リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
そして、とうとう彼女の出した答えは『機動六課からの離隊』であった…
一方、相次ぐ西軍の襲撃を前に、家康やなのは達は六課の中に内通者=裏切り者がいる可能性を懸念する。
…その懸念がまもなく最悪の形で現実になるとも知らずに…
ルーテシア「リリカルBASARA StrikerS 第二十八章 出陣……」
ティアナの口から出た衝撃的な一言になのは達だけでなく、話を聞いていたスバル達
「ティ…ティア…? な、何言ってるの!?」
「そ、そうですよ! どうしてティアさんが六課をやめる必要があるんですか!?」
「うるさい! 私はもう沢山なのよ! これ以上、ここで自分の不甲斐なさを思い知らされたり、アンタ達才能ある奴らとの距離を見せつけられる事が!!」
スバルとキャロが困惑しながらティアナを説得しようとするが、当人は喚くようにそう言って聞き入れさえもしなかった。
「ティアナ! テメェ、寝ぼけた事ほざくのも大概にしろよ! お前の才能を見込んで、
流石に耐えきれなくなったヴィータがとうとう我慢できずに声を張り上げた。
その剣幕に少し怯みながらも、ティアナは引き下がらずに反論する。
「私は別に『入れてくれ』だなんて頼んだ覚えはありません!! それに勝手に私の才能を見込んでいたのでしたら、どうやらそれは見当違いだったみたいですね! 蓋を開ければ、こんな命令無視ばかり犯している役立たずな“凡愚”だったのですから!」
「この馬鹿者が…いい加減に――――」
最早、収集がつかなくなりつつある状況を前に、シグナムがティアナを諌める為に拳を振り上げようとした。その時だった―――
「……それと今は “駄々っ子”とでも付け加えておいた方がいいんじゃないか?」
一同の後ろの方から冷たいトーンの声が聞こえる。
スバル達やティアナ、なのはや家康達も声のあったほうを見ると、そこには片腕にギプスと包帯を着けて、額や頬にガーゼや絆創膏を付けた痛々しい姿の佐助が立っていた。
「佐助…」
幸村が呟くように声を掛けると、佐助は「よっこらせ」っと重い腰を上げるように歩を進めはじめた。
「まったく…こちとら身を挺して大谷の妖術から開放してやったってのに、今度は違う方向へ暴走かよ? これじゃあ、俺もとんだ“骨折り損”じゃねぇか。ホントの意味で…」
佐助はぶつくさと文句を言いながら、一同のところへと近づいてくる。
ティアナはそんな佐助を睨み付ける。
しかし佐助はティアナを無視して、なのはの前に歩み寄った。
「佐助さん…怪我は大丈夫なの?」
「あぁ。シャマル姐さんからのお達しで、念の為に今夜一晩はこんな大袈裟な状態で過ごさなきゃいけないけど、治癒魔法のおかげで骨はもう繋がっているから大丈夫。それよりも…」
佐助はティアナの方に冷たい一瞥を送ってから、なのは達の方へ視線を戻しながら言った。
「なのはちゃん。
「で…でも…」
「いいから…コイツはすぐに医務室に送り返しておくから、なのはちゃん達は任務に集中して。ね?」
そう言って不自然な軽い笑みを浮かべる佐助に、なのは、フェイト、ヴィータは妙な威圧感を覚える。
「そ、そこまで言うなら…お願いしてもいいかな…?」
ここは素直に従う事を選び、ヘリに乗ろうとした。
当然、ティアナは納得がいかず、なのは達を送り出そうとする佐助に食いかかった。
「ッ!!?…ちょっとアンタ、勝手に出てきて勝手な事言わないでよ! 私はなのはさんに離隊願いを――――」
「バカ野郎ッ!!!」
そんなティアナの言葉を遮るかのように佐助の怒声がヘリポート中に反響した。
「「「「「ッ!!!?」」」」」
その怒鳴り声にティアナだけでなくなのは、フェイト、ヴィータ、スバル達、果ては幸村ですら一瞬ビクッと震え上がる。
そして、佐助はティアナの前に立つと……
「「「「「「「「!!?」」」」」」」」
ティアナの頬を、力いっぱい平手打ちした。
打たれたティアナはヘリポートの冷たいアスファルトの地面に倒れる。
「てぃ、ティア!!?」
スバルが思わず悲鳴に近い叫びを上げた。
「ティアナ!」
なのはは思わず乗りかかっていたヘリのキャビンから降りて、ティアナに駆け寄ろうとするが、政宗がそれを阻むようにヘリの前に立ち、なのはに背中を向けたまま、片手で制止した。
「Just come ここは俺達がなんとかする。お前らはさっさと出撃しろ」
「で、でも――――ッ!?」
「Get out! Go quickly!」
尚もこの状況からの出撃を躊躇するなのはに対し、政宗は語気強めに諭した。
すると、ヘリから降りようとしていたなのはが再びヘリのキャビンに引き戻される。
「ほら行くぞ、なのは」
「ちょ、ちょっとヴィータちゃん!」
抵抗したが、見かけより遙かに力のあるヴィータは、無理矢理ヘリに引きずり込み、キャビンのパネルが閉じられると、ようやくヘリは離陸したのだった。
夜空高く舞い上がっていくヘリの窓からなのはとフェイトが顔を出し、フェイトはエリオとキャロに念話を送る。
《エリオ、キャロ。ごめん、そっちのフォローお願い》
(あっ、はい)
(がんばります)
エリオとキャロは表情を変えずにフェイトに返す。
そしてヘリは海上に向けて一気に加速していった。
「ティア!」
スバルが慌ててティアナの下に駆け寄り、上体を起こす。
「さ…佐助!? お、女子相手にそれは―――!?」
さすがの幸村も、佐助のこの行動を諌めようとした。
「心配すんな大将…手加減はしている…」
佐助は冷たい声でそれだけを答えると、地面に倒れ込んだティアナに向かって怒声を投げかける。
「自分の不甲斐なさを思い知らされる? 才能ある奴らとの距離を見せつけられる?
そんな理由で、
叩かれて赤く腫れた頬を抑え、うつろむいていたティアナの胸ぐらを掴み、無理矢理立たせる。
「さ、佐助さん! お願いですから、もうやめてあげてください!」
「黙ってろ!!」
「…ッ!?」
止めようとしたスバルだったが、佐助の一喝で気圧されてしまった。
佐助は本気で怒っている……そう直感したスバルは黙るしかなかった。
一方、顔を背けたままのティアナに向かって佐助はさらなる激を飛ばした。
「いいか! 自分にない
「…………」
「なのはちゃん達がどんな気持ちでお前を迎え入れたのかは知らないが、お前も今はこの『機動六課』という大きな隊の中の重要な“将”の一人なんだ! 将ってのは一人でも欠けると大きな綻びとなり、やがて大きな穴になって組織全体を崩しかねない弊害になる事だってあるんだ! お前も子供じゃないなら、そのくらいいい加減に学べ!!」
佐助の容赦のない叱責が続く。
「俺達“忍”はひとつの目的の為に百の命を捨てる! だが、今お前が犯しかけている愚かさは…ひとつの感情の為にこの機動六課に属している全ての命を失わせるだろう!!」
「あの、佐助さん…その…このくらいに…」
「抑えて下さい…」
エリオとキャロはフェイトに言われた通り、恐る恐るだが、フォローに回った。
しかし、それが果たして意味を成していない事はエリオ達もわかっていた。
「…………あ……あんた達なんか………」
ここへ来て、黙っていたティアナが絞り出すように声を出し始めた。
「あんた達なんかに……なにがわかるのよ…? …才能も実力もあって…『名将』だの『偉人』だのと持て囃されて、挫折の無い道を歩いてきた連中に……私の……“負け犬”の気持ちなんか……」
「………………」
ティアナの言葉を聞きながら、佐助は彼女の胸ぐらを掴む腕の力を緩めると、そっと離してやった。
ティアナは力が抜けるようにヘリポートの地面に膝をつく。
その様子を黙って見ていた佐助だったが、やがて小さくため息をついてから口を開いた。
「……こんな言葉を知っているか? 『隣のものは
「……なによ? それ?」
佐助が唐突に妙な事を話し始めた。
「お前は俺達が『挫折の無い道を歩いてきた』なんていうが……そんな人間なんて、いるわけがないだろう。人間ってのは、生きてる限り必ずや挫折するものだ。真田の大将だって…独眼竜や片倉の旦那達だって…徳川の旦那だって…」
「なのはだって、そうだ」
そこへ言葉を添えてきたのは今まで話を静聴していた政宗だった。
思わぬ人物の介入にスバル達は思わず目を丸くする。
「政宗さん…?」
政宗はティアナに視線を送りながら、小さくため息をついた。
「猿飛のslapで少しはcool dawnできたか? …ったく
「ま、政宗さん…それはどういう意味ですか…?」
キャロが尋ねるのを尻目に、政宗は佐助に顔を向けていった。
「猿飛…それに小十郎…真田…家康…どうやら
「はぁ…」
「い、如何なる話をでござるか?」
「……ひょっとして…?」
小十郎、幸村、家康の問いかけに政宗は、ティアナとその周りにいるフォワードチームの面々に真剣な眼差しを向けたまま答えた。
「こいつらに教えてやるのさ……“
「…………独眼竜の旦那…」
佐助は政宗の表情からその意図を察した様に、強張っていた表情を一瞬だけ僅かに緩めた。
*
その頃、スカリエッティのアジトではスカリエッティが一人、ガジェット達の調整を行っていた。
すると目の前に浮かぶホログラムコンピュータのモニターに、ルーテシアからの通信映像が届く。
「おや、これは珍しい。 君から連絡をくれるとは嬉しいじゃないか。アギトやミスター島津、ミスター立花達はどうしたんだね?」
《今は別行動…》
ルーテシアは静かに答えると、スカリエッティに問いかける。
《遠くの空にドクターの
「じきにきれいな花火が見えるはずだよ」
《レリック?》
「だったら、君に真っ先に報告しているさ」
そう答えながらスカリエッティはコンピュータを操作する。
「元々今日は私の
《……ゲーム?》
ルーテシアが小さく首を傾げると、スカリエッティは通信越しに意気揚揚と話す。
「なぁに、大した事ではないよ。ちょっと試してみようと思うんだ。あの“凶王”が、あそこまで狂気をむき出しにして執着する“徳川家康”と、彼の掲げる“絆の力”というものをね」
《そう……レリックじゃないなら私には関係ないけど…でも…がんばってねドクター》
「あぁ、ありがとう。やさしいルーテシア」
《じゃあ…ごきげんよう…》
ルーテシアからの通信が切れると同時に、スカリエッティの背後に輿に乗った大谷がゆっくりと暗闇の中から近づいてきた。
「首尾良ぅか? スカリエッティ」
「あぁ。 こちらはまもなくすべての用意が整うところだよ。そちらはいかがかな? 大谷殿」
「すべて順調…こちらに招いた“
頷きながらスカリエッティは「結構」と満足そうに話した。
「それで…三成君は、この計画に関してなんと?」
「三成は我を『疑わぬ』と言う」
大谷の返答を聞いたスカリエッティは「フフフ…」と薄い笑みを浮かべる。
「大谷殿は本当に三成君と仲良くしているんだね。 信用というものは、そう容易く得られるものじゃないよ」
話しながら、スカリエッティは改めて三成と大谷の主従関係に感心した。
お互いに全信頼を置き、自分達が良い結果に結びつく事ならば、どんな手段を用いる事にも一切異論を挟む事なく、主人は命令し、腹心は行動する。
まさにそれは自分と
「我らの成す事、すべてあやつの利となる事合いならん。 三成はそれを疑わぬと申すだけの事」
「そうか…だったら私も、彼にとってこの計画が利となるように努力するとしよう」
二人は顔を見合わせると不気味な笑い声を上げた。
するとそこへ、暗闇の向こうから一人分の足音が聞こえてくる。無機質で冷たいアジトの一室には不釣り合いなまでに騒々しい歩調だった。
「刑部さん! 襲撃隊“甲”の用意整いましたよ!!」
「あいわかった…ご苦労であったな左近……では貴様は手筈通り、景勝と共にウェイツからの合図を待て……」
大谷は振り返る事なく、次の指示を出した。
「了解っス。ところで…“乙”の方は大丈夫なんスかね?」
両手を頭の後ろに回し、気の抜けた姿勢で立ちながら、左近がボヤいた。
それに返したのはスカリエッティだった。
「その心配はないよ、左近君。あちらには性能を強化したタイプの機体に加えて、“試作型”も用意しておいた。陽動程度の任務であればぬかりはない筈だよ」
「そうは言ってもねぇ。肝心の指揮官が…なぁ…」
左近は呆れたように虚空を見上げながら、独りごちる様に言った。
「刑部さん。一応聞きたいんスけど…陽動とはいえ、なんでまた“又兵衛”先輩なんかを大事な作戦に加えたりしたんスか? あの人、色々とぶっとんでるから余計な事しでかしそうで、かなり心許ないんスけど?」
話しながら左近は指差しをこめかみの近くで回すジェスチャーをした。頭がおかしいと言いたいのだろうが、一応は同じ西軍ひいては豊臣派勢力の同志という事で表現を控えているのだろう。
「まぁ、そう言うな左近。陽動は如何に奴らをおびき寄せ、引きつける事が出来るかが肝心要…つまり、より敵に執心してかかる兵の存在が必要とされる」
「…そんなもんスかねぇ?」
左近はいまいち納得できないのか、眉を顰める。
その様子に大谷はもう少しこの男には兵法をしっかりと学んでほしいと思った。
「今にわかる…それに少なくともあ奴は、
「…まぁ、刑部さんがそこまで言うならいいっスけどね。所詮、俺とは別行動ですし。せいぜい三成様や俺達の足を引っ張らない事だけを祈りたいっスよ」
そう言うと、左近は大谷達の前から離れて去っていった。
その背中を目で追いながらスカリエッティはまた含み笑いを浮かべた。
「貴方といい、左近君といい…本当に忠義ある家臣を持って三成君も幸せ者だね」
「それは“皮肉”か? スカリエッティ」
「とんでもない。褒めているのさ…純粋な心で」
「よく言うのぉ。“純粋”とは無縁な、野心と欲望の塊の様な男が」
薄暗いアジトの中に再度、大谷とスカリエッティの不気味な笑い声が響くのだった……
*
問題の貨物船の上空に到着し、バリアジャケットを装着したフェイトとヴィータを先に出撃させたなのはは、ヘリの搭乗口からガジェット達の動向を観察する。
ガジェット達は今までの戦いと変わる事なく、機動六課の登場と共に一直線にそちらに向かってきた。
「行くぞ、アイゼン! フォルム、ツヴァイ!!」
ヴィータの掛け声と共に、グラーフアイゼンがさらに巨大なハンマーの形をした大威力突撃型の“ラケーテンフォルム”へと姿を変える。
「ラケーテェン…ハンマァァァァァァァァ!!」
ヴィータがラケーテンフォルムのグラーフアイゼンを振るうと、三機のガジェットを吹き飛ばし、その衝撃波で背後を進んでいた5機を巻き添えで、吹き飛ばす。
(ヴィータちゃん!怪我の方は大丈夫!?)
《あぁ!心配すんな。もう傷口も開かねぇし。大丈夫だ!!》
(でも無茶はしないでね!)
なのはは念話でヴィータに注意を呼び掛けると、今度はフェイトの方に顔を向ける。
フェイトはヴィータから数百メートル離れた場所に浮遊しバルディッシュを向かってくるガジェット達に向けて構えていた。
するとフェイトの周囲に電気を帯びた魔力スフィアが生成される。すると球体は一つ一つが槍状に変化する。
「プラズマランサー…ファイアッ!!」
フェイトの掛け声に、ランサーはガジェット達の方に向けて飛んでいき、次々とガジェットを撃墜していく。
《なのは。ガジェット達の増援が来る気配は無いみたいだから、ここは私とヴィータに任せて、貨物船の人達の安否を確認して》
(うん。お願いねフェイトちゃん)
フェイトとの念話を切ると、なのははレイジングハートをセットアップさせ、バリアジャケットを装着しながら空中へと身を投じると、貨物船に向かって降下していった……
爆音が響く船の上空とは正反対に、船の中は水の弾ける音か聞こえるくらいにシンっと静まりかえっていた。
それが逆になのはにとっては不気味さを感じられる。
「乗員の人達はどこにいるんだろう? 一定の場所に集まって隠れているの? それともまさか…」
なのはの脳裏に一瞬最悪の光景が浮かびそうになるが、なのはは慌てて首を振ってそれを防ぐ。
「でも襲撃されていたわりには、内部にガジェットが入り込んだ様子も無いし…それどころかこの船……人の気配すら感じられない…」
明らかに異様な空気に囲まれて、なのはの警戒心もより一層深くなる。
やがて、なのはが船の中心である倉庫のような大きな部屋の入り口に差し掛かった頃―――
突然部屋の中で何かが蠢くような音か聞こえてきて、なのはの足が止まった。
「誰?」
なのははレイジングハートを構えながら部屋に入る。
「誰かそこにいるのですか?」
なのはは、ゆっくり部屋の奥へと進んでいく。
「私は時空管理局 機動六課所属 高町なのは一等空尉です。誰かいませんか?」
倉庫の中には様々な木箱や段ボールが積まれており、死角となる場所は山ほどある。
なのはは、不意討ちなどに警戒しつつ、呼びかけ続けた。
すると、一際大きな木箱の脇に人影らしきものが寄り掛かっているのを見つけた。
「あれは…」
なのはは、少しずつ人影に迫っていくと、後ろからそっと呼びかける。
「あの…この船の方ですか?」
しかし人影は何の反応もしない。
なのはが恐る恐る手を掛けてみると…『それ』はゆっくりと床に倒れ込んだ。
「!?…こ…これは!?」
なのはが驚いて数歩程後退する。
それはなんとマネキンにダイナマイトらしき爆薬が取り付けられ、マネキンの顔の部分に『バ~~カ』と書かれた紙が貼ってあったのだった。
「くっ!?」
なのはは、慌てて倉庫から飛び出し、死角となる場所に飛び込むと同時に爆薬付きのマネキンが爆発し、倉庫が一瞬のうちに火に包まれた。
なのはが死角から顔を出して、炎に満ちた倉庫を見つめる。
「今どきこんな策にひっかかるなんて…私も油断しすぎちゃったかな?」
なのははそうつぶやきながら、ティアナの事などでいろいろと考え込みすぎたせいで隙ができたかと、自身を振り返って反省していた。
だが、それが仇となった…
「チィッ! 本当だったらあのまま『木っ端微塵にして灼熱の炎で骨の欠片一つ残さないで灰にして海にばら撒きの刑』にしてやるつもりだったのに…ちょこまか逃げてんじゃねぇよぉ!」
「―――ッ!?」
不意に、背後からかかった声になのはの表情が変わる。
ドガッ!!
慌てて後を振り返ろうとしたなのはだったが、その前に硬い何かで頭を強打されてしまう。
「うぅ!?」
なのはは悶絶しながら地面に倒れ伏し、その手からレイジングハートが離れてしまった。
「まぁ…運のいい木偶なら、それはそれで使い道があるから別にいいんだけどねぇ? ケーケッケッケッケッケッ!!」
「うぅ…あ……貴方……………は……」
薄れていく意識の中で、なのはが最後に見えたもの…
それは、奇怪な三日月型の大きな刃を持ち、ニタリと粘着質な笑い声を上げる西軍・黒田官兵衛配下の将 後藤又兵衛の姿であった……
*
機動六課・隊舎―――
ロビーの片隅に設けられた2組のソファーと机で構成された応接セットの片側のソファーにスバル達フォワードチームの面々が座り、反対側に佐助をはじめ、家康、政宗、幸村達とシグナムと、佐助に軽く打たれたというティアナの手当の為に呼び出されたシャマルが座り、話の場は整った。
「話に入る前に、まず俺からお前達に一つ聞きたい事がある……」
開口一番、佐助は頬に氷嚢を当てたティアナを含むフォワードチームの4人にこんな問いかけをしてきた。
「ティアナ、それにスバル達もそうだが…お前達にとって、『完全無欠の人間』っていうのは具体的にどんな奴の事いう?」
「「「「えっ…!?」」」」
佐助の突然の質問に、スバル達は戸惑ってしまう。
今まで考えた事もなかった事を急に問いかけられて、スバル達は必死に返す返事を考えるがどうしてもまともな答えが見つからない。
「えっと……それは…やっぱりなのはさん達や、家康さんや兄上のように強い魔力や武芸の腕を持っている人…じゃないですか?」
エリオが恐る恐る答えると、佐助は
「まぁ、確かに率直に考えたらそう考えるのが普通だよな。だけど、例えば刀や槍の腕がすごかったり、強い魔法が使えても、右も左もわからないような頭のからっきしだったらどうする?」
「それは…」
エリオが言葉を濁らせると、今度はキャロが答えた。
「それじゃあ、頭がよくて、様々な知識を持った人とか…ですか?」
「そうだな。でも力や知恵があっても、そいつの心が強くなかったらどうだ?」
「心?」
キャロが問い返した。
「例えば、腕っぷしが強くて、知識にも秀でていて、それでいてそいつが自分の掲げる価値観こそが全て正しいと信じて疑わない自己中な上に他人の命を虫けらみたいに扱うド外道で、欲深くて、自分こそが最強と勘違いするような傲慢な性格…そんな奴が人間的に強い“心”だと思えるか?」
「…いえ、全然」
キャロは首を左右に振りながら即答した。
次に口を開いたのはスバルだった。
「つまり、家康さんみたいに優しかったり、誰に対しても気を使える人や前向きな人の心が強いって事なのですか?」
「なるほどな、今のはいい答えだな。でもそれだけではまだ『完全無欠』とはいえないな?」
そう言いながら、佐助はいよいよ正面に座っていたティアナに顔を向けた。
「それじゃあ、ティアナ。お前にとって『完全無欠な人間』とはなんだ?」
「………私みたいに『嫉妬に狂うような奴じゃない人間』とでもいいたいわけ…?」
ティアナは佐助を睨みつけながら不貞腐れたようにそう言うと、当てつけのようにそっぽを向いてしまう。
未だに先程のヘリポートでの騒動を根に持っているのだろうと察した佐助は小さくため息をついてから徐に語り出した。
「それじゃあ今のお前達の意見を総括して考えるに、お前達…特にティアナが思う『完全無欠な人間』とは『腕っぷしが強くて、頭が秀で、病一つ拗らせない強靭な肉体を持って、独善的でなく、日和らず、常に慈愛をもって人と接し、力や階級に驕らず、物事に多角的な視点を向け、自分の弱さを正面から受け止め、他者への気配りを忘れず、強い自制心を持ち、人を妬まず、保身は考えず、常に冷静であり、しかし前向きに思考し、真実や過ちから目を背けない人間』……って事になるけど…そんな人間が身近にいたり、知り合いにいたりしますか?皆さん」
佐助が不意に、話を聞いていた家康、政宗、幸村、小十郎、シグナム、シャマルに尋ねた。
当然、誰もそれに返答する者はいなかった。
そればかりか、佐助が『完全無欠な人間』と例えた人物像の荒唐無稽な内容にスバル達だけでなく家康達やシグナム、シャマルでさえも呆気にとられている様子だった。
「そんなPerfect humanがいるわけねぇだろ」
「あぁ…そんな人間、実在するとしたら、まさしく“神”だぞ?」
政宗とシグナムが半ば呆れた様子で言った。
だが、佐助は予想通りの反応だと言わんばかりに満足そうに頷いた。
「まぁ、確かに現実にそんな観音菩薩の様な聖人がいたら、
ヘラヘラと笑いながら呑気に話す佐助に、とうとう痺れを切らしたティアナがバンッ!と応接セットのミニテーブルを手で叩きつけた。
「いい加減にしなさいよ!! そんなくだらない与太話を聞かせる為にわざわざさっきは私の邪魔しようとまでしたわけ!? 人をどれだけバカにすれば気が済むのよ! アンタは!」
「ティ、ティア!…落ち着いて!」
広いロビーにティアナの怒声が反響する。
息を荒げるティアナに横にいたスバルや、エリオ、キャロが狼狽えるが、彼女の激しい怒りを真に受けた当の佐助自身は動じる事なく、直ぐに真剣な表情に戻り、ティアナを見つめ返した。そして口を開いた。
「要するにだ…俺が言いたいのはこういう事さ。完全無欠な人間などこの世には存在しない。当然、お前が『嫉妬に狂ってる』って相手のスバル達は勿論、なのはちゃん、そして俺達
「「「「えっ!?」」」」
佐助の出した答えに戸惑うフォワードチーム。
勿論、それは憤っていたティアナもそうだった。
佐助はやっとティアナが話を落ち着いて耳を傾けられる姿勢になった事を確認すると、家康の方に顔を向ける。
「徳川の旦那。 あんた、こいつらに豊臣秀吉の事を詳しく話した事はあるか?」
「いや…ゆっくり話した事はないが…」
「じゃあ、教えてやってくれないか? あの『覇王』の悲しい人生と…それに終止符を打ったアンタの“苦悩”って奴をさ」
佐助はそう言いながら、スバル達の方を顎で示す。
家康は、はじめは佐助の指示の意図が判らずに戸惑っていたが、フォワードチーム…特に表情を暗くしたままのティアナを見て、何かを察したようにハッとする。
「ッ!?…なるほど。そういう事か」
家康はようやく、佐助が何をしようとしているのかその意図を察したのか、小さく頷く。
「わかった…ここからはワシに任せてくれ。猿飛」
そう言って、家康は徐に話を始めた…
*
「皆…豊臣秀吉の名は覚えているか?」
「豊臣秀吉って…確か、家康さんが昔仕えていて、最終的に家康さんが倒したっていう…」
スバルが今まで聞いていた記憶を頼りに答えると、家康は頷いた。
「そうだ…だがその豊臣秀吉という男は…人々から『覇王』と畏怖された一方で、その力を得る為に悲しい運命を辿ってしまった哀れな人物でもあるんだ…」
そして家康は今まで語っていなかった『覇王』の生涯を話し始めた…
愛する妻とも出会い、多くの友に囲まれて、何ら変わりのないとても幸せな毎日を送っていた―――
しかし、ある時戦国の世を騒がせていたとある“悪党”を成敗すべく、殴り込みを掛けに行った時の事であった―――
その悪党の持つ力は強大で、圧倒的な力を前に秀吉は徹底的に叩き潰されてしまった―――
かろうじて親友に助けられた彼であったが、それをきっかけに今までの自分の生き方や、弱き自分…すべてを嫌悪するようになった―――
それからの秀吉は、まるで人が変わったかのように「力」を貪欲なまでに追い求めるようになった―――
友を捨て、愛する人を捨て、己が力を手に入れる為にそれまで自分が拒否していた冷酷な手段にも手を出していき、彼は瞬く間に強大な力を手に入れて行った―――
だが、いつしか力以外のすべてを否定するようになった彼は自分が強さを得る為に、その障壁となりうる存在をすべて排除せんと考え…ついに超えてはいけない一線を越える凶行に出てしまう…
それは…自分を愛し、そして愛された人間……自身の妻を“殺す”事だった―――
この事件によって親友とも袂を分かしてしまった秀吉は今まで得ていたすべての温もりを失い、非情で哀しい覇業の道から戻る術をなくしてしまった―――
そうなった時…秀吉に残されたものは…もはや力以外の何もなかったのであった―――
「やがて豊臣秀吉は、ワシをはじめとする多くの有力武将達を配下に収めて天下統一を達成した
…だが、それと同時に彼は、人としての温もりをすべて失い、力だけを信じ続ける哀れな『覇王』となってしまったのだ」
「「「「………………」」」」
家康はそう言って話を〆ると、話を聞いていたスバル達はその悲惨で壮絶な秀吉の生き方にしばらく言葉を失っていた。
「ティアナ。お前、今の話を聞いて何か思い当たる事はないか?」
すると、佐助が唐突にティアナに向けて問いかける。
「………同じだ……」
ティアナは静かに話し出す。
「ホテル・アグスタで…ミスショットしてからの私と同じ……」
ティアナはアグスタの任務の日から今日までの自分と、家康から聞いた秀吉の話を頭の中で重ね合わせた。
屈辱的な失敗と大敗を喫し、より強くなる事でその辛く、苦しい記憶を振り払おうと、執拗に力に執心していた…
その執心さは、一度の敗北をきっかけに『力』を追い求めて覇業の道を歩み進んだ秀吉とまるで同じ…
一度の失敗をきっかけに『力』を求めて他者の命や心情を物ともしない危険で無茶な戦い方を行い続けた自分は、哀しき“覇王”と同じ道を歩みかけていたのだった。
『力』を求めるあまり大切な人や友達をすべて捨ててしまった秀吉と、『力』を求めるあまりスバルの忠告に耳を貸さず、スバルを囮に使う事で自分の力を証明する為の糧にしようとした自分…
まるで彼の覇業をそのまま再現したかのような行為の数々が走馬灯のようにティアナの脳裏を走る。
「…私は……その豊臣秀吉と……同じ過ちを犯してたって事…?」
ミッドチルダの人間で、ましてや家康達の世界であるパラレルワールドの戦国時代の事なんて行った事もない彼女は、当然ながら秀吉の事は何もわからない…
だが力を追い求める為だけに、友を捨て、愛する人を手にかけさえした彼に対しては自然と嫌悪感を抱いた。
しかし、彼に対する嫌悪感を覚えると同時に、自分が今まで『努力』と呼んでいたものが、ただの他者を顧みない『凶行』に過ぎなかった事を想い知る事になった。
愕然とするティアナに、今まで静観していた幸村がいつになく深刻な表情で声を掛ける。
「ティアナ殿…今度は某の話を聞いてくれぬか?」
そんなティアナに今度は幸村が話しかける。
「これはティアナ殿だけではない…エリオ…お前にも聞いてほしい事だ…」
「な、なんですか? 兄上」
幸村はエリオやスバル、キャロにも真剣な眼差しを向け、ただならぬ雰囲気にエリオも戸惑った。
「某もお主達に話すでござる…武田の軍門を背負った某が歩んだ…茨の道を…」
*
幸村が師として、そして親として幼少期より慕い続けてきた君主 武田信玄―――
幸村は信玄の天下統一という夢を果たすために己を鍛え、その槍を振るい続けてきた―――
武田の天下統一は師の夢であり、同時に幸村自身の生きがいでもあった…―――
だが、そんな幸村に衝撃的な事件が起こる―――
敬愛する信玄が病に倒れ、武田軍総大将を降りなければならなくなったのだ―――。
動揺する幸村に、信玄は武田の大将の座を明け渡し、天下統一への夢と甲斐の未来を託して病床へ伏した―――
だが敬愛する信玄というあまりにも大きな指針を失った幸村には、武田の手綱を正しく指揮する余裕すらなかった―――
今まで、信玄の下でただ彼の言われるままに武勇を振り、信玄の示す道のみを歩み続けていた幸村…―――
そんな彼が、突然『総大将』という、今まで師が努めてきた職務に就く事になっても、幸村はどうやったらいいのかわからなかった―――
今後どころか現状も見えぬまま拙い采配を振い続けるが、当然ながらそんな事で軍が成り立つわけがなく、甲斐武田軍は徐々に転落の一途を辿っていった…―――
さらに政宗、家康など頼れる大将として成り立っている好敵手達を前にして、幸村はますます己の無力感に苛ばまれ、苦悩し、夢の中でさえもがき苦しむまでになり、とうとうある時、自らの父にして、甲斐武田軍傘下 真田軍の頭領であった真田昌幸に、これ以上武田の栄名に泥を塗りたくないから、総大将代行の座を明け渡したいと嘆願した…
*
「だが、某は間髪入れずに親父様に頬を打たれたでござる。先程の佐助に叩かれたティアナ殿と同じ様に…」
「「「「…………ッ!?」」」」
「そして、生まれて初めてという程に激しい叱責を受けたでござる。『それは御家を思う気持ちなどではない。お前を信じ、お前に全てを託した
「逃げという名の…謀反…?」
エリオが唖然とした様子で問い返した。
「先程、ティアナ殿が六課を脱退すると宣言された時…某の脳裏にはその時の親父様の叱責が思い浮かんだでござる」
話しながら幸村の視線は自ずとティアナの方を向いていた。ティアナは何も言わず、幸村の話を聞いていた。
ただ、その目はどこか悲しそうだった。
「それで…幸村さんのお父さんはどうされたのですか?」
キャロが尋ねた。
「それから親父様は某に二言だけ助言を呈して下された。『
「自分に…?」
「返れ?」
スバルとエリオが幸村の言葉を復唱する。
幸村は頷いた。
「その後、様々な
己の力量を他人と比較してしまう事は人間誰しもが幾度も抱えるであろう“負”の意識であるが、“負”の意識に囚われたまま先人達の背中を追うのではなく、大切なのは己が信ずる“道”を見つける事でござる」
「「「「「…………………」」」」」
幸村の言葉にスバル達だけでなく、いつの間にか横で聞いていたシグナムやシャマルまでも黙って聞き惚れてしまっていた。
「つまり…
そう意味深な口調で話に加わってきたのは今まで静観していた政宗であった。
「…そして、自分を見失って無茶に走った挙げ句にどん底を経験したのはここにもいるぜ…」
「…それってつまり…」
スバルが尋ねた。
「あぁ…俺もまた、真田とよく似た経験をした事があってな……」
政宗は先日、なのはとヴィータに聞かせた話を語って聞かせた。
天下掌握直前の全盛期の豊臣軍に対し、無謀な挑戦を挑んだ結果、小田原での石田軍に惨敗…その後、他の敵対勢力からの攻撃から必死に逃れながらの奥州への敗走…スバル達は真剣に聞き入った。
「政宗さんに…そんな経験が―――」
「stop。 俺がお前らに話したい事は、俺のつまらねぇFailure storyなんかじゃねぇ」
政宗の語った壮絶な話に言葉を失うスバル達だったが、政宗の話の主題はそれではなかったのか、感想を述べようとしたスバルを手で制した。
「実は俺はこの話を
政宗のその一言に、シグナムとシャマルの表情が一変する。
「政宗君…!? 貴方、ひょっとしてなのはちゃんから…」
「聞いたのか? あの“事故”の話を…!?」
動揺した様に尋ねるシャマルとシグナムにフォワードチームの4人は訝しげる。
特にシグナムの口から溢れたとあるワードが気になった。
一方の政宗は黙って頷いた。
「…だったら口で説明するだけじゃなくて、実際に観てもらった方がいいと思うわ…実は…当時の“記録”が残っているの…」
そう言って、ホログラムコンピュータを起動してコンソールを操作し始めるシャマルだったが、その表情は重く暗い。
彼女の隣でその様子を見守っていたシグナムもまた、同様の表情を浮かべていた。
そんな彼女達の様子を見た政宗は、件の事件はなのはだけでなく、その仲間達の間でも深い心の傷として残っているのだと改めて実感した。
「お前ら…これから話すのは、
政宗はフォワードチームの4人に向かって宣言するようにそう言うと、語り始めた。
自らがなのはから教えてもらった彼女の過去、そして自らが今の教導指針を定めるきっかけになった大事件を……
それまでごく普通の女の子だった少女 高町なのはが、一匹のフェレットを見つけた事をきっかけに足を踏み出す事となった魔導師への道―――
後に『P.T事件』と呼ばれる事件を通して、今では公私ともに良き親友であるフェイトとの出会い、対峙―――
戦いの中で開花させていく魔法の才能、そして実戦―――
戦いを終え、宿敵であったフェイトとの和解―――
だが、それからまもなく次の戦いが始まる―――
シグナム達“
新たな術式『ベルカ式魔法』の使い手である守護騎士との交戦の果てに撃墜未遂と敗北―――
対抗する為に導入した不確定の新技術―――
『P.T事件』をも凌ぐ強敵達との戦いに、自身の限界値を越えた出力を無理矢理引き出すフルドライブ『エクシードモード』の採用―――
戦いに続く戦いを、己の限界を顧みない根性で乗り越えてきたなのはだったが、その身体はとうとう限界を迎える―――
時空管理局に正式に入局してから2年目の冬に起こった忌まわしき“事故”――――
積もりに積もった疲労がきっかけで起きた僅かな勘の衰えが招いた瀕死の重傷――――
政宗はなのはから聞かされた話をそのままフォワードチームに語りながら、シャマルが見せてくれたなのはのこれまでの経緯全てが映された記録映像を見て、改めて彼女の過ごしてきた壮絶な経験に驚きと感心を抱くのだった。
そして、なのはの知られざる過去…そして無茶を重ねた末の“結果”である病院のベッドでいくつものチューブを身体に刺し、横たわっている包帯姿のなのはの痛ましい姿にフォワードチームは愕然とした表情で、モニターを見る事しかできなかった。
それは勿論、ティアナも…
すると、シャマルが政宗さえも聞かされていなかった情報を補足してくれた。
「なのはちゃん…『無茶して迷惑掛けてごめんなさい』って、私達の前では笑っていたけど……もう飛べなくなるかもとか、立って歩く事さえできなくなるかもって聞かされて…どんな思いだったか…」
シャマルは悲痛な面持ちを顕にしながら、絞り出す様に話していた。
映像は、なのはが必死にリハビリを行っている場面を映し出していた。
だが、リハビリはかなり難航しているのか、なのはの顔は苦痛と苦悩で歪み、その目には薄っすらと涙さえも浮かんでいた。
そんなあまりに痛々しい様子を見て、ティアナが手にしていた氷嚢を落とし、身体を小刻みに震わせた。
すると、ここまで話を静観していた佐助が静かに口を開いた。
「確かに戦の中で生きてりゃ、無茶をしたり、命を賭けても譲れぬ戦いだってある筈だ…だけどな…」
佐助はそう言ってティアナを見据えた。
「お前がエリオを誤射しかけたって時や…小西行長や上杉景勝との戦い…あれは無茶に走ったり、自分の命を蔑ろにしてまでも勝たなきゃならねぇ戦いだったのか?」
その指摘を受け、ティアナは今までの自分を思い返していた。
ただ、周囲との差を見せつけられるのが辛く、自らも結果を上げようと無茶に走った挙げ句、ミスショットを犯し…小西行長によってヴィータが窮地に立たされたのを前に義憤に駆られながらも、それ以上に己の不甲斐ない失態を重ねる事を恐れ、己の力量の差を顧みずに無謀に挑んだ結果、結局は恥の上塗りといえる醜態を晒してしまった。
そして、今日は自らの成長を証明する機会だった模擬戦を妨害され、その怒りから上杉景勝に挑んだものの、その結果、黒幕の大谷吉継の罠にかかり、利用される結果となってしまった…
「それに…ここしばらくお前がスバルの協力さえも拒否して1人で練習してきた技……あれは、一体誰の為の、何の為の技だ?」
佐助は静かながらも厳しい口調で諭した。
その言葉にティアナは返す言葉が見つからず、俯き、唇を噛んだ。
すると政宗や家康も頷きながら、宥め諭す。
「ティアナ。お前がmiss shotを犯した屈辱は、俺や真田、徳川達にもよく理解できるし、お前がスバル達の成長を見て嫉妬するだけのprideも痛い程判る……でもな…prideなんてものは、確かに強くなる為の糧にできるchanceかもしれねぇが、時と場合によってはただのstruggleにしかならねぇんだ」
「独眼竜の言う通りだ…スバルはそれをわかっていたが、同時にお前の気持ちも痛いほどにわかっていた…だから、強くお前を止める事ができなかったんだ」
家康が話しながら、スバルの方に目を向ける。
スバルは悲しそうな目でティアナを見つめていた。
「なのはの奴だってそうだ…決してお前の気持ちを理解していないわけじゃねぇ。寧ろ…お前のjealousy、conflict、そしてHumiliation…全てわかっていたからこそ、お前に繰り返してほしくなかったんじゃねぇか? 自分と同じ“失敗”を繰り返す事を…」
「――ーッ!!?」
政宗が溢したその一言にティアナの目が大きく見開かれる。
その片目からは憑き物が取れる様に一筋の涙が流れた。
「ティアナ…これでわかっただろ?…大将や徳川、伊達の旦那達、そしてお前達をずっと教え導いてきたなのはちゃんでさえも、大きな“失敗”や“挫折”を経験している。人は神じゃないんだ…それぞれ苦難を経験し、時に挫折し、時に修羅に走りかける…中にはそこから永遠に這いずり出す事ができずに無限地獄に陥る者もいる」
「………………」
「それに、ただ力を手に入れるだけでは、人は絶対的な存在になれるわけがない…現に覇王と呼ばれた人間でさえも、力を得る代わりに大切なものをすべて失っちまった……」
佐助は改めてティアナに問いかける。
「ティアナ…今こうして大将達…そしてなのはちゃんの話を聞いて、お前はどう思ってるんだ? まだ『強くなりたい』、『力がほしい』なんて思ってるのか?」
「……………」
ティアナは首を微かに横に振ると、佐助や家康達の方を向き、顔を上げて口を開いた。
「……私は……」
政宗達の話を聞き、ようやく自分のこれまでの行いを客観的に理解したティアナが口に出そうとした答えは――――
突然、隊舎中に響き渡る爆音…そして地の底からひっくり返さんとばかりに突き上げ、揺れ動く衝撃によって、遮られる事となった……
ティアナ編の重要ポイントのひとつである『説得』の場面はいつ書いても色々と苦慮させられます。
ちなみにいうと、この場面は今回含めて2回リブートの度に仔細を変えているのですが、基本的になのはの過去だけでなく政宗達の過去の話も聞かせる事で説得するパターンは変わってないんですよね。
本当は今回は経緯を変えてみる事も検討したのですが、『離隊宣言』が出るまでこじれちゃったので、下手に改変を加えすぎたら、またスランプになると思い、やめました。
さて、アニメではこれで騒動は解決の方向に進んでいく事になりましたが、リリバサではここからまた一騒動起こります。
果たして、ティアナは迷いを振り切る事ができるのか…
そして、六課に迫る西軍の次なる魔の手とは…?
次回をお楽しみに!