リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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ティアナの迷いに一筋の光が差し込もうとしたその時…
遂に発動した西軍参謀 大谷吉継の仕掛けた策略『潜伏侵略』―――

後藤又兵衛に囚われたなのは…
裏切り者 ジャスティによって無力化された六課…
迫りくる凶賊の如き傀儡兵達……

絶体絶命のこの窮状に家康達はどうにか隊舎を守ろうと立ち上がるが……

義弘「リリカルBASARA StrikerS 第三十章 出陣じゃ!」


第三十章 ~機動六課攻防戦 卑劣なる兇策~

機動六課隊舎・正面玄関前―――

 

「……やれ」

 

200から300はいるであろう縛心兵達に大谷が浮遊する輿の上から合図を出すと、前衛に立っていた数十人が一斉に斬りかかってきた。

この波状攻撃に最初に迎え撃って出たのは家康だった。

 

「はああああああああ!!」

 

拳を握りしめて、刀を構えて向かってきた縛心兵の頬に右ストレートの拳を叩き込んだ。

「ギエッ!?」と悲鳴を上げながら吹き飛ばされて、地面に転がった紫装束の頭巾が外れる。

顕になったのは20代から30代程の男性で、顔貌からしてミッドチルダの人間の様だった。さらにその額には紫色に発行する不気味な紋様が浮かんでいた。

 

「ッ!?…まさか…この世界の一般人を洗脳したのか!?」

 

家康は目を見開きながら、大谷に向かって尋ねた。

大谷はニヤリと笑みを浮かべながら返した。

 

「よぅわかったな。徳川よ…とはいえ主もこの技は日ノ本にいた頃から見ていたであろうから当然かと思うが……主も知ってのとおり“縛心兵”とは我が妖術で敵兵の自我を封じ、われに従う傀儡とする術…この縛心兵達も皆、われらが此度の計略を弄するのに使わせてもらった“料亭『弁天閣』(出城)”の関係者達ぞ。今宵の為に幾日も前から小奴らを服従させ、急ごしらえながらどうにか兵に仕立て上げる事ができたものよ。なかなかに骨は折れたがな…」

 

「ぐぅ……洗脳された一般人が相手では…迂闊に手が出せないという事か…」

 

シグナムはレヴァンティンで、3、4人の縛心兵の刀を受け止めながら、歯痒そうに顔を顰めながら呟いた。

その間にも縛心兵は武器を手に隊舎の中へと迫っていく。

 

「Stop them! 連中を絶対に隊舎に入れるな!!」

 

政宗は峰打ちで縛心兵達を次々に倒していきながら叫んだ。

一方、家康は縛心兵達の間を掻い潜りながら、大谷の方へと向かっていく。

 

「ワシは刑部を止める! 奴を倒せば、縛心兵(彼の者達)の洗脳も解ける筈だ! スバル!手伝ってくれ!」

 

「はい!!」

 

スバルは答えながら、家康同様に致命傷にならない程度に力加減を上手く調節しながら、縛心兵達を蹴散らしながら家康の背中を追い…

 

「佐助! 俺達は景勝殿のお相手を!!」

 

「やれやれ…こんな形で川中島(武田対上杉)の再戦とはね! ティアナ!手伝ってくれ!」

 

「わかった! 私も景勝(あの人)には昼間の借りがあるし…!」

 

幸村、佐助、ティアナの3人は景勝の下に向かっていく。

 

 

 

 

「ふん!人質がどうなってもいいのかよ!?」

 

そう言うとジャスティがシャーリーを地面に突き放ち、手にした電磁刀モードのライオットザッパーRを振りかざす。

 

「―――――!!?」

 

布で口を押えられ、声が出せないシャーリーが言葉にならない悲鳴を上げる。

 

「シャーリー!!?」

 

シグナムは駿足でジャスティの前に駆け寄り、一撃で叩き斬ろうと振りかぶった。

 

「おっと! そうはいかない…ってね!!」

 

そう気障な言い回しと共に横から1人の男が割り込み、シグナムが振り上げたレヴァンティンを蹴りで弾く形で防いだ。

 

「アンタは後ろに下がってな。この姐さんはなかなか強そうだ。俺が相手してやるぜ」

 

そう言いながら、シグナムの前に立ちふさがったのは、今しがた余計な軽口を叩いて、景勝に殴られていた左近だった。

しかし、その雰囲気は先程までのお調子者な様子とは打って変わって、冷徹な暗殺者としての顔に切り替わっていた。

 

気持ちのオンオフの切り替えがはっきりしているのはそれだけ鍛錬を積んでいる証拠である。

つまり、この男は相当にできる……シグナムはそう直感するとレヴァンティンの柄を強く握りしめながら、構え直した。

 

「貴様…昼間も大谷と一緒にいたが……貴様がホテル・アグスタでユーノやなのは達を襲ったという『凶王の懐刀』か…?」

 

「へぇ~。 俺の事をそんな洒落た二つ名で呼んでくれるたぁ嬉しいねぇ。 そのとおり! 俺がその石田軍侍大将兼西軍総大将近習…人呼んで“豊臣の左腕に近し”島 左近! どうぞお見知りおきを」

 

アクロバットなバク宙を交えた曲芸師のような動きと共に名乗りを上げる左近の声に、シグナムは何故か心の中に妙な違和感を覚えた。

 

(この男…なんだかヴァイスに声がよく似ているな…)

 

シグナムは普段から自分を「姐さん」と呼んで慕ってくる機動六課のヘリパイロットの顔を目の前に対峙する男と重ねていた。

すると、声だけでなく何処となくその雰囲気もまたよく似ているように感じた。

 

(アイツと同じ系統の男か……少々やりづらいが仕方ないか……)

 

シグナムはそう思いながらも、左近がいつでも斬りかかってきてもいいようにレヴァンティンの切っ先で彼の胸を捉えながら言い放った。

 

「“凶王”の側近というならば、本来は有無を言わさず捕らえにかかるところ。だが、今は貴様の後ろに隠れた我が隊の裏切り者も相手にしなければいけない…そこをどく気はないか?」

 

「へっ…この状況で黙って退く程、手抜きな男とでも思うのかい? だとすれば、心外だね!」

 

そう言いながら、左近は腰に下げていた双刀を抜き、シグナムに斬りかかってきた。

左近の振りかぶった双刀をレヴァンティンで防ぎながら、シグナムは小さくため息を漏らす。

だが、なぜだか頬の肉が緩んでくるのを感じた。

 

「やはり、ひょうきん者を装いながらも、その実貴様も相当に堅実な武人という事か……ならば、この“烈火の将”シグナム…容赦はしない!」

 

シグナムは豪剣を振るい、左近の双刀と剣戟をはじめながらも、後ろにいたエリオとキャロに念話で指示を出す。

 

(エリオ! キャロ! お前達はジャスティを取り押さえ、シャーリーを助け出してくれ! この男は私が…!)

 

(わ、わかりました!)

 

(気をつけて下さい!!)

 

念話を受けたエリオとキャロは、縛心兵達の後ろへと下がって逃げていこうとするジャスティの後を追おうとする。

 

「おっと! そうはさせっか! 左近アラシ!!」

 

すると、それに気づいた左近は2人目掛けて双刀を振り払うと小さな竜巻を作って放とうとする。

だが、それに反応するようにシグナムはレヴァンティンのカートリッジを1発消費させながら、地を走る竜巻に向かって振りかぶった。

 

陣風(シュツルムヴェレン)!!」

 

しかし、竜巻が2人の許に届く前にシグナムが振り下ろした刀身から衝撃波が放たれ、竜巻にぶつかると、それを打ち消してしまった。

 

「お前こそ、そうはさせないぞ。『左腕に近し者』よ…」

 

先程の意図返しを食らった事に一瞬悔しそうな表情を浮かべる左近だったがすぐにその顔に冷徹さを伺わせる不敵な笑みが溢れた。

 

「へっ! お互い小手調べは十分ってとこか…だったら、こっからはお互い全力で張っていこうぜ! 『烈火の将』さんよぉ!」

 

左近が双刀を手の中で回転させながら、鋭く踏み込んできた。

シグナムはそれを、今しがた放った陣風(シュツルムヴェレン)の魔力のが微かに残るレヴァンティンの刀身で真正面から受け止める。

硬い金属がぶつかり合う音色が響き、日光の如く眩い閃光が薄暗い隊舎を微かに照らした。

 

 

 

「どりゃああああああああああ!!」

 

縛心兵達の間を抜けて後方へと逃げようとするジャスティを追いかけながら、

 

エリオが素早い動きで縛心兵達を翻弄しながら、ストラーダを大きく振りかざして、斬り裂いていく。

幸村の教えが型に付いてきたのか、その動きは以前よりも力の籠った一見大雑把ながらも、確実に敵の急所を突いていた。勿論、相手は洗脳された一般人…設定は非殺傷であり、その攻撃も穂先が急所を突かないように十分注意していた。

一方、エリオの後方を守りながら、キャロはフリードに指示を与えながら必死に縛心兵の攻撃を避けていたが、周りを取り囲まれて明らかに不利な状況だった。

 

「フリード! ブレスト―――ッ!!?」

 

指示を伝えようとしたキャロに3人の縛心兵が刀を振ってくる。

キャロは咄嗟に障壁魔法(シールド)を張ろうとしたが、それぞれ三方から踏み込んできた敵にどこを守ればいいかわからず、狼狽えている内に近づいてきた縛心兵達が刀を振り下ろそうとした。

 

「きゃあ!?」

 

キャロが悲鳴を上げて目を瞑る。

だが、縛心兵達の刃がキャロに届く寸前で、背後から振り放たれた横一字の一閃が3人の動きを一斉に止めた。

白目を向いた3人の縛心兵が力無く、キャロの前に倒れる。

その背後には愛刀“黒龍”を返し刃で構えた小十郎の姿があった。

 

「小十郎さん!?」

 

「安心しろ、峰打ちだ。それより早く、裏切り者(ジャスティ)を追うぞ!」

 

「「は、はい!」」

 

「気を抜くんじゃねぇ! 今が戦の最中だという事を忘れるな!」

 

エリオとキャロは小十郎という心強い助っ人が加わった事に安堵したのか、思わず頬の力を緩めそうになってしまい、小十郎に叱咤されてしまう。

気を引き締め直した2人は更に向かってくる縛心兵をいなしながら、ジャスティの追跡を再開する。

その後ろを追いながら、小十郎は倒れた縛心兵の1人が落とした刀を拾い上げた。

 

「ルシエ!! 丁度いい、こいつを使え!!」

 

小十郎はキャロに追いつくと、拾った刀を彼女の手に渡した。

キャロは突然、本物の刀を渡された事に思わず戸惑ってしまう。

 

「えっ!? これ、本物…!? …でも私…」

 

「いいから使ってみろ! ちょうどそろそろお前も実戦での経験も必要と思っていたところだった!!」

 

「実戦って…まだ私、手合わせでも誰からも一本とった事もないのに……」

 

いきなり実戦で刀を使う事を強要されキャロは困惑するも、そこへ1人の縛心兵が刀を振りかざしながら斬りかかってきた。

 

「ひゃっ!?」

 

「ルシエ! 俺が鍛錬の時に教えた事を思い出せ!呼吸を整えろ!」

 

思わず及び腰になりそうになるキャロに小十郎が叱咤激励を飛ばしながら、自身も別方向からきた縛心兵の突き出してきた槍の穂先を黒龍で弾いた。

その檄に促されるようにキャロは落ち着きを取り戻しながら、頭の中で小十郎から叩き込まれた剣術の型の基本を思い返す。

 

( “身”、“剣”、“体”…3つの息を全て揃える…!!)

 

キャロはその愛くるしい目を可能な限り鋭く尖らせ、小十郎から教わった事を落ち着いて思い出しながら、振り下ろされた敵の刀を上段構えで受け止め、防ぐ。

すさかず、後ろに飛び退きながら、間違って相手を斬ってしまう事がないように、刀の刃を返した。

 

「フリード…サポートをお願い!!」

 

キャロはフリードにそれだけを言うと、刀を構えてキッと対峙する縛心兵を睨み…

 

「はあああああああああああああ!!」

 

再度踏み込んできた縛心兵の振り下ろした刀を避けながら、その身体に2、3太刀峰打ちを打ち込んでみせた。

その太刀筋はとても鮮やかなものだった。

だが、決してキャロは気を緩めない。

 

(経験がない上に、力が低い分…鍔競り合いになったら間違いなく負けちゃう…ここは…小十郎さんに教えられたやり方…相手の攻撃を避けながら、その隙を突く戦法で!)

 

キャロは頭の中で今の自分に合った戦術を編み出すと、背後から槍を使って突いてきた縛心兵の攻撃をバク宙で交わしながら、空中で身体を回転させて、その襟首に峰打ちを打ち込み、一撃で気絶させた。

 

一見、非力に見えるキャロの思わぬ戦いぶりに戸惑った縛心兵達は、なんとかキャロに一太刀浴びせようとするが、それを妨害するようにフリードが縛心兵達に向けて火球を飛ばした…

 

「きゃ、キャロが直接戦ってる…!? しかもなかなか出来てる…!?」

 

「やはり、俺の目に狂いはなかったみたいだな。キャロ(アイツ)はこれからとんでもない程に化けていく。お前も、うかうかしてられないぞ。エリオ」

 

小十郎と共に敵陣を削っていたエリオは、意外な彼女の剣の腕に目を丸くしていた。

とても初めて実戦で剣術を使った者とは思えない程に、その剣捌きは対峙する縛心兵よりも美しかった。

剣を持つまでは不覚をとりかけていた三方からの敵の同時攻撃に対しても、難無く蹴散らしてしまっていた。

だがどうしても、一見完成されているかのように見えるその太刀筋は小十郎の様な“剣豪”クラスの練達者からしてみれば、まだ隙が大きく、これが剣士としての初陣である故の荒削りさが、所々で露呈してしまっており、小十郎は少しも眼が離せなかった。

その為、小十郎はキャロにはもっとゆとりある状況での実戦が必要かもしれないと思った。

 

「…全く…ますます、アイツのこれからを見てみたくなったな…」

 

そう呟くと共に小十郎は、一斉に斬りかかろうとしてきた5人の縛心兵を一閃で吹き飛ばすのだった。

 

 

 

「さぁ…ド派手なpartyと洒落込もうか!Let's rock!!」

 

隊舎の玄関の前を陣取った政宗が一本だけ引き抜いた六爪(りゅうのかたな)を手に、押し寄せる数十人の縛心兵達を睨んだ。

 

「DEATH FANG!!」

 

政宗が掛け声と共に電流を纏った刀を振るうと、一気に十数人の縛心兵をその風圧だけで吹き飛ばす。勿論、直接斬り裂いてはいない。

 

「Slash!!」

 

間髪を入れずにもう一太刀、別の縛心兵の一団に浴びせる。

それでも何人かの縛心兵は政宗の隙を見て、隊舎への侵入を試みようとするが…

 

「ここは通さん!!」

 

正面入口の前に門番の如く立ちふさがったザフィーラが咆哮を上げると、周囲の地面から光の柱が上がり、縛心兵達を吹き飛ばす形で押し返した。

ザフィーラの後ろでは、シャマルが愛用の指輪型デバイス『クラールヴィント』を嵌めた手を、気を失ったリインの小さな身体の上にかざし、回復魔法をかけながら、もう一度念話で司令室とを繋ごうとしていた。

 

「やっぱり繋がらない…念話も妨害されているみたい!」

 

「シャマル! リインを回復させたら、直接司令室へ向かえ! 念話が使えない以上、主達に直接この窮状を伝えるしかない!」

 

「えぇ! その前に、隊舎に直接防御魔法をかけておくわ!」

 

「気休めかもしれないけど…」と言葉を添えながら、シャマルはリインにかけていた治癒魔法を完成させた。

すると、リインはゆっくりと目を開け…眼の前で繰り広げられている騒乱を見て目を丸くした。

 

「な、ななな!? なにが起きてるんですかぁぁ!?」

 

「リインちゃん! 詳しい事情は後! それより一緒に来て!」

 

「えっ!? で、でもリインも早く皆に知らせないといけない事が―――って痛たたたたっ!! シャマル!リインの身体そんな強く握りしめないでくださいよ! ぐえぇぇっ! リイン復活早々潰されちゃいますううぅぅ!!!」

 

回復したリインを有無を言わさずに文字通り掴み取ると、そのままシャマルははやて達にこの事態を知らせに隊舎の中へと駆け込んでいった。

 

その様子を見ていた政宗とザフィーラはリインの事が少し哀れに思えたのだった……

 

 

政宗が雑兵達を薙ぎ払ってくれるおかげで、家康とスバルは大谷1人に集中して相手取る事ができた。

 

虎空鉄肘(こくうてっちゅう)!」

 

家康は、大谷を守るように展開する縛心兵3人を相手に強力な肘打ちを食らわし、ダウンさせた。

 

蒼天掌(そうてんしょう)!」

 

その背後ではスバルが家康直伝の拳で縛心兵を数人纏めて吹き飛ばす。

家康達は極力傷つけないように気をつけながら傀儡にされた人達を次々に無力化していった。

 

「どうやら、自慢の傀儡兵もあまり意味がなかったみたいだな」

 

向かってくる縛心兵を地面に引き倒しながら、皮肉を投げかける家康だったが、大谷は自分達の側があまり戦況芳しくないこの状況を前にしても、何故か落ち着いた物腰を崩さずにいた。

 

「ヒヒヒ…さてさて。それはどうかの…」

 

大谷は薄笑いを浮かべながら家康達の倒した縛心兵達の方を指差す。

その言葉に違和感を覚えた家康が大谷の指した方を見据えると…

 

「うぅう……うぉぉぉ…」

 

「あぁ…ああぁ……」

 

無力したはずの縛心兵達はものの数秒とたたぬ内に再び起き上がり、逆襲の太刀を振りかぶりにかかってきていた。

いくら、非殺傷設定や峰打ちで倒しているとはいえ、まともに食らえばしばらく…早くとも数分は起き上がる事はできない筈である。

こんな十秒とたたぬ内に起き上がって、平然と動けるのはおかしい。

 

「ま、まさかこれも…お前の術か!? 刑部!?」

 

「ヒヒヒヒ! 左様…この世界の“魔法”なる術は実に素晴らしい…おかげでわれの妖術にも更に応用を効かせる事が増えたというものよ。この“縛心兵”も駒を使い果たすまで何度でも再利用ができるようになった」

 

大谷がそう言いながら、指をパチンと鳴らすと、倒れていた縛心兵は起き上がって、再び大谷を守るように得物を構えて、立ちはだかった

すると大谷が得意げに話しかける。

 

「ちなみにこの術は…かの陸奥国・恐山の将“南部晴政”が得意としていた術…生贄の生者から力を吸い取り、そこから送られる生の力を宿した特別な傀儡…反魂(はんこん)の術を応用し、ある魔導師の魔力に置き換えたもの…つまりは生贄となっている魔導師の束縛を解かぬ限り、この傀儡達は例え両足をもがれようが…両手を斬り落とされようが…その身を焼かれ、肉を焦がし、骨だけになろうとも…決してその動きを止める事はできない…」

 

「「………ッ!!?」」

 

大谷の愉快げに言い放った言葉に、家康もスバルも戦慄する。

だが、そんな彼らをさらに嘲笑うかのように大谷は言葉を言い添える。

 

「おぉそうだ。更に面白い事を教えてやろう…縛心兵(その者)達の声を聞いてみるがよいぞ」

 

「声…!?」

 

スバルは斬りかかってきた1人の縛心兵を取り押さえ、その顔をよく見る。

紫装束の外れたその縛心兵はスバル達より少し年上…20代前半程の若い女性だった。

額に不気味な紋様を浮かべ、殺気が籠もったはずのその眼からは大粒の涙が流れていた。

 

 

「お…お願い……助けて……助けて……ッ!」

 

「ッ!?( まさか…自我はそのまま残ってるの…!!?)」

 

 

術の悍ましい真実に気づいたスバルは、苦々しい表情を浮かべながら、彼女の襟首に手刀を打ち込み、気を失わせてみせた。

少しでも彼女を傷つけたり、苦痛を味あわせない為にもリボルバーナックルはいざしらず、拳さえも迂闊には使えなくなった。

見ると、家康も術の真実に同様に気づいたようで、復活してきた縛心兵には拳ではなく手刀を行使して、最低限の力加減で無力化しようとしていた。

しかし、唯でさえ普通の峰打ちや非殺傷設定でも数秒と経たずに起き上がってくる縛心兵相手に、これらの攻撃ではますます力不足となるのは言うまでもなかった。

 

「ヒヒヒヒヒヒッ! どうした? 急に攻撃の手が腑抜けになったみたいだが?」

 

「ぐぅ…どこまで汚い男なんだ? 大谷吉継……」

 

スバルが嫌悪感を顕にしながら、歯を噛み締め、睨みつける。

だが、大谷はそんなスバルの睨みにも少しも怯む事なく、さらに面白がるように話し続ける。

 

「ならば、もう一つ…いい事を教えてやろう。この縛心兵…今はその力の糧となっている“魔導師”が誰であるか知っておるか?」

 

「魔導師…?」

 

家康達が大谷を睨みつけるように問う。

すると、大谷は珠の一つを自らの前に浮かばせ、珠を中心に強烈な光と共にひとつの風景が映し出されていく…

最初はそれが何かよくわからないでいた政宗、家康、スバルの3人であったがやがてはっきりと目に見えてくると共に、その目が驚きで見開かれる。

 

 

「なのは殿!?」

 

「なのはさん!?」

 

 

それはどこかの密室のような場所で黒いコードに縛り付けられた上で、両脇に浮遊する紫色に輝く2つの珠にエネルギーを吸収されつつあるなのはと、その前で愉快げに嘲笑う後藤又兵衛の姿があった。

 

「なっ!? アイツは…後藤又兵衛!?」

 

浮かんだ映像を前に驚愕する家康とスバルの背後で、縛心兵の刀を防ぎながら政宗も、映像に気がついて眉を顰めた。

 

「ッ!? Ah? どうなってやがる…!? なんであのカマキリ野郎が、なのはを…?!」

 

「ヒヒヒヒヒ! つくづくあの“高町なのは”なる小娘も、間抜けなものよ。 われらの陽動に乗って、ノコノコと罠にかかったそうな…捕まえるのも造作もなかったみたいぞ」

 

大谷の含みを持った言い方に家康、スバル、政宗は息を呑んだ。

まさか、沖合に現れたガジェットドローンの編隊は始めから、なのは達を誘い出す為の囮だったのか。

そうなると、なのはだけでなくあの場にいる筈のフェイトやヴィータは?

 

「このまま力を吸われ続けば、たとえあの娘もいずれ身体中の魔力を吸い取られ、やがて力尽くであろう…この世界では“えーす・おぶ・えーす”と英雄視されておったようだが、その最期は儚く、そして呆気ないものであろう事が残念ぞ…ヒーヒッヒッヒッ!!」

 

「ッ!? テメェら…舐めた真似しやがって!!」

 

そう激情の声を振る政宗に対して。大谷は邪悪な愉悦の笑みを崩さなかった。

 

「我を斬るのか? それもいいが……このままあの娘子を見殺しにするぞ? さぁ、どうする?」

 

「……Sit!」

 

悔しそうに大谷を睨みつけていた政宗だったが、やがて何を思ったのか突然家康とスバルに向かって言葉を投げかける。

 

「家康…スバル…ここは任せる………」

 

それだけを言うと、そのまま踵を返して隊舎の中に向かって駆け出した。

 

「!?…独眼竜! どこに行くんだ!?」

 

「政宗さん!」

 

家康とスバルが声を掛けた時には、既に政宗は隊舎の中へと消えてしまった。

 

「ヒヒヒ! なにか考えを起こしたようだが…今更、何をしようが手遅れであろう……」

 

「刑部…」

 

家康は向かってくる縛心兵を投げ飛ばすと、再び身構えて大谷と対峙する。

 

「これ以上、好き勝手な事はさせん! スバル行くぞ!」

 

「はい!」

 

大谷はスバルの名を聞くと、興味深そうに彼女の方を見据えた。

 

「スバル?…ほぅ…そうか。 ぬしが、徳川が弟子にとったという“スバル・ナカジマ”か…面白い…ならばわれとてこの戦い…興味が湧いてきた」

 

大谷はそう言うと、自身の周囲に不気味に輝く珠を展開する。

 

「穿つな…八曜」

 

大谷の静かな掛け声とともに、彼の前に浮かんでいた珠が家康達に向かって飛んでくる。

家康とスバルはそれぞれ手甲とリボルバーナックルで打ち返しながら、大谷に向かって駆け出していく。

 

「どりゃああああああああああああああああ!!!」

 

「はああああああああああああああああああ!!!」

 

そして家康とスバルが前に出ると、抜群の連携を見せながら、輿に乗る大谷に向けて拳を振るう。

だが大谷はそれすらも珠を使って防ぎ、隙を突いてまた珠を撃ち放つ。

 

2人は一度後退すると拳を構え直し、家康は右手の手甲、スバルはリボルバーナックルにそれぞれオーラを貯める。

 

「甘く微笑め! 東の照!」

 

「シューティング……エアぁぁ!」

 

二人の拳から風圧の籠ったオーラが放たれ、大谷に向かって飛んでいく。

だが二人の合わせ技を前にしても、大谷は余裕な物腰を崩す事はなかった。

 

「それがぬしらの“絆”の力か…相変わらず眩し過ぎるのぉ……」

 

そう言い放ちつつ珠を、円陣を組むように身体の周りを回転させて、障壁のようなものを形成する。

そこに二人の放った風圧付きオーラがぶつかるが、当然ながら障壁は傷一つ負わなかった。

 

「そんな…!」

 

「さぁ、遠慮はいらんぞ。もっと我の与える不幸に抗え!」

 

大谷は再び、珠を撃ち放とうとするが、それよりも前にスバルがもう一度前に出て、大谷を殴りつけようとする。

しかし、やはり大谷の放つ珠の張る障壁に阻まれて、彼に近づくことすらできない。

 

「ふはははははははははは!! 不幸よ! 散ざめく降り注げ!!」

 

「うわああっ!?」

 

大谷の撃ち出す無数の珠の玉をスバルは拳で弾き返すも、その数の多さは、とても一人では払いきれない程であり、スバルは少しずつ後ろに下がる。

 

「スバル!?」

 

すぐに家康が横に立って援護するも、やはり二人だけで無数に飛んでくる珠を弾くのには無理があった。

 

「「!?…わああああああああああ!?」」

 

ついに耐え切れなくなった二人は数発の珠の攻撃を浴びて、数メートル程後ろに吹き飛ばされる。

 

「ヒッヒッヒッ! どうした? 師弟共々この程度か?」

 

「ッ!? …まだだ!」

 

大谷の挑発に、家康が毅然とした態度で言い返すと、スバルも歯を食いしばりながら立ち上がり、二人は再度大谷に向かっていった…

 

 

*

 

 

その頃、司令室は混乱を極めていた。

相変わらず、司令室にあったすべての電子機器の機能は軒並み全滅…

それどころか、地下の動力室が爆発した事で隊舎内にあった全てのライフラインが完全にストップしてしまった。

はやての放った幾つかの魔力光を緊急灯代わりにした室内にはスタッフの怒声が響き渡り、六課の活躍を映し出すはずのモニターは、今は砂嵐すら映さず、暗闇の中、沈黙を続けていた。

まさに最悪な状況の中、はやて達は、部屋に駆け込んできたシャマル、リインの2人から、この状況に至った原因…ロングアーチ3 通信主任のジャスティ・ウェイツが六課を裏切り、敵方に内通していた事…

そのジャスティの妨害工作によって、六課の全ての通信手段や防衛設備を機能停止に追いやられた事…

ジャスティを止めようとしたものの、思わぬ不意打ちを食らい、結果シャリオを人質にとられる事になった事…

そして、六課隊舎が完全に無防備な状況になったところを狙って、大谷吉継以下西軍の一団が一挙として押し迫ってきた事を知らされていた。

 

「なんて事や……私らはずっと、あいつらの…大谷の策略に踊らされとったっちゅう事か……?」

 

「まさか…ジャスティが我々を裏切っただなんて……」

 

はやてもグリフィスも、信頼していた仲間から裏切り者が出た事実を前に愕然とした様子を見せていた。

そんな2人に対し、リインは居た堪れない様子で頭を下げた。

 

「リインが迂闊でした…ジャスティを警戒して、早く拘束しておけば…こんな事態にはならなかったし…シャーリーだって……」

 

「リインが謝る事なんてない。とにかく今はこの窮地をどう乗り越えるかや。誰が悪かったとか、どこで間違えたかを考えるのはその後でえぇ」

 

はやてはそうリインを励ましながら、直ぐに毅然とした表情に戻った。

 

「八神部隊長。私達はどうすれば…?」

 

シャマルが尋ねると、はやてはてきぱきと指示を出していく。

 

「決まっとるやろ! こうなったら意地でも隊舎(ここ)を守るんや! シャマルは一緒に隊舎中にいるバックヤードのスタッフ皆の安全確認と避難誘導を! 地下のシェルターは使えへん! 避難用通路を使って施設外へ皆を逃すんや!」

 

「わ、わかりました!」

 

シャマルは指示通りに動くために、急いで司令室を出ていった。

 

「アルト! ウェイツ主任が裏切って、フィニーノ副主任が不在の今、通信の責任者は貴方に任せます! ルキノと一緒に通信の機能回復に尽力して下さい!」

 

「な、なんとかやってみます! この状態を復旧させるのは…自信ないですけど……」

 

雑音混じりでほとんど意味のない通信に、アルトは諦めの苦笑を浮かべながら言ったが、はやてはそんな弱気な彼女に叱咤を飛ばす。

 

「しっかりし! 六課始まって以来の大ピンチやで! 気合で直すくらいの気概でいかなあかんで!!」

 

「そんな無茶な…幸村さんじゃあるまいし……」

 

ルキノが呆れてツッコむのを尻目に、はやては最後に傍にいたグリフィスに指示を出した。

 

「グリフィス君。後の指揮をお願い」

 

それだけを言うとはやては、すぐさま外に向かって踵を返す。

 

「部隊長どちらへ!?」

 

「決まっとるやろ…わたしも出る」

 

「し…しかし…リミッター解除は…!?」

 

グリフィスがそう懸念を口にする。

時空管理局の部隊には戦力の均一化を図るために戦力上限が設けられている。

それを守りつつ、六課の戦力を充実させるために隊長陣には『リミッター』と呼ばれる能力制限が施されていた。

特に部隊長にして魔導師としての戦力は隊の中で最強格であるはやてのリミッターを解除することが出来るのは隊の後見人の内の2人…

聖王ザビー教会女神…もとい聖王教会騎士 カリム・グラシアとフェイトの義兄で本局付き次元航行隊提督のクロノ・ハラオウンの2人だけである、しかも回数制限もある。

何より、今は申請するにも通信手段が使えないので話にならない。

 

「仕方あらへん…戦力になるかわからへんけど、今はやれるだけの力でやるしかない」

 

「部隊長…」

 

「そもそもこんな事態になったのは、部隊長の私の見通しが甘かったのも一因や。せやのに、ここで引きこもってるだけやなんて、皆に顔向けがでけへん! リイン行くで!」

 

「は…はいです!」

 

グリフィスにそれだけを言うと、はやてはリインを従えて、司令室のドアへと向かおうとした。

…そこへ政宗が息を切らしながら駆け込んできた。

 

「ッ!? 政ちゃん!? どうしたん!?」

 

「はやて! 悪いが、ここに馬はねぇか!?」

 

「「う…馬!?」」

 

政宗が真剣な表情で突拍子もない注文に、はやて達ロングアーチの面々は思わず面食らってしまう。

 

「政宗さん。さすがにここには馬は…」

 

「頼む! Urgentなんだ!!」

 

政宗はそう叫びながら、グリフィスに食ってかかる。

 

「ど、どうしたっていうんですか!? 取りあえず落ち着いて話してください!」

 

そんな政宗を宥めながらリインが問いかける。

すると政宗は少し(といっても本当にわずかだが)落ち着いた様子ではやて達に、今の外での戦況…大谷が率いている縛心兵達の厄介ぶりと、その動力源…なのはが窮地に立たされているという事を伝えた。

 

「なんてことや! 沖に現れたガジェット達も唯のわたしたちの戦力を見るだけやと思っとったのに…そんな目的やったやなんて!」

 

「その大谷吉継という男……相当な策士ですね」

 

自分達の想像以上に最悪な状況に、はやてもグリフィスも、自分たちが今回完全に敵の陰謀に嵌められてしまった事に悔しさを隠せなかった。

 

あたかも敵のデータ回収を目的とした作戦と思わせて主力メンバーを分割させた上で、敵の拠点を攻める為の兵を動かす為の生贄を捕らえる。

そして、予め用意していた内通者を使って敵の機能を奪った上で多数の勢力を率いて一気に攻める。

まさにそのすべてが出撃前に話していた豊臣の得意な作戦の一つ…『潜伏侵略』そのままであった。

 

 

「はやて部隊長! とにかくここは外の襲撃者の対策と、高町一等空尉の救出を最優先させましょう!」

 

グリフィスの言葉に促され、はやては静かに頷くとアルトの方に顔を向けて尋ねた。

 

「アルト。ヴァイス君の“バイク”のある場所知っとるか?」

 

「えっ!? 確か…職員用のガレージに置いてあったと思いますが…どうするんですか?」

 

はやてはアルトの問いに返事も返さず、今度はリインに向けて話す。

 

「リイン。アンタは政ちゃんと一緒に行ってあげて。 なのはちゃん達のところに誘導するんや」

 

「で…でも、はやてちゃんは…?」

 

「私は…」

 

はやては懐から愛用のデバイス…シュベルトクロイツを取り出すと、決心をつけるように声を上げる。

 

「外で頑張っとるフォワードの皆を手伝いに行く。これ以上、あんな奴らに大事な部隊を好き勝手に荒らされてたまるかいな!」

 

はやての目は、珍しくやる気に満ちていた。

それほどまでに、今回策にかけられた事が悔しかったのだろうとリインやグリフィス達は察した。

 

「政ちゃん! 馬はないけどヴァイス君のバイクがあるから、それを使って! 早くなのはちゃん達のところへ!」

 

「えっ!? でもいいんですかはやてちゃん!? 人のバイクを勝手に使わせちゃって…」

 

「ヴァイス君には後で言って聞かせたらえぇ! それに保険入ってるやろうから多少手荒に扱ったところで大丈夫やろ!」

 

そう言いながらはやては、非常時用の車やバイクのマスターキーを自分のデスクから取り出し、それをリインに渡した。

 

「い、いいのですか? それって…」

 

はやての強引な言い分に戸惑うリインだったが、政宗は躊躇う事なくキーを受け取った。

 

「Thanks はやて! おい、Tinker Bell! 早く案内しろ!」

 

「は…はい! っていうか誰ですかそれ!? リインの名前は“リインフォース(ツヴァイ)”ですよぉ!!」

 

そう言ってリインの案内を受けながら、政宗はガレージに向かって走り出した。

 

「それじゃあ、グリフィス君! ここの指揮はまかしたで!」

 

そう言ってはやても、隊舎のエントランスの方へ向かって駆け出していった

 

 

「久々やな。こんなやる気溢れる戦いは…」

 

 

走りながらはやては、小さくつぶやいた。

 

 

*

 

 

その頃、幸村、佐助、ティアナ、そして彼らと対峙する景勝は、隊舎から少し離れた埠頭の近くに戦いの場所を移していた。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「おらあああああああああああぁぁ!!!」

 

一定の間合いを開けていた幸村と景勝がそれぞれ気合の掛け声と共に地面を蹴り、幸村は二槍を突き出し、景勝は大斧刀を大きく振りかぶった。

力の籠もった一撃がぶつかり合い、その衝撃は2人の周囲を円を描くようにして広がり、周囲の木々や草花だけでなく、埠頭を超えた先の海をも、その衝撃だけで大きく波立たせ、幸村の後ろで身構えていた佐助やティアナさえも思わず吹き飛ばされそうになった。

 

「へっ! しばらく打ち合ってなかったけど、腕を上げたじゃねぇか。 幸村!」

 

「景勝殿も…豊臣五刑衆に抜擢されたのも頷けるその豪剣……何度受けても慣れぬでござる!」

 

「へっ! 慣れないなら、何度でも受けて慣れろってのが武田の流儀なんだろ?!」

 

そう叫ぶや否や、受け止めていた槍を弾くと、素早く大斧刀を振り下ろしてくる。

幸村はギリギリで避けて後ろに飛び退くが、お構いなしに景勝が素早く幸村を追撃してくる。

 

「速い! 模擬戦の時もそうだったけど、あんな鈍重な武器使ってるのにどうやったらあんな動きが出来るってのよ!」

 

ティアナも思わず叫んでしまう。

 

 

氷燕(ひょうえん)ッッ!!」

 

烈火(れっか)ぁぁ!!」

 

 

景勝は幸村が避けた大斧刀をそのまま返す刀で斬り上げながら冷気を纏った真空波を放つが、幸村も穂先に炎を灯した二槍を居合並の速さで乱れ突く。

幸村の二槍と景勝の大斧刀が再度ぶつかった。

 

「へっ! やっぱり、戦は武田の連中とやり合うのが一番だぜ! 大谷の策に付き合ってると辛気臭い事ばっかさせられっから気分悪くなっちまうんだよ!」

 

楽しそうにそう言い放つ景勝に対し、幸村は困惑気味に尋ねた。

 

「景勝殿! それならば何故に大谷殿の企みに与するのでござるか!? 確かに今のそなたの立場は豊臣五刑衆…しかし、今の西軍に…豊臣に“義”は無いでござろう!? 石田殿はどうお考えか存ぜぬが、少なくともこの世界を支配しようとする大谷殿達の企みには如何に元同志であろうともこの幸村…納得できかねまする!」

 

「………それが、お前が東軍に寝返った理由っていうのか?」

 

「!?」

 

急に景勝が真剣な表情になって尋ねた。

 

「……それがお前の考えた“義”に基づいた上での行動なら、それを貫けばいいじゃねぇか。オレは今更、お前を“裏切り者”と詰るつもりもなければ、西軍に戻れとも言わねぇ…武士ってのは人それぞれに自分の信じた“義”とそれに基づいて築いた“道”ってものがある…お前のその道もまた、武人としての一つの“道”と尊重するぜ」

 

「景勝殿……」

 

景勝はバックステップで飛び退いて距離を保つと、大斧刀の切っ先を幸村達に向けて構えたまま諭すように言い放った。

 

「だけどな…このオレもまた…自分なりの“義”と“道”ってものは既に定めてあるんだよ。 確かにオレは大谷や小西みたいな、狡猾だったり、残虐卑劣な連中とつるむのが楽しいわけじゃねぇ…でもな。 オレには豊臣の幹部として…どうしても貫かないといけねぇ“道”ってものがある。悪いがそいつを曲げるわけにはいかねぇんだよ」

 

「……“道”…とは…?」

 

幸村が尋ねるが、景勝は何か嫌な事を思い出したのか顔を顰めだす。

すると、幸村の後ろで話を聞いていた佐助が静かに尋ねた。

 

「それってひょっとして…あの“御館の乱”の事が絡んでいるのですかい?」

 

「ッ!?」

 

佐助の口から出た言葉に景勝の表情が一変する。

 

「えっ!? 何…? その“御館の乱”って…?」

 

昼間、隊舎で行われた会議に参加していなかったティアナは、日ノ本で起きた名門 上杉家のお家騒動『御館の乱』の話を知らなかった為、佐助の口から出たその単語に困惑しながら尋ねた。

 

「へっ…流石は武田随一の忍 猿飛佐助だな。あの騒動の事、そんなに把握していたのか?」

 

「まぁ、おたくが大変な事になってた時、武田(こっち)も色々ゴタゴタの真っ只中だったから、詳しくは調べられなかったんだけどね……けど、アンタとゆっくり話せる機会があった時には、どうしても確認しておきたい事がひとつあったんだよ……」

 

佐助はそう言うと、鋭い目つきで景勝を睨みながら、意を決した様に口を開いた。

 

 

 

「あの乱で…“軍神の剣”と目された忍……“かすが”が死んだっていうのは本当なのか?」

 

 

 




ここへきて、まさかのBASARAを代表するオリジナルヒロイン かすがちゃんナレ死!?

pixivではまだ存在すら振れられていなかったかすがを、リブート版ではこんな形で登場させる事になって…かすがファンの方ごめんなさい。
ってまだ死んだと確定してるわけではないですけど…(これネタバレ!? どうなんだろう? まぁいいか(苦笑))

果たして佐助が今話の最後で言った台詞の真相は如何に…?

次回をお楽しみに!

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