リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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西軍参謀 大谷吉継の仕掛けた『潜伏侵略』とそれに対し、隊舎と仲間を守らんとする家康ら機動六課との攻防戦もいよいよ佳境に入る。

風来坊・前田慶次の参戦という衝撃的な展開を迎えた隊舎前の大谷との戦い…

そして、なのはを救出した政宗は、狂気の武将 後藤又兵衛との戦いに挑む!

夢吉「キキキキ、キキキ、キキキィキッ! キキッキキキキキ! キッキキィ!」

リイン「り、『リリカルBASARA StrikerS 第三十五章 出陣』って言ってるですぅ」

ザフィーラ「……何故にその猿の言葉がわかるのだ…?」


第三十五章 ~罷り通る風来坊と、激突する“竜”と“蜥蜴”~

突然の『風来坊』前田慶次の介入に騒然となる家康達…

だが大谷は慶次の姿を見るなり、露骨に不快感を示すような口ぶりをみせた。

 

「何故、ぬしがここにおるのだ?…前田の風来坊」

 

「さぁってね…実をいうと俺もよくわからねぇんだよ。俺ぁ雑賀衆と一緒に行動を共にしてたはずなのに、いきなりこの世界に飛ばされてさぁ。仕方ねぇから情報収集も兼ねて、あちこちぶらついた末に、首都クラナガン(この街)にやってきたら、いきなり派手に花火起こして喧嘩やってるところに出くわして、駆けつけたと思ったらアンタらがいて…この騒ぎだったってわけ…」

 

「それで、あのような派手な口上と共に乱入…というわけか…しかし、それならばわれに手を貸してもらえると嬉しかったのにのぉ…」

 

大谷が皮肉のようにそう話すと、慶次は「ヘッ!」と一蹴する。

 

「生憎と、俺ぁ動けない女の子を一方的に甚振ろうとするような弱い者いじめに手を貸す悪趣味はないもんでね」

 

話しながら、慶次は背負った超刀を引き抜くと、振り返り際にはやての四肢を拘束していた珠をたったの一太刀だけで両断した。

そして、地面に崩れ落ちたはやての背後に周ると彼女の背中にポンポンと指先で軽く当て身を入れていく。

すると、今まで声さえもあげられなかったはやてが「うっ…」と呻いて身動ぎした。

 

「ぷはぁ! た、助かったぁ…。ちゃんと動けるし喋れる…なんやよくわからんけど、おおきにな!」

 

はやての顔に笑みが浮かんだ。青白く固まっていた頬にも再び血行が戻り始めた。だが、身体は未だ自由が効かないのか、立とうとしても足がおぼつかない様子を見せた。

 

「おっと! 無理しちゃいけねぇよ。ここは俺に任せて“べっぴんさん”は下がってなって」

 

「べ、“べっぴんさん”やって…ッ!?」

 

慶次がさり気なく溢した粋な褒め言葉に、思わず頬を赤らめてしまうはやて。

一方大谷は、慶次がはやての身体を自由にした技を見て微かに眉を寄せた。

 

「ほぅ…ぬしの様な風来坊が“点穴術(てんけつじゅつ)”を嗜んでいたとはの…」

 

『点穴術』―――

それは大陸伝来の武術の殺活術の一つである。

人間の身体には無数の“ツボ”と呼ばれる多種多様な効能を発揮させる箇所が存在する。

点穴とは目的に応じて、そのツボを指圧する事で様々な身体反応を促す。

一般的には臓器の不良箇所や病気の治療が主であるが、より高度な技術を持つ者は整体、接骨、緊急蘇生や、今のような特殊状態の解除などにも応用できるというわけである。

 

「ちょいと京の都にいた時に、酒飲み仲間だった鍼灸医の爺ちゃんから教えてもらったのさ。まさかこんなところで活かせるなんて思わなかったよ」

 

「……余計な真似を…元より、ぬしは西軍(われら)の討伐対象でもなかったが、これ以上邪魔をするのであれば仕方あるまい……」

 

そう言いながら、大谷は家康達と同じく硬直していた縛心兵達を一瞥し、手で印を作った。

 

「『放』!」

 

大谷が叫ぶと、固まっていた縛心兵達が一斉に動き出して踵を返すと、慶次とはやての周囲に集まってきた。

 

「おっと。コイツはまた辛気臭いお客が集まってきたねぇ…これじゃあ、他の連中を自由にしてやる暇はねぇよな? 家康! 悪ぃけどお前らは自力でなんとかしてくれよ?」

 

慶次は家康に向かってそう呼びかけながら、引き抜いていた超刀を両手に持ち、ゆっくりと身構える。

 

「べっぴんさん。ちょいと俺の背中から離れずにいなよ?」

 

「う…うん(また、“べっぴんさん”言うた!?)」

 

はやては恥じらいを顔に浮かべながら頷いた。

 

「それじゃあいくぜ……前田慶次!! 罷り通る!!」

 

慶次が言い放つと同時に、縛心兵達が刀や槍を構えながら慶次に襲い掛かってきた。

だが慶次は、余裕を浮かべながら地面をドッシリと踏み締めて超刀を振りかぶる。

 

「恋の華を……」

 

そして縛心兵達が自分の正面まで迫るのを見計らって…

 

「咲かせましょう!!」

 

一気に超刀を力任せに振るう。

すると、花びら混じりの小型竜巻が発生し、縛心兵の群れの先頭を走り迫っていた5人を纏めて吹き飛ばされた。

 

「続いて…推しの一手!!」

 

慶次はそのまま踵を返すと、更に迫っていた一団に向かって突進し、全員を空中へと吹き飛ばす。

 

「ほら、アンタも踊って踊ってぇぇ!!」

 

その空中に飛ばされた兵達に向けてバク宙しながら、強力な蹴りを放った。

 

一方、家康は慶次の登場という思わぬ展開を前に反射的に声を張り上げたのが功を奏したのか、ようやく動きの自由を取り戻していた。

縛心兵や大谷の意識が慶次に集中しているのを確認すると、早速行動に移す。

スバルらFWメンバーの許に駆け寄ると、4人の背中に軽く拳を打っていく。

慶次が使ったものとは少し毛色が異なるが、家康もまた点穴の心得があった為、金縛りの状態を解除するツボの位置は知っていた。

強張りが抜け、スバル達はそれぞれ大きく息を吐いた。

小十郎、幸村、佐助、シグナム、ザフィーラもそれぞれ金縛り状態から自力で脱していた。武術に精通している練達者達はそれぞれ独自のやり方で金縛りを解く方法を使った様子だった。

 

「な、何なんだ…あいつは……? なんて邪道な太刀筋だ…」

 

シグナムは、すっかり強張ったり、痺れが残る首や肩の筋肉をもみほぐしながら、奮闘する慶次の豪快な剣劇に唖然としていた。

 

それも無理もなかった。

突然乱入した謎の旅芸人のような風貌をした男が、等身大サイズのバカでかい刀を片手に縛心兵達相手に大暴れしているのだ。

あんな魔力のアシストも無しにあんな超巨大な刀をまるで手足のように操るなど、魔法世界を生きるシグナムの目にすら非常識としか写らなかった。

 

「前田の風来坊…アイツもこの世界に飛ばされていたというのか…」

 

「奴さん。確か雑賀衆と行動を共にしていたって情報があったけど…なんでまたここに来たのかねぇ?」

 

そんな彼女の傍で、小十郎と佐助は、慶次がこの世界に来ていた事に驚きを示していた。

 

「片倉、猿飛…アイツは一体何者だ?」

 

シグナムが2人に問いかけると、小十郎が説明する。

 

「あの男の名は“前田慶次”…日ノ本の中でも名だたる名門武家のひとつ『前田家』の跡継ぎ。見てくれは唯の風来坊だが、その実力は政宗様や真田、徳川達とも互角…」

 

「あの歌舞伎役者みたいなのがか? お前達の世界じゃ、変わり者しか武将になれない決まりでもあるのか?」

 

慶次の奇抜な格好からは想像もできない実力の高さを知り、シグナムは呆れ半分で皮肉を述べながら、ようやく身体が解れた事を確認してレヴァンティンを構え直した。

 

 

「そりゃそりゃそりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

慶次はデタラメな手つきで超刀を振り回して最後の一体の縛心兵を超刀の峰で打ち払いながら、大谷の方を一瞥した。

 

「一丁上がりぃ! なんだなんだ~? アンタの手駒随分あっけないんじゃねぇの?」

 

「フッ…左様な油断は死を招くぞ?」

 

大谷は忠告するように言いながら、地に倒れ伏した縛心兵達の方を指し示す。

その言葉に訝しげながら、慶次もその指し示す先に目をやると…

 

「あれれっ!?」

 

慶次の超刀の一撃に倒れ伏し、動けないでいた筈の縛心兵達はまるでダメージを負った様子など微塵も見せる事なく、再び立ち上がって刀や槍を構え始めていた。

 

「あらま。皆、随分粘るじゃねぇか。それになんだか…全員血の気がねぇというか…?」

 

これを見た慶次は、すぐに自分が相対しているのが普通の兵士ではない事を勘付く。

それと同時に、それまで気さくな笑みを浮かべていた顔から真剣な眼差しに切り替わり、超刀を構え直しながら、その元凶と察した大谷を睨みつける。

 

 

「慶次!」

 

「はやて部隊長!」

 

「主!」

 

そこへスバルとザフィーラを伴った家康が駆けつけてきた。

その周りでは幸村達が再び、縛心兵との交戦を再開しつつある。

 

「おっ! ちょうどいいところに! このべっぴんさんを安全な場所に連れて行ってやってくれねぇか? 金縛りは解いたとはいえ、直に食らったせいかまだ完全には身体が動かせない状態なんだ!」

 

「承知した! スバル! 主を我が背に!」

 

「う、うん!」

 

ザフィーラに促されたスバルは、はやてに肩を貸しながら、ザフィーラの背中に乗せた。

 

「スバル、おおきに。ザフィーラ、ごめんな。面倒かけて…」

 

「お気になさらず…一先ず隊舎に戻ってシャマルから治癒(ヒーリング)を…」

 

はやてを背に乗せたザフィーラはそのまま、サッと地面を蹴ると、隊舎の中へと向かい、戦場を離脱した。

ザフィーラを見送った慶次と家康は改めて、大谷と対峙する。

 

「さて、家康。 なんでまた、お前が日ノ本のお仲間引っ揃えてここにいるのか…? そもそも何がどうなっているのか…? 色々と聞きたい事はあるけど、まずはこの窮地を乗り切る為に久々に共闘…と洒落込もうか? 幸い、この戦場にはさっきのべっぴんさんや、そっちのお嬢ちゃんみたいな“華”も多いみたいだし…」

 

スバルの方を一瞥しながら慶次が言った。

 

(ず、随分、洒脱な事言う人だなぁ。家康さんや政宗さん達とまるでタイプが違う…)

 

スバルは慶次の言葉の意図を察してか、少し顔を赤面させながら目を反らした。

 

「慶次。ここにいる兵は皆、刑部の洗脳で無理矢理に兵士にされた民なんだ。しかも、ある特殊な術を施して、その根源を断たない限り、死ぬまで無理矢理何度でも立ち上がらせるという悪質な方法で…」

 

「!?…やっぱりそういう事だったのかい? わかっていたら、さっきの攻撃ももうちょっと手加減してやってたってのによぉ」

 

話している間にも縛心兵達が続々と3人の許に殺到する。

繰り出されてくる槍の穂先を払い、振り下ろされる刀を避けながらも、相手が洗脳された一般人とわかった以上、必要以上に攻勢に出るわけにはいかない。

 

「なんとか彼らの動きを止める方法はないのか!?」

 

超刀を上段に構え、複数人の縛心兵から繰り出される斬撃を受け止めながら慶次が尋ねた。

 

「独眼竜がどうにかしようとしている様子だったが、この様子だとまだ手は打てていないのかもしれないな…」

 

彼の背中に寄せるように後ろを固めた家康が両腕を交差させ、手甲で縛心兵の槍を食い止めながら呟くように答える。

その言葉の中に出てきたある単語に慶次の目が驚きで剥かれた。

 

「独眼竜!? 独眼竜もここにいるのか?」

 

「あぁ。ワシに独眼竜、片倉殿…それから理由(わけ)あって真田や猿飛も、今は東軍西軍の柵抜きに、この『機動六課』でそこなるスバル達魔導師の皆と一緒に戦っているわけだ!」

 

「魔導師…そういえば俺もこの世界に飛ばされてきてからその単語よく聞かされていたけど…なんだか色々と込み入った話になりそうだな!」

 

慶次は超刀を峰側に裏返してから、今度は少し加減しながら縛心兵達を打ち飛ばして話した。

 

「お前は何時こっちに!?」

 

ヘッドロックで固めた縛心兵の襟首に手刀を打ちながら家康が尋ねた。

 

「1ヶ月前だ! しばらくは行く宛もなくあちこち旅しながら、なんとか日ノ本に戻る方法を模索してはいたんだけど…ある時、旅先で馴染みになったヤツから「“時空管理局”に相談したらなんとかなるんじゃないか?」って言われてな。んで、この街…確か、“クラナガン”…だっけか? ここはその管理局とかいう組織のお膝元と聞くから、ここに行けば何か掴めると思ってな…」

 

「その途上で、この騒ぎを見かけて駆けつけたというわけか? お前というヤツは本当に悪運が良いというか…」

 

2、3人の縛心兵をフックで殴り飛ばしながら、家康は苦笑を浮かべた。

慶次は「ヘヘッ」と軽く笑い返しながら、超刀を大谷に向かって豪快に振り下ろした。

大谷は咄嗟に輿を横に逸らす事で斬撃をいなした。

 

「それで…大谷さんよぉ! アンタ達はこの世界で何しようとしているのさ? まさか、この一見平和そうなこの世界で関ヶ原の戦い(天下分け目の戦)の続きを再開…なんて抜かすつもりじゃねぇよな?」

 

「今は言えぬ…しかし、われらがこの世界で起こそうとしているのは、左様な了見の狭い事ではない…我らには更に大きな“目的”があるのだ」

 

大谷は輿の周りに新たな珠を展開しながら、家康を一瞥した。

 

「まさか、ぬしがこの世界で早くも徒党を組んだ事や、小早川秀秋(金吾)に続いて、真田幸村までもぬしに寝返った事は予想外ではあったが、われらの“目的”自体に大きな障りはない…だが、やはりぬしらに邪魔をされると迷惑なのでな…」

 

大谷はそう言って、手で合図を出すと、今しがた家康に殴られ倒れ伏した縛心兵達が無理矢理起き上がり、再び家康に飛び掛かってくる。

 

「くっ…許せ!」

 

その正体が洗脳された一般人とわかってはいたものの、彼らの動きを止める手立てがない家康は、無駄に彼らを傷つけるだけであるとわかっていながらも、やむなくその固い拳を振るう。

こうなればせめて、少しの間でも彼らを無力化させる事で、大谷に無理矢理に身体を操られる事を防ぐ事しか、出来る手立てはなかった。

 

ところが、その時―――

 

 

「ッ!?…はて? 如何したか?」

 

縛心兵を操っていた大谷が、家康に倒された1人の縛心兵を見て眉を顰める。

 

 

「……う…うぅ……こ、ここは………!?」

 

倒れた縛心兵は、ゆっくりと起き上がりながらも、家康達に反撃する事なく、辺りを見渡しながら狼狽えた様子を見せている。

見ると、周りに倒れていた何人かの縛心兵達にも同様の反応をする者が現れ始めていた。

その様子を見て、スバルと家康は何かを悟った表情を見せた。

 

「もしかして……縛心兵の洗脳が解け始めてる…?」

 

「っという事は…独眼竜が…なのは殿を救ったというのか…!?」

 

家康の言葉を聞いた大谷は、不愉快げに鼻を鳴らした。

 

「又兵衛め…どうやら、あ奴もしくじりおったか…依代の娘子を解放されたようだな……やはり流浪上がり風情に、あの任務はちと重すぎたようだな…」

 

自らの術が解除されたと悟りながらも、大谷は然程動揺した様子も見せていない。

その冷静な対応が、家康達に不穏な気配を悟らせた。

 

「再生の術は解けたとはいえ、縛心兵はまだ相当数残っておる。ならば…残る兵にさらなる力を注いでかかればよい事よ…」

 

大谷はそう言いながら、再び手で印を作り始めた。

 

「雑兵共に眠る不幸よ…その妖しき輝きに灯りを灯し、狂気となりて、ぬしらにさらなる力を与えよ…そして、天に輝き、全てに破滅を呼ぶ黒き星となれ!!」

 

家康達は知る由もなかったが、大谷はティアナを一時的に狂戦士に換えた術と同じ呪文を唱えていく。

 

「“覚醒めろ死兆”!!」

 

そして強く言い放つと、縛心兵達に赤黒いオーラが纏わりついた。

すると、縛心兵達は一斉に動きを止め、一度頭を垂れた後…

 

 

「「「「「ウガアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!」」」」」

 

 

「「「!?」」」

 

突然、獣の如き咆哮を上げた縛心兵達に家康達は思わず戦慄する。

特にスバルの脳裏には、昼間の忌まわしい出来事がフラッシュバックを起こすような感覚を覚えた。

 

「これって…ティアがおかしくなったあの妖術!?」

 

「左様…この兵達にも、昼間ティアナ・ランスター(かの小娘)に施した“恐惶”の術を施しておいた。ヒヒヒッ! 何時見ても狂える傀儡共の叫びは聞き心地の良い音色とは思わぬか?」

 

不気味さと憎たらしさを交えた笑みをこぼしながら話す大谷の言葉は、少し離れた場所で、幸村、佐助と共に縛心兵達と対峙していたティアナの耳にも届いていた。

 

「思い出したくもないものを……本当に“豊臣”ってロクなヤツがいないわね!」

 

「まぁ、幹部全員が腐ってるわけじゃないんだけどさ…あの大谷って野郎は性格の捻じれ具合が特に半端ないヤツだからさ」

 

強化された縛心兵の斬撃を避けながら、非殺傷設定の魔力弾を撃ちつつ、改めて大谷を毒づくティアナと背中を合わせながら、大手裏剣で繰り出されてきた槍を受け止めながら、諭すように皮肉を吐くのだった。

 

「皆!逃げろ!!」

 

「一先ず、隊舎の中に避難して下さい!!」

 

家康とスバルが、先に自我に返った縛心兵にされていた人達に呼びかけると、彼らの声に押される様に、皆我先へと隊舎の中に向かって走り出していく。

幸いにも狂化した縛心兵は、洗脳が解けた仲間には興味を抱かず、家康達六課に向かって集中的に迫ってくる。

 

 

大谷が縛心兵を狂化させた事で、戦いは更に混沌を極める事となった。

 

エリオ、キャロは洗脳が解けた人達を守りながらそれぞれ戦うものの、突然、狂ったような叫びを上げながら、力も速さも倍増しになった縛心兵に戸惑い、恐怖心も加わったせいか、若干押され気味となり、すかさずエリオには幸村が、キャロには小十郎がそれぞれ近くについてフォローに立ったが、それでも狂える雑兵達の猛撃は勢いが収まらない。

 

今現在、この場で唯一の空戦魔導師であるシグナムは、地表から少し放た場所に上昇し、シュランゲフォルムにしたレヴァンティンで地表にいる敵を一気に薙ぎ払う戦法に出ようとしたが、縛心兵の中には何人か弓矢を携えた者もいるのか、次々と飛来する矢を前に滞空しあぐねている様子であった。

 

「さぁ、この終わりなき狂兵達の猛攻…ぬしらがいつまで抗え続けるか見物よのぅ…」

 

縛心兵の叫びと、激しい剣戟の音が響く戦場の真ん中で、大谷はこの修羅場を心から楽しむかのように愉悦の声質で呟くのだった。

 

 

 

 

又兵衛の奇刃を間一髪でいなしながら、政宗は皮肉めいた口調で言い放った。

 

「ハッ! 魔導師でもねぇくせにあれだけ派手な墜落から無傷で生還たぁ。テメェもしぶとさだけは一人前みたいだな!」

 

「あの、さぁ…さっきから何ぃ調子こいちゃってんですかぁ! オマエェ!?」

 

又兵衛が吠えながら、手に持った奇刃をぶん投げる。

まるで巨大なブーメランの様に大きく軌道を描きながら、奇刃は唸りを上げて旋回しながら、政宗へ向かって走る。

 

「Deadly!」

 

政宗は片手に持った三刀で、迫ってきた奇刃を押しのけるようにして弾き飛ばす。

 

「はい! 死んだぁっ!!」

 

そこへ、又兵衛が鋭い爪を持った籠手を突き出して飛びかかってきた。

ビッグドロップの機内でフェイトに手傷を負わせたのと同じ攻撃を政宗の顔に目掛けて放ってくる。

 

「危ない!!」

 

背後で見守っていたなのはの叫ぶ声が聞こえた。

ところが、政宗は慌てることなく、片手の三刀を峰側に返した状態で振り上げ、飛びかかってきた又兵衛を一撃で跳ね返したのだった。

 

「ぐはっ!?」

 

吹き飛ばされた又兵衛だったが、空中で一回転しながら、同じく政宗に弾かれて回転しながら戻ってきた奇刃を空中でキャッチしてみせた。

そして、今度は奇刃を持った体勢のまま身体を前転させ、独楽の様に高速で回り、風を切りながら、政宗の許へと迫る。

返り討ちを決めたと思いきや、思わぬ反撃に政宗が思わず顔を顰める。

政宗は十字に構えた六爪の腹で回転斬りを受け止めるも、その全身を使った攻撃の重さに「ぐっ…」と歯を食いしばった。

 

「その首…唯では取らせねぇ…ってか? 浪人上がりってのは、本当にHungry精神が並外れてやがる…」

 

「…そぉだよぉ。だからさぁ…ここで手柄を上げて、成り上がってやるんだよぉっ!! オマエの首を引き換えにしてなあぁっ!!!」

 

又兵衛の赤く血走った目が一瞬光ったかと思いきや、次の瞬間には地を蹴り、政宗の目の前まで距離を詰め、息を吐かせる暇もない程の猛攻を仕掛けてきた。

その狂気を帯びた乱撃に政宗でさえも思わず防戦一方となる程の勢いである。

 

「お、おい! なんかやべぇんじゃねぇか!? 政宗が押されてるぞ!!」

 

ヴィータが焦りを顕にしながら叫ぶ。

なのはは反射的にレイジングハートを又兵衛に向けて構えた。

今の自分はリミッターがかかっている上に、今しがたまで新型ガジェットドローンの特殊な装置に拘束され、その限られた魔力も大部分が吸収されていたせいか、無理に参戦しようとしても、せいぜい“アクセルシューター”一発分くらいが限度であろう。

それでも、なのはは目の前で劣勢寄りに陥る政宗を前に黙って見ていられずにいた。

 

「死ねぇ!」

 

「ぐぅっ…! X-BOLT!!」

 

奇刃をまるでブーメランの様に円形に回転させながら、猛烈な勢いで押してくる又兵衛に、政宗は顔を歪めながら、一瞬の隙をついて六爪をXの字に振り払い、目の前に迫っていた又兵衛を無理矢理に宙に打ち上げた。

だが、又兵衛は空中で崩れた体勢を立て直し、政宗と向かい合うように着地する。

 

すると又兵衛は、徐ろに奇刃を片手に掲げてみせた。

 

「かぁぁくれぇんぼしぃましょぉ~。狩ぁるのはどぉちらぁっ!?」

 

妙な事を言いながら、又兵衛は掲げた奇刃を地面に突き立てると、その周りをぐるぐる回り始めた。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

すると、又兵衛の足元から黒い煙が立ち込め始めた。

摩擦熱で火を起きたのかと政宗達はそう思ったが、それにしては立ち込めた煙には煤臭くなく、代わりに煙幕特有の人工的な不快な香りがした。

やがて半壊状態のコンテナ置き場は黒煙に包まれ、視界が奪われてしまった。

数メートル先も見えない。

 

「政宗さん!?」

 

「気をつけろ! そっちに行くかもしれ―――ッ!」

 

「ケッヒィィィィィィィィッ!!」

 

黒煙のどこからか聞こえてくるなのはの声に対し、政宗は注意を促そうとしたが、最後までいう前に、黒煙を切り裂くようにして又兵衛が奇刃を回転させながら飛びかかってきた。

政宗はすかさず六爪を構えるが、その隙に又兵衛は政宗の目の前まで近づいていた。

 

「バラバラだぁぁっ!!」

 

ガキィィィン!

 

「…くっ!?」

 

叫び声を上げ、又兵衛が十八番といえる全身を使った回転斬りを繰り出してくる。政宗は六爪を振り上げて、なんとか弾き返したがその反動で身体がわずかだがよろけてしまう。

 

(コイツ……こんな奇怪なDesignの剣…よくここまで自分の手足みてぇに使いこなしてやがるな…!!)

 

第一撃はなんとか防いだが、すかさず又兵衛は姿勢を正し、第二撃を繰り出してきた。今度は奇刃を回転させながらの横薙ぎだった。

それには反撃の隙がなかったため地面に倒れることで躱したが、地面に横になった事で、政宗は素早い動きが出来なくなる。

 

又兵衛は地面に仰向けに倒れている政宗に飛びかかると、奇刃を政宗の首目掛けて振り下ろした。

 

「死ねやぁっ!! だぁてぇ、むぅあさむねええぇぇぇぇっ!!」

 

奇刃が自分目掛けて振り下ろされるのが、スローモーションで見えた。

身体を起こす暇もなければ、ここまで近づかれては、今更六爪を振り上げても防ぎきれるかわからない。

 

「……Shit!」

 

政宗も又兵衛の実力を少々見くびり過ぎていたと僅かに後悔した。

その瞬間だった。

 

「“アクセルシューター”!」

 

「…ガァッ!?」

 

唐突に横から一発のピンク色の魔力弾が飛来し、政宗の首を斬り落とそうとしていた又兵衛の手から、奇刃を撃ち弾いたのだった。

 

「な…にぃ…っ!?」

 

又兵衛が驚愕し魔力弾が撃ち放たれた方を振り向くと、黒煙が振り払われたそこにはフェイトの無傷の方の肩を借りながらレイジングハートを構えて立つなのはの姿があった。

一瞬の出来事に、政宗ですら呆気にとられてしまっている。

 

「私だけ助けられてばかりじゃ……いけないよね……!?」

 

唯でさえ、魔力の大部分を吸収されていた中で、一発だけながらも無理に魔力弾を放った反動が身体に起きたのか、なのはは弱々しい笑顔を政宗に向けながらも、たちまち足元がおぼつかなくなり、その場に崩れ落ちそうになって、慌ててヴィータに支えられる。

 

「ちょ!? なのは! オマエ、なにやってんだよ! そんな身体で無理すんじゃねぇぞ!!」

 

「そうだよ! 唯でさえ、かなり魔力を喪失している状態なのに、射撃魔法なんて使ったら…!!?」

 

「えへへ……ご…ごめん。ヴィータちゃん、フェイトちゃん…」

 

両脇からそれぞれ窘めてくるヴィータとフェイトに対し、なのはは弱々しく笑顔を浮かべながら謝った。

 

「この(アマ)があぁぁッ!! なぁに、俺様の邪魔してくれてんだぁよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

あとすこしで政宗を仕留められるところだったのを邪魔された事が相当に癇に障ったのか、又兵衛が吠えながら、四つん這いに駆け出して、3人の方へと迫ってくる。

奇刃を弾かれて丸腰であるためか、その動きはさらに俊敏になっていた。

 

咄嗟にフェイトとヴィータがなのはを守ろうと立ちふさがるが、又兵衛が両手の爪を振り払うと、その衝撃波で2人の体が木の葉のように宙を舞い、それぞれ近くにあったコンテナに叩きつけられる。

 

「フェイトちゃん!? ヴィータちゃん!?」

 

「ク・ケ、ヒイィィィィィィアァァァァ!!」

 

「ッ!?」

 

2人に呼びかけようとしたなのはに又兵衛が飛びかかっていく。

その拍子に彼女の手からレイジングハートが離れ、ガランと音を立てながら地面に落ちてしまう。

なんとかレイジングハートを拾おうと手を伸ばそうとしたなのはだったが、又兵衛は躊躇うことなくその細く柔らかい首を両手でがっしりと掴み、締め上げながら、背後にあったビッグドロップの残骸の大きな鉄板に身体を押し付ける形で叩きつけ、持ち上げた。

 

互いの顔が接近し、又兵衛は苦悶に歪むなのはの顔を狂気と殺意に満ちた目で睨みつけた。

 

「おまえさぁ…木偶の分際で、なぁに調子こいてんだぁよぉぉ…? このまま、『首根っこ引きちぎって、目ン玉抉り取って、鼻と耳と唇削いで、百舌の早贄みたく全部まとめで木の枝にぶっ刺しの刑』にすっぞおぉぉ!!」

 

「うっ……ぐぐっ……」

 

立つ地面を失ったなのはが苦しそうに足をジタバタと動かす、

又兵衛の籠手の鋭利な指がなのはの首に僅かに食い込み始め、血が少したれ始めている。

そのまま締め続けたら、頸動脈を傷つけて致命傷さえも与えかねない。

 

「な…なの……は……!」

 

自身も先程の戦いの負傷も残った身体で、しかもコンテナに叩きつけられた痛みが身体に残りながらも、どうにかフェイトやヴィータは地面を張って、親友を助けようと必死に足掻く。

 

だが、それよりも早く動いた者がいた…

 

「STORM RUN!!」

 

突然、蒼い閃風が2人の前を駆け抜けた。

そして、なのはの首を締め上げていた又兵衛の真横へと迫ると、蒼い閃風の正体…政宗は又兵衛以上に鋭利に伸びた3本の爪を振り上げ、又兵衛の身体を空高く打ち飛ばす形で、その手を離させた。

 

「ッ!? グハッ!?」

 

「……ゲホッ! ゴホッ!…ま、政宗さ……!」

 

なのはを庇うようにして六爪を構えながら、上空に弾かれた又兵衛に向かって、鋭い隻眼の眼光をぶつける。

又兵衛の度を越した凶行に対する怒りの象徴か、その全身には青白い電流を走らせていた。

 

「Small Me! 下衆な愚行もいい加減にしやがれ! 後藤“何兵衛”!」

 

「だ…だから、俺様の名は、“又兵衛”だって――――ガハッッ!!?」

 

又兵衛が反論する間もなく、政宗は地面を蹴って宙に向けて飛び上がると、次の瞬間には又兵衛の目の前にまで飛び迫っており、そのまま六爪を使った慈悲のない斬撃で、一気に地上に向かって打ち落とした。

 

「政宗! 手ぇ貸すぜ!」

 

3人の中で一番手傷が少ないヴィータが、この隙に立ち上がって体勢を整えると、グラーフアイゼンを振りかぶりながら、落下してくる又兵衛に向かって地面を蹴る。

 

「ギガント……」

 

カートリッジをリロードさせながら、又兵衛の落下してくる地点を見計らい、そしてその真下にきたところで、力いっぱいに横薙ぎに振るう。

 

「ハンマアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

「グオベェブァァッ!!?」

 

振り落とされた等身大の鉄槌が落ちてきた又兵衛の背中にクリティカルヒットする又兵衛は血の混じった胃液を吐きながら、そのままホームランボールの如く、再び空高く打ち上げられた。

 

「失せなッ!!」

 

だが、打ち上げられた又兵衛の身体が最高高度に達した時、落下軌道に入る前に飛び迫ってきた政宗が六爪で又兵衛を乱斬りし、さらなる追い打ちをかけた。

 

「THE ENDだ! 歯ぁ食いしばれよっ!!!」

 

政宗はそう言うと六爪を又兵衛に向けて構え、そして青白い稲妻を6本の剣先すべてに溜め込んだ。

 

「HELL END……DRAGON!!!」

 

そして六爪全ての剣先を又兵衛に向かって構えながら、巨大な龍の形をした電撃を放った。

 

「ッ!? ひいぃぃっ!?」

 

又兵衛は自分に向かって飛んでくる雷できた龍を見て、目を見開き驚愕する。

そしてどうにか防ごうとするも、丸腰の状態であったが故にどうする事もできなかった。

そして蒼白い閃光が又兵衛の全身を包む形で海上の夜空を駆け抜けていった。

 

「ッ!? バ…カ……なぁ…あぁッ!?」

 

龍が通った後には、黒焦げになった又兵衛が信じられないと言わんばかりな面持ちで呟きながら、そのまま重力に任せて地上へと落下していく。

そのままコンテナ置き場に残っていた数少ない無傷だったコンテナに激突し、グシャグシャに押し潰してしまった。

 

確かな手応えを感じた政宗は六爪をゆっくりと下ろした。

だが、すぐに潰れたコンテナの中から、ボロボロの状態のまま又兵衛が転がり出てきた。

見るからに重傷を負った様子であったが、尚も執念だけで生を繋ぎ止めているのか、又兵衛は深手の身体を押して、無理矢理に立ち上がると、憎悪と殺意に満ちた瞳で政宗を睨みつけた。

そして、ブツブツとなにかを呟き始めた。

 

「あ…ありえねぇ…ありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇあぁぁりぃぃぃえねぇぇぇぇぇぇッ!! この俺様が! 豊臣の誉れ高き“二兵衛”の片割れ…後藤又兵衛様がああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「What’s? 二兵衛って言や、竹中半兵衛と黒田官兵衛だろうが? アンタ、自分の言ってることが支離滅裂になっている事がわかってねぇのか?」

 

半ば発狂同然の叫びを上げる又兵衛に、口ではシニカルに吐き捨てながらも、僅かに哀れみを覚えながら、政宗は六爪を突き出すようにして構え、又兵衛に近づいていく。

だが又兵衛はそんな政宗の言葉に過剰に反応し、さらに荒んだ口調で叫び、喚く。

 

「黙れぇぇぇっ!!? どいつもこいつも俺様をコケにしやがって!! 伊達ぇぇぇっ!!お前と、そこの白服の女はぁ! 現時刻をもって、又兵衛閻魔帳第一位、第二位にそれぞれ繰り上げだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

叫びながら又兵衛は懐に手を入れ、そこから煙玉を投げると彼の周囲が白煙に包まれる。

 

「Shit!?」

 

政宗はまた煙幕に紛れての奇襲かとも考え、身構えたが、今度の煙幕は又兵衛の周囲だけを覆い隠す小規模なものであった。

その為、それが逃亡用の目眩ましと気づいた政宗は急いで、煙幕の許に駆け寄り六爪で煙を払うが、既に又兵衛の姿はどこにもなかった。

すると、何処からともなくエコーのかかった又兵衛の声が聞こえてくる。

 

 

《俺様の、名を、顔をぉ…よぉく、覚えとけぇ…いつか必ず…今日のこの屈辱…倍にして返してやっからなぁ……伊達…政宗えええええええぇぇぇぇッ!!!》

 

 

又兵衛の残した呪詛の如き叫びが戦いの終わったコンテナ置き場に不気味に反響した。

 

「………トドメは刺しそこねたか…」

 

政宗は小さく舌を打ちながら、六爪をゆっくりと鞘に戻すと、思い出したように後ろを振り返る。

すると、丁度そこへヴィータとフェイトに肩を貸してもらいながら近づいてくるなのはの姿が見えた。

魔力の消耗と首には又兵衛が締め付けた跡と爪痕が残っていたが、それ以外は特に大きな怪我を負った様子もなかった。

 

政宗がフッと笑みを浮かべると、なのはもまた「えへへ」と照れくさそうに笑みを返すのであった。

 

 

 

残る最後の戦いが繰り広げられている機動六課隊舎前もまた、いよいよその戦況も大詰めを迎えようとしていた。

政宗がなのはを救出した事により、術の源となる魔力炉を破壊した事で、倒した縛心兵は皆、次々と術から解放されるようになり、これにより兵の数は半数近くに減らす事ができた。

しかし、それでも尚も100人近くの縛心兵…それも人為的に狂化された兵達が家康達の周りには残っている。

さらに大谷は兵が少なくなっている事を悟ると、突然、兵達に合図を送り、それを受けた縛心兵の残存勢力はこれまでの無考慮な攻撃から、突然、大谷を中心に斜め横に整列する様な配陣を組み直し、家康達…そしてその後ろにある隊舎へと迫る。

 

「これぞ“鶴翼の陣”…かの大陸の稀代の軍師 諸葛亮孔明が発案した包囲撲滅を想定した城攻めにうってつけの陣よ…」

 

「いよいよ、打って出る気だな…刑部。そっちがその気なら…ワシらも全力で迎えるまで!」

 

「いよっしゃあ! 気合い入れてかかるぜ!」

 

迫りくる狂兵に向け、家康達は分かれて突撃する。

大谷が率いる正面の兵達は家康、スバル、慶次の3人が向かった――

 

「うおおおおりゃああああ!!」

 

慶次は超刀と鞘を組み合わせて『朱槍』と呼ばれる武器に変化させ、それを気合の掛け声と共に軽々と持ち上げてみせた。

 

「焦がれてみせましょ、命のままに! それが茨の道とても!」

 

慶次は朱槍を豪快に振り回しながら、兵達に向かっていき…

 

「そりゃそりゃそりゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

次々と縛心兵達を空へと打ち飛ばしていく。

 

「これで…勝鬨だぁ!!!」

 

そして、慶次が最後に大きななぎ払いをすると、桜の花びらの混じった突風が吹き荒れて、複数人の縛心兵達が一気に空高く巻き上げられた。

 

「虎牙玄天!!」

 

「蒼天真打!!」

 

家康、スバルの鋭い拳が風を切り裂き、十数人もの縛心兵をその衝撃波だけで吹き飛ばしていく。

 

 

小十郎、シグナム、エリオ、キャロの4人は陣形の左側を攻めにかかった。

 

「いいか! 狂化されたとはいえ間違っても斬るんじゃねぇ! 峰打ちで止めろ」

 

「術が切れた以上、気絶させるだけでいい! とにかく、兵を減らす事に集中しろ!!」

 

「「はい!」」

 

それぞれ黒龍とレヴァンティンを峰側に返した状態で、次々と縛心兵を峰打ちで倒していく小十郎、シグナムのアドバイスを受けながら、エリオとキャロの二人もそれぞれ傷つけないように気をつけながら、ストラーダと刀を振るい、敵の陣形を少しずつ切り崩していった。

 

 

反対側には幸村、ティアナ、佐助の3人の姿があった。

 

「アルテマシュート!」

 

ティアナは先程の上杉景勝との戦いで、咄嗟に思いついた新技に『アルテマシュート』と命名し、早速それをこの実戦で応用するとその効果を遺憾なく発揮し、群がるように迫ってきた縛心兵を次々の魔弾の雨の餌食にし、無力化していく。

 

「大した技手に入れられてよかったじゃねぇか! これも誰かさんのおかげ?」

 

「そうね…あの景勝って奴にはちょっとは感謝しないといけないかもしれないわね」

 

「あっ……そっち……?」

 

佐助はそんな軽口を交わしながらも、大手裏剣を振るう手に少しも手抜きはしない。

そんな彼の目の前で幸村が燃え上がる二槍を激しく振り回す。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 熱血うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

「た、大将!! 前ばっか見てないで、後ろもちゃんと気ぃ配る!!」

 

猪突猛進気味に敵を槍で払う幸村に迫った縛心兵を、佐助が慌てて大手裏剣で殴り飛ばした。

 

 

芳しくない戦況を前に、大谷はやれやれと頭を振った。

 

「……やはり、狂化したとはいえど、素体が弱ければあまり意味はない……か……」

 

ダメ押しに鶴翼の陣で一気に押し進めようと図ったものの、やはり六課側の士気を崩すまでには至らない様子だった。

そればかりか、縛心兵達は誰1人として敵将を討ち果たせていない。

次々に倒れては気絶するか、洗脳が解けて、逃げ出すかどちらかであった。

 

「刑部。後藤がやられた…今回の戦…どうやら、わちき達の“負け”みたいだね」

 

不意に大谷の背後に、花魁のような派手な着物を身に纏った女 皎月院が現れる。

皎月院はいつもの着物の上に淡紫色に不気味な呪文の様な漢文が記された羽衣を纏っている。

家康達は突然現れた彼女の姿に気づいている様子はない。

この特殊な術のかかった羽衣を身に纏った事で、大谷以外の者に彼女の姿は見えない仕様になっている様子だった。

大谷は小さく溜息をついき、諦めた様子でうなずいた。

 

「どうやらそのようだな…やれ、つくづく悪運の強い男達よのぅ…徳川達も…」

 

「後藤は既に回収した。これから隙をついて、左近も回収しにかかるよ。…ジャスティはどうすんだい? このまま本陣に連れて行くつもりかい?」

 

皎月院の問いに、大谷は鼻で笑いながら一蹴した。

 

「端から奴はここで切り捨てる…『所詮は此度の策を成就させる為に利用しただけの使い捨て』…この策を考案した時に、そうわれに申しておったのはお主であろう? うたよ…ぬしの思うがままに…」

 

大谷の意地の悪い笑みに対し、皎月院はニヤリと笑い返した。

 

「任せな。ただ殺すだけじゃ面白くはないからね…少し“洒落”を効かせておくよ」

 

「それと…左近と又兵衛によう伝えよ。『此度の失態について、ぬしらにはそれぞれ相応の処罰を加える』とな」

 

「それはそれは、恐ろしい事で……ご愁傷様だねぇ。あの二人も…っと軽口叩いている暇はなさそうだ。それじゃ、わちきは左近を回収しておくよ…」

 

「あい、わかった…」

 

皎月院の気配が背後から消えると同時に、バタリと人が倒れる音がした…

大谷の近習についていた最後の縛心兵の1人が家康の手刀によって気絶したのだった。

 

「刑部…お前の手勢もこれで全員制圧した。諦めるんだな」

 

気がつくと大谷の乗った輿の周囲には取り囲むようにして、激戦を戦い抜いた武将と魔導師達がそれぞれ武器とデバイスを手に立ちはだかっていた。

 

「いやはや……ぬしの強運には恐れ入ったぞ。徳川よ。どうやら、今宵はここまでのようだな…」

 

「待て! このまま我らが素直に貴様を逃がすとでも思うのか?」

 

威圧感に満ちたシグナムの声にも、たじろぐこと無く大谷は「ヒヒヒ」と嘲笑った。

 

「生憎と…我も素直に捕まるつもりはないのでな」

 

そういうと大谷は、珠を輿の周りに展開し、高速回転させ始めた。

 

「此度は“負け”を認めよう。だが覚えておくがよい…われらの計画は既に動き始めておる…ぬしらが“真実”を知る時…それは東軍(徳川とそれに与し偽善の将達)にとっても、ミッドチルダ(この世界)にとっても……“破滅”への歩みを踏み出す時であると…その破滅を前にした時、ぬしらの安い“絆”など無力であると…そう覚悟しておれ」

 

そう言い終えた瞬間、大谷の周囲を光の柱が覆う。

そしてその光が消えた時、大谷の姿はもう無かった。

 

 

長かった隊舎の攻防戦が、ようやく終わったのだ――――

 




本当は、この話で帰投後の様子と残るエピローグまで入れようと思ったのですが、それも含めると膨大な文字数になってしまうので、結局今回は又兵衛戦、大谷戦の終結までで終わる事にしました。

又兵衛はオリジナル版よりは強敵感を強調してみましたが、自分で言うのもあれですが、やっぱりどこか小物な一面は自分が考えたオリジナル版のオリキャラVer.又兵衛そっくりというか……自分でも未だにこんな偶然てあるものだなと、驚くばかりです。

さて、今まで感想コメントでも幾つか上がっていた政宗の此度のカーチェイスによって生じた街の被害の合計は……次回明らかになるのでお楽しみに!
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