リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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大谷吉継の仕掛けた『潜伏侵略』の計をどうにか乗り切り、隊を守る事に成功した機動六課。
ティアナが抱えていた問題も解決し、全てが丸く収まって…などいなかった。

戦いの最中、なのは救出の為に奔走した政宗であったがその過程で起きたガジェットドローンとの交戦で市街地に甚大な被害を及ぼしていた事が発覚する。

一難去ってまた一難に陥ってしまった機動六課の運命は……?


謙信「りりかるばさら すとらいかーず だいさんじゅななしょう…びしゃもんてんのごかごあり……」

景勝「改めて思うけど…おじきの台詞って、本当に小説向けじゃねぇよな…」

かすが「今なんて言ったぁ!?(怒)」



幕間短篇その1
第三十七章 ~風来坊の覚悟 竜の愚行の尻拭い~


 

 

 

《このっっっ大馬鹿者共おぉぉっ!!!》

 

 

 

 

西軍参謀 大谷吉継指揮の下で決行された機動六課潜伏侵略未遂事件から一夜明けた機動六課隊舎・部隊長室では、部屋の窓際に置かれた部隊長専用デスクに座って苦々しい愛想笑いを浮かべるはやてや、彼女に寄り添うように後ろに立つか浮遊しているヴィータ、シグナム、リインの3人に向かって、地上本部の最高権力者 首都防衛長官“レジアス・ゲイズ”中将がホログラムモニターの向こうから地を響かせんばかりの怒声を浴びせていた。

 

 

昨夜は結局4時間しか寝れずに此度の事後処理に追われていたはやて達六課の隊長陣であったが、夜が明けて数時間も経たぬ間に、地上本部司令官から直々のテレビ電話という異例の出来事に追われる羽目になった。

その理由は言わずもがな、昨晩の政宗の暴走運転と新型ガジェットドローンとのカーチェイスが原因で起こった市街地の被害についてであった。

 

《よくも我々、時空管理局の名誉と尊厳、面目をズタズタに傷つけた上に、この儂にまでとんだ大恥をかかせおって!! 死者や重篤な怪我人が出なかった事が、せめてもの救いだぞ!!!》

 

ホログラムに投影された恰幅の良い壮年の男性 レジアスは、その気難しそうな面持ちを更に憤然とさせ、興奮醒め止まぬ態度で、顔を赤くしながら、モニターを挟んで対峙するはやて達に容赦なく怒鳴り散らしていた。

 

「こ、此度の不始末に関しては、本当に申し訳なく思っています! いくら、敵対戦力との交戦中であったといえど、我が部隊の委託局員が、一般公道や公共施設だけに留まらず、あろうことか一般の住宅にまで被害を加えるような事態になった事は、部隊長として監督不行き届きであったと不徳の致すところで――――」

 

《えぇい! そんな見え透いた社交辞令なんぞで許されるような事だと思うか!! これを見よ!!》

 

レジアスがそう言うと、ホログラムモニターの映像を切り替えた。

そこには地上本部の局内事故対策処理課…つまり、今回のような局員が捜査中に引き起こした不祥事でミッドチルダの住民が被害を受けた場合の対処や補償を担う専門チームの局員達が山の様な紙の資料が積まれたデスクで事務作業に追われたり、引っ切り無しにかかってくるテレビ電話のクレームに必死に応対して謝罪するなど、緊迫した様子が映し出されていた。

 

《我が地上本部の局内事故対策処理課は昨日の夜からご覧の有様だ!! この儂も昨日は結局、公邸にも帰れずに、一晩中地上本部で対応に追われていたのだぞ!》

 

「司令官並びに地上本部の皆様には、お手を煩わせてしまい、本当にすみません」

 

《あぁ! 本当に煩わされているとも!!》

 

レジアスが憤然とした様子で嫌味を言い放ってきた。

そして、映像も再び彼の顔を映したものに戻る。

 

《処理課の見積もりによれば……最終的に、一般民家の損壊25件…公共施設の損壊3件(うち1件は当分の間、営業不可レベル)、信号機及び道路標識、街灯の損壊461本、自販機の損壊55台、ポストの損壊23箇所、高速道路一区画間利用不可レベルの損壊、被害車両 277台 負傷者348人(全員軽傷)、その内の20人は我々地上部隊の関係者だ! その被害総額に至っては、約30億ワイズは軽く超えるそうだぞ! 勿論、既に被害を負った市民からの管理局に対する民事訴訟も5件受理されておる!》

 

 

「「「さ、30億ぅぅぅぅっ!?」」」

 

 

具体的な被害総額を聞かされ、はやてと傍らで聞いていたリインとヴィータは思わず気を失いそうになった。

表向きは冷静な面持ちを崩さなかったシグナムでさえも、その額には冷や汗が浮かんでいる。

 

《それだけではない! ほぼ全ての新聞の今朝の朝刊で散々書かれてしまっているぞ! 『時空管理局とはいつから“暴走族”を局員に雇うようになったのか?』…だの、貴様らが笑い者になるだけならいざ知らず、本局(きさまら)地上部隊(われわれ)を一緒くたに考える鈍間な新聞社に至っては『慢性的な戦力不足に悩まされている地上本部は、とうとう“走り屋”を人手にしなければならない様な事になっているのか?』だのと、この私の事まで侮辱するような事を書きたい放題に書き連ねておる! おかげでこのミッドチルダの住民の何人かに此度の大失態がこの儂の不徳と勘違いされたと思うと、腸が煮えくり返る!!》

 

「本当にすみません!!」

 

はやてはとにかく頭を下げた。

以前から、レジアスは機動六課の存在を快く思っていなかった事は、はやても聞き及んでいたが、今回の騒動でますます彼の癇に障ってしまったようだ。

バリバリの武断派な非魔力保持者であるレジアスは、慢性的な戦力不足に悩まされている地上部隊の現状を憂い、優秀な戦力の殆どを本局が独占する管理局の現状を問題視するだけでなく、近年では本局や聖王教会に対する露骨な敵愾的発言が目立つまでになっていた。

本局傘下の部隊ながらクラナガン郊外に本拠点を置き、地上を主な活動場所とする『機動六課』を目の上のたんこぶに思うのも無理からぬところがあり、故に六課が創設されてからも、こうして事あるごとに半ば言いがかりのような理由で叱責をくらったり、捜査への非協力…というような事も何度かあった。

 

「そ、それで、レジアス中将……やはり、此度の損害責任については…私達を追求されるおつもりですか?」

 

リインは、モニターの向こうに映るレジアスの顔色を伺うように恐る恐る尋ねた。

まるで処刑場の絞首台の前に立たされたような気分だった。

流石に30億ワイズもの負債を一手に押し付けられるような事になってしまったら、流石のはやてでもどうする事もできない。 それこそ政宗ではないが、機動六課の「The End!」である。

 

固唾を呑みながらはやて達はモニターを見つめていると、その向こうにいるレジアスは極めて不愉快な表情で鼻を鳴らしつつ、自らのデスクにの上に置かれた胃腸薬と思われる錠剤の詰まった小瓶を手に取ると、中から取り出した何粒かの錠剤を乱暴に口の中への放り込んだ。

 

《フン! この地上(ミッドチルダ)の全ての隊の不祥事の責任追求の権限をこの私が一手に引き受けていれば、とっくにそうしていたつもりだ! しかし…そうはいかなくなった事が、誠にもって残念だ!》

 

「はっ?」

 

グラスに注がれた水を呑みながら、吐き捨てるように述べたレジアスのその言葉に、はやては思わず呆けた声を上げてしまう。

モニターの向こうにいたレジアスがホログラムコンピュータを起動して、乱雑にコンソールを叩くと、六課側の部隊長室に小鳥のさえずりの様な音が鳴り、はやて達の前に一枚のホログラム映像が投影された。

そこには一枚の便箋にこう書き記されていた。

 

 

 

 

時空管理局通知令状

 

            

古代遺物管理部“機動六課”

 

下記の事件に関する、上記の部署並びに部隊に対して科せられし、一切の損害責任追及の権限並びに負債の代請を、本局のミゼット・クローベル統幕議長管轄部署の預かりしところとする。

尚、以後下記の事件について、上記の権限保有者以外の部署関係者による責任追及は一切不可能とする。

 

該当事件…0075年5月◯日ミッドチルダ首都クラナガン南部A70地区ならびにB36地区、H14地区から17地区一帯で発生した連続多重車両事故並びに建築物損壊事件。

 

 

時空管理局本局 総務統括官

リンディ・ハラオウン

 

 

 

 

「先程、私の許に本局からそいつが通達された。此度の事件を知ったハラオウン統括官が朝一番に上層部にかけあったそうだ」

 

「ッ!? リンディさ…否、ハラオウン提督が…!?」

 

はやては思わぬ救世主の名前を見て、思わず顔を綻ばせてしまった。

 

リンディ・ハラオウン―――

フェイトの義理の母親で、なのはやはやて達が魔導師になった当初から様々な面で世話になっている時空管理局の次元航行艦隊の提督である。

現在は総務統括官として所属は本局勤務ながら、なのは達の故郷 第97番管理外世界 地球の海鳴市にて、息子でフェイトの兄 クロノ・ハラオウンの妻のエイミィ・ハラオウンと、双子の孫達と共に実質的な半隠居暮らしを送っていた。

ちなみに彼女は息子のクロノ、聖王教会(現:聖王ザビー教会)のカリム・グラシアと共に機動六課の後見人を務め、はやての有事における魔力リミッター解除の権限やこうした政治的な問題に際しての裏回しなどに尽力してくれていた。

 

今回の騒動も言うまでもなく、昨夜の内にクロノを介して聞かされたリンディは早速行動を移してくれていたのであろう。

 

(クローベル議長なら、負債の件もなんとかしてもらえるですぅ!)

 

リインが歓喜の声を念話ではやての脳裏に直接送った。

ここで下手に顔や声に表せば、モニターの向こうで見ているレジアスの琴線にますます触れてしまう恐れがあるからだ。

 

ミゼット・クローベル―――

ラルゴ・キール名誉元帥、レオーネ・フィルス法務顧問相談役と並ぶ、時空管理局黎明期の功労者で、その偉業から『伝説の三提督』と敬称される本局の重鎮の1人で、管理局内の女性局員の中では最高峰の権力者である。

はやて達は過去に彼女の警護任務に就いた事があった事から、互いに親しい信頼関係にあった。

ちなみに、部隊長のはやて以外は知らないのであるが、非公式という形ではあるが、三提督も六課の設立やその運営に少なからず協力していた。

 

まさか、伝説の三提督が六課の為に自ら腰を上げてくれた事に、はやては、安堵とともにリンディ、そしてミゼットに対して心から感謝の念を抱くのであった。

 

《勝手に足元を荒らされた我々が対処に追われて難儀しているのを尻目に、その当事者はお咎めなしとは…本局重鎮方の後ろ盾を受けた部隊とは実に良いご身分なものだな……》

 

レジアスはせめてもの意図返しのつもりか、はやて達に露骨に聞こえる程の音量の声で厭味を吐き捨てた。

 

「レジアス中将。今回の一件、私達も真摯に受け止めるつもりです。以後、今回のような事が二度と起こらない様に隊員の管理・教育をしっかりと行っていこうと―――」

 

《隊員の手綱をしっかり締めなければならんのは、部隊指揮官として当然の事であろう!?》

 

はやての謝罪を一蹴しながら、レジアスは空になったグラスをデスクに叩きつけるように置いた。

 

《いいか! クローベル議長のお墨付きがある以上、私もこれ以上はどうする事もできん! 故にこの件に関してはこのまま大人しく引き下がってやる! だが、もしも今度、貴様らの部隊の人間が私の膝下でこのような大それた騒ぎを起こしてみろ!?

その時こそ、本局の公安部に直訴してでも、貴様らにも何かしらの責任を負わせてやる!!》

 

レジアスは興奮気味な口調で、最後にはやてに釘を差すように言い放つ。

 

《今は本局の有力な権力者の身内や、聖王教会、そして伝説の三提督の後ろ盾を傘に着て、調子に乗っているのかしらんが…この儂が地上本部の長官である限り、いつまでも貴様ら本局(うみ)の犬共が、この地上で好き勝手できると思ったら、大間違いであるからな!! その辺りのところを肝に銘じておけ! いいか、わかったな!!?

 

まるで自分の胸に溜まった鬱憤をぶち撒けるように散々まくし立てたレジアスは、はやての反論を避けるようにさっさと通信を切り、ホログラムモニターを閉じるのであった。

 

レジアスが視界から消えた事を確認するや、はやてとリインは大きく溜息を吐き出し、はやては頭を、リインは全身をそれぞれデスクの上に押し付けるように突っ伏して、大袈裟なまでに疲れた様子をアピールした。

まだ日も完全に昇っていないというのに、一日過ごすのに必要なエネルギーの3分の2を消費したような気分だった。

 

「はやて~~。大丈夫かぁ?」

 

同じく、安堵と疲弊の溜息をつきながらヴィータが、デスクに身体を投げ出したはやてに心配そうに寄り添う。

 

「あぁ、ぼちぼちやな。いやぁ、それにしてもやっぱり朝からレジアス中将のカミナリ落とされるのは精神的にキツいなぁ~」

 

そう苦笑を浮かべながら話すはやてを気遣いつつ、ヴィータは部隊長室の窓から遠くに見える地上本部の超高層ビルを忌々しげに睨みつけた。

 

「チッ! あの風船オヤジめ…! 自分達が六課に手ぇ出せなくなったからって、その当てつけがてらに、言いたい放題言ってきやがって…!」

 

機動六課をあからさまに毛嫌うレジアスの事は、六課の隊員達も疎ましく思っている者が多かったが、中でもヴィータは特に嫌っていたのだった。

 

「そうは言っても…此度の一件については、十中八九機動六課(我ら)に非があったのだ。レジアス中将のお怒りも今回ばかりは筋が通っていると言わざるをえんだろう。 寧ろ30億の損害請求を食らう事を思ったら、あれくらいの厭味や罵りだけで済んだのは寧ろこの上ない幸運と思わねば…」

 

リインを労っていたシグナムが、そう宥めると、リインも同調するように頷いた。

 

「そうですぅ! 30億も負債抱えてしまったら、とても隊の運営なんて成り立たないですぅ! それこそ、機動六課は解散ですよぉ!」

 

「死にものぐるいで敵の襲撃をやっと防ぎきったっていうのに、その功労者の1人が一番部隊を解散の危機に追いやったなんて…シャレになんねぇよ。まったく、政宗のバカヤロー…」

 

ヴィータは呆れと怒りを込めた目を細めながら、この部隊始まって以来の大ピンチを招いた張本人の名を呟いた。

それを聞いたはやてと「あはは…」と乾いた笑いを上げた。

 

「まさか、政ちゃんのドライビングテクニックが、あそこまで無茶苦茶なものやったなんて考えてもみぃひんかったわ。戦国時代のお侍さんなんやし、馬の扱いもこなれているって勝手に思ったから、バイクもすぐに慣れるとばかり…」

 

「一体、アイツは元の世界でどんな風に馬を乗り回していたというのでしょう?」

 

「少なくとも、絶対にお馬さんも普通には乗っていなかったと思いますぅ…オェ~…昨日の事を思い出しただけで、また酔いがぶり返してきそうですぅ…」

 

それぞれそう話し合うはやて、シグナム、リインの3人に対し、ヴィータがボソりと呟くように指摘した。

 

 

「いや、そもそも“馬”と“バイク”じゃ、全然違うもんだろうが…」

 

 

 

 

そんなわけで、機動六課最大の窮地は、その後ろ盾にあったリンディをはじめとする後見人達の尽力によって、どうにか回避される事となったのだった。

その吉報をなのは達隊長陣へ報告する事も兼ねて、はやて達は隊舎の食堂に昼食を取りに来たなのは、フェイト、家康、政宗、幸村の5人を呼び、食べながら事の説明をする事にした。

ちなみに小十郎と佐助は、午前中の殆どを事務作業に追われて殆ど訓練の出来なかったフォワード部隊の為に軽くトレーニングを施していた為、まだ食堂に来ていなかった。

 

 

「詳しくはわからないが、よかったじゃないか、はやて殿。危うく六課解散…なんて事にならずに済んで…」

 

まだ管理局側の細かい事情についてはよくわからないながらも、家康は一先ず約30億ワイズの損害を被る心配もなくなった事に一先ず安堵していた。

 

「にゃはは……でも、まさか30億なんて額の補償を二つ返事で補ってくれるだなんて…流石は本局の“伝説の三提督”の一角…」

 

「うん。まさにあの人だからこそ成せた事だね」

 

なのはとフェイトは、窮地を救ってくれた最大の功労者であるクローベル議長の偉大さとその権限の大きさに感服するのだった。

 

「はやて。ちゃんとリンディ提督(母さん)にはお礼を言ってくれた?」

 

「勿論やって。あれからすぐに連絡したわ…せやけど、流石のリンディさんも開いた口が塞がらんかったみたいやわ…『機動六課も随分とやんちゃな委託隊員を雇ったみたいね』って苦笑しとったわ」

 

フェイトからの質問にはやてが答えるのを聞きながら、ヴィータは疲れた様に溜息をつく。

 

「『やんちゃ』というより『ムチャクチャ』の間違いじゃねぇのか? なぁ、政宗?」

 

ヴィータがジロリと睨んだ相手…政宗はというと、頭に幾つもたんこぶを作り、頬には絆創膏を貼り付けた顔で、げんなりした様子で答えた。

 

「…だから、俺も昨日はちょっと羽目を外しすぎたって反省してるって言ってるだろうが」

 

「…その様子だと、片倉からも相当油を絞られたみたいだな?」

 

政宗の顔の怪我の様子を見ていたシグナムが呆れながら指摘する。

 

「あぁ…結局、Breaking Dawn直前当たりまで延々と説教されて、1時間ぐらいしか寝てねぇ…まぁ、おかげで“切腹”だけはどうにか勘弁してもらえたけどな」

 

「アハハハ……」

 

政宗の愚痴を聞いたなのはは失笑しながら昨夜の事を思い返していた。

 

ティアナとお互いに謝り、全てが丸く収まったと思った矢先に起きたあの修羅場はある意味では昨日一番の波乱だったのではないかと思えてならなかった。

 

説教中に勝手に逃げ出した事も重なって、さらに怒りを爆発させた小十郎は逃げる政宗を追いかけながら、『鳴神』や『輝夜』などの強力な剣技を繰り出していたのだ。

相手は政宗であるので、流石に刀は峰側に返していたとはいえ、容赦なく放つそれは、まさに切断効果のある雷の乱れ打ちだった。

青白い斬撃波が容赦なく政宗に降り注ぐ、どうにか回避したと思ったら、今度は光の弾丸の様な雷撃の刺突が無数に政宗に向かって飛来する。

必死に地面を転がり回り、六爪でそれらを弾きながら、怒り狂う右目の猛攻から逃げる政宗の顔は、明らかになのはが今まで見てきた中でも一番『恐怖』に満ちた表情であった。

 

最終的にはどうにか攻撃の隙をついて制止に入った佐助や、フォワードチームの4人そしてなのはを含む6人で小十郎を必死に宥め、最終的には騒ぎを聞きつけて隊舎から出てきた家康と幸村、慶次も加わって1時間近く説得し続け、ようやく小十郎は刀を納めてくれたのだった。

しかし、政宗は結局そのまま再び隊舎に連れ戻されると、後は政宗自身が言うように夜明け近くまでそのままぶっ通しで説教を食らう事になったのだった。

 

 

「よく言うぜ。はやてやアタシらや、スタッフの何人かもお前の起こした騒動の事後処理対応とかで、殆ど寝れてねぇんだぞ?」

 

ヴィータが話しながら、食堂の周りの席を顎で示すと、確かに食堂に集まった職員の半数近くが目の下に隈を作り、大きなあくびをかいてかなり眠そうな様子であった。

 

「私達でさえまだ良い方だ。グリフィスなんて、結局一睡もできなかったそうだぞ」

 

食堂の反対側の隅の席で、コーヒーの入ったマグカップを持ったまま半睡半覚に近い状態で、柄にもなくボケーとした表情を浮かべ、同席しているルキノから酷く心配されているグリフィスを見据えながら、シグナムは言った。

 

「…だから悪かったって言ってるだろうが。それにロングアーチ(アイツら)にも午前中に一度詫びは入れてきたぞ」

 

「それは政宗殿…彼にもでござるか…?」

 

幸村がそう言って、別のテーブル席を指差した。

そこにいたのは…

 

 

 

バイク…俺ノバイクガ……ガジェットト一緒ニ…バ~ランバラ~……ヒャハハハハハハハハ…

 

 

 

席についたまま、ガックリと肩を落とし、片言のうわ言をブツブツと呟きながら、魂が抜けて、文字通り“真っ白”になっているヴァイスの姿だった。

愛車のバイクが目の前で木っ端微塵に爆発する瞬間を目の当たりにした事がよっぽどショックだったのであろう…

その姿は最早、哀れなのを通り越してシュールに見えた。

 

「あの…ヴァイス先輩…? 大丈夫ですか?」

 

バイク……

 

「「「「「……………」」」」」

 

同席していたアルトが、見かねた様子で声をかけるが、ヴァイスは返事になっていない言葉しか返さなかった。

もはや余命宣言された患者みたいな状態であり、これには見ていた家康達も流石に引いた。

 

「お、おい政宗! お前が巻いた種なんだから、何とかしてやれよ!」

 

「『何とか』ってどうすりゃいいんだ?! あれ完全に『落ち込む』ってLevelじゃねぇぞ! 今俺が声かけたら確実に俺を呪い殺しかねない勢いで負のAura全開じゃねぇーか!!」

 

「「誰のせいで、あぁなったと思ってんだ!?」」

 

声を揃えて政宗にツッコむシグナムとヴィータを苦笑しながら見つめていたはやてに対し、思い出した様になのはと家康に尋ねた。

 

「そういえば、今朝のフォワードチームの皆の訓練はどうやった?」

 

「うん。今朝は事後処理が忙しくてちょっとしかできなかったけど、皆それぞれ良い感じにやっていたよ。特にティアナなんか皆と仲直りして気持ちに余裕が出来たからか、スバルとのコンビネーションもすっかり以前の調子を取り戻したし…」

 

「今日の午後の訓練から本格的に佐助による忍術の教導を始めるそうでござる。なんだか、いつになく張り切っている様子を見せていたでござったぞ」

 

なのはと幸村は安心したかのような面持ちで説明すると、それを聞いた家康やフェイトも笑みを浮かべながら頷いた。

 

「うん! ティアナが吹っ切れて何よりだ!」

 

「これでフォワードチームの問題も完全に解決だね」

 

2人の言葉を聞き、はやてもようやく憑き物が取れるかのようにホッと息を吐いた。

 

 

「そっか。それなら今回の事件も大方解決したって事で安心したわ。…唯一しっくりせぇへん事は…」

 

「…ジャスティ君の事だね」

 

意味あり気に言葉を付け加えるはやての様子から、彼女の言いたい事をいち早く予感したフェイトは、はやての口が開く前にその話題を切り出す。

それを聞いて、騒いでいた政宗やシグナム、ヴィータも空気を読み、一斉に口を噤んだ。

 

此度の事件で機動六課を裏切り、西軍側についた元通信主任 ジャスティ・ウェイツ准陸尉は、本来なら今日の午後から機動六課隊舎にて、事情聴取を執り行う予定であった。

しかし、今朝になって所轄の陸士隊から入った火急の知らせによって状況は一変した。

 

―――昨晩未明に、陸士556部隊隊舎が何者かに襲われ、勾留していたジャスティ・ウェイツ容疑者が、廃人化された状態で発見された―――

 

この知らせを最初に受けたフェイト及び、機動六課の隊員達が意表を突かれた表情を浮かべ、言葉を失ったのは言うまでもなかった。

 

フェイトは朝食もとらずに、昨晩の襲撃の影響で今日一日安静を言い渡されたシャリオに代わって、幸村を同行させて、ジャスティが搬送されたというミッドチルダ郊外の脳神経専門医療センターへと向かった。

しかし、隔離病棟の病室に収容されていたジャスティは、既に言葉を喋る能力を失っていたばかりか、人間としての自我さえも失われており、動物のような単調行動しか取ることができない状態に陥っていた。

担当医の話によれば、ジャスティは魔法とは毛色の違う特殊な術をかけられた様で、それがどういう原理か全くわからないが、現段階で判明している事といえば、彼の脳は本来の人間の脳の5分の1程の大きさへ縮小してしまっており、もう喋る力を取り戻す事はおろか、人間らしい生活さえも送る事は不可能であるという事だった。

 

こうなってしまったら、最早尋問や処罰云々の話ではない。

フェイトによると、ジャスティは『審議不可能』という事で、彼が犯した罪状についてはこのまま不起訴処分という形になり、今後は脳神経専門の医療院の重篤患者として、隔離病棟の一室で死ぬまで猿も同然に生きざるを得ないだろうとの事であった。

 

身勝手な逆恨みや私利私欲に溺れ、仲間を裏切った末の因果応報…と言ってしまえばそれまでであるが、ある意味では単純に殺されるよりも残酷で悲惨といえる顛末に、流石のなのは達や家康達も、少しばかし憐憫の情を寄せずにはいられなかった。

 

「恐らく、ジャスティは口を封じられたのだろう…」

 

家康が表情を曇らせながら、呟くように言った。

すると、それに同意する様に幸村も頷きながら補足を加えた。

 

「勾留先の陸士556部隊の者達は全員、金縛りの様な状態に陥ってしまい、夜が明けて、定時連絡がない事を不審に思った近隣部隊の者が様子を見にやってくるまで全く動けずにいたようでござる」

 

「金縛りだと!? っという事は…」

 

シグナムが尋ねるとフェイトが頷いた。

 

「うん。 それに隊舎にいた何人かは、壁やガラスが振動する程に大きな女の人らしき声を聞いて、それと同時に身体が動かなくなってしまったって証言しているみたい…」

 

「やはり…皎月院とかいう石田のWhoreが、“(しん)の一方”とかいうTrickを使いやがったというわけか…」

 

「おそらくは…当然、ジャスティ殿を襲ったのも皎月院殿かと…」

 

政宗が首を軽く捻りながら呟くと、それに合わせる様に幸村が言葉を添えた。

それを聞いたヴィータは苛立たしげに舌を打ちながらボヤいた。

 

「ったく。アタシとシグナムであの裏切り野郎をとことん締め上げて、西軍(ヤツら)の事に関する情報を洗いざらい聞き出してやるつもりだったってのにッ!」

 

「あぁ。大谷達に通じていたというのであれば、“豊臣”やスカリエッティが何を企んでいるのか…何かしらの尻尾を掴めると期待していたのだが…」

 

シグナムも冷静な口調で話してはいたが、それでもその顔には少なからず悔しさが滲み出ている様子だった。

2人達の言う通り、裏切り者であるが同時に図らずも貴重な証人でもあったジャスティから情報…特に今回の事件の首謀者である大谷吉継、皎月院(こうげついん)に関する彼の知りうる情報を聞き出す前に、西軍にジャスティの口を永久に封じられてしまった事は、機動六課もとい家康達にとっては、西軍やスカリエッティに近づける筈の大きな手がかりをみすみす奪われた事に等しく、大きな痛手であった。

 

気分が沈みかけた場の雰囲気を憂慮し、なのはは半ば無理矢理話題を変える事にした。

 

「そ、そういえば…ジャスティ君の代わりの“通信主任”だけど…やっぱり、シャーリーが繰り上げって事になるのかな?」

 

「そうやね。シャーリーなら通信関係の責任者としても申し分ないし、その方向で進む事になると思う。今回は他に誰も隊を離れざるをえない人とかもおらんし、ジャスティ君が抜けた穴も補ってくれる人も現れた事やし…」

 

はやてがそう話していた時だった―――

 

 

「いよぅ。皆、おそろいで!」

 

彼女の言っていた『ジャスティが抜けた穴を補ってくれる人』が現れた。

言わずもがな、前田慶次である。

いつもの能天気な笑みを浮かべながら、手には大量の昼食…ミックスフライ定食(ご飯、キャベツ大盛り)を乗せた盆を持ちながら、誰に承諾を得るともなく、なのは達のついたテーブルに座った。

 

「おい、勝手に一緒の席についてんだよ?」

 

「そう固い事言うなって独眼竜。せっかく、同じ隊で寝食共にする事になったんだぜ? もっと仲良くしようぜ?」

 

そう言うと慶次は片手で食事をしつつ、懐からMyPhon12(マイフォン・ツエルブ)を取り出して、反対側の手で器用に操作し始めた。

 

「それよりさぁ、独眼竜! アンタすっかりこの世界でも有名人じゃねぇか! 今朝一で『トゥイッター』チェックしていたら『“無法ドライブ”、“委託隊員”、“機動六課”』がトレンドの123(ワンツースリー)で上位占めてたぜ! 『スマッシュニュース』のアプリでも一面記事にアンタがバイクで無茶苦茶な運転してる写真がトップに出てるし、匿名掲示板の『Goチャンネル』では速くも『走る破壊神』『隻眼のタイフーン』だなんて渾名まで頂戴されてるぜ! よかったなぁ! 『独眼竜』や『奥州筆頭』に代わる新しい二つ名が出来て!」

 

慶次はスマホを見ながら大笑いしつつ、政宗の背中をバンバン叩くが、政宗は不愉快そうにそっぽを向く。

 

「I need this van! そんな安い二つ名なんざいらねぇよ! 俺は『独眼竜』の二つ名があればそれでいい!」

 

「まあまあ! それに動画投稿サイトの『Your tube(ユアーチューブ)』や、『Kick Chop(キックチョップ)』でもアンタの豪快な運転の動画がめちゃめちゃバズりまくってんだぜ!!」

 

「それ…ひょっとして炎上してるだけじゃ…?」

 

フェイトが苦笑しながら尋ねると、慶次はスマホの画面を確認し、それから頭を横振った。

 

「いや…これが意外に高評価が多いみたいだよ? 『下手なアクション映画より面白い』、『最近のYour tuber(ユアチュウーバー)はここまで派手に観せてくれるようになったのか!?』、『これだけ派手に色々ぶっ壊して死者、重傷者ゼロとか、逆にコイツ運転技術神ってね?』…だってよ。どうやらあまりに無茶苦茶過ぎて、Your tuberの動画撮影とでも思われてるみたいよ?」

 

「…ゆ…ゆあちゅーばぁ…? この世界にはまだまだ…未知な文化が沢山あるのでござるな………」

 

まだ、このミッドチルダ特有の娯楽に関する情報が疎い幸村は慶次の口から当たり前の様に出てくるワードについていけずに困惑した様子であった。

 

「ケッ! アタシらはアマチュアのタレントごっこ共じゃねぇっつぅの! 政宗! お前のせいで機動六課(あたしら)まで完全になんか勘違いされちまってんじゃねぇか!!」

 

再び政宗に怒りをぶつけ始めたヴィータをなのはが窘めた。

 

「まあまあ、ヴィータちゃん。 政宗さんも私達を助ける為に必死だったし、それにガジェットドローンに追われてもいたんだから、仕方なかったのはわかってあげようよ?」

 

「そうは言ったってよぉ、なのは! コイツのせいで危うく30億も賠償請求が降りかかりそうになったんだぜ!?」

 

それを聞いた慶次がわざとらしく椅子の上でのけぞった。

 

「うひゃぁ! 30億だって!? 独眼竜は嵐だけでなく借金も呼ぶ男だったわけか! よっ! 貧乏神! 金食い虫!」

 

「Shut up!!」

 

政宗は額に青筋を浮かべてツッコむが、慶次はヘラヘラと笑いながら、スマホを操作し続ける。

 

「悪ぃって。 今のはほんの冗談じゃないか。 やれやれ、皆冗談通じないんだからさぁ。西軍の動きが気になるのも解るけど、こう詰めてばかりじゃ身体に毒だぜ? せっかく戦のない平和な世界にやってきたんだから、偶にはそれを満喫するのも悪くないんじゃない?」

 

そんな呑気な事を平然と言ってのける慶次に政宗だけでなく、なのは達も呆気にとられるばかりだった。

 

「なぁ…ホントにこいつ本当に戦国武将なのかよ?」

 

「とても、昨日大谷の引き連れた洗脳兵士達を相手に大暴れした男と同一人物には思えんな…果たして、コイツにジャスティが空いた穴が塞げるのか…?」

 

ヴィータとシグナムが冷ややかに話し合うのを尻目に、慶次はスマホを片手にベラベラと喋り続ける。

だが、そんな慶次の姿を家康は顔を顰めながら見つめていた。

そんな家康の異変に、慶次は勿論、なのは達も気づいていない。

 

「あっ! そうだ! この際だから、独眼竜や家康や真田の兄さん達もスマホ買ったらどうよ? これすっごいぜぇ? 計算や文作りから、見た景色や音を形にして残しちまえる『写真』に『動画』! その他、何でも色々な事がこれ一台で出来ちまうし、何よりこの『アプリ』って奴が、すげぇ面白いんだ! 俺のおすすめはこの『パズモン』や『ツメツメ』、『プリコメ』に『もののけフレンズ3』なんかも―――」

 

 

「いい加減にしないかッ! 慶次ッ!!」

 

 

突然、今まで黙って話を聞いていた家康が憤然とした表情を浮かべながら声を張り上げた。

突然怒り出した家康に、なのは達や幸村は驚き、政宗も「やれやれ」と呆れながら頭を振った。

当然、食堂にいたスタッフ達からの注目が、一斉に家康達のいるテーブルに集まる。

 

「うおっ!? ど、どうしたんだよ!? 家康!?」

 

「慶次…お前は一体、何の為にこの機動六課に合流したんだ!? なのは殿達やワシらは真剣にこの世界で何かとんでもない事をしでかそうとしている三成や豊臣を止め、そして皆で日ノ本に帰る術を見つける為に、真剣に務めているんだ! いくら、お前はワシらとは違い、一軍を背負う立場にないとは申せ、ここへ来た以上はそんな浮ついた振る舞いをされると困る!!」

 

家康はそう諌めながら、鋭い眼線で慶次を睨みつける。

その威圧感は、いつもの天然で、穏やかな彼の雰囲気とは異なるまさに武人然とした姿であり、なのは達だけでなく、今しがた怒っていたヴィータでさえも思わず圧倒されそうになる程だった。

家康がここまで慶次の態度を厳しく諌めるのには理由があった。

 

 

天下分け目の戦が起こる前―――

 

家康が覇王 豊臣秀吉を打倒し、その覇道と武力をもって天下を統べる時代に終焉を打ってからしばらくの年月が過ぎた頃…ある日、突然慶次が単身で三河の徳川家 本拠点 岡崎城に殴り込んでくるという事件が起こった。

 

 

幼少期からの仲の良かった家康と慶次はであったが、家康が秀吉を倒した一件以来、彼は家康に会うのを拒み、二人は疎遠になっていた。

その理由は、他ならぬ、秀吉にあった……

 

豊臣秀吉…後に天下取りに名乗りを上げ、その圧倒的な武力をもって一度は日ノ本全てを手中に収めた“覇王”であるが、その前の経緯を知った者は皆、その意外な出自に驚かされていた。

 

以前の彼は、慶次の悪ガキ仲間であり“親友”であったのだった。

子供の頃から、共につるんでは悪戯を働いたり、逆に人助けをしたりと自由気ままな生活を送っていた2人であったが、“ある事件”をきっかけに秀吉と慶次は袂を分かち、それぞれに別の道を歩む事となる。

 

秀吉は“力”に傾倒し、“力”こそが全ての世を作る為の覇道の道を…

 

慶次は乱世の最中にある微かな人々の“喜び”…そして自身の負った深い“悲しみ”から逃れる為に傾奇者として自由気ままな風来坊として歩む道を…

 

しかし、袂を分かったといえども、慶次はいつか秀吉と相対して、彼の力に傾倒する事が過ちである事…そして、彼と袂を分かつきっかけを作った“過ち”を償わせようとしていた。

 

だが…それも家康が秀吉を倒した事で二度と叶わぬ事となってしまった。

そして、その事件は家康と慶次の仲にも大きな影響を与える事となった。

 

家康は慶次へと負い目から…慶次は家康への複雑な想いから…お互いに会う事を避け続けていた。

 

それだけに、慶次が城に乗り込んできたと知った家康は驚きながらも、一方では遂に来るべき時が来たかと覚悟したのだった。

 

そして、2人は岡崎城の本丸で一対一で顔を合わせた。

 

久々に再会した2人は始めはお互いにぎこちなく、とりとめのないの会話から入り…そして、慶次の口から「何故、秀吉を討ったのか?」という質問が出た。

 

それに対して、家康はこう答えた。

 

 

―――ワシは恐ろしかった…豊臣の作る未来が…豊臣は戦火を世界に広げようとしていた…ワシはそれが震えるほど怖かったんだ―――

 

 

家康の答えに、慶次は十分理解を示していた。

 

秀吉は決して許されない罪を幾つも重ねていた。当然、いつか誰かの手でその裁きが下されるであろう事はわかっていたし、家康がやらずとも遅かれ早かれ、慶次が秀吉を止めようと動いていたかもしれない…

 

そう話した慶次であったが…そこで突然、その顔には堪えきれない憤怒…そして悲しみの感情が浮かび上がった。

そして叫んだ…

 

 

―――家康ッ! どうしてなんだよ!? 俺はアイツに…秀吉に、自分の罪を後悔させていなかった!! あいつは…生きなきゃいけなかったんだ!!―――

 

 

慶次は慟哭しながら、家康の頬を力いっぱいに殴り飛ばした。

それを見た徳川軍の重臣達が慶次を取り押さえようと武器を構えるが、それを制止したのは家康自身だった。

 

―――もう二度と会えない! ぶん殴る事も、謝らせる事も出来ないんだ!!!―――

 

怒り、そして泣きながら、慶次は何度も家康を殴りつけた。

固く握りしめたその拳の皮膚が摩擦で抉れ、血が滲み出る程に……

馬乗りになった慶次に殴られ続ける家康の頬に、慶次の流した大粒の涙が幾つも零れ落ちた。

それでも慶次は殴るのを止めず…そして家康もまた一切抵抗の意志を見せぬまま殴られ続けながら、呟くように言い続けた……

 

 

―――慶次…すまない…すまなかった……ッ!!―――

 

 

しばらくして、ようやく慶次は殴るのを止めた……

家康は赤く腫れた両頬が…慶次は血に染まった拳が…それぞれに痛々しい様子を見せていたが、そんな事も意に介する事なく、もう一度向かい合い、腰を下ろした。

 

そして、涙の跡が頬に残る顔を上げ、慶次は家康に尋ねた。

 

―――教えてくれ……秀吉は…最後になんて言っていた?―――

 

家康は悲しそうな目で慶次を見つめながら、静かに口を開いた。

 

―――『半兵衛よ…次は何を目指そうか……?』そう言っていた…―――

 

―――半兵衛の…事を……?!―――

 

家康の口から出た意外な名前を耳にし、慶次は驚きながら立ち上がった。

 

袂を分かった自分と違い、心を修羅に売る決心をした秀吉を尚も信じて、共に征く道を選び、そしてその志半ばにして命を落としたもう1人の懐かしき“友”…竹中半兵衛の名を…

 

―――どんな…様子だった…?―――

 

―――昔を懐かしむように…微笑んでいた…―――

 

―――弱音…吐かなかったか!?―――

 

―――悔やんでいたか?!―――

 

―――いいや…最後までワシに屈する事なく、己の意志を貫いた―――

 

 

それを聞いた慶次は、感慨深そうに呟いた…

 

 

―――そうか、アイツは…自分の命を生きたんだな?―――

 

 

慶次はそう言うと、城の中庭へと出た。

そして、雲ひとつない青空を見上げながら、もう一粒…涙を溢しながら空に向かって呼びかけるように呟いた…

 

 

―――いい夢だった……そうだな? 秀吉……―――

 

 

後を追ってきた家康に向かって振り返った慶次の顔はまるで憑き物が取れたかのように清々しい笑顔…いつもの慶次の笑顔であった。

 

己の本音をぶつけ、そして家康の口からかつての“友”の最後を聞いた事で、慶次の胸に燻り続けた重石がようやく取り払われた瞬間だった…

 

それから、慶次は家康に礼を言い、そして殴りすぎた事を詫びてから、颯爽と岡崎城を後にした。

『秀吉の墓参りに行く』と言い残して……

 

あの時、城の城門まで見送った家康が見た、去っていく慶次の背中は決して風来坊ではない…1人の戦国の世を生き、その中で己の信念を貫かんとする“(おとこ)”の背中だった。

 

 

 

だが今の慶次は、その時見せていた強い“信念”が全く見えない。

ミッドチルダでの愉快で快適で裕福な暮らしを満喫したせいか、すっかり武士としては堕落しているにしか見えない有様であった。

故に今の慶次の存在は、腐れ縁でも武将として認められずにいた。

 

「今の慶次を見れば、利家やまつ様も、どれだけお嘆きになる事であろうか…なのは殿達やワシらに協力してくれる事は嬉しいが…そんな娯楽ばかりに現を抜かす余裕があるのなら……」

 

家康は、右拳を固く握りしめ、慶次の顔に向かってストレートを繰り出し、彼の鼻の数センチ手前で寸止した。その風圧で慶次の髪が靡く。

 

 

「あの日…覚悟を持って岡崎城のワシの許へ訪ね、そして己の全てをワシにぶつけてきた時と同じ…強い“信念”を示してくれ!!」

 

 

家康はうちに秘めていた義憤を爆発させるような勢いで叫んだ。

 

「い、家康殿!?」

 

「家康さん!?」

 

「少し落ち着いて!?」

 

幸村となのは、フェイトが狼狽えながら、家康と慶次の顔を交互に見渡す中、政宗、ヴィータやシグナムは、何も言わないで事を見守っていた

対して慶次は、全く動揺しない様子で突き出された拳を見つめていたが、家康はそれでも構わず叫びだす。

 

「慶次がこの世界を満喫している間にも、西軍(豊臣の残党)はこの世界の凶悪な犯罪者までも抱き込んで更なる陰謀を企てている! まして勢力までも拡大している可能性だってあるかもしれないんだぞ!? それなのにお前は――――」

 

「分かっているよ。そんな事…」

 

「……何?」

 

家康の言葉を遮る様に、慶次が落ち着いた口調で言った。

すると、慶次はスマホを懐にしまい、組んでいた足を下ろして座り直した。

 

「悪ぃな。俺も久しぶりに家康、独眼竜達に再会したもんだから、つい嬉しくて調子に乗っちまったよ……けどな…わかっているさ。俺も…秀吉(アイツ)の事は俺なりにケジメはつけたけど……アイツが残した“豊臣軍”はまだ終わっていないって事を…」

 

見ると、慶次の顔つきもさっきまでの遊び人な飄々としたものではなく、精悍な表情となり引き締まっていた。

 

「それどころか、左腕“石田三成”が中心になって再編成された“五刑衆”を中心に、秀吉(アイツ)の犯した過ちが…また繰り返されるとしている……そいつだけは…なんとしても止めなきゃならねぇ…」

 

「……」

 

慶次の言う事を黙って聞く家康。

気がつくと、なのは達や政宗達、しまいには食堂にいた職員達までもが慶次の話を聞き入っていた。

 

「天下分け目の戦が始まった時…俺は新しくダチになった雑賀孫市が率いる雑賀衆と一緒に行動していたって言ったろう? 孫市は『徳川と豊臣、戦いの中でどちらの“生き様”が誇り高いか?』…そいつを見極める目的で関ヶ原に向かうっていうから、俺もそれに便乗したんだ…でも俺は、お前がもし三成に敗れた時は…俺が代わりに西軍に挑もうとも考えていたんだ…」

 

「慶次……」

 

気がつくと、慶次の目つきはひたむきな眼差しへと変わっていた。

 

「確かにこの世界に飛ばされちまったのは予想外だったし、日ノ本とは違うこの世界の文明の素晴らしさについ魅了されたのも事実だよ。でも、今はそれも無駄じゃなかったんだなって思えるよ。だって、こうして家康達がここで引き続き豊臣と戦ってるっていうなら、俺はこの世界で身につけた新しい利器を活用してその力になれるんじゃないかな…? ってね」

 

そう言って、慶次は懐から今度は愛用のスマホを5倍の大きさにしたような外見の電子機器…タブレットPCを取り出してみせた。

そして、軽くタブレットを操作してみせると、それをテーブルの上に置いた。

 

「コイツを見てみな。俺の『Face note(フェイスノート)』のアカウントページだ」

 

慶次に言われたなのはがタブレットPCを手にとり、隊舎規程のホログラムコンピュータを開いてそれに接続すると、画面に表示された映像を全員に見える様にテーブルの真上に大型のホログラムスクリーンに投影してみせた。

するとそこには…

 

「あっ!? これって…!?」

 

そこには一部のニュースサイトや雑誌に記載された『政宗が単独で暴走行為』を働いている風に見える悪意ある修正が施された画像の隣に、その元ネタとなった『ガジェットドローンの猛攻に耐えながら必死に逃げようとする政宗』の写真や、『又兵衛と激闘を繰り広げる政宗』、『なのはを救出して、所轄部隊の現場検証に協力する政宗』の様子が収められた写真が記載され、更にその画像が添えられた投稿内容は、政宗による暴走行為の“真相”が公表できる範囲の情報と共に記事風に記載されていたのだった。勿論、記事には『#機動六課 暴走 真実』とタグが添えられ、既に3万を超えるリツイートがあり、『いいな』も2万5千以上付けられていた。

 

「…俺もちょいと力になろうと思ってさ、昨日の内にweb友の皆に声かけて、あの暴走事件の素人写真の大まかなものをかき集めておいたのさ。そんでもって、今朝のwebニュースや掲示板とかをチェックして、機動六課や独眼竜を悪者扱いしようって記事や写真を探し出して、特に酷いものはこうして『火消し』の投稿をやって被害を最小限に食い止めようと思ったわけよ。

だから、SNSや動画投稿サイトでも悪評判が意外と低かったってわけ」

 

「つまり……お前が手ぇ回してたってのか?」

 

ヴィータが呆気にとられた表情を浮かべながら尋ねた。

 

「そういう事だね」

 

「そういう事だったんだ。 あれだけの大騒ぎを起こしたというのに、思ったよりも六課(わたしたち)に直接来るクレームの数が思ってたよりも圧倒的に少なかったってロングアーチの皆も不思議がっていたけど…」

 

フェイトが合点が行った様に頷く。

 

「これでもなかなか大変だったんだぜ。写真収拾するのも火消し記事アップするのだって引っ切り無しだったもの…」

 

そう笑顔で語る慶次だったが、その笑顔の裏には戦いとはまた違う意味で彼の唯ならぬ努力があった事が伺える。

 

「家康…お前はその為に“東軍”を結成したんだろう? そして、独眼竜や真田の兄さん達はそんなお前の想いを理解し、手を貸すことを選んだ……だったら、俺も今度は俺なりのやり方でお前に力を貸してやりたいと思っているんだよ。 ただ、俺は普通に刀を振り回すだけの血生臭い戦い方はしねぇ。“一軍の大将”じゃなくて遊び好きな“風来坊”としてのやり方でな……」

 

慶次のその言葉に家康はハッと気付かされた。

慶次もまた、既にこれから共に戦う新たな仲間『機動六課』の為に行動を起こしていたのだ…家康や政宗達とは毛色が異なるが…これもまた、ミッドチルダで身につけた新たな“戦い”方のひとつなのだ…

 

さっきまでの遊び人な雰囲気が嘘のように思える慶次の強い信念を示した姿に、家康は拳を解いて、下ろした。

 

「そうだったのか……お前も、お前なりに戦おうとしていたんだな…すまなかった慶次…ワシとした事が、昨日あんな襲撃があった直後で気が張っていたせいか、つい取り乱してしまって…」

 

家康は今、初めて慶次の近未来文明かぶれな傾向が、決して遊びだけでやっているのではない事を認め、同時にそんな慶次なりの志を頭ごなしに否定しようとしてしまった自分の浅はかさを悔いた。

自分の思っていたのとは違い、慶次は慶次なりに自分達の力になってくれようとしている事を、今目の前で確信したからだ。

 

「フッ、お前らしいUniqueな戦い方だぜ。前田の風来坊」

 

その様子を見た政宗も小さくフッと笑う。

すると慶次はいつもの人懐っこい笑みを返す。

 

「気にすんなって家康。俺もちょいと俺の心意気を伝えるのが遅かったからさぁ…それに…」

 

話しながらタブレットの画面をチェックした慶次は表示された画面を見て、「おぉっ!?」と顔を弾ませる。

 

 

「やったぜ! ついに『CIRCLE HOUSE(サークルハウス)』から招待かかったぜ! あのアプリ『一見さんお断り』だからどうやって登録しようか苦労してたんだよ! おぉぉ!? 『パズモン』や『ツメツメ』のアカウントにもプレゼントが大量に贈られてる! 『火消し投稿リプ作戦』すっげぇ効果だなぁ!」

 

 

(((((結局、遊びが目的じゃん(じゃねぇか)!!!!?)))))

 

 

新しいSNSへの登録が出来て喜ぶ慶次に、家康、政宗、なのは、フェイト、ヴィータ、シグナムは心の奥底からシャウトした。

すると、幸村が苦笑を浮かべながら、どうにかフォローを入れようとする。

 

「ま、まぁ各方…何はともあれ、前田殿は前田殿なりに戦おうとしている事がわかったのだし、良いではござらぬか?」

 

「それにしてもだぜ…なぁ、大丈夫なのかよ? はやて。 こんな奴本当に家康達と同じ委託隊員にしちまって…」

 

ヴィータはそう言って、ここまで静寂を貫いていたはやてを指して尋ねる。

しかし、それを聞いたはやては…

 

「……いや…慶次さんこそ、これからのウチの部隊には必要不可欠な人材や…」

 

「へっ!?」

 

惚ける様に呟いたその一言にヴィータをはじめ、なのは達は驚いた。

 

「どういう事なの? はやてちゃん」

 

なのはが尋ねた。

 

「えぇか。 私達の敵は何もスカリエッティや西軍だけやない…レジアス中将を筆頭とする陸上部隊を中心に管理局の中でも私達の事を正味“目障り”に考えとる方々も少なくないのも事実なんや。当然、そんな人達相手には力技でなんとかする…わけにもいかへんやろ?」

 

「そ…それは確かに……」

 

「そうそんな時にこそ情報を巧みに操り、そして口の立つ人材や! “ペンは剣より強し”ならぬ“口は剣より強し”! 慶次さんの戦い方! こんなに心強い戦術はあらへんよ!」

 

はやては徐ろに立ち上がって、慶次を指差し、そして宣言した。

 

「前田慶次さん! 貴方には今日から、機動六課の“サイバー対策”と“外交”を担当してもらいます! その類まれな社交力とこの世界での旅で培った情報処理能力! 私達の為に存分に奮って頂戴な!」

 

「「「「「が…外交もッ!?」」」」」

 

昨日參加した隊員にしては異例といえる破格な役職付きでの待遇に驚くなのはや家康達だったが、慶次は…

 

「いいねぇ! つまり仕事としてSNSやれるってわけかい!? そいつはいいや! サンキューなはやてちゃん! いやぁ、流石京美人は頭が柔軟で話がわかるねぇ! アンタこれからもっと良い隊長になるよ! よっ! 美人慧眼!大和撫子! なんちて♪」

 

 

「あっ……!?」

 

 

慶次の口から出た褒め言葉に、顔を真っ赤にするはやて。

 

「そ…そんな! “京美人”やなんて…あんまりからかわんといてぇや…慶次さん…♡」

 

「あぁ、ワリぃ、ワリぃ。でも俺のやり方で戦わせてくれるアンタのその柔軟なところ、俺は気に入ったぜ?」

 

そう言って、屈託のない笑みを投げかける慶次。

それを見たはやては…

 

「―――-ッ!!?」

 

まるで、胸を何かに射抜かれたかのように目を大きく見開き、そして顔を更に赤く染め上げ、気がつくと頭から湯気が出ていた。

そして、もじもじと身を捩らせながら、身を縮めるように席につき直すはやて。

 

今まで誰も見た事もなかったはやての様子に、いち早くその異変に気づいたなのはとフェイト、シグナムは思わず、ポカンとなる。

 

そしてなのはとフェイトはシグナムに念話で話しかける。

 

(ね…ねぇ…シグナム…もしかして…はやてって……?)

 

(もしかして、今慶次さんに…?)

 

(う…うむ。しかし……まさか…な……?)

 

なのはもフェイトもシグナムも同じ事も同じことが脳裏に過ぎったのか、もう一度見据えて確認する。

当の慶次はというと、家康とヴィータから今のふざけた煽て言葉を窘められ、とうとう頬を抓られて制裁されている最中だった。

 

だが、そんな慶次の様子を見ているはやての表情…それは間違いなく『恋する乙女』の顔だった……

 

 

 

 

そんなわけで、潜伏侵略騒動が解決して間もなくして、六課を未曾有の危機に陥れた騒動は、隊の後見人や陰の協力者達、そして慶次の陰ながらの尽力で、どうにか最悪の事態を回避する事に成功した。

 

ちなみに午前中はまだ事後処理も交えながらの訓練であったが、それも片付いた事で午後からはようやく平常通りの訓練を行う事が出来たものの、今回の騒動の元凶になった政宗はというと…

 

 

「What! 俺だけ訓練參加禁止な上に刀を没収!? なんでだよ!?」

 

 

フォワード部隊と共に合流した小十郎から、『今日より一週間、模擬戦及び訓練への參加禁止』と『禁止期間中は緊急事態の場合を除き、愛刀 六爪(りゅうのかたな)を没収する事』が宣言されたのだった。

 

 

「当たり前です!幸運にも処分や賠償は免れたとはいえども、政宗様の軽率極まりないお振る舞いで、罪なきクラナガン市民に多大な迷惑がかかった上に、危うく恩義ある機動六課のクビまでも切られる寸前に陥れたのは事実です! 切腹は流石にやりすぎたとは申せ、せめてこれくらいの誠意をもって六課の皆に詫びの印を示さねば、奥州伊達軍筆頭としての面目が立ちません!」

 

「He's comin' around! 一週間も丸腰でいろだなんて、そいつは流石にHeavyじゃねぇか小十郎」

 

「“ヘビー”も“蛇”もありません!!」

 

納得できずに抗議する政宗であったが小十郎の意志は固く、結局言われたとおり、政宗は六爪を没収され、それから1週間は『退屈でつまらない』生活を送る羽目になるのであった…




というわけで今回から数話に渡って『潜伏侵略編』の後日談といえる短編をお送りします。

その後は、別の短編を挟んだ後に次の長編に入ると思いますが、それに際して、オリジナル版では、次の長編より参戦していた、オリキャラ屈指の人気キャラ あの“奥州の悪食バカ”が、オリジナル版よりも早く参戦…!?

…するかも…?

???「誰が悪食だよ!? 俺ぁ美食家だぁ!!」
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