リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
佐助の身を挺した行動のおかげで、洗脳を解く事こそできたものの、そのためとはいえティアナを力技で撃ち落としたなのはは、大谷から煽られた挑発も併せて、その心に大きな痼を残す事となる。
景勝「リリカルBASARA StrikerS 第二十七章 さっさと出陣すっぞ!!」
第二十七章 ~ティアナの後悔 疑心渦巻く機動六課~
西軍参謀 大谷吉継主導による白昼堂々の隊舎襲撃という前代未聞の事態を受け、部隊長のはやてはチーム・ライトニング(エリオ、キャロ)の模擬戦は言わずもがな、その日予定していた隊員達の公務の全てを中止させ、既に公務の為に隊舎を空けていたシグナムやそのアシストに着いていた小十郎も急遽隊舎に呼び戻される事となった。
一方のフォワードチームはというと…大谷の妖術に操られ、それを解くためとはいえなのはのクロスファイアシュートを直接喰らう事となったティアナは、今日までの無理な鍛錬の疲れも重なってか一時昏睡状態にまで陥り、今は同じくクロスファイアシュートによって負傷する形となった佐助と共に、医務室でシャマルの魔法と実治処置*1による治療を受けていた。
そして、一時的とはいえティアナが敵に洗脳された事実は他のフォワードチームの3人は勿論、実際に彼女と交戦する事になったなのはにも大きな精神的動揺を与える事となり、フェイトや事情を知ったはやての判断でフォワードチームだけでなく、なのはにもしばらく自室で待機する様に言い渡したのだった。
そして…残りの主要メンバーは早速、今日の騒動をおさらいする事も兼ねて緊急対策会議を開く事になった。
部隊長室には、なのはと佐助を除く模擬戦に関わった人物をはじめ、はやて、リイン、シグナム、シャリオ、そして武将達の中で唯一模擬戦を観戦していなかった小十郎の4人が集まっていた。
「まさかこないだに続いて、またもや敵にまんまと乗り込まれてまうなんてな…しかも、狙いはまさかのティアナを洗脳しての同士討ちやなんて…色々と情報が交錯しすぎて頭が回らへんわ…」
はやてはそう自嘲気味に失笑を浮かべながら、ため息をついた。
「そう言うと思いましたから、フェイトさんと急いで今日の一件をまとめた資料を作成したので、そちらを合わせながら説明していきますね」
そう言ってシャリオがホログラムコンピュータを展開して、コンソールを手際よく操作しながら話した。
すると、部隊長室のカーテンが自動的に閉まり、部屋の中が暗転すると同時に一行の前に巨大なホログラムスクリーンが投影されて、そこに訓練所で撮影された西軍の3人…大谷、左近、そして景勝の画像が映し出された。
「今回、現れた敵勢力“西軍”またの名を“豊臣軍”のメンバーは3人…その内2人が今日初めて
「あぁ、そうだ」
シャリオがコンソールを操作し、初めに左近の姿がスクリーン全体にアップされると、彼らの事を一番良く知っている家康が代表して説明し始めた。
「このあいだホテル・アグスタでも話したと思うが…この男の名は“島左近”。西軍総大将・石田三成の懐刀的存在で、石田軍の侍大将だ。『五刑衆』の位は持っていないが、実力に関しては決して引けを取らない手練だ…」
「あのホテルでユーノを狙って、俺と
両腕を組んで部屋の壁にもたれかかりながら、政宗が補足を加えた。
「コイツはいわば、石田や大谷の直属のagentだからな。大谷達が動くところにコイツありってな…」
「それじゃあ、今日初めて顔を見せたこの“女”の人は誰です?」
次にスクリーン全体にアップ像が映された景勝の姿を指しながらリインが尋ねた。
「リイン殿。彼の御仁は少々訳ありの方でござる」
そう言って、景勝について説明に出たのは幸村だった。
彼の属する甲斐武田軍と、景勝が率いる越後上杉軍はそれぞれの先代総大将 武田信玄と上杉謙信の代から自他共に認める文字通りの“宿命の好敵手”であり、幾度となく戦を繰り返し、互いにしのぎを削り合ってきた。
当然、幸村も景勝とは両軍の主要武将同士、剣を交え合い、互いに人となりを認めた宿敵の一人であった。
それ故に、幸村もまた、此度の六課襲撃に景勝の姿があった事には少なからず動揺を覚えていた。
「越後上杉家当主 “上杉景勝”―――見ての通り、身体こそ
「ど、どうしたの? 幸村さん」
ここで言葉を詰まらせた幸村は、やや顔を青ざめながら息を呑んだ。
その姿から明らかに恐怖に震えている様子が伺え、心配したフェイトが思わず尋ねる。
「それが…景勝殿の琴線に触れてしまったようで、危うく“肉塊に帰する”寸前まで殴りつけられたでござる」
「『肉塊に帰する寸前』って…一体、どんな殴られ方されたんですか?」
リインがややドン引き気味にボヤいた。
すると、小十郎も思い出した様に感慨深げに呟いた。
「そういえば…越後の“軍神”の後を継いだのは『姫を捨てた札付きの跳ねっ返り』で、噂だと七光とバカにした敵将を潰れるまで追い詰めたり、その国の人間に『女武将』扱いされたという理由だけで一国攻め落したという話もあるとか…」
「うっわ~。そういう
「お前の中で私の印象はどうなってんだヴィータ!? 大体、私は別に女扱いされる事に不服などない!」
シグナムが怒鳴りつけるのを他所に、政宗が思い出したように会話に加わってきた。
「でも確か上杉と言えば…
「左様でござる政宗殿。某も仔細は佐助や真田忍隊からの報告越しで聞いただけにござるが…」
「その御家騒動って…ひょっとして“御館の乱*2”の事とちゃう?」
政宗の言葉にピンときた様子ではやてが尋ねた。
それを聞いて、幸村は思わず面食らった顔つきになる。
「そのとおりでござるが…何故に、はやて殿が“御館の乱”の事を知っているのでござるか?」
「ゆっきー達が六課に加わってから、わたしも少しでもゆっきー達の事情を知ろうと、
「いや、部隊長なら日本史勉強する前にちゃんと部隊長の仕事やれよ……」
はやては、そう言いながらフフンと得意げに胸を張ってみせるが、傍らでヴィータが呆れたようにボヤいたが、はやてはそれをわざと聞こえないふりをして無視した。
「とにかく…その“御館の乱”において、景勝殿を当主に置く事を求める“上杉宗家派”と、同じく謙信殿の後継者と目されていた景虎殿を推す“景虎派”とに、上杉の御家は二分されてしまい、我ら武田同様に一時は滅亡寸前に至る程に大きく荒れる事となったのでござるが…最終的に豊臣と“同盟”を結ぶことを選んだ景勝殿率いる宗家派が勝利する形で上杉家は守られたのでござる」
「…そんな事情があったのか」
家康が唸るように呟いた。
「なんだ? 家康は知らなかったのか?」
シグナムが尋ねる。
「天下分け目の戦に際して、上杉が西軍についた事は知っていたのだが…その裏でそんな事情があったのは知らなかった。それにあの景勝殿が五刑衆に加わっていた事も…」
「かの名門『上杉』の跡取りが、事もあろうか豊臣の一将に下るとはな…“軍神”だったら、そんな道なんざ選ばなかったろうに…」
ややシニカルに一蹴する小十郎に対し、幸村が弁明するかのように口を挟んだ。
「だからこそでござろう。偉大なる先代の後を任された者故に、どう采配を振れば良いのかわからなかったが故に選んだ道かと…現に某もお館様から武田を任された当初は…」
何度か戦場でしのぎを削りあった仲な上に、自分も似た境遇で豊臣についた同士故か、そう語る幸村の顔には同情を兼ねた憂いの念が浮かんでいた。
その後ろでは、ホログラムスクリーンの映像が最後の一人である大谷の画像に切り替わっていた。
「そして、この男が今回の主犯…西軍筆頭参謀“大谷吉継”…か」
はやてがスクリーンを睨みながら、低い唸り声を上げた。
画像では担ぎ手もいないのに宙に浮かんでいる不思議な輿の上で胡座をかいて、周りに光る珠を幾つも浮かべて巧みに操る、赤黒く染まった目を覗かせた包帯づくめの不気味な風貌の男が写っていた。
その異様な風体の男にリインとシャリオは思わず身震いしてしまった。
「うぅぅ~~~…見るからに邪悪そうな人ですぅ~~…」
リインが青ざめながら呟く隣でフェイトが顎に手を当てて考えるようなポーズをとりながら、語り始める。
「家康君達や、実際に相対したなのはやスバル、佐助さんの証言…そして彼に操られたティアナの事例から踏まえて考察するに…彼が操るのは私達のような“魔法”でも、家康君達の使う“気”とも異なる…そうだよね?」
「あぁ。ワシらも詳しくはわからないが、恐らくは日ノ本に古くから伝わる“陰陽道”を元に発展させた独自の妖術かと思う…しかし何分、日ノ本でもあのような奇怪な術の使い手は刑部を含めても数える程しかいない」
(…まぁ、私達にしてみれば、家康さん達の“気”の力も十分奇怪に見えるんですけどね)
ここに集った面子で唯一非魔力保持者且つ非戦闘要員のシャリオは、心の中で軽くツッコミを入れていた。
「確かに
「えぇ…本当に聞いただけでも気分が悪くなるような……」
シグナムとフェイトはそれぞれ怒りを無理矢理に抑えるように、低く冷たい声質で話していた。
「聞いた話じゃ、あのmammy野郎は
「…ティアナ……」
政宗の言葉を聞いて、フェイトは思い出したように表情を曇らせる。
「今日は大谷達の襲撃ですっかり有耶無耶になっちゃったけど…ティアナ…相当無理なトレーニング積んでたみたいだね……私達はおろかスバルにさえ、全く相談も無しに一人で今日の模擬戦の為に無茶な事をして…」
「きっと、そんな無茶なまでの向上心や反骨精神を大谷に付け込まれてもうたんやな…」
はやてもそう言って目に悲しみの色を浮かべた。
「……やはり…無理矢理にでもワシからティアナに忠告した方がよかったのかもしれんな…」
そう悔いるように言葉を溢す家康であったが、政宗は頭を横に振りながら諭す様に返した。
「お前が言っても結果は変わらなかったと思うぜ。家康。
「そ、それはそうかもしれないが……」
言葉を濁す家康に対し、政宗は壁に背を持たれかけながら小さくため息を吐いた。
「それで……ティアナの今の様子はどうなんだ?」
「あ、うん。シャマルの話やと、まだ意識が戻ってないからなんとも言えへんけど、とりあえず、脳波のバイタルやアドレナリンの数値からして、恐らく洗脳状態はもう解けとるみたい」
話題を急に切り替える形で質問され、一瞬面食らいながらもすぐに我に返り、医務室から届いたばかりの情報を伝えながらも、はやては少しでも重苦しい雰囲気を払拭しようとわざとふざけたような口ぶりで話し始めた。
「せやけど、流石はなのはちゃんの“伝家の宝刀”ならぬ“砲撃”やな。未知なる術で狂える教え子を一発ふっ飛ばして、もとに戻してしまうんやからなぁ。まさに人呼んで “管理局の白い悪魔”!」
「誰が“白い悪魔”って?」
「そら決まってるやろ? なのはちゃ―――へっ!?」
不意に聞こえた新たな声に嬉々とした調子で返そうとして思わず硬直してしまう。
その声に釣られる様に政宗達が部隊長室の入り口の方に顔を向ける。
そこには“管理局の白い悪魔”…ゲフンゲフン!
…高町なのはが立っていた。
「い、いや! なのはちゃん! ちゃ、ちゃうねん! 今のはその…皆を和まそう思って…」
「……別に構いませんよ“八神部隊長”。この程度の“戯言”はもう聞き慣れていますから…」
なのはは“目が全然笑っていない”柔らかな笑顔を浮かべながら、不自然な敬語で切り返した。
「いや、めちゃめちゃ怒っとるやん!?」
「ごめんってば~! 堪忍して~~!!」と目から滝のような涙を流しながら縋るはやてを尻目に、会合の輪に加わるなのはに、フェイトが心配そうに尋ねる。
「なのは…もう大丈夫なの?」
「…うん。部屋で少し頭冷やしたからもう大丈夫。それよりも、私も知ってる事をちゃんと話さないといけないからね。シャーリー、続けてくれるかな?」
「えっ!? は…はい! それじゃあ、次は大谷達がどのように隊舎に潜入してきたかについてですが…」
なのはに半ば無理矢理押し切られる形で、シャリオが本題の進行を再開する。
「皆さんもご存知のとおり、ここは先日、西軍の黒田官兵衛、後藤又兵衛の両名によって一度襲撃を受けています。そこで私達ロングアーチも敵対者の襲撃を考慮して、警備システムをより強化させる事で対策していました。ですが…」
「? 何かあったの?」
なのはが尋ねた。
「はい。それが…今日の場合、訓練所で霧が発生する直前にA.T.S.*3をはじめとする訓練所周辺に仕掛けていた警備設備全て原因不明の誤作動を起こして、機能停止してしまったんです」
「「「「「「機能停止?」」」」」」
なのは、フェイト、はやて、ヴィータ、シグナム、リインの6人が怪訝な様子で問い返した。
家康達はシャリオの言葉にあった聞き慣れない単語の仔細は把握できずとも、その言葉の端々を縫い合わせるに、六課の防衛用のトラップが大谷達が乗り込んできた時にだけ効果を発揮していなかったのであろう事は想像できた。
「はい。霧が晴れたら、すぐに全て何事もなかったかのように復旧したのですが……」
「その霧が原因の異常ではなかったのか?」
シグナムの聞き返した。
「いや。その霧にはアタシらも巻かれたけど、別に機器故障を誘発するような濃霧でもなければ魔力霧でもない普通の霧だったぜ? それに
「えぇ。勿論、すぐに整備班の皆さんに全ての設備の動力源を点検させたのですが…どこも故障する要素はなかったそうです」
そう異論を唱えるヴィータにシャリオが補足を添えるように追従して話した。
すると、フェイトが目を僅かに細めながら呟いた。
「……ひょっとして…それは“故障”じゃなかったのかも…?」
その一言に部屋に集ったほぼ全員が、その言葉の意味を理解した様子で頷いた。
はやてから、その推測をさらに確証付けさせる情報が明かされた。
「そういえば、佐助さんが言うとったんやけど…訓練所に乗り込んできたのは大谷達だけやのぅてもう一人…“皎月院”って女性がおったらしいんやけど…」
「―――ッ!?」
大谷と共に西軍を裏から操る謎の女の名を聞いて、家康が驚愕のあまり言葉を失う。
「やはり例の女も動いていたのか……しかし、さっきの映像には残っていなかったようだが…」
小十郎が尋ねると、シャリオは不可解げな面持ちで答える。
「それが…どこの防犯カメラにもその女の人の姿は写ってなかったんです。念の為に隊舎のカメラもチェックしたのですが、一箇所だけ映像が乱れて何も映っていなかったのを除けば、どこにもそれらしき不審者の動きもなくて…」
「その一箇所って?」
なのはが聞いた。
「隊舎と訓練所の間にある防風林です。多分、警備施設の不調に釣られる形で故障が誘発したのかと思うのですけど…あそこには別に重要な設備なんてのもありませんし…」
「う~ん…となるとその“皎月院”とかいう女が設備を壊したって線も薄いわけか…せやけど、この警備施設の不調が大谷達の策略の一環やとするならどうやって…?」
はやては唸りながら、考えていた。
そこへリインが横から首を傾げながら、話に加わってきた。
「そもそも、一体どうして六課で今日模擬戦があるって事が西軍にバレていたというのでしょうか?」
その言葉を受けて、「確かにな」とシグナムも違和感を示した。
「ここを徳川達が拠点としている事ならいざしらず、模擬戦みたいな内部の者しか知らないような情報…果てはティアナの心理的な近況さえ奴らが握っていたという事自体妙な話だ。それに加えて、上手いこと警備設備までもパスして潜入してくるだなんて、策略にしても明らかに事が上手くいき過ぎている……まるで我々の情報が全て
「シグナム。それどういう意味だよ?」
ヴィータが身を乗り出しながらシグナムに尋ねた。
一方、フェイトはシグナムと同じ事を考えついたのか、顔を強張らせながら彼女を見つめる。
「それってまさか……?」
シグナムは顔を顰めながら頷き、そして口を開いた。
「我々、機動六課に “裏切り者”…西軍の手先が紛れ込んでいる可能性があるという事だ」
*
隊舎・地下にある動力室―――
ここは、魔力エネルギーを応用した魔力炉を中心に隊舎全体の全ての設備の動力を担う隊舎の『心臓』と呼ぶべき場所だ。
当然、ここで何らかの異常があれば、隊舎を守る全ての警備システムは勿論、電灯などの日常的な設備さえも使用不能になり、隊舎は文字通り“丸裸”の状態となってしまう。
その為、ここは隊舎の中で特に厳重に管理されていた。
出入り口における電子錠や出入りする者のID認証システム、監視カメラは勿論の事、点検や補修の為の作業員でさえ出入りには厳しいボディチェックや入室制限が定められている。
まさに鉄壁の守りで固められたこの場所を攻撃する事は決して不可能であった。それこそ…機動六課の“外”の人間であれば……
巨大な砂時計のような形状をした魔力炉の中枢にあるビー玉程の小さな鉱石から放たれる青白い輝きだけが暗い部屋を微かに照らしている。
この鉱石は“イデアクリスタル”と呼ばれる魔力と共振する事でエネルギーを収束する特殊な性質を持つ魔石であり、この魔力炉に使われているサイズの微量からでも爆発的なエネルギーを生み出す上に人体への悪影響も一切ないという魔法世界ミッドチルダならではといえる理想的なクリーンエネルギーである。
これだけ聞けば、微量からでもは高エネルギーを帯びる「超高エネルギー結晶体」であるロストロギア・レリックと似た性質を持つが、レリックは人工的に造られたものに対し、イデアクリスタルは天然の鉱脈でできた純正な魔力エネルギーとして認められ、時空管理局の研究・実験の結果、安全な運用方法が擁立された事でこうして今やミッドチルダでは98.9%の普及率を誇る、必要不可欠なエネルギーとなっていた。
そんなイデアクリスタルの穏やかな輝きの中にあって、その男は闇に染まった情念に衝き動かされながら、静かに暗躍を働いていた。
黒色の短髪に目つきの鋭いその男…機動六課・通信主任 ジャスティ・ウェイツ准陸尉以外にこの部屋には一人もいない。
当然、彼の役職からして、この部屋に出入りする理由などない為、もし今ここに誰かいたら問答無用で問い詰められる事となろう。
勿論、彼はその辺りの対策も抜かりなく図った上でここへ来ていた。
手始めに通信主任という立場を利用して、動力室内やそこへ至る為の通路全ての監視カメラの映像を同じ箇所で撮影された数日前の映像に置き換える事で監視の目を誤魔化す。
これが人通りの多い場所の映像であれば、簡単に見抜かれるリスクも高いが、人通りが殆どない場所故に少し映像に編集を加えさえすれば、映像記録を捏造する事などジャスティにとっては容易な事だった。
残るID認証システムや電子錠も通信主任である彼の手にかかれば誰にも気づかれる事なくパスする事も造作もなかった。
そうしてまんまと動力室に侵入したジャスティは魔力炉周辺のトラップが解除されている事を確認しながら、恐る恐る近づき、懐から取り出した手のひらサイズの円盤型の装置を手に取り、それを魔力炉に取り付けた。
そして、同じような機械をいくつか魔力炉に装着すると、ジャスティはそそくさと動力室を出ていく、勿論辺りに他の人間がいない事を何度も確認した。監視カメラの映像は誤魔化せても、人の目に直接とまってしまえば、弁解のしようがない。
動力室に向かう時は勿論、出ていく時さえも極力、隊の人間に自分の姿が見られないように細心の注意を図った。
「……よし、これで上手くいった……あとは“合図”が来て、俺が最後の“仕上げ”にかかれば……フッフフフフ…」
何食わぬ顔で自分が本来いるべき場所…ロングアーチの通信室に戻りながら、ジャスティは歪んだ含み笑いを浮かべた。
*
「
はやてが呆気にとられた様子で言った。
たちまち、部隊長室内には緊迫した空気に包まれる。
すると、比較的動揺を見せずにいた政宗が口を開いた。
「シグナムの言う通り、状況から考えるとそう推測するのが妥当だろうな。現に元々は西軍だった野郎だってここにいる事だしな…」
そう言って幸村の方を意味深に見つめる政宗。
その視線に幸村は思わず、その場で大きく仰け反った。
「なっ!? 何を申されるか政宗殿!! 某は決して恩義ある機動六課を裏切るなど…」
「そ…そうだよ!政宗さん!いくらなんでもそれは…」
慌てて弁明する幸村に、フェイトもすかさず擁護した。
すると政宗は幸村達の予想通りの反応を見て、小さく笑みを溢した。
「Sorry。今のはほんの冗談だ。真田がそんな真似をするようなFuck野郎じゃねぇってのはrivalの俺がよく知ってるからな。それに…こんな“馬鹿正直”な野郎に内通なんて狡猾な真似が出来るわけがねぇしな」
「うん?…嬉しいような、不愉快のような……なんだか複雑な気分にござるが…」
政宗の言葉から強い信用を得ている事に安堵しながらも、後半の言葉が妙に心につっかかるような感覚を覚え、少々不服な表情を浮かべる幸村だった。
「しかし、もし本当に内通者が六課の中にいるとしても…刑部達としては今日の模擬戦で事のケリをつけるつもりだったのではないか? だったらその伏兵の役目は…」
「否、そうとも限らねぇ」
家康の推測を遮るように小十郎が否定する。
「この
「どこかって…!!?」
家康が話していた最中にハッっと思い出したような顔つきになる。
小十郎との会話を介して、朧気に思い描いていた構図がはっきりとその脳裏に浮かんだ。
「まさか……竹中半兵衛殿の『潜伏侵略』?!」
「「!?」」
家康の口から出た単語に、政宗と幸村も同様に驚愕の表情を浮かべる。
一方、『潜伏侵略』の事を知らない六課側のメンバーは首を傾げるばかりだった。
「せんぷくしんりゃく…ってなんですか?」
「西軍の前身…“豊臣軍”が得意としていた兵法だ」
リインがそう聞くと、小十郎は丁寧に説明し始めた。
潜伏侵略―――
元は豊臣軍の軍師 竹中半兵衛が豊臣軍の日ノ本攻略に際して発案・実行した策である。
攻略予定の敵勢力の領地内に単独から少数人程度の兵を各地バラバラに潜伏させ、一定の潜伏期間を経て、期が熟すと同時に各地に潜伏させた伏兵たちに多発的に攻略させて、その所領を内部から制圧するというもの。
この策によって武田、伊達をはじめ、その他多くの有力武将達の領地が、豊臣の手に堕ちてしまい、豊臣の天下統一の大きな足掛かりとなったのであった―――
「じゃあその“潜伏侵略”を応用して、大谷吉継達はこの六課を攻撃してきたって事?」
「あぁ。厳密には“攻撃してきている”ってところだろう。恐らく、こうして話し合っている間にもこの隊舎のどこかに潜んでいる“キツネ”は俺達の動きを嗅ぎ回っているかもしれねぇ…」
なのはの問いに小十郎がそう答えると、政宗は冷静に考え始めた。
「問題は、その
政宗の言葉に促される様に、なのは達も考え始めた。
まず、ここに集まっている面子に加え、シャマルやザフィーラのように既に何年も苦楽をともにしてきた仲間達…そして
とはいえ、機動六課は部隊長であるはやてが自ら選出した局員を主幹メンバーに置いている為、彼らに対しては一定以上に信頼がある。それ故にはやて達にしてみれば、そんな仲間を疑う事は本望ではなかった。
「シャーリーも大丈夫だから、除外だね」
「グリフィスやアルト、ルキノ、ヴァイスさんも信用できますから、安心してください」
フェイトは六課結成前から補佐官としていたシャリオに、シャリオは幼馴染であるグリフィスや同僚のアルト、ルキノへの強い信頼を口にする。
この二人のお墨付きがあるという事は部隊長補佐のグリフィスや、通信士のアルト、ルキノ、ヘリパイロットのヴァイスも白である事が確定された。
「そういえば…ロングアーチにはもう一人いなかったか? 確か…ジャスティとかいう奴が」
「あっ…」
小十郎がそう指摘するとシャリオがハッとした表情を浮かべる。
何か心当たりがありそうな顔つきだった。
「シャリオ殿? どうしたんだ…」
シャリオの意味深な様子に気づいた家康が尋ねる。
「ジャスティ君の事で何か気がかりな事でもあるの?」
なのはが尋ねると、シャリオは半信半疑な様子で口を開いた。
「実は…ジャスティ主任なんですが……」
シャリオは自分達ロングアーチだけが知っている事情…ジャスティが六課の中で唯一、家康達戦国武将に対して快い感情を抱いていない事を話して聞かせた。
「……なるほど。確かに
「シャリオ殿。模擬戦の時に彼に不審な動きはなかったのか?」
政宗は半ば確信付いた様にそう言うと、家康がシャリオに確認した。
「はい…事件が起きた時はロングアーチは全員司令室にいました。勿論、ジャスティ主任も…」
シャリオがジャスティのアリバイを話す一方で、仲間を疑いたくないはやては弁護するかのように口を挟んだ。
「せやけどジャスティ君は真面目一筋やし、本来不正を嫌う潔癖な人間や。それは彼を六課に選出する時に私らかてしっかり吟味しとる。ましてや悪に堕ちるなんて―――」
「甘いぞ八神。豊臣の
小十郎が鋭い口ぶりで、はやてを一蹴する。
「どんなに清楚な人間であろうがな、その心の見えないところには何かしらの黒い感情ってもんが渦巻いている…奴らは僅かな心の綻びから覗かせた黒い感情を糸の様に巧みに手繰り寄せ…そして気がついた時にはあっという間に自分達の手元に引き寄せ、同化させちまう…やつらはそうして一度は天下を手に入れるまでに至ったんだ…」
「片倉殿の言う通りだ。現に今日のティアナの身に起きた事を考慮すれば尚の事納得できるだろう?」
家康も諭すように言葉を添えると、はやては驚愕を滲ませたような表情を浮かべていた。
なのはやフェイト、ヴィータ、シグナム、シャリオも、同じような表情を浮かべていた。
一方家康達は、六課の隊舎において一番なのは達から近い位置にいる人間で、最も怪しい存在は、やはりジャスティであろうと考えていた。
そもそも彼が六課の『通信主任』として、この隊舎の設備に関わる全てのシステム運営の責任者を担っているとあれば、怪しまれるような動きを見せる事なく一定の警備設備を止める事だって可能な筈だ。
とはいえ、自分達が選出した仲間を信じたいというはやての気持ちも完全に理解できない事もない。第一、まだ決定的な証拠もない。それに機動六課にはまだまだ常駐するスタッフが沢山いる。
誰が黒なのか、結論を出すにはもう少し、様子を見る必要がある事は家康達も理解していた。
「そこまで心配だったら…焙り出すしかないぞ?」
政宗がはやてに判断を迫るように話しかける。
はやてはしばらく考え込んでいたが、やがて「しかたない」といわんばかりにため息を吐きながら頷いた。
「大切な仲間を疑うなんて、気が引けるけどなぁ…」
「「はやてちゃん?」」
「「はやて?」」
「主…」
なのは、フェイト、ヴィータ、リインが伺うようにはやての顔を見つめると、はやては苦々しい表情で頷いた。
「さっそく、明日抜き打ちでここに出入りする職員全員の査問をします。 下手にみんなを疑心暗鬼にさせないように一応、なのはちゃん達や家康君達にも同様に調べるから堪忍してや」
はやてがそう宣言すると、なのは達はそれぞれ小さくため息を吐いた。
いくら内通者の捜索とはいえ、仲間を取り調べにかける事はなのは達にとっても決して気持ちの良い話ではなかった―――
*
「ん……」
はっと目を開けたティアナの視界に入ってきたのは、天井の蛍光灯だった。
「……あれ?」
ティアナは、自分がベッドで横になっている事に気づき、身を起こした。
ここは…隊舎の中…?
ぼんやりと微睡むような意識の中で、自分が置かれている状況を必死に把握しようとしていたところへ、部屋の戸が開かれた。
「あら、ティアナ。起きた?」
部屋に入ってきた白衣姿のシャマルがベッドで半身を起こしているティアナに近づく。
「シャマル先生……えっと……」
混乱しているのか、ティアナはキョロキョロと周囲を見回す。
「ここは医務室よ」
ベッドの側に置いてあったイスに腰掛けるシャマル。
「ティアナ。昼間の模擬戦で何があったのか覚えてる?」
「えぇっ……!?」
真剣な眼差しで尋ねてくるシャマルに対し、ティアナは必死に自分の覚えている限りの記憶を辿って考えた。
確か自分は、模擬戦でなのはさんやスバル達を見返す為にこの日に備えてずっと考え、練習してきた新戦法を披露しようとして…いきなり霧と共に現れた上杉景勝なる女に邪魔されて、戦って…その途中で不気味な包帯づくめの男に捕らえられて……
「ッ!!!!?」
ここへ来てティアナの脳裏に忌まわしき記憶が次々に戻ってきた。
その包帯づくめの男に何かをされ…それと同時にこれまで溜まりに溜まっていた周囲への不満や自分自身への無力感、劣等感、焦燥…その全てが爆発するかのように自分で自分を抑えられなくなり…なのはやスバルに襲いかかり、殺そうとまでした…なのはもスバルも何度も自分へ必死に呼び掛けていたのに…自分を抑えられずに暴れまわった挙げ句に…最後は駆けつけた佐助の身を呈した行動で彼と共になのはのクロスファイアシュートを食らって撃墜された……
「私は…私は……なんて事を……うぅぅ…!」
その全てを鮮明に思い出した時、ティアナは両腕で顔を覆った。
激しい後悔の念が襲い掛かり、涙がこみ上げてくる。
「落ち着いてティアナ。よかった。元に戻ったみたいね。色々と思う事はあるかもしれないけど、まずは元に戻れた事を喜びましょう」
「うぅぅ…で、でもシャマル先生……私は……とんでもない事を……ああぁぁっ!!」
「敵に操られていたのよ。貴方のせいじゃないわ。もう大丈夫だから落ち着いて。ね?」
涙を流し、嗚咽を漏らすティアナをシャマルが優しく宥めた。
それでもティアナが落ち着きを取り戻すのにそれから15分程時間を要する事となった――――
「それじゃあ、なのはさんもスバルも大丈夫なんですね…?」
「えぇ。スバルはその上杉って人との戦いで怪我を負ってたけど、もう処置が終わったわ」
ようやく落ち着きを取り戻しながらも、明らかに気持ちが沈んだ声で尋ねるティアナ。
シャマルは出来る限り、これ以上ティアナを傷つけないように気を配りながらも、ありのままの事を報告していく。
「実は怪我が一番ひどかったのは佐助さんだったの。彼、ティアナの洗脳を解くために自分を犠牲にして一緒になのはちゃんの砲撃魔法を受けたものだから、片腕を骨折してしまっていて…」
「えっ…!?」
「なのはちゃんの訓練用魔法弾は優秀だから、身体にダメージは無い筈だけど…それでも非魔力保持者が不用意に食らったりしたら、四肢全て複雑骨折…なんて事にもなりかねないものだから、むしろ片腕だけで済んだのは奇跡に近いわ。流石は家康君の世界から来た戦国武将ね」
感心するやら呆れるやらで苦笑を浮かべながら話すシャマルの言葉を聞いて、ティアナは慌てて、医務室を見渡した。
しかし、今部屋のベッドを使っているのは自分ひとりだけのようだった。
「大丈夫。佐助さんの骨折も治癒魔法で修復できる程度だったから、もう処置も終わって自室に戻ってるわよ」
「そ…そうですか……」
「貴方はどう? どこか、痛いところある?」
「いえ…大丈夫です」
ティアナは伏し目がちに答えながら、部屋の壁に立て掛けていた時計に目をやった。
「え……9時過ぎ? えぇ!夜!?」
模擬戦を行ったのは昼過ぎだ。
そこから計算すると、8時間以上眠っていた事になる。
「すごく熟睡していたわよ。死んでるんじゃないかって思うくらい」
驚いて窓の外から海を挟んで見えるクラナガン市街地の夜景を呆然としながら眺めるティアナに、シャマルが説明する。
「スバルに聞いたんだけど、最近ほとんど寝てなかったんだってね? 溜まっていた疲れがまとめてきたのよ」
「……すみません…」
ティアナがまた暗いトーンに落とした声で謝る。
シャマルはそんなティアナの額に手を当てた。
「うん。熱もないし、大丈夫ね」
シャマルはそう言ってニコリと笑う。
「ところで…スバルは?」
「ずっと付き添うって言ってたんだけど、あの子も怪我が治ったばかりだから無理矢理返したわ。ティアナも無理しないで、今日はもう休んでね」
シャマルはそう釘を指すように言って聞かせた。
「……はい、失礼します」
ティアナは素直に頷きながらベッドから立ち上がるも、その表情に浮かんだ憂いの感情は決して晴れずにいた。
医務室から出ていくティアナの背中を見送りながら、シャマルは小さくため息をついた。
「………医務官って言ったって、人の心を救える訳じゃないのよね」
シャマルは、此度の騒動で負ったティアナの心の傷の深さや、その傷を自分では癒しきれない事に、虚しさを感じるのであった……
*
なのはは一人訓練所にいた。
本来はここで空間シミュレーターにFWメンバーの戦闘データをまとめるだけだったが、もののついでにここの警備システムに異常がないか再三チェックする事と、魔法を動力源とした防衛用トラップの作成などを行っていた。
今日のも含めて2度も敵の侵入を許した事を受け、ロングアーチの手腕を疑うわけではないが、ここの防衛体制を少しでも万全たるものにしようと思っていた。
ましてや、今日の襲撃ではティアナが敵に操られるという教官として起きてはならない事態が起こってしまったのだ。
二度と同じ事態が起こらない為にもとにかく隊舎やその周辺の守りを固めておく必要があった。
「………」
隊舎周辺を囲む海から来る潮風が吹き抜けて頬を撫でるが、今のなのはの心に爽やかさは微塵もなかった。
会議室にいた時から彼女の心情は複雑だった。
自ら話そうと思ったにも関わらず、昼間、大谷から嘲られた言葉の内容を話せなかった。
―――せっかく秘めていた良き才能に、ぬしらは気づかなかったのか? だとすれば、ぬしも師としては半人前であるな―――
「…………師としては半人前……か…」
なのはの脳裏に大谷の言った言葉が何度も蘇る…
「軍議が終わったばかりだってのに、もう次のworkか?」
「政宗さん…!?」
聞こえた声に振り向くと、そこには政宗が立っていた。
ゆっくりとした歩調でなのはの方に近付き、彼女の数メートル後ろに立った。
「フェイトが心配してたぞ。唯でさえもう遅いのだから、そろそろ切り上げろって」
「う、うん。もうすぐ終わるから大丈夫だよ」
なのははそう言いながら、展開していたホログラムコンピュータのコンソールを手早く操作していく。
そんな彼女の様子を政宗は黙って見守っていた。
「政宗さん。あのね…」
なのはが何と言おうか迷っていたが、言葉が見つからない。
無理もなかった…このあいだ政宗から忠告されていたにも関わらず、結局自分は力づくでティアナを止める事しかできなかった……
フェイトやヴィータは「状況が状況だったのだから仕方ない」と慰めてはくれたものの、それでも教え子に手を上げた後というものは本当に気持ちが落ち込むものである。
これまでに似たような経験は決して1回、2回ではなかったものの、今日の一件は特に重苦しくなのはの心にのしかかってくるようだった…
「……なのは…
「―――ッ!?」
政宗の口から出た一言になのはのコンソールを操作していた手が思わず止まってしまう。
それを見て、図星を付いた事を確認しながら政宗は腰に片手を当てて、気だるげな姿勢をとった。
「俺だけじゃねぇぞ。フェイトだって、ヴィータだって、家康だって…まぁ、真田はわかってんのか微妙だが…昼間訓練所にいたteacher達はお前があの騒動の最中になにかshockingな事があったって気がついてやがるぜ」
「…にゃははは…やっぱりバレてたか…」
なのははわざとふざけたような笑い方をしてみるが、沈んだ心を再浮上させるまでの効果はなかった。
「政宗さん……私……やっぱり教官としてはまだまだ半人前なのかな?」
「Ah? いきなりどうしたんだ?」
絞り出すように声を出したなのはに、政宗が怪訝な顔つきで尋ねる。
なのはは意を決して、大洗脳されたティアナと交戦していた時に大谷から嘲られた言葉の全てを、政宗に語って聞かせた。
その間、政宗は余計な口を挟むこと無く黙って聞いていた。
「I see…まさにあのmammy野郎らしい陰湿で安いprovocationだな」
「でも…確かにあの人の術で狂化されたティアナが見せた機動力は磨けば大いに役立てるものだった…情けない話かもしれないけど、私…ティアナは自分と同じセンターガードとしてスバルやエリオ、キャロを上手く指揮しながら、確実な支援射撃と、幻術のサポートを任せる事が一番適任だって考えていた……あの子の素質の全てをちゃんと把握していなかった……」
「…………」
「自分なりに見出したポジションを教えたら、あの子の才能を大いに羽ばたかせられる…そう信じていた。でも…それって結局は私の単なる“自己満足”に過ぎなかったんだね…」
自嘲する様に言葉を零すなのはに政宗は黙って守り続ける。
「政宗さんや佐助さんがこないだからずっと言ってきた事ってこのことだったんだね…私は私なりのやり方を押し付けて…あの子の本当の考えをちゃんと聞き入ってあげていなかった…だから、今日みたいな事になってしまった…私も教官としてまだまだ甘いね」
そう話しながら、なのはは小さく笑いながらホログラムコンピュータの電源を落とした。
「なのは…俺は――――」
政宗が言葉をかけようとしたその時だった…
なのは達の前に突然、赤い画面で『ALERT』の文字が書かれたホログラムが投影され、同時にけたたましい警報音が鳴り響いた。
2人の顔に緊張が走った―――
「政宗さん!」
「I know! この話の続きは後だ! 一先ず隊舎に戻るぞ!!」
「うん!」
2人は今ある危機に対処すべく、隊舎に向かって駆け出した。
アラーム音が鳴り響く中、司令室ではロングアーチメンバーが慌ただしく、それぞれの役務を全うすべく駆け回っていた。
「敵の出現地はミッドチルダ十五番埠頭沖 約2.8キロメートル! 敵集団の中心に船が一隻ある模様でおそらく、それを襲撃しているものと思われます!」
「敵の総数は?」
「確認された機体はⅡ型が12体です!」
はやては司令室で、ルキノ、アルトから状況の報告を聞いていた。
その後ろでは先に集合したフェイト、ヴィータ、シグナム、家康、幸村、小十郎がモニターに映るガジェット・ドローン達を見つめていた。
「せやけど民間船を襲うなんて珍しいな。この船って何かレリックか、その他のロストロギアでも搭載してるんか?」
はやてが問いかけると、ルキノがテキパキとコンピュータを操作して情報を探す。
「いえ。この船の船舶コードを見ましたけど、この船はどうやら保存食品の輸送船みたいです。レリックを含むロストロギア反応もありませんし、おそらく密輸船でもないですね」
「う~ん…となるとなんでなんやろうな?」
そこに、なのはと政宗が駆け込んできた。
「遅くなってごめん。それで状況は?」
息を切らしながらなのはが聞いてきた。
「グリフィス君」
「はい。現状は……」
はやてに促され、グリフィスは2人に状況を説明した。
その時、別のコンピュータを操作していたアルトが驚いた様子で声を上げる。
「八神部隊長! 今回の機体を調査したところ、これまでよりもかなり性能が向上している模様です!」
「なんやって?」
アルトの報告を聞き、はやて達はモニターに映るガジェットの編隊を見つめる。
ガジェット達は変わらず、旋回飛行を続けている。
さらにおかしなことに、洋上を進む船を集団で取り囲んでいるわりには、船に対して攻撃らしい攻撃を行おうとしていないのだ。
これはまるで、六課が早く撃ち落としにくるよう誘っているように見えた。
「ハラオウン執務官。どう見る?」
はやては、横にいるフェイトに意見を求める。
「犯人がスカリエッティなら、こちらの動きとか航空戦力を探りたいんだと思う」
「うん。この状況ならこっちは中、長距離砲撃を放り込めば済むわけやし…」
「一撃でクリアですよ~!」
そう言ってリインがグッと拳を突き上げる。
だが、そこへ小十郎が異見を加えた。
「待て。敵がこっちの手札を探っているのだとしたら、あえてここは奥の手は隠しておいた方がいいのではないか?」
小十郎は超長距離攻撃案に反対した。
すると、政宗や幸村もそれ同調する。
「小十郎の言うとおりだな。ましてや向こうには大谷というとんでもねぇbrainが着いてやがるんだ。奴らとしてみれば、こっちの手札を徹底的に調べ上げて次の計略を仕掛ける腹積もりなのかもしれねぇ」
「某も同意にござる。ましてや今日のような襲撃が起きたばかりである上、迂闊に新手を見せるのは得策とは言えぬかと…」
二人の意見を聞いて、はやては腕を組みながら考え込む。
「確かに言われてみればそうやな…まぁ実際この程度の事で隊長達のリミッター解除ってわけにもいかへんしな。高町教導官や家康君はどう思う?」
今度はなのはと家康に問いかける。
「こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに今までと同じやり方で片づけちゃうかな?」
「ワシもなのは殿と同意見だ。下手に大技を明かさずに、あくまでいつも通りのやり方でやっていけばいいと思うぞ」
なのはと家康の意見に、はやては他のメンバーと顔を合わせて頷き、今回の作戦の方針は固まった。
*
その後、ヘリポートにフォワードチームを呼んだなのは達は今回の任務の状況を説明した。
「今回は主に空戦だから、出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の3人」
「皆はロビーで出動待機ね」
なのはとフェイトがそう説明するとヴィータが補足を加える。
「そっちの指揮はスターズが家康と政宗、ライトニングが幸村と片倉に任せる。控えにはシグナムとザフィーラもいるからとりあえずは大丈夫だろうが…昼間にあんな事があったばかりだからな。くれぐれも用心しろよ」
「「「はいっ!」」」
「……はい…」
ヴィータの声にスバル、エリオ、キャロは元気よく返事を返すが、ティアナの声には覇気が無かった。
アラート音が響く少し前に医務室で目を覚ました後、スバル達と合流していたが、合流一番にスバルが声を掛ける前に脇目も振らずに泣きながら謝ってきた。
敵に操られたとはいえ、恩師だけでなく相棒にまで手を出してしまった事が本当にショックであった様で、スバル達がどうにか宥めてようやく落ち着かせる事ができたものの、その後、スバルがいつも以上に陽気に振る舞っても…ティアナの気持ちが晴れる事はなかった。
それは今もまた続いている様で、酷く落ち込んでいる事がここにいる誰もが察していた。
「……ティアナは出動待機から外れておこうか…」
「「「えっ!?」」」
「そうだな、そうした方がいいな」
ティアナの顔色を伺い、明らかに普通ではない彼女の様子を見て判断したなのはは、ティアナを出動待機から外して休ませようと思い、家康達もなのはの決定を肯定する。
なのはの言葉にスバル、エリオ、キャロは驚きの声を上げる。
するとティアナはなのはを睨みつけながら、呟くように口にした。
「命令を聞かずに無茶苦茶ばっかりする奴は、使えないってことですか…?」
「ティア?」
スバルが驚いてティアナに目を向ける。
スバルだけではなかった。その場にいた全員がティアナに注目する。
「何を言ってるの? そんなことは当たり前の事でしょ?」
なのはは一瞬動揺した様子を見せながらも、すぐに毅然とした表情を作り、どうにか宥め諭そうとした。
「唯でさえティアナは昼間、大変な目に遭ったばかりなんだから…今夜一晩くらい身体を休めて様子を見た方がいい…そう思っただけだよ」
理に適った理由ではあったが、それでもティアナは引き下がろうとしなかった。
「でも自業自得だったじゃないですか! 私が…あの時勝手に敵を深追いしたから…こんな事になった…挙げ句になのはさんやスバルを倒しそうにまでなった!!」
自暴自棄になるかのように次第に言葉のトーンが荒んでくる。
「なのはさんやヴィータ副隊長、フェイトさん、シグナム副隊長達も私の事さぞ情けないって思ってるんじゃないですか?! 言うこともきかずにヘマばかりして、挙げ句に敵にまんまと利用される役立たずのダメな教え子だって…!!」
「ティアナ! お前いい加減に―――」
ティアナのヴィータは足を踏み出そうとするが、なのはが手を出してヴィータを止める。
「現場での指示や命令は聞いて…教導もちゃんとサボらずやって…それ以外の場所の努力まで教えられた通りじゃないと…今日の私みたいな惨めな事になる…“優秀”なスバル達にはいい教訓になったんじゃないですか!?」
震える声で訴えるティアナ。
強くなりたい、その一心で努力したのに…その結果が今日の模擬戦で見せてしまった数々の失態…またも豊臣の幹部を前に惨敗し、挙げ句に敵に洗脳されて大事な仲間と殺し合いをさせられるハメになった…全てが水疱に帰したような気分だった。
最早、自分は何のために機動六課の一員であるのかわからなくなってしまった…
「私は、なのはさんたちのようなエリートじゃないし、スバルやエリオのような才能も…キャロみたいなレアスキルもない!ましてや家康さんや政宗さん、幸村さん達みたいに特別な力も…人外な武術の心得だってない!!
挙げ句に無茶をしたり…敵に操られでもしなければ、強くなんてなれない!! 本当に情けない隊員ですみませんね!!」
「ティア! お願いだからもうやめて! やめてってば!!」
見かねたスバルが悲痛な叫びを上げながら、ティアナの前に出て止めようとする。
だが…
「うっさい!アンタは黙ってて!!」
ティアナはスバルを押しのけると、なのは、フェイト、ヴィータ、シグナムを順に見つめ…否、睨みながら決心した様に口を開く。
「なのはさん…私…決めました………」
ティアナは目に薄っすらと涙を浮かべたまま、軽く深呼吸を入れ…そして、予想打にしていなかった一言を言い放った。
「
とうとう離隊宣言が出ちゃいました(苦笑)
『StrikerS』の二次SSにおけるティアナ編(7~9話)では原典以上にティアナを追い詰める展開になる作品も少なくなかったのですが、離隊宣言まで考える程追い詰められてた作品ってありそうでなかったものですから、じゃあここでやってみようと思ってこんな展開を…ティアナファンの方。いつもながらホントすみません。
この極限までこじれてしまったティアナの心をなのは、そして佐助はどう紐解いてあげるのか…せっかく再開したので執筆意欲を落とさないように注意しながら頑張っていこうと思います。