リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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機動六課隊舎を巡る熾烈な攻防戦はようやく終わりを告げた。

隊舎を守りきった家康達は新たな武将 前田慶次を加え、これからの事について話し合う。

そして、此度の一件で様々な成長を遂げたティアナは………

かすが「リリカルBASARA StrikerS 第三十六章 出陣だ」

謙信「かすが。すこしかたすぎるかとおもいます。ここはもうすこしやわらかくもうしたほうが、あなたらしくてよいですよ」

かすが「ッ!? はいっっ!! あぁ…謙信様ぁぁぁぁ!!!///」


アギト「………あの金髪、ルールーに声似てるけどキャラは全然違うな…」

ルーテシア「でも…『vivid』の私なら…」

アギト「? なんか言った?」

ルーテシア「うぅん……なんでもない…」


第三十六章 ~ティアナの再出発 攻防戦の終結~

戦いが終わった機動六課隊舎とその周辺は、応援にかけつけた交代部隊や陸士隊の公用車や、洗脳から解放された縛心兵にされた罪なき人達を搬送する為の救急車が集まり、現場検証を行う鑑識班や執務官などで一時は騒然となっていた。

 

隊舎の周辺は激しい激戦を物語るかのようにあちこちで地表がボロボロに抉られたり、木や電柱が倒れるなどしていたが、家康達の奮闘のおかげで隊舎の建物自体に大きな損失はなく、隊舎に駐屯していたスタッフからの死者・負傷者も1人も出さずに済んだ。

 

唯一、今回の事件で西軍の内通者である事が発覚した機動六課 通信主任 ジャスティ・ウェイツによって破壊された隊舎の動力炉も、応援部隊の迅速な対応で僅か1時間でどうにか最低限のライフラインの回復まで至る事に成功した。

防衛システムなどの専門的な設備の復旧に関しては正式な復旧作業が行われるまで、他部隊と協力しながら、魔導師による人為的な包囲結界などで補いながら、交代部隊による周辺の哨戒を行うなどして補う事となった。

 

 

そして、負傷者の搬送を終え、一先ずの検証を終えた他の部隊の人間が撤収した頃―――

 

湾岸エリアでの激闘を終えた政宗達が、ヘリに乗って隊舎へと帰ってきた。

彼らもまた、あの後、遅れて到着した所轄の陸士隊と合流後、医療班の応急処置を受けながら、同様に状況の説明と現場検証への協力などで、大分時間をとられていた様子だった。

なのはは、魔力の吸収による消耗が激しく、駆けつけた医務官からは2、3日は安静にする事を言い渡されたものの、身体の怪我自体は対して酷くはなかった為、入院する必要も無く、隊舎への帰投が許された。

一番、手傷が深そうに見えたフェイトも、治癒魔法の処置によって無事に回復し、傷跡が残る心配もないとの事だった。

 

意外にも、一番心理的に重傷を負っていたのは、政宗のガイド役として同伴していたリインフォースⅡとヘリパイロットのヴァイス・グランセニックだった。

 

リインは、隊舎に帰投した時もまだ気を失ったままであり、医務室でシャマルのヒーリングを受けて、ようやく目を覚ました後も、相当酷い乗り物酔いに陥ってしまったのか、まだ洗面器から頭を上げられずにいるという。

 

そしてヴァイスはというと、何も知らぬ内に愛車のバイクを勝手に使われた挙げ句に、目の前で敵への特攻に使われ、海の藻屑と消える様を目の当たりにさせられた彼はまるで抜け殻のように全身真っ白になり、「嗚呼(あぁ)、俺のバイクが……俺の生きがいがぁぁ―――」とうわ言の様に呟きながら、死人の様な足取りで歩いていたのだという。

 

その話を聞いた事の経緯の元凶であるはやては、「な…なんとか労災下りるように保険会社に掛け合ってみるわ…」と苦笑いしながら応えていた。

 

とにかく、前線部隊員の全員が無事に戻った事を喜んだはやては、一先今回の事件に関わった人間全員を部隊長室に集めて、それぞれの現場で起きた出来事の情報交換、そして新たに六課に現れた戦国武将 前田慶次への説明と、事情聴取をとりおこなう事になったのだった。

 

「Hu~…お前までこの世界に来ていた事には驚いたが…よくもまぁ、一ヶ月も見知らぬ土地でいつも通りの風来坊な暮らしができたもんだな」

 

応接セットのソファーに腰掛けながら、政宗は向かいに座った腐れ縁の武将仲間に、呆れたような眼差しを送りつつ言い放った。

 

「いやぁ。 俺も気がついたら、右も左もわからねぇ土地に流れついちまう…なんて事は今までも何度かあったもんだから、てっきり今回もその延長線だと思ってさぁ。それにここは日ノ本と違って、どこも比較的平和で、気の良い奴らが多かったから、なんだかんだで上手く溶け込めたんだよねぇ」

 

そう言ってヘラヘラと笑ったのは、此度の隊舎防衛戦に飛び入り参戦ながらもMVP級の活躍を見せてくれた加賀前田軍の風来坊こと“前田慶次”である。

 

「これでも結構苦労したんだって。 なんたって技術も言葉も文化だって、まるで日ノ本とは違うんだからさぁ。なかなか馴染まなくて大変だったんだよ?」

 

慶次は、そう言いながら、懐からスマートフォンを取り出して、片手で軽々と操作してみせる。

 

「『まさかの元いた世界の顔なじみ達と再会♪ KGマジラッキーってかまじ卍~♪』っと…いやぁ、この『トゥウィッター』や、『イントールグラム』ってのは面白いねぇ! か『SNS』ってんだっけ? 俺もうどっちもフレンド一万人超えちゃったよ」

 

「そんだけ馴染めたら十分だろ! っていうか、どうやってそんなもの手に入れたんだ!?」

 

政宗の後ろで控えるように立っていた小十郎が、慶次の持ったスマホを指差しながらツッコみを入れる。

よく見ると慶次の持っているスマホはスマホの中でも人気機種の『MyPhon』シリーズの最新型『MyPhon12』であり、さらには腕には同じ会社が販売しているデジタル腕時計『Orange Watch』が着いてあった。

傍から見れば、戦国武将というよりは和風テイストな装いをした派手好きなパリピにしか見えない。

 

「あぁ。旅の間に夢吉と一緒に大道芸やったり、人助けや手伝いとかやったりして稼いだ金と、そうやって顔見知りになった奴の伝手で良い品を安く回してもらったりしてさぁ。衣食住もそうやって過ごしてきたわけよ」

 

「な…なんてご都合主義な男なんだ……」

 

「こんなデタラメな野郎が、家康達と肩を並べる実力派の戦国武将なんてな…」

 

話を聞いていたシグナムとヴィータが呆れながらボヤいた。

 

「まあまあ、2人共。 なにはどうあれ、慶次さんのおかげでわたしも助かったんやから。改めてお礼を言わせて頂きます。ほんまにおおきにな。慶次さん」

 

部隊長用のオフィスに座り、シャマルのヒーリングを受けながらはやてが、慶次に向かって頭を下げた。

はやては他の皆よりも、さっきの戦闘中に受けた謎の金縛りの影響が濃かった為か、微かだがまだ後遺症の痺れが身体に残っている様で、シャマルからマッサージ代わりの軽い治癒魔法(ヒーリング)を受けて、完全に取り払おうとしていた。

 

「いいって、いいって。にしても、はやてちゃん…だったけ? その年でこんな立派な本陣持った隊の大将なんてすごいじゃないのさぁ」

 

慶次は手を振って応えながら、もう一度部隊長室に集った六課の隊員達を一瞥していく。

 

「それにまぁ、揃いも揃って美人にかわい子ちゃん揃いな華の部隊! いいねぇ、家康や他の御仁方もなんだかんだ言って男だったんだねぇ!」

 

「け、慶次!ワシらは何もそういう理由で六課と協力しているわけではない!」

 

「前田殿! 破廉恥でござるぞ!!」

 

慶次の座るソファーの脇に立っていた家康や幸村が赤面しながら抗議した。

すると政宗達の座るロングサイズのソファーの端に腰掛けていたフェイトが徐ろに尋ねる。

 

「ところで前田さんは…」

 

「あぁ。“慶次”でいいよ。家康達の馴染みっていうなら俺にだけ他人行儀になる必要はないからさ」

 

「は、はい。じゃあ…慶次さんは地上本部に向かおうとしていたんですよね?」

 

「あぁ。聞けば、俺や家康達みたいなのをこの世界じゃ“次元漂流者”っていうんだろう? 聞いた話じゃ“次元漂流者”ってのは『時空管理局』って組織…つまりはアンタ達がその専門的に対処するって事らしいからさ。そこへ相談すればなんとか日ノ本に帰る手立ても見つかるとは思ったんだけどさぁ…」

 

そこまで話して、慶次は一度言葉を止め、家康達日ノ本出身の仲間達の顔を一瞥する。

 

「ここに家康達が纏まって世話になっているって事は…日ノ本に戻る方法はわからねぇって事かい?」

 

「…そういう事になるね」

 

フェイトが申し訳無さそうに頷くと、はやても面目なさげに頬を軽く掻いた。

 

「一応、わたしらの方で、家康君の世界の座標を調べてはおるんやけどなぁ。 何分、異世界っていうのは無限っちゅうくらいに色々な世界があるもんやさかい、なかなか見つける事が難しいんよ。唯でさえ、家康君や慶次さんの住む“日ノ本”のある世界は私達の故郷の地球(セカイ)の平行線にある世界やから、余計に探し出すのにも難儀しとるっちゅうわけや」

 

「なるほどねぇ…おまけに、“豊臣”の奴らは、アンタらがさっき言ってた“スカリエッティ”とかいう奴と手を組んで、何かの悪巧みを企んでいて、今日の騒動もその一環だったって事ね…」

 

慶次は話しながら、『豊臣』というワードを口にしたところで、一瞬その表情を曇らせたが、それに気づいた者はいなかった。

 

「そういうことやね…せやけど、まさかなのはちゃんを捕まえたり、隊舎に総攻撃しかけてくるとは、思ってもみぃひんかったわ…」

 

はやてもそう言って声のトーンを落とした。

すると、応接セットの中では部隊長デスクと一番近い場所にある小さなソファーに腰掛けていたなのはが小さく溜息をついた。

 

「私が油断しすぎたせいだよ。 西軍(むこう)の仕掛けた罠とも知らずに、いつもどおりに打って出る…なんて言ったから…ここまで追い詰められる事もなかったものね。せめて、不審船を調べる時に一層用心していれば…」

 

首にコルセットを巻いたなのはは、自分の失態が原因で、隊舎の窮地をより強調させてしまった事を反省してか、自嘲する様に苦笑を浮かべた

 

「そんな…なのはが悪いわけじゃないよ」

 

「そうだぞ。悪いのはあの“なんとか兵衛”とかいうストーカー野郎や、大谷ってミイラ野郎じゃねぇか。お前が責任を感じる事なんてねぇよ」

 

フェイトとヴィータがそう言ってなのはを励ました。

その言葉を聞いて思い出したように、はやての顔つきが急に厳しいものに変わった。

 

「それにしても…まさかジャスティ君がホンマに大谷達に寝返っていたなんてな。今更かもしれへんけど…選定するにあたって、素性は申し分なかったし、性格も決して問題ありなものでもなかったのは確認しとったつもりやったけど」

 

はやてにしてみれば、六課設立に当たって、他の隊員達同様に自ら推薦し、抜擢した為か、その事に関しても少なからず自らの責任を感じていた様子だった。

 

ちなみにそのジャスティではあるが、本当だったらすぐにでも尋問にかけるべきところではあったが、六課側も事後処理をはじめやるべき事が山程あった為、彼への尋問は日を改めてゆっくり行う事とし、一先ず彼の身柄は所轄の陸士隊に引き渡し、正式な尋問の準備が整うまで陸士隊の留置施設にて拘束する事が決まり、既に身柄も移送されている。

 

「徳川達“戦国武将”の事を快く思っていなかった事や、主はやての采配やこの隊における自分の扱いについても相当な不満があったというのも事実だったわけです…おそらく、そこに大谷の付け入る隙があったという事でしょう」

 

シグナムの言葉に家康達も頷いて同意した。

すると、部屋の端にある壁にもたれかかっていた佐助が虚空を見据えながら、呟くように話し始めた。

 

「…心に生じた隙間に入り込む…これは大谷みたいな策を弄する人間が最も好んで用いる謀さ。邪で、身勝手で、都合の良すぎる甘言程、不満を感じている者を惑わせちまうのさ…」

 

「確かにな…それに、隊長陣(あたしら)やフォワードでもなく、後援部隊(ロングアーチ)准幹部(ジャスティ)を内通者に選定しやがったところが狡賢いぜ」

 

ヴィータが悔しそうに話す。

すると佐助はさらに、自らの憶測を述べる。

 

「恐らく、昼間の模擬戦でティアナをわざと目立つ形で暴走させたのも、俺達の注目をコイツ一点に集中させる事で、“内通者”であるジャスティから目を逸らさせ、今夜の作戦への下準備を運ばせる事が目的のひとつだったのかもな?」

 

「私は…最初から西軍に…大谷達にまんまといいように利用されていたわけね……」

 

「ティア…」

 

他のフォワードメンバーと共に佐助と一緒に壁際に立って話を聞いていたティアナが歯を少し噛み締めながら呟くのを、隣りにいたスバルが心配そうに見つめる。

すると、それを励ましたのはフェイトだった。

 

「利用されていたのは、ティアナだけじゃないよ。罪のないクラナガンの一般市民でさえもそうだったんだから…」

 

フェイトは撤収前の交代部隊から受けた報告を思い返しながら話す。

その後の調べにより、大谷吉継によって洗脳され、彼の手駒“縛心兵”にされていたのは首都クラナガンの料亭『弁天閣』の従業員や遊女達である事が発覚した。

 

さらに、かろうじて話す事のできた1人からその経緯について詳しく聞く事ができた。

 

その者の証言によれば、事のきっかけは数週間前のある夜―――

閉店後の後片付けを行っていた時に、突然何処からともなく1人の女が店を訪れ、店にいた全員を次々に金縛りのような術にかけて無力化していき、その後に現れた包帯ずくめの男…大谷にさらなる術をかけられた事で全員が自我を持ちながらも身体や思考の自由を奪われ、今日まで奴らの手駒にされていたのだという。

 

大谷達は従業員を洗脳して手駒に打ち据える事で、『弁天閣』を通常通り営業させながら、まんまと西軍の出城*1として利用したのであろう。

実際に交代部隊がただちに『弁天閣』を家宅捜索したところ、多数の武器や、機動六課周辺の地図などの資料など西軍がアジトとして使用していた多数の痕跡が押収されたとの報告があった。

 

そして、ジャスティは『弁天閣』のVIP常連客の1人であった。

恐らくは大谷らが店を掌握した後に、何も知らずに店を訪れたところで会遇し、甘言に唆されて、裏切り者に転じてしまったというのがフェイトの見解であった。

 

「……大谷吉継…わたしらが今まで出会ってきたどのタイプの敵とも違う、厄介な強敵みたいやな……」

 

はやては、真剣な面持ちのまま静かに頷いた。

甘言で敵の関係者を容易く抱き込むばかりか、策謀の為に卑劣で残酷な術を躊躇う事なく用い、関係のない一般市民までも平気で利用し、巻き添えにする…

まさにスカリエッティと同類の卑劣漢ながら、あくまで水面下で暗躍する事に徹するスカリエッティに対して、こちらは表舞台に進出してくる事に躊躇いが無い分、余計厄介という事になる。

 

「それにしても……」

 

シグナムが唸り声を発しながら続けた。

 

「私が拘束した島左近を取り逃がしてしまったのは、大きな痛手になったな…縛心兵を相手取る為とはいえ、見張りも立てずに放置していたのは私の失策だ…申し訳ありません。部隊長」

 

シグナムははやてに向かって頭を下げて詫びた。

隊舎攻防戦の最中、シグナムとの一騎打ちに敗れた左近は、気絶したまま、バインドをかけられて拘束され、シグナムの手で隊舎前まで連れてこられ、その後、間髪入れずに大谷率いる縛心兵達との交戦となった為、一先ず近くでバインドと包囲結界(クリスタルケージ)で拘束するところまでは、彼女をはじめ、あそこで交戦していた者全員が確認していた。

 

しかし、大谷が撤退後、彼を拘束していた筈の場所に行ってみると、左近の姿は何処にもなく、急いで周辺一帯をくまなく捜索したものの、結局見つかる事はなかった。

 

「しかし、わからねぇよな。大谷(ミイラ野郎)ならともかく、その島左近とかいうヴァイスによく似た声のギャンブラー野郎は魔導師でもなけりゃ、特にわけのわからねぇ術使うような奴でもなかったんだろ? そんな奴が一体どうやって、バインドやケージを抜け出せたっていうんだ?」

 

ヴィータが尤もな疑問を述べる。

すると、はやてもそれに同調する様に頷いた。

 

「そこは私も少し疑問に思ってたんよ。 それにリインとシャーリーがジャスティ君を追い詰めた時に何者かによる横槍が入ったり、政ちゃんやリインがなのはちゃんの救援に向かう為にバイクで出たら、まるでその様子を見ていたかのようにバイク型の新型ガジェットドローンが追手として現れたり…何よりも大谷と戦っている最中に私や家康君達を襲ったあの金縛り…」

 

「…恐らくはやてちゃんは、“(しん)の一方”をかけられたんだな」

 

今まで話を聞いていた慶次が、補足するように告げた。

 

「「「「「“(しん)の一方”?」」」」」

 

初めて聞く奇怪な術の名前に首を傾げる六課の面々。

「似たような名前は地球にいた時に読んだ漫画で見た事があるな。確か『る◯うに◯心』―――」といつものように脱線しそうになったはやてを手で制止しながら、なのはが尋ねた。

 

「慶次さん。その“(しん)の一方”っていうのは?」

 

「俺も諸国を旅していた時に、人伝手で聞いた話でしかないんだけどな…なんでも『二階堂流平法』って戦術を編み出した松山主水(まつやまもんど)って賢智の高い剣豪が編み出した秘伝の技としてそんな術があるそうだ」

 

慶次によれば、“(しん)の一方”というのは所謂、瞬間催眠術的な居竦の術の事であり、何らかの方法で目や口から放った気を当てる事で、術にかかった者を金縛りにあったように身動きができなくさせてしまうのだそうだ。

本来は気を使った技なのではあるが、まるで妖術のような技に見える事から、巷の人々の間で松山主水とは『剣豪の名を騙った妖術使い』として恐れられているという。

 

「つまり…その松山主水って人も西軍に加担しているという事ですか?」

 

スバルが聞いた。

しかし、慶次は頭を振って彼女の推測をきっぱりと否定する。

 

「否、俺が聞いた話じゃ、確かに松山主水って奴は兵法や剣術の腕は凄いが、本人は天下取りはおろか、佐官にさえも興味を示さず、俗世間とは離れて、己の武芸を極める所謂『一匹狼』との事だからな。俺が仕入れた話だと、関ヶ原の戦いに際しても東西どちらの軍にも加担した様子はなかったみたいだぜ」

 

「それに…」と慶次は付け加える様に、自分の推測を語る。

 

「…はやてちゃんの話じゃ、海の上で大谷吉継と戦っている時にこの隊舎の屋上辺りから急に視線を感じて、その直後に妙な気当てを食らって、身体が動かなくなっちまったって話だったじゃないか? そうなんだよな? はやてちゃん」

 

いきなり話を振ってきた慶次に、はやては何故かドキリとした表情を見せる。そして少し考えたような素振りの後に口を開いた。

 

「う、うん。ようわからんけど、急に隊舎の屋上でピカッと何かが光ったかと思ったら、身体が金縛りにあったみたいに、動く事も喋る事もできひんようになってもうて…今もこうして身体のあちこちが痺れてもうてる状態って感じやわ」

 

「うん。間違いなくそいつは“(しん)の一方”だぜ。それもかなりたちが悪い方向にアレンジされたやつだ」

 

慶次は1ヶ月の異世界での風来坊暮らしの間に身につけた現代語をさらりと混じえながら言った。

慶次によれば、“(しん)の一方”とは、本来は立ち会いの折に相手を無力化させた上で斬り捨てる為の牽制技であり、決して万人向けの技ではないとの事だった。

 

しかし、今宵六課で発動された“(しん)の一方”と思われる技は、隊舎から1km近く離れた距離にいたはやてをピンポイントで命中させるだけでなく、気合の当て先であるはやてだけでなく、その通り道にいた家康達や縛心兵達までも一時は硬直させてしまう程に凄まじい威力を見せつけた。

これは最早、唯の気当ての技の域に収まらず、大谷の技と同様に“妖術”と称しても過言でない程に邪悪で妖奇な技へと悪い意味で昇華したものだった。

 

「実は俺が六課(ここ)に足を運んだのも、妙な気合が撃たれた気配を感じたからなんだ。 身体が痺れて、嫌な汗が流れる不快な感覚…って奴? この世界に来てから久しく感じた事もなかったから余計に違和感を覚えて、気を感じた方に足を運んでみたら…」

 

「あの騒ぎだった―――って訳ですね」

 

スバルがそう言って締めると、慶次が静かに頷いた。

もしもあの術が発動する前に慶次が現れて、家康達と一緒に硬直してしまっていたら、誰も大谷を止める事ができず、はやてが殺されるのを黙って見ているしかなかったであろう。

 

その話を聞いていたフェイトとはやてはそれぞれ顔を見合わせる。

 

「と言う事はつまり……」

 

「大谷レベルの妖術の使い手が、今回の騒動の裏で暗躍しとったっちゅう事やな…」

 

2人がそう話し合うと、それを聞いていたシャマルが思い出したように言った。

 

「そう言えば、リインやシャリオが言っていたけど…屋上でジャスティ君を取り押さえようとして、不意打ちを受けた時に…気を失う前にジャスティ君が女の人と話しているのを見たって…それも和服を着た、見るからにこの世界の人間でない女の人だったとか…」

 

「それってもしかして…」

 

シャマルの話を聞いた家康は何やら考え込むような仕草を見せる。そんな家康の顔を見ながら政宗が口を開いた。

 

「恐らく…そいつはあの“皎月院”って女だろうな…野郎…模擬戦の時もそうだったが、結局今回の事件じゃ最後まで俺達の誰の前にも直接顔を見せなかったな」

 

「すると…やはり、島左近を奪還したのも……」

 

「奴だろうな」

 

政宗の言葉に、シグナムは改めて自分の迂闊さを悔やみ、膝を叩いた。

 

現在、総大将の石田三成を除いて、六課側にその存在が把握されている西軍の将の中では唯一、家康や六課の面々と直接対峙していないのが大谷と共に三成の参謀及び直属の諜報役を務めている謎の女 皎月院だった。

家康の話では、大谷に匹敵する妖術の使い手である事と、凶王の女房役として、気性が極めて高い彼をも上手く手綱を握って誘導してしまうだけの弁舌や駆け引きに秀でた底の知れぬ女である事以外、何もわかっていない彼女が、ある意味現段階では西軍の中でも最も警戒すべき人間であるのかもしれない。

 

「大谷殿と互角のまやかしの使い手と言うのであれば、“(しん)の一方”なる技を左様な高度な技として使いこなしてみせたのも、合点がいくでござる!」

 

「まぁ、その皎月院って女が何者かはさておき…奴もまた並外れた手練である事は間違いねぇって事だな」

 

幸村と小十郎がそれぞれに話すと家康も総轄するように語る。

 

「否、刑部やうた達だけじゃない…後藤又兵衛、黒田官兵衛、島津義弘、小西行長、上杉景勝…今まで六課の前に現れた将以外にも、西軍にはまだまだ智謀または武力に秀でた強敵が数多く存在する…」

 

話を聞いた六課の一同は皆、深刻な面持ちを浮かべる。

今回は政宗の奮闘や、慶次の参戦の甲斐あって、窮地を凌ぐ事ができたものの、自分達がスカリエッティと共に相対する敵…『西軍』もとい『豊臣』は、自分達が考えていた以上に強大で、なおかつ狡猾と考えねばならなかった。

 

「つまり…これからの機動六課の戦いは、更に激しくなる…っという事ですね」

 

スバルの問いに家康は静かに頷いた。

すると、それを聞いていたなのはも、真剣な眼差しでフォワードチームの4人を見据えながら言った。

 

「フォワードの皆。今日のところは皆の頑張りのおかげで、かろうじて最低限の被害だけで済んだけど…この先どんな事が起きるのか全く予想ができない。正直言って、命の保証はないかもしれません…もしも、この先この部隊で戦っていく自信がないというのなら…遠慮しないで言ってくれたら、希望する他部隊への異動の手続きをとるけど…」

 

なのはの問いかけに対し、いの一番にスバルがきっぱりと宣言した。

 

「なのはさん! 私は戦います!!」

 

「スバル!」

 

堂々としたスバルの決意に家康が驚く。

他の面々も驚きの表情でスバルを見ていた。

 

「この先、命に関わる程に大変な戦いになる事は重々承知です! ですが、関係のない大勢の人々を巻き込んでまで、邪悪な陰謀を進める西軍の凶行を目の当たりにして…それでいて、むざむざと逃げ出すなんて腰抜けな真似、私にはできません!!」

 

スバルの啖呵に、思わずたじろいでしまうなのは。

これがわずか15歳の子供が言う言葉なのかと周りの大人達は思っていた。

 

「それに…私は東軍(ひがしの)総大将 徳川家康の“弟子”です!! 尊敬する師匠が戦いを挑むのに、逃げ出そうなんて考える恩知らずな弟子がどこにいるというのですか!?」

 

「ちょ…スバル! そんな大声で言われると、なんか恥ずかしい…」

 

嘘偽りのない純粋な輝く瞳で堂々と宣言するスバルに、家康は思わず赤面する。

すると、それを聞いた慶次は思わず「おっ!?」とイタズラめいた笑みを浮かべながら、家康を見据えた。

 

「なんだよ~。いつの間にスバルちゃんみたいなかわいいお弟子持ったんだよ~? ねぇねぇ、ちょっと詳しく聞かせてくれよぉ♪」

 

「い、今はワシの話はどうでもいいじゃないかッ!!」

 

からかってくる慶次に対し、家康は珍しく憤慨しながら無理矢理に話題の軌道を戻した。

すると、続けて2人…エリオとキャロが前に出た。

 

「僕も戦います!! 真田幸村(兄上)と兄弟の契を交わし、武田の熱き魂を受け継ぐ1人になった今、ここで槍を退くつもりは毛頭ありません!!」

 

「わ、私も…何が出来るかわからないけど…でも機動六課で学び、小十郎さんに教えてもらった事で少しでも皆のお役に立てる為に……頑張ります!」

 

「エリオ! キャロ!」

 

2人の子供らしからぬ強い決意を前に2人の義親のフェイトも思わず呆気にとられた表情を浮かべた。

そんなどこまでも子供離れし過ぎな程に成熟したフォワードチームに圧倒され、苦笑を浮かべながら、なのはは最後の1人 ティアナを見据えた。

 

「ティアナ…貴方はどう? 出撃前に言っていた事、ひょっとしてまだ気持ちが変わってないのなら―――」

 

なのはの問いかけに、ティアナはまだ出撃前にやってしまったいざこざを尾に引いていたのか気まずそうな面持ちで、言い淀んでしまう。

すると、その様子を見ていた佐助がそっと肩に手を乗せながら助け舟を出した。

 

「ティアナ…答えはもうさっき俺に言ってたじゃねぇか。そのまんまの気持ちを…なのはちゃんにも、ちゃんと伝えな」

 

佐助に背中を押されるように諭されたティアナは、ゆっくりと頷き、なのはの目を見つめながら、気を引き締めた表情を浮かべ、そして口を開いた。

 

「なのはさん…やっぱり私、この部隊で戦います! 否、戦わせて下さい!! さっきは生意気な事を言ったりして、本当にすみませんでした!!」

 

ティアナは声を張り上げながら、なのはに向かって頭を下げた。

 

「私はまだまだ未熟者です。 今日みたいな失敗もするかもしれません! でも…どうにか自分に出来る事を精一杯やって皆さんのお役に立とうと思います! だから…引き続き、機動六課のフォワードチームのセンターガードとして、この部隊にいさせてください! お願いします!!」

 

そう話しながら、ティアナは頭を上げようとしなかった。

そんなティアナをなのはは、最初は驚いた様子で見ていたが、すぐに優しい笑顔を浮かべた。

 

「わかった。ティアナの気持ち、しっかり伝わったよ。それじゃあ、さっきの離隊宣言は誰も聞かなかった事にするね。勿論、フォワードチーム全員このまま引き続き頑張って貰うよ」

 

なのはがやさしくそう話すと、ティアナをはじめFW(フォワードチーム)の面々は安堵の笑みを浮かべ、その様子を見ていた他の皆もホッとした様子を見せた。

 

「けど、皆…覚えておいて。ここから先は本当に過酷な戦いになるかもしれない。機動六課に入った以上は今までもそうだったかもしれないけど、これからは今まで以上に、皆が『子供だ』とか『女の子だとか』…そんな言い訳は一切通じない。敵は容赦なく襲ってくる…その辺のところは、しっかり覚悟はしておくんだよ」

 

フェイトはなのはの後ろから、再度念を押すようにFWの四人に向かって呼びかけた。

それに対し、4人は改めて気を引き締めた表情になって頷くのだった。

 

4人の覚悟を見届けた家康は、慶次の方に顔を向けると、徐ろに姿勢を改め、両手をついた。

 

「見ての通りだ。慶次…ワシらは今夜の事を教訓に、改めて明日から西軍(三成達)との戦いに挑むつもりだ。慶次。是非にお前の力も貸して欲しい…頼む」

 

「おいおい、家康。なに水臭い事言ってんだよ」

 

慶次がいつもの軽く明朗な笑顔を浮かべた。

 

「あんな派手に喧嘩売っちまったんだ。西軍(奴さん)からはすっかり俺も『東軍』の仲間として見られただろうよ。それにまだ、日ノ本に帰る手立てもわからねぇようなら、せめて同郷のダチが世話になっているこの『機動六課』に手を貸す方がよっぽど有意義だしな」

 

「「「誰が“ダチ”だ」」」

 

政宗、小十郎、佐助が、声を揃えて、呆れながらツッコんだ。

 

「っというわけで……機動六課の皆々様! 不肖 前田慶次! 俺もまた、人肌脱いでやっぜ!! 不束ピーポーですが、ヨロシコでお頼み申します! センキューね☆」

 

「いや、歌舞伎役者か、パリピか、どっちかにキャラ統一しろよ! なんか鬱陶しいな!!」

 

と応接セットのミニテーブルに片足を乗せながら、眉間に指二本を当てたチャラ男ポーズとチャラい言葉と古い言葉を混ぜた奇怪な挨拶を決める慶次にヴィータがイラついた様子で叫んだ。政宗や小十郎も同感だった。

1ヶ月もミッドチルダを放浪した事で、変に未来の文化を取り入れてしまい、その結果、以前にもましてお調子者な性格が増長して、変な方向に傾奇者ぶりが進んでしまったのかもしれない。

果たして、こんな男が機動六課に加わったところで大きな戦力になるか疑問だったが、それでも、なのは達にとっては心強い味方である事には変わりなかった。

 

「よろしゅうな♪ いやぁ、慶次さんも加わって、皆の気持ちもより一つになった…これならどんな敵が来ても立ち向かえる自信がついたような気ぃするわ」

 

はやてが、そう言って嬉しそうに笑った。

その時である―――

突然に部隊長室のドアが開かれた。

 

「部隊長!! 大変です!!」

 

叫びながら飛び込んで来たのは、血相を変えたグリフィスだった。

 

「な、なんやねん! グリフィス君!? せっかく、皆の気持ちが引き締まったところやったのに…」

 

「それどころじゃありません! これを見てください!!」

 

そう言いながら、グリフィスははやてのデスクにあったホログラムテレビのスイッチを押し、部屋に備えられていた大型のホログラムモニターを投影させてみせた。

そこに映っていたのは……

 

 

《本日午後11時頃、ミッドチルダ首都クラナガン南部A70地区ならびにB36地区、H14地区から17地区一帯で発生した車両事故並びに建築物損壊事件は、負傷者348人、被害車両277台、家屋半壊17戸、全壊4戸に及び、更には先日オープンしたばかりの『クラナガン・スパ・ストーリーズ』クラナガン南ヘルスセンターが内部全壊した他、クラナガン高速湾岸線の一部架橋がおよそ3ヶ月間使用不可レベルに損壊するという大惨事となりました》

 

 

アナウンサーがニュースを読み上げる中、映像に映っていたのは、まるで激しい戦闘でもあったのか、小さな竜巻が通過したかのように、破壊の限りを尽くされた一般道路や、民家、温泉施設、高速道路の高架、そして至る場所で大量の自動車の残骸がぶつかったり、横転したりする地獄絵図のような光景だった。

 

「うわっ! こりゃ酷いわぁ! うちでこんな大変な事があった時に、街でもえらい事になってたんやなぁ」

 

FWの4人や家康達が呆気にとられた様子でニュース映像を見つめる中、はやては呑気にそんな事を言っていたが、なのはとフェイト、ヴィータは、映像を見るなり、何か嫌な予感を察したのか、それぞれ顔を青ざめる。

 

「な…なぁ…? これって……もしかして……?」

 

「う……うん…」

 

なのは達の異変に気がついたスバルが、どうかしたのかと訪ねようとした。

 

《尚、目撃者が撮影した映像には、一連の事故の原因となった数台の不審車両の危険極まりない暴走の様子が映されていました。こちらを御覧下さい》

 

「……ん?」

 

そんな時だった。

事故現場の様子を映していたテレビの画像が、一般人が撮影したと思われる映像へと切り替わった。

 

それが映った瞬間、部隊長室にいる全員の表情が凍り付いた――

 

 

《Yaaaaaaaaaaaaaaaaaahaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!》

 

《ギャピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!?》

 

 

それは、バイク型のガジェットドローンから発射されるレーザーやミサイルを掻い潜りながら、交通法などどこ吹く風な無茶苦茶な運転で、幹線道路をバイクで爆走していく政宗と、肩にしがみついたまま絶叫を上げるリインの姿であった。

 

 

「「「「「………………………」」」」」

 

 

全員が唖然と映像を見つめる中、アナウンサーの無機質な口調でニュースが読み上げられていく。

 

《尚、この先頭の赤いバイクを運転する青年と、その人物の肩に掴まった小人サイズの精霊らしき人物は、時空管理局・古代遺物管理部“機動六課”の関係者であるという情報も上がっており、地上本部 防衛長官 レジアス・ゲイズ中将は今回の騒動について『機動六課関係者の事件への関与が判明次第、直ちに厳正に対処し、損害責任を追及する方針も視野に入れる』との声明を発表しています》

 

 

「………そ……損害……責任の…追求……?」

 

ここへきて、ようやく事の深刻さが理解できたはやての顔からも血の気が徐々に引いていくのが家康達からもはっきりとわかった。

 

「………こ…これ、どぉいう事なのかなぁ~~…?」

 

はやては動揺、そして怒りを必死に抑えながらも、眉間をヒクつかせながら、すっと視線をある人物に向けた。

その視線の先にいたのは勿論、たった今、テレビに大々的に映った人物…伊達政宗であった。

そして、はやての声に導かれるように部屋にいた全員の視線が政宗に集まるのに、然程時間はかからなかった。

皆の注目を集めた政宗は、その視線に表面上は涼しい顔でソファーに踏ん反り返っていたものの、その顔には若干冷や汗が浮かんでいた。

 

「ま……まぁ、Auto Bikeに乗ったのも初めてだったからな…ちょっと、派手に暴れすぎちまったかもしれねぇが……」

 

政宗はそう言って、あくまでもクールに事を済ませようとした。

…が、そんないい加減な幕切れなど、決して許さない人間が1人……

 

 

まぁぁぁさぁぁぁむぅぅぅねぇぇぇさぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!

 

 

政宗の背後から、聞き覚えのある声が地の底を這いずるように響いた。

これには流石の政宗も顔に明確な動揺の色が浮かびだし、ぎこちない動きで振り返る。

 

そこには、自分の右目であり、忠臣である片倉小十郎が全身からゴゴゴと黒いオーラを放ち、目を光らせながら立っていた。

 

「こ、小十郎……?」

 

「政宗様…これは一体、どういう事なのか…? この小十郎にも、納得のいく説明を願います……」

 

久しぶりに目の当たりにした小十郎の怒りの形相とその気迫に圧倒されながら、政宗は弁解しようにも、何時になくしどろもどろな口調になってしまう。

 

「い、いや…だからその…俺は、なのはを助けに行こうとしてBike借りただけなんだよ。そしたらいきなりあの新型Gadget Droneが現れて……」

 

「その結果が…あの大事故という事ですか…? ならば、仕方がありますまい…」

 

小十郎のその言葉に、強張っていた政宗の表情が一瞬緩みかけ――――

 

「この小十郎…貴方と共にこの責任を負います故に、ここで“詰腹”を切りましょうぞ!!」

 

突然に戦装束を脱ぎ払って何故か白装束姿に着替えた小十郎が、徐に懐から短刀を取り出しながら、床に筵を敷いて、 “切腹”を求めた事で、一気に絶望の表情に変わった。

 

「「「「「えええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!?」」」」」

 

これには政宗だけでなく、見ていた家康や幸村、FWの4人も驚愕してしまう。

 

「ま、待たんかぁぁぁぁぁぁい!! お前、俺に腹切れって言うのか!? 軍馬で暴走するのは伊達の風物詩で、奥州にいた頃から当たり前のようにやってただろ!?」

 

「それにしても“限度”というものがございます!! あんな大事故を誘発した挙げ句、普通の家ならまだしも、あんな巨大な公共施設にまで突入して破壊の限りを尽くすだなんて大問題です! 流石の伊達軍の暴走騎馬隊でもそこまでした覚えはございません!!」

 

「いや“普通の家”でも突入してぶっ壊す事自体、十分大問題なんだよ!!」

 

小十郎の説教のどこかズレた点を、ヴィータが丁寧にツッコんでくれた。

 

「いや、だからそれは追手のGadget共が――――」

 

「まぁぁぁぁさちゃぁぁぁぁぁん…」

 

必死に弁解しようとしていた政宗の肩に背後から新たに手を置く人物が現れた。振り返るとそこにはいつの間にかやはり白装束に着替えていたはやてが、黒い笑顔を浮かべながら立っており、その手には短刀が握りしめられていた。

 

「は……はやて………?」

 

 

 

「………うん♪ 腹切ろうか?

 

 

 

はやてが青筋を浮かべた黒い笑顔と共に、きっぱりと宣言するのだった。

 

 

 

数分後―――

 

 

「なんでこうなるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

 

政宗は隊舎の中を大急ぎで逃げていた―――

原因は勿論…

 

「政宗様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 此度ばかりは、覚悟をお決め下さいいぃぃぃ!!」

 

「おしまいや! せっかく皆で決意新たにしたっちゅうのに、ものの1分もせんうちに“機動六課”はもうおしまいやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

今回引き起こした大事故で部隊そのものを揺るがさんばかりの膨大な責任が来るかもしれない事態を前に、怒り狂った小十郎と自棄になって滝のような涙を流すはやてを筆頭に、今回の騒動で急死に一生を得ながらも、今度は失職の危機に立たされる羽目になったスタッフ達が、その原因を作った政宗に相応の“ケジメ”を負わせようと怒りを燃やして追いかけてきたからである。

 

「か、片倉殿! お気を確かにいぃぃぃぃ!」

 

「はやて殿や皆も、少し冷静に話し合おう!!」

 

そんな彼らをなんとか宥めようと、幸村と家康が後ろから必死に追いかけるのであった。

 

 

「ぶははははははははははッ! この『機動六課』って部隊はホント面白ぇなぁ! なぁ、夢吉!」

 

「キキィ!」

 

慶次と夢吉はそんな彼らの命を賭けた追いかけっこを見て、面白そうに笑っていたのだった。

 

 

こうして、一曲二癖と波乱に満ちた機動六課の一日がようやく終わるのであった……

 

 

 

「ごめんね、ティアナ。唯でさえ今日は色々あって疲れているというのに、こんなところに呼び出したりして……」

 

「いえ、大丈夫です。 私もなのはさんと改めて話したいと思っていましたから…」

 

時間は既に深夜の2時を過ぎていた。

2人が今いる場所は、隊舎前の波止場…

 

隊舎の中では、政宗が引き起こした大事故について、はやて達が地上本部を始めとする方々への謝罪と弁解の為に、寝る間も惜しんで対処に当たっていた。

自分もそれに加わりながらも、合間を縫ってティアナをここへ呼び出したのも、隊舎の中ではゆっくり話が出来ないと思ったからだ。

 

「とりあえず、座ろっか?」

 

なのはは優しく微笑みながら、ティアナを誘い、波止場の端に腰を下ろした。

 

 

「ティア…なのはさん…」

 

「さっきから2人共、黙ったままですね」

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「キュル~…」

 

その二人の様子を、少し離れた防風林の繁みの後ろから、スバル、エリオ、キャロ、フリードが心配そうに見ていた。

 

「おっ! やってる、やってる♪」

 

「うわぁっ!? さ、佐助さん!? 驚かさないでくださいよ!!」

 

そんなスバル達の後ろにはいつの間にか佐助が立っており、驚いて声を張り上げそうになったスバルは、佐助に抗議しながら、慌ててなのはとティアナの様子を見つめる。

幸い、2人には気づかれた様子はなかった。

 

「佐助さん。部隊長達を手伝わなくてもいいのですか?」

 

「あぁ。なんとかはやてちゃんは前田の風来坊が宥めて落ち着かせてくれたし、スタッフの皆も真田の大将と徳川の旦那が宥めてやっと落ち着いたところだ。片倉の旦那は…相変わらずカンカンで、まだ独眼竜の旦那を説教している最中だけど…」

 

キャロからの質問にそう答えながら、佐助はなのはとティアナの様子を見据えた。

 

2人はそれからしばらくは、お互いに気まずそうに黙ったままであったが、やがてティアナが意を決した様に口を開いた。

 

「……シグナム副隊長や、政宗さん達に…色々聞きました」

 

「なのはさんの失敗の記録?」

 

なのはは夜空を見上げながら、戯けたような口調で尋ねる。

 

「じゃなくって!」

 

慌てふためくティアナを、クスクスと笑いながら見つめていたなのはは、優しくも真面目な顔つきになって、再度尋ねる。

 

「無茶をすると危ない…って話だよね?」

 

ティアナは素直に頷くと、なのはの方を向き、そして頭を下げた。

 

「…改めて……今日は色々と、すみませんでした」

 

ここしばらくの間に、何度謝罪の言葉が出たかわからない。

しかし、今までのはどれも表面的な謝罪で、心の内にはなのはへの不信感や、反骨心、懐疑心、嫉妬心といった負の感情に苛まれ続けていた。

だが、さっき部隊長室で出た謝罪と、今の謝罪は違う。

自分の考えや行いが間違っていたと、本当に後悔し、本当に謝りたい…

 

そういう気持ちが芽生えた、本当の意味で心からの謝罪だった。

 

「うん。ティアナの気持ちはわかったよ。それじゃあ、私も……」

 

なのはは、そう言うと、今度は徐ろに自らがティアナに向かって頭を下げた。

 

 

「ティアナ……ごめんなさい!」

 

 

「えっ!? えぇっ!?」

 

突然の事に、ティアナはわけがわからず、混乱した様子を見せた。

様子を見ていたスバル達や佐助も思わず、ポカーンとした顔を浮かべてしまう。

 

「私も…ティアナの気持ちに寄り添って、もっと早くティアナに私が教えたかった事をちゃんとこうやって言葉で伝えるべきだった…でも…私ったら、『ティアナが自分で考えてもらう為』にと思って、闇雲に訓練だけを教えて、肝心の言葉による教導を怠っていたんだ。その結果が、今回の騒動を招いたんだと思って…」

 

「そんな…! なのはさんは何も悪くありません! 寧ろ、なのはさんが伝えたかった事をなかなか理解する事ができなかった私が浅はかだったんですから!!」

 

ティアナはそう言って、なのはに頭を上げさせようとするが、なのははそうしようとはしなかった。

 

「実はね…ティアナが操られていた時…私、大谷吉継にこう言われたんだ。『師としては半人前』って……私ってば、ティアナの持っていたもう一つの“才能”に気づかなかったんだ」

 

「…私の…もうひとつの…才能……?」

 

ティアナが尋ねると、なのははやっと顔を上げ、そして頷きながら話し始めた。

 

「あのね、ティアナは自分の事を、凡人で射撃と幻術しかできないって言うけど…それ、間違ってるからね」

 

「え?」

 

その言葉にティアナは思わず目を丸くした。

なのはは諭すような優しい口調で続けた。

 

「ティアナも他の皆も、今はまだ原石の状態…デコボコだらけだし、本当の価値も分かりづらいけど……だけど、磨いていくうちにドンドン輝く部分が見えてくる……そして、その輝く部分が家康君達との出会いをきっかけに急速に広がってきているの…」

 

なのはは、言葉を続ける。

 

「エリオは幸村さんに師事する事で“スピード”を強化しながらも、力の籠もった槍さばきを持ち、速さと力を併せ持った屈強な“武士”になろうとしている……

キャロは優しい“支援魔法”に、政宗さんや小十郎さんが見出した“剣士”としての才能を新たに切り開きはじめた……

スバルはクロスレンジの“爆発力”…そして家康君から教わった“気”の力との融合による強力な攻撃力に瞬発力を生かした絶対的な前衛としての戦力となりつつある…」

 

「…………」

 

「ティアナは…そんな3人を指揮して、射撃と幻術で仲間を守って、知恵と勇気でどんな状況でも切り抜ける…シンプルだけど、とても大事…だから、私はティアナに『1人で無茶をしないで』って口煩く言おうとしていた……でもそれは間違いだった」

 

「えっ!?」

 

なのはは、ティアナに対して優しく微笑んで見せた。

 

「ティアナのもう一つの才能…それはその知恵と行動力を生かした“隠密”行動…それが貴方に眠るもうひとつの才能だって、私…敵に気付かされちゃった」

 

「私が…隠密に………?」

 

ティアナが戸惑いながら呟く。

すると、それを聞いていた佐助も、「ほぉ」と感心した様に頷く。

 

「大谷吉継の妖術で操られた時のティアナ…確かにエリオ程の瞬発力やスバル程に高い攻撃力はないけど、身体の柔らかさを生かしたトリッキーな動き…私やスバルを完全に翻弄していたよ。まるで“忍者”の様に鮮やかな技だった……」

 

「忍者……」

 

なのはの口から出た単語を思わず呟き返すティアナ。

すると、なのははクスッと笑いながら、スバル達や佐助のいる茂みに顔を見据える。

 

「そうでしょう? 佐助さん?」

 

「えっ!?」

 

不意になのはに名前を呼ばれ、スバル達と共に茂みの裏にいた佐助が思わず驚きの声を漏らす。

当然、ティアナもまた驚いた様子を見せていた。

名前を呼ばれた以上は、隠れている意味はない。佐助は観念して、茂みから躍り出た。

幸いまだ、バレていないと思っていたのか、スバル達は引き続き茂みの裏からその様子を見守る事にした。

 

「佐助…」

 

「いやぁ…完全に気を抜いていたとはいえ、忍の気配に勘づくなんて、流石はなのはちゃんだねぇ」

 

「フフッ…佐助さんも端からバレるつもりでいたくせに…」

 

なのはがイタズラっぽく笑うと、改めてティアナの方に顔を向けた。

 

「ねぇ、ティアナ。これは私からの提案なんだけど…佐助さんに “忍術”を教えてもらったらどうかな?」

 

「えっ!? “忍術”を…!?」

 

ティアナが目をパチパチとさせた。

繁みの裏にいたスバル達も驚いた様子を見せる。

 

「ティアが…忍術……?」

 

スバルが呟いた。その声が聞こえたのか否かわからないが、なのはが頷きながら続ける。

 

「そう。ティアナの新しい才能“諜報能力”を開花させるには、佐助さんの使う忍の技を覚えるのがいいんじゃないかなって考えたの。それにティアナの“幻術”のスキルは忍術の技に応用する事だってできるかもしれないと思ったんだ」

 

「なるほどな…確かに合わせたら良い技が生まれるかもしれないな」

 

佐助も、なのはの提案に同意する。

ティアナは自分の新たな素質にまだ半信半疑な様子を見せていた。

 

「ティアナ。クロスミラージュを貸してくれる?」

 

「えっ!? は、はい!」

 

なのはは、徐ろにそう言い出すと、ティアナは懐からクロスミラージュを取り出し、彼女に渡した。

 

「システムリミッター・テストモードリリース」

 

《Yes》

 

クロスミラージュが反応したのを確認すると、なのははティアナにクロスミラージュを返した。

 

「命令してみて。“モード2”って」

 

「え…」

 

受け取ったティアナは一体何が起きるのかわからず、戸惑い気味になのはを見る。

佐助も興味深そうに2人のやり取りを見守った。

なのはは、優しく頷く。

 

「モード…2」

 

ティアナは海に向かってクロスミラージュを構えた。すると…

 

《Set up! Dagger Mode!》

 

ティアナの命令を受け、クロスミラージュが変形を始めた。

グリップの角度が浅くなり、銃口からオレンジ色の魔力のブレードが突き出ている…更に、グリップエンドからアーチを描くように銃口へとつながる魔力刃。

それはティアナが、模擬戦に備えて自分で組み上げていた物よりも完成度の高い近接戦用の形態だった。

 

「これ…!」

 

ティアナは、モード2に移行したクロスミラージュに驚く。

 

「元々、ティアナは執務官志望だしね。六課を出て執務官を目指すようになったら、どうしても個人戦が多くなるし、将来を考えて用意はしてたんだ。でも、今日の一件でティアナが諜報活動の才能もある事がわかったから、急遽より隠密行動や忍者の技に応用が効かせられるように、もう一つモードを加えたんだ。ティアナ。今度は“モード3”って言ってみて」

 

「は…はい…モード3…」

 

なのはに促され、ティアナは固唾を呑みながら、恐る恐る新形態“ダガーモード”のクロスミラージュを構えてみせた。

 

《Set up! Cakram Mode!》

 

クロスミラージュが更なる変形を始めた。

グリップの角度が完全に平行になり、完全に柄の様な形状へと変わり、その周りを大きな円を描くように魔力刃が伸び、大きなリングの様な円剣に八方向に伸びたダガー状の刃。

そのフォルムはまるで……

 

「俺の手裏剣みたいだな」

 

佐助が苦笑気味に言った。

それは、佐助の得物である2振りの大手裏剣を模した巨大な八方手裏剣の様な形態だった。

 

「『“モード3” チャクラムモード』…完全な近接格闘による白兵戦、そして手裏剣術などを使う事を想定した形態だよ。尤も…その形になったら、射撃系の技は使えなくなるから、ある程度、忍者の技を使いこなせてからでないと使う事はないと思うけどね」

 

なのははそう説明しながら、クロスミラージュに手をやり、待機モードに戻す。

すると、佐助はわざとらしく意地の悪そうな笑みをなのはに浮かべてみせた。

 

「ちょっとなのはちゃん。俺様の意見も無しに、ここまで準備していたわけ? これで俺が『ティアナに忍びの技なんて教えない』って言ったらどうするつもりだったのさぁ?」

 

「フフフッ…でも、佐助さん。断るつもりなんてないでしょ?」

 

なのはの確信づいたように話すと、佐助は照れくさそうに鼻をこすった。

 

「まぁ…俺様の性には合わないんだけどさぁ…たまには人に教える立場になるってのも悪くはないかもしれないね。それに…」

 

佐助は話しながら、ティアナの肩に優しく手を置いた。

 

 

「確かにコイツは“忍者(しのび)”としての素質があると俺も思う。その未来ある卵…この手で温めてみたくなったよ」

 

「ッ!!?」

 

 

なのは…そして佐助の言葉を聞いて、ティアナは胸が熱くなる感覚を覚えた。

 

(なのはさんも……佐助も……皆……アタシの事を……真剣に考えて……!)

 

2人のそれぞれの温かい心を知ったティアナは、気がつけばその両目から涙がこぼれ落ちる。

 

「う…うぅ……」

 

嗚咽を漏らすティアナを、なのはは優しく抱き寄せた。

 

「大丈夫。ティアナならきっと出来る! そして、スバル達と一緒にこれ以上ない最高のフォワードチームになると思う。私はそう信じているよ」

 

なのはがそう語ると、佐助もティアナの傍らに立ち、敢えて彼女の泣き顔から目を反らしながら言った。

 

 

「俺はなのはちゃんと違って、下手に励ますような事はしない。これから俺が教える忍びの技を物にできるかは、お前の心一つだ。でも…」

 

 

一見厳しいことを言いながらも、佐助は途中で言葉を遮ると、フッと小さく笑いながら続けた。

 

「一度どん底を味わって、俺や皆から諭されたんだ。それだけ打ち鍛えられた心があれば乗り越える事ができるだろうとは、期待しているぜ」

 

そして、ティアナにだけ聞こえるように、小声でこう言った。

 

 

「一緒に頑張ろうぜ。お前の兄貴の分も」

 

 

ハッと顔を上げたティアナはなのは、そして佐助をそれぞれ見つめた。

なのはも、佐助も、それぞれ優しく自分を見つめていた。

 

(バカだ……こんなにも私を心配して……気遣ってくれる人が……ずっと傍にいたのに……私ったら……本当に……)

 

ティアナは、なのはの胸に縋り付くと声を上げて泣いた。

 

「ごめんなさい!…ごめんなさい!…ごめんなさい!…ごめんなさいぃぃぃ!」

 

何度も、何度も謝りながらティアナは泣き続け、なのははそれをしっかりと抱きしめて受け止める。

佐助はなのはに軽く笑いながら頷き、なのはもそれに答える様に微笑みながら頷く。

 

 

「よし。これでなのはちゃんとは仲直りできたみたいだな…だけど、お前。もう3人謝らないといけない奴がそこにいるんじゃないか?」

 

「えっ!?」

 

佐助がそう言うと、スバル達のいる茂みの方を向く。

その言葉になのはの胸に縋り付いていたティアナが驚いて顔を上げる。

「出てきな」と目で合図を促す佐助に、スバル達は慌てて立ち上がった。

 

「スバル…それにエリオ…キャロも……」

 

「ティア」

 

スバルは優しい声でティアナの名を呼ぶ。

ティアナは驚いて3人の顔を見ていたが、なのはと佐助が頷きながら、その背中を優しく押す。

ティアナはゆっくりとスバル達の許に近づき、そして抱きついた。

 

「スバル…エリオ…キャロ……ごめん!…心配かけて、本当にごめんなさい!」

 

ティアナは、涙を流しながらスバルに謝罪する。

そしてスバルは、そんなティアナを優しく撫でて励ます。

 

「もういいんだよ…やっとティアがいつもの、ティアに戻ってくれた…それだけでも十分嬉しいから」

 

そう言ってくれる“相棒”の温かい言葉に、ティアナはまた涙がどっと溢れ出てきた。

 

そう…ティアナを心配し、想ってくれていたのは、なのはや佐助達だけじゃない…

 

スバル、エリオ、キャロ…FWの仲間だってそうだった。

 

この仲間がいるからこそ、自分は今まで多くの苦難を乗り越えてきたのだ…久しく忘れかけていた安心感が戻ってきたような気分だった……

 

「私は…フォワードチームの指揮役だっていうのに……自分の事ばかり考えて、ずっと皆の事を疎かにしてたのよ…特にスバル…アンタには散々心配かけた上に、酷い事ばかり言って……」

 

ティアナの声を打ち消すように、スバルは言葉を重ねた。

 

「私だってそうだよ。家康さんの弟子になってから、家康さんに新しい技を教えてもらったりして、それが楽しくて…その間にもティアがこんなにも1人で悩んで苦しんでいたっていうのに、それに気づくのが遅かった…もっと早く気づいて一緒に考えていれば、ティアをここまで悩ませる事はなかったんじゃないかなって…そう思うんだ」

 

「……それは僕も同じです」

 

「私も…」

 

スバルの言葉に続くようにエリオ、キャロが申し訳なさそうに頭を下げた。

そんな3人の謙虚な態度にティアナは思わず、口から嗚咽を漏らす。

 

「私は…私は……アンタ達にここまで迷惑かけたのに……」

 

スバルはそっとティアナの手を握りしめた。

 

「それは違うよ。私はティア程に頭良くないし、ティアがいるからこそ、フロントアタッカーとして、思いっきり戦う事ができるんだよ。ティアは私にとって最高の“パートナー”なんだから!」

 

エリオがそっと近寄り、スバルとティアナの手に自らの手を重ねた。

 

「僕だってそうです。ティアさんの冷静に状況を見定めて、想定外の事態に際しても柔軟に対応する判断力…そのおかげで、槍を振るう事ができているのですから」

 

最後にキャロが3人の手の上に自分の手を置きながら言った。

 

「『私達4人は誰1人欠ける事のできないチームだ』…これは機動六課が結成されて最初の任務の時にティアさんが言ってくれた言葉です。この言葉があったから、私も今まで頑張ってこれました」

 

ティアナは嗚咽を漏らしながら3人の仲間を見つめた。

スバル達の瞳にも涙が浮かんでいた。

 

「スバル…エリオ…キャロ…わ、わ、私はぁ…! ご…ごめんなさい…皆、本当にごめんなさい……」

 

「もういいよティア。それよりも、佐助さんに忍術教えてもらえる事になって、よかったね」

 

「他ならぬ兄上の右腕である佐助さんの技なのです! きっとティアさんも更に強くなると思いますよ!」

 

「頑張って下さい。ティアさん」

 

ティアナは両手を広げて3人を抱きしめた。

 

「みんな……! ありがとう……ごめんなさい……!」

 

ティアナは泣きながら3人に詫びた。

 

 

フォワードチームの4人は強く抱きしめ合い、そのかけがえのない友情と絆を確かめた。

その様子をなのはと佐助は、微笑ましく見つめていた。

 

 

 

「良い面構えになったじゃねぇか。Rookies…」

 

「あっ! 政宗さん!?」

 

不意にかかってきた声に一同が振り返ると、いつの間にか政宗が立っていた。

その隻眼は何時になく優しげな眼差しでスバル達を見つめていた。

 

「独眼竜の旦那~。片倉の旦那に説教されていたんじゃなかったのさぁ?」

 

「Ah? なんとか隙をついて逃げてきたんだよ。あのままじゃ、また『腹切れ』とでも言われかねねぇからな。アイツの血の気が引くまでSocial distanceをとるつもりだ…」

 

「『ソーシャルディスタンス』ってそういう意味じゃないと思うんだけど…」

 

佐助が冷や汗を浮かべながらツッコミを入れていると、なのはが思い出したように政宗の前に駆け寄っていく。

 

「あの…政宗さん」

 

「ん? なんだ? なのは」

 

なのはは、何やら顔を真っ赤に染めながら、話しづらそうに言いよどむ。

ティアナに見せていた優しい教官の顔とは違い、それはまるで“乙女”が見せる表情だった。

 

「その……今日は…ありがとうございました。また…命を助けて貰っちゃって…」

 

なのはが高ぶる想いをどうにか言葉にして伝えると、政宗は一瞬キョトンとしながら見つめていたが、すぐにフッと気障な笑みを浮かべる。

 

「そんな事か? Don't worry。 俺は、大谷やあの後藤又兵衛(カマキリ野郎)に好き放題されるのが気に食わなかったから、独眼竜の流儀に沿って暴れてやったまでだ。まぁ…今回は派手にやりすぎて、俺も大火傷負う事になっちまったが…」

 

そう言って、自嘲する様にボヤく政宗に対して、なのはも思わず苦笑を浮かべた。

 

「にゃはは…まさかバイクで街中を全力疾走して、その六爪(りゅうのかたな)だけで空を飛んで敵ガジェットに特攻するだなんて、流石の私もビックリしたというか、言葉が出ないというか…ホテル・アグスタでは小さな隕石に1000万ワイズも一括で落札したりするし…ホントに政宗さんってば、後先考えないというか、豪胆過ぎるというか……」

 

「Ha! それが“独眼竜”の流儀ってもんだ! 誰にも文句は言わせねぇ!」

 

「いや、威張って言える立場じゃないでしょ。アンタ…」

 

胸を張りながら叫ぶ政宗を窘める様にツッコむ佐助だったが、なのはは…

 

「うぅん。私にしてみれば…その……破天荒だけど、ワイルドでカッコいいかな…?///」

 

「でも今度からもうちょっと、周りを見て行動しようね」と慌てて付け加えながらも、赤面しながら何時になく小声で話すなのはを見て、政宗は意外そうな顔で少し驚くが、すぐに笑い出す。

 

「おいおい、さっきまでTeacherな顔してたくせに、今は随分とReddyな顔しているじゃねぇか? まぁ、個人的には、そっちの方が似合ってやがるぜ」

 

「ふぇ!?」

 

不意に政宗に褒められ、ドキッとなったなのは。

 

佐助は「あらま。前田の風来坊みたいな事言ってるよ」と誂うように笑い出し、スバル達、FWの4人はなのはの反応を意外そうに見つめる。

 

(ね、ねぇ…ティア……もしかして、なのはさんって…)

 

(…政宗さんに…惚れているの……?)

 

FWの年長組のスバルとティアナは、なのはの見せる雰囲気から、すぐに彼女の心に芽生えだした政宗への熱き感情…“恋”の気配を察する。

それはキャロも同様に察していたのか、驚くような、楽しそうな表情を浮かべながら、口元を手で覆っていた。

唯一、エリオだけは何もわかっていないのかポカンとした表情を浮かべながら、2人の様子を見つめていた。

 

 

「政宗様! どこですか!? 政宗様ぁッ!! お話はまだ終わっていませんぞ!!!」

 

「ゲッ!? こ、小十郎!?」

 

 

その時、隊舎の方から小十郎の怒鳴り声が風に乗って聞こえてきた。

それを聞いた政宗が慌てて、踵を返す。

 

「チィッ! うるせぇのが来やがった! 悪ぃお前ら! 小十郎がこっちに来たら上手く言い訳しておいてくれ!!」

 

そう言い残して、政宗は脱兎の如く駆け出していった。

 

「あっ! 独眼竜の旦那!? さっきの声がした方角からして、片倉の旦那は多分―――」

 

佐助が忠告する暇もなく、政宗はあっという間に防風林の向こう側へと走っていった。

そして、数秒も経たぬ内に…

 

 

「見つけましたぞぉぉぉ!! 政宗様ぁぁぁぁぁぁぁ!!! さぁ! 支度を整えます故に、この小十郎と共に腹を召されるご用意をおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「Oh Noooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」

 

 

 

防風林の反対側から小十郎の怒声と政宗の絶叫が、激しい剣戟や喧騒と共に聞こえてくるのであった。

 

「「…そっちの方にいるから注意して」って忠告しようとしたのに…しゃあない。腐れ縁のよしみだ。助けに行きますか」

 

「わ、私も手伝います!」

 

「私も!」

 

「僕も!」

 

「わ、私も!」

 

呆れながら小十郎を制止する為に駆け出す佐助に、スバル達フォワードチームの4人も慌てて追いかけていく。

そんな、スバル達の背中を見つめ、なのはは安堵の笑みを浮かべた。

 

 

…紆余曲折はあったけど、フォワードチームは、ゆっくりだけど、確実に理想の形に近づいて行っている。

 

そして政宗達“戦国武将”の存在こそ、スバル達の持つ素質をさらに高め、自分をも超える素晴らしい魔導師へと成長させていくだろう…

 

そして、自分自身にとっても、政宗は……政宗は……

 

「―――ッ!?」

 

一瞬、無意識の内に何故か政宗の事が頭に過ぎった事に驚き、思わず赤面しながら、戸惑う。

 

(こ…この感情って……?)

 

なのはは自らの昂る心の理由を考えかけるが、今はそれどころではない事を思い出して頭を振ると、急いで、FWの4人の後を追って駆け出すのだった。

 

 

 

 

同時刻・陸士556部隊隊舎 留置施設。

 

「くそ!くそ! あともう少しで上手くいくところだったのに!! 大谷も皎月院も自分達だけ、そそくさと逃げやがって! アイツら…誰のおかげで六課を陥落寸前に持っていけたと思ってやがんだ! あの恩知らず共め!!」

 

牢屋の一室ではジャスティ・ウェイツ“元”准陸尉が部屋の壁を殴ったり、蹴ったりして八つ当たりしながら、誰に向けるともない悪罵を吐きまくっていた。

 

此度の西軍への内応による咎で、ジャスティはこの日の深夜0時付けで機動六課からの正式な解雇が宣言され、同時に管理局からは局内における階級と、通信士、管制官としてのライセンスまでも剥奪され、正式な沙汰が下されるまで、この留置所に入れられる事になった。

たった一晩で彼は一転して、『管理局に反旗を翻し、犯罪集団に加担した造反者にして犯罪者』に転落したのであった。

 

「こうなったら……西軍(アイツら)の企んでいた事の全部を機動六課に訴えてやる! ヘヘッ…あのお人好しの八神部隊長やハラオウン執務官の事だ…俺が素直に話をするって言ったら、多少は情状酌量で目溢ししてくれるだろうからな……そうだ! ついでにアイツらの本拠点も言ってしまおう。そして、俺は大谷に洗脳されて、あんな小悪党になっちまってた…それだ! その筋書きなら、あわよくば俺も管理局に戻れるかもしれねぇ…」

 

ジャスティは爪をガリガリと噛みながら、下衆な笑みを浮かべて、ブツブツと呟いていた。

かつては多少プライドが高く、偏狭な性格ながらも管理局員としての矜持は持ち合わせていたジャスティではあったが、一度闇に落ちた人間の心の歪みは酷く、皮肉にも今の彼は傍から見れば、彼自身が言うとおりの「小悪党」としか言いようがなかった。

 

明日にも尋問が始まるだろう…その時が楽しみだ――――

そう考え、ようやく昂った気持ちが落ち着くのを確認したジャスティが、横になろうとすると、コツコツと誰かが近づいてくる音が聞こえる。

見回りの看守の足音にしては随分軽い音だ。

まるで、女物の履物のような……

 

「おやおや…今度はわちきらを裏切るつもりかい? そいつはちょいと薄情じゃないかい…?」

 

現れたのは赤、紫、黒の派手な着物を纏った花魁風の装いの女 皎月院だった。

 

「ア…アンタ……どうやってここに!? ってか何しに来たんだよ!? まさか、今更助けにきたんじゃないだろうな!?」

 

動揺しながらも、ジャスティは皎月院に対し、精一杯の威勢を示しながら声を張り上げた。

しかし、皎月院はニヤァッと邪悪な笑顔を浮かべながらこう言い放った。

 

「アンタの様子次第じゃ、そうしてあげてもよかったけどねぇ…でも…アンタ自身にもうわちきらと手を結ぶ気がないというのなら仕方ないね…」

 

そう言いながら、皎月院は頭の女髷に差していた簪の一本を取り出し、それを使ってジャスティの居る牢屋の鉄格子の戸の鍵を難なく開けてしまった。

 

「ッ!?」

 

その手際の良さに戦慄するジャスティを尻目に、皎月院は何でもないかのように鉄格子の戸を開き、牢屋へと足を踏み入れた。

 

「……お、おい……何やってんだよ…!? まさか…俺を殺すつもりじゃ…?」

 

「そうしてやるのが、一番手っ取り早いけど…それじゃあケレン味がないじゃないか。それに…一時(いっとき)とはいえ、アンタには色々と世話になったからねぇ。その謝礼として、特別に命“だけ”は勘弁してやるよ」

 

「い…命“だけ”って…?」

 

「あぁ。アンタの口から徳川や機動六課の連中に余計な事をベラベラ喋られては困るからねぇ。その前にわちきら“西軍”ならびに“豊臣”に関する記憶を消させて貰うよ。今の段階でわちきらの目的が、管理局や東軍の連中に知られるのは避けたいからねぇ…」

 

そう言って、皎月院は懐から野球ボールサイズの大きさの紫色の珠を取り出して、それを片手で構えながら、ジャスティに向かって歩み寄る。

ジャスティは恐怖に震え、必死に後ずさるが、あっという間に牢屋の四隅にまで追い詰められてしまう。

 

「い…嫌だ……誰か!…誰か、来てくれぇぇ!! 誰かああぁぁぁぁぁッ!!」

 

「呼んでも無駄だよ。ここの建物にいる連中は全員、わちきの『(しん)の一方』で無力化させておいたからね」

 

皎月院は優しく囁くような口ぶりで話しながら、手に持った珠をジャスティの顔に向かって近づけた。

 

「や…やめて……ホントに…やめて!……なんにも話しません! 絶対に貴方達の事を口外したりしませんからぁぁぁ!!」

 

「安心しな。この術は命まで消すような悪質なものではないからね…大丈夫…………」

 

 

 

 

 

 

 

苦シムノハ、ホンノ一瞬ダケダカラ………

 

 

 

 

 

 

 

皎月院の声と共に手に握られた紫色の珠に邪悪な光が灯りだす。

そして、その中心に一つの目玉が浮かび、開かれると同時に…

 

 

 

「ぎゃああああああああああ!!!」

 

 

 

 

留置施設中を不気味な紫色の閃光が包み込み、ジャスティの悲鳴が反響した……

 

 

光が完全に消えた時、そこには平然と佇む皎月院と、その足元に大の字になって倒れているジャスティの姿があった。

 

 

「………………ァァアァ………ウゥゥゥェッ………?」

 

 

瞳から完全に光が消えたジャスティが呆然と虚空を見上げ、文字通りに抜け殻のような状態になったまま、言葉になっていない内容の言葉を呟いた。

そんな彼を見下ろしながら、皎月院は愉悦の笑みを隠す為か、珠の代わりに懐から取り出した鉄扇を開き、口元に当てた。

 

「あらまぁ。これは悪かったねぇ…豊臣(わちきら)に関する記憶だけを消してあげるつもりだったのに…“うっかり”人として生きる為に必要な大事な記憶まで消しちゃったよ。まぁ、これで文字通り“生まれ変わって”人生をやり直しできるのだから、よしと思いな」

 

わざとらしく、そう言葉を投げかける皎月院だったが、最早全ての記憶はおろか、人間としての自我さえも失ったジャスティに、彼女の言葉は届いていなかった。

大の字に倒れたまま人ならぬ唸り声を上げるだけの彼に背を向け、やるべき事を終えた皎月院の周りを白い魔法陣が広がっていく。

 

「それじゃあ、ごきげんよう。ジャスティ・ウェイツ……今まで西軍の為に、ご苦労だったね…」

 

そう言い残しながら、皎月院の姿はその場から消えた。

 

再び静寂の戻った留置施設…そこに聞こえるのはからっぽになってしまったジャスティ・ウェイツの知性を感じさせない唸り声だけだった。

 

 

余談であるが、後にジャスティは管理局傘下の専門医療院に収監され、専門的な治療を受ける事になるが、その知性は動物同然にまで弱体化してしまっており、彼に言語能力や人間としての自我が戻ることは生涯なかったという……

*1
本来は本城とは別の国境などの要害の地に築いた城の事を指すが、ここでは本拠点となる場所以外に暗躍の為の作戦準備を整えたりする為の中間準備所を意味する。




やっと『ティアナ成長編』が完結しました!!

っと言っても、あと1、2回程あとがき的な話になるかも知れませんが、とりあえず『ホテル・アグスタ編』から始まって、『模擬戦騒乱編』『潜伏侵略編』と3編に渡って描かれたティアナの成長物語は一先ずこれでお開きになります。

ティアナの問題は解決しましたが残る問題…政宗のおかげで、災害級の被害を街に及ぼしてしまったこの不祥事に際し、六課に救いの手はあるのか…!?(笑)

次回をお楽しみに!
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