リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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焦り、コンプレックス…様々な負の感情に押しつぶされるティアナは、とうとう親友にして相方 スバルの忠告さえも受け入れられず、拒絶してしまった。

少しずつ、周囲から距離を作って自分の殻に閉じこもり続けるティアナにスバル、家康、そしてなのはは……?

一方西軍では、模擬戦を突いたある作戦の要として豊臣五刑衆の新手“吼将”上杉景勝が動き出そうとしていた……

又兵衛「リリカルBASARA StrikerS 第二十四章 執行…だねぇ~~~?」


第二十四章 ~波乱の模擬戦 霧の中より現れし吼将~

スバルとティアナの仲が拗れてから1週間経ったある夜―――

首都クラナガン 湾岸地区・日本風繁華街 カントー・アベニュー・茶屋『弁天閣(BENTEN-KAK)』VIP用奥座敷―――

 

「それじゃあ、今のところ六課側に大きな変化はないって事だね?」

 

部屋の上座を陣取った西軍御意見番 皎月院が最後の確認をした。

 

「あぁ。予定通り、明日の11:00(イチイチマルマル)時に訓練所で隊の前線隊員の模擬戦が行われる。今日は部隊長と分隊長達が遅くまで入念に話し合っているのを確認した」

 

機動六課通信主任 ジャスティ・ウェイツの返答に、皎月院とその隣に輿を着地させた大谷吉継はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「では、予定通り作戦は決行…という事であろうな?」

 

大谷の言葉に、ジャスティは全身の血が沸き立つのを感じた。

ついに…ついにあの憎き機動六課を壊滅に追いやる作戦が始まる。その作戦に裏方ながらも大きな役割を任されている自分にとって、その一言は、自分が内通者(スパイ)となった事を、改めて実感させられた。

思えば、『豊臣』と名乗る彼らに加担する事を選んでから、日数で数えると僅か1週間と数日しかなかったが、今では自分もすっかり彼らの仲間であるという自負さえ芽生えつつある程に、既に“スパイ”として数々の使命をこなしてきた。

とは言っても、ジャスティは実働要員ではない。暗殺などの物騒な仕事ではなく、あくまでも彼の六課での役職である“通信主任”と“システム管理者”としての仕事に基づいた分野で、与えられた指令をこなしてきた。

手始めに六課隊舎の間取り図、スケジュール表などの書類を提供し、それから1週間かけて、受け取った品を特定の場所に仕掛ける…部隊長のはやてや補佐役のグリフィスの会話の様子を記録しそれを伝える…一部通信システムに細工を施す…殆どがそんな仕事だった。情報の交換と、裏工作に必要な備品の手渡しは全て、『豊臣』との密談場所であるこの奥座敷で行われた。いずれも、機動六課での仕事をこなしているジャスティにとっては造作もない簡単な仕事だった。

一番緊張したのは、隊舎の防衛システムの動力源の魔力炉があるエネルギー室へ『システム装置の点検』と偽って潜入し、こっそり魔力炉に皎月院から手渡された自壊装置を仕掛ける事だった。

その時が一番スパイらしい事をしていると内心興奮が止まらなかった。

そうして、ジャスティが上手くスパイとしての仕事をこなす度に、『豊臣』は中々の額の報酬を支払ってくれた。

実に割合の良い仕事だ。自分の目障りな人間を代わりに消し去ってくれるばかりか、それに少し手伝うだけで莫大な金が入る。既に、六課の仲間達…はやてや実働部隊はおろか、ロングアーチの仲間達に対する罪悪感も残っていない。

全ては、自分を正当に評価せずに、周りを依怙贔屓したはやてが悪いのだ。恨むなら、未熟な部隊長を恨め……ジャスティはそう割り切っていた。

 

「おっ! いよいよなんスね? 刑部さん」

 

同席している青年。島左近の声はそっけないほど軽い。ジャスティの高揚とはまるっきり正反対である。

この左近という男…聞けば、豊臣の現在の中心組織『石田軍』の特攻隊長だそうで、声色に驚きが少ないのは、それなりの場数を踏んできているからだろうとジャスティは察した。

しかし、そんな事はジャスティにとってはどうでもよい事だった。

実際に動くのは自分じゃない。自分はあくまでも彼らの作戦が上手く運べるようにお膳立てをするだけ…彼らが上手く作戦を成功させればそれでよいし、失敗したならば、自分は機動六課の一員として彼らを捕縛すればよいだけなのだ。

 

「では、景勝よ……ぬしには機動六課や徳川達を引きつける“囮”となってもらおう…」

 

座敷の少し離れた場所に腰を下ろし、洗面器程の大きさの巨大な盃で一献傾けようとしていた“女”武者 上杉景勝に、大谷は語りかけるような口調で命じた。

上からの命令が下されたにも関わらず、景勝は、盃を煽る手を下ろす事がなかった。

そして、徳利10本分の量の酒が並々に注がれていたはずの盃を一呷りで空にしてしまうと、ようやく視線を上座の方に向けた。

 

「“囮”…ねぇ。 そういう仕事。なんか汚れ役みたいで嫌なんだけどよぉ?」

 

「なぁに。“囮”と言っても、大した事じゃないさ。いつもどおりに最前線で奴ら相手に思いっきり暴れさえすれば、それでいいんだ。強いて言うなら、この4人を引き止める事だけを注視してもらうくらいかねぇ?」

 

そう言って皎月院が、ジャスティに顎で指示を送ると、彼は起動したホログラムコンピュータを操作して、景勝の前に4人分の顔写真の映ったモニターを投影させる。

そこに映っていた人物は、なのは、スバル、政宗、そして家康だった。

 

「ゲッ!? 家康(東照)に…独眼竜だって?! 流石にこの2人相手に囮たぁ、初陣(のっけ)から重い仕事押し付けてきやがるぜ! まぁ、しゃあねぇか…」

 

そう愚痴りながら、空になった大盃に酒を注ぎ入れる景勝に、皎月院は彼“女”の心内を見定めているかのような意味深な視線を投げかけた。

 

「そんな事言って…本当はその胸に滾る武人の魂が、疼いて仕方ないんじゃないのかい?」

 

「………まぁな」

 

再び満杯になった大盃を片手に持ちながら、景勝が頷く。

そして、再びそれを一気に唄うとあっという間に空の状態に返してしまった。

すると、座敷の反対側の縁側へと続く障子の前に陣取って座っていた左近が、軽い調子で話しかけてくる。

 

「なぁに! もしも危なくなったら、この島左近も助太刀に上がりますよ! だから、大船に乗った気で安心して仕事こなしてくださいよ! 景勝“姐さ―――フゴォッ!?」

 

左近の言葉は最後まで続かなかった。

その前に、景勝が持っていた大盃を電光石火の速さで投げつけて、それが鼻にクリティカルヒットしたのだった。

間抜けな悲鳴を上げながら左近は障子を突き破り、縁側へとひっくり返る。

 

「誰が“姐さん”だ!! オレは女を捨てたと何度も言ってんだろうが!! いい加減、覚えねぇとテメェの竿と玉を引きちぎって、テメェを女にしてやっぞ! バカ左近!!」

 

「……ほ……ほんと、女扱いされる事には容赦ないっスねぇ………」

 

鼻血を垂らしながら、左近が縁側に倒れたままボヤいた。

その様子を見ていたジャスティは、改めてこの景勝なる “女”武者は『自称“男”』と称するだけあって、女気の欠片もないなと内心呆れていた。

見た目はまさに美人で、袴や陣羽織なんかよりも革系アイテムが似合いそうな雰囲気であるにも関わらず、その言動や気性はまるで荒武者や蛮族のそれに近いものである。

そう思うと、ジャスティはこれが普通の女ではない事が、残念に思えてならなかった。

これで普通の女であれば、あわよくば言い寄る事も考えていたのに…

 

「んで? オレに派手に暴れさせるのはいいとして…その間にアンタらは何をするって言うんだよ? 何も知らされずに陽動役だけ押し付けられるってなら割に合わないぜ?」

 

大盃を手放してしまった為、仕方なく徳利から直接酒を飲み始めた景勝が大谷と皎月院に尋ねる。

すると、大谷と皎月院の目に邪悪な愉悦の色が浮かんだ。

 

「なぁに。関ヶ原で西軍が受けた屈辱への意図返しをしようと考えているだけさ。それも…わちきらなりの“趣向”も凝らした…ね?」

 

すると皎月院は、自分の懐から一つの玉を取り出した。

それは、大谷が妖術を操る際に使用し、そして彼の最大の武器でもある珠であった。

だが、普段であれば星のように白く輝いている筈であったが、皎月院が取り出したそれは、玉の中枢に輝く薄紫色の光の周りに靄のような黒く淀んだオーラが漂っている。まるで彼女が愛用している髑髏水晶に似たような見た目だ。

 

「おぉっ。ようやく出来たか? なかなかに良い“不幸”の仕上がりぞ…」

 

大谷は異様な珠を受け取り、満足気な表情で懐に収めた。

 

「当たり前じゃないかい? その為にあの“小娘”の動向を監察していたのだからね」

 

「なるほど。つまり、効果は間違いなしという事か……あい、わかった」

 

大谷は頷きながら、皎月院から受け取った珠を、妖術で煙の様に消して見せた。

その様子を見ていた景勝は、呆れるように頭を振った。

 

「要するに…また、ろくでもねぇ事企んでいるってわけか? やれやれ。アンタらの趣味ってホント理解できねぇよ…」

 

景勝の悪態に、大谷は表情を変える事なく言葉を続ける。

 

「我らはあくまで西軍の為の策を考えているだけぞ…我とうたが策を弄し、ぬしら五刑衆がそれを実行する…それが我ら“豊臣”のやり方ぞ…」

 

「…実行役のオレ達は、余計な口出しせずに黙って命令に従え…ってか?」

 

景勝が大谷を睨み付けながら言った。

 

「言いがかりであるな…これでも我は、五刑衆(ぬしら)には相応の敬意をもって接しておるつもりぞ?」

 

大谷はその鋭い視線をものともせずに飄々とした言い口で反論する。

そんな大谷を暫く睨んだ後、景勝は小さく舌打ちをしながら口を開いた。

 

「わぁったよ…どのみち、オレぁ五刑衆じゃ末席…末席は末席らしく、余計な詮索はせずに動かせていただくよ。ただし…オレの仕事があくまで“囮”だっていうなら、今回は連中を殺す必要はねぇって考えていいんだな?」

 

景勝が目を細めながら念を押すように言った。

 

「…あぁ。その心配はいらないよ。 その役目を果たすのは、アンタでもなければ、わちき達でもないからね…」

 

皎月院が発した意味深な言葉に、景勝だけでなくジャスティや、復活した左近も疑問を抱いた。

 

「それどういう意味っスか? 皎月院の姐さん?」

 

左近が代表して問いかけるが、皎月院自身も、唯一その意味を理解している大谷も、厭らしい含み笑いを浮かべるだけで、それ以上の説明はしなかった。

 

「………今にわかるさ。とにかく、アンタ達がそれぞれの役目をしっかり果たせば、最高の遊興を見る事ができるとだけ言っておこうかねぇ…」

 

「すべては明日になればわかる…今はまず、段取りの最後の確認ぞ」

 

大谷はそう言って、此度の謀の工程を語りだした…

夜も深くなり、座敷の窓からは天上に浮かぶ2つの月の明かりが差し込み、妖しい鮮やかな座敷に神秘的ながらも面妖な雰囲気を加えているかのようであった―――

 

 

同時刻…

 

六課隊舎ではそれぞれに明日の模擬戦に向けて、消灯時間まで1時間を切った今になっても、フォワードチームは各々準備や最後の自主練などを行っていた。

機動六課隊舎地下にあるトレーニングルームで、スバルは家康の指導の下、模擬戦前の最後の自主訓練を行っていた。

 

「はぁ!」

 

バンッ!

 

「せいや!」

 

バンッ!

 

「とりゃああ!!」

 

バンッ!

 

家康の片手に着けられたミットに、スバルは必死に正拳を繰り出していき、その度に大きな衝撃音がトレーニングルームに響き渡る。

 

しかし、それを受ける家康はいつもと違い、なにか懸念するような難しい表情を浮かべていた。

 

「そこまで」

 

家康がミットをつけていない手を差し出して止めると、スバルは息を切らしながら拳を下ろした。

その表情はやけに暗く、いつもの強気で明るい姿勢が見当たらない。

 

「スバル。一体どうしたんだ? 今日のお前の拳は、いつもよりキレがないぞ」

 

「ご…ごめんなさい…」

 

家康がそう指摘するとスバルはどこか上の空な雰囲気の口調で謝った。

 

それを見た家康は、何かを悟ったのかミットを外し始める。

 

「少し休憩しないか?」

 

「はい…」

 

家康に諭され、スバルはその場に腰を下ろし、休み始めた。

家康も羽織っていたトレーニングジャージの上着を脱ぐと、その場に腰かけた。

 

「ほら、水はしっかり飲んでおくんだぞ」

 

「ありがとうございます…」

 

家康は微笑と共にペットボトルの水を渡すが、それを受け取るスバルの表情は相変わらず暗い。

そんな彼女を見て、その理由を察した家康は、この一週間の間敢えて直接触れる事を指していた話題について思い切って切り出してみる事にした。

 

「スバル」

 

「は…はい?」

 

「最近…どうなんだ? ティアナの様子は?」

 

「!?」

 

家康の問いかけに、一瞬ビクッと身体を震わせたスバル。

 

「え、えっと…それは…」

 

そう言ってごまかそうとするスバルだが、その狼狽する様子から、事は決して好転しているわけはないと家康はすぐに理解できた。

 

「……やはり。仲直りはできないままか?」

 

「…………はい」

 

スバルは観念したように、小さく頷きながら話し始めた。

先週、ティアナを怒らせて以来、スバルはずっとティアナと話す機会も無いまま…否、機会はあったがその度にティアナが拒絶してスバルから逃げてしまっていた。

そして、何も話せないまま、ティアナはこれまで以上に過酷なトレーニングを繰り返しており、スバルもなかなか自身のトレーニングに集中できないでいた。

スバルの話だとティアナは合同訓練や仕事の時以外は、ほとんど誰とも話そうとせずに一人、中庭や訓練所などで模擬戦に向けた新戦術の考案や、自身の身体の強壮などに精を出していた。

だが、それはなのは達が懸念していたように訓練とは名ばかりのほとんど自身の身体を痛めつける形に近い、無謀かつ危険なものであった。

 

「やはりそうか…ワシもここしばらく、ティアナを訓練所や仕事場以外で見かける事がないとは思っていたが…それで、今ティアナはどこにいるんだ」

 

「多分、いつもの場所にいると思います。一緒に来てくれませんか?」

 

そう言うとスバルは家康の手を引いて『ある場所』に連れて行った。

 

 

機動六課隊舎裏庭――――

 

バシュ!バシュ!バシュ!

 

「ううぅ……!?」

 

ティアナは一人隊舎の裏庭で、訓練用に調節された魔導レーザー発射装置付きの疑似標的の前に立ち、そこから放たれるレーザー攻撃をあえて受ける事で、敵の攻撃に耐えながら走る訓練を行っていた。

しかし、訓練用とはいえそのレーザー攻撃の威力はそれなりのものであり、ティアナの体には軽いとはいえ、火傷の痕がいくつもできていた。

 

「ひどいな…まるで自分に拷問をしているみたいじゃないか…」

 

家康、スバルは、そんなティアナを遠くから見守り、言葉を失っていた。

 

「私も何度か注意しようとしたのですけど…ティアは聞く耳すら持ってくれなくて…」

 

スバルが肩を落としながら、説明した。

 

「ティアは…私やエリオ、最近のキャロみたいに自分も近接戦闘の要となろうと考えているみたいです」

 

「近接戦闘を…!? 確かにそれは理に適ってはいるが、正直飛び道具を得物に使うティアナでは…」

 

家康が率直に自分の感想を口に出すと、それに同調するようにスバルも頷いた。

 

「私も、せめて家康さん達みたいにちゃんとしたプロの人から教わるのならまだしも、ティアがやろうとしているのはインターネットやマニュアル本などを聞きかじって研究しただけの完全な独学…しかも、なのはさんが教えてくれている事と…」

 

「完全に逆の事をやっている…というわけか…?」

 

「はい…」

 

家康とスバルはティアナに気づかれないように、気をつけながら、その場を離れながら、話を続けた。

 

「あの様子だと、ティアナは明日、この1週間で身につけた自己流の“近接戦闘”を披露する気なのだろうな…」

 

「はい。しかも只でさえ、無理を重ねているから身体だってボロボロなはずなのに…そんな事をやったりすれば…」

 

「けれども、やっぱりティアナはスバルが止めようとしても、聞き入れてくれなかったのか?」

 

家康の問い掛けにスバルは暫く口を閉じ、沈黙する。

彼女の態度に家康が再び口を開こうとした時…

 

「いえ…“止められなかった”んです…」

 

「スバル?」

 

スバルが己の不甲斐なさを自嘲するかのように悲しげな表情を浮かべた。

 

「このままでは良くない事は、わかっています。だけど、ティアが必死に頑張っているのをわかっているからこそ…ティアを止める事ができない…私はティアの親友なのに…親友なのに何の力にもなってあげられなくて…どっちつかずな事しかできなくて…つらいんです…」

 

「スバル…」

 

スバルはそれっきり何も話さなかったが、家康は自然と彼女が泣いているようにも見えた…

そんな彼女の心中を察してか、家康は黙ってそれを見守る事しかできなかった…

 

 

「…I got you。確かにスバルの気持ちもわからなくはねぇな…」

 

「あぁ…情けない話だが…だからこそワシも結局、具体的な妙案を呈する事ができなかった…」

 

その日の深夜―――

皆が眠りについた頃…家康は政宗を隊舎屋上へ呼び出し、話し合っていた。

内容は言うまでもなく、この一週間のティアナの様子と、明日の模擬戦についての懸念だった。

先週、共になのはからティアナの過去を聞かされて以来、アグスタでの任務をきっかけに、これまでにも増して無茶に走るようになったティアナを、政宗達もそれとなく案じている事を知っていた家康は、手始めに六課に身を寄せている武将達の中で一番付き合いの長い政宗に相談してみる事にしたのだ。

 

「ティアナが強くなりたいという気持ちは理解できるし、現に新しい戦法を習得する事も決して間違ってはいない。だが、その為に無理を重ねて体を壊してしまったら元も子もないんだ。それをどうしてやったら、ティアナがわかってくれるか…」

 

そう腕を組みながら唸る家康に、政宗が口を開く。

 

「…本当に改めるべきなのは、ティアナ(あいつ)だけだと思うか? 家康」

 

「ッ!? どういう意味だ? 独眼竜」

 

家康が尋ねる。

 

「…俺は、ティアナがここまで無茶に走っちまっているのは、なのはの説法もいけなかったんじゃねぇかと思うがな?」

 

「なのは殿の?」

 

家康が聞いた。

まさか、ここでなのはの名前が出てくるとは思っていなかったからか、唖然とした表情を浮かべている。

 

「実は…こないだヴィータの見舞いに行った時にな…」

 

政宗は、なのはから聞かされた彼女の過去と、それに纏わる彼女のフォワードチームへの教導方針について、一部始終を家康に説明してあげた。

 

「…そうか。 なのは殿も、なのは殿なりに考えて、スバル達を思っていたというわけか」

 

なのはが想像していた以上に重い過去を抱えていた事に驚かされながらも、家康はなのはなりの優しさに感銘を受けるように呟いた。

だが、政宗はそれを快く思っていないのか、顰めっ面を浮かべ、切り捨てるように反論した。

 

「そうだな。確かになのはも考えてやがる。…だが、逆を言うとアイツは『考えてる』だけで、それを上手く伝えきれていない…恐らく、自分の考えに基づいたTeaching Menueを受けていれば、自ずと理解を得られる。自分がそうして学んできたように、自分が目を付けたティアナならできる……そう考えてはいるんだろうが…」

 

「……実際、ティアナの心はなのは殿が思っている以上に繊細であると…?」

 

「でなけりゃ、そんな無茶に走るわけがねぇだろ?」

 

政宗がきっぱりと言い放った。

 

「確かにお前と同い年で、“Ace of Ace”なんて称号も得ているなのは(アイツ)は大したもんだ。実力も本物だし、人間的にも良く出来てる…もし日ノ本にいれば伊達にscoutしてもいいくらいだ。だがな、Teacherとしては少々不器用なのが玉に瑕だと思うぜ…」

 

「…独眼竜もなかなか手厳しいな」

 

苦笑を浮かべながら述べる家康に、政宗は「不器用な奴はここにもいたか…」と小声で呟きながら溜息をついた。

 

「あのなぁ、家康…こういう事について、outfieldの俺達はより中立的な立場でいないといけないもんだろうが? いくら、愛弟子のスバルを案じていようが、片一方の当事者(ティアナ)だけに目を向けていても解決の糸口は見えないぞ?」

 

「わ、ワシは別にティアナだけを注視していたわけでは……!?」

 

「ないって言えるのか?」

 

政宗が隻眼で睨みながら、詰問する。

家康は言葉を詰まらせ、しばしたじろいだ後に、観念した様に小さく頷いた。

 

「………いえ…してました…」

 

「OK。素直でよろしい」

 

家康は、「やはりこの男だけは敵であろうが味方であろうが敵わないな」と苦笑を浮かべるのだった。

 

「とにかくだ…明日の模擬戦は必ず荒れるぜ…なのはには一応俺からnailを打っておいたが、問題はティアナだ…アイツが無茶に走りすぎてとんでもねぇtravelが起こる気がしてならねぇ」

 

「うむ…ワシもそれが心配なんだ」

 

「もしもの時は俺達が止めに入るしかねぇさ。とにかくアイツらに今必要なのは、面と向かって話し合う事だ。お互いにこのまますれ違っていればどうなっちまうか…せめて、明日の模擬戦でアイツらも少しはわかるといいんだがな…」

 

「…………そうだな」

 

どこまでも中立的な姿勢を崩さない政宗に対し、ややティアナ寄りに案じてしまう家康は複雑な面持ちを浮かべる。

結局、この会話でもそれ以上の打開策が上がる事はなかった。

 

そんな彼らの話をもう一人聞いている人間がいた。

 

「なるほど…とりあえず、徳川と独眼竜の両旦那方も同じ気持ちってわけか…」

 

佐助である。

屋上の出入り口部分の屋根の裏手の死角に隠れながら、政宗と家康の会話を一部始終聞いていたのであった。

 

「本当にどうなる事やら…明日の模擬戦……」

 

佐助は皮肉っぽく笑うと、長居は無用といわんばかりにフッと姿をくらますのだった……

 

 

そして翌日――――

訓練所ではいつもの訓練よりも、さらに複雑な構造の廃都市が出現していた。

今日の訓練は今までの特訓の成果を試す意味を込めて行う為だけあって、その舞台となる場所もいつも以上に難関で広大なコースが用意されることとなった。

まず初めになのはは、スターズ分隊であるスバルとティアナを相手にする事となった。

その間、エリオとキャロはヴィータ、そして見学に来た家康、政宗と共に廃墟の一角のビルの屋上から訓練の様子を伺う事になった。

 

「じゃあ二人共、準備ができたら早速始めるから」

 

「「はい!」」

 

スバルとティアナはそれぞれデバイスの準備をするが、その間も二人の間に会話はまったくなかった。

 

「ねぇ、ティアあのね…」

 

スバルが思い切って話しかけようとすると、ティアナはそれを自分の言葉で遮ってしまう。

 

「スバル。準備ができたらさっさと始めるわよ」

 

「う……うん……」

 

そんな彼女の態度にスバルはため息をつくしかなかった…

 

 

「大丈夫かな? スバルさんとティアさん…」

 

「ここ数日、一緒に訓練してるの見てなかったしね」

 

キャロとエリオは二人の様子を見ながら、それぞれに不安を覚えていた。

彼らもまたティアナの行動が最近おかしくなっている事に気づいていた為、やはり今回の模擬戦にはただならぬ雰囲気を感じていた。

 

そしてそれは前夜に話し合いながらも具体的な答えを見出す事のできなかった家康や政宗も同じだった。

兄の無念を晴らす為に“強さ”に執心し、無茶な訓練を繰り返すティアナと、確かな信念を持ちながらも、そんな自分の想いを訓練方法でしか伝えられていないなのは…

二人の不器用さが悪い意味で合わさった事で、すれ違い、そして周囲をも巻き込んで不和長音が生じているスターズの模擬戦が果たして、どんな結果を生む事になるか…?

少なくとも平穏に終わる事はないと家康も政宗も確信していた。

 

一体どんな事になるのやら…

 

「なぁ…独眼竜」

 

「なんだ? 家康」

 

家康は、隣に立っている政宗に話しかける。

 

「昨日“もしもの時は止めに入る”と言ったが、一体いつ程に止めたらいいのだろうな?」

 

「Beats me……まぁ、少なくとも流石に命に関わるようなoverな技繰り出したら、動くべきかもしれないが…」

 

政宗はそう答えながら、スバル達の方を一瞥し、すぐになのはの方に視線を変える。

 

「アイツの頭の中でどんなplanが考えてあるのか知れねぇが、まずはそいつを拝見ってところだ。それから、そいつを見たなのはがどんな反応を示すかで、俺達も動く…それが一番の方法だろうな」

 

「なるほどな」

 

政宗の提言に家康が頷いていると、後ろから2人の人間が屋上に上がってくる。

 

「すまぬ。遅くなったでござる」

 

「もう模擬戦始まっちゃってる?」

 

幸村とフェイトであった。

 

「ん? エリオはまだなのか?」

 

「はい。今は、なのはさんとスバルさん、ティアさんとの模擬戦で…」

 

エリオの言葉を聞き、幸村とフェイトが上を見上げると、そこには戦闘前の準備を行うなのはの姿があった。

 

「私も手伝おうと思ってたんだけど…」

 

「俺やヴィータもそう言ったんだ。でもなのはの奴、一人でも大丈夫だからって俺らは見学ってわけさ」

 

政宗がつまらないのか、自分も参戦したくてうずうずしているのか、物足りなさそうに話す。

 

「そうなんだ。 でも本当はスターズの模擬戦も私が引き受けようと思ったんだけど…」

 

「あぁ、なのはもここんとこ訓練密度濃いからな。 少し休ませねぇといけねぇんだが…」

 

「そうでござるな。なのは殿はここ一週間ずっと働いてばかりに見えるでござるしな」

 

フェイトとヴィータが話し合っていると、幸村も同意する。

 

「部屋に戻ってからも、ずっとモニターに向かいっぱなしなんだよ。訓練メニュー作ったり、ビデオでみんなの陣形をチェックしたり……」

 

「随分、熱心にforwardの連中の事を考えてるじゃねぇか…なのはは…」

 

フェイトの話を聞きながら政宗は、天上に上がるなのはに対して複雑な面持ちを向けた。

 

(そこまで考えてやっているなら……なんでその気持ちを直接伝えられないんだよ…? …なのは)

 

政宗の今の胸に燻るのは“もどかしい”気持ちだった。

なのはの気持ちと、ティアナの気持ち……両方の心中を知った者からしてみれば、この問題を解決する為に一番有効的且つ安易な方法は『お互いに面と向かう』事の筈。

それをなのはだってわかっている筈なのに、それをしようとしない。

勿論、彼女なりにそれも考えての事なのは理解できる…理解できるからこそ……

 

(shit! 俺達は黙って見守るか止める事くらいしかできないっていうのかよ…!!?)

 

いつの間にか、もどかしさは苛立ちになっている事に政宗は気がついた。

勿論、これはなのはに対してだけの苛立ちなどではない。

方法がないとはいえ、ただこうして静観する事しか、自分達“外野”の人間には出来ない事なのか…わからないでいる自分の不甲斐なさに苛立ちを覚えていた。

 

その時、幸村がある事に気がついた。

 

「ところで各方…佐助を見てはおらぬか?」

 

「猿飛だって? そういえば今朝から見てないような」

 

家康が辺りを見渡しながら答えると、それに続いてヴィータが片眉を持ち上げて首を傾げながら言った。

 

「小十郎の奴は、今日はシグナムと一緒にはやてから用事頼まれてるっていうから来られないって聞いていたけど…佐助は知らねぇなぁ」

 

 

同時刻・訓練所内仮想廃都市 某廃ビルの屋上―――

家康とヴィータは、佐助は来てないものだと思っていたが、実は佐助は既に別の場所から模擬戦を見学していた。

 

「さてと、ティアナはどう出るかねぇ…まぁ、碌に連携も成ってない今の状態じゃ確実に問題行動に走るだろうな…」

 

 

佐助は、仮想廃都市内にある半壊したハイウェイの上空と地上に分かれて対峙するなのはとスバル、ティアナを見据えながら呟いた。

 

「じゃあ…訓練開始!!」

 

なのはの掛け声と共に模擬戦は始まった。

 

「スバル! アンタはそのまま正面から、なのはさんの前に出て攻撃して!」

 

「えぇ!? で、でも…」

 

「いいから!」

 

ティアナの強引な指示に戸惑いながらもスバルは、言われた通りに動いた。

スバルがウィングロードで、なのはのいる空中へ向かうと、ティアナは地面に降り立ち、上空にいるなのはに向かってクロスミラージュを構える。

 

「クロスファイヤー…シュート!!」

 

ティアナの掛け声とともに十数個の光弾が撃ち出された。

 

「!?…おかしいな。なんか、キレがよくねぇな」

 

「確かにそうだな。なんというか…弾速が少し遅いような…」

 

ヴィータと家康はいつもとは違うティアナのクロスファイヤーシュートに違和感を覚える。

 

「コントロールは、いいみたいだけど……」

 

「…………………」

 

フェイトはそうフォローを入れるが、政宗は難しそうな顔つきで模擬戦の様子を見据えていた。

 

当然ながら光弾は、すぐになのはに察知され、なのははすぐにその場を離れて回避する。

すべての弾を回避したと同時に、自身の目の前にウイングロードが現れ、その反対側からこちらに向かってくるスバルの姿があった。

 

「フェイクじゃない…本物!?」

 

なのはは自分に向かってくるスバルがティアナの魔法で造った幻影でなく本物だと見破るとすぐに迎撃の態勢を取った。

すかさずアクセルシューターを放つなのはに、スバルはとっさに回避行動をとる。

 

(やっぱり正面からは危険すぎる! ここは一度降下すると見せかけて、横からスピットバンカーで…)

 

スバルはなのはの放った光弾を避けながら必死に頭の中で攻撃法を考えようとするが…

 

「!?」

 

突然、アクセルシューターを放っていたなのはが何かを察知すると、スバルへの攻撃を止めて、後ろに回避する。

 

「え!?」

 

突然のなのはの回避行動に驚くスバルの前を、オレンジ色の光弾が横切った。

 

「うわぁぁ!?」

 

突然の攻撃にスバルが驚いた拍子に、片足を踏み外してしまい、そのままバランスを崩して落下してしまう。

しかし、なんとかその前に別のウィングロードを形成する事で地面への転落は回避した。

 

「コラ!スバル! ティアナ! 模擬戦なのに二人とも全然連携が成ってないじゃない!」

 

「す…すみません!」

 

なのはに怒られ、スバルは慌てて謝る。

一方返事もしないティアナになのはが、光弾の飛んできた方向を見ると、ビルの屋上にいたはずのティアナが突然フッと消えてしまった。

 

「!?…今狙撃したティアナは幻影!?」

 

まさかの展開になのはが驚いている間に、ティアナはウィングロード上を走り、なのはに迫っていく。

 

 

「おいおいマジかよ…Stand playにも程があるだろうが」

 

「ティアナ…」

 

あまりにも独断かつ危険なティアナの行動に言葉を失う政宗と家康。

 

(あんなに息の合わない二人は初めてかもしれない…これはちょっと、マズイかも…)

 

(おいなのは!! やめさせろ! 2人共チームプレイがなってないから危険だぞ!)

 

さすがのフェイトも危機感を覚え、ヴィータは空中にいるなのはに念話を送り、模擬戦の中止を呼びかけた。

だがなのはは、黙ってティアナの攻撃を待ち構える。

 

「!?…お、おい…なのは!?」

 

政宗は、なのはがこれから起こそうとしている行動の意図を察し、制止しようとした。

その時だった―――

 

「おい!なんだよあれ!?」

 

突然、ヴィータが声を張り上げた。だが、その言葉と視線はなのは達の方へ向けられてのものではない。

政宗達がヴィータの視線を目で追っていくと、彼女の狼狽した言葉の意味が理解できた。

何となのは達のいる仮想空間の廃棄都市の至る場所に正体不明の淡紫色の菱形の魔法陣が浮かび、そこから真っ白な霧が立ち込め、なのは達のいる場所を覆い尽くさんとしていた。

 

「なのは――――ッ!!?」

 

フェイトが慌ててこの異変を廃棄都市にいるなのは達に呼びかけようとしたが、その前になのは達の姿はあっという間に白い霧に包まれて、見えなくなってしまった。

 

「Shit!!」

 

嫌な予感を抱いた政宗はビルの屋上から飛び降り、霧の中へと飛び込んでいった。

だが…

 

「なにっ!?」

 

すぐに屋上の周りを包まんとしていた霧の中から出てきて、元居た場所に逆戻りしてしまった。

 

「独眼竜!? これは一体!?」

 

家康が困惑しながら尋ねる。

 

「わからねぇ…だが、コイツはただのfogじゃねぇ……」

 

政宗が顔を顰めながら答える傍で、フェイトとヴィータは念話で、なのはや隊舎の司令室との交信を試みていた。

 

「……ダメ。念話も全然繋がらない…」

 

「って事は、やっぱり目眩まし目的の幻術魔法か…? 畜生! 誰が一体なんの為に!?」

 

ヴィータが苛立たしげに舌を打ちながら呟いた。

すると、それを聞いたエリオが戸惑いながら問いかける。

 

「でも、確か隊舎の敷地内はこないだの襲撃騒ぎの後から術式対策も含めて警備体制を強化させた筈ですよね?」

 

「あぁ。だから、戸惑っているんだろうが。自慢じゃねぇが、六課隊舎(ここ)の施設自体はちょっと古いけど、警備システムは対魔法術式をとっても完璧に強化しておいた筈だぜ? 少なくとも、あんな大掛かりな仕掛けを幾つも張るなんて事ができるわけがねぇ」

 

「でも…現にこうして……」

 

すっかり、辺り一面が真っ白な霧に包まれてしまった景色を見渡しながら、家康が呟く。

 

「こ、これでは、下手に動く事さえもできぬでござる!」

 

幸村がそう言うと、フェイトや政宗、家康達は悔しそうに顔を顰めた。

 

「くぅっ! 一体どうすれば…!?」

 

家康が拳を握り固めながら、打つ手のない状況に焦燥感を抑えきれずにいた。

今、彼らにできる事は、この霧のどこかにいる筈のなのは達の無事をただ、祈るしかなかった――

 

 

 

時は少し前に遡る―――

 

 

「……はぁ、やっぱり予想通りか…仕方ねぇ、やっぱり俺が止めるしかなさそうだな…」

 

別の場所から模擬戦を見守っていた佐助が、あまりにもひどい戦いぶりにため息をついた。

 

「全く…それじゃあ行――――」

 

佐助がそう言い掛けた時、突然佐助のいた廃墟ビルの周りを白い霧が包み込むように立ち込めはじめた。

 

「ッ!? こ、コイツは…ただの霧じゃねぇな!?」

 

佐助はとっさに大手裏剣を構えて警戒する。

気がつくと、あっという間に周りは白い霧で覆い尽くされて、なにも見えなくなってしまった。

だが、家康達と違い、隠密行動を主とする忍である佐助はこれくらいの霧であれば、辛うじて周囲にあるものの影形を捉えるだけの視力と第六感を持っていた為、なのは達や家康達よりは狼狽えずにいた。

 

「訓練用の“しみゅれーたー”って奴でもなさそうだし…こんな大仕掛けを考えるやつは…大体予想がつくけど……」

 

佐助はそう呟きながら、廃墟ビルの屋上の端ギリギリの場所に立つと、両目を閉じて、片足を反対の足膝に乗せるように組んで片足立ちのポーズを取ると、そのまま何かを感じ取るようにしばし、瞑想する。

 

「…………ッ!? そっちか!?」

 

刹那、固く閉じられていた佐助の両目がカッと開かれると、大手裏剣を携えると、躊躇いなく屋上の端を蹴って、真っ白な霧の最中へと身を躍らせたのだった。

 

 

 

 

そして、この奇怪な霧が訓練所を覆い尽くした時―――

なのは、スバル、ティアナは何をしていたのかというと……

 

「フィールドを突き抜けて…一気に攻め落とす!…これが私の編み出した一撃必殺―――ッ!?」

 

ウィングロードを走りながら、勝利を確信し、なのはの方を見据えようとしたティアナだったが、目の前に広がっていた光景を見て、愕然とした。

何と前方のウイングロードの真上に、先程までは無かった筈の魔法陣が形成され、そこから季節外れの冷たい霧が湧き上がっていたのだった。

 

「ッ!? なのはさん!!」

 

嫌な予感を抱いたティアナは、模擬戦中である事を忘れ、大声を上げた。

 

「えっ!?」

 

明らかに危機感に満ちた彼女の声に、顔を俯かせて待ち構えていたなのはも我に返る。

よく見ると、魔法陣は仮想廃都市の各所に浮かび、そこから氷の粒の混じった霧を放出させていた。

スバルもこの異常事態に、攻撃の手を止めると、なのはとティアナの元に駆けつけながら訪ねた。

 

「なのはさん!? これも模擬戦のシミュレーションのひとつですか!?」

 

「うぅん。ここまで過酷な環境シミュレーションはまだこの訓練所のプログラムには入れてない筈だよ……」

 

なのはは頭を振りながら否定すると、辺りを見渡しながら、レイジングハートを握る手に力を込める。

気がつくと、辺り一面が朝霧に包まれたかのような濃霧状態となり、政宗達のいるビルがどの方角にあるかさえもわからなくなってしまっていた。

 

「どうなっているの……! 何にも見えない……」

 

なのはは、訓練所内にいる筈の政宗やフェイト、ヴィータの名前を呼ぶが…。

 

「なのは!? スバル!? ティアナ!? 皆、無事!?」

 

白い壁のように張られた霧の向こう側から、フェイトの声が聞こえてきたが、その姿はまるで見えなかった。

 

「……い、一体なんだっていうのよ……?」

 

大事な模擬戦に水を差された怒りか、ティアナが苛立たしげに呟く。

 

「とにかく、2人共。模擬戦は一旦中断。 まずは霧の中から退避してフェイト隊長達と合流して―――」

 

なのはが手短に2人に指示を出していたその時だった―――

突然、なのはの背後の霧の中からなのはに飛びかからんとするひとつの人影が浮かび上がった。

 

「なのはさん! 後ろです!!」

 

「ッ!?」

 

真っ先にそれに気づいたスバルの声に、反応し、なのはは咄嗟に身体を横に逸らす形で飛び退いた。

直後、なのはが居た場所に巨大な剣…というよりは斧の刀身のような物体が振り落とされ、地面に打ち当たると、巨大な亀裂が古びたアスファルトに蜘蛛の巣のような形を描き、走った。

 

「へぇ~。この霧の中でオレの一撃に気づくなんて…中々やるじゃねぇか」

 

いつのまにかそこにはくすんだ青色の袴を履き、白と水色の陣羽織を羽織った1人の武者姿の女が立っていた。

女は地面に食い込んでいた斧のような形状の大剣を引き抜き、肩に担いだ。

彼女の身の丈と同じくらいの大きさを持ち、まるで巨大な鉄の塊をそのまま削り出したかのような重量感溢れる外見の大剣は、殆どまともな手入れをしていないのか、刃の部分は刃こぼれが目立つばかりか、所によっては刀身の腹近くまで抉れてしまっている箇所やさらしを巻きつける事で突貫的な補強を施している箇所までも見受けられ、とても刀剣の本来の役割である『斬る』『刺す』事には使えなさそうに見えるが、それでもその重量を活かした鈍器としては十分な武器となりうるであろう。

そんな代物を軽々と掲げながら、女はニッと不敵な笑みを浮かべた。

 

見慣れない女の登場に、なのは、スバル、ティアナはそれぞれデバイスを構え、臨戦態勢をとった。

 

「この世界の服装じゃない…まさか、アンタも豊臣の…!?」

 

女を殺気を込めた目つきで睨み、構えるティアナ。

その鋭い視線に臆する事なく、女は不敵に笑うと担いだ大剣で肩を軽く叩いてみせた。

 

「へぇ~、話の早いやつらだな。だったらいちいち名乗るのは必要ねぇとは思うけどよぉ、一応武人として名乗りくらいは上げておかねぇとな…」

 

話しながら、女の眼光が鋭くなっていた。

 

「オレは『豊臣五刑衆』第五席“上杉景勝”! …んでもって、テメェらが『機動六課』の高町なのはとスバル・ナカジマって奴らか?」

 

「「えっ!?」」

 

女―――景勝から、いきなり名前を言い当てられ、なのはもスバルも困惑する。

すると、2人が戸惑っている間に景勝は、ニッと口の端を吊り上げながら、大剣を構え直すと、2人に向かって駆け出した。

 

「しゃらあああああああああああぁぁぁぁ!!!」

 

「なのはさん!!」

 

向かってくる景勝に、咄嗟に反応したスバルが、リボルバーナックルを振りかざしながら跳びかかる。

 

「スピットバンカー!」

 

スバルのオーラを纏った拳が景勝の顔を捉え、鋭く突き出されるが、景勝は大剣の腹でそれを防いだ。

 

「へへっ! いい腕してるじゃねぇか! 大谷の野郎が警戒するだけの事はあるか!フンッ!」

 

景勝はそう言って、大剣を振り上げると、スバルは空中に投げ出されるが、どうにかバク宙を決めながら、うまく態勢を立て直すと、ウィングロードに着地した。

 

「オラアァァァァ!! もう一丁!!」

 

すかさず、景勝は追い打ちと言わんばかりに、大剣を構え突撃を仕掛けてきた。

なのはとスバルはすぐに障壁を張って防ごうとするが、景勝はなのはの前に立っていたスバルを軽々と飛び越えると、そのまま後ろにいたなのはの張った障壁に、力の籠もった斬撃を何回も浴びせる。

 

「あぁっ!?」

 

「もらったぁぁぁ!」

 

あっけなく障壁が壊され、隙ができたなのはに、景勝の斬撃が振り下ろされる。

すかさず、レイジングハートで景勝の大剣を防ぐが、慣れない鍔是り合いに腕が小刻みに震える。

 

「貴方も…『豊臣五刑衆』…一体、どうやってここに……!?」

 

「ヘッ! 悪ぃな。そこは西軍の軍事機密なものでな…… それにオレにとっちゃ、初めてのこっちの世界での初陣なんだ! 余計な御託は無しにして、好きに暴れさせてくれよ!」

 

なのはの問いかけを笑い飛ばすと、景勝は大剣を押す力をさらに強めてきた。

 

「う…うぅ…!?」

 

「なのはさん!」

 

スバルが慌てて景勝を背後から殴りかかろうとするが…

 

「おっと!!」

 

「キャッ!?」

 

景勝は大剣を押して、なのはを突き飛ばすと、そのまま大剣を逆手に持ちなおしながら、ウイングロードに突き立てた。

 

氷牙鬼(ひょうがき)!」

 

景勝が技名を叫ぶと、なのはとスバルの双方の目の前の地面から巨大な氷柱が筍の様に突き出してくる。

 

「!?…うわあぁ!?」

 

スバルは慌てて障壁を張るが、その拍子でマッハキャリバーの速度が大幅にダウンしてしまう。

その隙を見て、景勝はなのはの前にできた氷柱を大剣で薙ぎ払うと、粉々に砕かれた氷の破片がガラスの如く、なのはに目掛けて大量に降り掛かった。

 

「く…!?」

 

なのははそれを見るなり、後ろに飛び退いて氷片を回避し、ピンク色の光弾を3個出現させた。

 

「アクセルシューター!」

 

なのはは少し離れるように浮遊しながら、景勝に向かって3個の光弾を放つ。

景勝は自分に向かって飛んできた光弾を引き抜いた大剣を軽々と振りかざしながら全て撃ち落としていった。

 

「へぇ~。 今のも回避するとは、アンタもなかなかの腕じゃねぇか」

 

「舐めちゃダメだよ。私はこう見ても伊達に『エース・オブ・エース』の二つ名を持ってるわけじゃないんだからね」

 

なのはは、レイジングハートを構えながら景勝を睨む。

 

「『えーす・おぶ・えーす』…だぁ? チィッ! この世界の言葉は未だによくわかんねぇけど…」

 

なのはの言い放った言葉に、景勝は鬱陶しそうに頭を掻きながらも、不敵な笑みを再び浮かべた。

 

「要するにテメェはオレを飽きさせはしねぇって事だな? 高町なのはさん…よぉ!」

 

そう言うと景勝は素早く駆け出し、なのは胸部に向けて鈍重ながらも鋭い斬撃を放つ。

なのははレイジングハートと小さな障壁を上手く活用しながら、景勝の怒涛の連撃を防いだ。

 

「は…速い…!? そんな大振りな剣なのにどうして!?」

 

「へへっ! 大した速さだろう? コイツは刀身を斧の形にする事で剣撃に速さと重量の双方を併せ持たせた究極の一振り“大斧刀(だいふとう)”『砕鬼丸』だ! 日ノ本でも珍しいこの刀剣を完璧に扱えるのは豊臣傘下でもこのオレだけだ! コイツで斬られる野郎は寧ろ幸運だぜ! アンタもその一人にしてやるよ!」

 

自分の扱う剣…“大斧刀”に相当な自信があるのか、景勝は急に饒舌になりながら、連撃の速度をさらに速めていく。

これだけの重量級の武器を使ってなのはでさえも回避するのがやっとの速さで攻める事ができるのは、即ち景勝が“人外”と呼べる程の腕力の持ち主であるという事を意味していた。

 

「なのはさん!! 伏せて下さい!!」

 

その時、背後から聞こえてきたスバルの言葉に、なのはが無意識に反応して、その場に屈むと、後ろからウイングロードを使って回り込んできたスバルがリボルバーナックルに収束させた気弾を連続で発射し、援護を加えた。

 

景勝は大斧刀を片手に持ったまま、身軽な動きで気弾を避けるとウイングロードから飛び降り、濃霧の中という悪天候を物ともせずに安全に地面に着地を決めてみせると、そのまま霧の中に向かって駆け出し、姿を隠した。

 

なのはとスバルは地表に降りると、背中を合わせるようにして周囲を警戒する。

全く晴れる様子のない霧を見据え、なのはは顔を顰めた。

 

「くっ…!…この霧の中じゃ、射撃魔法も上手く使えない……!」

 

「えぇ。しかも、あの景勝って人…逆にこういう霧の中での戦闘に慣れているみたいで―――」

 

「そういう事だ! 生憎、越後出身のオレにとってこんな霧の中での戦は慣れっこなもんでな!!」

 

スバルの言葉を遮るように、霧のどこからか景勝の声が聞こえてきたかと思うと、なのはの正面の霧の向こうから突然飛び出してきながら、大斧刀を振り下ろしてきた。

 

「危ない!」

 

なのはが叫びながらスバルの背中を押すと、2人はそれぞれ地面を転がるように回避する。

直後、2人のいた場所の地面に景勝が振り下ろした大斧刀が打ちのめされ、衝撃波と共にさっきよりも巨大な氷柱が円形を描くように地面から伸びた。

 

「おらおらぁぁ! もっとオレを楽しませてくれよ!! “えーす・おぶ・えーす”!!」

 

なのはの細い首に狙いを定め、景勝は愛剣の大斧刀を勢いよく振るう。

 

「くっ……!」

 

それに対し、なのはは素早く起き上がると、華麗なバックステップで、もはや斬撃というよりは打撃のような鈍重な太刀筋を避けていく。

 

(くぅっ! やっぱり、接近戦は苦手だな…ッ!?)

 

なのはは心の中で弱音を零しながら、自分に襲いかかる豊臣の新手を名乗る女武者の姿を見据えた。

景勝の細身の体格には似合わない大斧刀であるが、景勝はまるで手足のように操っている。

その猛々しい態度はまさに猛将の名に相応しいものではあったが、その見かけは磨くと非常に華麗な姿になろう女性であった。そんな彼女が何故、男性の名前である『景勝』を名乗っているのか不思議で仕方なかった。

 

「ねぇ! 貴方…一体何の目的でここに!? 狙いは私達!?」

 

「さぁな! さっきも言ったけど、アンタに答える義理はねぇ! それよりもアンタ! さっきから躱すか、防いでばっかじゃねぇか! もっと、この世界ならではの”魔法”とかいう秘術を見せてくれよ!!」

 

一方的に優勢に立って増長した景勝が勝ち気な口調で挑発した。

だが、それの挑発に返答したのはなのはではなかった。

 

「そんなにお望みなら…見せてやるわよ!!」

 

「ん?」

 

どこからか聞こえた声に、景勝が僅かに気を取られたその時―――

その足元の周囲に霧の向こうから放たれたオレンジ色の光弾が着弾し、地表を抉った。

 

「おっと!? なんだぁ…?」

 

景勝が光弾の飛んできた方向に目をやると、そこには霧の向こう側からクロスミラージュを構えてウィングロードをゆっくりと歩み寄ってくるティアナの姿が見えた。

 

「ティアナ!?」

 

「ティア!?」

 

まさかのティアナの乱入に驚くなのはとスバル。

一方、景勝は小さく溜息を漏らしながら、ティアナの姿を見据えた。

 

「なんだテメェ? せっかく、乗ってきたところだったのに水を差すなっての」

 

「そっちこそなんなのよ…? なのはさんと模擬戦の最中だったのに、いきなり割り込んできて…」

 

冷たく、そして怒りを乗せたような言葉を、景勝に言い放つティアナ。

一方の景勝はそんなティアナの言葉を聞くと、呆れるように頭を振りながら、なのはに向かって同情するように言い放った。

 

「随分とまぁ殺気立ったガキだな。そうか…アンタが“ティアナ・ランスター”って奴か? 大谷や皎月院も随分まぁ物好きだな。こんな青臭いガキに目ぇつけるたぁ…」

 

「ッ!?……“青臭い”…ですって…?!」

 

景勝の言い放った一言に、ティアナの怒りのボルテージが一気に急上昇する。

 

「上等じゃない! 豊臣の幹部だか知らないけど、一人で機動六課に乗り込んできたその無謀さを後悔させてあげる!!」

 

「な、何言ってるのティア!? この人、『五刑衆』なんだよ!!」

 

躊躇う事なく、臨戦態勢をとるティアナに、スバルが顔を青ざめながら叫んだ。

 

「だからこそよ!!アグスタで小西行長(コイツの仲間)から受けた屈辱をここで晴らしてやる! 私なりに考えて手に入れたこの新しい“戦術”で!!」

 

ティアナはそう叫ぶや否や、クロスミラージュを乱射に近い形で発砲する。

景勝はそれを余裕で回避すると、軽く舌打ちをした。

 

「やれやれ…めんどくせぇな。 そんなにオレと戦いたけりゃ、まずはこの霧の中からオレを捕まえてみる事だな」

 

明らかに鬱陶しそうな態度でティアナの挑戦を受け入れた景勝は霧の中に向かって駆け出して行った。

 

「逃げるな!!」

 

ティアナは怒りを露わにしながら景勝の後を追い、霧の中へ向かって駆け出していった。

 

「ティア! 待って!!」

 

「待ちなさい、ティアナッ!!」

 

スバルとなのはが慌ててティアナを制止しようとしたが、ティアナは聞く耳を持たず、霧の中へと消えていった。

 

「な、なのはさん! どうしましょう!?」

 

スバルが狼狽しながら指示を仰ぐと、なのはは額に冷や汗を浮かべながら、顔を青ざめる。

 

(ただでさえ、今の状況はティアナにとっては圧倒的に不利…それにティアナ自身まともな精神状態じゃない……このままだと……ティアナは確実に負ける!)

 

なのはのレイジングハートを握る力が数段と強くなった。

 

「追いかけるよスバル! なんとしてもティアナを止めないと!!」

 

「は、はい!!」

 

これまで殆ど聞いた事がなかった怒気の含んだなのはの声に、思わず震えながらもスバルは言われるがまま頷き、共にティアナの後を追って駆け出すのだった。




少し時間がかかりましたが、ようやくリブート版リリバサも”例の”模擬戦編に突入です。

オリジナル版ではここでオリ武将の霧隠才蔵が登場していたのですが、思うようにキャラを引き立てる事に失敗してしまったので、リブート版では役回りを完全に景勝に置き換える事にしました。

ここまでは大体、オリジナル版と同じ展開だと思われる方もいますが、後半は大きく変えていく予定ですのでお楽しみに。
尚、その為に今回同様に更新頻度が下がってしまう可能性もありますが、ご了承下さい。
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