リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
その最中に突如、豊臣五刑衆第五席 上杉景勝が乱入してくる。
同時に訓練所を包み込んだ謎の霧になのは達はそれぞれ分断されてしまう最中、ティアナは溜まりに溜まったフラストレーションが限界に達し、なのはの制止も聞かずに単独で景勝に挑む…それが自分を狙う罠であるとも知らずに……
行長「リリカルBASARA StrikerS 第二十五章 さぁ…フェスタの時間です!!」
ティアナが景勝を追いかけていた頃……
霧に包まれた訓練所の別の場所では更に3人、暗躍する闖入者の姿があった。
「へぇ~…この霧の中であそこまで優位に動けるとは、流石はかの“軍神”の跡取り…無骨者に見えて、中々の戦術家だね」
手に持った髑髏水晶に浮かんだ景勝の姿を見据えながら、皎月院は皮肉めいた口調で呟いた。
彼女の向かいには浮遊する輿に乗った大谷吉継…少し離れた場所の壁際に島左近が両手を組みながら背をもたれさせていた。
3人が今いるのは仮想廃棄都市の一角にある廃工場を模した平屋建ての建物…その一角にある倉庫のような部屋だった。
訓練所の仮想シミュレーターは、それぞれ近中遠全ての距離の戦闘に対応できるように3つのエリアに区分されて設定されている。
ひとつはなのは達のいたハイウェイが真ん中を貫いた空戦などの広範囲を活かした戦闘を想定したエリア、2つ目はビル群が密集し、狭い路地などが入り組んだ隠れる場所が多く屋内戦などの狭い場所での陸戦を想定したエリア、そして3つ目が工場や倉庫などの比較的低い建物が多く、他の2つのエリアの特色をバランスよく併せ持ったエリアであった。そして現在、大谷、左近、皎月院の石田軍三幹部がいる場所はその3つ目のエリアの一角だった。
霧に覆われた訓練所の外では今頃、機動六課のロングアーチ隊の隊員達がこの謎の現象を前に大騒ぎしている頃であろうが問題はない。
この霧は、部外者は自由に出入りする事のできない特殊なものである上に、こちら側に引きずり込んだジャスティの裏工作が上手く行っていれば、霧を強制排除する事もできない筈だ。
「家康達も、あのなのはって姉ちゃんも、景勝“姐さん”の仕掛けた霧の策のおかげで動けないみたいですし…本命の“的”は食いついたみたいですし…作戦は今の所、順調…みたいッスね?」
「うむ。しかし、景勝もなかなか難儀な注文をする…まさかうたに霧を起こす呪文を用意させようとは……」
大谷がやや不満の籠もった声を上げながら、皎月院の方を見据えると、皎月院もわざとらしく疲弊の溜息をつきながらボヤいた。
「全くだよ。毒霧であれば簡単だけど、無害の霧を起こす術はなかなか骨が折れるんだよね。それに面白味もないし…」
「面白味って……相変わらず、言うことが加虐的というか……」
皎月院のドSな発言に引きながら、左近は壁から背を離した。
「それよりも。今のうちに俺達も景勝“姐さん”に合流しないと。あのティアナって子を一人引きつけてる今が絶好の好機じゃないッスか?」
「そうだね。大谷…例の“アレ”は?」
皎月院が尋ねると、大谷は答える代わりに指をパチンと鳴らし、不気味な黒がかった紫の靄を纏わせた珠を指先に出現させた。
「抜かりはない…あとは“的”に相対すればよい…」
「結構。それじゃあ、いこうかねぇ?」
そう言いながら皎月院が倉庫唯一の出入り口の方に目を向けると、そこには1人の迷彩柄の装束を纏った忍が立ちふさがっているのが見えた。
「「「ッ!?」」」
忍の姿を見た3人の顔にそれぞれ警戒の色が浮かんだ。
それは3人共に見覚えのある人物だったからだ。
「これは、これは。お久しぶりですねぇ。石田軍の皆々様」
皮肉めいたニュアンスを込めながら、忍―――猿飛佐助は馴れ馴れしい笑顔と、それとは真逆の殺気を漂わせながら、ゆっくりと3人の向かって歩を進めてくる。
大谷は小さく溜息をつきながら、頭を振った。
「やれやれ…我等の存在が遅かれ早かれ、勘付かれる事はわかっていたが、まさか最初に突き止めたのが“
「まぁね。これでも一時は同盟を組んでた仲だから、おたくらの考えそうな策は大方予想はついていたものでね…前回の黒田軍の潜入作戦が上手くいかなかったから、今度は霧に紛れて潜り込んで、ついでに敵戦力も分断……いやぁ、相変わらず小細工の多い事ですねぇ。だけど…一体何が目的だ?」
話しながら、佐助は口調を急に低く棘しいものへと切り替えた。
「ほぉ? ここは
大谷が白々しく尋ねるが、佐助は頭を振った。
「違うだろ?
佐助の指摘に大谷は動揺する事なく、包帯に覆われた口の端を釣り上げた。
「ヒッヒッヒッ! 真に、主は
「悪いけど…
刹那、佐助が大手裏剣を携えて、閃くように地面を蹴り、次の瞬間には大谷の目の前に迫りながら大手裏剣を首目掛けて振り下ろしていた。
「させっかよ!!」
ガキイイィィン!!
だが、振り下ろされた大手裏剣は大谷の首に届く前に、横から割り込んできた左近の突き出した双刀によって阻まれた。
「刑部さん!ここは俺に任せて、行ってください!」
双刀で大手裏剣を押し返しながら、バク宙を決め、鋭い蹴りを放ちながら左近が叫んだ。
「おやおや。わちきには一言も無しかい? まぁいい…行くよ刑部」
「…あい、わかった。では、ここの足止めは任せたぞ。左近よ…」
その瞬間、皎月院と大谷の周囲をどこからともなく発生した霧が覆った。
そしてその霧に吸い込まれるように2人は姿をくらました。
消える2人に背を向けたまま、左近は双刀を手の中で回転させながら、不敵に笑みを浮かべた。
「了解っス。 ついでに“裏切り者”を一匹片付けておきますって」
言い放ちながら、左近は双刀を逆手持ちで構えてみせる。
「やれやれ…やっぱりこうなっちまうわけか…俺様正直言うとさぁ、石田軍の中でもあんただけは嫌いじゃなかったんだけどねぇ…」
佐助が残念そうに呟くと、左近は肩を竦めながら返した。
「それはこっちの台詞だぜ。 武田が同盟申し込んできた時にあんたを見た時…なんだか俺とけっこ似てるって気がしてさぁ…正直他人とは思えなかったんだよねぇ…」
「へぇ~。そいつは意外…ってか“上司が堅物”って以外、共通点が見当たりませんけどねぇ?」
「だからさぁ。アンタとはその辺のところ、もっとゆっくり語り合いたいなって思ってたんだけど……武田が東軍に寝返っちまった以上、そうもいかないしな…」
左近は話しながら、少しずつ足を躙り寄せる。
静寂が広い倉庫の中を僅か数秒の間だけ包み込んだ。
そして、どこからともなく、一滴の雫が水たまりに着水する音が聞こえてきた。
それを合図に、左近が地面を蹴り、佐助に向かって双刀を振り上げた。
力の籠もった渾身の一撃が佐助に届く前に、佐助は2つの大手裏剣で二重の斬撃を受け止める。
「“裏切り者は、『死』だけが唯一の報い”…それが、三成様が西軍総大将として唯一定めた鉄の掟だからな。 あんたに恨みはないけど、死んでもらうぜ」
鍔迫り合いながら、左近は低い声で告げる。
「実に簡潔な掟だねぇ…だけど、実にあの凶王さんらしい掟だ。わかった…あんたがその掟に従うなら、そうすればいい…だが俺は、素直に死を受け入れたりはしないぜ?」
佐助は華麗に3回転のバク転を決めながら、距離を空けると、大手裏剣を投げつけてきた。
左近は双刀を順手の持ち変えると、飛来する手裏剣を弾き返した。
佐助はもう一度バク転を決めながら、返ってきた大手裏剣をキャッチして、着地する。
すかさず、左近が反撃に打って出た。双刀を同時に突き出し、佐助の首を狙って刺突を放ってくる。
佐助は身体を撚る事でそれを回避するが、その後も行き着く間もない猛攻が繰り出される。
それをバックステップで避けながら、佐助は内心舌打ちをした。
大谷と皎月院が何を企んでいるのかはまだわからないが、狙いが家康ではない以上、その矛先は機動六課の誰かに絞られる事となる。そして、この模擬戦のタイミングを狙ってきたということは、狙いはスターズの隊員…それも模擬戦中だったなのは、スバル、ティアナの3人の内の誰かの筈―…
焦る佐助だったが、目の前に対峙する思わぬ強敵を前にその救援に向かう事が容易でない事を悟ると、湧き立つ苛立ちをこらえるように歯を食いしばるのであった。
*
「はぁ!…はぁ!…はぁ!……」
相変わらず白一色の視界の中、ティアナは必死で景勝を追いながら、底しれぬ“憤怒”の感情に身を狂わせていた……
(くっ! 次から次に戦国武将、戦国武将って…なんでみんな私の邪魔をしたり、私を罵倒するのよ! 私がアンタ達に何をしたっていうの!?)
霧の中へと消えた景勝を探しながら、ティアナは無意識に身体が震えている事に気づいた。
アグスタで小西行長に完膚なきまでに叩きのめされた時のような底しれぬ“恐怖”とは違う…それは明らかな“悔しさ”からだった。
(凡人……負け犬……青臭い……どうして…どうしてアタシばっかり…!!?)
気が付けば、その目には涙が浮かんでいた。臨界点に達したコンプレックス、そして焦燥感からのストレスが、ティアナから今の状況を冷静に判断させる能力を完全に奪い取っていた。
不意に足を止めると、ティアナは、辺りを包み込む白い霧を忌々しく睨みつける。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
感情を爆発させたティアナは、霧に向かって叫びながら、身体の周りにオレンジ色の魔力のオーラを纏わせると、クロスミラージュから魔力弾を四方八方に向かって我武者羅に乱射し始めた。
もはや、周りに何があるかなんて判別する余裕などなかった。
とにかく敵を倒す…その事しか頭になかった…
やがて、魔力が切れるような身体を包んでいたオーラが切れ、ティアナは息を切らしながら、地面に膝をついた。
辺り一面の地表に魔力弾の弾痕が穴となって残り、吹き飛ばされたコンクリート片が無数に散らばっている。
まるで無差別爆撃の現場のような惨状だった。霧のせいで見えないが恐らくは周りにある建物なども、既に半壊以上の有様になっているのは間違いなかった。
「おいおい。敵の姿も確認せずに撃ちまくりたぁ、無茶苦茶じゃねぇか……」
あちこちに立ち込める魔力弾で生じた小火の煙の間から、歩み寄りながら景勝が霧の中より姿を現す。
その目はティアナの無謀極まりない攻撃に呆れる一方で、目の前にいる獲物を狩ろうとする獅子の如き冷徹な目をしていた。
「“青臭い”とは言ったけど、実際はそれ以上の問題児…みたいだな。アンタ…なにがあったか知らねぇけど、戦場でそこまで荒れちまってたら、命が幾つあっても足らねぇぞ? 悪い事は言わねぇ。これ以上、無駄に食いつかないで、ここらで下がっといた方が身の為だぜ?」
同情心なのか見縊っているからなのかわからないが、見逃すような事を言う景勝だったが、ティアナは激しい怒りと悔しさで歯を強く噛み締め、立ち上がった。
「うるさい! 侵入者風情が偉そうに説教なんて垂れるんじゃないわよ! 私はここでアンタを倒して証明してやる! 私が凡人じゃない! 私だって強いって事を!」
すると、景勝は呆れるように溜息をついた。
「あのなぁ…“凡人”だかなんだか知らねぇけど、そんな安いもんに拘ろうとしている時点で、自分が“未熟”だって証明しちまっているって事に気づかないのかよ?」
「なッ!? なんですって!!」
ティアナが声を荒げ、今にでも掴み掛かりそうな勢いで景勝に詰め寄る。
「自分の良し悪しを力だけで判別しようとしている時点でアンタは“未熟”だって事だよ。力さえ手に入れれば自分は変わるとでも思ってるのか? ん?」
景勝の挑発にティアナの額に青筋が浮かんだ。
「アンタに何がわかるっていうのよ!? 会ったばかりなのに、知ったような口を叩くんじゃないわよ!?」
「いや……生憎だがわかるな。アンタのその目…同じような目をした野郎を、オレは何人も見てきたんだ…どんな理由があったのか知らねぇけど、どいつもこいつも一貫して、“嫉妬”、“劣等感”…そんな負の感情に駆られた野郎は揃いも揃って、自分をなんとか律しようと、一番手っ取り早い方法…“力”に縋ろうとする……」
「………………」
「…そして思い知らされるのさ…我武者羅に“力”で自分を示そうとしたところで、誇りなんざ手に入らねぇ…特に目の前にある大きな背中を追いかけるしかねぇ奴なんかはな……」
まるでティアナの心の中を見据えているかのような景勝の指摘が、ティアナに突き刺さる。
「ふ…ふざけ…ないでよ……私が……そんな弱い心の持ち主とでも言いたいわけ…?」
ティアナは震える声を上げながら、景勝を睨みつける。
景勝の表情は、先程までのなのはやスバルとの戦いで見せていた楽しんでいるような表情ではなく、まるで駄々をこねる子供を相手にしているかのような哀れみさえも感じさせる色へと変わっていた。
「だったらここで見せてやるわよ!! 私は……そんな弱虫なんかじゃないって……! 私だって、戦える事を!!」
目が大きく見開き、クロスミラージュの銃口を向けながら、ティアナが吼える。
そんな彼女の怒る姿に景勝は困惑するように溜息を漏らした。
「やれやれ…そりゃ、大谷達が目をつけたくもなるだろうよ……仕方ねぇ、ちょっとだけ相手になって―――」
景勝が意味深な言葉を交えながら大斧刀を構えた。その時―――
破裂音が霧の中に響いた。景勝の口上と、頬の皮膚を切り裂いて、魔力弾は霧の中へと貫くように消えていった
「なめんな! さっさとかかってきなさい!!」
頬のかすり傷から血が垂れるのを気にも止めず、呆れるように頭を振った。
「とうとうまともな“戦”の作法さえ、わからなくなっちまったのか…? 仕方ねぇ……大人気ねぇかもしれねぇが――――」
刹那、景勝の姿が一瞬歪んで見たかと思いきや、その姿が消える。
どこへ行ったのかと、辺りを見渡そうとしたティアナの目の前に突然姿を現した景勝の振り上げてきた大斧刀の峰がティアナの腹部を打ち据えた。
「ぐふぅっ!? ごばぁあああっ!!」
避けるどころか、障壁魔法さえも張る間もなく、ティアナは口から大量の胃液を吐きながら、その身体は紙でできた人形のように軽々と霧の中へと打ち上げられる。
霧に隠れて見えなかった大きな廃墟ビルへと突っ込み、2つ、3つと壁を突き破りながら建物の奥へと吹き飛んでいき、8杖目の壁を破いたところでようやく大量の瓦礫をクッションにして地面に転がった。
廃墟ビルの前では3階部分に空いた穴から立ち込める砂塵を見据えながら、景勝が大斧刀を担ぎながら、ゆっくりと建物へと歩を進めつつ、呟いた。
「少しばかし、灸を据えさせてもらうぜ……?」
*
そのビルはホテルの廃墟を模しているらしく、ティアナが叩き込まれた場所はロビーのような非常に見晴らしのいい広々とした空間だった。
ティアナはその中のひとつにある柱に激突した事で止まっていた。
「う……うぅ……な、なんなの……? たった一撃であそこまで……?」
ティアナは身体中に走る激痛に耐えながら、どうにか震える足で立ち上がると、クロスミラージュを構え、辺りを警戒する。
先程のなのは達の戦いにおいて、景勝は霧の悪天候と大斧刀の大柄且つ鈍重なフォルムに反した素早い太刀さばきと身のこなしを活かした不意打ちを得意としていた。
幸いにもここは建物の中故に霧を利用した不意打ちは使えないが、それでもどこから攻めてくるかわからない為、ティアナは四方八方と警戒して用心を怠らなかった。
カツン…カツン…カツン…
だが、そんなティアナの警戒を他所に、広間の出入り口の向こう側から足音が聞こえてきたかと思いきや、普通にビルの中を上がってきた景勝が、特に小細工を仕掛ける事なく、普通に広間へと足を踏み入れてきた。
(ッ!? どういうつもりよ…!? なんでアタシにはなのはさんみたいにぐいぐい押してくるような戦いを仕掛けてこないのよ!?)
手加減か、見くびっているのか…? 景勝の意図はわからなかったが、それでもますます腹立たしくなったティアナはクロスミラージュの引き金に手をかけながら、景勝と対峙する。
「まさかとは思うが…銃を使えば、鈍重な剣使いなんて容易く倒せると思ったのか? 生憎、銃ってものは間合いを詰めちまえば、逆に不利になっちまう事くらいわかってるよな?」
「えぇ……勿論、そんな事はわかってるわよ。でも生憎、こっちはそういう事も想定して、こんなのを考えたのよ!」
ティアナはそう言いながら、クロスミラージュのトリガーを引くと、銃口の先にナイフ状の魔力刃が伸びて、形成される。
さながら、その姿は銃剣を取り付けたような状態になった。
「これで接近戦にも対応できる! 見せてやるわ! アタシの鍛錬の成果を!!」
ティアナは叫びながら地面を蹴ると、景勝との距離を詰めながら、魔力刃の伸びたクロスミラージュを突き出す。
それを景勝は身体を逸らすだけで回避してみせた。
「うそ!?……だったら、これは!」
その後もティアナは必死で魔力刃を繰り出し、身につけたばかりの接近戦に挑んでいくが、景勝は、身体の動きだけでティアナの俊足の突きや横薙ぎをいなしていた。
ティアナは苛立ちを表情に浮かべながら新しく身に着けた芸当を必死に振るうが、虚しく空を切る音ばかりが廃墟の中に響いた。
悲しい事に満を持して披露した新技も、景勝からしてみれば、まるで子供の一芸を相手にするかのごとく、完全に軽くあしらわれている事が、ティアナ自身も嫌という程に理解できた。
最早、大斧刀さえも使わない事に、ティアナにとっては余計に侮辱されているような気分になった。
「ちょっと! 真面目に闘うのか、そうじゃないのか、はっきりしなさいよ!」
とうとう我慢しきれずに怒声を上げながら、クロスミラージュから魔力弾を発射するティアナ。
すると、ようやく大斧刀を使って魔力弾を弾き、防ぎながら景勝が呆れた口調で指摘した。
「オマエなぁ…その戦術…昨日今日身につけたばかりだろ? 一目見てわかったぞ。太刀筋がまるで“素人”のそれじゃねぇか?」
景勝の躊躇ない指摘に、ティアナは言葉を詰まらせる。
確かに、クロスミラージュの銃口に銃剣型の魔力刃を付ける事は、今日の模擬戦の為にこの一週間の間に考えついたばかり…技も近接戦マニュアルやナイフ戦術のネット教材などを利用して無理矢理覚えるという突貫工事のような方法で習得したものだった。
「悪ぃが、流石のオレも素人の太刀筋相手にこの『砕鬼丸』を使うほど、武将として腐っちゃいねぇんでな」
「ッ!? どこまで人をバカにしてくれるのよ!?」
ティアナは半ば自棄を起こしながら、クロスミラージュの魔力銃剣を振るう力をさらに速めた。
だが景勝は焦る様子もなく、黙々とティアナの攻撃を受け流し続けている。
そして、景勝が攻撃を逸らした拍子に、サラシの巻かれた胸が、がら空きとなった瞬間…ティアナの目が光った。
「そこだ!」
ティアナが景勝の胸へ銃剣を突き出す。景勝が慣れてきたかのようにそれを後ろに下がる事で逸らしたのを見計らい、クロスミラージュの引き金を退いた。
すると銃口に形成されていた魔力刃が弾状の魔力弾に変わると、そのまま景勝の胸に向かって撃ち放たれた。
この距離ならば、躱せない…ティアナは勝利を確信してほくそ笑んだ。
「ふっ!」
だが、景勝は突然、大斧刀を地面に突き立てると片手で柄を掴んだまま、さっとジャンプを決め、目の前で放たれた筈の魔力弾を回避ると、そのまま大斧刀の柄の上に逆立ちを決めてしまった。
「なにっ!?」
「覚えときな。 武器ってものは、頭だけで使い方を覚えるもんじゃねぇ。身体で覚えるもんだよ!!」
景勝はそう言いながら、大斧刀の柄から落ちる力を利用し、宙で一回転を決めながら、ティアナの脳天に強烈な踵落としを決めた。
「ぐはぁっ!!?」
脳天に強烈な一撃を食らったティアナは、そのまま床を突き破り、そのまま勢いよく2階層分下に落下していった。
大量の瓦礫の破片と粉塵が倒れたティアナへ降り掛かった。
「う……嘘でしょ……なん…で…?」
驚愕と激痛に顔を歪ませながら、ティアナがゆっくりと起き上がる。
そこへ、落下と同時に生じた穴の上から大斧刀を担いだ景勝が飛び降りてきた。
「膨大な定石がある囲碁や将棋のように…武器の数だけそれぞれ応じるべき戦術の定石は存在するもんだ。近接、中距離、遠方…幾多の戦術の中から多数の技を同時に使いこなすのは難しい…それこそ本当に武芸の才能を持った人間にしかできない事だ…よって、自分の
諭すように語りかける景勝を睨み、ティアナは血が混じった唾を地面へと吐いた。
「オマエの問題は…その危険性を考えず、闇雲に慣れない戦術を、付け焼き刃のまま実戦に持ち込むという無謀を働いた事だ。戦でそんなバカを犯して生き残った奴は見たことない」
「私は……バカだって言いたいわけ…?」
「逆に聞くけどよぉ…それがほんとに利口な戦法だとでも思ったのか?」
あくまでも聞き分けのない子供を窘めるような口ぶりで景勝は話していた。
その表情には僅かばかし、同情の念さえも浮かんでいた。
「なにがあったのか知らねぇが…オマエ、なにそんなに焦ってんだよ?」
「ッ!?……焦ってる? アタシが…?」
「あぁ。オマエはここを守る為に戦っているわけじゃねぇ…ただオレをぶちのめして、“勝利”という栄誉を得る事しか考えていない。その周りを顧みない杜撰な戦い方がなによりの証拠だ」
「な、何を…」
「さっきも言ったが、オレは今まで色々な戦を乗り越えてきたけど、特にオマエみたいな奴は嫌という程見てきたんだ。どいつもこいつも “名誉”だの“功名”だの、それぞれ色んな理由から強い“力”を追い求めていた……」
「…………」
「そいつらは決まってこう考えていた…『やり方なんか気にしない。とにかく“結果”を出せばそれでいい。そうすれば周りから認めてもらえる』…まさに今のオマエみたいにな」
「ち、ちが…」
ティアナは必死に否定しようとしたが、僅かに漏れた言葉の先が続かない。
それは景勝の指摘が図星である事を本能的に認めてしまった証拠であった。
ティアナは今日の模擬戦で、先程披露した魔法刃を駆使した付け焼き刃の銃剣戦法による奇襲作戦で挑もうとしていた。
それはなのはの今日までの教えに背く無謀かつ危険なやり方であり、なのは達隊長の皆や家康、そしてスバルからは咎められる戦法である事はわかっていた。
それでもティアナは自らの“強さ”、そして“存在意義”を示す為に、この戦法を選んだのだ。
“無謀者”と罵られても構わない…“卑怯”と蔑まれても構わない…とにかく、ティアナにとっては“結果”を示し、周りを“認め”させる事が第一に考えていた。
それだけに、景勝の指摘は容赦なく彼女の胸に深く突き刺さった。
「だが、結局そんな事したって誰も認めないさ…そればかりか、中途半端に得た力は、より強大な力の前に簡単に捻じ伏せられる事になる…そうすればどうなると思う? そこに待つのは更なる“挫折”だ」
「…さい……」
ティアナが何かを呟いた。ただ景勝は話を続ける。
「少なくとも俺が今まで見てきた奴らは皆、最後は碌な末路を迎えなかった…自分が必死で得たものよりも上回る力や栄誉を前に蹂躙され、心砕かれ、最後は武人としても人間としても、表舞台から爪弾かれるように消えていった…」
「…るさい……」
「このままいけば、オマエだってそいつらと同じ末路を辿る匂いが―――」
「うるさい!」
ティアナが景勝の声を必死に否定するように叫び、クロスミラージュを向けた。
「言わせておけば! 好き勝手言わないでよ! 何なのよその目は?! なんでアタシに対して、皆そんな目を向けてくるのよ!?」
ティアナは押し留めていた感情を爆発させて叫んだ。
ティアナにとって、最も屈辱的な事……それは、どんな叱責や罵倒、そして周囲との戦力差を見せつけられる事でもない……周囲からの“同情”だった……
ティアナは気づいていた……自分が無茶なトレーニングに走ってからというもの、六課の様々な人間が自分を案じてきた事に…
だが、それは皮肉にも彼女の胸に燻るコンプレックスやそれから生じる焦りを余計に増長させるカンフル剤的な役目を担っているに過ぎなかった。
「アタシには……何も無い!魔力も!才能も!支えてくれる家族も!何もないからアタシはせめて……力が欲しい! 強くなりたい! アンタや豊臣軍、そして徳川家康達にも負けないだけの“強さ”を!!」
「………………」
ティアナの悲痛な叫び声が廃墟の中に響き渡る。
するとそこへ―――
力のない拍手がティアナの背後から聞こえてきた。
「――――誰ッ!」
不意に背後から声が掛かり、ティアナは瞬時に後ろを振り向く。
すると、背後に広がる漆黒の闇の中から、担ぎ手のいない輿がスッと滑るように浮遊しながら現れた。
輿の上には全身を包帯で覆い隠した不気味な姿の男が胡座をかいていた。
拍手はこの男によるものだった。
「いやはや…実に崇高な志ぞ……我も感服したぞ。娘子よ…」
「……一目でわかったわ。アンタも“豊臣”の仲間ね?」
ティアナがクロスミラージュの片割れを握る手を輿に乗った男の方に向けた。
そして、もう一度正面に立つ景勝の方を振り返ると、キツく睨みつけた。
「偉そうに“武人”だのなんだの御託を並べていたみたいだけど…結局は二対一でかかろうなんて、アンタも結局卑怯じゃないの?」
「そいつは言いがかりだ。オレはアンタを“おびき出す”ように命令されただけだ。その命令主のコイツが来た以上、オレはもう手は出しはしねぇぜ?」
景勝は謂れのない非難に、不服そうに反論した。
「? どういう事?」
怪訝な顔を浮かべるティアナに輿に乗った包帯づくめの男が語りかけた。
「まぁ、聞け。娘子よ…われはぬしと争う為に来たわけではない……ぬしのその羨望を叶える為の“力”を貸してやろうと思ったまでよ」
「ッ!? “力”を…貸す……?」
「そう……ぬしは“力”がほしいのであろう? 誰からも認められるだけの“力”が…われがそれを与えてやろうと言うのだ」
包帯づくめの男はそう言いながら、どこからともなく不気味な黒がかった紫の靄を纏わせた珠を出現させ、輿の近くに浮遊させた。
ティアナはその珠から放たれる妖艶な輝きに一瞬見とれそうになりながらも、すぐに我に返って、頭を振りながら、景勝に向けていたもう片方のクロスミラージュも男の方に向けた。
「ふざけないで! そんな見るからに妖しい力なんかに縋る程、アタシは落ちぶれてなんかいないわ! 人をバカにするのもいい加減にしなさいよ!!」
ティアナは叫びながら、クロスミラージュの引き金を引いた。
オレンジ色の2つの光弾が男の輿に目掛けて吸い込まれるように飛来する。
狙いは心臓と脳天。直撃すれば一撃必殺の筈―――
「やれやれ…せっかくぬしにとって良い話であると思ったのに……拒否するのであれば仕方ない…」
包帯づくめの男は両手で奇妙な印を切る。すると浮遊する輿の周りに妖しく輝く白い珠が複数個、円形を描くように浮かび上がった。
「“星見始め”!」
男が呪文を唱えるように叫ぶと、周りに浮かんでいた珠が男の乗った輿を守るように前に出ると、飛来した2つの光弾を前に光の障壁を張り、呆気なく光弾を打ち消してしまった。
「ッ!? 嘘でしょ!? アンタもしかして…魔導師!?」
ティアナが信じられないと言わんばかりの顔つきとなり、一歩仰け反りながら包帯づくめの男に向かって叫んだ。
すると、男は静かに首を横に振って否定した。
「否。我の操る法術はこの世界の“魔法”とは異なるものでな…しかし、芸当で見れば同じなのかもしれぬ……例えば、こんな技とかな…」
男はそう言いながら、ティアナ向かって右手の人差し指を指し示し…
「“抑えよ極星”!」
そう言い放った瞬間、浮かんでいた珠が一斉にティアナに向かって放たれる。
ティアナが危険を察し、慌てて飛び退こうとするが、その前に珠がティアナの五体四肢に纏わり付いた。
それと同時に、一瞬にして硬直したかと思いきや、その身体が見えない手で掴み上げられるかのように宙に舞い上がった。
「なっ!? なによ……? これ…!?」
「ヒッヒッヒッヒッ……ぬし達の魔法に例えると“ばいんど”と呼ばれる類の術式と呼ぶべきか…しかし、先にも言ったとおり、これは魔法とは勝手構造が異なるのでの…“ばいんど”と同じ要領で解こうとしても無駄であるぞ?」
包帯づくめの男は不気味に笑いながらそう言うと、両手で奇妙な印を作り始めた。
すると男の真横に浮かんでいた黒紫色の珠がゆっくりとティアナの胸の前に移動してくる。
「な、何する気よ……!?」
「言ったであろう? ぬしに“力”を与えてやると…なれど、ぬしが拒むのであれば致し方ない…」
男はそっと片手を、目の前に浮かぶティアナに向かって差し出しながら、宣告した。
「この“力”……無理矢理にでも味わってもらうぞ?」
「――――ッ!? い、嫌ッ!?」
ティアナは何とか身体を動かそうともがくが、身体が全く言う事を利かなかった。
その様子を背後から景勝が苦々しく眺めていた。
(チィッ……命令とはいえど…やっぱりコイツの狡猾な妖術は見ていて気持ちのいいもんじゃねぇな……)
景勝は心の中で悪態をつきながら、顔を背ける。
「案ずるでない…なにもぬしを殺そうというわけではない……ぬしに眠る本当の“力”を、これで引き出してやろうというのだ……」
「や、やめて!! 私に触らないで!!」
ティアナの必死の抵抗も虚しく、大谷は着々と奇妙な術式を進めていく。
「ぬしに眠る不幸よ…その妖しき輝きに灯りを灯し、狂気となりて、ぬしにさらなる力を与えよ……そして、天に輝き、全てに破滅を呼ぶ黒き星となれ!!」
両手の奇妙な印を完成させると同時に叫んだ。
「“覚醒めろ死兆”!!」
「――――ッ!?」
包帯づくめの男がそう言い放つと、黒紫色の珠がティアナの胸に吸い寄せられ、ゆっくりと身体の中へと入っていく。
「や…やだ! やめて!! 助けて! 助けてぇぇッ!?」
「ヒーヒッヒッヒッ! 喜ぶがよいぞ。ぬしの念願であった“力”を得られるのだから…」
男の引き笑いを耳にしながら、ティアナは少しずつ意識が遠のいていくのを感じた。
同時に、その瞳から徐々に光が無くなっていく。
まるで真っ暗な深海へと沈んでいくような感覚の中で脳裏に過ぎったのは……
(助け……て……なのはさ……ん……スバ………ル………)
皮肉にも、ここしばらくの間、劣等感とコンプレックスの対象としか見れなかった恩師と親友の姿だった……
*
「――――ッ!!?」
一向に晴れる気配のない濃霧の中、ティアナを探していたなのはだったが、不意にその背筋に冷たい物が走った。
一瞬、霧の中のどこからか、ティアナの悲鳴のような声が聞こえてきたような気がしたからだ。
「ティアナッ!?」
なのはは、目を見開きながら必死に辺りを見渡すが、周りは相変わらず白い霧で覆い尽くされ、ティアナの姿はおろか、自分達が今どの辺りにいるかさえもまるでわからなかった。
「なのはさん!? どうしたんですか」
後ろについて歩いていたスバルが、不安げに尋ねる。
「う…うん。なんでもないよ……」
その返答とは裏腹に、なのはの顔は明らかに動揺を隠せない様子でいた。
そんななのはの真意を確かめようと、スバルがさらに問いかけようとしたその時―――
カツ…カツ…カツ…
不意に、霧に隠された前方から一人分の足音が聞こえてきた。
なのはとスバルの視線が前方に向けられる。
初めはまたあの景勝かといつでも交戦できるようにそれぞれ身構える2人だったが、やがて霧の向こうから姿を見せたのは2人のよく知る人間だった。
「てぃ、ティア!?」
現れたのはティアナだった。
霧の中で行方がわからなくなっていた相棒の思わぬ再会に驚きながらも、スバルは歓喜に満ちた声を上げる。
「よかったぁ! 無事だったんだね!」
スバルが朗らかな笑顔を浮かべて駆け寄ろうとする。
だが、隣を通り過ぎようとした彼女の肩を、なのはが慌てて掴み引き止めた。
「スバル! ちょっと待って!」
「なのはさん!? どうしたんですか!? 目の前にいるのはティアですよ?!」
突然の事に困惑しながら、スバルが言った。
だが、なのはの視線を向けるティアナの姿は、よくよく見ると違和感に溢れていた。
霧から姿を見せた時から、顔を伏せたままこちらに一瞥も向けようとしない。それは親友である筈のスバルが安堵の声をかけながら駆け寄ろうとした時でさえ……
そればかりか、今の彼女の全身から淀んだ黒い気を漂わせているかのように見える。
それはまるで “殺気”と呼ばれる―――
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」
突然、ティアナは獣の咆哮のような叫びをこの場にいるものの鼓膜を破ろうとする勢いで上げた。
すると、なのはが感じていた黒い気が漆黒のオーラとなって彼女の周囲から発せられた。
同時にティアナの身体に変化が現れた。オレンジ色の髪の毛が白銀に染め変わり、表情はティアナの持ち味である知性を一切感じさせない狂気に満ちた表情となった。
極めつけに、彼女の青い眼が鮮血のように赤く染まり、身体に纏わる漆黒のオーラの中で不気味に光り輝いていた。
「てぃ、ティア!? どうしたの!?」
ティアナの突然の豹変に、スバルが狼狽しながら叫んだ。
だが、それに答える事なく、ティアナはゆらりと身体を動かしながら、その手にクロスミラージュを構える。
「……………コロス!!」
一言それだけを叫びながら、一瞬で間合いを詰めると、クロスミラージュの銃口に出現させた魔力刃でスバルの胸を狙って強烈な刺突を放ってきた。
リブート版の新たな展開…それはズバリ『ティアナの闇堕ち』。
リリなのStrikerSの二次作品では必ず苦心する事になるこの模擬戦編でなのは寄りにもティアナ寄りにもならない新しい展開を模索した結果…考えつく展開はもうこれしかありませんでした。
読者の一部の方のコメントもあるように、リブート版の模擬戦編ではオリジナル版よりもできる限り中立的に進めようと思い、この展開を考えたのですが…果たしてティアナファンの方からすれば中立的であるか少々心配です。