リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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迷走極まるティアナを諌めたのは佐助の折檻…そして、政宗の口から語られたなのはの哀しい“失敗談”だった…

さらに、家康、幸村にも諭され、力に固執するあまりに自らの道を見誤りかけていた事を思い知らされたティアナは佐助達を前に己の気持ちを明かそうとしたその時、六課の隊舎を突如謎の爆発が襲う――

一方、ガジェット掃討の為に出動していたなのはも、西軍の将 後藤又兵衛による魔の手に落ちていた…

アギト「リリカルBASARA StrikerS 第二十九章 出陣だぜ」



第二十九章 ~発動! 寥星跋扈 月下の潜伏侵略~

時は、政宗がフォワードチームになのはの過去を語り始める少し前に遡る―――

 

機動六課隊舎の司令室では、現場に到着したなのは達がガジェットの編隊に対する掃討にかかる様子がモニター越しに中継されていた。

映像に映る隊員達の活躍を確認し、通信を使って現地の隊員と情報を交わしながら、作戦を遂行させていく…

いつもどおりの手筈が何の問題もなく、進められていた。

ところが…

 

「あれ? おかしいな…?」

 

通信を担っていたアルトが、突如上げた怪我な一言が状況を一変させた。

 

「どないしたん? アルト」

 

部屋の中央の司令席に座って、状況を見守っていたはやてが尋ねた。

 

「いえ…さっきから、高町空尉達に状況報告の定時連絡を呼びかけているのですけど…皆さん、いくら呼びかけても応答がないんです」

 

アルトが自らの席に設置されたコンピュータのコンソールを操作する手を休めずに返した。

すると、隣の席にいたルキノも困惑した様子で追加報告を加えてくる。

 

「部隊長。地上本部や他の支援部隊との通信チャンネルも不安定気味になっています。 っというより殆ど何も聞こえないんです」

 

「なんでや? …別に天気が悪いわけやないのに?」

 

「っというより、隊舎の周りも現場も、雲ひとつない快晴ですよ~――――」

 

はやての側に浮遊して様子を伺っていたリインが部屋の奥にある巨大スクリーンに映る前線の背後に広がる満点の星空を確認しながら言った。

その直後…巨大スクリーンも含むすべてのモニター画面が乱れたかと思いきや、瞬く間に司令室の全ての画面という画面が乱れ始める。

 

忽ち、司令室内にいたスタッフに動揺が走る。

 

「ふぇっ!? ふえええぇぇぇぇぇっ!?」

 

「な、なんやねんこれ!?」

 

「わ、わかりません! 通信担当は各自、現場及び周辺部隊への通信状況の確認を!!」

 

突然の事態に驚き、戸惑うはやてとリインに対し、戸惑いながらもすかさず部隊長補佐のグリフィスが司令室にいたスタッフ全員に指示を送った。

慌ててアルトやルキノ、そして司令席から一番近い席に座っていたシャリオは、それぞれ自分が担当を担う通信先に呼びかけを試みた。

しかし、そんな彼女達を翻弄する様に司令室内にある各装置からはノイズが聞こえ、映像という映像が乱れに乱れ…瞬く間に全て砂嵐しか映らない状態になってしまった。

 

「部隊長!」

 

「非常用の回線も全て開いて、状況の把握を…」

 

逸る気持ちをどうにか抑えながら、はやてはどうにか事態を打破すべく、懸命に指示を送ろうとしていると…

 

「ッ!? な、なによこれぇっ!?」

 

追い打ちをかけるかのように、アルトの驚愕と悲嘆の混じった叫び声が司令室内に反響した。

 

「今度は何?!」

 

はやてが最悪の報告を想定してか、既に顔を顰めながら尋ねる。

だが、それに対して返ってきたのは彼女の予想さえも凌ぐ最悪な報告だった。

 

「部隊長! 隊舎周辺の敷地内に設置されていたA.T.S.や簡易結界、哨戒用ビットなどの全ての魔動式警備装置が機能停止しました!」

 

「は、はあっ!?」

 

事の深刻さのあまりに場違いなまでに素っ頓狂な声を上げてしまうはやて。

 

「シャーリー! 早く復旧を!」

 

「やっています! でもどのシステムもロックがかけられて、いくらやっても解除できないんです!!」

 

シャリオが焦燥感を顕にした顔で端末を操作しながら答えた。

こうなると、司令室は完全に混乱の渦中に立たされる事となった。

 

通信機能は完全に機能ダウンした事で現場にいるなのは達の様子が全くわからない。さらには隊舎周辺を固めていた防衛用警備設備までも軒並み原因不明の停止し、今や隊舎は例えるなら、外堀を埋め固められ、城壁を取り払われた裸城と言うべき、完全無防備の状態といえよう。

 

突如として起こった最悪な状況を前にはやては必死に冷静を保とうするが、無意識の内にその身体はわなわなと小刻みに震えていた。

 

「一体どういう事や…? なんで急に…?!」

 

はやての様子を見かねたように、グリフィスが自らの見解を述べる。

 

「これは単なるシステムダウンとは違います。 まるで―――」

 

 

「………ハッキング」

 

不意に聞こえた声に動揺していたはやてとグリフィスの視線が声の発声主に集まる。

それはシャリオが座る通信席と司令席を挟んだ箇所に位置する席に陣取り、端末を操作していた通信主任のジャスティ・ウェイツだった。

 

「間違いありません部隊長。隊舎全ての外部通信及び警備設備の相次ぐ原因不明のシステムダウン…これは明らかに機動六課(我々)の中枢機能を狙った敵の攻撃です。ここは直ちに出動待機中の委託隊員(戦国武将)とフォワードチームに出動を命じて、隊舎の守りを固めるべきです」

 

流石は通信主任と言うべきか、冷静に分析しつつ、手慣れた手つきでコンソールを操作したまま、冷静に状況を判断して、的確な対抗策を提言するジャスティ。

だが、それにしても冷静過ぎる…

 

六課結成以来、最大といえる非常事態にはやてはおろか、並大抵の修羅場に対しても冷静さを失う事のないグリフィスでさえもその額に若干の冷や汗が浮かぶ程であるというのに、ジャスティは眉一つ顰める事もなく、いつものポーカーフェイスを崩す事なく、沈着…というよりは冷淡と言うべきくらいに落ち着いた様子で話していた。

まるで“始めからこうなる事がわかっていたかのように…”

 

はやては一瞬、リインとシャリオに目を向け、2人もはやての意図を察した様に目で返してくる。

それを確認すると、はやてはあくまでも部隊長としての毅然な物腰を崩す事のないように気をつけながら、ジャスティの方に目を向けた。

 

「何か具体的なプランはあるんか? ジャスティ君」

 

「はい。この攻撃が今日の昼間に起きた襲撃騒動に関わった一味…大谷吉継、島左近、上杉景勝、皎月院によるものであるとするなら、恐らく敵は隊舎の全てのシステムを不能にし、完全に無防備になった状態を突いて、攻撃戦力を送り込む戦法をとる可能性が高いです」

 

ジャスティは感情を感じさせない程に落ち着いた口調を崩さず、淡々と説明していく。

それを聞いていたはやてがピクリと眉を微動させた。

 

「そこで…現在出動待機しているシグナム副隊長に直接交代部隊への応援要請に向かっていただき、その間は委託隊員(戦国武将)達とフォワードチームらに隊舎周辺の守りについてもらう事で時間を稼ぐのです。シグナム副隊長であれば、15分もあれば交代部隊を連れて戻って来れるはずです。その後は交代部隊と協力し、システム復旧まで隊舎の要所を集中的に防衛する…それが一番の手かと…」

 

「要所ってどこです?」

 

リインが尋ねた。

 

「まずは隊舎の表玄関…それに地下エリア…あそこは非常用の避難シェルターや封印済みロストロギアの保管庫、そして動力室もありますから…勿論、一般職員は全員念の為に避難シェルターに移動してもらう方が無難ですね」

 

「せやけど、高町空尉達との連絡手段はどうする気や? 万一にこれが西軍の攻撃であるのなら、現場もまた敵の猛攻を受けている可能性かてあるんやで?」

 

「私が直接屋上の通信塔へ行って、そこの非常用端末を操作して高町空尉達との通信をつなげます。どうか、端末の使用許可を…」

 

ジャスティがそう願い出た。

この機動六課の隊舎の屋上の裏手には魔導師の念話を含めた全ての通信を交信させるのに不可欠である巨大パラボラアンテナが備えられてある。

さらにそのアンテナ装置には万が一、六課の全ての通信機能が不全になった場合に備え、他の通信とは全く別回路、個別電源による非常用通信端末が備えられていた。

これは、謂わば非常下において隊舎のメインの通信手段が全滅した場合に備えられた『最後の命綱』といえる重要な機能であり、使用できる権限を有するのは部隊長の他は部隊長補佐、各分隊長、副隊長、そして通信管理の責任者である通信主任だけである。さらにその使用に関しても部隊長または部隊長補佐の承諾を得る事が条件とされていた。

 

はやては少し考えてから、静かに頷いた。

 

「……わかりました許可します。とにかく早急に現場の状況も確認したいので、高町空尉達との交信がとれたら、直ぐに報告を頂戴」

 

「承知しました」

 

ジャスティは一礼しながら答えた。

その口の端がほんの一瞬だけ歪に歪んだが、幸い司令室にいた誰も気づく事はなかった。

 

「…グリフィス君。待機組の防衛配置はどう分けたら良いと思う?」

 

「はい。とりあえず、家康さんとフォワードチームを隊舎前に…その他の遊撃戦力の皆さんに地下の警備に回って頂くのが良いかと…」

 

「それでいこうか。それじゃあ、ジャスティ君。現場との交信をお願い…」

 

「了解しました」

 

ジャスティは頷くと、席からすっと立ち上がり、そのまま駆け足で司令室を出ていった。

司令室の扉が閉まると、シャリオが顔を顰めながらはやてに声をかけてきた。

いつもは温厚な人柄を現したその丸い目には何かを確信づいたかのような強い意志が宿っている様子だった。

 

「部隊長…」

 

「…わかってる」

 

はやては悲しげな眼差しで頷きながら、リインの方を向いた。

 

 

 

「……リイン。シャーリーと一緒にジャスティ君の後を追って。もしも彼が『クロ』やった場合は遠慮はいらへん。全力で取り押さえるんや」

 

 

 

 

 

フェイトとヴィータが『それ』を目撃したのは、すべてのガジェットを撃墜した時だった…

突然、自分達の真下の海上を進んでいた船が爆音と共に火に包まれ、漆黒の煙が立ち登った。

 

「「ッ!? なのは!!」」

 

フェイトとヴィータは慌てて船に向かって降下していく。

だが二人が、船の甲板に降り立とうとしたその時、突然甲板の床を突き破って一機のガジェットが姿を現した。

 

「ッ!?」

 

「なんだ!? あのガジェットは!?」

 

その外見はガジェットⅡ型と同じ飛行機型であったが、ガジェットの中でも大型に部類されるⅢ型の5倍の大きさはあった。

左右の翼に合計4機のエンジンポッドを備え、全体的に怪鳥を思わせるシャープなフォルムのそれは、一見すると巨大な輸送型のティルトローター仕様のV-TOL機にも見える。

本来機体の操縦席の当たる先端部分には、ガジェットドローン特有の金色のモノアイを兼ねたレーザー砲…その機首にある“顔”の部分の上に一人の男がヤンキー座りのように屈んでいた。

 

男の顔にヴィータとフェイトは見覚えがあった。

 

「「テメェ(貴方)は…後藤又兵衛!!」」

 

二人の前に謎の新型ガジェットに乗って現れたのは紛れもなく、つい数週間前に六課を襲撃した黒田官兵衛配下の狂将…後藤又兵衛であった。

驚愕する二人を前にして、又兵衛は薄い唇を歪ませ、陰湿な笑みを浮かべた。絶好の獲物に出会えたと言わんばかりだ。

 

「釣れたのはテメェらも含めて3人か…まぁ、いっかぁ。どうせまとめて(バラ)しちまうから…ねぇ?」

 

「テメェかストーカー野郎! 今回のガジェットを嗾けた主犯は!?」

 

「なのははどうしたの!?」

 

二人がそれぞれにデバイスを向けながら尋問すると、又兵衛は鬱陶し気に首を捻った。

 

「うるせぇなぁ…どうせこれから(バラ)される木偶共がさぁ…キャンキャンと野良犬みてぇに喚いてんじゃねぇよぉ~~…キッキキキキキキ!」

 

相変わらず猟奇的且つ破綻した言動の又兵衛に、フェイトもヴィータも思わずたじろぎそうになる・

 

「……どうやら、まともに私達と話をする気はないみたい…」

 

フェイトはそういうとキッと睨みを利かせながら、気を引き締め直すようにバルディッシュを握る力を強める。

見ると、ヴィータも同様にグラーフアイゼンを構え直しながら、士気を高めていた。

 

「ちょうどいい。 この間は取り逃がしちまったが…今日こそおとなしく捕まってもらうぜ!!」

 

ヴィータはそう言ってグラーフアイゼンを掲げながら又兵衛に向かっていこうとしたが、それを待ち構えていたかのように、又兵衛の顔が醜く歪み、合図を出すかのように機体に2、3回拳を打ち付けた。

 

すると新型ガジェットの中心部のハッチが開かれ、そこから現れたものを見てヴィータとフェイトの目が驚愕で見開かれる。

 

「「なのは!!?」」

 

ハッチから現れたのはガジェットドローン特有の黒い触手のようなベルトアームを何重にも身体に巻き付けられ拘束されたなのはだった。気を失っているのか力なく顔を項垂れている。

親友の悲惨な姿にフェイトが悲痛な叫びを上げ、ヴィータは又兵衛に対する憎悪の目線をさらに鋭くした。

 

「テメェ!? これを狙って意味もなくガジェット達を…!!」

 

ヴィータの怒りの籠もった威圧的な声を前にしても、又兵衛は相変わらずダウナーな…されどもどこか猟奇さを伺わせるぬめりとした口ぶりを崩さなかった。

 

「うるせぇんですよぉ。さっきからさぁ…このあいだはうちの阿呆官(役立たずの主君)が勝手な事しやがったせいで、俺様まで“無能”の烙印押されてさぁ? しかも、小西だ上杉だのと五刑衆の“先輩”方に手柄を立てる機会を横取りされて、ホントにムシャクシャしてんだよぉぉっ…! そんでもってこの作戦でやっと…やぁぁぁっと! 汚名返上のツキが回ってきたんだよぉぉぉ! ケッ! 今回ばかりは大谷に感謝してやらねぇとなぁ!」

 

「大谷ッ!? やっぱり、あのミイラ野郎が糸を引いてんだな!?」

 

ヴィータが言葉を荒げた。

一方のフェイトはいつになく低い声質で、あくまでも冷静に尋ねた。

 

「…さっきのガジェット達は……私達を誘い出すための囮だったって事…?」

 

「あれぇ? 今更気づいたの? だとしたら、ざんね~ん!」

 

突然、又兵衛の口調が挑発的なものに変わる。

 

「俺様は大谷にテメェらを『ここに呼び出して、出来る限り引きつけろ』…っとだけ言われたんだよ。大谷達はどうしようってのか知らねぇけどよぉ…野郎としてはテメェらの戦力でも分担しようって腹じゃねぇか?」

 

「はぁ!? なんの為にだよ!?」

 

ヴィータが怒鳴るが、フェイトは冷静に状況を解読していく。

 

 

そして…その脳裏に出撃前に聞いた小十郎と家康の会話が思い出された。

 

 

 

―――潜伏侵略―――

 

 

 

(!!?…まさかッ!!? 機動六課(私達)の戦力を分断して…六課の隊舎を!?)

 

フェイトがハッとした表情を浮かべると、六課の隊舎に向かって念話を使って呼びかけた。

 

(ライトニング1から本部! 誰か! 応答して!!)

 

しかし、フェイトがいくら念話を送っても、いつもは直ぐに応答があるはずの本部からの返信は一言も返ってこなかった。

フェイトはもう一度、今度は通常通信連絡を担当するロングアーチだけに留まらず、本部で出動待機しているはずのFWチームやシグナム、そして部隊長のはやてにも同じ念話を送ってみた。

 

しかし、やはり応答はない…

 

通信の混信であれば、何かしらのノイズが聞こえてくるはずだが、今は微かな音さえも聞こえてこなかった。

 

つまり、念話そのものが何者かによって完全に遮断されている状態にあるのだ。

 

「………まさか…ッ!?」

 

動揺するフェイトの顔を見て察したのか、又兵衛の薄い唇がニヤリと歪んだ。

 

「どうやら、大谷達がおっ始めたみたいだな。 じゃあ俺様も……」

 

又兵衛は唇をペロリと舐めながら腰に下げていた三日月型の奇怪な大剣『奇刃』を手にとった。

 

「間抜けな木偶共を足止め…いいや。“処刑執行”…だぁねぇ~っ!!」

 

又兵衛の叫びと共に、ガジェットの翼が大きく展開され、両翼に設置されたミサイルキャノンから複数のミサイルがフェイト達に向けて乱射される。

フェイトとヴィータは即座に障壁魔法(シールド)を張って、ミサイルを防いだ。

だが…

 

「くっ…なんて威力だ! 今までのガジェットとは格が違う!」

 

「あぁ? そういえば、これあのスカなんとかいう根暗野郎が試作した新しい絡繰木偶とか言ってたなぁ。確か…ガジェットドローンの『Ⅷ型』で、渾名が『ビッグドロップ』とか自慢げに言ってたような…まぁ、どうでもいいけどよぉ…」

 

 

又兵衛が面倒くさ気にそう説明すると、ベルトアームに拘束されたなのはが再びハッチの中へと収納され、又兵衛も後を追うようにハッチへ飛び込んだ。

 

「待ちなさい!」

 

「逃がすか!!」

 

フェイトとヴィータが又兵衛を追おうと新型の大型ガジェットドローン…『Ⅷ型“ビッグドロップ”』へと近づく。

しかし、2人が機体に降り立つ前にビッグドロップのハッチは閉じられてしまった。

 

「「なのはッ!?」」

 

《ケッケケケケ! 本当は今すぐにテメェらを(バラ)しちまいたいところだがよぉ…生憎、一応『足止め』が目的だから、ねぇ? まずはこのバカでかい絡繰木偶相手に踊ってみせろよぉ? ケーッケッケケケケケケッ!!》

 

内部から聞こえた又兵衛の言葉を合図にするかのようにビッグドロップがジェットを噴射させて、フェイト、ヴィータの下へ一直線に向かっていった……

 

 

 

 

隊舎・屋上―――

司令室内の修羅場といえる喧騒と打って変わり、そこは海から吹く潮風の音だけが虚しく響く静寂に包まれていた。

その不穏なまでの静けさは、まるで嵐の前触れの様にも感じられた。

 

(その“嵐”を起こす一翼が、この俺なんだけどな…)

 

この屋上に唯一人佇む男―――ジャスティは心の中でそのどす黒く染まった意志を自嘲気味に呟きながら、屋上の唯一の出入り口から裏手の方へと回っていく。

目的はその先にある巨大なパラボラアンテナ―――

この機動六課の全ての通信機能を司る重要な中継施設だ。

 

その真下に位置する箱型の機械装置のところに『非常用。関係者以外の使用を禁ず』とプレートがかかった。小さな鉄製のドアが取り付けられている。

 

ジャスティは懐からハガキサイズのカードキーを取り出しながら装置に近づき、ドアを開くと中には旧式の電話の受話器のようなものと、ダイヤル式の羅針盤や鍵盤式のキーボードのような装置が並んでいた。

その一番端にあった穴にカードキーを差し込んで、機械を起動させた。

 

文明がかなり発達したミッドチルダにおいてはかなり古式なその通信装置をジャスティは器用にダイヤル式の羅針盤を操作していく。

そして、数秒とたたない内にピピピと小鳥がさえずるような電子音が鳴ると、受話器を手に取り、耳に当て、話し始めた。

 

「俺だ…こっちの準備は完了だ…俺の誘導通り、六課は戦力を二分させて迎撃の構えを見せている。後は奴らが配置についたタイミングを見て、仕掛けておいた“爆弾”を起動させ、この隊舎を完全に機能不全にするだけだ…」

 

受話器に話しかけるジャスティの会話の内容から、明らかに連絡をとっている相手は現場にいるなのは達ではなかった。

しかし、この非常用通信設備は隊舎にある他の通信回路から完全に離れた回線を使っている上に、敢えて四半世紀前のアナログな装置を用いる事で盗聴などのリスクも防がれる仕組みとなっていた。当然、司令室にいる隊員達にこの会話が聞かれる心配もない。

ジャスティがこの装置を使う事を願ったのは、今回の“作戦”において、自身の最後の役目である“合図”を送る為だった。

 

「わかってるだろうな?…そっちが行動を起こしたら、最初に俺は安全な場所に逃してくれよ……皎月院」

 

しかし、ジャスティは気づいていなかった。

自身の背後に密かに着いてきていた存在がいた事に……

 

 

「フロストバインド!」

 

突如、背後からかけられた声にジャスティが振り返るまもなく、彼の両足、そして非常用通信設備の双方に青白い光が灯り、瞬く間にそれは氷の結晶となって、双方を氷結させた。

 

「なっ!? 氷結型捕獲魔法…!? …くそッ! もしもし! もしもし!?…」

 

「無駄ですよジャスティ主任。 氷結した以上、その通信装置も使う事はできません」

 

そう言って、姿を見せたのはリインとシャリオだった。

それぞれの目には怒り、そして失望の念が浮かんでいる。

 

「り、リイン曹長…フィニーノ…何故ここに…?」

 

「何故じゃありませんよ。八神部隊長は貴方の魂胆を最初から見抜いてここに寄越したのですから」

 

シャリオの言葉に、それまで冷静な面持ちしか見せてこなかったジャスティの顔に初めて動揺の色が浮かんだ。

一方のリインは悲しげな表情で話しかける。

 

「ジャスティ准陸尉…まさか貴方が“西軍”…スカリエッティや石田三成達の内通者…裏切り者だったなんて……」

 

「ぐぅ…! いつから気づいていたんだ…!?」

 

ジャスティが顔を歪めながら叫んだ。

 

「八神部隊長やリイン曹長、そして私も確信づいたのはさっき…司令室で貴方が打開策を打ち出していた時に言った貴方の“プラン”よ…」

 

「プラン…だと?」

 

「えぇ。貴方、最初にこう言ってたわよね…?

この攻撃が今日の昼間に起きた襲撃騒動に関わった一味…大谷吉継、島左近、上杉景勝、皎月院によるものであるとするなら、恐らく敵は隊舎の全てのシステムを不能にし、完全に無防備になった状態を突いて、攻撃戦力を送り込む戦法をとる可能性が高い』って…

確かに昼間、訓練所を襲った一味は大谷以下、島左近、上杉景勝と映像には映っていなかったけど佐助さんの証言からその場に確認されたという皎月院の4人だった。それは襲撃後の報告で私達ロングアーチの間でも確認されていたわ…」

 

ここでシャリオは普段温厚なその目つきを鋭く尖らせながら、詰問にかかる。

 

「けど映像記録には大谷達3人しか確認されていなかったからロングアーチの間ではあくまでもその3人の事しか情報交換はされていなかったはず…なのになんで貴方が4人目の襲撃者…“皎月院”の名前を平然と口に出せたわけ?」

 

自らの思わぬ不覚を突かれ、返す言葉を無くすジャスティ。

 

「今日の模擬戦襲撃…ティアナの洗脳を含め、まるで私達の動向を把握しているかのような襲撃に、部隊長達も“内通者”の存在を疑って警戒していたのよ。そうしたらまさかその目と鼻の先でこうしてしっぽを出してくるとは思っても見なかったわ!」

 

問い詰めながら、シャリオの口調が少しずつ怒りを帯びて激しくなっていく。

 

「どうしてよ…? どうして六課(なのはさん達)を裏切るような事を!!」

 

「……裏切りに走らせたのは誰だと思ってるんだ…?」

 

ジャスティは幾分か落ち着きを取り戻した声で言い返した。

 

「やれ“大切な仲間”だとか“家族”だとか、夢見がちな御託を並べてるくせに所詮は身内と腕っぷしありきな奴ら贔屓に走るような甘ちゃん部隊長と、それに盲信しながらしっぽを振る奴らに囲まれて、俺の管理局員としてのキャリアを無駄に潰すのはまっぴら御免被る…そう思っただけだ」

 

「あ…甘ちゃん部隊長ですって!?…貴方ね! はやてさんのこと何も知らないくせに!」

 

「ああ。知らねぇし、別に知りたくもねぇ。一つ解るのはあの部隊長もお前らも俺が手を組んだ大谷より“頭の足りないバカで間抜けな連中”だといえる事だけだな」

 

「!? …裏切り者のくせに何を好き勝手な事を――――!!?」

 

口調が激しくなっていくにつれシャリオの目も座っていき、ジャスティの眉間には遠くでもわかるほど皺が寄る。

このままでは埒が明かないと見たリインは慌てて、シャリオを宥める。

 

「シャーリー!落ち着くです! とりあえず、拘束はできたのですから、まずはジャスティ准陸尉の身柄を勾留室の方に…」

 

そう言いながらリインがジャスティに近づこうとしたその時―――

突然、どこからともなく吹き付けた一迅の突風が小柄なリインの身体を弾き飛ばした。

 

「―――ッ!? キャアアアアアアアアアァァァァァッ!!」

 

「リイン曹長!?」

 

突然、風に吹き飛ばされ、屋上から落下していくリインの方にシャリオの意識が向けられたその隙きに、ジャスティは懐に手を入れ、中から赤色の拳銃の様な物を取り出し、シャリオに向かって構えると躊躇いもせずに引き金を引いた。

 

「…うそっ!?」

 

非戦闘要員(ロングアーチ)であり、魔導師でもないジャスティは特に武装してはいない…そう油断していたシャリオが怯んだ時には遅かった。

シャリオの首筋に弾丸…のように造られた針が突き刺さる。

 

ビリビリビリビリッ!!

 

即座に激しい電流が体中に流れた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!?」

 

身体の至る箇所にスパークが走ったシャリオは悲鳴を上げながらその場に倒れ、意識を手放した。

銃口を向けたままジャスティはニヤリと口の端を歪ませた。

 

「へっ。本当に頭の足りない、バカで間抜けな連中だな。いくら顔見知りばかり寄せ集めた部隊でも、“非登録の質量兵器”持ち込みに関してはもう少し警戒して、手荷物検査くらいは定期的にやっておけよ?」

 

ジャスティは片手に持った物の正体…西軍に内通する様になってから、今みたいな万が一の事態に備えて、入手した非登録の質量兵器のハンドガンを振りかざしながら言った。

 

魔法世界・ミッドチルダをはじめとする時空管理局管理下の次元世界では魔法以外の動力源をエネルギーとする兵器の事を『質量兵器』と総称している。

古くは新暦以前の時代にミッドチルダやベルカなどで蔓延した質量物質を飛ばし、誰でも簡単に破壊・殺戮を担う兵器として、新暦以降、魔法が一般的になるに伴い、厳しく規制されるようになった。

現在では刀剣などの動力源の必要ない武具を除く魔力を用いない物量兵器は大型の火砲や大陸間弾道ミサイルなどの類は製造・所有するだけでも罰則の対象となり、中型以下の…それこそジャスティが所有している銃も含めた小火器に関しても所持・使用には管理局による『デバイス』としての登録が義務付けられている。

しかし、当然ミッドチルダの裏社会ではそうした規制を掻い潜って、非登録の重火器を中心に質量兵器の密造・流通が横行し、中にはこうして管理局の局員でさえも非登録のまま所有するケースも決して珍しくなかった。

ちなみにジャスティが所持しているのは、ミッド・ベルカ両魔法式とも異なる『フォーミュラ・エルトリア』と呼ばれる魔導技術を応用した“ライオット・ザッパーR”と呼ばれる状況によって通常弾や今しがたシャリオに向かって発砲した暴徒鎮圧用のテーザー弾、一発でビル一棟を消失させる高破壊エネルギー弾などを発射可能な万能拳銃と、電磁式の細身の片刃剣に切り替え可能な可変式銃器であり、ミッドチルダの裏社会で広く流通しているタイプのものだった。

 

「……危ないところだったねぇ。ジャスティ」

 

不意に背後から声がかかる。ジャスティも今度は驚かなかった。

振り返った先にいたのは今の彼の“同志”皎月院であったからだ。

 

「急に交信が途絶えたから、何か起きたのだと思って一足早く来てみたら…もう少しでわちきらの計画が水の泡になるところだったじゃないか」

 

そう言いながら近づいてくる皎月院の片手には不気味な目の紋様が描かれた鉄扇が握られていた。

それを見たジャスティは今しがたリインを吹き飛ばした風はこの鉄扇を使って起こしたものであると察した。

 

「すまない…俺も少し気を緩め過ぎていたみたいだ。しかし…仕掛けた“合図”にはまだ気づかれていないようだ」

 

「仕方ないねぇ…それじゃあ予定より早くなっちまったけど、“合図”を作動させな」

 

皎月院は鉄扇をパチンと閉じながら言った。

同時に、ジャスティの両足と非常用交信装置にかけられたリインのバインドがガラスの割れるような音ともに砕かれた。

 

「言われなくとも…」

 

そう言って、もう一度交信装置に近づき、旧式の装備の並んだ鍵盤を引き剥がす。

するとその下にはタッチパネル式のプログラミング装置が用意されていた。

これもまた、隊舎の他の機器と連携していない非常用のシステム操作装置であり、ジャスティがここへ来た本当の理由でもあった。

 

タッチパネルを操作し、プログラミングキーを入力し始めるジャスティに、皎月院は床に倒れているシャリオに目を配りながら尋ねた。

 

「この小娘はどうする? トドメを刺してやるかい?」

 

ジャスティは操作を止める事なく答えた。

 

「いや…もしもの為の“保険”として生かしておく。万一に今みたいな不覚をとる可能性も無きにしもあらずだからな」

 

「そうかい…じゃあ、わちきはお前がコイツを“保険”として使いやすいようにしておいてやるよ…」

 

話すなり、シャリオの身体を妖術で宙に浮遊させ、その両腕を後ろ手に拘束しにかかる皎月院を一瞬だけ一瞥し、ジャスティは静かにせせら笑った。

 

「この際だから、はっきり言わせて貰うぜ。フィニーノ……俺は六課が結成されてからずっと、お前みたいな口先達者で勘の良い女が大嫌いだったんだよ……」

 

ジャスティは呟きながらプログラミングキーを打ち込み、そして最後の一字を入力して、この作戦において密かに用意していたプログラムを完成させた。

 

「そして今はお前らもだ……あばよ。機動六課…!」

 

不遜な笑みを浮かべながらモニターに浮かんだEnterキーを押す。

それと同時に自身が動力室に仕掛けていた“合図”―――

 

 

 

ドオオオオォォォン!!

 

 

 

爆弾を起爆した……

 

 

 

 

轟音と共にロビーが…否、隊舎全体が激しく震わす衝撃に襲われ、

それと共に全ての照明が一斉に落ち、建物の中は非常灯の赤い明かりだけに包まれた不穏な世界に包まれた。

家康ら武将達とシグナム、シャマルは爆音が聞こえるや否や、即座に反応してソファーから立ち上がって身構えたが、それでも襲いかかる振動に耐えられずに思わずよろけてしまった。

フォワードチームの4人に至っては、立ち上がる暇すらなく、一人残らず地の底から突き上げられる衝撃でソファーから投げ出される形で床に叩きつけられた。

 

「皆! 無事か!?」

 

家康がどうにか態勢を整えながら尋ねた。

 

「It'll be ok…だが一体何事だ…?」

 

「唯ならぬ事態が起きたのは、確かな様ですな…」

 

そう話しながら、政宗と小十郎はそれぞれ腰に下げていた愛刀を手にかけ、いつでも抜けるようにしていた。

その傍らでシグナムが急いで司令室と連絡を取ろうと念話(コンタクト)をとろうとしていた。

 

「ライトニング2から司令室! 部隊長! 応答願います!………念話が通じない…!?」

 

シグナムの言葉を聞いたシャマルが「まさか…」と慌てて、ホログラムコンピュータを起動して、現在の隊舎の監視カメラの映像を確認しようとした…が…

 

「端末が起動できない!? 電子機能がやられている…!?」

 

「まさか…!? 今の爆発で動力室がやられたという事なのか…!?」

 

シグナムが目を見開きながら、自らの憶測を述べた。

実際、非常灯以外の全ての灯りが落ち、ホログラム端末や念話を含む通信手段が使えないこの状況を考えるに、その可能性が高い事は一目瞭然であろう。

 

「シグナム殿! 某達はどうすれば…」

 

エリオとキャロを床から助け起こしながら幸村が尋ねる。

スバルとティアナも既に立ち上がっていた。

 

「とにかく、司令室へ行くぞ。まずは主…否、八神部隊長やロングアーチの無事を確認して、それから何が起こったのか把握し――――」

 

本来、待機組の指揮権を担っているシグナムが皆に指示を出していた時、非常灯の灯りのみの為に薄暗くなった廊下の向こうから、獣フォームのザフィーラが駆け寄ってきた。

 

「シグナム!」

 

「ザフィーラ!? 一体、どうしたんだ?!」

 

「皆を連れて直ぐに表玄関に行け!…敵に囲まれてる!」

 

「な、なんだと!!?」

 

「「「「「「「「ッ!!!?」」」」」」」」

 

シグナムが思わず声を上げ、それを聞いていた家康達も驚愕の表情となる。

家康とスバルはすかさず、近くの窓から外の様子を伺う。

すると夜闇の中に紛れて複数…否、複数百もの赤く光る不穏な眼差しが見て取れた。

 

「まさか…刑部達か!?」

 

「あっ! 家康さん!?」

 

家康は慌てて、今しがたザフィーラがやってきた通路を正面玄関の方に向かって走り出した。

 

「我々も行くぞ! シャマル! お前は司令室に行って、部隊長やロングアーチへこの事を報告しろ! それから状況と他のスタッフの安否確認を頼む!」

 

「わかったわ!」

 

シグナムが手早く指示を出すとスバル、エリオ、キャロや、政宗達も続けて家康達の後を追って駆け出していった。

ティアナは突然の事態に1人佇み戸惑うが、そんな彼女の肩に不意に誰かの手が乗せられた。

佐助だった…

 

「佐助……さん…」

 

「ティアナ。もし今もお前が六課(ここ)を離隊するつもりでいるのなら、わざわざ辞める部隊の窮地に付き合う義理はねぇ。遠慮なく逃げろ…」

 

「………」

 

「だが、そうでないというのなら…」

 

佐助の言葉を驚いて聞いていたティアナだった。

だが、直ぐにいつもの強気な眼差しに戻り…

 

「解りきった事を聞かないで頂戴。 相棒や仲間の窮地を前に尻尾巻いて逃げるわけがないじゃない。ランスターの弾丸を甘くみるんじゃないわよ」

 

そう言って、佐助の手を払いながら、スバル達の後を追って駆け出していった。

 

その背中を見つめながら、佐助は「やれやれ」と苦笑しながら肩をすくめた。

 

「全く…立ち直らせるのにこんなに骨折らされたのは旦那以来だぜ。 …っていうか本当に骨折らされちまったけどな…」

 

1人苦笑を浮かべながら、左手に嵌めたギプスを見下ろす。

そして、躊躇いなくそれを取り払い、包帯も外しながら、皆の後を追って駆け出した。

シャマルの治癒魔法のおかげか、怪我は既に完治しているようだった…

 

 

 

 

エントランスを通り、隊舎の前へ出てきた家康達の目に飛び込んできたのは、地面に倒れ伏しているリインの姿だった。

 

「「「「リイン曹長!?」」」」

 

「リイン!」

 

フォワードチーム4人が悲痛な声を上げ、シグナムが駆け寄ってリインを抱え起こす。

30センチ程の大きさのリインはシグナムの片手で抱き上げる事ができた。

 

「リイン! 大丈夫か!? しっかりしろ!」

 

シグナムが呼びかけるがリインは目を閉じたまま、微動だにしない。

何らかの衝撃で屋上から落とされたみたいだが、地面に激突する直前に身体に保護魔法をかけた事で衝撃を最低限に抑えたのか、身体には大きな怪我は負っていない様子だった。それでも落下のショックで脳震盪を起こしたのかそのまま意識を失ってしまったようだった。

 

「ぐっ…! 一体誰が……」

 

「ッ!? シグナム!」

 

その時、いち早く小十郎が自分達を囲む怪しい気配に気がついた。

月夜の下に照らされて、一行を取り囲むように現れたのは異質な兵隊達だった。

全員が同じ色合い…黒がかった紫の装束に身を包み、同じ頭巾で目元以外を包み隠し、その隙間から見える目は全員が共通して真っ赤に光っていた。

彼らの手には刀や槍が握られ、中には大鎌や大槌を構えた者もいた。

 

「こ…この集団は…?」

 

家康達が目を見開いて驚いていると、紫装束の集団から一つの輿が割って出てくる。

 

「わが直参の“縛心兵(ばくしんへい)”……懐かしゅう思うたか? 徳川よ」

 

担ぎ手もなく浮遊する輿に乗った包帯ずくめの男…西軍参謀 大谷吉継が不気味な笑い声を上げながら、家康達の前に現れる。

 

「刑部…やはりお前の仕掛けた策略(わな)だったか……」

 

「昼間に言うたであろう…? 『まだ我らの“戯れ”のほんの前座に過ぎぬ。再び相対する時にはぬしら全員に更なる余興を用意してやろう』…とな。公言どおり本命の“戯れ”に参りにきたぞ」

 

「Ha! こいつが今日のMain eventか!? 昼間は散々趣向を凝らしていたわりに、随分ありきたりじゃねぇか!!」

 

そう軽い調子で挑発しながらも、政宗は腰に下げた6本の刀に手を掛けて、いつでも斬りかかれるように構えた。

だが、大谷はまるでお楽しみはこれからと言わんばかりに、胸の内に宿る愉悦の感情を隠しきれない含み笑いを浮かべ、思わず顔を反らした。

 

「まぁ、そう急くな。独眼竜…勿論、今宵の戯れも十二分に趣向を凝らしてあるぞ。まずは今宵の余興の“饗応役”を紹介しようかのぉ…」

 

大谷は不気味に笑いながら顎で自身の背後を示す。

すると大谷の真後ろにいた紫装束…大谷の直参配下“縛心兵”は次々と後退していく。

ちなみに“縛心兵(ばくしんへい)”とは妖術などの処置により洗脳し、自我を失わせた上で無理矢理に配下の兵として行使する大谷得意の妖術のひとつだった。

 

「よぉ、幸村、家康。 昼間は久々だったのに挨拶もロクにできなくてすまなかったな」

 

引き下がった兵達の間から、家康達の前に現れたのは…

 

「「か、景勝殿!?」」

 

上杉景勝と…

 

「どうも~。東軍の皆さん、お揃いで」

 

「テメェは…石田んとこの…!?」

 

島 左近…

そして……

 

「「「「シャーリーさん!?」」」」

 

一人の青年に、首元に刀を突きつけられて人質になったシャリオであった。

口を布で巻かれ、喋れないようにされてしまっており、必死に抗おうともがいている。

さらに、そのシャリオに刃を突きつけていたのは…

 

「ジャスティ主任!?」

 

機動六課・ロングアーチ通信主任にしてシャリオの上司である筈のジャスティ・ウェイツ准陸尉であった。

手に持った非合法デバイス『ライオット・ザッパー・R』を片刃剣型の電磁剣モードにして、刃の腹をシャリオの首筋に当てる事で、彼女が少しでも抵抗すれば電流を流せるようにしていた。

 

「ジャスティさん…どうして……?」

 

キャロが驚愕の声を上げた。

 

「彼はわれらの誘いに乗り、われらの理念に共感し、そしてわれらと共に歩む道を選んだのだ。 おかげで、ぬし達の動向も逐一把握する事ができたし、ここへ乗り込む事も苦労せずに済んだというものよ」

 

「なんだと!? っということはさっきの爆発は…」

 

家康が戸惑いながら言った。

 

「左様。われがこのジャスティに命じて仕掛けさせた“爆弾”でこの拠点の『動力室』なる心臓部を爆破させたものよ」

 

大谷はそう言って、ジャスティを頼もしげに見つめた。

 

「…なるほど…通信主任(ロングアーチ)が内通者だったら、ここの警備設備を止めたり、動力室を爆破して隊舎を丸坊主にする事だって造作もねぇってわけか…テメェらしい小賢しい策だぜ。大谷…」

 

大谷の秀逸ぶりに称賛する小十郎だったが、その表情には嫌悪を含んだ義憤の感情が顕になっていた。

一方、シグナムは判明した裏切り者の正体に激情を抑えられずにいた。

 

「ジャスティ! 貴様という奴は…! 主はやての信頼に背くばかりか、機動六課を裏切るとは許せん! 大谷達共々、断罪してくれる!」

 

シグナムが柄にもなく怒りの咆哮を上げた。

シグナムを含む守護騎士(ヴォルケンリッター)にとってもこの『機動六課』という部隊は唯単に自身の所属部隊としてだけでなく、それ以上に自分達の敬愛する主であるはやてがその強い“信念”を注ぎ込み、ようやく設立した“夢”であった。

 

設立初日に彼女が全職員に向かって語った言葉からも、その想いがよく伝わってきた事は今でも覚えている……

 

 

――― “時空管理局”の部隊として事件に立ち向かい人々を護っていく事が私達の使命であり、成すべき事です。指揮官陣やフォワード陣、それにメカニックやバックヤードスタッフ、全員が一丸となって事件に向かい合っていけると信じています―――

 

 

その言葉からも、はやてが自分達前線要員だけでなく、ロングアーチやその他のスタッフ全員に強い信頼を置いている事が十二分に理解でき、そして自分達もそれに全力で応えようと心から決意させた。

 

しかし、目の前で敵と一緒に並んで、かつての仲間を平然と人質にしたこのジャスティ・ウェイツという男は、そんなはやての想いを“裏切り”という最悪な形で冒涜した。

それがどうしても許せなかった。

 

「レヴァンティン!!」

 

シグナムがバリアジャケットをまといながら、愛剣のデバイスを手に取ると、周囲に展開する縛心兵が一斉に武器を家康達の方に向けて構える。

 

「刑部!! お前って奴は!!」

 

家康が大谷を睨みつけ、怒りを露わにして叫ぶ。

これほどまでに怒りを露わにした家康を見たことがなかったスバルは、彼の意外な姿に驚く。

 

「ヒヒヒヒ…“内応”など日ノ本(われらの国)では当たり前の事であろう。 それに…関ケ原(天下分け目)で狡猾にも小早川を西軍から寝返らせたぬしが、今更“裏切り”を卑怯と蔑むのではあるまいな?」

 

「ぐぅ……」

 

痛いところを突かれたのか、返す言葉もなく動揺する家康。

 

刑部の言う通り、家康はミッドチルダ(この世界)にやってくる直前…関ケ原の戦いの最中に、半ば強引に西軍に付く羽目になった旧友 備前岡山の小大名 小早川秀秋との敵対をどうにか避けようと、合戦が始まってからも使者を送って説得に説得を重ね…そして遂に西軍からの離反に成功させたのだった。

 

しかし、これを“裏切り”と受け取った石田軍…特に大谷の怒りは凄まじく、友軍である宇喜多軍に小早川軍の撃滅を命じる事となり、大混戦の中、小早川軍大将 秀秋は東軍に合流できぬままその行方はわからなくなってしまっていた…

 

 

「金吾の事は…確かに弁解する余地はない……ワシに『裏切り』を卑怯と蔑む資格もなければ…お前がワシを卑怯と蔑むのは大いに構わない…しかし……」

 

家康は頭を上げ、拳を握り固めながら身構えながら、大谷を睨みつける。

 

「人質をとったり、人の心に付け入り傀儡にしようとするお前のそのやり方だけは認めるわけにはいかない! 刑部!!」

 

家康の鋭い一言が冷たい潮風吹き付ける敷地内に響き渡った。

 

「仲間とは…人の心に付け入って懐柔したり、ましてや洗脳して得るものではない。人と人との思いやり結びつける…“絆”の力だ!!」

 

「……そうだ! これ以上…貴方達に私達の大切な仲間を…『機動六課』を好きにさせるわけにはいかない!!」

 

家康の言葉に勇気づけられたのか、スバルが彼の隣に歩み寄り、バリアジャケットを装着しながら、拳を高らかに上げて宣言した。

すると、話を聞いていた左近がゆっくりと大谷の隣に歩み出ながら家康とスバルを睨みつける。

 

「“絆”…か。おい、家康。テメェ、こっちの世界でも東軍みてぇな仲良しこよしな軍を編成しようとしている腹か? へっ! テメェも相変わらず、甘ちゃんだな…どこに行っても絆、絆、絆と綺麗言ばっかり並べて、上手いこと仲間を引きこんで自分の思い通り動くような内輪を作っておいて、自分に少しでも賛同しねぇ奴は卑怯な手を使ってでも徹底的に叩き潰す…テメェのその陰湿な性根…そういうのを『イカサマ』っていうんだよ」

 

「…イカサマ? 家康さんが…」

 

左近の徹底的な嘲りに反応したのはスバルだった。

 

「おうよ。おまけにこんな安い『家族ごっこ』野郎に賛同して、あまつさえ一緒に興じるなんて、機動六課(おたくら)もとんだ腑抜け揃いみたいだな」

 

「……言ってくれるじゃない」

 

額に小さな青筋を浮かべながらスバルが睨みつける。

だが左近は動じる事なく、今度は幸村と佐助に顔を向けた。

 

「でもまぁ…俺達にとって予想外だったのは、まさか武田の大将さんが家康なんかに毒されちまうたぁねぇ…」

 

嫌味ったらしく話しながら、左近は景勝の方に顔を向けた。

 

「どう思うよ景勝“姐さん”。 せっかく、同じ“西軍”という大きな軍門の下で長年続いた諍いを水に流して、頼りになる同志となったってのに、ホントもったいない事するよなあ゛あっぶぅぅっ―――!!?」

 

言いながら背中を軽く叩こうとした左近だったが、言葉が終わらない内に景勝が無言で放った裏拳で顔面を思いっきりぶん殴られてしまった。

 

「「えぇっ!?」」

 

何故か仲間である筈の左近が、景勝に殴られるという奇妙な光景に思わず唖然とするエリオとキャロ。

一方大谷は彼らの場違いなやり取り呆れた様子で小さく頭を振った。

 

「お前ら、さっきからうるせぇな。戦する気あんのか? それともここでお互いにおべんちゃらかましたいだけなのか? 能書き垂れてる暇あんなら、さっさとおっ始めやがれ」

 

景勝は軽く体を捻らせながらそう言うと、背中に手を回し、背負っていた大斧刀“砕鬼丸”を片手で振り回した。

 

「それによぉ左近。オレは寧ろ、幸村達(アイツら)が東軍に寝返ってくれた事は嬉しいんだぜ…だってな…」

 

景勝は幸村や佐助を見据えながら、口の端をニヤリと釣り上げる。

 

「上杉と武田…こうしてまた“宿敵”同士で派手に死合ができんだからよぉ!」

 

景勝は楽しげな笑みを添えながら幸村達に構えて宣言する。

その場に似合わぬ程に朗らかな笑みには若干の狂気のようなものさえ感じられた。

 

「か…景勝殿……」

 

「うぇ~…相変わらずバリバリの喧嘩屋だねぇ。俺、やっぱこの人苦手だわ…」

 

その言葉に幸村は動揺し、佐助は苦笑を浮かべた。

 

「まぁ良い。景勝もあぁ申しておるので早速始めようか…わが戯れの“主興”を」

 

大谷はそう言いながら自らの周りに不気味に輝く珠を展開していく。

 

「今宵、われの与える最高の不幸……ぬしらは抗えるかの? その“絆”の力とやらで!」

 

すると、周囲にいた大谷の配下の縛心兵達が一斉に家康達に向かって襲い掛かってくる。

 

「皆! いくよ!!」

 

「「はい!!」」

 

スバルが合図すると、エリオ、キャロもバリアジャケットを装着し迎撃に構える。

そしてティアナも…

 

 

(見せてやろうじゃないの…私の…ティアナ・ランスターなりの“強さ”ってやつを!!)

 

 

そう心の中で誓いながら、デバイスを起動し、バリアジャケットへと着換えるのだった…

 




遂に発動しました大谷の本命の策略“潜伏侵略”―――

若干、台詞回しや登場キャラクターに差異はあれど大筋な流れはオリジナル版とあまり変わってないかもしれません。

そして、とうとう裏切り者として本性を顕にしました。リブート版初登場キャラ第1号 機動六課の裏切り者 ジャスティ―――

オリジナル版は『にじファン時代』『pixiv時代』共に無名のモブに裏切り役をやらせましたが、やっぱり名前付きのキャラの方が裏切りにもよりドラマ性がありますね。

さて、その卑劣な振る舞いによってシグナムから怒りを買った彼の行末はどうなるか…?

次回をお楽しみに!
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