」なんて言葉程、信用のできないものはないからね」

 

佐助は行長の挑発を軽い調子で受け流すが、互いから放たれる視線は今にも互いに一手を打たんばかりの殺気に満ちたものであった。

 

(……今だ!)

 

佐助がカッと目を見開くと同時に懐から球状の物体を取り出して、それを足元に投げ付けた。

それと同時に球体から眩い光が周囲を包みこみ、それを真正面に受けた行長もさすがに目の前を腕で隠して身を縮ませる。

 

「閃光弾ですか? 忍らしい術を駆使しますね…ですが!」

 

行長が空いている腕で黒縄鞭を振ると、鞭は大振りな軌道を描きながら光を放っていた閃光弾を打ち払って遠くへと飛ばした。

 

「そのような小細工など、元を断たせばいい事!」

 

行長がそう言いながら目を隠していた腕を外し、閃光が輝いていた方を見ると佐助の姿はどこにもない。

行長は少しも動揺せず、ゆっくりと歩を進めながら、周囲に目を巡らす。

そして、ある一本の木に目をやると、すかさず動いた。

 

「………!? そこですね!」

 

行長が確信したように叫ぶと共に二本の黒縄鞭にさらに赤く禍々しい色の電流を通した。

 

天裂(あまざき)!!」

 

行長が羽を広げるような仕草で両手を振り広げると、それぞれの手に握られた黒縄鞭が木に向かって風を切るように降りかかり、☓を描くように大きな木を切り裂くと同時に木端微塵に粉砕した。

さらに木だけでなく、その周辺の地面までもが爆発で吹き飛び、土砂となって宙に舞い上がった。

瞬く間に焦土と化す爆心地を行長が眺めていると、炎の中から火だるまになった佐助がヨロヨロと現れ、倒れこんだ。

それを見て行長は不敵な笑顔を零した。

 

「愚かな男です」

 

「誰が愚かだって?」

 

「!?」

 

背後からかかった声に気がついた行長が、瞬時に後ろを振り返った時、そこには少しも焼け焦げていない忍装束を纏い、大手裏剣を構えて行長に飛びかかる佐助の姿があった。

 

「これぞ“空蝉の術”だ!」

 

佐助が叫びながら、両手に持った大手裏剣を行長の顔に目がけて投げる。

行長は即座に反応し、黒縄鞭を振り上げて飛来する大手裏剣を打ち払いながら後ろに飛び退いた。

だがそこへ新たな加勢が入ってくる―――

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

ザフィーラであった。

ザフィーラは獣状態のまま飛び退いた行長に飛びかかり咆哮を上げると、二つの光の柱が現れて行長を貫こうとした。

だが行長はそれすらも余裕で避けると、宙を舞うように回転しながら地面に着地した。

行長がゆっくりと先ほどの火だるまになった『佐助』の死体の方に目をやり確かめると、そこにあったはずの『佐助』は黒い粒子となって消滅しているところであった。

 

「なるほど…攻撃が当たる直前に分身を作って回避し、それに気をとられた隙をついて私の後ろに回り込むとは…考えましたね。ところで…」

 

行長は、新たに介入してきたザフィーラを興味深そうに見つめる。

 

「“猿”のお次は“犬”の助っ人ですか? これはなかなか随分と趣向を凝らしていますねぇ。ところで…“桃太郎”と“雉”はいつ現れるのです?」

 

「我は犬ではない! “狼”だ!!」

 

戯けるような口調で揶揄する行長を、ザフィーラは冷静に一蹴する。

だがそれを聞いた佐助は内心…

 

(えぇっ!? ザフィーの旦那って“狼”だったの!!?)

 

ザフィーラが狼であった事に驚愕していた。

実は、彼も今しがたまでザフィーラの事を『大型犬』の類と見ていたのだった。

 

(そりゃあ、犬にしたら、バカにでかいねぇとは思ってたけど……)

 

(……何か雑念を抱いたか? 猿飛)

 

(ザフィーの旦那!? いや、別に!? …ってか当たり前のように人の頭の中入ってこないでくれる!?)

 

まるで自分の心に割り込んでくるように届いたザフィーラからの念話に佐助がツッコんでいると。行長が黒縄鞭を振って攻撃を仕掛けてきた。

 

「グッ…!」

 

「おっと!」

 

ザフィーラと佐助がそれぞれ後ろに飛び退く。

 

「フフフフッ…桃太郎のいない鬼退治とは滑稽な御伽話ですね。ですが…生憎、私は『鬼ヶ島の鬼』ではありません…」

 

行長は黒縄鞭をそれぞれ佐助とザフィーラに向けて構えながら、堂々と名乗りを上げた。

 

「私は、全てを喰らう美しき“蟒蛇” 小西行長! 下賤な獣達よ。 蟒蛇の牙の恐ろしさをその身で思い知りなさい!!」

 

「ふん! 蛇風情が高貴を気取るか!? 笑止!」

 

ザフィーラが叫びながら、もう一度咆哮と共に光の柱を出現させて行長を攻撃する。

今度は先程の倍以上の柱が形成されて行長に向かって飛んでいく。

 

「甘いですね!」

 

しかし柱は、すべて行長の一閃する黒縄鞭によって簡単に打ち払われる。

 

「ッ!? …ならばこれでどうだ!!」

 

ザフィーラがそう言うと、同時にザフィーラの体が光に包まれ、やがてそれが止んだ時、ザフィーラは筋骨隆々の色黒の肌を持つ男性の姿へと変わった。

 

「ッ!?…ザフィーの旦那…人間になっちまった!?」

 

佐助は、ザフィーラが人間の姿に変わった事に驚きの声を上げた。

行長も同様に人間の姿になったザフィーラを見て、眉を微かに動かして驚きと感心を表現する。

 

「ほぅ…人狼(ルウ・ガル)とは珍しい。少々無骨ですが、獣の姿よりは美しくなりましたね」

 

「フン! 軽口を叩けるのも…」

 

ザフィーラが拳に光を纏わせながら行長に向かって飛びかかりながら…

 

「ここまでだあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

行長に向かって正拳を打ち出す。

行長は鞭を顔の前に両手で伸ばして受け身の構えをとると、それを真正面から防ぐが、ザフィーラの拳の威力の高さは予想以上のもので、さすがの行長も数メートル後ろに押される。

 

「フフフ…これは面白い事になってきましたねぇ。いいでしょう。ならばこちらも貴方方二人の『無謀』という強い勇気の為に…」

 

行長はそう言って今まで爽やかな笑顔の奥に隠していた邪悪な本質を引き出すかのように目を大きく見開いた。

 

「私も敬意を払って差し上げましょう!!!」

 

蛇のような瞳孔の開いた赤く光る邪悪な目からこれまでのものを遥かに凌ぐ程に禍々しい殺気を放ちながら、佐助とザフィーラを見つめ、叫んだ。

 

「シャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

蛇の目が見開かれた途端、今までの凶悪さの中に優雅さえも感じさせる動きを見せていた行長が急にその狂気を隠さぬ荒々しい動きに変わり、全身から殺気、そして剣気の禍を立たせながら、襲いかかってくる。

ビュン!ビュン!と風を切る音が周囲に反響し、最早、佐助やザフィーラの目にさえも止まらぬ程の速さで鞭という名の凶刃の乱閃が息をつく間もなく、2人に降りかかる。

 

「くそっ…なんて速さだ! 反撃する隙がまったくねぇ! それに、さっきまでとは段違いの殺気…野郎、とうとう“毒蛇”の本性を見せやがったか…!」

 

佐助は必死で大手裏剣で鞭のラッシュをしのぎながら、悪態をつく。

 

(猿飛! 守りに徹していてはいずれ崩される! なんとか奴の動きを封じて、攻めに転じるよう隙を作るのだ!)

 

(隙を作るったって、ザフィーの旦那! どうやんのさ!?)

 

念話で必死に言葉を交わしながら完全に防戦に徹する二人に、行長は容赦なく黒縄鞭を振るい続ける。

 

「どうしました? お猿さんにお犬さん? やはり、“桃太郎”と“雉”がいなければ、まともに“蟒蛇”退治もできないのですか?」

 

行長はそう嘲笑うが、その間にも、無双ともいえる黒縄鞭の連続攻撃を緩める事はない。

ザフィーラは両手の手甲で振り下ろされる鞭の一閃を弾きながら、閃いた。

 

(そうだ猿飛! お前の忍術で奴の動きを封じろ! 奴の攻撃の手が止んだ隙に我が奴に一手を討つ!)

 

(簡単に言うけどさ旦那! この鞭地獄の中を突破すんのって楽じゃないんだよ!)

 

佐助はそう文句を言いながらも、自身の影を巨大な円陣状に広げ、そこへ潜りこんでいった。

一方、行長はザフィーラに止めを刺そうと、その身体に黒縄鞭を巻きつける。

 

「―――ッ!!?」

 

「トドメです。 “釣打―――」

 

先程、ヴィータを苦しめた技“釣打責(つりうちぜめ)”を放とうとした行長の足元に、突如黒い影が現れ、そこから佐助が腕を伸ばして行長の足を掴んだ。佐助の十八番『影潜の術』である。

 

「ッ!?…これは…!?」

 

小西が微かに動揺した声を上げる。

 

「今だ。ザフィーの旦那!」

 

行長が叫ぶと同時にザフィーラは黒縄鞭に身体を縛られたまま、一気に行長の近くまで飛び込むと…

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

飛びかかりながら、行長の右頬に強烈な回し蹴りを叩き込もうとした。

しかし―――

 

「では、こんなものは如何ですかな?」

 

行長は不敵に笑いながら、その言葉と共に懐から刃が付いた円盤型の独楽を3つ取り出し、それを黒縄鞭に巻きつけながら向かってくるザフィーラに向けて構える。

 

「“飛剣山(とびけんざん)”!!」

 

行長が鞭を放つと、独楽は刃を出しながら鮮やかな軌道を描きながら飛んでいき、飛びかかろうとしたザフィーラの手足を切り裂いた。

 

「…!? グハッ!?」

 

切り裂かれた傷からは血が噴き出し、ザフィーラは激痛に表情を歪ませ、その場に落ちて、地に膝を付く。

だが、独楽はブーメランのように環を描きながらザフィーラの元に戻ると、今度は脇腹や頬を切りつける。

独楽はまるで死骸を群がって啄む烏の如く、ザフィーラの周囲を回りながら、少しずつ彼の身体をズタズタに斬りつけていく。

 

「グウオオオオオォォォォっ!!」

 

装束はボロボロに切り裂かれ、四肢から血が止めどなく流れ出る。

だが、独楽はそんなザフィーラの苦痛を嘲笑うかの如く彼の周囲を回り、そして彼に新たな傷を刻んでいく。

 

「ザフィーの旦那!!」

 

佐助は影の中から飛び出すと、ザフィーラの周囲に群がるように飛来していた独楽を大手裏剣で次々と地面に叩き落としていった。

落ちた独楽はそれぞれ地面に深々と突き刺さってようやく止まった。

 

「旦那! 大丈夫か?!」

 

「あぁ…すまん、猿飛」

 

ザフィーラは手足にできた切り傷に顔を歪ませながらも、すぐに拳を構え直した。

一方、行長は舌舐めずりしながら、蛇の目を細めた。

周囲には禍気と表現すべき異様な殺気が充満していた。

 

「フフフフ…品のない獣にしてはなかなかやりますねぇ…」

 

「またそれかい? 俺達が“獣”というなら、“毒蛇”のアンタはなんだってんだよ?」

 

佐助が皮肉を込めてそう言い放つが、どうやら数ある皮肉の選択肢の中でも最悪のカードを引いてしまったようだ。

 

「この私を下卑た“蛇”と同じに見ますか? 高貴なる“蟒蛇”を…?」

 

直後、行長の絶えず笑みを浮かべていた口許に、一瞬だけであったが仁王像の如き憤怒が現れた。

 

「………これだから、知恵のない“(モーノ)”は醜い……」

 

行長の声が取って作ったような落ち着きのある穏やかな声質から、低く棘しい声に変わったのを聞いた佐助が背筋に悪寒を感じ、身構えようとした瞬間。

突然、佐助の眉間を覆う鉢金に強い衝撃が走ったかと思いきや、佐助の身体は数メートル後ろにふっとばされた。

行長が佐助の目にも止まらぬ速さで、黒縄鞭を振るい、佐助の眉間をピンポイントで打ち弾いたのだった。

地面に強かに背を打ち付けながらも、どうにか身体を回すように受け身をとる事で、立ち上がった。

 

「猿飛!」

 

ザフィーラが近くまで飛び退きながら、佐助を案じた。

見ると、眉間の鉢金には罅が走り、僅かながら血が垂れていた。

 

「あぁ……心配すんな。…ったく奴さん…忍相手に不意打ちなんて、随分と大胆な事すんじゃないの」

 

佐助が眉間に垂れる血を拭いながら軽口を叩いた。

 

「…どこまでも口の減らない“猿野郎”ですね。実に醜い……」

 

行長は唾棄するようにそう言うと、ゆっくりと佐助とザフィーラに向かって黒縄鞭を構える。

 

「さぁ、引導を渡してあげましょう」

 

「そいつはこっちの台詞だねぇ」

 

行長は鞭を振りかざし、佐助とザフィーラはそれぞれ大手裏剣と拳を構えた。

その時だった―――

 

「猿飛!」

 

ギリギリのタイミングで家康が駆けつけてきた。

すると行長は家康を見ると、少し驚きながらも再び邪悪な笑みを浮かべはじめた。

 

「―――ッ!?…小西行長!?」

 

「これは、これは…ご無沙汰しております。 徳川家康殿……ご機嫌麗しゅう」

 

行長は佐助達に振りかざそうとしていた鞭の標的を家康に変えると、殺気の籠った一撃を放つ。

 

「くっ!」

 

家康は飛んでくる鞭を拳で打ち、弾き返すと、行長はよろけながらも返ってきた鞭を受け止める。

 

「フフフ…流石は腕を上げましたね。かつては戦国最強と言われた重臣の後ろに隠れて、綺麗言ばかりほざいていた小僧が…」

 

行長はそう言って構え直すと、家康も反射的に構えをとった。

 

「貴方を殺してその首を墓前に捧げる……それが、我らが主 豊臣秀吉様に集いし五人の将『豊臣五刑衆』の使命…」

 

「…そうか。やはり、三成や他の五刑衆もこの世界に……ならば…」

 

両者は互いに睨みあい、一触即発の空気がこの場に流れる。

そして互いに最初の一手を繰り出そうとしたその時…

 

「徳川! 猿飛!」

 

「ザフィーラ! 大丈夫か!?」

 

裏手の方から小十郎とシグナムが駆けつけてきた。

それを見た行長は、気が抜けたようにため息をつくと、見開いていた蛇の目を閉じて、鞭を持った両手を下ろした。

 

「どうやら…このまま戦いを続けるのは、私にとって不利な様ですね…」

 

行長はそうつぶやくと、家康達に背を向け、空高く跳び上がった。

そして、近くにあった高い気の上に飛び乗ると、家康の方を振り向きながら言い放った。

 

「いいでしょう。遊興(フガール)はここまでです。徳川家康………貴方にひとつ『ご忠告』しておきましょう。我らが将 石田三成殿…そして我々豊臣は既に貴方とそこにいる“お友達”の皆さんを潰すべくに着実に準備を進めています。 これからはせいぜい身の回りには、絶えず気を配る事をお勧めしますよ」

 

そう言い終わった後、行長は指笛を鳴らした。

すると上空から一機のガジェットⅡ型が飛来し、すかさず、それに飛び乗る行長。

 

「そしてこの私も…次に相対する時こそ貴方達を全員血祭りにして差し上げましょう! それでは皆様、さようなら(アディオス)!」

 

「待て! 行長!!」

 

家康が制止する間もなく、行長を乗せたガジェットは高速で空高く舞い上がり、行長の高らかな笑い声を残したまま空へと消えた。

 

「家康……今の男は……?」

 

シグナムが家康に訪ねようとしたのを、横から小十郎が制止した。

 

「待て、シグナム! それよりも、今は猿飛とザフィーラを…」

 

話さねばならない事は山程あったが、今は負傷していた佐助、ザフィーラの2人をシャマルや先に合流させたフォワードチームの元へと連れて行く事を優先する事にしたのだった。




リブートされて、さらに残酷度が増した行長のSっぷり如何でしたでしょうか?
本当は佐助とザフィーラにももっと苛虐してもらおうかとも思ったのですが、流石に2話連続でグログロな展開もちょっと気が引けたので、こちらはオリジナル版からあまり改変しない事にしました。

その分、オリジナル版よりも義弘のじっちゃんとシグナムとのバトルを少し色付けしてみました。
オリジナル版ではこれで一応ホテル・アグスタでのバトルは終わりましたが、リブート版では……次回のお楽しみに。


※それから新規参戦武将に関するアンケートですが、こちらよりもpixivでの集計が多いのでこちらでのアンケート集計を取りやめさせていただきます。
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