リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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ついに本格的に師弟関係とし出発した佐助とティアナ…
しかし、一見気さくに接しているティアナの心の片隅にはある小さな葛藤が燻っていた…

そんな時…彼女の夢枕にある意外な人物が現れ……


信玄「リリカルBASARA StrikerS 第三十八章 出陣じゃあ!! 幸村あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! エリオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

幸村・エリオ「「はい!! おやかたさむぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」

佐助・ティアナ「「いや、どっちもうるせええええぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」



第三十八章 ~胡蝶の夢 幻想に現る戦国の奇術師~

大谷吉継の指揮の下、決行された機動六課潜伏侵略、そして政宗によるクラナガン市街地暴走事件(この事件はネット上や対処した武装隊員達の間で“クラナガンの暴れ竜事件”と呼ばれ、ちょっとした伝説となった)から3日目…

 

この日の訓練を開始する前にティアナは、新形態『ダガーモード』と共になのはからクロスミラージュに追加して貰った第3の新形態『チャクラムモード』を見せていた。

ダガーモードについては既に3日前の訓練で見せていた為、スバル達も知っていたのだが、隊員のデバイス調節役であるシャリオが、ふとしたきっかけからスバル達にチャクラムモードの存在を話したらしく、「是非見てみたい!」とスバルとエリオが目を輝かせながら頼んできた為、仕方なく見せる事にしたのだった。

 

「これが“チャクラムモード”…佐助さんの大手裏剣によく似ていますね」

 

モード3に展開し、いつもの見慣れた双銃形態から完全に別の武器に変化したクロスミラージュを、エリオは興味深そうに眺めていた。

 

「ティアが銃じゃない武器を使う事になるなんて意外だなぁ。しかも手裏剣だなんてまたマニアックな…」

 

スバルもそう意外そうな表情を浮かべながら言った。

同じ訓練校で出会った時からティアナを見てきたスバルにとって、手裏剣というそれまでの彼女のイメージには全く無かった武器がチョイスされた事は予想外であったのかその表情には若干の戸惑いの色も混じっていた。

 

「私も正直、まだ半信半疑なのよね。なのはさんや佐助は、私には『忍術』の才能があるっていうけど、そもそも忍術って具体的にどんな技なのか想像もつかないから…」

 

「まだ佐助さんから忍術を教わっていないのですか?」

 

キャロが尋ねた。

 

「この3日間はまず忍術をこなせるだけの身体にする為の柔軟性と機動力の訓練がメインだったからね。本格的な(シノビ)の技の特訓は今日から開始するのよ」

 

「で、でもティアさん! 忍者になったら、敵に負けた時とかに体内に宿る魔力が暴走して、ティアさんの身体が爆発四散せしめて最期を迎える…なんて事になったりはしませんよね!?」

 

「……アンタの中の“忍者”ってどんなイメージなのよ…?」

 

エリオのどこかズレた心配にティアナが呆れていると…

 

「いやだなぁ。そんな物騒な性質持っていたら、俺様なんか何回身体吹っ飛んでるっつぅの!」

 

そうヘラヘラと笑いながら、噂の“忍者”―――猿飛佐助が現れた。

 

「「「あっ! 佐助さん! おはようございます!」」」

 

「はいはい~、おはよ~さん。いやぁ、若いのは朝から元気が有り余って結構結構♪」

 

「…アンタまだ30手前でしょ? 急にそんな、ジジ臭いセリフ吐いてんじゃないわよ」

 

ティアナが呆れながらそう言うと、佐助はわざとらしい驚いた表情を浮かべた。

 

「えっ!? 俺様、まだまだ若いって!? 嬉しい事言ってくれるじゃないの“ティア”! そっかぁ、俺もまだ若いってんなら前田慶次(風来坊の兄さん)みたいにパリピとかってやれるかな?」

 

「そういう意味で言ったわけじゃないわよ! バカ!」

 

立場上は“師匠”である筈の佐助に容赦なくツッコんでいくティアナに、スバル達は苦笑を浮かべながら見つめた。

なのはからお墨付きを貰い、正式に家康とスバル、幸村とエリオ、小十郎とキャロに次ぐ六課第4の公認の師弟コンビとなってから、ティアナはそれまで以上に佐助に対しては屈託無く接する様になっていた。

先日の潜伏侵略事件の最中、いつの間にか佐助の事を呼び捨てで呼ぶようになっていたティアナは、正式に師弟関係を結ぶにあたって、自分だけ無礼講なのもどうか…という事で佐助に対して、親しい者のみの呼称である「ティア」と呼ぶ事を許し、今ではすっかりお互いにタメ口で語り合える仲となっていた。

それに伴って、こうして佐助のボケに対してティアナのちょっと辛口なツッコミが飛ぶ、夫婦漫才みたいなやり取りが日常茶飯事のひとつになりつつあった。

 

「は~い。フォワードの皆。訓練始めるよ~」

 

そこへ、佐助に遅れてやってきたなのはが号令をかけると、フォワードチームの4人と佐助が彼女の元へと集まった。

なのはの横には、アシスト役のヴィータ、そして現在『クラナガンの暴れ竜事件』の咎で目下謹慎中の政宗とロングアーチにて研修中の慶次を除いた戦国武将の面々が集っていた。

 

「昨日話していたとおり、今日はそれぞれ個人的な技能の強化訓練に集中します。 スバルは家康さんと徒手空拳、エリオは幸村さんと槍術、キャロは小十郎さんと剣術、そしてティアナは佐助さんと忍術の訓練。 私とヴィータちゃんはそれぞれ順番に見学して教えられるところがあったらアドバイスを入れていくからね」

 

なのはがそう言うと、各員それぞれ師弟同士に分かれて特訓が開始された…

 

 

 

「それじゃあ……『猿飛佐助先生の楽しい忍者教室』! はっじまるよ~~♪」

 

森林をイメージしたシミュレーションの光景が広がった訓練所の一角にティアナを連れてやってきた佐助は、そうチャラけた調子で特訓開始を宣言しようとして…

 

 

パカンッ!

 

 

「あ痛ぇ!?」

 

ティアナに頭を叩かれた。

 

「アンタねぇ…仮にも私の“専属教官”なんだから、訓練の時くらい真面目にやりなさいよ!?」

 

「痛つつ…ちょっと、気持ちほぐしてやろうと思っただけだってば。大丈夫だって。ここからはちゃんとやるからさ」

 

佐助は叩かれた頭を庇いながらそう言って、仕切り直すと真面目な眼差しに切り替えて話し始めた。

 

 

「さてと…今日からいよいよお前に(シノビ)の技を伝授していく事になるが…今までの訓練を見ていたところ、お前は魔法を使って幻を作る事ができるのが最大の売りみたいだけど、お前の作る幻ってのは、実際に物を触ったりする事ができるのか?」

 

「えっ? それはできないけど…」

 

ティアナが使う幻影魔法は、複製する事で攻撃の場数を増やすのではなく、敵を撹乱させる事を主軸に置いたものであり、見た目こそ見分けがつかない程に精巧な見栄えの幻影を生成する事が可能であるが、その一方で幻影魔法自体には、物理的な攻撃を加える事はおろか、物に触れる能力さえなかった。

 

「そう。お前の作る幻は敵を“欺く”為にあるが、俺達、忍びは攻め手を“増やす”の為に幻を利用する事もある。例えば……」

 

話しながら、佐助は徐ろに近くにあった大きな木を見据えると…

 

「はぁっ!」

 

「ッ!?」

 

突然、上半身を軽く背けてから、頭突きをする様な仕草で身を前方に突き出してみせた。

すると、佐助の身体の前に出来た影から佐助と同じ体格に服装、髪型まで同じ形をとった分身が現れ、本物の佐助に代わって木に向かって突進していった。

そして影から生まれた分身が木にぶつかり、はじけると同時に、木は轟音と共に真っ二つにへし折れて地面に倒れた。

 

「今のは、俺の駆る幻の一種『影分身』だ。見ての通り、お前の幻と違って、敵を欺くまでの見た目はないが、その代わりに攻撃能力を伴った幻といえる。俺は戦闘でコイツを攻撃の補佐に加えたり、攻撃の要にする事も多い」

 

「なるほど…」

 

「勿論、お前の幻程の精巧な見た目を持ちながら、物理的な攻撃能力を伴った分身を作る事もできるが…そいつはより高度な(シノビ)の技だからな、お前にはまだ早い…従って、お前の目標は、まずはこの『影分身』を上手く操る事がひとつ…そしてもうひとつは…」

 

話しながら、佐助の両手にはいつの間にか2つの大手裏剣が握られていた。

 

「やはり…コイツの使い方を完全にこなす事だ…ティアナ。クロスミラージュをチャクラムモードにして構えてみな?」

 

ティアナは言われたとおり、佐助の大手裏剣と似たフォルムとなったクロスミラージュを手に取り、佐助と同じ様に両手を広げながら構えてみせた。

 

「お前にとって、手裏剣は今まで手にもとった事のなかった未知の武具…当然、その使い方はまだ何も知らない。だから、まずは手裏剣を自分の手足の様に使いこなせるまでにその技を磨く事がお前のもう一つの目標だ」

 

佐助は、そう言うと釘を差すようにもう一言付け加えた。

 

「まぁ、今のお前ならその心配はないとは思うが…俺が許可するまでは、くれぐれも実戦でチャクラムモード(そいつ)を使おうとは思うなよ? 基本も身に付いていない技で敵に挑む事がどれだけ無謀で危ない事か、こないだの戦いで痛いほど骨身に滲みただろうからな?」

 

「……そうね」

 

ティアナは少し苦々しい面持ちになりながら頷いた。

実際、先日の模擬戦中に襲ってきた上杉景勝相手に、独学で学んだ近接戦闘を使った結果、彼(女)(かのじょ)には全く通じなかった上に、直接手痛い指摘と忠言を貰う羽目になった。

あの時は反発しかなかったが、今となっては浅慮にも程がある愚行としか言いようがなかったとティアナ自身恥ずかしいと思えてならなかった。

 

「まぁ、基礎的な白兵戦はダガーモードの特訓とかで、なのはちゃんやヴィータちゃんから教わるだろうから心配はないでしょ。 あとは、この手裏剣独自のクセのある戦法をティアがどれだけ覚えられるか…だけど…」

 

「使いこなしてみせるわ。絶対に!」

 

ティアナは力強い返事で答えてみせた。

 

自分は一人じゃない…頼れる仲間がいる…そして、ちょっと軽すぎるのが玉に瑕だけど頼れる“師匠”も出来た…

今の自分であれば、どんな苦難も乗り越える事ができる……

 

ティアナの胸は、今までとは違う色合いの自信に満ちていた。

慢心や驕りではない…純然たる意味での自信だった。

明らかにそれまでとは違うティアナの様子を見て、安堵の笑みを浮かべながら、佐助は早速本格的な教導にかかる事にした。

 

「よし! それじゃあ、まずは手裏剣の基本的な動作を教えていくぞ。まずは俺の見本通りに手裏剣を動かして―――」

 

まずは大手裏剣のフォームを教え始める佐助と、その教導を真剣に聞き入るティアナの様子を、なのはとヴィータが少し離れた場所から笑いながら見守っているのであった―――

 

 

 

 

「ったくアイツら…楽しそうにやりやがって……それに比べて、俺はなんでこんな事しなきゃならねぇんだよ…?」

 

そして、ティアナを含むフォワードチーム各隊員の個人訓練の様子を隊舎の屋上に増設された菜園から恨めしげに眺めながら政宗は愛刀の六爪…ではなく農具の鍬を手にせっせと土を耕していた。丁寧に農作業用の服まで着用して…

 

「仕方ないだろう? 公式な辞令ではないがお前は今、謹慎中の身なのだ。故にこの隊舎から外へ出る事は原則自粛してもらう」

 

そんな政宗に少し離れた場所に監視する様に立っていたシグナムが少しばかり注意を促した。

そんなシグナムを政宗は反抗的に睨みつける。

 

「んで…お前はなんでここにいるんだよ?」

 

「片倉から『政宗を見張れ』と頼まれてな…お前の事だから、1人にしておけば農作業を嫌がってすぐにサボろうとするだろうと懸念していたぞ…」

 

「Shit! 小十郎の野郎…俺は聞き分けのねぇガキか? そもそもなんで俺がアイツの畑を代わりに手入れしなきゃなんねぇんだ?!」

 

政宗はぶつくさ文句を垂れながら、鬱憤を込めるかのように鍬を乱雑に振りかぶっては、地面に向かって振り下ろした。

六爪を取り上げられ、やる事がないので、自室でボンヤリしようとしていた政宗であったが、その前に小十郎から…

 

 

―――政宗様。暇を持て余すのでしたら、この小十郎の畑でも耕して、精神統一でもされては如何ですかな? 先だっての不始末についてご自分のした事を思い改める機会になるかと思いますが…―――

 

 

と口では提案という体ながらも、半ば強制的に自身に代わって農作業を頼まれ、更にはお目付け役としてシグナムまでも寄越された事でいよいよ断るに断れず、今現在に至る事となった。

 

「………なぁ、シグナム…」

 

「なんだ?」

 

「ちょっとばかりForwardの連中の様子を見に―――」

 

「ダメに決まっているだろう」

 

鍬の手を止めた政宗からの要望にシグナムは呆れた表情で却下した。

要望が虚しく断られた政宗は小さく舌を打ちながら、諦めて鍬を耕す手を再開した。

謹慎期間は1週間…つまり、あと4日はこんな窮屈で楽しみのない生活を強いられるのである…そう考えると政宗の口から自然と溜息が零れ出た。

 

「Ha…Bring on oneselfとはいえ…キツいPenaltyだぜ…」

 

政宗は文句を垂れながら、余計に重く感じられた鍬を動かし、土を耕すのであった…

 

 

 

 

午前中の訓練は無事に終了し、皆は一度隊舎に戻って、昼食と休憩をとる事になった。

それぞれ、専属教官(師匠)との個人訓練を終えたFW(フォワード)の4人は同じテーブルについて、昼食を食べながら各自学んだことについて意見交換をしていた―――

 

「へぇ~。佐助さんって意外と教官としてはすごくまともなんだぁ」

 

山のようにご飯の盛られた特上天丼をがっつきながらスバルが言った。

それに対して、ティアナは呆れた表情を浮かべながら言葉を返す。

勿論、スバルが食べている昼食の量に対してではない。彼女が桁外れの大食感である事は今に始まった事ではないのだ。

 

「いや、“意外にまとも”って…アンタは佐助(アイツ)の事なんだと思ってたわけ?」

 

「あっ!? いや、そういう意味で言ったんじゃないんだよ! ただ、ほら…佐助さんってさ、武田軍の武将じゃない? だから、どうしても…幸村さんみたいなハチャメチャな特訓するってイメージを勝手に思い浮かべちゃってさぁ…アハハ…」

 

そう言って、スバルが目で示す先にいたのは、今日も今日とて顔中、あざやタンコブだらけになりながらも、涼しい顔をしながら大盛りのナポリタンを食べるエリオの姿だった。

 

彼曰く、師匠(あに)の幸村が今日の午前中に課していた訓練は…

 

『巨大な丸太を抱えながらスクワット100回=“山抱”』

『タライに満たした油に両足を浸けながら、火のついた松明を、油に引火しないように注意しつつ、激しく振り翳す槍捌きの訓練10分=“地獄の灯台番”』

『水いっぱいが詰まったドラム缶を背負いながら、100メートルを全力疾走を30セット=“修験の道”』

 

そしてそれらの訓練が終わった後には武田軍恒例“殴り愛”で訓練終了を告げたという。

 

そんな訓練という名の苦行を平然と課す幸村もさることながら、それを躊躇う事なくこなしてしまうエリオもまた、すっかり武田の色に染まってしまったと思わざるをえなかった。

 

「う~ん…今日の兄上の修行は随分“控えめ”だったなぁ…身体の調子でも悪かったのかなぁ?」

 

「いやどこが!? そんな拷問じみた特訓課せれる時点で十分元気有り余ってるよ!」

 

「というより、元気というか“殺気”の間違いじゃないの!?」

 

全く堪える様子もなく平然と言ってのけるエリオに対して、スバルとティアナが声を揃えてツッコむ。

一方キャロは冷や汗を浮かべながらただ笑うばかりだった。

 

「まっ…まぁ、この場合、幸村さんがとことん異例過ぎるっていうか…とにかく佐助はあんな無茶苦茶言ってる事もなければ、訓練のペースだって私の調子に合わせてくれるし…教官として一番バランスがとれているかもしれないわね」

 

そう言って、ティアナは昼食に頼んだハンバーガーにかぶりついた。

するとキャロがサラダの入った器を手に取りながら、呟くように言った。

 

「でもティアさんと佐助さんって…私と小十郎さんや、スバルさんと家康さんみたいに『師匠と弟子』って言うよりは…なんだか、“兄妹”みたいに見えるんですよねぇ」

 

「………ん?」

 

 

「…ひょっとしてティアさん。佐助さんに亡くなったお兄(ティーダ)さんの面影を重ねているのですか?」

 

 

キャロの何気なく言った一言に、ティアナは思わず目を丸くしながら硬直する。

…が、すぐに顔を赤くしながら狼狽し始めた。

 

「ば、バカ言ってんじゃないわよ! 佐助とティーダ兄さんは、全然タイプ違うわよ!」

 

ティアナは声を張り上げて否定するが、スバルは「あぁ!」と何か合点がいったようにポンと手を叩いた。

 

「そっかぁ! よく考えたら、ティアのお兄さんって生きていればちょうど佐助さんぐらいの年になるもんね! だから、ティアは佐助さんにはあんなフランクに接して…」

 

「んなわけないでしょうが! バカスバル! ティーダ兄さんはあのバカみたいにしょっちゅうふざけたりする事なんてなかったし、仕事もプライベートも真面目一筋だったわよ!」

 

「本当に? そんなに違うの~?」

 

スバルが煽るような口ぶりでからかってきた。

 

「そ…それは……面影だけはちょっと…って何言わせんのよ! バカ!!」

 

ツッコミながらティアナがスバルの頭を軽く叩くと、慌てて食べかけのハンバーガーを飲み込んだ。

 

「私はただ、アンタ達と違って、色々とゴタゴタがあった末にアイツに教えてもらう事になったから…どう接したらいいかわからないだけよ。今はなし崩し的にアイツとは屈託のない感じに話しているけど、一応“師弟”関係なんだし本当はそういうのもよくないのかな…? っとも思ってるし……」

 

「そうかなぁ? 佐助さんって、そんな事気にするような人でもないと思うけど…」

 

スバルが頭にできた小さなタンコブを擦りながら言った。

 

「アイツが気にしなくても、私が気にしてるの。アイツとの今の関係って半ば勢いで作っちゃったってところあるから、本当にこのままの態度でアイツから忍術を教わっていいのかなって…そう思っちゃって…」

 

「へぇ~。“アイツ”って誰の事よ?」

 

「だから、ずっと話してるでしょうが。 アイツってのはアンタの―――」

 

不意に、ティアナの背後から茶々を入れるような軽い口調が聞こえてくる。

ティアナが鬱陶しそうに答えながら、振り返ると――――

 

 

「えっ!? 俺様の事?」

 

 

「ってワァァァァァァァオッ!!? さ…さささささ、佐助!!?」

 

 

そこにいたのは手に大きな紙袋を持っている佐助であった。

 

「さ、佐助!? アンタ…いつのまに!? 立ち聞きなんて酷いじゃない!」

 

「おいおい、人聞きが悪いぜ? 俺ぁ、ちょいと美味い干し柿を買ってきたから、お前らに差し入れを…と思って持ってこようとしたんだよ。そしたらお前がなんか騒いでるのが“最後の部分”だけ、チラッと聞こえたからさぁ…」

 

「……“最後の部分”ってどの辺りからよ?」

 

ティアナが訝しげに聞いた。

すると佐助はいたずらっぽく笑い、ティアナの声真似を交えながら答える。

 

 

「『“いや、“意外にまとも”って…アンタは佐助(アイツ)の事なんだと思ってたわけ?』」

 

 

「一番最初からじゃない!? 全部聞いていたって事でしょうが!!」

 

ティアナは再び真っ赤になった顔を横に振りながら、立ち上がると、自分の昼食の皿の乗った盆を抱えて、逃げるように食堂の返却口の方に早足で歩き始めた。

 

「あっ!? ティア、ちょっと待てって! ちゃんとお前の分の干し柿も―――」

 

そう言って、紙袋の中から干し柿を一つ取り出して、ティアナに投げ渡そうとする佐助だったが…

 

「うっさい! 私、干し柿ってあんまり好きじゃないのよ! スバルにでも分けてやりなさい!」

 

「ほぶぅっ!?」

 

片手でキャッチされたそれを野球ボールもかくやの勢いで眉間に叩きつけられる形で返却されたのだった。

 

「やれやれ…ちょいとからかいすぎたかなぁ?」

 

早足で食堂を出ていくティアナの背中を見送りつつ、佐助は苦笑を浮かべながら、彼女が座っていた席に代わりにつくと、紙袋からスバル達の分の干し柿を取り出した。

 

「ほい。まだまだ沢山あるから、いくら食べていいぜ」

 

「わぁっ! ありがとうございます!!」

 

「かたじけないです! 佐助さん!」

 

「いただきます」

 

スバル達に干し柿を手渡し、紙袋をテーブルの上に置くと、佐助は額に張り付いていたティアナに投げ返された干し柿を剥がして、自分で食べる事にした。

 

「にしてもティアも随分、繊細だなぁ。 んな事俺ぁ別に気にしてねぇっつぅのに…」

 

干し柿を食べながら、佐助は苦笑を浮かべた。

 

「でもティアさん結構本気で悩んでいましたよ。“親しき仲にも礼儀あり”って諺もありますからね…」

 

「おっ! キャロちゃん。よくそんなの知ってるね!」

 

「い、いえ! 私も小十郎さんに教えてもらったのを受け売りで言っただけですから!」

 

キャロが慌てて謙遜しつつも、そのまま佐助に尋ねた。

 

「でも、こういう場合ってどうすればいいんでしょうか?」

 

「う~ん。そうだねぇ…まぁこういう時に、昌幸の大旦那だったら、上手く助言して心の壁取っ払ってくれんのが上手いんだけどなぁ…言って俺様もあの人程、人間の心に関しては器用ってもんでもないし…」

 

佐助の口から出た言葉に、干し柿を食べていたスバルとエリオの手が止まった。

 

「“昌幸の大旦那”って…確か前に話していた幸村さんのお父さんの……?」

 

スバルは初めて聞く名前に首を傾げるが、エリオはまた違う反応を示していた。

 

「あぁ! “親父様”の事ですね!」

 

「「おやじさま?」」

 

まるで既に顔見知りの様な反応をするエリオに、スバルとキャロが声を揃えながら尋ねた。

一方、佐助は思い出すかのように頷く。

 

「そっか。エリオは大将と一緒に、昌幸の大旦那と一回顔合わせたって言ってたっけな? なんか大旦那の奇術で…」

 

佐助の言うとおり、エリオは機動六課で唯一人、幸村の父親 “戦国の奇術師”真田安房守昌幸に既に一度出会った事があった。

と言っても、直接相対したわけではない。

幸村と家康が己の信念をかけて決闘し、気持ちの上だけでも天下分け目の戦に一区切りをつけ、機動六課に正式に共闘する決意を固めた日…

同じく、幸村の生き様に惚れ、彼に弟子入りする事を決意したエリオだったが、当の幸村は自分がエリオを導けるか半信半疑になってしまい、返答を躊躇っていた。

そんな時、幸村が肌見放さず身に着けていた真田家の証『六文銭』を介して、突然幸村とエリオの意識が謎の空間に飛ばされ、そこで2人の前に現れたのが昌幸だった。

昌幸はエリオの胸に宿りし武田武士としての素質を見出し、幸村に“兄弟”の契を結んで、熱き魂を伝授せよと諭し、そして二人の絆を深める為に真田家の主君 武田家前当主 武田信玄を召喚し、幸村とエリオの2人に『殴り愛』を直接伝授した。

その結果、エリオはすっかり『武田軍』の色に染まってしまい、今の猛々しく積極的ながらも何処かズレた性格になってしまったのだった。

 

ちなみに幸村によると、昌幸もまた何処かの世界に飛ばされたという話であったが、肝心の何処に飛ばされたのかということは、本人が応えようとしていたちょうどその時にそのまま消えてしまったらしく、肝心なところを聞きそびれてしまったという。

 

「はい! 親父様だけでなく、武田信玄(おやかたさま)ともお会いしました! あのお二人のおかげで、僕と幸村(兄上)は義兄弟としての契を結び、僕は戦国最強の騎馬軍団の魂を受け継ぎし者として生まれ変わったのです!!」

 

「……ちょっと変わり過ぎだけどね…」

 

スバルが苦笑しながらボソリとツッコんだ。

 

「その昌幸さんって、どんな人だったんですか?」

 

キャロが干し柿を食べながら尋ねる。

 

「まぁ、身内贔屓になっちまうかもしれないけど…一言で言えば、まさに“奇術”な御方…って感じかな?」

 

佐助は感慨深そうに語り始めた。

 

「一見飄々としていているように見えて、日ノ本でも有数といえる程に権謀算術や、まさに“奇術”と称するに相応しい不思議な技を次々に駆使して、敵だけでなく時には俺達味方でさえも欺いちまう…かと思えば、それだけの才能を持ちながら大将みたく愚直なまでに武田の御家に尽くす忠義の臣…と思いきや、初心な大将や信之の旦那を捕まえて、やれ“若い頃に遊郭でハメを外した話”だの、“大奥様(カミさん)との初夜や、子供孕ませた時の思い出話”だのと、厭らしい話ばっかりして、大将達の鼻血噴き出させてぶっ倒れさせては面白がったりする茶目っ気みせたり…もう良くも悪くも“先が読めない”人っていうの…?」

 

「んなっ!? ゆ、遊郭!? しょ、初夜!? …破廉恥なっ!!?」

 

「いや、エリオ君が鼻血噴き出しそうになってどうするの!?」

 

何故か佐助の話を聞いただけで、顔を真っ赤にしながら鼻を両手で押さえるエリオに対して、キャロがツッコんだ。

 

「な、なんか、幸村さんや政宗さんとはまた違う意味でエキセントリックな人なんですね…昌幸さんって…」

 

紙袋から3個目の干し柿を取り出しながら、スバルが言った。

 

「けどまぁ、逆に大旦那がいたからこそ、大将が色々迷走しちまっていた間も武田が完全に潰されちまう事はなんとか避けられたんだけどな…それぐらいあの人は武田にとって無くてはならない御人だからな」

 

「でも、お館様はどうして、昌幸(親父様)ではなくて、幸村(兄上)を武田軍総大将代理に選んだのですか?」

 

どうにか鼻血が噴き出すのを堪える事が出来たエリオが同じく3個目の干し柿に手を付けながら尋ねた。

 

「それには2つ理由がある。一つは、大将の力量は、智謀に至っては昌幸の大旦那、武芸に至っては信之の旦那にそれぞれ及ばない事…」

 

「それがどうして理由になるのですか?」

 

スバルが5個目の干し柿を食べながら首を傾げた。

 

「お館様は、自分が病に倒れた後に甲斐国(かいのくに)だけでなく、日ノ本全土が大きくひっくり返されるような大騒ぎになると見越していたのさ。実際に越後じゃ“御館の乱”が起きて上杉軍は大混乱、小田原じゃ日ノ本有数の名門武家のひとつだった北条軍が豊臣の大軍勢に潰されちまって、豊臣の寝首かこうとした伊達軍も石田三成(凶王)に返り討ち…そんな混迷した状況下の真っ只中で、智謀、武力…どちらかに傾いた軍ならば、劣る方を突かれて潰される可能性が高くなる。だから、お館様が求めたのはどちらかに優れているわけではない均一性のとれた大将だった…」

 

「それで…幸村さんに白羽の矢が立ったわけですね?」

 

スバルの言葉に、佐助は頷きながら続ける。

 

「そう。それに大将はずっと武田本家に出向し、お館様の小姓ひいては直臣として槍を振るい続けてきた。でも大将はそれまで一度も自分が軍を背負う立場にはついた事がなかった。お館様も大旦那もずっとそれを懸念されていた。そこで大将を真の“武将”とすべく、敢えて自分ではなく息子を総大将代行と据える事でその成長を促そうとした。それが、昌幸の大旦那が大将に総大将代行を任せた2つ目の理由ってわけ」

 

「へぇ~…息子思いなお父さんだったんですねぇ…」

 

キャロがそう言うと、佐助は苦笑を浮かべながら頷く。

 

「それだけじゃねぇよ。なんというか…一見「バカか!?」と思いたくなるような無茶苦茶な事でも紆余曲折の末に上手い方向に持っていっちまうのが大旦那の特徴なんだよな。つまり、あの人がバカな事をしようとすると最終的にそれはバカでなくなっちまうのさ。 実際に俺も大将が迷走しまくってた時は、流石に『大旦那も、とうとうヤキが回っちまったな』って呆れてたけど…結局、あの人の戦術眼に狂いはなかったみたいだし…」

 

様々な経験を経て、今や立派な総大将たる器を得た主の姿を思い浮かべながら、佐助はしみじみと語った。

 

「っとまぁ、昔語りし過ぎたけど、要するに昌幸の大旦那なら、ティアが思っている詮無き懸念や俺への妙な気遣いだって取っ払ってくれると、そう思っているんだよ。…っとは言え肝心の大旦那は何処にいるかもわからねぇし、居場所のわからねぇものに頼るわけにもいかないし…」

 

「また、何かを介してひょっこりと心の中に現れてくれるといいんですけど…」

 

8個目の干し柿を食べ終えたエリオが呟いた。

佐助はそれを聞いて、いまいちしっくりこない様子で頭を掻きながら唸った。

 

「そのエリオが言っていた“心の中に現れた”っていうのもイマイチよくわからないんだよね。まぁ、あの人にかかりゃ出来ない事はないとは思うけど…」

 

「でももしかしたら、佐助さん達が寝てる間に夢の中にやってきたりして…?」

 

「「「まさかぁっ!?」」」

 

既に16個目となる干し柿を手に取りながらスバルが発した一言に佐助とエリオ、キャロがまるで冗談を聞いたかのように笑い出した。

そこへ、食器を返しに行こうとテーブルの近くを通りがかったシャリオが声をかけてきた。

 

「おやおや、フォワードの諸君。 何やら『夢』が云々言ってるけど、そろそろ『現実』も気にしないといけないんじゃないかな?」

 

シャリオがそう言いながら、食堂の壁にかけられた時計を指差すと、時間は13時55分…

午後の訓練開始予定時刻まであと5分しかなかった。

 

「た、大変! すっかり話し込んじゃった!」

 

「しかも、午後の訓練はヴィータ副隊長とシグナム副隊長が教官の合同模擬戦ですよ!!」

 

キャロとエリオの言葉を聞いてスバルの顔から血の気が引いた。

 

「うえぇっ!? 尚更遅刻したらマズいじゃん!! ご、ごめんなさい佐助さん! 私達の分、食器代わりに片付けといてください!!」

 

スバルが立ち上がるなり食堂の入り口に向かって駆け出すと、エリオとキャロもそれを追って急いで駆け出していた。

 

「ごめんなさい佐助さん! お願いします!」

 

「干し柿ごちそうさまでした!」

 

「おうおう、行ってきな。 午後練しっかりやれよ~」

 

手を振りながら3人を見送った佐助は、「ホントに賑やかなヤツらだなぁ」と苦笑しながらようやく1つ目の干し柿を食べ終わった。

 

「さて、それじゃあ俺様はゆっくりと干し柿を堪能―――ー」

 

そう言って紙袋の中に手を入れた佐助だったが、その手が掴んだのは空虚だった。

 

「へっ?!」

 

訝しみながら、佐助はちらりとテーブルの上を見ると…スバル達の残していった食べ終えた盆の傍らには無残に食べつくされた干し柿の蔕の残骸…

それも、キャロの座っていた席の前には3個程しかないにも関わらず、エリオの座っていた席の前には10個…スバルの座っていた席の前には15個もの干し柿の蔕が残されていた。

 

「……………」

 

そして、佐助が恐る恐る紙袋の中身を覗いてみると…中身は見事にもぬけの殻になっているのであった……

 

 

「アイツら俺の干し柿全部食って行きやがったぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

食堂中に佐助の悲痛な叫び声が響き渡るのであった…

 

 

 

 

 

 

その夜―――

その日の訓練も全て無事(結局、スバル達が午後の訓練開始に5分遅刻した罰か、ヴィータ、シグナム共にいつもの3倍教導が厳しく、おまけに訓練終了時間より1時間も居残り練習を課せられる羽目になったのだが…)に終えてすっかり疲れ果てたFWメンバーはそれぞれ寮の自室へと戻ったのだった。

 

「す~…す~…」

 

「……………うぅん…」

 

そして現在の時刻は深夜1時―――

隊舎の中は殆どの場所が非常灯などの一部を除いた全ての明かりが落とされ、仄暗さと静寂に包まれていた。

女子隊員用の寮の一室…スバルとティアナの部屋もまた、今は全ての常夜灯を除いた全ての明かりが消え、聞こえるのは時折思い出したように駆動する備え付け冷蔵庫のモーター音と、洗面所の蛇口から滴り落ちる水音だけである。

そんな殆どの物音のしない部屋の中でスバルもティアナも、それぞれのベットでぐっすりと眠っていた。

 

「……う…う~ん……」

 

しかし、ティアナは眠ったまま、うなり声を上げ始め、身体を二転三転とさせていた。

 

そう…ティアナは今、夢を見ていたのだった。

 

 

夢―――

それは眠った者が、現実では有り得ないような現象を垣間見る瞬間でもある。

喩え、この中で何が起ころうとも、誰がどういう形で現れようとも、全ては夢の出来事。

故に、これから起こる事は皆…

 

 

 

 

「―――おの――起き――」

 

「……う…」

 

何かが聞こえてくる。

微かに耳に入ってくる謎の音にティアナはゆっくりと身体を起こす。

 

「あれ…ここは…?」

 

ティアナが目覚めるとそこは見たこともない場所だった。

辺りに広がるのは六課の隊舎の近代的な自室ではなく、巨大な和風の造りの城門や城壁に囲まれ、目の前には巨大な水門などが備えられた、どこかのお城の中庭と思しき広々とした場所―――

 

「――諸君――早く起きな――」

 

再び聞こえてくる声…

その声の出所を探っていたティアナの隣には…いつの間にか佐助の姿があった。

 

「って佐助!? アンタどうしてここに!」

 

「うわっと!? て、ティア!? そりゃこっちの台詞だ! こちとら寝てたらいきなりこんな場所に…」

 

佐助もティアナの存在に気がつくと仰天のあまりにその場に仰け反りそうになった。

どうやら、どちらも何の前触れもなく気がついたらここにいたのだと悟ったティアナは改めて、辺りを見渡す。

一方、佐助は何かを思い出したように、呆気にとられた表情になった。

 

「っていうか…ここって…もしかして…!?」

 

「佐助。ここどこなのかわかるの?」

 

「わかるというか…見覚えはすっごいあるんだけどね…」

 

「何よ? その曖昧な表現…」

 

釈然としない言い方をする佐助にティアナはじれったそうに頭を振っていると…

 

「佐助!ティアナ殿!」

 

「うわっ!? びっくりした! …って幸村さん!?」

 

2人の後ろにはいつの間にか、幸村が立っていたのだった。

 

「大将!? 大将までなんでここに!?」

 

予想外の展開に驚くばかりの2人。

すると、幸村も困惑した様に頭に片手を乗せる。

 

「それが…俺にもよくわからん…部屋で寝てたら、いつのまにこの場所に…しかし佐助、ここは…よもや…」

 

幸村は混乱したように佐助に問いかける。

すると、佐助はもう一度周囲を確認しながら、頷いた。

 

「あぁ…あの水門を見りゃすぐにわかるよ…ここは間違いなく “信州上田城(しんしゅううえだじょう)”だ」

 

「し…しんしゅう…うえだじょうって…?」

 

ティアナが尋ねると佐助は未だ半信半疑な様子でもう一度辺りを見渡しながら答えた。

 

「俺や真田の大将の本拠地…真田軍の居城だよ」

 

「えぇっ!? って事は、ここは…アンタや幸村さんの――――」

 

「ご明答! ここは信州! 甲斐武田の軍師が治める武田の分領地! その中核となりし上田の堅城……つまり、お前さん達の故郷(ふるさと)だよ! 小倅殿! 佐助!」

 

「「「!!?」」」

 

三人の耳に突然、飄々としながらも渋さを感じさせるダンディな声が響いてくる。

ティアナはすぐに警戒しようとするが、幸村と佐助はその声に聞き覚えがあるのか目を見開いて驚く。

すると、3人の背後にあった物見櫓の屋根の上に颯爽とひとつの人影が降り立つ。

3人は慌てて、その人物の姿を注視した。

その背後から差し込んでくる眩い光のせいでハッキリとは見えない…が、その神々しい光に慣れてくるに従い、3人の視界が徐々に開け、それに伴うようにして一人の男の輪郭が次第に顕になってきた。

 

「お…お…!?」

 

幸村と佐助はさらに驚きの表情となっていく。

 

そこにいたのは――

 

「やっとお目覚めかい? 全く、3人揃って寝坊助さんだねぇ」

 

黄色いソフト帽の様な形の烏帽子に洋風のマント、口髭、顎髭を蓄えた壮年の紳士…

その姿は間違いなく―――

 

 

「親父様!?」

 

「ま、昌幸の大旦那!?」

 

幸村の父“真田昌幸”その人であった―――

 

 

「昌幸!? …ってひょっとしてこないだ話していた幸村さんのお父さん!?」

 

以前にその名前を聞いていたティアナも、噂に聞いていた幸村の父親がまさか自分達の目の前に現れるとは予想打にしていなかった為か、呆気にとられながら幸村と昌幸の顔を交互に見比べていた。

 

「よっ! ご無沙汰だねぇ♪ 小倅殿、佐助」

 

「“ご無沙汰だねぇ♪”ではございませぬ! 親父様! こないだ某とエリオの前に現れた時といい、どうしてこう前触れもなく現れるのでござるか!?」

 

「「いや、ツッコむところ、そこぉっ!?」」

 

どこかズレた幸村の抗議に横から鮮やかにツッコミを入れる佐助とティアナ。

対する昌幸は『うっかり醤油買い忘れたよ』とでも言うかのようなノリであっけらかんとした調子で謝りながら、サッと物見櫓の屋根から姿を消したと思いきや、次の瞬間には3人のすぐ近くへと瞬間移動のように現れたのだった。

 

「いやいや、悪いねぇ小倅殿。何分この奇術を使って、小倅殿達(そちら)と接触するのもそうおいそれとできるものじゃないもんでねぇ。 こないだみたいにまだ儂が喋っている最中に術が切れたりしたりするから嫌んなっちゃうよ」

 

「あっ! そ、そうでござる! こないだは、某がせっかく親父様の居所を聞きだしてお救い致しに行こうと考えていたのに、親父様とくれば肝心のどこにおられるか明かす前に某達の前から消えてしまったではござらぬか!!」

 

幸村が以前に義弟 エリオと共に接触した際の事を思い返しながら昌幸に抗議をする。

あの時、昌幸はさんざん焦らした挙げ句にようやく自分が幸村達と同様に今日ノ本から飛ばされた先がどこであるか話そうとしてくれた、まさにその最中に術の効果が切れたのか、そのまま幸村達の前から去るという嫌がらせのような形で消えてしまっていた。

 

「だぁから言ってんじゃないの。こうして次元を超えて小倅殿達の前に現れるのも、儂の奇術を持ってしてもなかなか上手くいかないんだよぉ。その辺りのところは悪しからず大目に見て頂戴よ」

 

「“大目に見て”と申されましても…では改めてお尋ねしまするが、親父様は一体何処――――ムグッ!?」

 

再度訪ねようとした幸村の口を片手で押さえつける形で、昌幸はその口を無理やり封じた。

 

「はいはい~。積もるお話はちゃんと後で答えてあげるから。今日は小倅殿じゃなくて、そこなる佐助とその可愛いお弟子ちゃんが主役なのだから、小倅殿はちょっとの間、横でご清聴~ってね?」

 

「お、俺っすか?!」

 

「わ、私…!?」

 

昌幸がわざわざ現れたという事は息子である幸村への言付けかと思っていたら、まさかの自分が名指しされた事に戸惑う佐助とティアナ。

すると、昌幸がティアナの方に視線を向けてきた。

 

「してお嬢さん。アンタが最近、佐助に弟子入りしたっていうくノ一の卵かい?」

 

「えっ!? いえ、別にくノ一の卵というわけじゃないのですが… 佐助に忍術を教えてもらう事になりましたティアナ・ランスターといいます! はじめまして!」

 

ティアナが慌てて身を直しながら自己紹介すると、昌幸は短く頷く。

 

「よろしく。さて、小倅殿や佐助から噂は聞いているだろうけど…コホン!……え~、(やつがれ)、生国と発しますは信州上田! 甲斐武田家当主・武田信玄が重臣にして、『戦国の奇術師』なんて異名を貰い受ける程に、叡智に富んだ甲斐の食わせ者。そして、そこなる小倅、武田軍総大将代行・真田幸村が父 “真田安房守昌幸”でござい~。…ご清聴、ありがとうございました♪」

 

「ど…どうもご丁寧に……」

 

烏帽子を取りながら一礼する昌幸にティアナは何故か無意識に拍手をしていた。

その様子を幸村は呆れながら見ていた。

 

「………お、親父様。その口上確かエリオにも披露してござったが…好きなのでござるか?」

 

「うん。いっぱいちゅき♡

 

「「“ちゅき”ッ!?」」

 

「……あの大旦那? セリフと声と顔が、超絶噛み合ってませんけど…?」

 

何故か急に、そのダンディボイスのまま言い慣れない返事を返す昌幸に、幸村とティアナは目を丸くしながら仰天し、佐助は若干引きながらツッコんだ。

すると、流石の昌幸も今のはちょっとふざけが過ぎたのを自覚してか、少し頬を赤くしながら無理やり咳払いをした。

 

「ま、まぁ冗談はさておいて…此度、こうして小倅殿の前にまた馳せ参じたのは、他でもなく佐助、そしてティアナ。お前さん達にこの昌幸から二、三忠言しようと思ったんだよ」

 

「わ、私達に!?」

 

「どういう事っすか?」

 

ティアナと佐助が尋ねた。

すると昌幸はティアナの前に立ってニヤリと笑みを浮かべた。

 

「例えばティアナ。お前さん、佐助の弟子になったのはいいけど、まだちょっと遠慮したりしてないかい?」

 

「えっ!?」

 

昌幸の一言に思わずドキリと反応するティアナ。

 

「そ…それは……」

 

言葉を詰まらせながら目を背けるティアナを見て、昌幸はしてやったりと笑みを浮かべる。

 

「その顔は図星だね。まぁ、無理はないさ。なにせ、佐助に弟子入りするまでに色々とあったみたいだしねぇ」

 

「なんと!? 親父様はそんな事まで把握しているのでござるか!?」

 

幸村が驚きながら尋ねた。

すると昌幸は頷きながら答えた。

 

「大方はね…このティアナが色々と悩んで、無茶に走って大谷吉継の罠にかかったり…その大谷にお前さん達の本陣を奇襲されたり…ついでに独眼竜がいつもの如く暴走して街をぶっ壊して甚大な被害出したりさぁ」

 

「そ、そんな事まで!? な、何故ミッドチルダにいない筈の親父様がそこまで知っているのでござるか!? 本当に親父様は今どちらにいらっしゃるので!?」

 

幸村は改めて尋ねようとするが、昌幸はまたもそれをはぐらかしながらティアナの方に顔を戻した。

 

「それで…ティアナ。お前さんの気持ちは今どうなんだい? せっかく、本格的に師匠弟子として歩み始めたのだったら、思い切ってここで思いの丈を素直に吐いたらどうなんだい? 気分もすっきりすると思うよ」

 

昌幸が諭すようにそう語りかけると、そのどこか人を落ち着かせるような声質に、頑なになっていたティアナの心も自然と解きほぐされていくような感覚を覚えた。

 

「わ、私は……その…佐助のおかげで新しい戦術を身につける事になりましたし、その…佐助のおかげで立ち直る事が出来ました…佐助には感謝してもしたりないと思っています……」

 

「…ティア…?!」

 

素直に語り始めたティアナに佐助が少し驚いた様子を見せた。

 

「…だから、本当はもっとエリオやキャロ、スバルみたいにちゃんと『師匠』として立てて上げなきゃいけない事はわかっているのですが…何故か、本人を前にするとなかなか素直になれなくて……」

 

ティアナの正直な気持ちを、佐助と幸村は意外そうな表情で、昌幸が納得するかのように軽く頷きながら聞き入る。

 

「なるほど、なるほど…んで? 師匠の佐助さんのお気持ちは如何お考えに?」

 

昌幸が少し戯けた調子も交えながら尋ねた。

すると、佐助は少し考え込むような仕草をとった。

ティアナは自然と胸の鼓動が高まってくるのを感じた。

そして…佐助の口が開く。

 

「ティア…俺はそんな事全然気にしちゃいないって。お前はお前の思うとおりに接してくれたらいいんだぜ」

 

佐助はそう言って人懐っこい笑顔を見せた。

そんな佐助の優しい一言にティアナは思わず頬を少し赤らめかけて…

 

「『師匠』だの『弟子』だのそんな立場とか気にしないでさ……お前が一番しっくりする呼び方で呼んでくれたらいいんだよ。呼び捨てでもいいし、タメ語使おうが…それこそ『お兄ちゃん』と呼ぼうが―――」

 

…いつもの悪癖で付け加えてきた冗談を聞いた事で別の意味で真っ赤に染まった。

 

「だ、誰が『お兄ちゃん』なんて呼ぶか!!? バカ!!」

 

パコンッ!

 

「あ痛ぇぇっ!?」

 

「佐助!?」

 

またもティアナに頭を引っ叩かれて悲鳴を上げる佐助に、昌幸は「やれやれ」と苦笑を浮かべながらごちるように呟いた。

 

「やれやれ…相変わらず女心ってのが、いまいち推し量れないんだからなぁ。佐助も…。小倅殿も女子(おなご)と本格的にお付き合いする時には、取り扱いにはよぉく気をつける事だね」

 

「なっ!? お、親父様! 何を言っておられまするか!!?」

 

ティアナに負けじと赤面する幸村を尻目に、昌幸はもう一度彼女の方へと顔を向けた。

 

「それはさておいて…ティアナ。これでわかったかい? 佐助はお前さんにありのままで接してきても構わないと思ってるんだよ。 それに何も弟子が謙った態度で接するだけが主従関係の全てってものでもない。お互いに柵無く接する事もまた、師弟のあるべき姿でもあるのだよ」

 

「そ、そういうもの、ですか?」

 

「…そういうモンですのよ、我が曾孫弟子殿」

 

自らの次男(幸村)の部下(佐助)の弟子という事に因んでか、ティアナを冗談半分でそう呼ぶと、昌幸はゆっくりと語りかける。

 

「こんな奴だけど、佐助は儂が知る忍の中でも指折りに腕に良い忍…その佐助の技をお前さんが受け継げば、必ずお前さんは一皮も二皮も剥けて大物になれる。お前さんにはその素質がある。この真田安房守昌幸が保証しようじゃないの」

 

昌幸は自信に満ちた笑顔でそう話す。

 

「そして、お前さんと一緒ならば、佐助も更に武将として大きく羽ばたける事だろう。小倅殿とエリオのようにな…

お前さん達には、今はまだ直接見届ける事のできない儂や病床のお館様に代わって、そいつをぜひ見届けてほしい。それがお前さんへのこの儂からの頼みだ…」

 

ティアナは黙って耳を傾けた。

昌幸の言葉を聞き洩らさないよう、しっかりと。

 

「っというわけなんだよ。ティアナ…この『戦国の奇術師』からのきっての願い…聞き届けてはくれないかな?」

 

そう言いながら昌幸は烏帽子を手にとって、ティアナに向かって一礼した。

 

「そ、そんな! 『聞き届ける』だなんて滅相もないです!?」

 

まさかの昌幸に頭を下げて頼まれた事に驚きながら、ティアナは狼狽えた様子で、慌てて頷いた。

 

「も、もちろんです! はい!」

 

ティアナの返事を聞いた昌幸は安堵の笑みを浮かべると、再度幸村と佐助の方に顔を向けた。

 

「聞いただろう? 小倅殿、佐助。お前達も信玄公と同じ“師匠”という立場となったからには決して、“武士(もののふ)”として…否、一人の“(おとこ)”として恥じぬ様、戦術だけじゃなくて、(まこと)の人の“生き様”ってものを弟子達に教えてやるんだぞ。そうすれば、お主達もこれから更なる強さが得られる筈だ」

 

「は! 親父様のお言葉、肝に銘じまする!」

 

「りょ、了解です。大旦那」

 

幸村は土下座をして、佐助は頭を軽く下げて一礼する。

 

「よし。それじゃあ、そろそろ儂は帰りま―――」

 

そう言ってあっけらかんと踵を返そうとした昌幸に対して…

 

「いやいやいや、親父様! お話がまだでございまするぅぅぅぅ!!」

 

幸村が慌ててその裾を掴み、熱苦しいテンションでツッコんだ。

 

「その前に、某がお尋ねしたい事にお答えくだされ!! 親父様は本当に今“どちらにいらっしゃる”のでござりまするか!!?」

 

「なぁんだい。小倅殿、そんなに熱り立たなくてもいいでしょうに」

 

昌幸は面倒くさげに頭を掻きながら、烏帽子を被り直した。

 

「左様に焦らされてばかりだと、熱り立つのも当たり前でござる! 某も佐助も親父様の安否を心配して、一刻も早くお救い致しとうと思っているというのに…!!」

 

「まぁったく、相変わらず心配性だねぇ。小倅殿は…」

 

「いや、でも大旦那…」

 

そこへ佐助が口を挟んでくる。

 

「俺としても大旦那が本当にどこにいるか皆目検討もつきませんよ。だって、こうしてティアが俺の弟子になったって話まで逐一把握しちまったり…」

 

「うん。まるで私達のすぐ近くから見ているみたいに…」

 

ティアナがそう言い添えると、昌幸はニヤリと口の端を釣り上げた。

 

「………すぐ近くに…いるとしたらどうするんだい?」

 

「「「えっ!!?」」」

 

意味深な一言に3人は思わずドキリとなった。

 

「ま…まさか、親父様…!? 親父様は…既に我らの近くに……?!」

 

幸村が恐る恐る核心を突くように尋ねた。

この問いに対し、昌幸は――

 

 

「……なぁんて、うっそ~! そぉんなわけないじゃないのさ! ばぁ~か!」

 

 

――即答だった。

 

 

「「「だあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

 

派手に地面をスライディングするように幸村、佐助、ティアナがずっこける。

 

「大旦那! 頼んますから、こんな時にふざけないでくださいってば!!」

 

「某達は真剣に親父様を案じておるのですぞ!!」

 

埃で汚れた顔を床から上げながら、佐助と幸村が奮然と抗議する。

 

「いやいや、悪いねぇ。あまりに必死な小倅殿達が面白かったからつい…でもまぁ…半分…否、“四割八分”は正解…っと言ったらいいかもしれないねぇ?」

 

「よ…四割八分って…!?」

 

「絶妙に中途半端な指数ね……」

 

佐助とティアナが呆れながら呟いた。

 

「コホン! それじゃあ…今度こそ教えてあげましょうか。小倅殿…佐助…よく聞くんだぞ。 今儂が滞在している場所の名前は…」

 

 

「………場所は?」

 

 

「……場所は…」

 

 

「………場所は?」

 

 

「……場所は…」

 

 

「………場所は?」

 

 

 

「……う―――」

 

 

 

フッ!

 

 

 

またしても、肝心なところを話そうと最初の一語を話し始めると同時にそれに合わせるかのようにして、昌幸は烏帽子に吸い込まれる様にして消え、そのまま高速回転する烏帽子を中心に辺り一面が光に包まれ始める。

 

 

 

「「「いやいやいや!!! ちょっと待てえええええぇ!!!!?」」」

 

 

 

驚きと呆れ、拍子抜け、そして怒りの感情の混じった複雑な面持ちを浮かべながら、幸村、佐助、ティアナの3人は声を揃えて絶叫の様にシャウトした。

すると、光の中からエフェクトのかかった昌幸の声が響いてくる。

 

 

《っというわけで、しっかり頑張るんだぞぉ~~。皆の衆~~~》

 

 

「いや、『頑張れ』とかじゃなくて! 昌幸さーーーん! まだ言ってない! 肝心なところまだ言えてないからぁぁぁぁぁ!!」

 

「何その嫌がらせ!? ってか通信状態の悪いwi-fi(ワイファイ)かよ!? アンタは!!」

 

「っていうかこのやり取り、結局前回の時と全く変わらぬではござらぬかぁぁぁぁぁ!!?」

 

ティアナ、佐助、そして幸村がすっかり姿の見えなくなった昌幸を探しながら、抗議するかのようなツッコミを上げた。

すると…

 

 

《えっ!? なんだって? なんて言ってるかおじさん聞こえないなぁ~~~!?》

 

 

わざとらしい言い回しで昌幸の声が返ってくる。

 

「いや聞こえてるでしょ!? アンタ絶対わざとやってるよね!? そうだよね!?」

 

 

《………では、さらば! 幸村!佐助!ティアナよ!》

 

 

「「「いや、無視すんなコラあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

3人のツッコミが虚しく響く中で光はさらに強くなり、やがて3人は意識を失った…

 

 

 

 

「はっ!?」

 

ティアナが目が覚めると、そこは信州上田城の中庭ではなく、六課の隊舎…ティアナとスバルの私室であった。

ティアナは身体を起こすと、もう一度部屋の中を見渡すが、確かにここは自分の住み慣れた部屋である。

 

「夢…だったのかな?」

 

ティアナはベッドから起き上がると、まだ横で大口を開けて眠っているスバルを起こさないように気をつけながら、カーテンの閉まった窓に近づいて行った。

時計を見ると時刻は朝の4時…

カーテンを開けて外を見れば、ちょうど東の空がうっすらと明るくなり始めていた頃であった。

 

「でも……なんか夢とは違う感覚なのよね…」

 

ティアナはつぶやきながら、さっきの夢の事を考える。

 

「あの人が…幸村さんのお父さん……真田安房守昌幸……ちょっとふざけてる感じだけどダンディな人だったなぁ…」

 

ティアナはしばらく、さっきの夢で昌幸の話していた事を思い出しながら佇んでいた…

 

 

 

 

数時間後―――

 

ティアナは朝食をとる為に食堂に入ってくると、既に片隅のテーブル席についていた佐助が、どこか慌てた様子で立ち上がると、ティアナを呼びつけた。

 

「おいティア! ちょっと来てくれ!」

 

「? どうしたのよ? 佐助」

 

ティアナが向かいの席につくと佐助は恐る恐る聞き出す。

 

「あの…さ…ティア。 お前、昨日大旦那…いや、真田昌幸の夢とか…見たりしてないか?」

 

「えっ!?」

 

佐助の言葉を聞き、ティアナは目を見開いて驚く。

 

「も…もしかして…アンタも見たの? 昌幸さんの夢…」

 

「えぇ!? じゃ…やっぱりお前も!?」

 

佐助の問いに頷くと、逆に佐助に問い返した。

 

「もしかして昌幸さん…私に変に気遣おうとしないでありのまま佐助と接してやれって言ってきたり、自分が何処に居るのかわざと教える前に消えたりしなかった?」

 

すかさず佐助は首を縦に何度も振って肯定する。

 

「じゃあ…二人そろって…」

 

「同じ夢を見たって事?」

 

 

2人は目を見開いたまま、顔を見合わせる。

その時、食堂に幸村がエリオを伴って食堂に入ってきた。

何やら、珍しく機嫌が悪いのか憤然とした様子でいた。

 

 

「全く、親父様ときたら…! 某が真剣に親父様の御身の安否を気遣っておるというのに! もう少し、ご自分の立場というものを真剣に危惧して、真面目に某達を頼りにしてもらいたいものだ!!」

 

「あ、兄上!? 一体、何があったっていうんですか!? 親父様…!? 親父様がどうなさったっていうんですか?! 兄上ぇぇぇぇ!!」

 

いつもと様子が異なり、わけのわからない事を呟く幸村に困惑しながら、エリオがその背中を追いかけていくのを見つめながら、佐助とティアナは呆然とした表情を浮かべた。

 

 

「……………うん。完全に真田の大将(あの人)も俺達と同じ夢みてたわ…」

 

「えぇ。間違いないわね……」

 

幸村の様子を見て、納得した様に頷く佐助とティアナ。

2人(それと幸村)が同じ内容の夢を見た事を確認できたところで、改めて夢の中で昌幸から諭された事を思い返してみた。

 

「………その。昌幸さんはあぁ言ってたけど…正式に師弟関係になったけど、本当にこのままの調子で話してもいいのよね?」

 

「…あぁ。昌幸の大旦那の前で言ったとおりだよ。お前はお前らしい感じでやったらいいさ…」

 

佐助はそう言いながらティアナに向かって微笑を浮かべる。

 

「その分、俺も俺なりのやり方で“お師匠”やらせてもらうぜ? 俺は徳川の旦那みたいな真面目な感じでも、片倉の旦那みたいな堅苦しい感じでも…ましてや真田の大将みたいな熱苦しい感じでもなく…軽~く…それでいて締めるときには締めて…教えていくつもりだよ。ってね?」

 

佐助は微笑を崩さずに、ティアナの顔を見据えた。

 

「勿論、教える時にはビシバシ叩き込んでやるぜ。くどいかもしれないけど、忍の修行ってのは真田の大将や片倉の旦那程でなくとも厳しいもんから、覚悟しておきなよ?」

 

対するティアナも、佐助の視線を余す所無く受け止めていた。

そして――思った。

 

(そんな事言いながらも笑っちゃって…全く、それじゃあ全然締まってないわよ…)

 

 

ちょっと能天気と呼べるほどに陽気だけども、主人である幸村や昌幸達を心から案じ、信頼し、そしてその力になる為に己の全てを出し尽くす…

そして、いたずらに人の命が奪われない様に時には身を挺して守ろうとする熱い気概を見せる…

 

そんな一本気な性格は…まるでティーダ兄さんみたい―――

 

 

 

「えぇ。改めてよろしくお願いね…――――…」

 

「んっ? 何か言った?」

 

「えっ!? ……はっ!?」

 

何気なく返事を返しただけのつもりが無意識にもう一言漏らしていた事を佐助に指摘されて初めて気がついたティアナは、その言葉の意味を思い出した途端に、何故か急に赤面しながら顔を伏せる。

だが、幸いに本当に無意識に零れ出た言葉だった為か、当の佐助には気づかれた様子はなかった。

 

「な、何でもないわ! それより早く朝ごはん食べて、訓練所行くわよ! 遅刻したら、またヴィータ副隊長やシグナム副隊長に、罰として追加の訓練メニュー課されちゃうんだから!!」

 

「へいへい…全く、これじゃあどっちが師匠だかわかんねぇな…」

 

佐助は苦笑いを浮かべながらゴチりつつ、朝食を食べ始める。

そんな彼の様子を見つめながら、ティアナは心の中で先程、思わず口に出してしまった言葉を、今度は自分だけが聞こえる様に心の中で繰り返した。

 

 

 

 

―――改めてよろしくお願いね…“兄さん”…―――

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに……

その日の昼の休憩時間の事―――

 

「はぁ………」

 

ヴァイス・グランセニックは隊舎前の波止場の端に腰掛け、まだ肩を落としていた。

 

「おや? そこにいるのはヘリパイロットのお兄さんですかい?」

 

すると唐突に背後から声がかかる。

ヴァイスが振り返るとそこには紙袋を片手に持った佐助が立っていた。

 

「あぁ…これは…猿飛の旦那…うっす…」

 

未だにショックが抜けられない様子で、ボヤくような返事を返すヴァイスに、政宗にバイクを壊されたショックがまだ抜けられない様子なのかと、内心同情した。

 

「お、おぉ…随分やつれちまってかわいそうに……ほ、ほら、干し柿買ってきたんだけどよかったら食う? 昨日食べようと思ってたんだけどスバル達にほぼ全部食い尽くされちまって、今日改めて買ってきたんだけど…」

 

「あっ……ありがと…」

 

佐助はヴァイスに干し柿をひとつ渡し、ヴァイスの隣に座ると自分も干し柿を食べ始める。

一方、ヴァイスはまだ溜息をついて落ち込んだ様子を見せていた。

そんなヴァイスに佐助は…

 

「ま、まぁ、心中お察しするけど…一応、保険降りてバイク返ってくる事が決まったんだって? だったらよかったじゃない。ぶっ壊されちまって辛いのはわかるけど、とりあえず、また車変えて心機一転すると思えば、ちょっとは気持ち楽になるんじゃない?」

 

「…………」

 

ヴァイスは反応する事無く、顔を俯かせたままだった。

 

「……そ……そうだ! な、なぁ! 今度、よかったら飯でもいかね? 美味いもんでも食えば気持ちもスカッとすると思うよ! 俺がおごってやるから!」

 

「………………うぅ……」

 

「ん?」

 

突然、ヴァイスが干し柿を握りしめながら、肩を震わせ始める。

何事かと思い、佐助が首を傾げていると…

 

 

「あっ…アンタ…アンタって……いいヤツだなああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!

 

 

突然、頭を振り上げてきたヴァイスに佐助が思わずギョッとなった。

その顔は大量の涙や鼻水に塗れ、せっかくイケメンな顔つきがすっかり台無しになってしまっていた。

 

「ちょ!? ちょちょちょ、なんで泣くんだよ!? 大袈裟だっての!」

 

「ウオオオォォォォォン!! だって、だってよぉぉぉぉぉぉ!! 俺、戦国武将(アンタ達)が来てから、六課の中ですっかり空気気味になってたし、なんか「左近がどうこう」とか言われて顔抓られたりして…挙げ句に愛車のバイクをぶっ潰されて……そんな時にアンタはこんな優しい事言ってくれるなんて!! ぐううぅぅぅ!! 戦国武将にもこんな慈悲の深い人っているんだなぁぁぁぁ!!」

 

「い…いやだから大袈裟だって…っていうか、戦国武将(俺達)をどういう目で見てたんだよ? アンタ…」

 

佐助の何気ない優しさがよっぽど嬉しかったのか、号泣しながら顔を寄せてくるヴァイスに佐助は冷や汗を浮かべながら困惑する。

 

「っととにかく一回落ち着けって…」

 

「おみ゛そ゛れ゛し゛ま゛し゛た゛あああああああああああぁぁぁ!! 一生つ゛い゛て゛いきやすぜ『兄貴』いいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!」

 

「いや、それはいいからちょっと離れてくれない!? 人が来たらなんか俺ら変な関係と誤解――――」

 

「ぢーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

「って俺様の忍装束で、鼻かむなァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

 

 

っというわけで、ティアナとの絆が一歩深まったその日…

思わぬ形でヴァイスとの間にも奇妙な友情(?)が生まれる事となった佐助であった…

 

ちなみにこの二人…これより後に六課屈指の“迷”コンビとなる事は、まだ当人達も知る由もない……

 




今回の話は、オリジナル版では信玄公が佐助のティアナ篇におけるティアナへの説法の仕方を窘める目的で現れる話でしたが、リブート版では佐助がオリジナル版より中立よりな感じだったので、昌幸に代わっていただき、目的も佐助とティアナに残っていた僅かな柵を取り払う目的として登場してもらう事になりました。

ついでにオリジナル版でも好評だった迷コンビ 佐助とヴァイスの『THE不幸(笑)☆ブラザーズ』の結成秘話も加えてみました。

ちなみに昌幸は一体何処に飛ばされたのか…?察しの良い人はもうわかりましたか?
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