リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
しかし、この戦いを通して、ティアナの仔細ある事情を察した家康は、なのはに真実を語る様に頼む。
果たして、なのはの口から語られるティアナの“過去”とは…?
一方、西軍方では早くも次なる策謀が動き出そうとしていた……
ザフィーラ「リリカルBASARA StrikerS 第二十一章 出陣する…」
第二十一章 ~ティアナの真実 荒天の中の問答~
機動六課隊舎―――
ホテル・アグスタから帰還した頃にはもう日も暮れかけていた。
家康達武将陣と、スバル達フォワードチームは、この日の訓練や職務は休みとなって、それぞれ自由時間を与えられることとなった。
シャマルとザフィーラは、明日、クラナガン市内の病院に転院する予定のヴィータの為に手続きなどの準備にかかり、はやては今日の任務結果の報告の為に、リインとシグナムを伴って本局に出かけていった。
スバル達はとりあえず、言われたとおり、お風呂にでも入って今日はゆっくり身体を休めようと考えたが…
「スバル。アタシ、これからちょっと一人で練習してくるから」
ティアナだけは、尚も訓練を行うと言い出し、皆とは反対の方向に向かって歩き出した。
「自主練? じゃあ、私も付き合うよ」
「あ、じゃあ僕も!」
「わたしも!」
スバルに続いて、エリオ、キャロも、ティアナを気遣うように声をかけながら、ついていこうとしたが、ティアナは3人を手で制した。
「なのはさんから『ゆっくりしてね』って言われたでしょ?…あんた達はゆっくりしてなさい」
ティアナは少し暗めな声質でエリオとキャロを窘める様に言った後、スバルの方に顔を向ける。
「それにスバルも…悪いけど、一人でやりたいから……」
「………うん」
ティアナの人を寄せ付けない様な雰囲気に押され、スバルはこれ以上何も言うことができず、その背中を黙って見送る事しかできなかった。
「…また。自主練か? ティアナは…」
「家康さん…」
いつの間にか背後に立っていた家康に驚きながらスバルは、準備の為に一度隊舎の方へと歩き去っていくティアナを悲しそうに一瞥した。
「……家康さん。私…どうすればいいんでしょうか?」
「…スバル?」
スバルが悲しげな目つきで家康を見上げながら言った。
「私……ティアの頑張りたい気持ちはよく分かるし、その為にできる限り協力して上げたいとは思っています……でも…今のティアを見ていると『本当にこのままにしておいていいのかな?』ってそうも思えて…」
「……板挟みという奴か?」
家康が尋ねると、スバルは静かに頷いた。
そんなスバルの様子を見て、家康は彼女が心から相棒を信じ、そして案じている事を改めて感じ取った。
「…無理もないさ。スバルはティアナとは訓練校時代からの相棒同士だったのだろう? 自分が信頼する者を信じたいと思う気持ちを持つ事は当然の事さ。だがな…」
家康は優しく諭す様に語りかけた。
「ただ信じるだけでは、ダメな時もある…相方が無茶をし過ぎている時や誤った道に走りそうになっている時に、諭してあげる事もまた“相棒”の大事な役目だ。それはワシらの世界の主従関係も同じ事…独眼竜にとっての片倉殿然り、真田にとっての猿飛然り、そして、ワシにとっての忠勝然り…」
「家康さん……」
家康の言葉を聞いて、スバルは家康と出会うまでの自分であれば、ここでずっとティアナに肩入れし続け、彼女を更に無茶に走らせるような事になっていたかもしれないと考えた。
家康と出会い、心技体の正しい強化のための術を学んだ事で、ティアナの抱える想いに理解・賛同しつつも、客観的な見識を交え、考える事ができるようになっていたのだった。
「勿論、一方的な諭しではダメだぞ。ちゃんとティアナの気持ちも汲んで、お互いの心を確かめ合った上で、どうすれば一番良い善策に辿り着けるか考えていかねば…それも立派な将になる為の大事な勉強だ」
「…はい!」
家康の言葉にスバルは少し元気づけられたのか、笑顔を浮かべながら頷いた。
「うん。 それじゃあ、ワシらも中に入ろうか? ひとっ風呂浴びて、それから皆で夕餉といこう!」
「「「はいっ!!!」」」
家康はスバル、エリオ、キャロを伴って隊舎へと歩き出した。
だが、そんな彼らの様子を少し離れた場所から佐助が眉を顰めながら見つめていた。
「相変わらず、言ってる事は間違ってはいないんだけどねぇ…徳川の旦那って……けど…」
佐助は家康とスバルの並んで歩く姿を見据えながら、苦い表情を浮かべていた。
「
佐助は、海を挟んで広がる首都クラナガンの摩天楼の上に西から夕日を覆い隠すように迫ってくる分厚い雨雲に目を向けていた。稲光こそまだ見えないが微かに遠雷も聞こえてきた。
「……一嵐来そうだな……」
佐助は呟いた。
それはまるで、これから起こるであろう波乱を見据えているかの様な口ぶりであった…
*
スカリエッティのアジト スカリエッティの研究室―――
薄暗い部屋の真ん中に置かれた台座に置かれたレリーフ型のデバイスを中心に、石田三成、大谷吉継、島左近、皎月院、小西行長といった西軍の主たる面々とスカリエッティ、ナンバーズの1番 ウーノが取り囲んでいた。
ウーノが展開したオリジナルのホログラムコンピュータの鍵盤型コンソールを滑らかに打っていくと、デバイスの真上に投影されたホログラムモニターには膨大な数のロストロギアに関する情報が長いリストとなって映し出された。
そして、しばらく文章が流れていった末に、リストの中から、3つのロストロギアに関する画像と説明文が個別モニターにそれぞれアップされる。
3枚のホログラムモニターにはそれぞれ…
『水晶のような球体に覆われた球形の金塊の様なもの』
『黄金でできた古代文字のようなものの刻まれた本型の石版』
『本体後部に羽のような3枚の物体と、その羽に支えられているように巨大な紅い魔石が付いている黄金の杖』
の画像がアップされていた。
「……それか?」
大谷が尋ねると、スカリエッティが妖しい笑みを浮かべながら頷く。
「あぁ。やはり、無限書庫のデータベースにあったね。“クライスラの遺産”は…」
「……“クライスラの遺産”?」
両腕を組みながら、静観していた三成が怪訝な顔つきで尋ねた。
「古の時代…聖王家 ゼーゲブレヒト一族が収め、シュトゥラ王国、ガレア王国などの様々な魔法の庇護下にある諸国が存在していた次元世界 古代ベルカの他に、もうひとつこの次元世界には独自の魔法文明を持って栄えた世界が存在していたのさ…その名も“ドミナリア”…今の時空管理局が第1無人世界として厳重な管理下においている世界さ…」
スカリエッティはまるでお伽話を語るような饒舌で語り始めた…
ドミナリアには、古代ベルカをも凌ぐ程の魔法の技術が発達した国が存在していた。
だが、高度に発達し過ぎた故に人々は疑心や野心に苛まれ、その国では絶えず戦乱が尽きなかった。
その時、一人の名を馳せた魔導師の女性が立ちはだかった。
それが後にドミナリアをその絶大な魔力を持って統一する偉業をなした大魔導師 “ヴェロニカ・クライスラ”である。
ヴェロニカは、荒廃した世界に泰平をもたらし、全ての民を友愛と平等の精神を持ってして導いていくという大きな理想を形にする為に、様々な土地で自らの理想を語り賛同者を募った。
初めは誰もがヴェロニカの語る理想を小馬鹿にしていたが、彼女の熱意とその非凡なる才能に惹かれ、やがて一人、また一人と次第に彼女と共に立ち上がろうとする者達は増えていき、やがてヴェロニカの下には一大勢力が築き上げられていった。そしてヴェロニカ達は荒れに荒れる死地へと飛び込んでいき、幾度の死線を越えていった。
やがてヴェロニカは国に戦乱を齎していた悪しき勢力や他国の脅威を己の采配や、忠誠を尽くす家臣達の力で退けていき、やがて長く分裂していたドミナリアは一つにまとまった。
人々はヴェロニカの成果を讃え、再び一つとなったその国を『クライスラ帝国』と名付け、ヴェロニカはその最終執政=女帝にまで立ったのだった。
やがて、ヴェロニカは自ら編み出した独自の時空航行魔法を元に、次元の海を渡る術を発見する。
そして、その技術を元に、初めて時空を越えて渡った先が、古代ベルカだった。
こうして、初めて次元の海を越えて繋がった2つの魔法文明は、共に手を取り合い、2つの世界でそれぞれ培った魔法を融和させ、さらなる栄華を極めていこうと考えた…かと思われていた。
だが、初めはお互いの文化を上手く融和させようと考えていた2つの魔法文明は思想、価値観などの細かい部分で相違からボタンの掛け違いが生じ、それが年月を重ねる毎に、融和が不可能である事をそれぞれ思い知る事となった。
そして、ヴェロニカは次第に、2つの文明を融和させる事ではなく、全ての世を自分の理想の下で繁栄させるという考えに結びついていく事となり、同時にそれは、彼女の理想が野望へと変わった瞬間でもあった。
ヴェロニカはやがてベルカへの侵攻を目論むようになり、手始めにベルカの征服に乗り出していくが、その彼女の暴走は、彼女と交流を深めていた聖王家ゼーゲブレヒト家や、ベルカの民だけでなく、彼女を信じ、慕っていたクライスラの民さえも失望させる事となり、戦いの中でヴェロニカは仲間の魔導師達の裏切りに遭い、遂に捕らえられてしまう。
そしてクライスラはベルカに降伏し、彼女の命と引き換えに、戦争の終結を約束。ヴェロニカ自身が『戦乱をもたらした侵略者』として、処刑される事になってしまった。
自らが戦乱を収める為に造り上げた国で最後は戦乱を起こした末に裏切られた女帝は、ベルカに自らが造り上げたクライスラ帝国の魔術の知識や技術を提供して、それを引き換えに命乞いをするも、当時のゼーゲブレヒト家の当主は一度彼女の助命を聞き入り、クライスラ式の魔術の知識を習得しておきながら、土壇場でそれを覆し、ヴェロニカは処刑台に送られる事となる。
こうして魔導師達に二度の裏切りを受けた女帝ヴェロニカは、呆気なく処刑台の露と消えた。しかし、彼女がどんな形で処刑されたのかはその後どの記憶にも残る事はなくその最期は謎とさえている。
ひとつ、はっきりしているのは彼女亡き後のクライスラ帝国は再び戦乱が勃発し、飢餓や疫病の万栄などにより土地自体が病んでいき、それから数年も経たぬ内に国は崩壊した。
それはまるで女帝ヴェロニカの怨念に呪われたかの如く……
それから、ドミナリアは二度と人を寄せ付けぬ死の星と化し、そしてヴェロニカから奪い取ったクライスラ独自の魔法技術も古代ベルカの滅亡と共に失われ、やがて女帝ヴェロニカの名や幻のもう一つ魔法世界“ドミナリア”の存在は歴史の影に埋もれて消え失せ、今では殆ど資料としても残されていないという。
そんな中、3つだけ明確な遺物としてクライスラ帝国が実在した証が残されているという。
それがこの“クライスラの遺産”と呼ばれる3つのロストロギアだった。
アヴァロンの果実―――
エルドラドの古文碑―――
シャングリラの魔杖―――
これは女帝ヴェロニカがゼーゲブレヒト家に助命と引き換えに明け渡したという失われたクライスラ式魔法の術式を完成させる為に必要な魔装具で、古代ベルカ王国滅亡後はミッドチルダに流れた後に各所を転々としていたが、やがて時空管理局の発足と共に全て回収され、今ではドミナリアの史跡を示唆させる貴重な古代遺産にして、それぞれが強大な魔力を有するロストロギアとして厳重な管理下にあるとされていた。
しかし、クライスラ帝国自体が今の管理局にとっては半ば封印案件に等しいものとされている為、その所有先などの仔細はそれこそ無限書庫などの最重要施設のデータベースのブラックボックスファイルなどに収められ、一部の関係者のみが閲覧できる機密事項とされていた。
「その一人が、無限書庫司書長 ユーノ・スクライアとされていたけど…やはりそのとおりだったようだね」
「それで? その『クラなんとか』とかいうお宝がなんだっていうんだよ?」
長い説明を聞いてすっかり疲れ切ったのか、左近がうんざりした様子でボヤいた。
「慌てるな、左近。仔細は、じきに明かすが今はまだその時でない。それで…肝心のこの3つのロストロギアは今どこにあるのだ?」
大谷が左近を宥めるように言いながら、コンソールを操作していたウーノに尋ねる。
「どうやら、本局の保管庫では収蔵されてはいないようです。元々管理を担っていた担当の局員が“特別保護”の名目で一族の直接管理下に置いているとの事です」
「ほぉ…一体、誰かね? そんな事をしている局員とは…?」
スカリエッティは皮肉を含めた薄ら笑いを浮かべながら聞いた。
ウーノはその質問に答えられる様に、コンソールを打つ手をさらに早めながら、データの解析を進めていった。
ところが…
「……これは…ッ!?」
突然ホログラムモニター表示されていた全てのデータ画面に『ROCKD』という文字が表示されると同時に、警報音が鳴り響き、赤く点滅したかと思うと、そのまま強制的に全画面がシャットダウンしてしまった。
それを見たスカリエッティが肩を竦めながら溜息を漏らした。
「やはり…無限書庫側が不正アクセス対策を施してきたか…予想はできていたけど、随分手が早かったね」
「もうそれから情報は得られないという事かい?」
皎月院が聞いた。
「上手くセキュリティープログラムを解除させれば問題ないよ…ただ、流石に時空管理局本局のデータベースだ…解析・解除するには少なくとも1、2ヶ月はかかるかもね?」
「1、2ヶ月だと!? 貴様っ! それまで我々に指を加えて待っていろというか!?」
三成がその鋭い眼を更に尖らせながら、スカリエッティに向かって吠えた。
一刻も早く、“目的”を達したい三成にしてみれば、『1、2ヶ月』という月日さえも数年の年月にも感じられた。
「まぁ、落ち着け三成よ。逆に考えてみよ… それだけの時があるならば、必要なものを揃える機会が来るまで、我らはじっくりと我らの戦力を揃えつつ、徳川方の戦力を削ぐことに集中できるというもの…しばらくは良い暇を得たと思えばよかろう」
刑部が棘しい声質のまま、宥めるように諭した。
そこは長年三成の側近を仕えるだけあって、どうすれば三成の昂ぶった心を鎮められるか手慣れたものであると、左近はおろか行長でさえも感心するほどだった。
「でも刑部さん~。こんな事になるくらいなら、やっぱりあのユーノって野郎をとっ捕まえてくりゃ、よかったんじゃないですかぁ?」
左近が今回の任務の報酬として得た、
「そうですね。もしそのスクライアって青年が今ここにいれば、私の拷問で、その“クライスラの遺産”とやらの居所を洗いざらい吐かせて差し上げたのに…」
行長はそう言って、胸元から顔を出したペットのキングコブラを愛おしそうに愛でていた。
それを見た左近は、顔を青ざめながら、1メートル程後ろに退く。
「ぬしらの意見も尤もであるがな。左近、行長……どのみち、件の品が本局の保管庫にないというのであれば、あのユーノなる少年をここに連れて拷問にかけたところで無駄足だったであろう……無駄な手を用いて、この場所が敵に見つかる鬼一口になっては元も子もなかろう?」
「フフフ…流石は大谷殿。極力リスクや手間を避けるその秀逸なる手口…ウチのクアットロによく似た手法だ」
スカリエッティは、含み笑いを交えながら大谷を称賛した。
「合理は、術策を案ずるに必然な考えよ。スカリエッティ…それよりも、我らは次なる術策に移ろうと思うておる」
大谷の申し出を聞いて、左近がおどけるような仕草で身を乗り出した。
「えっ!? もう次の作戦っスか!? 刑部さんも姐さんも、こっちの世界来てから随分と張り切ってるッスねぇ~!」
皎月院が薄い笑みを浮かべ、反応した。
「なぁに。あの『機動六課』という連中の中に面白い“おもちゃ”になりそうな奴を見つけてね…次はひとつそれを試してやろうかと思うんだよ?」
「それって、今日俺が見た…?」
左近の脳裏に、ホテル・アグスタで目撃したなのはとティアナの会話の様子が思い返される。
すると、行長も同じ人物の姿が脳裏に浮かんだのか、面白可笑しげに笑い出した。
「あぁっ! あの機動六課の中にいたティアナとかいう“負け犬”の事ですか? それはいいですねぇ! 次はどんな風に心をへし折ってあげましょうか? それとも一思いに五体バラバラにして差し上げましょうか?」
(………ホント、頭ん中どうなってんだよ? …コイツ)
酷く冷酷な内容の言葉を、笑いながら涼しい顔で言える行長の残虐非道ぶりに、左近は内心ドン引きした。
「待ちな。刑部がそれより、もっと面白い筋書きを考えたんだよ」
皎月院は、まるでゲーム興じるような無邪気ささえも感じさせるように、唇の端を歪ませる。
すると、大谷も包帯で覆われた口許から不気味な引き笑いを上げた。
「その為には…まずは今宵の内に早速“下準備”を仕掛けるつもりだ」
「ほぉ…今度はどんな作戦を考えてるのかね…?」
スカリエッティの質問に、大谷は勿体ぶった様子で言いあぐねる。
「まぁ待て…楽しみは、事が本格的に動く時まで置いておく方が、より面白味が増すというもの…それまでは…我とうたに、万事任せて貰おう…ぬしもそれで良いか? 三成よ?」
「………好きにしろ」
三成は相変わらず険しい顔つきのまま頷いた。
それは、大谷が弄した策を実行に移す許可を下す時のお決まりの返答だった。
*
この夜、首都クラナガンは記録的な豪雨に見舞われた。
激しい雨が滝のように大都会に流れ落ち、激しい音と共に建物を打ち叩いていた。
そんな雨の打ち付ける音時々鳴り響く雷の音が外から聞こえてくる機動六課・隊舎では、職員達がそれぞれにつかの間の休息の一時を過ごす中、家康、政宗、幸村、小十郎、佐助の5人はなのはとフェイトの2人から呼び出しを受け、隊舎内にある比較的人気の少ない休憩所に集まっていた。
「ごめんね、皆。せっかくの自由時間なのに呼び出したりして…」
「あぁ…話ってのは大凡、家康から聞いたぜ。ティアナの事だろ?」
開口一番、政宗が率直に尋ねた。
なのはとフェイトは、頷くと一先ず5人を休憩所のソファーに座るように促した。
そして、自分達も壁際のソファーに座ると、早速話を始めた。
「家康君。5人の中では家康君が一番、フォワードの皆と色々とお話してきたと思うけど、ティアナから、お兄さんの“ティーダ・ランスター”さんのお話とかって聞かされたりした?」
「いや……今まで、特にティアナの家族の話には触れた事はなかったが…」
家康がそう答えると、政宗、幸村、小十郎、佐助も同意する。
そんな彼らの反応に「当然か…」となのはは小さく呟くと、話を続けた。
「ティアナが幼い頃に事故で両親を亡くして、それからはティーダさんがティアナを一生懸命育てていたの。でも、ティアナが10歳の時に任務中に……」
「まさか…戦死されたのでござるか…!?」
顔を顰めながら言い淀むなのはに、幸村が気遣いながら尋ねた。
なのはは無言で頷いた。
「当時の階級は一等空尉…所属は首都航空隊…享年21歳」
なのははティーダのプロフィールを話しながら、ホログラムモニターを投影してティーダの写真を出す。
「俺達はまだ管理局の詳しい階級や役職はよくわからねぇが…相当優秀な、才能ある将兵だったのだろうな…」
「所謂、eliteって奴だな…」
小十郎と政宗が感心する様に呟いた。
そこへフェイトが重い口調で語り始めた。
「そう…エリートだったから…なんだよね…」
「?……どういう事でござるか? フェイト殿」
幸村が尋ねた。
「ティーダ一等空尉が亡くなった時の任務…逃走中の違法魔導師に手傷は追わせたんだけど、取り逃がしちゃって…」
「まあ、地上の陸士部隊に協力を仰いだおかげで、犯人はその日のうちに取り押さえられたそうなんだけど……」
フェイトとなのはが交互に説明していく。
一人だけで説明するには忍びない程に、辛い内容である事が察せられる。
「その件についてね、心無い上司がちょっと酷いコメントをして、一時期、問題になったの…」
「なんて言ったんだ?」
小十郎がフェイトを催促するように尋ねた。
「『犯人を追いつめながらも取り逃がすなんて、首都航空隊の魔導師としてあるまじき失態で、例え死んでも取り押さえるべきだった』とか…『とんでもない役立たずで、無意味な部下だ』とか…」
そこでフェイトは口を閉ざしてしまう。
これ以上は口にしたくないと、その表情が物語っていた。
すると、それを見かねたなのはが、補足するように代わりに言った。
「もっと直球に…『大事な任務を失敗するような役立たずは………死んでくれて清々している』とか…ね」
「「「「「ッ!!!?」」」」」
その言葉を聞いたその場にいた全員が、そのあまりに非情極まる内容なコメントに顔を顰めた。
「な……なんという事を……かのティーダ殿の上司とは…人としての心がないのでござろうか……」
「I'm gonna vomit…!…舐めた口叩きやがるぜ! その上司ってのも……!!?」
「命を賭して奮闘した部下に、思いやりの欠片もないような発言…まるでこれは―――」
「あぁ…我がかつての主君…“織田信長”公と同じ、歪で冷酷な思想だ……」
幸村、政宗、小十郎と続き、家康が驚愕、嫌悪、そして失望の感情が混ざったような複雑な面持ちで呟いた。
かつて日ノ本を制し、武力こそがすべてと信じていた覇王 豊臣秀吉でさえも、自分の部下が自軍に対し何か大きな功績を上げた際には素直に感謝し、賞賛を与えていた。
だが、ティーダの上司は…時空管理局の人間は、命を掛けてまで任務を果たそうとした人間になんの賞賛も与えず、それどころか『役立たず』『無意味』などという罵詈雑言で簡単に切り捨ててしまった…
それぞれに道は違えども武士としての“義”を掲げる政宗達にとっては、その考えはとても理解できるものではなかった。
特に家康にとっては、まだ自分が幼い頃仕えていた去る主君の在りし日の様子を思い出してしまった。
織田信長―――
美濃・尾張を根城とする戦国大名『織田家』当主であったこの男は、『天下布武』を掲げ、恐怖と絶望による天下統一を成さんとし、己が道を妨げる者を容赦なく討滅していくその苛烈な所業から他国の武将達より『第六天魔王』と称されて、恐れられてきた。
その残忍極まりない治世に人々の平穏など微塵もない…民や自軍の雑兵は勿論、自らに忠誠を誓う家臣達ですらも一切の慈悲無く、一度敵と認識した者や、自らに少しでも歯向かった者は容赦なく斬り捨ててきた。まさに地獄の鬼や魍魎に勝る文字通り『魔王』と称するに相応しい外道暴虐の輩であった。
ティーダの上司なる局員のコメントは、そんな信長…ひいては織田軍の思想を見ているかのようで、家康達は、久しく忘れかけていた激しい不快感を覚えた。
だが、なのは達はまだ話足りない事があるのか、そわそわと落ち着かない様子を見せていた。
「…それだけじゃなくて…その後にこんな事まであったの……」
意を決した様子で話しだしたなのはは、ホログラムコンピュータを操作して、新たな画面を開いた。
それは、とある週刊誌の記事で、ティーダの顔写真に加え、10歳前後のティアナの姿が報道関係者から逃げ回っている様子が写った写真までもが載っていた。
さらに、その記事のタイトルはこう書かれていた。
『ティーダ・ランスター ~無能な航空隊士の、21年の役立たずで無意味な人生~』
「な…なんだ!? これは……ッ!!?」
家康は雑誌記事のタイトルに愕然としながら、ふつふつと怒りと嫌悪感が湧き上がってくるのを覚えた。
それから、フェイトが雑誌記事の内容を読んでくれたものの、そこに書かれていたのはティーダ、ティアナ兄妹のプライバシーを洗いざらい暴露するのは当たり前、
さらにティーダのそれまでの経歴や活躍、更には彼の願いだったという「執務官になる」という夢までも完全にバカにしているかのような低劣極まりない事ばかりだった……
「この雑誌記事を皮切りに、クラナガン周辺のいろんなゴシップ雑誌や新聞が、この事件を面白半分で記事にして…ティアナはその時、まだ10歳だったけど…色々と酷い目に遭ったみたい……」
「たった一人の肉親を亡くして…しかもその最後の仕事が無意味で役に立たなかったって言われ…挙げ句に自分までも笑われ者にされるなんて……」
「That is too horrible…」
家康と政宗はホログラムに写ったゴシップ記事から目を背けながら呟いた。
なのはも同じ気持ちの様で、まるで自分の事のように悲しそうな声で話した。
「ティアナも、きっともの凄く傷ついて、悲しんだんだと思う……」
「だから…『そんな事は無い』と証明したいというのか…」
小十郎が両腕を組みながら静かに呟いた。
「自分の兄貴は役立たずじゃないと…執務官になる夢を自分が引継ぎ、ランスターの魔法は無力じゃないと言いたいのだろう…」
「しかし……某はどうしても解せぬ!」
幸村が憤りを抑えきれない様子で、休憩所のミニテーブルに拳を打ちながら、声を張り上げた。
「何故、命を賭してまでも使命を果たそうと奮闘したティーダ殿が、『役立たず』の汚名などを着せられる羽目になったのでござるか!!?」
武人たるもの、例え死しても己の務めを完遂させる事は最大の誉…そう
「うん。これは私やなのはの憶測に過ぎないけど……多分、その上司達が“コアタイル派”の人間だったからだと思うんだ」
「…“コアタイル派”……?」
フェイトの口から出た新しいワードに首を傾げる政宗。
「『コアタイル派』っていうのは地上本部 首都防衛事務次官のザイン・コアタイル少将って人が中心となっている保守派の閣僚派閥の事を言うんだけど…」
『コアタイル派』について説明するに当たり、フェイトはまずこのミッドチルダを中心に幅を利かせている『貴族魔導師』と呼ばれる魔導師達の事について説明してくれた。
『貴族魔導師』とは古代ベルカの時代から新暦00年以前の時代にかけてミッドチルダで活躍し、現在まで続く時空管理局と魔導師文化の礎を築いた偉大な魔導師達の末裔である家系に付く魔導師達に対して使われる敬称で、地上本部・統合事務次官 ザイン・コアタイル少将はその貴族魔導師の中でもミッドチルダにおいて最も栄華を極めた名家“コアタイル家”の現当主であり、コアタイル派とは彼に同調する魔導師達が集い、結成された地上本部の二大派閥のひとつであるそうだ。
由緒正しき、格式高い家系の当主を中心とする派閥の人間故に、当然ながら彼らは傲慢さやエリート意識が“少し”…否、“大分”…否、“かなり”…否、“極端”…否々、“病的”な程に、高い事で有名だった。
だからこそ、ティーダの様に僅かでも失態を犯して、自分達の派閥に傷をつけるような事を犯した者には、例えどんな理由があろうとも決して許さないという、傍から見れば、血も涙もない様な度し難い常識が横行しているのだった。
「権力者の威光を笠に着て、身勝手な主義思想を振りまく…か……どこの世界にもそんなノミ、シラミみてぇな連中がいやがるのか…」
小十郎が汚いものを見たかのような軽蔑した表情を浮かべながら、溜息を漏らした。
「特にティーダ一等空尉の実家…つまりはティアナの実家のランスター家は、魔導師としては良くも悪くも中流で、決して特別な才能や術式が受け継がれていたり、由緒正しい家というわけでもなかったの…その事もまた、上司からあんな扱いを受けた原因になったんじゃないかな…って私は思うんだ。コアタイル派は、とにかく魔導師としての力量か家柄だけを重視する傾向があるから…」
フェイトが苦々しい顔つきでそう憶測を述べた。
するとそれを聞いた政宗が呆れるように肩を竦める。
「Ha! 時空管理局ってのは、もっと俺らの世界よりもfuturisticな軍と思っていたが…蓋を開けてみれば、結局俺達の世界となんら変わらねぇ権威主義な連中もいるって事か」
「いずれにしても…ティアナ殿が力に固執してしまう理由もわからなくはないでござる…」
昂りかかった感情を押し鎮めるように、幸村が重々しく言った。
「だから……もう少しだけ見守ってほしいの、皆」
「…わかった」
「OK」
「心得たでござる」
「…承知」
なのはの頼みに、家康達はそれぞれ異議を唱える理由もなかった為、素直に同意する。
だが、次の瞬間―――1人の言葉で事態は急変した。
「見守るだけじゃ…ダメなんじゃないかな?」
「えっ!?」
そうなのはの頼みを斬り捨てたのは、今まで無言を貫いていた佐助だった。
これには家康もフェイトも幸村も驚いた。
「佐助!? どういう事でござるか?!」
「言葉の通りだよ大将。この問題…多分見守るってだけじゃ、解決しそうにないと思うよ? 寧ろ、話が拗れてさらにややこしい事になるかもしれないね?」
「ど、どうして!?」
なのはが尋ねた。
だが、佐助はそのまま立ち上がりながら、やや冷淡な口調で返した。
「それは、なのはちゃん自身が考えるべきじゃない? だって、なのはちゃんはティアナの教官だろ? でも、ひとつだけ言えるのは……まずはゆっくり思い返して見る事じゃないかな? 『自分の今までの教え方が本当に正しいか?』…とかさ」
「私の…教え方……?」
佐助はそう言うと、歩き出した。
「佐助、何処へ行くのだ? せめて、もう少しなのは殿にもわかるように説明してやらねば―――」
幸村の制止の言葉にも、佐助は足を止める事はない。
「大将。なのはちゃんだって、一端の隊長なんだよ。ここで甘やかしたりしたらダメだってば」
佐助はそれだけ言って、振り返りもせずに去っていった。
「ど…どういう意味でござろう……?」
幸村が首を傾げるのを他所に、なのはは今しがた佐助から言われた言葉を思い返していた。
「『自分の教え方が………本当に正しいか?』」
「………………」
唖然とした表情で復唱するなのはに、政宗は何か意味深な視線を送るのであった。
*
ティアナは豪雨の降りしきる天気の中―――
一人、中庭に出て黙々と自主トレを行っていた。
周囲に的となる光の玉を複数出し、不定期に消えたり付いたりするそれに向かって素早く銃口を向けて、的確にトリガーを引く所謂射撃訓練である。
既に開始から4時間。既にティアナの髪や服は泥だらけになり、その体はずぶ濡れになっていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…ま…まだまだ!」
ティアナは我武者羅にクロスミラージュを光の玉に向けて構えようとする。
「…あぁ!?」
その時、雨でびしょびしょになっていたティアナの片手からクロスミラージュが地面に滑り落ちてしまった。
「……くそ!!」
ティアナは悔しそうに唇を噛みしめながら、足元の近くにできた水たまりを踏みつけて、水を跳ねさせる。
そして、ティアナはため息を吐くと、地面に落ちて泥にまみれたクロスミラージュを拾おうと屈んだ。その時だった…
「今の失敗。 戦場でやっちまってたら命取りだぜ。 ティアナ」
のんびりした声が後ろから聞こえた。
ティアナが振り返るとそこには雨傘を差した佐助の姿があった。
「
「よぉ。精が出るねぇ」
驚くティアナを後目に佐助は、ゆっくりとした歩調で歩み寄ってくる。
「ずぶ濡れじゃねぇか。風邪ひくからそろそろやめたらどうだ?」
いつもの軽い調子ながらも、佐助はさり気なくティアナを自分の差している傘の中に入れてあげる。
(私の事を心配して……?)
佐助の細やかながらも思いがけない気遣いにティアナは少し戸惑った。
「だ、大丈夫です。まだもう少し続けます!」
ティアナは慌てた様子で佐助の傘の下から再び雨の中へ飛び出す。
ティアナの様子を見て、佐助は小さくため息を吐いた。
「ティアナ…お前、今日の失敗や、“蟒蛇”に言われた事がよっぽど応えたのか?」
「…………………」
佐助が今までよりも低い口調で問いかけると、ティアナは背中を向けたまま黙って訓練を続ける。
「ティアナ…お前は何故ここまでして強くなろうとするんだ? スバルやエリオ達に負けない為か? それともなのはちゃんやフェイトちゃんみたいに英雄になりたいからか?」
「…………………」
ティアナは答えようとせず、黙々と訓練を続ける。
だが、次に佐助の言い放った言葉にはさすがのティアナも動揺せざるを得なかった。
「それとも………『役立たず』呼ばわりされて死んだ兄貴の為か?」
「!!?」
ティアナは驚いた様子で佐助の方を振り返る。
「な…なんで兄さんの事を……?」
「ちょっとね…小耳に挟んでね…大丈夫、別に盗み聞きとかそういうのじゃないから安心してよ」
「……当たり前です。本当に盗み聞きしていたのなら、訴えていたところですから…」
ティアナは冗談とも受け取れない様な声質で言うと、逃げるようにその場を去ろうとする。
すると佐助が忠告するように語りだす。
「災難だったなぁ……たった一人の家族が非情な上司に無能扱いされた上に戦死しちまったなんざ……お前もさぞ辛かったんだろうな」
「!?……何が…言いたいの?」
ティアナは佐助を睨みつけるように振り返る。
「私は兄の成せなかった夢を代わりに叶えたい…だからこうして努力してる。それだけよ…」
「その為なら……自分の身体をボロボロにしちまってもか?」
佐助のその一言で、ティアナの顔はより一層険しくなる。
「………それが…何?」
「お前の考えてる事…わからなくはないぜ。 自分の大事な人を最悪な形で失って、悩み、苦しみながらも、どうにかその背中を追って…その人の“夢”を代わりに叶えようとしたい…けど、現実はそう甘くない…周りは自分以上の才能や優秀さを持った人間だらけ…そんな人間に囲まれて自分の思う“道”の進み方がわからず迷走する。だから、無茶をしてでも自分を強くしようと我武者羅に進んでしまう…」
「………」
ティアナは歯を少しずつ食いしばりながら佐助を睨み続ける。
「確かにそれで認められれば、お前は満足だろうな…だがな、お前が無茶をしてそのツケが回って、今日の失敗や“蟒蛇”との戦いみたいな事になったりした時、それで兄貴が喜んでくれると思うか?
自分の体も気にせず、ただ認めてもらうためだけに無茶を続けてもお前の兄貴は…」
「……さい…」
佐助が言葉を続けようとした時、ティアナの小さい声がそれを遮る。
「ん?」
「うるさいっ!! アンタに何がわかるのよっ!! 両親が死んで、たった一人で私を育ててくれた兄さんを失った私の悲しみが…非情な連中の一言で“役立たず”という烙印を押された兄さんの悔しさが…アンタみたいな飄々とした態度で気楽そうに仕事してる楽天家なんかにわかるはずがないわ!!」
「…………………」
ティアナは佐助の話に怒りを露にするが、佐助はティアナの怒りの声に全く動じていない。
「アンタだけじゃないわよ……家康さんだって…政宗さんや幸村さん達だって…スバル達だって…ましてやなのはさんにだって……!! 才能ある人達は誰も“凡人”の私の気持ちなんてわかる筈がないわよ!!!」
「………じゃあ。お前は、スバルやなのはちゃん達の気持ちをわかってるって言うのか?」
「えっ!?」
佐助の質問にティアナは、意表を突かれた様な顔つきで聞き返した。
「『どうして強くなる為に無茶をする事』が間違っていると思うのか? なのはちゃん達からその理由をちゃんと言葉で聞いたのか? スバルから直接、『ティアナは凡人だ』なんて言われたりしたのか? どうなんだ?」
「そ…それは………」
ティアナは思わず黙り込む。
だが、すぐに自棄気味な様子で頭を振った。
「そ、そんなの直接聞いたり、言ったりできるわけないじゃないのよ!! アンタ、私をバカにしてるの!?」
ティアナの意固地な態度に、佐助は呆れるように小さく溜息をついた。
「あのなぁ…俺が言いたいのは、ティアナとなのはちゃんは、ちゃんと“腹を割って”話し合った事があるか?…って事だよ」
「ッ!? 『腹を割って』…?」
「そう。第三者の俺からして見れば、ティアナも、なのはちゃんも、不器用過ぎるんだよ。お互いに自分の主義思想を強く主張しようとしているけど、2人ともそれを行動だけで示そうとしている。だから、意見のすれ違いが起こってしまうんだよ…」
佐助の指摘に、ティアナは完全に黙り込んでしまう。
「スバルや徳川の旦那や真田の大将やエリオを見てみな。お互いに腹の底を隠さずにありのままの姿で接しているだろ? そこには建前や詭弁も存在しない…あそこまで真っ直ぐ接している師匠と弟子は俺達の世界でも珍しいくらいだぜ」
「…………」
「だから…ティアナも一度、なのはちゃんと腹を割って話し合ってみたら、もしかしたら―――」
「そんなこと………」
ティアナは雨に濡れた身体を小刻みに震わせながら、呟くように言った。
「ん?」
「そんなこと…できるわけがないじゃないのよ……!? 今日、あんな大失敗して、その上、エリオやキャロの前で情けない姿を見せる事になって…敵にまで散々バカにされて……こんな無様な私の本音をなのはさんに聞かせたところで、何になるっていうのよ?! そんな事したって、なのはさんは私を余計に軽蔑するだけだわ!!」
「……それじゃあ、どうするって言うんだ?」
佐助が呆れるような表情で尋ねた。
「決まってるじゃない……私は私なりのやり方で努力して、強くなって、なのはさんに認めてもらう…否、認めさせる! 私だって戦える事を! ランスターの弾丸は決して無意味じゃないって事を!!」
梃子でも動かないと言わんばかりな語り口でそう宣言するティアナを、佐助は眉を顰めながら見つめていたが、やがて小さく溜息を漏らし、肩をすくめた。
「わかった……お前がそこまで言うのなら…俺はこれ以上、お前のやり方にとやかく言うつもりはないさ。だけど……」
徐にティアナに向かってフェイスタオルを投げ渡しながら、佐助は言った。
「俺からひとつだけ忠告しておくぜ? “努力する”事と、“無茶をする”事は全く違うことだぞ……」
「…………」
ティアナは驚きとも怒りともとれない表情で佐助を見つめていた。
「そうだ。これから雨風がどんどん激しくなってくるから、そろそろ隊舎の出入り口を締めようかって皆言ってたぜ? だから、さっさとそいつで身体拭いて、中に戻った方がいいと思うぞ。じゃあな」
それだけを言うと佐助は、差していた傘をその場に置き、フッと自分の影に吸い込まれるようにして姿を消した。
一人残されたティアナは、呆然と立ちすくみながら、今しがた佐助に言われた言葉を思い返していた。
―――ティアナとなのはちゃんは、ちゃんと“腹を割って”話し合った事があるか?―――
―――“努力する”事と、“無茶をする”事は全く違うことだぞ―――
何時になく真剣な声質の佐助の言葉がティアナの脳裏に何度も反響して響く。
ティアナはあっという間に雨に濡れてびしょ濡れになったタオルを強く握りしめた。
「それでも……私は………私は………ッ!!?」
ティアナは必死に自分に言い聞かせるように呟くのだった。
*
佐助の言っていたとおり、それからクラナガン付近に降り注いだ大雨は更に勢いを増し、台風のような猛烈な風が吹き荒れ、雷も激しく轟く事となった…
場所は代わって、首都クラナガン 湾岸地区・日本風繁華街 カントー・アベニュー―――
その名の通り日本の武家屋敷風の造りの建物が並び、一見時代劇の撮影セットのような雰囲気を晒したこの通りは、主に遊郭風のキャバクラや、水茶屋などが多い華麗なる“夜”の街として有名であった。
そんなカントー・アベニューの夜に荒天など関係ない。降りしきる雨の中、雅な明かりを惜しむこと無く照らし、いつもと変わらず客を迎え入れているのだった。
通り屈指の小料理屋『
店の一番奥にある座敷は、基本的に上客と認められた客が居座る事のできる云わばVIPエリアである。
そこでは出される料理から、応接役の
機動六課・通信主任としての肩書に加え、本局付きの管制官として相応に高給取りであるジャスティ・ウェイツもまた、その条件をクリアできた者の一人であった。
翌日は夜まで非番であったジャスティは、フォワード部隊がホテル・アグスタより帰投した後、ロングアーチも夜番への業務の引き継ぎを済ませ、今日の任務を終えると、ここ弁天閣にやってきて、早々から酒を飲み、遊女達とドンチャン騒ぎに興じ、先程ようやくそれが終わったばかりであった。
そして現在、遊女達は皆、袖直しの為に一度下がり、戻ってくるまで、ジャスティは手酌で酒を呑んで待っていたのだった。
外は相変わらずの大雨だが、ジャスティは気にも留めなかった。
どうせ隊舎に戻らないといけないのは、明日の夕方…今夜は時間が許す限り、ハメを外し、そして日頃の不平不満やストレスを発散させるつもりだった。
「全く…明日の夜からまたあの身内贔屓の部隊長と、いけ好かない銀髪メガネ…そしてあの次元漂流者共の我が物顔を見ながら仕事しなければならないのか…気が引けるな」
ジャスティは一献片手に、最近は不満以外ない今の自分の職場について思い出し、顔を顰めていた。
元は時空管理局0406航空隊管制官の准陸尉であったジャスティは、現在の自分の上司である機動六課・部隊長 八神はやてや分隊長 高町なのはとも何度か任務を共にした事があり、その好から六課立ち上げの際にはやての推薦で、ロングアーチメンバーの一人として抜擢された。
そこまではよかった…だが、それから先がジャスティにとって不本意な方向へと進む事となった。この時、はやて達がロングアーチメンバーの人員として選出した一人に、自分と同じ管制官のグリフィス・ロウランがいた。
階級は自分と同じ准陸尉。年も自分よりもひとつ下で、実務経験もさほど変わらない筈だった。しかし、はやて達は考えた末に自分の補佐にして、ロングアーチの実質的なナンバー2の座を、自分ではなくグリフィスに与えてしまった。
はやてはその理由を「グリフィスの方が実戦における管制指揮の経験数が多い事」であると説明していたが、ジャスティはそれは詭弁で、本当の理由は別にあるものと信じていた。
グリフィスの母親は、時空管理局本局運用部提督 レティ・ロウランである。さらにレティは過去にはやてとも何度か関わり、決して親しくない仲ではない事を知っていた。
つまり、グリフィスがロングアーチ副長、部隊長補佐の地位に就けたのは母親の“コネ”であると、ジャスティは勝手に確信していたのだった。
代々魔導師の家系に生まれ、家族のように実戦部隊に入る事を志望しながら、入隊制限を超えるだけの魔力保有指数に達していなかった理由からその夢を絶たれ、仕方なく管制官として必死に努力を重ねた末に現在の地位まで成り上がってきた叩き上げであったジャスティにとって、この事は非常に屈辱的に感じられた。
それでもやはり引け目を感じていたのか、はやてやグリフィスの計らいで、ロングアーチのナンバー3である通信主任の位置に収まる事のできたジャスティであったが、そんなはやてやグリフィスの心遣いに、彼は感謝するどころか、ますます猜疑心や不満を抱くようになっていた。
それでも一管理局員としての矜持は忘れていなかったジャスティは、自分の私的な感情と任務は別物であると割り切り、極力はやてやグリフィスの事を考えず、自分に与えられた仕事だけキチンとこなす事に専念しようとする事で、どうにか大きな問題も起こさずに上手くやってこれた。
だが、そんなジャスティの琴線を更に刺激する事となったのが、突如、機動六課に入隊する事になった家康達である。
聞けば、任務中の現場に突然現れた次元漂流者な上、魔力保有数はゼロであるにも関わらず、フォワードチームはおろか、なのはやフェイトといった分隊長クラスの魔導師にも引けを取らない圧倒的な戦闘力を有し、さらには“気”という魔法とはメカニズムの異なる未知の力を行使するという、普通であれば即座に管理局内の専門機関に連行し、保護観察の対象とすべき得体のしれない連中である。
…にも関わらず何を考えているのか、はやては彼らを六課に“民間人協力者”として匿う事を選んだばかりか、彼らの素性が他の部隊…特に魔法以外の戦力を取り入れることに積極的との噂のある地上本部防衛長官・レジアス・ゲイズの手の者にバレないように隠蔽する様に指示してきた。
勿論、ジャスティは何度も反対し、忠言した。
「素性もわからない上に、得体のしれない術を使う人間を組織に置くなど後々のリスクが大きすぎる」と…
だが、はやては自分の忠告に聞く耳を持たず、家康を六課のメンバーに加えたばかりか、剰え早々により隊内での活動制限が緩い“委託局員”待遇に昇格させてしまった。それどころか、今では分隊長・副隊長クラスの権限を与え、前線メンバーの会合やフォワードチームへの訓練にまで堂々と介入させてしまっている。
さらにここ最近は、家康と同じ世界からやってきたという政宗、幸村、小十郎、佐助なる者達にも同じだけの権限を与える始末。
初めはそんな家康達の厚遇に戸惑うスタッフも少なくなかったが、それも同じロングアーチのシャリオやアルトが率先して「格好良い」だの「優しい」「面白い」だの吹聴して回ったおかげで、今ではこの六課で家康達の事を毛嫌っているのはおそらくは自分だけであろう。
だが、ジャスティは、家康達の存在は勿論、彼らを必要以上に立てているはやてのやり方に対しても、どうしても納得ができないでいた。
同じ非魔力保持者であるにも関わらず、コネや特異な力があるというだけで、自分よりも上を行く人間が憎い、妬ましい…そしてそんな贔屓を平然と容認するはやての甘く、公私混合なやり方も許せない…今やジャスティにとって機動六課とは、何もかもが自分の許せない事だらけな不満の巣窟と化しつつあった。
だが客観的に見るに、ジャスティのはやてや家康達に対する思考は、殆ど自身の境遇との違いから、勝手に恨み辛みを並べ立て、都合よく辻褄を合わせただけの八つ当たりである。
だがそんな事など知る由もないジャスティは、ストレスを紛らわせる為か、最近は夜毎に酒を嗜む量も増え、こうして貴重な休暇の時には街に出て、キャバクラや料亭などに通って女遊びに興じる事で気を紛らわせようとしていた。しかし、ここ数日はそれさえも自身の鬱憤を完全に晴らしてはくれなくなり、今日だってこの店に来てからずっと騒いできたにも関わらず、こうして一人になった途端に、日頃の不平不満がぶり返してくる始末だった。
「…思い切って、本局へ異動願いでも提出すべきか…」
一人ボヤきながら、飲みかけていた盃を一気に飲み干したジャスティは、膳の上に置かれた徳利に手を延ばし、中身が空である事に気づいた。
「おい、酒をくれ!」
ジャスティは無愛想な声で店の者を呼んだ。
既に何本の徳利を空けたのかは自分でもよくわからないでいた。
まもなく、部屋の襖が開かれ、部屋に一人の女が入ってきた。
「えらい不機嫌なお声を出して…何かご不満でもあるのですか?」
「!?」
部屋に入ってきたのは見慣れない花魁だった。
この
だが、部屋に入ってきた花魁はその誰でもない初めて見る顔だった。
赤や紫、黒の派手な色合いの着物はわざとなのか、胸元がはだける様に妖艶に着崩し、紫、灰色といった暗い色に所々染めた髪を大量の櫛や簪で飾り立てた女髷、中には小刀や煙管までも刺さっている。そして、何故か片目だけ充血したように真っ赤な目が不気味さとミステリアスさを感じさせつつも、何故か不思議と魅了される程の美貌を漂わせたその女に、ジャスティはフッと身体から魂が抜けそうになる感覚を覚えた。
「い、いや…大した事じゃない…それよりもアンタ、見慣れない顔だな…?」
「えぇ。
「ヘルプ…?」
女…“ウタ太夫”なる花魁に早速酌をしてもらいながら、ジャスティは訝しげた。
この『弁天閣』はこの界隈の店の中でも有数の遊女の数を揃えており、人手不足に悩む事などめったに無い。しかも今日の天気は荒天。とてもヘルプが必要な程、忙しい雰囲気ではない筈だ。
しかし、ジャスティが彼女に詰問の言葉を投げかけようとすると、不思議とそれは勝手に喉の奥へと押し戻され、口は開けども言葉が出てくる事がなかった。
「それよりも…とても大した事じゃない様には見えませんなぁ…あなた、何か相当ご不満な事がおありに?」
「むっ…」
まるで心を見抜いているかのように語りかけてくるウタ太夫にジャスティは警戒していたものの、その紅い妖艶な目を見ていると、どんなに固く閉ざそうとする心をまるで切り崩されるような気持ちになった。
「何か不満があるなら、ウチに語ってみてはどうです? もしかしたら、何かお力になれるかもしれませんよ?」
「ふ、フン…流しの芸者なんかに言ったって無駄だと思うがな…」
ぶっきらぼうにそう言いながらもジャスティは自分の今の不平不満…はやてやグリフィス、そして家康達、機動六課の事を語って聞かせた。
長い時をかけて語り終わった後、ジャスティは溜息をつきながら、ウタ太夫の注いだ酒を呷り飲み干した。
「正直、俺は今の機動六課に不満しかない…八神部隊長からの誘いで入ったが、今をそれさえ後悔している…できるものなら、あんな部隊とっとと不祥事でも起きて潰れてしまって、もっと俺の功績を正当に評価してくれるところに移籍したいくらいだ」
「それなら…いっその事、潰してしまいましょうか?」
「えっ!?」
ウタ太夫の口から出た言葉に、ジャスティが思わず呆気にとられたような表情で返した。
「アンタ…何言って…?」
「ウチらがその『機動六課』を潰してしまおうって言うとるんです」
ジャスティは一瞬訳がわからずに困惑していたが、すぐにキッとその目に敵愾心が宿ると、慌ててその場から後ろに飛び退いて、ウタ太夫を睨みつけた。
「お前…やっぱりただの芸者じゃないな! 一体何者だ!?」
ジャスティは今度こそ、彼女に抱いていた懐疑心をはっきり言葉にして口から出す事ができた。
そんな、彼の敵意に満ちた視線や言葉を受けて尚も、ウタ太夫は飄々とした様子を崩すことなく、そればかりか女髷の中から取り出した煙管に火を灯すと、堂々と一服しはじめる始末だ。
「おい! 聞いてるのか!? お前は一体なに、も…の………ッ!!?」
そんなウタ太夫にしびれを切らしたジャスティは、無理矢理にでも質問に応えさせようと彼女を取り押さえんと近づくが、足が一歩前に出る毎に身体が徐々に重みを増していき、3、4歩いただけで、とうとう立つ事さえもままならなくなり、その場にどっと倒れ込んでしまった。
「お、お前…何を…」
「………アンタも管理局の人間にしては不用心な奴だねぇ。今さっきアンタが飲んだ酒に一服盛らせて貰ったのさ…まぁ、安心しな。別に死ぬような毒じゃないよ。少しの間、身体の自由を奪うってだけの“痺れ薬”さ」
今まで遊女らしい穏やかな口調で話していたウタ太夫から、西軍の御意見番 “皎月院”の威圧と不遜に満ちた声に切り替わる。
「…お、俺をどうする気だ?」
「だから言ってるじゃないか。アンタが機動六課を潰したいって思っているのなら、わちきらが手を貸してやるって…」
「い、一体何のために…? アンタは一体…?」
すっかり錘のように重く硬直した身体に苦悶しながらジャスティが弱々しく尋ねると、そこへどこからともなく紫色の靄のようなものが沸き立ち出した。
それが晴れた時、そこには担ぎ手もいないのに浮遊する輿に乗った全身を包帯尽くめの男がいた。
「我らは訳合って、ぬしら『機動六課』と相対する者…特にぬしが忌み嫌う、かの『戦国武将』達とは浅からぬ関係…今はそれだけを言おう…」
「……だ、誰だ?」
突然現れた不気味な風貌の男に、ジャスティは恐れ慄き、自然と身体がガタガタと震えだしていた。
だが男は、床に倒れるジャスティの傍に輿を下ろすと、その顎に手を当て、労るような語り口で話しかけた。
「ぬしもさぞ悔しかろう…身内を贔屓する上役に、自分にないものを持ち、成り上がっていく者達を真横から見据えるだけの毎日は…その屈辱…我らも分け合いとう思うぞ」
「…お、俺にどうしろ…っていうんだ…?」
ジャスティが声を震わせながら尋ねると、男は包帯の隙間から覗かせる不気味な黒い目を光らせながら、ジャスティの顎を押し上げつつ言った。
「我らに手を貸すのであれば、我らは主の欲するものを何でも与えてやるぞ。ほれ例えば…」
男が話しながら、空いていた片手をパチンと弾くと、どこからともなく白色の野球ボール程の大きさの珠が現れ、それが眩い光を放ったかと思うと、珠の真下に大量の小判や宝石などが山のように積み上げられた漆塗りの大箱が現れた。
それを見たジャスティは思わず目を限界まで見開いて仰天する。
恐らく、その価値を計算すれば、今まで機動六課として働いてきた全給料の3倍はあろう大金だった。
「それは我らからのささやかな挨拶代わりぞ。少々、強引な真似をして驚かせてしまったせめてもの侘び賃とも思うがよい」
「…………」
宝物に魅了されているジャスティの目の奥底に芽生えつつある欲望を見抜いたかのように、男はニヤリとほくそ笑んだ。
「我らはぬしの欲するものはなんでも用意できる。ぬしが求めるならば、この遊郭を丸々手に入れ、ぬしの居城として与えてやる事もできるぞ」
「勿論、アンタがその自尊心を満たせるだけの大きな事をやりたいというのなら、その機会を与えてやっても構わないよ。ただし、アンタが機動六課を裏切り、わちき達に従う事を誓うならばの話だけど…」
そう言って皎月院が横から邪悪な笑みを投げかけてくる。
「どうするんだい? このまま、屈辱に囲まれた三番手として日々を過ごすか? 疎ましい連中にごっそりいなくなって貰って、自分が欲するものを何でも手に入れられるか? アンタはどっちを望むんだい?」
皎月院の悪魔のような囁きを聞き、ジャスティは頭を下げて、しばらく考え込んだ。
そして頭を上げるとゆっくり頷いた。
皎月院も男もその答えを待っていたかのように、満足そうにほくそ笑んだ。
「ぬしは賢い選択を選んだ。それでよい…それでよいぞ」
「………にしてもアンタ達…一体何者なんだ? とてもそこらの生半可な違法魔導師とは違うみたいだが…」
ジャスティの問い掛けに、男は怪しい笑みを浮かべた。
「我らは
外の雨はさらに激しさを増し、この邪悪な取り決めが交わされた事を警鐘するかの如き、稲光がクラナガンの空を走り貫く…
その夜、嵐は明け方近くまで止むことがなかった……
今回はちょっと詰め込み過ぎてしまいましたかね…?(苦笑)
色んな意味で半ば勢いで書いていたオリジナル版と違って、リブート版では後々の伏線になるキーワードなどを交える事にしました。
あと、佐助のティアナに対する問答もオリジナル版では全否定的だったのがちょっと叩かれてしまったので、リブート版ではより中立的かつティアナを案じているのを全面に押し出してみました。
さて、ロングアーチのジャスティが大谷、皎月院の誘惑に屈する事となりましたが、果たしてこれが意味する事は…? 今後をお楽しみに!