リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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“肥後の蟒蛇”小西行長…“薩摩の鬼島津”島津義弘…相次ぐ西軍からの強豪の刺客達を前に苦戦を強いられながらも、どうにかホテル・アグスタを守りきった機動六課と東軍の武将達……

だが、西軍による暗躍はまだ終わっていなかった……

スカリエッティ「リリカルBASARA StrikerS 第十九章 出陣…フッフッフッ…」


第十九章 ~ティアナの慟哭 錯綜する想い…~

時は再び遡り、ホテル・アグスタ屋内―――

ホテル周辺で起きている2つの喧騒・小西行長、島津義弘との交戦も、内部の警備を担当していたなのは達の耳にはまだ聞き及んでいなかった。

今は、ちょうどオークションも休憩時間に入った為、なのは達はロビーで休憩も兼ねた今後の事に関しての話し合いをしようとしていたのだが……

 

「これどうするんですかぁぁぁ!? 政宗さん!!」

 

広いロビーに、ボリュームとトーンの高い怒声が反響する。

大きな怒声の主は、約30センチ程の小さな身体の人格型ユニゾンデバイス リインフォースⅡ。

目の前で、休憩用のソファーに足を組み腰掛けながら、気だるそうに話を聞く政宗を相手に憤然とした様子で説教をしていた。

その様子を回りにいたなのはやフェイト、はやて、幸村は苦笑を浮かべながら見守っていた。

 

「なんだって、そんな隕石なんかを1000万で落札しちゃったりしたんですかぁぁぁ!? こんなの経理部になんて報告すればいいのですぅぅぅ!?」

 

リインが半ばパニックになりながら怒っている原因は、政宗の横に置かれたロストロギア用の封印ケース…その中に入っている隕石―――

先程のオークションの最中に、政宗が勝手に1000万で落札してしまった品であった。

再封印目的とはいえ、オークションの品を勝手に購入してしまうという予想外の行動に出た政宗に、後から話を聞かされたリインは思わずその場で卒倒しそうになる程に驚いた。

 

「It's noisy…だから、そのMeteor stoneを再封印すればGadget Droneとかいうmachine共も寄って来なくなるかもしれねぇってなのはが言ったから、そうできるように手伝っただけじゃねぇか。 それに1000万以下なら経費で落ちるんだろ?」

 

「それも、時と場合によるのですぅぅ!! 第一、1000万というのはあくまで1ヶ月における経費の上限であって、その隕石1個に賭けられる予算じゃないのですよぉぉぉぉぉ!」

 

頭を抱えながら嘆くリインに、なのはが後ろから申し訳無さそうに声をかけた。

 

「ご、ごめんね。リイン。 私が政宗さんにちゃんと説明しておけば、こんな事には…」

 

「まさか一ヶ月分の追加経費使って、隕石買ってまうなんて思ってもみぃひん事やったからなぁ…」

 

はやては呑気にそういうが、リインは慌てふためきながら詰め寄る。

 

「笑ってる場合じゃないですよぉ、はやてちゃん! いくらなんでもこれは、リインや経理のリリエ二等陸士でも上に説明する手立てが思いつきそうにないですぅ!?」

 

「ん~……隊の“研究用素材”として報告する…とか?」

 

「六課は開発部じゃないですから、無理ですよぉ~~……」

 

「ねぇ。再封印もした事だし、“返品”するとかできないの?」

 

フェイトが提案したが、リインは項垂れたまま首を横に降る。

 

「再封印処置といえど、品に手を付けてしまったら、その時点で返品は無理ですぅぅ…」

 

「……ダメか…」

 

「…では、リインフォース殿。 六課の知り合いの方々を当たって、石を買い取ってもらうのはどうでござろうか? 所謂、“献残商法”という方法でござる」

 

幸村の提案した“献残”とは、大名などの武家や格式の高い家が、贈答されたり、手に入れた品物のうち消費せずに有り余った分などを、別の者に下げ渡したり、売る事…要するに今で言う『転売ヤー』的なものである。

だが、これにもリインは賛同しなかった。

 

「……こんな隕石なんてマニアックなものを欲しがる人なんて、六課の知り合いにいないですぅぅぅ~~~…そもそもいたとしても、1000万なんて大金で買ってくれる人なんて絶対にいないですよぉぉぉ~~~……」

 

「だろうね。 そもそもこれ、本当に1000万の価値があるかさえわからないしね…?」

 

再封印された隕石を見て困った様に笑うなのはと対象的に、政宗はあっけらかんとした様子を崩さなかった。

 

「高い金積まねぇと他の連中に持ってかれちまうんだろ? それがAuctionってもんじゃねぇのか?」

 

その口調からは、微塵も後悔や反省の様子は感じられない。

そのどこまでも大胆不敵な振る舞いは、呆れを通り越して称賛したいとさえ思えた。

 

「う、うん。いや、そうなんだけどね……う~ん。本当にどうしよう…?」

 

なのは達が、頭を抱えながら、どうにか最善策を考えようとしていた。

その時―――

 

「あのぉ~。それじゃあ、その隕石…よかったらウチの部署が買い取らせて貰ってもいいかなぁ?」

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

不意に、声をかけられたなのは達が振りかえるとそこには…

長い金髪を後ろに束ねた眼鏡をかけた青年が立っていた。

 

「えっ!?…もしかして…」

 

「ユーノ君!?」

 

フェイトはその青年が誰なのか、よくわからない様子であったが、そんな彼女の隣で、いち早く気がついたなのはが青年の名を呼んだ。

 

「そうだよ! いや、ほんと久しぶりだねぇ!」

 

ユーノと呼ばれた青年が、そう言ってなのは達の方に近づいてきた。

親しげに話しかけてくる青年を見た政宗は、はやてに尋ねた。

 

「はやて。あのメガネは誰だ?」

 

「あぁ。彼は“ユーノ・スクライア”君いうて、私達の幼馴染やねん。次いで言うと、なのはちゃんにとっては魔法の先生や」

 

「魔法の…先生?」

 

はやての話を聞いていた幸村が首をかしげた。

 

「せやけど、驚いたなぁ。なんでユーノ君がここに?」

 

「今日のオークションの鑑定と解説役として招待されていたんだよ。僕の付き添い付きで…」

 

不意に新たに落ち着きのある声が背後から聞こえてきた。

政宗達が声の主の方を振り向くと、そこには緑色の長髪をした穏やかな面持ちの青年が立っていた。

 

「やぁ、はやて。久しぶりだね」

 

「―――ッ!? ロッサ?」

 

「アコース査察官!?」

 

青年の姿を見たはやてとリインが喜び混じりの驚きの声を上げる。

新たな知人の登場に、政宗も幸村もますます首をかしげるばかりだった…

 

 

 

 

数分後、一行はホテル内の一角にある喫茶店に場所を移し、政宗、幸村と、偶然出会う事になった“ユーノ・スクライア”と“ヴェロッサ・アコース”を紹介していた。

“ユーノ・スクライア”―――

ミッドチルダ考古学士会の学士にして、なのは達と同い年ながら、『無限書庫』という時空管理局本局内にある、管理局が管理を受けている世界の書籍やデータが全て収められた超巨大データベースを管理・整理する司書長を務めている青年で、曰く、なのはが魔導師になるきっかけとなった人物にして、なのはに魔法を教えた人物であるという。

“ヴェロッサ・アコース”は、時空管理局・本局査察部に所属する査察官。六課をバックアップしている聖王教会の教会騎士カリム・グラシアの義弟であり、はやてにとっても、兄のような存在といえるこちらも古馴染みの人物であった。

 

「なのはの魔法のTeacherがバカでかい司書庫のtopで、はやてのbrotherが本局のeliteか…お前ら、何気にとんでもねぇconnectionの持ち主だよな」

 

政宗が呆れるように言うと、返す言葉がなかったのか、なのはもはやても苦笑を浮かべるばかりだった。

 

「にしても、僕達の方も驚いたよ。まさか、機動六課にあの“伊達政宗”さんと“真田幸村”さん。さらには“徳川家康”さんまでもが、委託隊員として加わっていただなんて…」

 

ユーノが驚きながらも好奇の目で政宗と幸村を見つめながら言った。

仕事柄やなのは達の関わりを通して、日本の歴史にも触れ、勉強していたユーノは、政宗と幸村の名を聞いた時、なのは達が初めて家康と出会った時程ではなかったが、やはり驚きを隠せない様子を見せていた。

一方、なのは達の世界の世情や歴史については知らない筈のヴェロッサが驚いたのには別の理由があった…

 

「そして君達が、カリムと聖王教会をおかしくしてしまったという『ザビー教』と同じ世界からやってきたとは…ねぇ…」

 

ヴェロッサが疲れた様な苦笑を浮かべながら言った。

ヴェロッサの義姉にして機動六課の後見人 カリム・グラシアが所属する聖王教会が最近珍妙な事態に陥っているという事情は既に彼の耳にも入っていた。

聞けば、協会本部の庭に突然現れた次元漂流者“大友宗麟”なる少年が持ち込んだ謎の宗教『ザビー教』に、あろう事かカリムがそれに心酔してしまい、今や、自身の秘書であるシャッハを除いた聖王教会の教会騎士や修道士、信者を次々と抱き込んでしまい、『聖王教会』改め『聖王ザビー教会』は、清楚の欠片もない混沌の巣窟と化していた。

この事態をシャッハから聞かされていたヴェロッサは、こうした査察官としての任務の傍らに、一日も早く宗麟を元いた世界に送り返して、カリムと聖王教会を元に戻さんと奮闘しているという。

当然、彼の口から、ザビー教と宗麟の名と彼がこの世界でもやりたい放題にやっている事を聞かされた政宗や幸村が驚き、そして呆れたのは言うまでもなかった。

 

「はぁ~…あのhappyなガキも、この世界に来ていたとはな…」

 

「しかも…某達も知らぬ間に、はやて殿のご友人方に左様な迷惑をかけていたとは…」

 

ヴェロッサ、そして実際に聖王教会で宗麟と会った事のあるはやてから、ザビー教の話を聞かされた政宗も幸村も、まるで自分の恥行のように身が縮む想いに駆られた。

 

「まさか、あの宗麟って子と『ザビー教』が、政ちゃんやゆっきーと同じ世界の出身やったとはなぁ…まぁ、今思えばそれも納得できるけどなぁ…」

 

はやてが、ヴェロッサと似たような苦笑を浮かべながら言った。

そもそも自分達の世界では狸顔で知られる家康が、政宗や幸村よりも年下な体育会系のイケメンだったり、六刀流や二槍という自分達の世界ではありえない武術を当たり前のように使える政宗や幸村を見ていると、彼らの出身世界が如何に自分達の故郷である「地球」とパラレルワールドであったとしても、自分達の常識を遥かに凌駕する規格外な程に破天荒極まる世界であるのだから、『ザビー教』のようなハチャメチャな宗教が布教していても今更、おかしいとは思えなかった。

 

「Ah~…それについては同じworldからやってきた人間として申し訳ないと思うぜ。 Sorry…俺達の同郷の連中がアンタらに大分迷惑かけてるみたいだな…」

 

「申し訳ござらぬ…」

 

政宗と幸村はそれぞれ頭を下げながら言った。

ヴェロッサは引きつった笑顔を浮かべたまま、頭を振った。

 

「いや、僕は何も君達を責めようなんて思っていないよ。そんな事をしても、それはお門違いだしね。それにはやて達がお世話になっている君達を責めたりしたら、僕がはやてに怒られちゃうよ」

 

穏やかな物腰でそう話すヴェロッサを見て、はやてはまだ彼はカリムのようにザビー教の毒牙にかかっていない事を察し、内心、胸を撫で下ろした。

すると、政宗は今度はなのはの隣に座っていたユーノの方に顔を向ける。

 

「ところで…ユーノとか言ったな? 本当にいいのか? 俺の落札したあの隕石。お前んとこに引き取って貰ってもらって?」

 

「はい。僕も一応は考古学者ですし、あの手の品は一応僕の教養範囲にも入っていますから。 ロストロギア…までとはいかなくても貴重な古代の異物として調査研究の対象とさせてもらいますから、大丈夫ですよ」

 

柔らかい笑顔を浮かべながら、ユーノは頷いた。

それを聞いて、なのは達は一先ず、経費云々の問題は解決した事に安堵した。

 

「よ、良かったですぅ~~!!…これでリインもお金回しに泣く必要がなくなってホッとしたですよぉ~!」

 

「あははは…正直、隕石1個1000万は無限書庫としても少し値の張るお買い物になるけどね」

 

「Ha! アンタも華奢な風貌のわりになかなか大胆じゃねぇかarchaeologist。 そういう野郎は嫌いじゃねぇ。Amazing!」

 

「うわっぷ!? ちょ、痛いですって政宗さん!」

 

軽口を叩きながら、ユーノの背中をバンバンと強く叩きながら称賛する政宗に、リインが慌てて窘めた。

 

「政宗さん! ユーノさんに失礼ですよぉ! そもそも元はといえば貴方のせいでこうなったんですからね! 反省してください!!」

 

笑いに包まれるなのは達の様子を見ながらヴェロッサは、小さく頷きながら、はやてに囁いた。

 

「部隊…うまくいっているみたいだね?」

 

「うん。まぁ、こうして思わぬ形で新しく頼れる仲間も加わってくれたからね。それにロッサ…あっ、ごめん。…アコース査察官のお姉さん カリムが守ってくれているおかげや。…まぁ、ザビー教についてはまた別問題やけど…」

 

「うん、僕も何か手伝えたらいいんだけどね…僕にも仕事があるし、カリムの事もあるから……」

 

「お互い大変やねぇ…」

 

はやてとヴェロッサはそう言って笑い合った。

そこへ―――

 

「あっ! いた! なのはさん! フェイトさん! はやて部隊長!」

 

突然にホテルのロビーの方から血相を変えたエリオが飛び込んで来た。

 

「エリオ!? どうしたの!?」

 

客を混乱させないようにエリオの服装はバリアジャケットから陸士隊の制服に戻っていたが、その頭の額には包帯が巻かれ、外で唯ならぬ事態が起きた事を示唆させていた。

その怪我に驚きながらフェイトが問い質すと……

 

「大変です! 実は……!」

 

息を切らしかけながら、エリオは、ホテルの外で起きた一連の事件の経緯を説明した。

 

「なんやて!? ヴィータが!?」

 

「両手を切断された!?」

 

はやてとフェイトが悲鳴に近い声を上げ…

 

「『五刑衆』の小西殿が!? それは誠かエリオ!?」

 

「……『肥後の蟒蛇』か…野郎もここに来ていたとはな…」

 

幸村、政宗が『豊臣五刑衆』に連なる武将の名に驚愕の声を上げた。

それと同時に周囲にいた他の来賓の人々やホテルの関係者などが、一斉になのは達の方を向いた。

 

「み、皆さん! 声が大きいですぅ!」

 

リインが慌てて注意すると、なのは達は気持ちを落ち着かせて声のボリュームを下げると、改めてエリオに問い直した。

 

「それで…ヴィータちゃんは今、どんな状況?」

 

心配そうになのはが尋ねた。

 

「シャマル先生が応急手当を施した後、ヴァイス陸曹がヘリで近くの救急医療センターまで搬送しました。シャマル先生曰く、対応が早かったからなんとか峠は越えたとは言ってましたけど…」

 

「……でも、信じられない。あのヴィータちゃんがそこまで酷くやられるなんて……」

 

なのはが動揺した様子でそう呟くと、フェイトやはやて、リインも同じ様に顔を憂いさせながら頷いた。

そんななのは達の空気を察したヴェロッサは、ユーノにアイサインを送った。

 

「……どうやら…僕たちはお邪魔みたいかな?」

 

ユーノが気を使うようになのはに話しかけた。

 

「あっ。う、うぅん! そうじゃないけど…ごめんねユーノ君。また後でゆっくりお話しよう」

 

「ごめんなロッサ! また、後で改めて話すわ!」

 

そういうとなのは達は一先ず、シャマルやフォワードチームと合流する為にホテルの外へと向かう事にした。

 

 

エリオの案内で、なのは達は、ホテル屋上にいるシャマルと合流した。

はやての姿を見ると、シャマルは泣きそうな顔で駆け寄ってきて、すぐに状況を説明してくれた。

ホテルを襲おうとしていたガジェットドローンの編隊は全て殲滅できたものの、その直後に姿を見せた西軍の刺客…『豊臣五刑衆』第三席 小西行長なる男の前に、フォワードのティアナやエリオは勿論、ヴィータでさえも為すすべなく敗れ去った。

中でもヴィータの怪我は抜きん出て酷く、全身を刃物同然の鞭で切り刻まれ、おまけに顔に数回、腹に一回と、強烈な蹴りを叩き込まれ、内臓の一部を損傷していた程だったという。そして極めつけは、両手首から先を鞭で引きちぎられるという凄惨な形で負わされた大怪我だった。

 

「ヴィータちゃんをヘリで搬送する時に、あそこでどんな状況になっていたか映像を解析しました……けど…」

 

シャマルが話しながら、気分を悪くするように、話しながら声を落としていった。

そんな彼女の心情を反映するように目の前のホログラムモニターには先程のヴィータと行長との戦いの光景が映し出されていた。

行長がヴィータの顔をワザと狙い、何度も蹴り続け、とどめに黒縄鞭で両手を切断するという残酷な戦法を、終始笑いながら行う姿に、なのは達は思わず、怒りと嫌悪感で顔を顰めた。

 

「酷い…この小西って男……ここまでやるなんて……!?」

 

大事な“家族”をこんな酷い方法でやられた為か、はやては怒りで声を震わせていた。

それはなのはとフェイトも同感だったらしく、声色がいつもと違っている。

 

「改めて見ても…これは戦いというよりは“蹂躙”だよね…? 相手が女の子や子供だからって容赦はしないってわけ……?」

 

「…こんな酷い事を、笑いながらできるその神経が理解できないよ……」

 

「それが野郎のやり方だからな……『豊臣の執行人』“小西行長”のな……」

 

同じく、嫌悪感を顕にしたように暗いトーンで政宗が呟いた。

 

「政宗さん。一体、何者なの? その“小西行長”って人は」

 

なのはの問いかけに政宗は静かに語り始めた。

 

「かつて凶王・石田三成と共に覇王 豊臣秀吉に仕えた西軍の大幹部…『豊臣五刑衆』っていう秀吉の子飼い集団に名を連ねる、とんでもねぇSnake野郎だ…」

 

そして政宗は語りだした…

 

小西行長―――

九州肥後を拠点とする小西軍を率いる『豊臣五刑衆』第三席“獄将(ごくしょう)”。

その名の通り、彼の悪名が日ノ本中に轟く理由は、その残虐で悪辣な性格と所業だった。

かつて、豊臣全盛期時代からその残虐非道な凶行と策謀を駆使して、多くの豊臣の敵対戦力を苦しめ、時に屈服させてきた上、相手が女子供であろうが、一切の容赦をしない事から、同じく豊臣軍の対抗勢力であった織田軍の将 明智光秀と引き合わされ、『覇王の死神』、『豊臣の執行人』と恐れられている危険人物として有名だった。

その異名の通り、豊臣軍内での役目は捕虜や敵対勢力の人間への拷問や、処刑、制裁で、他にも制圧した敵の残党狩りなどで、筆舌に尽くしがたいような数々の酷い仕打ちを行うなどして、彼と敵対した武将の中には命からがら逃げおおせはしたものの、心が折られ、再起不能になった者さえもいたという。

 

「どういう成り行きであのSnake野郎が、ここへ現れたかは知らねぇが……ひとつはっきり言えるのは、石田や奴を含む『豊臣五刑衆』ってのは、この俺や真田の目から見ても“強敵”といえる連中だ。それこそ、この間の黒田や、何兵衛とかいった三下野郎なんかとはものが違う」

 

「そんなに厄介な相手なんか…?」

 

はやてが尋ねた。

 

「うむ……エリオ、シャマル殿。佐助が小西殿の足止めに残ったと申していたが…それからどうなったのでござる?」

 

「俺の事なら、心配ないぜ。真田の大将」

 

不意に背後からかかった声に、幸村達が振り返ると、小十郎に肩を貸してもらった佐助を先頭に、家康に肩を貸してもらったザフィーラ、シグナム、そして彼らを迎えに行っていたキャロが屋上へと上がってきたところだった。

 

「おぉ、佐助! 無事であったか!?」

 

「痛てて…ま、まぁ、無事ってもんでもないけど……とりあえずこのとおり。俺やザフィーの旦那はどうにか五体満足で帰ってこれましたわ」

 

多少怪我を負いながらも佐助やザフィーラが無事だとわかり、幸村やなのは達は安堵の笑顔を浮かべた。

だが、それも束の間、すぐに真剣な目付きに戻った。

 

「…でもその様子やと、ヴィータの仇は討てへんかったみたいやね…?」

 

「…面目次第もございません。主」

 

ザフィーラが頭を下げて、侘びた。

何気に人間形態の彼を初めて見た政宗と幸村はそれが誰かわからなかったが、佐助の言葉や当人の声からザフィーラとわかり、内心驚いていた。

 

「政宗様。 我らの敵は、小西や豊臣だけではないようです」

 

シャマルが用意した負傷者用のイスに佐助を座らせながら、小十郎が話す。

 

「Ah? どういう意味だよ?」

 

政宗が尋ねると、小十郎が渋い顔を浮かべながら返答した。

 

「…実は、俺とシグナムもまた西方の武将と相対していました。それも…あの“鬼島津”とです…」

 

「What!?」

 

「な、なんと!?」

 

政宗と幸村が驚愕の声を上げる様子を見て、なのは達は小十郎の話もまた六課にとっては凶報であると察する事ができた。

 

「うん…色々と情報が錯綜しているみたいだけど、一先ず全員を集めて、話し合おうか…」

 

なのはは、そう提案するのだった。

 

 

その頃、ティアナはというと…ホテルの裏手の片隅にいた。

佐助の助太刀で、どうにか撤退した後、しばらくシャマルのところで休み、気持ちを落ち着けていたティアナだったが、ようやく落ち着きを取り戻すと、シャマルに戦線復帰を願い出たのだった。

当然、シャマルからはもっと休む様に言われたものの、ティアナはあの場にいたくはなかった。チームメイトのエリオやキャロの前であれだけ惨めな姿を見せてしまった上で、これ以上無様な姿を晒したくなかったのだった。

そうして、半ば強引にできるだけホテルから離れた場所での警備任務につく事を許可されたのだった。勿論、異常を発見したら、他の者を呼び、自分は一切参戦してはいけないという条件を課せられたのだが…それでもティアナはこんな無様な姿を人に見られないと思うだけ、心が軽くなる想いだった。

 

「ティア……ここにいたんだ……」

 

そこへ不意に声がかかった。

振り返るとそこには不安げな面持ちでこちらを見つめるスバルの姿があった。

 

「なのはさんが、全員集合して詳しく話を聞きたいって……」

 

「………あたしはまだちょっと気分が悪いの…すぐ追うからあんた先に行ってなさいよ……」

 

ぶっきらぼうな口調で返すティアナに、スバルは恐る恐る話しかけてきた。

 

「あのね……ティア……」

 

「いいから行って……」

 

「ティア…話はエリオから聞いたけど……ティアは悪くないよ………あの時、ティア達の持ち場は色々と混乱してたっていうし……その小西って人にしたって、あのヴィータ副隊長でさえ敵わなかったっていうんだから―――」

 

「行けっていってんでしょ!!!」

 

「っ!!?」

 

ティアナの怒鳴り声にスバルはビクリと身を震わせた。

 

「………ごめんね……じゃあ…後で、ね?……ティア」

 

そういってスバルは足早に去っていった。

ティアナは振り返る事無く、相方がいなくなった事を確認すると、近くにあった壁に向けて、握り固めた拳を力いっぱい叩き込んだ。

結局、自分の力量を証明するどころか多くの醜態を晒してしまった……

ガジェット鎮圧で自分が今まで積んできた成果を試そうとしたら危うくエリオを撃墜しそうになってヴィータには怒られ―――

その上、突然現れた“小西行長”と名乗る男の圧倒的な力を前に、ヴィータが一方的にやられていく姿をただ見ている事しかできず、挙げ句に仇討ちに挑んだのはいいが、当の行長からは完全に小馬鹿にされて、半ば弄ぶように圧倒された挙げ句、その強さと狂気を前に恐怖心に耐えきれず、無様にもエリオやキャロの目の前で逃げ出そうとまでしてしまった……

そして、極めつけは行長に言い放たれた一言…

 

 

 

―――貴方は才能のない自分の無力さを人に八つ当たりし、功名を立てる事で己を保とうと考え、その為には恥も外聞もなく振る舞い、仲間を危険に晒し…挙げ句に自分の命の危機を前に仲間さえも見捨てようとする―――

 

―――実にひ弱な自我と自尊心を持った中途半端な、“負け犬”というやつですよ―――

 

 

 

あの言葉で自分の今までの戦績が、鍛錬が、決意が…すべて否定されてしまった…

 

凡人ではないと証明しようとした自分に嘆いても嘆ききれない『現実』を突き付けられてしまった…

 

「中途半端な………負け犬………私が……負け犬………?」

 

仲間を撃ちそうになり、敵を前にむざむざ逃げようとして、しまいに散々侮蔑された自分が、情けなくて仕方がなかった。

 

 

「わ…私は……私は何のために今日まで鍛錬を積んできて……うぅぅ!」

 

込み上げてきた深い悔しさ、惨めさが大量の涙となってティアナの目からあふれ出す。

 

「うああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ミスショットを犯し、強敵を前に何もできず、臆病風に吹かれてしまった自分の無力さ…弱さ…不甲斐なさ……それらに対する悔しさや自責に耐えきれなくなったティアナは、壁に何度も拳を打ちつけ、大きな声を上げて泣き続ける事しかできなかった……

 

 

 

 

数十分後―――

状況が落ち着いたのを確認したなのはは、緊急搬送されたヴィータ、負傷した佐助、ザフィーラ、2人の治療についているシャマルを除く全員を、ホテル前に集めていた。

それぞれから得た情報を交換していく間、彼らから少し離れた場所で、既に管理局の制服に着替えたはやてが、ホログラムコンピュータを介して誰かと通信していた。

 

「ほんまですか!? ありがとうございます!」

 

不意にはやては、歓喜の声を上げた。

そして通信を切ると、同じく制服姿に戻っていたなのは達の方を向き、ぱっと笑顔を浮かべた。

 

「皆! 今、医療センターから連絡あって、ヴィータの様態が無事安定したって! 斬り落とされた手もどうにか接合できて、この調子やと後遺症も残らんみたいやわ!」

 

「ほんとですか!? よかったですぅ!」

 

ヴィータの無事を聞いて歓喜の声を上げるリインに、なのは達や家康達も一先ず胸を撫で下ろした。

 

「ここがミッドチルダでよかったな。 もしこれが戦国の日ノ本(俺達の世界)だったら、ヴィータには酷だが、もうアイツは戦士としてGame Overだったとこだぜ?」

 

「そうだな。小西行長…本当に血も涙もない残虐無比な男だ……」

 

政宗が同情するような面持ちでそう言うと、家康も顔を顰めながら頷いた。

 

「えっと…それじゃあ、報告は以上かな? 現場検証は調査班がやってくれるけど、みんなも協力してあげてね。しばらく待機して何も無いようなら撤退だから」

 

「「「はい!」」」

 

「……はい」

 

ティアナ以外のフォワードの3人が返答してから、少し遅れる形でティアナが返事した。

ヴィータが回復した事を聞かされながらも、素直に喜ぶ事ができず、俯いたままのティアナに、スバルが不安そうに目を向けた。

 

「リイン。佐助さんとザフィーラの様子はどう?」

 

「はい。二人共大きな怪我ではなかったので、2人の方も、もう問題はないみたいですぅ」

 

佐助達の安否を確認して、一先ず全ての問題が解決した事を確認したなのはは、フォワードメンバーの中からティアナの方に顔を向けた。

 

「よかった。それじゃあ、ティアナ…」

 

なのはから名前を呼ばれた、ティアナはびくりと小さく身体を震わせた。

 

「…ちょっと、私とお散歩しようか」

 

「はい…」

 

なのははティアナを連れて、森の小道の方へと歩いていった。

 

「ティア…」

 

残されたスバルが、心配そうにその背中を見ている。

 

「ティアさん…やっぱり怒られちゃうのでしょうか…?」

 

同じく不安げな面持ちを浮かべたキャロが呟く。

すると、家康も難しそうに森へと入っていく2人の背中を見据えながら言った。

 

「そうだな…行長の件については致し方ないが、その前に起きたという命令無視とエリオへの誤射という件は、流石のなのは殿も一言言わねばならないのだろう」

 

「…事情はどうあれ、missはmissなんだ。仕方ねぇだろ?」

 

両腕を組んだまま、政宗がやや冷淡な口調で切り捨てるように言い放つと、スバル達はさらに不安げな面持ちで2人の背中を見つめた。

そんな3人を宥めるようにフェイトが言った。

 

「ティアナなら大丈夫だよ、なのはも、ちょっと注意するだけだと思うから」

 

「あ、はい……」

 

スバルが不安を残した表情のまま頷いた。

 

「現場調査もお仕事の一つだし、勉強だよ。私は向こうにいるから、判らないことがあったら遠慮なく聞いてね?」

 

「「「はい」」」

 

「フェイト殿。某達はどうすればよかろう?」

 

幸村が尋ねた。

 

「えっと…それじゃあ、幸村さんや皆さんはそれぞれできる範囲でいいから、スバル達のアシストについて貰えないかな?」

 

「わかった」

 

「OK」

 

「心得申した」

 

「承知」

 

家康達は返答すると、それぞれ指定された持ち場へと向かった。

 

 

 

ホテルから少し離れた森の中を、なのはの背中を追ってティアナは歩いていた。

その足取りは普段よりも何倍も重く感じられた。

今日の自分は『不甲斐ない』という言葉でしか言い表せないくらいに散々な結果だった…

命令は無視した、ミスはした、敵を前に怖気づいて逃げようとした…

どんな叱責を受けても当然の事をしたと覚悟していた。

 

「話は聞いたよ。…命令無視なんてティアナらしくないよね…………」

 

なのはが不意に口を開いた。

 

「すみません……私、あの時、気が動転していて……その挙げ句に一発逸れちゃって……」

 

ティアナはそう弁解しようとするが、なのはは静かに頭を振った。

 

「うぅん。 わたしは現場にいなかったし、ヴィータ副隊長に叱られて、もうちゃんと反省していると思うから、改めて叱ったりはしないけど……」

 

なのはは振り返ると、穏やかな面持ちのまま諭すように言い出した。

 

「ティアナは時々、少し一生懸命すぎるんだよね。それでちょっとヤンチャしちゃうんだ。でもね…ティアナは“一人”で戦っている訳じゃないんだよ?」

 

「ッ!?」

 

なのはの言葉に、ティアナはビクリと反応した。

 

「命令無視やミスショットの件もそうだけど……私としては、ティアナが“小西行長”って人に一人で立ち向かおうとしたっていう事が、一番感心できないかな?…ヴィータ副隊長が目の前でどんな目に遭ったのか、ティアナはしっかり見ていたんだよね?」

 

話しながら、なのはの表情が、真剣なものへと変わっていった。

 

「は…はい……」

 

「本当に一人で勝てると思っていたの? その小西って人に…?」

 

「………正直…思っていませんでした」

 

ティアナは掠れるような声で正直に答えた。

 

「だったら、どうしてあの場は逃げて応援を呼ぼうと考えなかったの? 中にいた私達は念話や通信が遮断されていたから仕方ないとしても、シャマル先生やザフィーラ、佐助さんやシグナム副隊長に小十郎さん…それこそ、家康さんやスバルだって…ティアナが頼れる人は周りにいっぱいいたんだよ?」

 

「…………」

 

なのはは、俯いて聞いてるティアナの肩に手を置いた。

 

「集団戦でのわたしやティアナのポジションは、前後左右全部が味方なんだから…ティアナが何もかも一人で背負って抱えようと考える必要はないんだよ?」

 

「…………」

 

ティアナはなのはの話を黙って聞きながら、その心にはさらなる不穏な想いが燻り出していた…

 

 

 

所詮、私は一人ではなにもできない…そういう事なの…?

 

スバルと違って…私は所詮、周りの人に守られながら戦う事のできない半端者だって事?

 

魔力も…力も…特殊な才能や技量も……何もない無い私は仲間に守られながら戦えって事……?

 

じゃあ、私は一体なんだっていうの…? なんの為に……この機動六課にいるの………?

 

私は……私は…やっぱり…『負け犬』だっていうの……?

 

 

 

「………その意味と今回のミスの理由…ちゃんと考えて、同じ事を二度と繰り返さないって、約束出来る?」

 

なのはは、ティアナの眼をじっと見つめながら尋ねた。

顔つきは相変わらず穏やかなものだが、その眼差しは真剣なものだった。

 

「……はい」

 

その眼差しに慄きながら、ティアナは力なく頷いた。

すると、なのははいつもの優しい笑顔に戻った。

 

「なら、わたしからはそれだけ……約束したからね?」

 

そう言うと、なのはは再び森の中を歩き出した。

ティアナは握った拳を小刻みに震わせながら、彼女の背中を悔しげに睨みつけていた。

 

そんな自分を森の遙か奥にそびえ立つ一際高い木の上から見据えている一つの目線にティアナは気づく事がなかった…

 

「あ~らま。こりゃ、なかなか凄いやり取り見せてもらったねぇ…」

 

その目線の持ち主…島左近は、スカリエッティから貸し与えられた双眼鏡でティアナの様子を見ながら、興味深そうに呟いた。

 

「え~と…刑部さん! 姐さん! 今の見ましたか?! なんか敵さん方、かなり泥沼~な感じになってるみたいッスけど?」

 

左近は立ち上がりながら、右肩に止まっていた黒紫色の小鳥に向かって尋ねた。

 

 

時同じくして、スカリエッティのアジト―――

薄紫色の髑髏水晶の周りに浮かぶ光の靄に浮かんだ、ティアナの姿を見据えながら、西軍筆頭参謀 大谷吉継、御意見番 皎月院の2人が不穏な笑みを浮かべていた。

 

「ヒーヒッヒッヒッヒッ!! あぁ、見ておったぞ左近。あの小娘の胸に宿る“不幸”の星の輝きが…こちらにもよぅ見えよる…ヒーヒッヒッヒッヒッ!!」

 

腰の上で不気味に笑い転げる大谷に対し、皎月院は大きな袖口で口許を隠しながら、不敵に笑みを零していた。

 

「これは…なかなかおもしろい事になってきたねぇ。あの小娘…しばらく目を離さない方が良さそうだね」

 

「確かにな……事によっては……次の術策に応用する道もあるやもしれん」

 

大谷は笑うのを止めて、そう言うと、光の靄に向かって呼びかけた。

 

「して左近……我らの欲するものは手に入れたか?」

 

《あ~…“ユーノ・スクライア”とかいう野郎の事ですか? それが行長先輩ってば、自分が遊ぶだけ遊んでさっさと帰っちまいやがったんですよぉ~! ホントあの人、自分の趣味(殺しと拷問)以外の事はてんでズボラなんスから!》

 

光の靄の中から左近の声が響いた。

それを聞いた大谷も皎月院もある程度予想していたように肩をすくめた。

 

「まぁ、三成が“殺すな”って命令した時点で、小西にやる気がなかったのは目に見えてたけどねぇ…」

 

「やはり、左近を付けたのは正解だったようだな。では、左近。ぬしが代わりに使命を果たせ」

 

《了解ッス! その代わり、上手くいったら褒美の金一封お願いしますよ?》

 

大谷が指示を送ると、靄の中から左近の溌剌とした返答が返ってきた。

そして光の靄が消え、浮遊していた髑髏水晶が皎月院の手に戻ると、皎月院は再び袖口で口許を隠し、含み笑いを浮かべた。

 

「それにしても……“機動六課”とは中々弄りがいがありそうな連中だねぇ。そう思わないかい? 刑部」

 

「左様…ならば、次は奴らの根幹を突いてみるのも、一興やもしれぬぞ?」

 

「フフフフフッ…勿論その筋書きは、もう考えてあるんだろうね?」

 

「大凡はな……」

 

まるで新しい悪戯を考えついた子供の如く、揚々とした様子で、石田軍が誇る2人の策士は、早くも次なる策謀を企て、話し合うのだった……

 

 

 

その頃―――

ホテル・アグスタの西側では本局から到着した調査部隊も交えて現場検証が行われていた。

現場検証の手伝いをしていた家康は、同じく検証の手伝いをしながらもどこか上の空でいるスバルに気がついた。

いつも元気な筈のスバルだが、今は塞ぎ込んでいるように俯いていた。

 

「………スバル?」

 

「ティア………はぁ…」

 

「スバル!」

 

「ひゃあ!?」

 

家康が少し大きな声をかけながら、肩に手を乗せると、スバルはびっくりして地面から数センチほど飛び上がった。

 

「い、家康さん!? ご、ごめんなさい! 私…」

 

「いや…驚かせてしまったのなら、悪かった。 けど、どうしたんだ? 上の空なんてお前らしくないぞ?」

 

家康が心配そうにスバルに尋ねた。

 

「そ、そんな事ないですって! ほら、私いつもの元気~!……うぅ…」

 

そう言って、必死に元気な笑顔を作るスバルだったが、訝しげるようにジト目で見つめてくる家康に、早々にボロが出てしまった。

 

「ご…ごめんなさい。正直に言います…」

 

「いや…言わなくてもわかっている。ティアナの事だな?」

 

家康が言った。スバルはゆっくりと頷いた。

 

「エリオから詳しく聞いたのですが、ティア…大分無茶したみたいなんです…その結果が、今日のミスショットや小西行長って人にボロ負けする事になったみたいで…」

 

「そうみたいだな…ワシもエリオから詳しく話を聞いた時はビックリしたよ。あの行長相手に一人で挑もうだなんて、無謀にも程があるぞ」

 

家康にしては珍しく辛辣な言葉に驚きながらも、スバルは必死にフォローを入れる。

 

「で、でも! 私はティアがそこまでして、頑張りたかった気持ちもわかるんです! ティアは自分も機動六課の一人として、皆の役に少しでも立ちたい!そのためにも射撃魔法だけじゃなくて、色々な状況で私やエリオ、キャロと上手く立ち回れるようにと考えて…それに、一人で挑もうとした事だって、きっと目の前でヴィータ副隊長が酷い目に遭わされたのを見て、我慢できなくなったから…」

 

「……あぁ。ティアナが人一倍努力している事はワシもよくわかってる。そんなティアナをスバルが応援したいと思う優しさもだ……だが、その努力の方向が少しでも違っていれば、ティアナは勿論の事、お前達フォワードチームの運命さえも大きく変えてしまう事になるんだ……」

 

「私達の運命……?」

 

「スバル…最近、ティアナの様子に変わった事はなかったか?」

 

不意にかけられた質問に戸惑うスバル。

 

「えっ? そういえば、ここしばらく自主トレのメニューが増えたような気が……」

 

「……そうか………」

 

家康は両腕を組み、両目を閉じると、なにかを考え込むように小さく唸った。

 

「家康さん…?」

 

不安げに尋ねるスバルに、家康は目を開くと、スバルにだけ聞こえるように小声で語った。

 

「スバル。すまないが、しばらくはティアナから目を離さないで貰えないか?」

 

「えっ!?」

 

「……このままだと…なにかとんでもない事が起こるような気がしてならないんだ」

 

「? とんでもない事って…?」

 

真剣な面持ちで語る家康に、スバルが戸惑いながら詳しく話を聞こうとしたその時―――

ティアナが森から戻ってきた。

 

「ティア!」

 

いち早くそれに気づいたスバルは、ティアナに駆け寄った。

スバルの姿に気づくと、ティアナは伏し目がちに謝る。

 

「スバル…さっきは、ごめん……あんた…私の事色々と気使ってくれていたのに私ってば…」

 

「ううん、全然!…なのはさんに怒られた?」

 

スバルが尋ねる。

 

「少し……ね」

 

「そう…ティア! 向こうで一休みしていていいよ。検証の手伝いは、私がやるから」

 

ティアナの口調からその落ち込みぶりを察したスバルは無理矢理に明るく振る舞う事で気を使った。

そんなスバルの優しさに対し、ティアナも少しは心が晴れる思いがした。

 

「大ミスしておいて、サボリまでしたくないわよ。一緒にやろう」

 

微笑みかけるティアナ。

 

「うん!」

 

嬉しそうに、スバルも笑った。

そんな、スバルとティアナの様子を遠巻きに見つめながら、家康は、スバルの表裏のない性格が今のティアナにとっては慰めにもなっていることを察した。

 

(……ワシの取り越し苦労であって欲しいところだが……)

 

今はティアナの心が少しでも癒やされたのを確認しながら、家康は胸に抱いた不安を、一先ずはそのまましまっておく事にした。

 

 

 

その頃―――

少し離れた場所でガジェットドローンの残骸を調べていたキャロが、向こうから歩いてくるフェイトに気づいた。彼女の隣には一段落するまで待っていたユーノが伴っていた。

積もる話があったのか、親しげに会話を弾ませている。

 

(えーと…シャーリーさん?)

 

キャロは隊舎にいるシャーリーに念話を飛ばした。

 

《はいなー!》

 

通信士のシャーリーの元気な声が返ってきた。

 

(フェイトさんと一緒にいらっしゃる方…確か、考古学者のユーノ先生って伺ったんですが…)

 

《そう、ユーノ・スクライア先生。時空管理局のデータベース、無限書庫の司書長にして、古代遺跡の発掘や研究で業績を上げてる考古学者。局員待遇の民間学者さんって言うのが、一番シックリくるかな? なのはさん、フェイトさんの幼なじみなんだって》

 

シャーリーは説明を続ける。

 

(はぁ…)

 

なのは、フェイトの意外な人脈を知って、感心の声を漏らすキャロだった。

一方、そんなキャロの視線の先ではフェイトとユーノの会話がなにやら深刻な内容に変わっていた。

 

「そう…ジュエルシードが…」

 

フェイトは自分達の戦うガジェットドローンに関して、ある重要なロストロギアが関わっている事を報告していたのだが、ユーノはまさか、ここで自分となのは、フェイト達が出会うきっかけとなった代物の名が出てきた事に驚きと戸惑いを隠せないでいた。

 

ジュエルシード―――

全部で21個存在する「願いが叶う」宝石と伝承を持つロストロギアだが、その正体は、次元干渉型エネルギー結晶体で、10年前に、遺跡探索を生業とするユーノによって発掘された。

その輸送中に原因不明の事故により、なのはの故郷である地球の海鳴市近辺にばら撒かれた。

ユーノはどうにかジュエルシードを回収しようとしたが、暴走したジュエルシードは手に負えず、傷を負って倒れたところでなのはと出会った事が、彼女が魔導師になるきっかけを作ったという。

そして、訳合ってジュエルシードを狙っていたフェイトや、時空管理局の巡航艦 アースラが介入した事で“ある事件”へとつながる事となったが…それはここでは割愛させていただこう。

 

…ともあれ、最終的にジュエルシードは12個が、なのはやユーノを介して、時空管理局が回収・封印する事となったのだった。

 

「うん、局の保管庫から地方の施設に貸し出されてて、そこで盗まれちゃったみたい」

 

フェイトによれば、先日六課が撃墜したガジェットドローンの一部部品から、そのジュエルシードが発見され、一部ガジェットには盗まれたジュエルシードが強化素材として応用されている事が判明したのだという…

 

「そうか…」

 

「まあ、引き続き追跡調査はしているし、私がこのまま六課で事件を追っておけば、きっとたどり着く筈だから」

 

「フェイトが追っている、スカリエッティ?」

 

「うん…でも、ジュエルシードを見て、懐かしい気持ちも出てきたんだ。寂しいさよならもあったけど、私にとっては、いろんな事の始まりの切っ掛けでもあったから…」

 

意味深に語るフェイトを、初めは不安げに見つめていたユーノだったが、やがて安心した様に笑みを浮かべ頷いた。

 

「そうだね」

 

ユーノは安心して微笑んだ。

 

「ユーノく~ん、フェイトちゃ~ん!」

 

そこへ、なのはが走りながら、こちらに向かって来た。

 

「なのは、ちょうど良かった」

 

フェイトとユーノが、なのはの方を向いた。

 

「アコース査察官が、はやてと一緒にヴィータのお見舞いに行ってる間、ユーノ先生の護衛を頼まれてるんだ。交代、お願いできる?」

 

「うん、了解!」

 

はにかんだ笑みを見せながら、なのはは敬礼した。

フェイトがチームライトニングの方へと向かうと、なのはとユーノは連れ添って、森の方へと歩いていった。

 

「………………」

 

そんな二人の様子を少し離れた場所で、六爪を手入れしていた政宗が、思わず手を止めてジッと見つめていた。

 

「政宗様? 如何なされましたか?」

 

「D'oh!?」

 

不意に小十郎から声をかけられ、政宗が思わず奇声のような声を上げた。

 

「なんだよ小十郎。お前かよ…驚かすなよ」

 

「失礼。しかし、政宗様が随分、高町とあのスクライアとかいう青年の様子を気にされているので…」

 

小十郎がからかうような眼差しで政宗を見つめながら言った。

その視線の意図を察した政宗は、呆れるように頭を振りながら言った。

 

「勘違いすんな、小十郎。 俺はなのはとあのユーノってメガネが、随分仲がいいんだなって思っただけだ」

 

「左様ですか? まぁ、政宗様は基本色恋などに興味はない事はわかっておりますが…」

 

「Hmm! ”色”だの“恋”だの…前田の風来坊じゃあるまいし……」

 

政宗は肩を竦めながら、くだらない話題を振り切るように再び六爪の手入れを始めた。

そんな政宗を小十郎も小さく笑いながら、現場検証の手伝いに戻る事にした。

小十郎はてっきり、政宗が仲睦まじいなのはとユーノに嫉妬しているものと思っていた。

だが、実際には政宗の懸念は別の方向に向いていた…

 

(なんだ? あの2人に集っている妙な“危気”は……)

 

なぜか政宗の目にはなのはとユーノの周りに集う黄色の靄のようなオーラ…他者から殺意や悪意を向けられている者の周りに集まるという警告色の気“危気”と呼ばれるものが見えていたのだった。

 

「仕方ねぇ…!」

 

政宗は六爪を鞘に収めると、密かになのは達の後をつけていく事にした……

 

 

 

その頃、少し離れた森の中へとやってきたなのはとユーノは、数年ぶりの再会ともあって会話も非常に弾んでいた。

昔の思い出話から、最後に会ったときから今日までにあった出来事…

幼馴染なだけあってその会話は途切れる事がなかった。

そうしているうちにユーノは思い切った様子でなのはを、なるべく皆のいる場所から少し離れた森の中へ促し、頃合いのついたところで足を止めた。

 

「あんまり他の人には聞かれたくなかったんだ」

 

ユーノはそう言うと、なのはにある事を聞き始めた。

 

「ねぇ、なのは。君…今は彼氏とかっているの?」

 

「彼氏? そんなのいないよ~」

 

笑って答えるなのはに、ユーノは小さくガッツポーズをすると、辺りを見渡して誰もいない事を確かめてから、意を決して話し始める。

 

「ねぇなのは…もしよかったら僕と…」

 

ユーノがそう言いかけたその時だった―――

 

「あの~…お取り込み中、すみませんがぁ……」

 

「「えっ!!?」」

 

唐突に聞こえた声と共に現れた気配。

その気配の主は、ユーノとなのはの背後に居た。

2人がゆっくり背後へと振り向くと、そこには見慣れない青年が一人立っていた。

 

紅を主体とした燃え上がるような色合いの薄手の戦装束に金の胴当て、首輪、具足…片方のもみあげを紅く染めた茶髪…腰に交差させるように携えた小振りの双刀…

それはこの世界の人間の服装ではなかった。

 

「あれ? いつの間に? …貴方は……?」

 

なのはが戸惑いながら尋ねるのを無視して、青年はユーノに向かって、気さくな口調でユーノに向かって語りかけた。

 

「え~っと…ひょっとして、アンタが“ユーノ・スクライア”って兄さんかい?」

 

「えっ!? は、はい。ユーノは確かに僕ですけど……」

 

突然現れた見知らぬ青年から名前を尋ねられて、戸惑いながらも頷き返す。

すると、それを聞いた青年はにっこりと笑い。

 

「そいつはよかった! それじゃあ―――」

 

青年は気さくな笑みを浮かべたまま、青年はゆっくりとユーノとなのはの元へと歩み寄り――

 

「「えっ!!?」」

 

無情にも、スルリと腰に下げていた双刀を抜き取る。

 

「ちょっくらアンタ………俺と一緒に来てもらうぜ?」

 

青年は手に持った双刀を手の中で高速で回しながら、親しみやすい声質だったものから、急に氷点下のトーンに下げた声へと切り替えて言い放った―――




今回の話はオリジナル版に比べると、大分原作寄り&シリアスな展開にしてみました。

あと、オリジナル版ではユーノやヴェロッサの扱いがあまりに酷すぎたのが自分でも可愛そうに思えたので、リブート版ではもうちょっと扱いを良くしようと考えています(まぁ、ヴェロッサについてはザビー教が関わっているのでどのみち…)

そしてリブート版最大の新展開である左近の襲撃! 果たしてこれがどういった展開になるか…次回をお楽しみに!
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