リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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大谷吉継の卑劣な罠にかかり、家康達隊舎防衛組は窮地に立たされてしまう。

そこへ現れたのは、日ノ本屈指の“風来坊” 加賀前田家の御曹司 前田慶次であった。

この思わぬ助っ人に家康達が戸惑っていた頃、なのは救出に急ぐ政宗達は……


宗麟「リリカルBASARA StrikerS 第三十四章 この体は…”無限のザビー様への愛”で出来ていた!」

シャッハ「なにその最低な固有結界!? っていうかせめて『出陣』とかけなさいよ!」


第三十四章 ~走れ政宗! 怒涛のMid Night Dead Heat!~

機動六課隊舎前に新たな日ノ本の武将 “前田慶次”が現れる少し前に時は遡る…

 

 

クラナガン湾岸エリアでは疾走する政宗が跨るバイクの真横を次々とレーザービームが雨霰の如く掠め飛び、爆発と共に、道行く車を大きさ問わずに次々と吹き飛ばしていっていた。

彼らの走る幹線道路は最早戦場と化していた。

 

背後からは、バイクを模した新型のガジェットドローン…先程、政宗が一台破壊した事で4台となった刺客達は尚もピッタリと政宗のバイクを追跡している。

 

「Shit! どこまでも食らいついてきやがるぜ! 人間なら嫌いじゃねぇが、あのMaschine共はいけすかねぇな!!」

 

政宗は鬱陶しそうに吐き捨てながら、ハンドルを握りしめた。

 

「リインフォース! なのは達のいる場所まで、あとどのくらいだ!?」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! えっと……は、はい! このまま海沿いに走ってあと7km先の倉庫街の沖合になのはさん達の反応があるですぅ!!」

 

振り落とされないように必死に捕まりながら、器用にも片手だけでホログラムコンピューターを起動し、なのは達の現在位置を調べながらリインが叫んだ。

 

「7kmって何里の事だ?」

 

「ふぇっ!? え、えっと…1里が確か……1里って何kmですうううぅぅぅ?!!」

 

「だから、それを聞いてるっつぅんだろうがっ!! バカかお前!!!」

 

2人がと不毛な会話を交わしている間にも、背後の新型ガジェットからの追撃のレーザービームは激しさを増していく。

 

「チィッ! さっきのHighwayに乗りそこねたのが痛いぜ…どこか近くに乗れそうな場所は…」

 

政宗は幹線道路の横に沿うように延びる高速道路の高架橋を見つめながら悔しそうに話していると、ふと前方に見えた周囲の建物の中でも一際広く、そして高い建物が目に止まった。

 

「……Ha!I came up with a good idea!」

 

政宗がニィッと不遜な笑みを浮かべると、真っ直ぐに建物の方へと向かった…

 

 

政宗が目につけた建物は、この地区に最近オープンしたばかりだった健康ランド『クラナガン・スパ・ストーリーズ(通称K.S.S.)』 の新施設であった。

ミッドチルダだけでなく、様々な次元世界の入浴、建築文化を取り入れ、それを大衆的にアレンジした豊富な浴場が一つの施設の中に集結しており、その全てを堪能するにはとても一日では回り切れない程である。

勿論、温泉以外の設備に関しても、レストランや宴会場、ゲームセンター、ボーリング場、その他遊戯施設、さらには宿泊施設も備えられていた。

中でもこの建物の上層階はVIPフロアと呼ばれる施設で、豪華絢爛な部屋の内装はもちろん、各部屋の一部屋につきひとつ豪奢な専用浴場が備えられているのが売りだった。

 

当然、ここを利用する者は皆、どれだけ高額な部屋代を支払ってまでも、自分が愛した大切な相手との、思い出に残る大切な“一夜”を送る目的である者が多かった。

 

今宵のVIPフロア420号の利用客であるダニエル・アリオンもまたその1人であった…

 

時空管理局 陸上警邏予備隊 第33地区担当班所属 階級は一等陸士。 管理局員としては至って平凡…っというかどちらかといえば閑職務めである彼は、27年の人生の中でまともに恋愛をした経験がなかった。

 

強いて言えば、訓練校時代に一度だけチームメイトのヘザーをデートに誘った事があったのだが、それまでデートらしいデートをしたことがなく、女の子の好みなども全くわからなかったが故に、デートで誘った映画は当時自分がハマっていたアニメ映画であり、ディナーとして誘ったのもチェーン店のハンバーガー屋…女心のおの字もわかっていないようなチョイスのデートメニューに、最後に待っていたのはヘザーからの拒絶の一言と共に浴びせられた痛烈なビンタであった……

 

その一件がトラウマになって以来、ダニエルは「もう恋なんてしない」と心に誓い、管理局に入局してからも細々と生活し、異性との出会いを避けるように細々と数年過ごして来た。

 

ところが、そんな彼にも最近になって思わぬ形で出会いの機会が訪れたのであった。

同期で一番仲が良い、チャールズに誘われて出かけた合コンに、同じく参加していた女性 ソフィーと思わぬ形で意気投合し、それからトントン拍子に交際に発展に至ったのだった。

勿論、過去の失敗の経験もあったダニエルは慎重に女心を気遣いながらデートを重ねていった。

食事、遊興、どちらも女心を幻滅させないようなムードある雰囲気の場所や店をチョイスする事で順調にソフィーとの距離を縮めていき、そして久々に休暇をとることができた今日…ついに泊りがけのデートを約束させる事に漕ぎ着けたのであった。

 

『泊りがけ』…それが意味する事は当然、ソフィーもわかっていたが、彼女は了承してくれた。

既に彼女の心はばっちり開く事ができたと確信したダニエルは、早速、そのムードに相応しい場所を探した。

こういう時に調子に乗って、そこらの場末のホテルなんて選んで、彼女の失望を買うなんて事になったらとんだお笑い草である。勿論、そんな迂闊な失敗をするつもりはダニエルにはなかった。

散々、クラナガン市内の良い雰囲気のホテルを探した末に、このK.S.S.の新店舗のVIPフロアの一室に目をつけ、予約を入れたのだった。

準備は万全…あとはいよいよ“その時”を待つのみだった…

 

「いよいよだ…遂にこの時が……」

 

 

寝室、居間、浴室の3部屋に分けられたVIPフロア420号室の中心にある居間のソファーに腰掛け、バスローブを羽織ったダニエルは、高ぶる気持ちを落ち着かせるのと同時に、より本番で燃え上がりやすくするために、あらかじめ売店エリアで買ってきた缶ビールを飲んで待っていた。

部屋の隣りにある浴室からは湯気が漏れ、シャワーの水音が絶え間なく聞こえてきていた…

浴場にいるのは勿論、ソフィーである。

「先に身体を洗うから、後から入って来て欲しい…」そう言われたダニエルは、本当なら今すぐに強行的にでも浴室に突撃したい気持ちを押さえながら、ビールを煽った。

これが初めての夜なのだ。あくまでも紳士的に…

そう自分を律しながら、ダニエルはとにかく耐えて待つのだった。

 

その時、浴室と居間との間を繋ぐインターホンが鳴った。

 

《ダニエル。…いいよ。入ってきて♡》

 

「………よし。来た!」

 

ダニエルはちょうど空になった缶ビールをソファー脇のミニテーブルに置くと、浴場の脱衣場まで待てずにその場でバスローブを脱ぎ、生まれたばかりの姿になりながら、浴場に早足で入っていく。

 

湯気の漏れる引き戸を開けると、浴室にはやはり一糸纏わぬ姿の恋人 ソフィーが待っていた。

その顔はもう準備ができたのか、少し赤らめていた。

 

「それじゃあ……ホントにいいんだね…?」

 

「うん……きて…♡」

 

そう嬉しそうにソフィーはダニエルを手招きする

小躍りしたい気持ちを押さえながら、ダニエルは引き戸を閉じようとした。

ところがその時、部屋のどこからともなくプルルルと鳴り出した。

 

 

「ったくなんだよ!? せっかく、これからってところで……!」

 

思わぬ邪魔にダニエルは露骨に顔を顰めながら、手元に電話用のホログラムパネルを開いた。

これが自身のプライベートの電話であれば、無視していたが、生憎今の通知音はフロントからの緊急連絡であり、決して無視する事ができなかった。

パネルを操作して、通話画面を開く。

勿論モニターには『private』として今のこちらの部屋の様子は映らないように設定されていた。

 

「はい。こちら420号室―――」

 

《お、お客様! 緊急事態です!! と、当施設内に……ば…ばば、バイクに乗った不審者が侵入しました!!》

 

「はっ? はぁぁぁっ!? バイクぅ!? 一体、どういう事だよ!!?」

 

開口一番告げられたあまりにハチャメチャな事態に思わず間の抜けた声を上げるダニエル。

 

《わ…我々にも何がなんだか……? いきなり正面玄関からバイクが一台突っ込んできて、その後に誰も乗ってない筈のバイクが4台追いかけるようにそのまま施設内に入ってきて、スタッフが制止する間もなくそのまま施設内を走り回って、まっすぐ上の階の方に……そ、そちらに向かう可能性があるので、安全が確認されるまでは部屋から出ないようになさってください!!》

 

「ちょ、ちょっと待てよ! なんだよそれ!? 全然意味わからないって! 大体、バイクが施設に突っ込んでくるってどんな状況ッ!!?」

 

ダニエルが必死にフロントに詳しい説明を求めていると…

 

 

ブロオオオオオォォォォォォンッ!!

 

キキィィィィィィィィィィィ!!

 

ドガアアアアアアアアアァァン!!

 

「きゃああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

「うわああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

 

遠くから複数台分のバイクのタイヤのスリップする音とエンジンの音…そしてまるで地震のような震動を伴った轟音と老若男女の声の入り乱れた大勢の悲鳴が聞こえてくる。

 

そして、間違いなくその音はこちらに近づいてきて――――

 

 

 

ドゴオオオオオオォォォォォォン!!!

 

ガシャアアアアアアアァァァァン!!!

 

 

 

部屋のドアや壁、そして浴室の引き戸を派手に壊しながら、一台の赤いバイクが浴室に突っ込んできた。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!」

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!」

 

浴室にダニエルとソフィーの悲鳴が反響する。

バイクは浴室のタイルを刳りながらドリフトすると、純金の女神像が備えられたホーロー製の円形の豪華な浴槽を一瞬で吹き飛ばしてしまった。

芳醇な花の香りがする色鮮やかな水色のお湯が濁流となって、瞬く間に浴室内に浸水させてしまった。

 

その濁流を浴びながら全壊した浴槽の真ん中に止まるボロボロになったバイク…

そこにまたがっていたのは言うまでもなく、政宗である。

 

何かを待ち受けるかのようにじっと身構えている様子を見せていた。

 

ダニエルもソフィーもわけが分からず、目を丸くするばかりだったが、ふとソフィーは自分の今の姿に気づくと顔を真っ赤にしながら両手で自分の身体を庇い、悲鳴を上げた。

 

「い、いいいやああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ソフィーの悲鳴のおかげで我に返ったダニエルも政宗に向かって声を張り上げた。

 

「ッ!? だっ、誰だよアンタ!? いきなり、バイク乗って突っ込んできて!何考えてやがんだよ?!」

 

ダニエルは声を張り上げながら、政宗を取り押さえようと近づいた。

そこへ―――

 

ブロロロロオオォォォォォォンッ!!

 

ガキキキィィィィィィィィィィィ!!

 

 

「え゛っ!!? ちょ、今度はな――――」

 

 

ギンッッッ!!

 

 

「に゛い゛い゛っ!!!?」

 

 

青年の乗ったバイクの後を追うようにして、4台のバイク…追手の新型ガジェットドローンが突っ込んでくると、それに戸惑っていたダニエルに向かって先頭の1台が突っ込み、彼のもろ出しの金的に前輪が激突し、そのまま悶絶する彼の身体を天井に向かって跳ね飛ばした。

あまりにも情けない悲鳴を上げながら、ダニエルの上半身が天井に突き刺さるのを尻目に、彼を跳ね飛ばした新型ガジェットは政宗の跨るバイクへと迫る。

 

その瞬間、政宗はそのタイミングを待っていたかのようにグリップを捻った。

タイヤを激しく空振りさせた後、停まっていたバイクが向かってくる4台の新型ガジェットに対して走り始める。

 

「MAGUNUM STEP!!!」

 

バイクのスピードを上げながら、政宗が腰に下げていた六爪の内の3本を取り出しながら前に突き出し、4台の新型ガジェットとすれ違う。

刹那、ダニエルを跳ね飛ばした1台がまるでチーズのようにバラバラに切り裂かれて、全壊した浴槽の女神像に激突し、そのまま像をへし折ってしまった。

しかし、他の3台はそれぞれ浴槽の壁や天井を鮮やかに滑りながら、車体を転換すると、政宗の駆るバイクを追って、すかさず走り始めた。

 

合計4台に減ったバイクがエンジンとタイヤの音色を残して出ていくと、嵐が過ぎた後のようにボロボロに壊れた浴室には未だに天井から全裸の下半身を突き出す形で失神しているダニエルと、恥部を手で隠したまま唖然とするソフィーの姿があった。

だが、一足先に我に返ったソフィーは急いで浴室から出ると、瓦礫の山の中からどうにか下着と服を引っ張り出して急いで着ると、あとは手に取るものを取らずに部屋を出て、逃げて行った。

 

出ていき際には、天井からぶら下がっているダニエルに対して…

 

 

「よくもこんな物騒なホテル連れてきて……永久にさようなら!!」

 

「あぐぅっ!?」

 

 

と罵声とともに一発股間にワンパンを叩き込んでいった。

皮肉にも、そのおかげで一瞬だけ意識を取り戻し、天井から脱出したダニエルは… 

 

 

「な…なんで…? 俺……なにかした…?………ガクッ!」

 

 

と心と股間に当分拭えぬ事のできぬ痛みを覚えながら、文字通り真っ白になって、またも気絶するのであった……

 

 

 

一方、政宗は建物の上の階に向かってバイクを飛ばし続け、その間、いくつもの客室や浴場を突き抜けながら進んでいた。

当然、それぞれの場所に利用客がいたわけで…

 

「きゃあああああああああああああぁぁぁぁぁ!!! 痴漢んんんんんんん!!」

 

「なんだよアンタらはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「いやああああああああああああああぁぁぁぁ!! 出て行ってぇぇぇぇぇぇ!!」

 

一糸纏わぬ利用客達から石鹸や桶を投げられたり、罵声を浴びせられるも、意に介する事なく、政宗はバイクのギアを目一杯上げていた。

 

 

「ちょ、ちょっと政宗さんーーーーーーーッ!! なんでまたこんなところに入っちゃったりしたんですかぁぁぁぁぁ!!! 建物もバイクもグッチャグチャですぅぅぅぅ!!」

 

政宗の懐から顔を出したリインが、様々な意味で頭を抱えながら叫んだ。

最早肩に掴まっていると、いつ振り下ろされてしまうかわからないと恐怖感を覚えたリインは、バイクのスピードが若干(本当に若干だが)緩んだ時に飛び込むようにして政宗の懐に入って、一先ずの安全を確保したのだった。

しかし、安全と言ってもあくまでも吹き付ける風圧の恐怖がなくなっただけであり、政宗の織りなすエキセントリックにも程がある危険運転に肝を冷やし続けている事には変わりなかった。

 

「だが、おかげで奴らの頭数をまた減らせてやったぜ! それにちょうどいいIdeaも思いついたからな!!」

 

「あ、アイディアって……?」

 

政宗が自信満々に話す「アイディア」という時点で、嫌な予感しか抱けなかったリインはこの段階で既に顔が凍りついていた。

勿論、リイン自身の能力によるものではない。

 

そこへ、バイクの疾走する通路の先に、一際大きなガラス窓が見えてきた。

どうやら、このフロアがこの施設の最上階であり、あのガラス窓はここからの景観を楽しむ為の展望用の窓であろう。

その証拠に、窓の外には首都クラナガンの海沿いの街の景観がよく見えていた。

 

そしてその真ん中から延びるように見える高速道路の高架橋も…

 

 

「っ!!? ま、政宗さん……まさか“アイディア”って………?!」

 

それをリインは何かを察したかのように顔を震わせる。

そんなリインに対し、政宗は得意げに口の端を釣り上げながら応えた。

 

 

「Well said!!」

 

 

その言葉と共に政宗はバイクを一気に加速させる。

迫りくる展望窓を前に何を思ったのか、ハンドルから手を離し、両腰に下げてい六刀全てを引き抜いて、六爪の構えをとる。

そして…

 

 

「PHANTOM――――」

 

バイクがガラス窓を突き破ろうとした瞬間――――

 

「DIVE!!!!」

 

「ぎゃぴいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

爆発音と共に、リインの悲鳴が夜の市街地に木霊する。

政宗は両手に持った六爪を振り交わし、展望窓を周辺の壁ごと斬撃波で吹き飛ばし、同時にその風の波に乗る形で、建物から転落する筈だったバイクを僅かな間だけ空中に滑空させた。

勢いがつけられたバイクはそのまま建物から大きく扇を描くように空中を滑空する。

その先は政宗の読み通り、高速道路のど真ん中……

 

ガクン!という激しい震動と轟音を響かせながら、バイクは見事着地する。

 

すると周りを道路を走っていた周囲の車は突然、バイクが空から振ってきた事に驚き、次々と慌てて、ハンドルを切りながら路肩へと回避していった。

中には回避しようとして防音壁やガードレールにぶつかっていた車も少なくなかったが、既に似たような形で事故を起こした車を何台も見ていた政宗は特に気に留める事はなかった。

 

政宗が一瞬、ちらりと背後に目を配った。

数十メートル後方にはまだ新型ガジェット3台がきっちりと張り付いてついてきているのが見えた。

どうやら、奴らも政宗のバイク同様に『K.S.S.』の施設からのハイジャンプで高速道路に飛び乗る事に成功した様子だった。

バイク型ガジェットのとんでもないドライビングテクニックに政宗さえも思わず舌を巻いた。

 

「Hum! スカリエッティ…っとかいったか? そいつもとんでもなくCrazyなMachine造りやがるぜ!! おい、無事か? リインフォース!」

 

政宗がふと呼びかけると、リインは目を回しながらよろよろと懐から這い出してきた。

 

「ま、まひゃむねひゃん………む、むちゃくちゃにもほどがあるれすぅぅ………いまのは、ほんと死んじゃうかとおもひましたぁぁぁぁ……」

 

「なかなかThrillなDriveで、乙なものだろう?」

 

「スリルどころかデンジャー極まりないですよおおおおおおぉぉ! リイン怖すぎて、おしっこちょっと漏らしちゃったですぅぅ!!」

 

リインは半泣きになりながら抗議するが、政宗はあっけらかんとした表情を崩さない。

 

「Ah? お前、なのは達と一緒に普段から空飛んだりしてんだろ? これぐらい平気じゃねぇのかよ?」

 

「空戦魔導師でもこんな無茶苦茶な飛び方しないですぅぅぅぅぅ!!!」

 

リインが叫んだその時―――

背後から再び、ピンク色のレーザービームの嵐が政宗のバイク目掛けて殺到する。

施設の中では、狭い屋内だった事もあり下手に発射すれば連鎖爆発で自分達も巻き添えになると判断したのか物騒な内蔵兵器を使ってこなかった新型ガジェット達だったが、再び広い場所に出た事で、猛攻を再開してきたようだった。

レーザービームがバイクの周囲の地面や前方を走っていた車のタイヤを撃ち抜き、小爆発や、スリップしてこちらにぶつかってくる車が再びバイクの行く手を阻みにかかった。

 

「キャーキャーキャーキャーキャーキャーーーーーーーッ!!!」

 

「Shut up! …ったく。いい加減にしつこい連中だぜ! しかたねぇ…こうなったらもう一度ふっ飛ばして…!」

 

悲鳴を上げるリインを一喝しながら、政宗は何度目かになるであろうバイクのギアを最大まで上げようとした。

だが…

 

 

ボンッッ!! バチバチバチ!

 

 

バイクのスピードは上がらず、代わりにエンジン部分が小さな爆発を起こし、スパークを走らせながら黒い煙を上げた。

 

「…Ah?」

 

「………………ま、政宗さん……なんか…エンジンが爆発しかけているんですけど……?」

 

絶句するリインに、政宗は肩を竦め…そして死んだような目つきでリインを見下ろし、視線を合わせると…

 

「……お前って、確か『祝福の風』って二つ名あったよな? よし! このバイクがなのは達の許に無事にたどりつくまでに“爆発”しないように祈れ! Over!!」

 

開き直るかのような口ぶりで無茶苦茶な事を言い出した。

 

「いや、それどんな祈りですか!? っていうかさらっと恐ろしい事言わないで下さい!!」

 

「もう嫌ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」っとドップラー効果がかかったリインの虚しい叫びが、レーザービームと爆発の絶えぬ高速道路に響き渡った。

政宗はこれ以上スピードを上げる余地のなくなったばかりか、いつ爆発するともわからぬ黒煙を上げるバイクで、どうにか追撃してくる新型ガジェット達の猛攻を凌いで、なのは達の許にたどり着ける方法はないか、再び頭を悩ませるのであった。

 

 

 

 

政宗達が(街に甚大な被害を生みながら)どうにかハイウェイに乗る事に成功した頃……

海上ではなのはを幽閉し、又兵衛を乗せた輸送機型のガジェットドローン“Ⅷ”型『通称:ビッグドロップ』を相手に、ヴィータ、フェイトは激しい空中戦を繰り広げていた。

 

「はあああああああああああああああ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

フェイトが大鎌型の“ハーケンフォルム”となったバルディッシュを、ヴィータが通常の戦槌型の“ラケーテンフォーム”のグラーフアイゼンをそれぞれ振りかざしながら、Ⅷ型(ビッグドロップ)を追うが、輸送機型ガジェットはその巨大な機体に反し、かなりの機動力を有しており、水面擦れ擦れまで降下したかと思えば、空高く舞い上がるなどして、海上を縦横無尽に駆け回り、2人を翻弄していた。

 

「ちぃ! ずんぐりむっくりな図体のくせに、Ⅱ型以上にちょこまかと飛びやがって!!」

 

ヴィータが忌々しげに舌を打ちながら、ボヤいた。

 

「なのは! すぐに助けるから…もう少しだけ堪えて!!」

 

対するフェイトは、なのはが捕らえられた事に少なからず動揺しているのか、その表情には何時になく焦りの色が濃く浮かんでいた。

そんな彼女の様子を見たヴィータが横を飛びながら、窘める。

 

「落ち着けよフェイト! 後藤又兵衛(ストーカー野郎)となのはは、あの新型ガジェットドローンの中にいるんだ!! なのはを助けるにしても、まずはあの新型をどうにかしなきゃ話にならねぇ!! 今はとにかくアイツをなんとかする事だけを考えろ!!」

 

「…そ、そうだね。ごめんヴィータ」

 

ヴィータの叱咤で我に返ったフェイトは、相変わらず海上を縦横無尽に飛び回るビッグドロップを見据えながら、冷静に分析し、考えを巡らせる。

そして、すぐに戦術を思いついた。

 

「よし……ヴィータ。私があの新型の前に出る。それで上手く誘導させるように飛ぶから、その間にヴィータは背後に回って、上から機体に穴を開けて突破口を開いて」

 

「任せろ!」

 

フェイトはヴィータに指示を出し、ヴィータもそれを了承すると、早速行動に移った。

 

「ソニックムーブ!」

 

《Sonic move》

 

フェイトは加速魔法“ソニックムーブ”で飛行速度を一気に光速まで上げると、ビッグドロップの前方のわざと標的として目立つ位置につき、そのまま誘導する様に飛行し始めた。

意図通りに、ビッグドロップは突然前方に現れたフェイトを確認するや否や、標的として攻撃にかかってきた。

 

手始めに先程と同じ両翼のミサイルポッドが火を噴き、今度は数十発のミサイルがフェイトの方に向かって飛んでくる。

フェイトは華麗に身を躍らせて、飛来してくるミサイルを避けながら、障壁魔法(シールド)を張る事でミサイルを防いだ。

 

「そう…そのまま…」

 

フェイトはビッグドロップの意識が完全にこちらに集中した事を確認すると、飛行速度をさらに速め、露骨に目立つ形で退避していく。

 

すかさず、ビッグドロップも加速して、距離を離されないようにピッタリとフェイトの後ろについて飛行する。

フェイトは高度を海面ギリギリまで下げると、後を追うビッグドロップも平行になるように飛び、フェイトを追跡していた。

 

《今だ! ヴィータ!》

 

ちらりと背後を見て、ビッグドロップが平行に飛んでいる事を確認すると、フェイトは念話で合図を送った。

 

「どりゃあああああああああああああああああああああ!!」

 

そこへ上空からヴィータが、グラーフアイゼンを構えながら、ガジェットの機体中央を狙って急降下してきた。

狙いはビッグドロップの機体中央部…囚われたなのはと後藤又兵衛がいるであろう機内へと出入りできるハッチだった。

 

《Flamme Schlag!》

 

「ぶちぬけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

振りかぶったグラーフアイゼンからカートリッジを一発射出させると、気合の叫び声と共に降下と共にビッグドロップのハッチに強力な打撃を打ち込んだ。

“フランメ・シュラーク”は、「炎の打撃」の意味を持つ、魔力付与系打撃魔法である。

通常の打撃に加え、命中時に高温燃焼を伴う爆発と着弾点焼夷効果を発生させる高威力攻撃が可能なこの技は、いつものように全力で機体を破壊するわけにはいかないこの状況で、なのはの囚われている機内への突入口を開く為に一番適正な攻撃手段として選出された。

そして、その読み通りにビッグドロップのハッチは小爆発と共に砕かれ、跡に大きな穴が開かれていた。

 

「やったぜ! 今だフェイト!」

 

ヴィータが声をかけると、フェイトはサッと宙返りを決め、迫ってきていたビッグドロップの機体に開いた穴の中へと飛び込んだ。

直後、追加のⅠ型、Ⅱ型がそれぞれ10機程、こちらに向かって飛行してくるのが見えた。

 

「くそ! 次から次へと…フェイト! なのはの事は任せたぞ!」

 

ヴィータはグラーフアイゼンを構え直すと新手のガジェット達の掃討にかかるのであった……

 

 

 

 

最早『無法ドライブ』といっても過言でない暴走ぶりを見せながら、政宗と彼の懐で悲鳴を上げ続けるリインを乗せたバイクは高速道路を南に向かって爆走していた。

相変わらず、背後からバイク型ガジェット達によるレーザーとミサイルの集中攻撃が絶える事なく、彼らの通った後の高速道路はまるで空爆でも受けたかの如くクレーターに覆われ、自動車があちこちでぶつかったり、ひっくり返るなど、阿鼻叫喚な有様になっていた。

 

「政宗さぁぁぁぁん! せめて、少しだけでもいいので“安全運転”を意識して下さいいぃぃぃぃ!!」

 

「Ah!? この状況でそんなもん出来る余裕がねぇのは、お前だってわかってるだろうが!」

 

「そうかもしれないですけど、流石に限度ってものがあるですぅぅぅぅ!! オヴェェェッ! 気持ち悪いぃぃぃッ!リバースしちゃう!リイン気持ち悪くて、もうリバースしそうですぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

「Ha! お前さっきから上も下も大騒ぎじゃねぇか。もっとCoolになりな」

 

「誰のせいでこうなってると思っているのですかあああああぁぁぁぁぁ!!!?」

 

すっかり目を回してしまったリインの絶叫がバイクのエンジン音や傍の地表にレーザーが命中して起こる爆発の音にさえも負けず劣らぬボリュームで高速道路に反響する。

その時、政宗の鋭い視線が、高架から見える湾岸の倉庫街の向こうに見える海の上空のある一点を捉えた。

 

「おい! ひょっとして、あそこか!?」

 

政宗の言葉に、リインが風圧に押されながらもなんとか、首を持ち上げて彼の指差す方を注視すると、そこには、一機の巨大ガジェットと、その周囲に展開する数機のガジェットの編隊を相手に奮闘するヴィータの姿が見えた。

 

「!?…間違いないです! あれはヴィータちゃんです! 戦ってるのは…やっぱり、新型のガジェットドローン!?」

 

「Goddamn! …ってことはアソコになのはのヤツが…よし、Highwayを降りてあそこへ向かうぞ!」

 

「は、はいですぅ! …って、ん?」

 

政宗の言葉にいつものように返事を返しかけたところでリインは不意に背中に悪寒が走る感覚を覚えた。

政宗の言う『降りる』という言葉の意味…ここまでのパターンからして、それはつまり……

 

「ま、政宗さん!! 一応聞きますけど、“降りる”っていうのはちゃんと料金所を通って――――」

 

リインの言葉が終わらない内に、政宗はバイクを路肩の高架の壁とその前に阻むように延びるガードレールの方に向かってグンッと一気に寄せながら、片手で3本の刀を手にとって見せた。

そしてバイクが衝突する寸前を狙って刀を振り下ろし、まるでバターを切るように壁とガードレールを斬り裂き、ついでに高架の一部を丸ごと削り取るように吹き飛ばしながら、その残骸と共に高架下の道路に向かって躊躇う事なく車体ごと身を躍らせたのだった。

 

 

「Jump!!」

 

「ピギイイィィッ!! や、やっぱりいいぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」

 

 

またしてもバイクごと高所からジャンプするというアドレナリン全快な運転を楽しげに笑いながら平然とこなす政宗に、リインは絶望の表情を浮かべながら白目になってシャウトするのであった。

 

 

 

「なのは!!」

 

ビッグドロップの機内に乗り込む事ができたフェイトは薄暗い機内の中を見渡した。

手にしていたバルディッシュは既に2刀の片手剣の形態“ライオットフォーム”に変形させている。

狭い機体の中ではこちらの方が、取り回しが良いからだ。

 

ビッグドロップの機内は六課の所有するヘリJF704のキャビンとよく似た様子であったが、通常の輸送機にはあるべき折畳椅子や緊急用機材、さらには窓すらひとつもなく、厚く冷たい壁が四方を取り囲み、天井に開いた穴から差し込む月明かりと、所々に灯る小さな電灯だけが微かな明りとなって、逆に機内の陰鬱な仄暗さを強調しているかのように見えた。

 

ふと、キャビンの一番奥…黒い大小様々なサイズのベルトアームやコードが蔦のように密集した部分の奥に、まるで見せしめの絞首刑のように体の四肢をコードに絡まれて、宙吊りにされたまま気を失っているなのはの姿が確認できた。

 

「なのは!」

 

フェイトはキャビンの奥に駆け寄ると、二本一対のライオットブレードでベルトアームやコードを斬り裂きながら、なのはの元へと近づこうとする。

そして、なのはの周りを阻むように生え伸びていたベルトアームを大体切り終えたのを確認すると、なのはの体に巻き付いたベルトアームを切りにかかろうとした。

その時だった…

 

「ケッケーーー!! はい! 引っかかったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ッ!!?」

 

不意にキャビンの中に後藤又兵衛の粘着質な歓喜の声が響き渡る。

フェイトがそれに反応し、ライオットブレードを構える間もなく、藪の様に乱雑に絡まりあったベルトアームやコードを斬り裂き、巨大な奇刃を振りかぶった又兵衛がまフェイトに向かって飛びかかってきた。

フェイトは咄嗟にそれを避けながら、ライオットブレードで又兵衛の薙ぎ払った奇刃を弾き返す。

 

「ケーッケッケッケッケッ!! ケーケッケッケッケッケッ!!」

 

だが、又兵衛はそれの反動さえも利用して後ろに飛び退くと、狭いキャビンの壁や天井を文字通りトカゲの様に四つん這いになりながら俊敏な動きで駆け回り、その合間に奇刃を無茶苦茶に振り回してはフェイトを翻弄した。

 

(ぐぅ……まともな剣術でないというのにこの威力…これが“狂気”に溺れた故の強さなの!?)

 

フェイトは上手く避けながら、ライオットブレードを繰り出して反撃しながらも、又兵衛の実力に内心驚いていた。

又兵衛の動き、そして技は、政宗や幸村達のような正統な剣術、槍術などと違って、まともな武術の型とは言い難いものであるが、それが逆に又兵衛の乱雑で先の掴めない行動を、より捉えにくくさせていた。

文字通り空間の全てを自在に行き交いながら、こちらの腕が痺れるくらいの力で奇刃を振るい、そして投げつけてくるのである。

これでも豊臣…そして西軍の中では“下級兵”に部類されるというのであるのだから、フェイトは改めて自分達が対峙している軍勢の強大さを思い知り、バルディッシュを握る手に力を込めた。

 

「バラバラだぁぁぁぁ!!!」

 

「ッ!!?」

 

気がつくと、又兵衛が自らの目の前に迫っていた事に驚きながらも、フェイトは障壁魔法(シールド)を張って、不意打ちを防ごうとする。

しかし、又兵衛の振り下ろした奇刃はフェイト自身…ではなく、障壁を張った彼女の足元に向かって突き立てられた。

その瞬間、強烈な電撃が床を伝って障壁を超えて、フェイトの全身に走った。

 

「がっ!? はあああああああぁぁぁぁっ!!」

 

まるで脳天まで突き抜けんばかりの痛みと衝撃がフェイトに襲いかかる。

雷属性の魔法の使い手であるフェイトは、電撃に対する耐性も強く、ダメージ自体はある程度は抑える事が出来る。

しかし、やはりその電撃の際に食らう衝撃によって人並みに身体の自由を奪われる事は避けられなかった。

 

それでも、どうにかフェイトは身体を走る電撃に耐えながら、障壁を解除しつつ、キャビンの後方に下がって退避し、痺れの身体に鞭打つように立ちながら、又兵衛を睨みつけた。

又兵衛は囚われたなのはの前に門番の様に立ち塞がりながら、血糊と鉄錆に塗れた古びた奇刃を手に、フェイトに向かって陰湿な眼差しを投げかけてきた。

 

「ぐぅ…なのはを返せ! この外道!!」

 

「外道ぉ? 俺様がぁ? なぁんとでも言えッ! どうせテメェら、まとめて(ばら)しちゃいますからぁっ!!!」

 

それぞれに言い放ちながら、フェイトと又兵衛は再び間合いを詰めると、ライオットブレードと奇刃を組み合った。

飛び散る火花が、薄暗いキャビンの中に一瞬だけ昼のような灯りを齎した。

 

「殺される前に、腕尽くでも取り戻す……これ以上、お前達の好き勝手にはさせない!」

 

「ケッ! 殊勝な事言ってやんのぉ! …その気高い心、テメェの顔ごと醜く切り刻んでやるよぉ!!」

 

「ふっ…それが出来るものなら!」

 

フェイトは微笑を浮かべた後、バックステップでキャビンの隅まで下がると、指先に金色に光る魔力弾を一つ投影した。

 

《Photon Lancer!》

 

「ファイア!」

 

フェイトが掛け声を上げると、魔力弾は槍の様に鋭く又兵衛に向かって発射される。

フェイトが最も得意としている射撃魔法『フォトンランサー』。

自身にかけられたリミッターに加え、今は大技の魔法を使うわけにもいかない狭いキャビンの中故に発射したのは一発だけとはいえ、又兵衛は鬱陶しそうな顔つきで、奇刃を回しながらそれを打ち消してみせた。

 

「……ぐぅっ…! 生意気な(あま)風情がぁ!!」

 

「貴方程じゃないけどね!」

 

皮肉を言いつつも、フェイトはどうにか又兵衛を凌いでなのはを救出する機会を窺っていた。

 

(待っててなのは…すぐに助けるから!!)

 

フェイトは少し乱れてしまった呼吸を整え、再び接近戦に挑むべく、キャビンの床を蹴った。

 

 

 

「……もしもし! なのはさん! フェイトさん! ヴィータさん! 一体、そっちで何が起きているんですか!? 3人共誰でもいいから応答して下さいよ!!」

 

その頃、ガジェットの編隊の交戦地域から少し離れた湾岸の倉庫街エリアの上空を滞空して待機していたJF704式ヘリコプターのコックピットではパイロット、ヴァイス・グランセニック陸曹が機内の無線を使って必死になのは達に念話を呼びかけていた。

いつもどおりに、現場に到着し、なのは達をキャビンから出撃させた後、ヴァイスは任務完了の指示を受けるまで安全な空域までヘリを退避させて、空中でガジェットの編隊と交戦を開始したなのは達の様子を見守っていた。

ところが、突然なのはとの念話が遮断されたのを皮切りに、フェイト、ヴィータ、しまいには隊舎との連絡さえも途絶えてしまうという事態を前に、ただならぬ出来事が起こっている事をヴァイスは直感した。

 

Master !(マスター!) After all, it is better to go to (やはり直接状況)check the situation directly…?(を確認しに行った方が…?)

 

「無茶言うなよ! 下手に乱入して集中砲火浴びたら一巻の終わりだぞ!?」

 

ヘリに搭載された自身のデバイス“ストームレイダー”にそう声を張り上げながら、ヴァイスは頭を悩ませた。

一蹴したものの、ストームレイダーの言う通り、これだけ確認連絡にも応答がない以上、やはり直接現場に赴いて状況を把握する事が一番手っ取り早い。

しかし、このJF704式ヘリコプターは武装隊を中心に配備されている最新型の輸送ヘリで、その機動性こそ抜群の性能を売りにしているが、あくまでも輸送ヘリ故に固定武装は無く、下手に激戦にしゃしゃり出ると忽ち集中砲火を浴びる危険性がある為、決して得策とは言えない。

 

「…っとは言っても…こちとら隊舎とさえ連絡がつかねぇ…本当にどうすれば……」

 

ヴァイスは片手で頭を乱雑に掻きながら唸る。

それからもう一度、隊舎との回線を開き、苛立ちを強調したような声で通信を送った。

 

「本部! こちらはなのは隊長、フェイト隊長、ヴィータ副隊長のいずれとも連絡がつかない! 一体、今現場で何が起こってるんだよ!? アルト! シャーリー! この際、ジャスティでもいい! とにかく情報を教えてくれ!!」

 

当然、機動六課隊舎で何が起こったのか何も知らされていないヴァイスは、敵に内通していたジャスティが司令部の通信システムを全て無力化している事など知る由もなかった。

当然、司令部からは返信どころか、うんともすんとも返ってくる音はない…

 

「ったく! 一体どうなってやがんだよ!?」

 

ヴァイスは誰に向けるともなく、一人悪態をついた。

既に数十回と試した後だったので、返信がない事はわかってはいたが、ここまで何もわからないと勝手に苛立ちが露骨に態度に出てしまう。

 

一瞬、妨害電波による電子攻撃かとも考えたが、それにしてはレーダーサイトをはじめとするヘリのシステムは全て正常だった。

 

本部や他の隊員達との連絡だけが全く通じない状況だった。

っということはなのは達だけでなく、隊舎でも唯ならぬ事態が起こっているのかもしれない…

 

「こうなったら……命令違反にはなるが、一度隊舎に帰投して状況を確かめに行くしかないか…?」

 

滲み出る苛立ちを噛み締めヴァイスが呟いたそのとき―――

 

 

《なのはさん! フェイトさん! ヴィータさん! ヴァイス陸曹! 聞こえますか! こちらはロングアーチ02! 誰か応答をください!》

 

「うぉっ!? その声は…リイン空曹っすか!?」

 

ヘリに届いた久方振りの返信に、ヴァイスは思わず歓声のような声を上げてしまう。

 

《ヴァイス陸曹!? 今何処にいるのです!?》

 

念話を返してきた声の主 リインフォースⅡはヴァイスが思わず声を張り上げた事に若干驚いた様子を見せながらも、一先ずヘリの所在地を確認してきた。

 

「今は湾岸地区H16エリア上空で待機しています! それよりも! 一体どうなってるんすか!? なのはさん達はおろか、本部とさえ急に連絡がとれなくなっちまうし…こちとらずっと無線で連絡呼びかけていたんですよ!?」

 

《えっと…詳しく説明している暇はないので簡潔に言いますが…》

 

リインは、なのは達が出撃してから隊舎で何が起こったのか大まかに説明をした。

 

「ジャスティの奴が裏切った!? …どおりで隊内の通信が全部おじゃんになったわけだ! あの恩知らず野郎ぉ! それで、リイン空曹は今どこに!?」

 

《い、今はなのはさん達の救援に向かう政宗さんと一緒にH15エリアまで来ているです! でも、新型のガジェットドローンの追撃を受けて、なかなか振り切れないでいるのです! どうにかそちらで合流して、貴機に拾ってもらう事はできませんか!?》

 

「そういう事なら、お安い御用ですよ! んで、そっちは何で来たんですか!」

 

《えっ!? え、えっと……ば、バイクです!》

 

「ん? バイク……?」

 

リインのどこか言い辛そうな返答と、その内容に訝しげるヴァイス。

機動六課では公用の自動車が何台かと、フェイトや一部の職員が所有する私物の乗用車があるが、その中でバイクを所有しているのは自分以外にいない筈だった。

いつの間にバイクを調達していたというのだろうか?

気にはなったものの、とにかく今は状況が状況なだけに深く考える事はしないことにした。

…数分後。自身にこの上ない絶望を齎す“事実”が待っている事も知らずに……

 

 

どうにかヴァイスと連絡をとる事ができたリインだったが、自分達を取り巻く状況は決して好転しているとは言い難かった。

高速道路を(文字通り)飛び降りた後も、依然として3台のバイク型の新型ガジェットは後方について離れずにいた。

そし赤いレーザーと時折思い出したように放ってくるミサイルが行く手の道路を吹き飛ばし、進行を妨げようとする。

 

「Shit! アイツらのしつこさには、いい加減に俺もイライラしてきたぜ…」

 

政宗がそんな事を呟きながら、バイクのハンドルをぐいっと真横に倒した。

サッと、右に傾いたバイクの真横を赤いレーザーがすりぬける。

間一髪の回避…しかし、これはカーチェイスが始まってから既に数十回と繰り返した事であった為、あれだけ悲鳴を上げまくっていたリインでさえも最早この程度では驚く事がなくなっていた。

“慣れ”というものは恐ろしいものである……

 

「政宗さん! 近くに待機していたヴァイス陸曹に救援を呼びましたです! ヘリが来たら、それに飛び乗って、なのはさん達の許へ向かいましょう! あの新型は見るからにバイクの形をしていますから、空までは飛んでくる事は無いはずです!」

 

「OK! それまで、このバイクが生きてくれる事を祈るか…」

 

(あっ……そういえばヴァイス陸曹にこのバイクの事、どう言い訳すればいいんでしょう…?)

 

リインは話しながら、間もなくこのスクラップ寸前の状態のバイクの持ち主と合流する事を思い出し、彼が“事実”を知ったらどんな反応を起こすか想像して、顔を青ざめた。

 

既にボディの外装はほぼ全て吹き飛ばされて、無機質な機械が剥き出しの丸裸状態、エンジンは火花を激しく散らしながら、爆発寸前、ここまで道なき道を進んできた事で極限まで擦り切れたタイヤもいつバーストを起こして弾け飛んでもおかしくなく、黒煙の量も次第に多くなっていく。

これでは、ヘリに拾ってもらう前に、バイクが全壊してしまいかねない。

運良く、拾われたとしても本来の持ち主であるヴァイスが、自分の知らぬ内に愛車のバイクをこんな死にかけな状態にされた事を知れば、どんな反応をするか想像するのも恐ろしかった。

 

そんな限界ギリギリのバイクを駆りながら、政宗は、倉庫街の端、海沿いの埠頭の道へと出てきた。

すると、前方に見える海の沖合上空では大型ガジェットとの激闘を続けているヴィータが若干劣勢な状況である事が理解できた。

 

「Hurry up!!」

 

政宗は限界を超えたバイクにさらに鞭を打つかのように、容赦なくアクセルを蒸す。そんな命知らずな行動に、リインが必死に捕まりながら問いかける。

 

「政宗さん! 気持ちはわかりますけど、これ以上無茶な事はしちゃダメですぅ!! もうすぐヴァイス陸曹のヘリが来ますから、それまでどうか堪えて―――」

 

リインが宥めながら心の中で天に祈った。

その時、激しいローター音を響かせながら、2人の目の前に颯爽とJF704式ヘリコプターが現れた。

 

《お待たせしました! お二人共! キャビンを開きながら、道のギリギリまで寄せるのでそのまま飛び乗ってください!》

 

「ヴァイス陸曹! 助かったですぅ! 本当に…否、マジで!!」

 

まさに地獄に仏と言わんばかりに現れたヴァイスの駆るヘリにリインは思わず、使い慣れない言葉を用いる程に感謝の念を示した。

勿論、その感謝の意味とは、追手の新型ガジェットよりも、政宗の破天荒なツーリングからやっと解放される事への感謝の念の方が圧倒的に大きかった。

 

だが、そんなリインを嘲笑うかのように、背後にいた新型ガジェット達が今度はヘリ目掛けて一斉にレーザーとミサイルを放って猛攻を開始した。

 

《うぉっ!? コイツはマズい! すみません! 一回離れます!!》

 

流石に背後から攻撃されたらひとたまりもない。

バイクの目の前まで降りてきていたヘリは、やむなく一度空に戻ってしまった。

 

「やっぱり、あの新型ガジェットを先に片付ける必要があるという事ですか…」

 

「チィッ! もうそんな悠長な事やってられねぇぞ!!」

 

政宗は憎憎しげに舌打ちしながら、思考を極限まで回転させる。

 

どうすればいい…?

 

考えろ…何かideaがあるはずだ…

 

一刻も早くなのは達の許へ向かう方法は……?

 

考えろ!

 

政宗が瞑っていた目を大きく見開いたその時…前方の遥か先…波止場の端の行き止まりの周辺にに綺麗に積み上げられた廃車でできた巨大な階段…

そこへ数十枚の板を繋げて渡した即席の踏切り台が、まるで空気を呼んだかのようにベストポジションで設置されていた。

 

あれだ!!

 

政宗の顔に不敵な笑みが戻った。

 

 

 

「ん?」

 

どうにか政宗達を拾う手立てを考えながら、地上を走るバイクを一瞥したヴァイスはふとあることに気づいた。

 

「あれ…? 独眼竜の旦那が乗ってるあのバイク……あれ…ひょっとして…俺のじゃね?」

 

政宗の乗っていたバイクはスパークや黒煙を上げ、外装は殆ど磨り減る…というよりはなにかの衝撃でふっ飛ばされたかのように全て消えて無くなり、見るからにボロボロに成り果てていたが、僅かに覗い知る事の出来るその車体のフォルムや自分流のアレンジを加えた事で出来上がったこだわり抜いた特徴的な改造箇所が自分の私物のバイクと一致していた。

 

「な、なんで……? なんで俺のバイクを独眼竜の旦那が…? っていうかなんでバイクがあんなにボロボロになってんだよ!? 一体何があったんだよ!?」

 

呟きながら、ヴァイスの顔から血の気が徐々に引いていく。

しまいには勝手に口から絶望に満ちた叫び声を上げていたのだった。

 

 

 

並走する形で飛行するヘリのコックピットでヴァイスが遂に“真実”を知ってしまった頃…

リインはもうすぐ道の終点へと差し掛かるというのに依然としてバイクの速度を落とさない政宗に悲鳴を上げていた。

 

「ひいいいいぃぃぃ!! 政宗さんんんんんんんん!!! こ、これは流石にダメですぅぅぅぅぅぅ!! いい加減に停まらないと本当にGo to Hellですよぉぉぉぉ!!」

 

「止まっても、追手のGadget共に捕まってGo to Hellだろが! 安心しろ! 手立てなら考えたぜ!!」

 

「いや、もう政宗さんの考える“手立て”とか“アイディア”とかはロクなものじゃないじゃないですかぁ!! それだったら、いっその事このままガジェットドローンに捕まる方がまだ命の保証はありそうな気がしますうぅぅぅぅ!!」

 

「お前、もう自分で自分が何言ってんのかわからなくなってんじゃねぇか?」

 

政宗が呆れながら突っ込んだ。

そこへ並走するヘリから、ヴァイスの混乱と焦りに満ちた声が通信を介してリインの耳と政宗のインカムにそれぞれ入ってきた。

 

《ちょ、ちょっとリイン空曹!? 独眼竜の旦那!? そ、そのバイクってもしかして俺の!? 俺のバイクですよね!? な、なんで!? どうして!? っていうかなんでそんなボロボロになってんの!? ちょっと! ちゃんと説明してくださいよ!!!》

 

「「Shut up! 今はそれどころじゃねぇ(です)!!」」

 

声を揃えて一蹴しながら、無理矢理念話と通信を断ち切る政宗とリイン。

気のせいか、ローター音で殆どの物音がかき消される筈のヘリのコックピットから「ちょっとおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」とヴァイスの悲痛な叫び声が聞こえた気がした。

 

「大体、政宗さん! ここからどうやってあんな空高くまで行くって言うんですか!? 政宗さんには飛行能力もないし、ましてや空に足場もあるわけがないんですよ!?」

 

すると政宗は「何を言ってるんだ? コイツは…」と言わんばかりに、平然とした表情で、リインの方を一瞥するとキッパリと宣言した。

 

「決まってんだろ!! このバイクごと“Fly up”するんだよ!!」

 

「へっ…? フライアップ…!?」

 

一瞬沈黙するリインだった。が、すぐに…

 

 

「……フライアップって…ま…まさか…………“飛ぶ”ううぅぅぅぅぅ!!?」

 

 

リインは風圧で逆立っていた髪をさらに逆立たてながら絶叫した。

 

 

「むむむむむむ無理ですよぉぉ!!! 政宗さん!! いくらなんでも無茶苦茶ですぅぅ!! やっぱりここはヴァイス陸曹に無理矢理にでもヘリを地表に付けてもらって拾ってもらう方が」

 

 

「時間がねぇんだ! もうそれしか手はねぇ!!それより振り落とされないようにしっかり捕まっておけよ? あそこから派手にDiveするぜ!!」

 

「ほぇ!?」

 

政宗の言葉に、リインは呆けた声を上げながら前方の波止場の端のジャンプ台を一瞥する。

ジャンプ台はおよそ10メートル程の大きさで、政宗達のバイクを待ち構えていた。

 

 

「いいいやああああああああああああああ!! リイン死にたくない! 死にたくないですうぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「心配すんな! 既に2回Jumpには成功したんだ! 今度も上手くいくだろうよ! ……Half and halfの確率で…」

 

「いや、ハーフ&ハーフって!? それ結局“五分五分”って意味じゃないですか! 嫌です!リインはここで降りて―――」

 

リインはとうとうリタイア宣言を上げ、バイクから逃げようとした。

が…

 

「Time up!」

 

リインの言葉が終わらないまま、政宗達の乗ったバイクはジャンプ台を一気に駆け上がって、そのまま空高く舞い上がった…

 

 

 

「Here we goooooooooooooooooooooo!!!!!」

 

 

「アンギャアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

 

 

「俺のバイクううううううぅぅぅぅぅぅッ!!!!!」

 

 

 

ジャンプ台から勢いよく飛び立ったバイクの座席の上に乗り、六爪を引き抜いて両手に構えた政宗の決めの叫び…

 

その懐で白目になったリインの恐怖の叫び…

 

そしてその様子をヘリのコックピットから見ていたヴァイスの絶望の叫び…

 

 

 

三者の叫びが暗い夜の海に反響する中、バイクは文字通り空高く『飛んだ』のであった。

 

 

 

 

「ギガント……ハンマァァーーーーー!!」

 

湾岸エリア上空の空域では、どうにか追加投入されたⅠ、Ⅱ型の編隊を全て撃滅したヴィータがビッグドロップを狙い積極的に攻撃を仕掛けていたが、ビックドロップはそれを上手く避けながら、まる挑発するかのように逃げ回りながら飛行していた。

 

「チッ! ムカつく飛び方しやがって!!」

 

ヴィータは顔を赤くしながらビッグドロップを追い、グラーフアイゼンを振るがその攻撃は思うように当たらない。

 

「おい、フェイト! こっちは、雑魚は全て片付けたぞ! 中の様子はどうなってんだ!? おい、返事しろよ!!」

 

ヴィータは念話で中にいるフェイトに呼びかけるが返答はない。

まさか…やられたのか? …と一瞬最悪な展開を予想しかけたものの、すぐにその邪念は振り払った。

大丈夫、あのフェイトがそう簡単にやられるはずがない……

 

そう仲間への信頼を胸に懐きながらも、同時にその仲間の窮地を前に、こんなところで敵に足止めされている自分自身の不甲斐なさに苛立ちを懐き、ヴィータは舌打ちをする。

 

その時、急に機体を旋回させてこちらに向かって来たビッグドロップが、ヴィータに向けて急接近させながら、先端に付いたモノアイ型のビームランプを彼女の顔に目掛けて発光させてきた。

 

「うわッ!?…しまった! 目が…!!」

 

間近で強烈な光を目の当たりにしてしまったヴィータは思わず動きを止めてしまう。

そんなヴィータに容赦なくビッグドロップは機体をそのまま体当たりさせて吹き飛ばす。

 

「うわぁっ!?」

 

思わぬ攻撃にヴィータが身体を二転、三転させながら吹き飛ばされるも、すぐに体勢を直し、その真下を通り過ぎていくビックドロップを睨みつけた。

 

「この卑怯野郎が!」

 

ヴィータがぶつけられた衝撃で痛む胸を押さえながら、ビッグドロップに向かって罵倒する。

そして、グラーフアイゼンの柄を握る力を更に強めながら、飛び去ろうとするビックドロップに向かって飛びかっていった。

 

 

 

暗がりの向こうから微かに聞こえてくる剣戟と聞き覚えのある声に、なのはの微睡んでいた意識は少しずつ覚醒していく。

 

どうにか瞼を動かせる状態にまでなってきた事を確認すると、無理矢理に目を開き、明かりがあまりに弱いので目をやられたものかと思ったが、すぐに暗がりに慣れ、自分が今いる場所は飛行機の機内のようなところであるとわかった。

そして、同じ機内の目の前で、自分の親友と、自分をこんな状態へと陥れた張本人が激しく剣を交えている事に気づく。

 

「フェイトちゃん!」

 

「ッ!? なのは! 気がついた!?」

 

なのはが今自分が出せる最大限のボリュームで声を張り上げると、それに反応したフェイトが一瞬こちらを向いて顔を輝かせる。

だが、そこへすかさず男…後藤又兵衛が巨大な三日月型の凶悪なフォルムの剣を横薙ぎで振りかぶって襲いかかり、彼女の顔から笑顔を消し去った。

 

「あれあれぇ~? お目覚めですかぁ? お姫様ぁ? ケ~ケッケッケッケッ!!」

 

「後藤又兵衛……」

 

なのはは、目の前に立つ自分が直接相対した武将の中でも最も凶暴な男を睨みつける。

だが、又兵衛は意識を取り戻したとはいえ囚われの身のなのはからの睨みなどとるに足らないと考えているのか、意にも介さないで、すぐに対峙するフェイトに視線を戻す。

 

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

フェイトはライオットセイバーを振りかぶりながら、姿を消した。

得意の光速移動ですれ違いざまに一閃に伏す戦法に打って出た様子だった。

 

だが又兵衛は、鼻をひくひくと蠢かせながら、キャビンの中を見渡す。

その光のない瞳はまるで獲物をじわじわと嬲り殺す獣のような実に陰湿な目つきであった。

そして、ギョロリと目玉をある方向に巡らせる。

 

「はい、そこぉ!!!」

 

そして、その場に奇刃を突き立てると、一見何もない筈の場所に向かって五本の指が爪の様に鋭利な籠手を振りかぶって、空気を斬り裂いた。

 

「うっ!? …ぐぅ!?」

 

「フェイトちゃん!?」

 

否、正確には姿も見えぬ速さで迫っていたフェイトのバリアジャケットの胸部を3つの爪が斬り裂いていた。

思わぬ迎撃で不意打ちを阻止されてしまったフェイトが呻き声を上げながら、その場に膝をつく。

黒いバリアジャケットは左肩から右の脇腹にかけて3本の線が走るように引き裂かれ、特に左肩辺りの傷は深かったのか、赤い血がバリアジャケットの裂け目からタラリと垂れ流れ出していた。

 

「ううっ……! まさか…ソニックムーブを見切る人間がいるだなんて…!」

 

「バァ~カ! 俺様はなぁ、ずっと下等な浪人としてガキの頃から地の底を這うような生活をしてきたんだ。力ある奴が力のねぇ奴から奪い、力のねぇ奴は奪われるのが当たり前な毎日! 時には虫なんて主食にしねぇとならねぇくらいにひもじい生活を過ごして生きてきた俺様は、とにかく生きて這い上がる為に何時しか獣並の五感を手に入れていたんだよ! こんな戦もねぇ産湯みてぇに生温い世界で温々と暮らしてた『兵隊ごっこ』のテメェら如きが敵うわけがないんですよぉ! ねぇ?」

 

又兵衛は再び引き抜いた奇刃をフェイトの喉に突き付けながら、勝ち誇るように言い放った。

 

「さぁて。それじゃあ、処刑執行…っといこうかね~~~~?」

 

又兵衛がゆっくりと奇刃を構え、膝を着いて苦しむフェイトの首に狙いを定める。

目を覚ましたなのはへの見せしめとして、彼女の見ている眼の前でフェイトを殺すつもりだ。

 

「や、やめて! お願い!!」

 

なのはが懇願するように叫んだ。

そんななのはの叫びを嘲笑うかのように、又兵衛は邪悪な笑みをなのはに向けて言い放った。

 

 

「やぁ~だ♪」

 

 

又兵衛が振りかぶった奇刃をフェイトの首に向かって容赦なく振り下ろそうとした。

その時だった……

 

 

 

「Here we goooooooooooooooooooooo!!!!!」

 

「「「ッッ!!!?」」」

 

 

 

突然遠くから政宗の声と彼の口癖と言える決め台詞が響いてくる。

それを聞いたなのはやフェイト、そして又兵衛さえも思わず動きを止めて辺りを見渡した。

 

「あ…あの声は…政宗さ――――ッ!!」

 

なのはが動揺しながら、辺りを見渡そうとしたその時、ガンッと何かがぶつかったような衝撃と同時に一瞬の浮遊感と共に機体が大きく傾斜した。

 

「なっ!? なんだこ―――ギャアッ!?」

 

「うぅっ…!?」

 

又兵衛は突然の事に、動揺しながら床を転がり落ちた末に壁に叩きつけられ、フェイトは咄嗟に近くにあったちぎれたコードに捕まる事でなんとか身を投げ出される事だけは避けられた。

なのははベルトアームで身体を拘束されていたのが幸いし、この衝撃を受けても投げ出されずに済んだ。

 

しかし、同時に一際身体で感じる事ができた。自分が乗せられているこの飛行機のような機体が、今の衝撃で制御を失い、落ち始めている事に―――

 

 

 

 

「Here we goooooooooooooooooooooo!!!!!」

 

「アンギャアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

 

 

「ッ!!?」

 

 

その時、外では依然として、悠々と飛び回っていたビッグドロップを相手に苦戦ししていたヴィータであったが、そこへ突然、それぞれ相反する叫び声が聞こえた事に、やはり動揺しながら目を周囲に巡らせていた。

 

そして見つけた。

海沿いの倉庫群の防波堤から一台のバイクがこちらに向かって飛びあがってきたのを……

 

もちろんそれを運転していたのは…

 

 

「Yaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaahaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

政宗であった。

 

「ま、政宗!? どうしてここに!? しかもリインまで!!」

 

政宗の予想もしなかったような派手な登場に驚かされながら、ヴィータは政宗の懐から顔をのぞかせながら、もう失神寸前の表情を浮かべているリインの姿を確認した。

 

そんなヴィータを他所に政宗は、バイクのシートの上に乗って六爪をすべて引き抜いて両手を広げて身構えながらバイクが落下し始めるタイミングを見計らいながら、後ろにあのしつこい新型のバイク型3台が自身の真似をしてジャンプ台から飛び上がって、ついてきている事を確認した。

そして、バイクの高度が下がり始めたと同時に…

 

「DRAGON BURST!!」

 

六爪を持った両手をプロペラの様に高速で回転させると、まるでジェット機のエンジンの様に加速がかかり、そのままバイクを目の前に飛行していたビックドロップの機体中央に目掛けてミサイルもかくやの勢いで突進させた。

 

「Yeah!!」

 

そして、バイクがビッグドロップの機腹に激突する寸前、政宗はバイクを蹴るように踏み切り、そのまま身体を回転させながら機体の上にジャンプを決めて着地する。

 

 

 

ドオオオオオオオオォォォォォォン!!!

 

 

 

 

直後、ビッグドロップの機腹に4台のバイクが次々と激突し、大爆発が起こった。

 

 

当然、その一部始終を見ていたJF704ヘリのコックピットでは…

 

 

「おいいいいぃぃぃぃぃぃ!!? なにさらっと俺のバイクで体当たり決めてんだよぉぉぉぉぉ!? 何だよこれ!? 何の嫌がらせ!? ってかなんでこうなったんだよぉぉ!? 誰かぁぁ! 説明プリィィーーーーズ!! あれ、いけね、なんか涙出てきたんだけどぉっ!?」

 

《………You have my sympathies Master(マスター。心中お察しします…)

 

目の前で敵飛行艇への特攻兵器に使われた挙げ句、クラナガンの夜を照らす一発の花火にされた愛車の末路を目の当たりにしたヴァイスが頭を抱えながら悲鳴を上げ、それを聞いたストームレイダーが思わず、同情の言葉を呟いていた。

 

っと、そんな会話が近くで滞空しているヘリで繰り広げられているのをつゆも知らぬヴィータは、只々唖然と爆発したビッグドロップがゆっくりと海上に向かって落ちていくのを見つめていた。

そこへ…

 

 

「ああああれえええええぇぇぇぇ!?……ほぶぇ!?」

 

 

政宗がビッグドロップの機上に飛び乗った拍子に懐から投げ出されたリインが、そのままヴィータの懐に勢いよく飛び込んできた。

 

「お、おい! リイン!! 大丈夫かよ!? リイン!?」

 

「な……なんろか…いきれますぅぅぅぅぅぅ……がくっ!」

 

目を回しながら呂律の回らない口で呟くリインだったが、ヴィータの手に抱かれた瞬間、安堵したのかそのまま気を失ってしまうのであった。

彼女の姿からここへ来るまでに相当な目に遭った事が想像できたが、今はそれについて詳しく詮索する時間はない。

ヴィータは一先ずリインを懐に入れて、安全を確保すると、急いで墜落していくビッグドロップを追って急降下した。

機上では政宗が顔に当たる部分に立ち、六爪で外装を切り剥がすと、中から数本のコードを引き抜き、まるで手綱のように握りしめた。

 

「海に堕ちるんじゃねぇぞ…堕ちるなら陸にしやがれ…」

 

「政宗! お前、なにやってんだよ?!」

 

落ちかけるガジェットドローンを暴れ馬の要領で制御しようとする政宗の隣に、追いついたヴィータが並走しながら声をかけた。

 

「見ればわかるだろ? コイツの中になのはが捕らえられてるんだろう? だったら海の藻屑になったらまずいだろうが!どこか陸地まで誘導してそこに堕とす!」

 

「んなっ!? そんな無茶苦茶なっ!? 今のバイクの特攻といい、お前やることがエキセントリック過ぎるだろうが!!」

 

「四の五の言ってんじゃねぇ! とにかくどこか人のいなくて、コイツを安全に墜落させそうな場所に誘導しろ!!」

 

「“安全に墜落”って…お前、自分が思いっきり矛盾した事言ってるの、わかってんのかよ…?」

 

どこまでも破天荒過ぎる政宗に呆れながらも、ヴィータは言われたとおり、ビッグドロップの前に出てくると、そのまま誘導し始めた。

ふと、ヴィータの前方に港の一角にある一部屋程の大きさもあるコンテナが幾つも整列して積み上げられたコンテナ置き場が目に入った。

あそこならそれなりの広さがあるし、それにこの時間だから人もいない。

 

ヴィータの先導で政宗は激しく揺れる機体をどうに制御しつつ、まっすぐコンテナ置き場へと突っ込んでいった。

あとは機体を安定させ、少しでも機内にいるであろうなのは達が被害を負う事がないようにすること。

 

「今だ、政宗! 中になのはやフェイトもいるんだ! 間違って機体ごとふっ飛ばしたりしたら承知しねぇぞ!!」

 

そう念を押しながら、ヴィータがサッと横に飛び退いた。

 

「止まれぇぇぇぇぇ!!」

 

黒煙の線を引きながら、ビッグドロップは積み上げられていたコンテナを薙ぎ払い、地表のアスファルトを激しく刳りながら、胴体着陸を決めた。

機体がボコボコとひしゃげ、両翼がへし折れ、外装が一枚二枚、コンテナの鉄片やアスファルトの石片と一緒に吹っ飛んでいく。

四方からの衝撃が政宗を猛烈に揺さぶる。

 

「Shit!」

 

遂に限界にきた政宗が後ろに向かってジャンプし、地面を滑っていくビッグドロップを見送りながら、激しく抉られた不時着跡の地表に降り立った。

直後、ビッグドロップの機体は広場の奥に一際高く積み上げられていたコンテナ群に突っ込み、まるでジェンガの如く轟音と砂塵を撒き散らしながら鉄の小山を打ち崩したのだった。

 

 

「なのは! フェイト!」

 

ようやく動きを止めたビッグドロップに向かって、政宗、そしてヴィータが駆け寄る。

砂塵が晴れ、政宗達の目に飛び込んできたのは崩れ落ちたコンテナの山の上に押しつぶすように乗りかかってぐちゃぐちゃの鉄の箱のような状態になったビッグづロップの残骸というべき有様だった。

 

「お、おい…まさかなのはもフェイトも……」

 

ヴィータが顔を青ざめながら呟きかけたその時…

 

「政宗さん! ヴィータちゃん!」

 

「…やっぱり、政宗さんだったんだね」

 

「…なのは! フェイト!」

 

残骸の中からフェイトに肩を貸してもらいながら、よろよろと歩き出てきたのは間違いなくなのはとフェイトだった。

2人共、顔や手に多少の擦り傷や打ち身があり、フェイトは肩から脇腹にかけて何かに引き裂かれたかのような3本の傷が走っていたが、特に大きな怪我を負っている様子はなかった。

2人の無事を確認してホッとしたのか、ヴィータの顔に安堵の笑みが浮かぶ。

 

「よかった。2人共、無事だったんだな?」

 

「うん。墜落の時に咄嗟にフェイトちゃんが私に駆け寄って防御結界を張ってくれたおかげで、怪我が最低限で済んだんだよ」

 

「そっか。それで、又兵衛(ストーカー野郎)は? 今の墜落で死んだのか?」

 

なのはから無事で済んだ経緯を聞いて納得しながら、すぐにヴィータは敵対していた敵の安否の是非を問う。

なのは達がそれに返答しようと口を開きかけたその時―――

 

「俺様はここだよぉ。バァ~~カ!!」

 

ヴィータの背後から低くネタリとした耳障りな男の声が聞こえた。

目を向けると、そこには砂塵や黒煤に塗れ、薄汚れた甲冑、陣羽織に身を包んだ後藤又兵衛が殺気を漲らせて立っていた。

なのはやフェイトと違って、防御結界の張れない又兵衛は墜落の衝撃で機内から投げ出されたものの、どうにか上手く着地して難を逃れた様子だった。

又兵衛は全身に付着した砂埃や黒煤を払いながら、手に持った愛刀の奇刃をぶらぶらと回しながら、ゆっくりと政宗に向かって進み出す。

 

「だぁ~~~てぇ~~~~まぁ~~~さぁ~~~むぅ~~~ねぇ~~~…テメェェ…よくも俺様の立身出世への大きな一歩を…邪魔しやがったなぁぁぁ…」

 

又兵衛の目には今までにない程に憎悪…そして殺意が宿っていた。

 

「お前はぁぁ…『死んでオレ様の足元に這い蹲って顔面踏み躙られの刑』だぁぁっ!!!!」

 

そして、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すかのような狂気の雄叫びを上げながら、又兵衛は蜥蜴の様に四つん這いになって、俊敏な動きを見せながら、あと一歩で上手くいくところを邪魔してくれた怨敵 政宗に向かって駆け出してくる。

 

「Ya! Ha!」

 

「ケッヒィィッ!!」

 

政宗の繰り出した六爪と又兵衛の持つ奇刃がぶつかり、組み合う。

 

「「政宗さん!!?」」

 

「政宗ッ!?」

 

声を張り上げながら、それぞれデバイスを手に取って参戦しようとしたなのは、フェイト、ヴィータに対し、政宗は組み合いながら呼び掛けた。

 

「Don't touch everyone! こんな性根の腐ったカマキリ野郎…俺1人で十分だ!」

 

「ク・キ・ケャァァァァッ!! だ、誰がカマキリだぁ!? お前、殺す! 殺す殺す殺す!! 絶っっ対に殺すううううううぅぅぅぅぅ!!!」

 

わざとらしく挑発的な物言いをした政宗にあっさり引っかかった又兵衛は、更に狂気的な雄叫びを上げながら、一度後ろに飛び退くと、再度蜥蜴のような動きで政宗の周りを縦横無尽に駆け回ると、政宗の首を目掛けて、奇刃を振りかぶる。

 

「Do it if you can! テメェみてぇな三下ごときに、この独眼竜の首がとれるもんならな!!」

 

それを六爪で弾きながら、政宗は不敵な叫びで応えた。

 




一部の読者の方に好評(?)な『ヴァイス悲惨(笑)』が遂にリブート版で本格的に発動しました!

オリジナル版を読み返してみたら、『潜伏侵略編』のラストまでヴァイスが登場していなかったのが、ちょっと唐突過ぎた感じがしたのでリブート版ではここで登場させて、一足早く『バイク災』を経験して貰う事にしましたw

っというわけで『潜伏侵略編』、そして3編に渡って続いた『ティアナ成長編』もあと1、2回で完結です。

果たして、家康達は大谷を、そして政宗達は又兵衛をそれぞれ打ち砕く事が出来るのか!?

次回もお楽しみに!
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