リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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約1ヶ月ぶりの投稿…いやぁ、ここしばらく調子づいて連続投稿していた結果、案の定反動でしばらく無気力状態になった上に、3度目の緊急事態宣言も重なって、結局GW中の投稿も果たせずじまいに…いやはや、何事も調子に乗るものではありませんね(苦笑)

っというわけで、久しぶりの投稿となる今回ははやてと慶次が主役!
オリジナル版にもあった2人の急接近大作戦ですが、リブート版では意外なキャラが原典やオリジナル版と決定的な違いを見せてきますw

昌幸「リリカルBASARA StrikerS 第三十九章 開幕でござ~~い!」


第三十九章 ~恋する部隊長 はやての手作り大作戦~

「はぁ………」

 

ある昼下がりの機動六課隊舎・部隊長室―――

 

部隊長・八神はやては呆けた様子でデスクに腰掛け、組んだ手に顎を乗せてぼんやりとしていた。

 

西軍による潜伏侵略騒動、そして政宗の起こした『クラナガンの暴れ竜事件』の事後処理もようやく全ての行程が完了し、機動六課はおよそ数日ぶりに、以前の日常を取り戻したのであった。

しかし、日常に戻ったとはいえども部隊長である以上、はやてがやるべき仕事はまだまだ沢山あるはずである。

にも関わらず、はやてはそれらの仕事に手をつけようとせずに、ため息を吐きながら明後日の方向を見つめ、またため息を吐くのであった。

 

「慶次さん……♡」

 

はやては、ここ数日の間、頭から離れない機動六課の新たな仲間…前田慶次の名を呟くと、またため息を吐いた。

 

先日の襲撃で、敵方の将 大谷吉継を相手にしていた最中に、不意打ち…(しん)の一方を食らってしまい、窮地に立たされた自分の前に、まさに風の如く颯爽と現れ、鮮やかに秘孔を突いて助けてくれて、そして迫りくる縛心兵から自分を守りながら、豪快に…されど舞を踊るかのように優雅に奮戦するその武人としての強さ…

反面、その心は、殺伐とした戦国武将の印象とはまるで違う、ちょっとお調子者ながらも、陽気で真っ直ぐで感受性や包容力の豊かな人たらしな性格……

そして、飾り気なく人の長所を素直に褒めるこざっぱりした人柄……

 

 

―――いやぁ、流石京美人は頭が柔軟で話がわかるねぇ! アンタこれからもっと良い隊長になるよ! よっ! 美人慧眼!大和撫子! なんちて♪―――

 

 

「ッ!!?」

 

不意に、はやての脳裏に慶次からかけられた気さくで粋な褒め言葉が思い浮かぶ。

同時に思わず頬が熱くなる感覚を覚え、頭を振った。

 

これまで、徳川家康、伊達政宗、真田幸村…と数々の名だたる戦国武将達が加わり、その都度喜びや興奮を見せていたはやてであったが、慶次に対する感情は今までの面々に対して抱いたそれとはまるで違う…

 

彼を見ていると鼓動が高ぶり、無意識の内に頬が赤くなってしまう…

 

そして一度意識してしまうと、こうして他の事をしていても彼の事が気になってしまう…

 

この感情は…まさしく…

 

 

「これが…“恋”っちゅうもんかなぁ…」

 

 

はやては頬に手を当て、顔を真っ赤にしながら虚空を見上げ、呟くのだった…

 

 

そんなはやての様子を部隊長室の入り口から覗きこむ数人の影…

リインと、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラといったはやての守護騎士『ヴォルケンリッター』が全員顔を揃えていた。

 

 

「た…確かに様子が、変ですぅぅ!」

 

リインが上の空になっているはやてを指し示し、あたふたとしながら話しだす。

 

「そうであろう? この間の西軍の襲撃と政宗の暴走事件の問題が全て解決した頃からずっとあんな調子なのだ」

 

「今まで気持ちを紛らわせられる程の大きな問題を抱えていたから意識していなかったものが、それが解決した事で一気にぶり返してきた…って感じね…」

 

はやての異変にいち早く気がついたシグナムがそう説明している隣で、シャマルは心理学的な観点から見た意見を呟いていた。

 

「け、けどシグナム! ホントなの!? さっき言ってた話…!?」

 

「………些か、信じられんが……」

 

シャマルとザフィーラは部屋の中を伺ったまま、動揺した様子で尋ねてきた。

そんな中で唯一、シグナムだけは主であるはやてが見せるあの挙動不審な振る舞いを数日前から感づいており、同時にその挙動の理由について“推測”を編み出していた。

 

「その真相を確かめる為に来たんであろう? とにかく、主はやてに誰かが直接聞きに行かないと…」

 

「そういうわけだ。頼んだぜ。シャマル」

 

「えっ!? ちょ、なんでそうなるのよ!? 」

 

シグナムの言葉に、ヴィータは即座にシャマルを指名するが、シャマルは直ぐに反論する。

すると、それを聞いていたザフィーラが異議を唱えた。

 

「待て。シャマルに行かせても、体裁良くはぐらかされるやもしれん…ここはやはり一番、主に近い位置にいるリインが行くべきだ」

 

「わ、私ですかぁ!?」

 

ザフィーラの提案に狼狽えるリイン。

 

「あ~。それならはやてちゃんも、腹を割って話すかもしれないわね」

 

「頼んだぞ、リイン!」

 

そう言ってシャマルやシグナム、ヴィータも賛同した事で、なし崩し的にはやてに聞きに行く係となってしまったリインは…

 

「うぅ〜…あまり自信ないですけどぉ~…」

 

しぶしぶながら、部隊長室に入って行った。

 

「あのぉ~…はやてちゃん?」

 

リインが部屋に入った事にも気が付かずに呆けたままのはやてに、リインは恐る恐る彼女のデスクに寄って話しかけてみた。

その様子を、入り口から見守るヴォルケンリッター達。

するとはやては呆けた表情のまま、近づいてきたリインに対し、いつも以上にのんびりとした口調で答える。

 

「ん〜?…なんやぁ? リインフォース」

 

(り、“リイン”って呼ばないですぅぅ!?)

 

いつもと呼び方まで変わってしまっているはやてに、リインの不安はますます大きくなった。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「何がや?」

 

「その…シグナムからここ数日、はやてちゃんが急に元気がなくなったって聞いて…」

 

リインは思い切った様子で、単刀直入にはやてに問いかけてみる事にした。

するとはやては突然、腰掛けていた椅子の背もたれに、深く背を預けた。

 

「あ〜………わかるかぁ~?」

 

「は…はい」

 

明らかに様子がおかしいはやてに、頷くリイン。

すると、はやては小さく溜息をついてから、ゆっくりと口を開いた。

 

「…実はなリイン……私な…」

 

「はい?」

 

息を飲みながら、はやての言葉を聞き入るリイン。

 

 

 

「………一目惚れしてもうたんや…♡」

 

 

 

「…へっ!?」

 

はやての宣言に仰天するリイン。

 

すると、部隊長室のドアを隔てて、話を聞いてたヴォルケンリッター達も…

 

「「えええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 

シャマルとヴィータが絶叫しながらドアを突き破り、部屋に突入してくる。

その後ろから、確信づいた表情を浮かべるシグナムと、あくまで冷静な面持ちを崩さないザフィーラの2人(厳密には人間1人と狼1頭)が後を追って部屋に入った。

 

「そ、それマジかよ!? はやて!」

 

「だ、誰なの!? 一体誰に一目惚れしちゃったの!? はやてちゃん!!」

 

突入早々、はやてのデスクに詰め寄り、叫びながら問いただすヴィータとシャマル。

 

「なんやぁ? ヴィータ達も聞いとったんか? 人が悪いなぁ」

 

「うっ…い、今は関係ないってば!」

 

はやてに逆に問い返され、口ごもりながらも話を反らすヴィータ。

すると、シグナムが、はやてに顔を近づけながら問いかけてくる。

 

 

「主…単刀直入に尋ねます…主が一目惚れした男というのは……“前田慶次”ですね?」

 

 

「ッ!? ……ピンポーン…♡」

 

 

「「「ええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」

 

 

リインとヴィータ達の二度目の絶叫が部隊長室に鼓弾した。

 

 

「ま、マジかよ……!? よ、よりによって、あの中途半端に時代感ズレたなんちゃってパリピ風来坊にかよ!?」

 

「ヴィータ…流石にそれは言い過ぎだ…」

 

ヴィータの容赦のない毒舌に、ザフィーラが思わず横からツッコミの言葉を挟んできた。

しかしヴィータは、はやてが慶次に一目惚れした事が納得できないのか、ヴィータがはやての襟首を掴み、彼女の首をガクガク揺らしていた。

 

「いやいやいやいや! あれはねぇって?! はやて! 悪い事は言わねぇ! 目ぇ覚ませって!!」

 

「ヴィ~タ~…そんなに揺らしたら喋れんやん~」

 

「落ち着け、ヴィータ!」

 

対するはやては、彼女に振り回されながらも呆けた表情を浮かべていたままだった。

そんなヴィータをシグナムが慌てて横から制止した。

すると、シャマルが横からはやてに尋ねる。

 

「はやてちゃん。このあいだの大谷吉継の襲撃の時に慶次さんに助けられたのよね? ひょっとしてそれがきっかけで…?」

 

「それもそうなんやけど…なんやろうな…? あの人当たりの良さに、さっぱりした性格…ちょっとお調子者なところもまた可愛ぇというか…」

 

はやては聞かれてもいないのに慶次の魅力を語りだした。

それを聞いたリインも思い出したように話し出す。

 

「そういえば、はやてちゃんって前から、真面目一筋な人よりもちょっと砕けた一面がある人がタイプって言ってましたね!」

 

「そうそう! 家康君は爽やかやけどちょっと真面目過ぎて遊び心が足りひんし、ユッキーは実直なんはえぇけど時々熱苦しいし…政ちゃんはこないだの暴走騒動もそうやけど、ちょっとやり方が破天荒過ぎてるとこあるし……そう考えたらわたしの理想的な男性像に一番ドンピシャリなんは慶次さんなんよ!」

 

「ドンピシャリって…あれが…?」

 

ヴィータは自分が敬愛するはやての異性に対する理想像が思いの外軽かった事にショックを受けた様子を見せていた。

 

「まぁ…主の恋愛事情に関しては、守護騎士(わたしたち)がとやかく言う資格はありませんし、別段反対するつもりもございませんが……」

 

「そうね。それに慶次君って確かにちょっと軽い感じだけど、悪い人じゃないし、仲良くなる分には問題ないとは思うわ」

 

そうシグナムとシャマルは肯定的な事を話すが、ヴィータはむくれながら異議を唱える。

 

「え~~~…軽いというより、完全に“田舎から出てきた勘違い系チャラ男”じゃねぇか」

 

「ヴィータのアホ! そのどこか勘違いした感じがまた可愛ぇとこやんか!」

 

「いや“可愛い”のかよ…それ?」

 

一目惚れ故の恋の盲目か、それとも元来の恋愛感性のズレか…?

どこか、ズレたようなはやての慶次への賞賛に、ヴィータは呆れるばかりだった。

 

「んで…結局、はやてはどうしたいんだよ? あの風来坊と」

 

ヴィータはジト目で睨みながら、そう問いかけてきた。

 

「そ…それは…」

 

ヴィータの言葉にはやてが言い返せずに狼狽えると…

 

「まずは、家康君達みたいに、“お友達”から始めていったらどうかしら? はやてちゃんはまだまだ慶次さんの事はよく知らないし、慶次さんだってはやてちゃんの事はよく知らないのだから…まずはお互いを知っていきながら仲を深めていく事が大事だと思うわ」

 

シャマルが心理学的な観点を交えながら、アドバイスを送った。

 

「なるほどなぁ…それで、“お友達”になる為にはどうすればえぇんかな?」

 

「えっ!? そ、それは、はやてちゃん自身が考えないと…っというか、はやてちゃんならそういう事は得意じゃない?」

 

シャマルが戸惑いながらそう言うと、はやては両手で頭を抱えながらデスクに顔を突っ伏して、グリグリと押し付け始めた。

 

「それが出来るもんなら、苦労せぇへんっちゅうに!! まだ、慶次さんと二人っきりでゆっくり話した事さえもないんやからぁぁぁぁ!!」

 

「いや、出会ってまだ1週間も経ってねぇんだから当たり前だろ?」

 

ヴィータが尤もな指摘を入れた。

 

「でもはやてちゃん。慶次さんは確かはやてちゃんの警護役としてロングアーチに配備する事にしたんですよね? だったら、そんなに悩まなくても何かしらの仲の進展もあったのではないのですかぁ?」

 

リインが何気なく尋ねる。

すると顔を上げたはやては、何故か頬を赤くしながらそっぽを向いた。

 

「『仲の進展』って…嫌やわぁリインったら、まだ日も暮れとらんっちゅうのに…♡」

 

「そ、そういう意味で聞いたわけじゃないですっ!!」

 

「主…ふざけないで真面目に答えてください」

 

シグナムから窘められ、はやては今度はちゃんと答える事にした。

 

「そうやなぁ…確かにリインの言う通り、こないだ本人には外交とサイバー対策担当、そして私の警護役としてロングアーチに配備させたのはえぇけど…今はまだロングアーチでのお仕事の説明とかで基本は司令室に缶詰やからなぁ、まだ部隊長警護役のお仕事については全然説明出来てへんってところやな」

 

「つまり…本当にまだ2人きりでゆっくり話せていないから、そのきっかけを掴むのがわからないと?」

 

シグナムがはっきりと指摘した。

 

「ま、まぁそういう事やね……テヘペロ♪」

 

「中学生かよ……」

 

笑って誤魔化すはやてに、ヴィータが若干引き気味にツッコんだ。

一方、リインは意外にその案に賛成の様子であった。

 

「ま、まぁ。いずれにしても『部隊長警護役』という事は必然的に2人きりで行動を共にする機会が多くなるという事なのですから、はやてちゃんと慶次さんはもっとお互い腹を割って話し合ってお互いの事を判り合わないといけませんね」

 

「流石はリイン! えぇ事言うねぇ! よっ! “祝福の風”!“ちっちゃい上司”! “光の使者”!」

 

「いや、慶次さんのマネしなくていいですから! っていうか最後の二つ名、別の変身少女もの混ざってませんか!?」

 

リインがツッコむのを尻目に、シグナムが鋭く指摘を入れる。

 

「とは言えども…主。今の状態では部隊長警護役どころの話ですらありませんね」

 

「うっ…!? そないきっぱりと言わんといてやぁ…」

 

はやてはボヤきながら、再度デスクの上に上半身を倒した。

 

「はぁ~…できれば、部隊長としての社交的な話やのぅて、ちゃんと腹を割って提案したいんやけど…皆、なんかえぇ方法ないかなぁ?」

 

「そう言われても…そもそもまだ2人きりでゆっくりお話も出来ていないなら……」

 

「まずは、その問題を解決する事から始めなければ…」

 

シャマルとザフィーラが指摘すると、はやては「やっぱり?」と溜息をついた。

 

「なぁ、皆頼むわぁ。なんとかこの八神はやての淡い恋心が報われるように協力してくれへん? せめて、慶次さんと気を置かずに話せる仲に出来ひんか、何か知恵貸してぇな?」

 

はやてが目を潤ませながら、救いを乞うような目つきでヴォルケンリッター達を見据える。

 

「そ、それは…」

 

「我ら守護騎士…主の命ともあれば協力は致しますが…」

 

「我も異存はない…」

 

その視線に思わずたじろぎながらも了承するシャマル、シグナム、ザフィーラだったが、ヴィータだけはやはりまだ慶次に対する懐疑心があるのか、不満気に反論する。

 

「なんでよりによってはやてを、あんな風来坊と仲良くさせなきゃいけねえんだよ? あんな見るからにチャランポランな奴、はやてと一緒にいさせたら悪影響しか与えなさそうじゃねぇか…」

 

「なんだヴィータ? やきもちか?」

 

「そ、そんなんじゃねぇって!?」

 

シグナムに茶化されて必死に否定するヴィータ。

すると、話を聞いていたリインが…

 

「わかりました…リインは、はやてちゃんに協力するですぅ!」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

突然、声高らかに宣言し、ヴィータ達を驚かせる。

 

「はやてちゃんの人生初めての“恋”です! ここは私達で、はやてちゃんと慶次さんが仲良くなれるように協力するのです! どんな事でもはやてちゃんを助け、支える事こそが守護騎士(ヴォルケンリッター)そして『祝福の風』である私の務めですぅ!」

 

「リイン…」

 

小さな相棒の大きな決意を聞いて、はやて嬉しく思った。

すると、そのリインの健気な言葉を聞いたシャマルは決心を固めたように頷いた。

 

「そうね。はやてちゃんがそこまで見初めた人なのだから、ここははやてちゃんの見る目を信じて応援してあげましょう」

 

「…確かに、前田に悪意がない事は既に実証されているのだ。ヤツの人となりはこれから私達が主はやてと共に見届けていけばよいのだからな」

 

「えぇんか?」

 

確認するはやてに、頷くシャマルとシグナム。

 

「わかりました。主。貴方のお悩み…我々守護騎士(ヴォルケンリッター)が共に考えましょう」

 

「わ…私は…」

 

ヴィータはまだ躊躇っている様子だったが…

 

「主に協力できないというのか?」

 

シグナムに発破をかけられ、とうとう根を上げたヴィータは、乱暴に頭を振りながら自棄っぱちのように叫んだ。

 

「うぅぅ…わ…わかったよ! その代わり、あの野郎がちょっとでもはやてを泣かせるような事しでかしたりしたら、その時は即座にこのアタシがぶちのめしてやるからな! それでいいよな!? はやて!」

 

「うん! みんな…おおきにな!」

 

そんな守護騎士達に感激の涙を浮かべるはやて。

そんな彼女達の様子を黙って見守っていたザフィーラは「やれやれ」と首を振りながらも、シグナム達同様に、正式に協力する事を決意した。

 

 

*

 

 

っというわけで急遽開始されたヴォルケンリッターによる『はやて×慶次の仲良し大作戦(命名者 リインフォースⅡ)』。

部隊長室はこの作戦会議のために急遽、他の部隊員達を立入禁止にして、自分達だけで会合ができるように場を整えた。

 

ちなみに、なのはやフェイト、慶次以外の戦国武将の面々は皆、フォワードチームの訓練の為に訓練所に行っている為、余程の事がない限り、彼らが来る心配はなかった。

 

「とにかく、何にしてもまずははやてちゃんと慶次さんの仲を親しいものにしなければいけないです! その為にはまず慶次さんと仲を深める為の大きなきっかけを作らないと!」

 

応接用のソファーセットにそれぞれ腰掛けたはやて、シグナム、ヴィータ、シャマル(ザフィーラは何時ものように彼女達から少し離れた場所に床に直接座っていた)の前で会議の進行役のリインがそう言って切り出すと、はやて達はそれぞれ腕を組んで唸る。

 

 

「仲を深める…って言うたかてなぁ。話しかけようにも何かきっかけがあらへんと…」

 

「きっかけ…やはり、模擬戦でお互いの武芸の腕を確かめ合うとか?」

 

はやてにそう提案するシグナムであったが、はやては素気なく一蹴する。

 

「シグナムと一緒にせんといてや。 わたしが接近戦苦手なのは知ってるやろ? 模擬戦やったってどう考えても釣り合い合わへんやん…」

 

保有魔力そして砲撃魔法のスキルに関しては部隊最強の実力を誇るはやてであるが、基本的には後方からの攻撃をメインにしているため、近接に関してはなのはやフェイトには劣る。

バリバリの接近戦派な慶次とは戦っても勝負として成り立たない事はわかりきっていた。

 

「それじゃあ、やっぱりお話で親睦を深めるしかないわね」

 

今度はシャマルが言った。

 

「話自体は出来るんよ。せやけど、どうも慶次さんの前やと緊張してもうて…」

 

「あら。はやてちゃんも意外に純情な部分がありますね♪」

 

「しゃ、シャマル!」

 

そう言ってクスクスと笑ったシャマルに対し、赤面しながら照れを隠すように怒るはやて。

しかし、シャマルはただからかう為だけにそう言ったわけではなかった。

 

「いいえ。それなら、いっその事その“純情”さを逆に武器にして慶次さんとの距離を縮めてしまったらいいんですよ♪」

 

「「「“純情”さ…って?」」」

 

はやて、シグナム、ヴィータが尋ねた。

 

「例えばそう……手作りでお菓子を振る舞ったり…とか?」

 

シャマルのアイディアに、はやては意表を突かれた様な面持ちを浮かべる。

 

「お菓子の差し入れ……なるほど! それなら、違和感無く自然と近づく理由が出来るってもんやな!? えぇかもしれへん!」

 

ナイスアイディアを聞いたと嬉しそうに話すはやてに、ヴィータが指摘する。

 

「でもはやてって、男にお菓子とかって作った事あるのかよ?」

 

「いや…昔、クロノ君やユーノ君、ロッサとかにバレンタインのプレゼント上げたりした事はあるけど、私も管理局のお仕事で忙しゅうなってもうてたから、わざわざ手作りとかする暇もなくて…どれも既製品のお菓子買ってプレゼントしたってだけやったなぁ…」

 

「なら最適ですね!」

 

はやての言葉を聞いたシャマルはガッツポーズをしながら叫んだ。

 

「? どういう事や? シャマル」

 

「始めて作る異性への手作りのお菓子を、自分の為に一生懸命作ってくれるなんて男の人にとってこんなに嬉しい話はない筈ですよ!」

 

シャマルの言葉に、はやては首を傾げる。

 

「そう…かな?」

 

「はい♪ 気合を込めて作れば、きっと慶次さんの心を掴んで、距離を縮められるような美味しいお菓子ができますよ♪」

 

そう言ってはやてを励ますシャマルだったが、そこへシグナムやヴィータ、ザフィーラの冷たい目線が突き刺さる。

 

「ほぉ…気合を入れて作れば…」

 

「心を掴めるだけの美味しいお菓子ができる…ってか?」

 

「な、何よ?」

 

完全に眉唾な表情を向けてくるシグナム達にシャマルは戸惑った。

すると、ザフィーラがそっぽを向きながら、皮肉めいた事を言い出す。

 

「…一番『美味しい』とは無縁な料理ばかりを作るお前が言っても、説得力が無いぞ…」

 

「なっ!? ど、どういう事よ!? それーーーー!!?」

 

ザフィーラの皮肉に、顔を真っ赤にしながらムキになるシャマルだったが、それを聞いたはやて達は、全員思わず吹き出してしまった。

 

実は、シャマルの料理の腕前…それはヘタどころの騒ぎでなく、最早殺人レベルなまでに酷いのであった。

見かけ、食感、そして味…全てにおいて最悪であり、その料理を食した者は皆一様に体調に異常を起こして、酷い時には昏睡状態に陥る事もある。

文字通りの“殺人料理”であったのだ。

その為、八神家ではシャマルを厨房に入れる事は密かにご法度とされているくらいだ。

 

「まぁまぁ、シャマル落ち着いて。 とにかくそのアイディアでいこう! 私作るで!」

 

はやては、慶次の為にお菓子を作る事を決意した。

だが、そこにリインの疑問が入る。

 

「でも、はやてちゃん。 慶次さんの好きな食べ物や嫌いな食べ物ってわかっているのですかぁ?」

 

「………あっ…全然知らんわ…」

 

指摘されて唖然としながら呟くはやて。

 

「もう! ちゃんとその辺のところも、しっかり把握しなきゃダメですよぉ!」

 

「いやぁ、堪忍なぁ」

 

「いや、だから出会ってからまだ一週間経ってねぇんだから、知らなくて当然なんだっての」

 

シャマルに注意され、面目なさそうに頭を掻くはやてに対し、ヴィータが呆れながらツッコんでいた。

そこへ…

 

 

「キキィッ!」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

突然、部隊長室に甲高い動物の鳴き声らしき声が響く。

何事かと、周囲を見渡すはやて達の前に…

 

「キィ! キキキーキッ!」

 

1匹の小さな小猿が現れた。

 

「あ、お前は…」

 

ヴィータがキョトンとした表情で呟くのを他所に、はやてとリインは小猿の顔を見て思い出す。

 

「君は…慶次さんのペットの…」

 

「“夢吉”君…でしたっけ?」

 

「どうしてこんなところにいるのだ?」

 

シグナムは突然現れた夢吉に戸惑いながら尋ねる。

すると、夢吉は…

 

「キキキィ! キッキキーキ!」

 

何かはやて達に話しかけように鳴き声を上げた。

すると、ヴィータとシグナムは、何故かザフィーラの方に顔を向ける。

 

「なんて言ってるんだよ? ザフィーラ」

 

「…何故、我に聞く?」

 

「いや、同じ動物同士だしわかるのかな?…っとなんとなく…」

 

「…まぁ、犬と猿では相性が悪いと思うが…」

 

「……我は犬ではない。狼だ…」

 

シグナムの物言いに少し癇に障ったのか、ザフィーラは青筋を浮かべながらも、夢吉の前に立って、詳しく話を聞く。

 

「キキキィ! キッキキーキ!」

 

「うん…そうか……うっ?…んんっ?!……お、おぉ…」

 

どうやら、ザフィーラは夢吉の話す事が理解できたように、彼の鳴き声に対して、頷いて相槌を打った。

 

「なんて言ってるの?」

 

シャマルが尋ねた。

するとザフィーラは戸惑った様子で、夢吉の言った言葉を翻訳してはやて達に伝える。

 

「うむ…まぁ、言われた事をそのまま訳すが…

 

 

『話は聞かせてもらったぜベイベー。そこの京美人の姉ちゃんが慶次にホの字たぁ、アンタなかなか目の付け所があるじゃねぇか! よし、この慶次の相棒“夢吉”が姉ちゃんのその甘酸っぺぇ恋患いを解決する為に一肌脱いでやろうじゃねぇか! てやんでい!』

 

 

…っと言っている…」

 

 

「「「いやいやいやいやいや!!! ちょっと待てえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」」」

 

 

ザフィーラの翻訳した夢吉の言葉の内容に、声を揃えながら大いなるツッコミを炸裂させるヴィータ、シグナム、シャマル。

 

「ちょ…コイツそんな言葉遣いなのか!? 見た目めっちゃ可愛いのに、中身なんか江戸っ子気質なオッサンみたいなんだけど!?」

 

「コイツもあれか!? 前田みたいにこのミッドチルダでの暮らしに感化されて、変に順応してしまったっていうのか!?」

 

叫ぶヴィータとシグナムに対して、夢吉は「やれやれ」と言わんばかりに首を横に振りながら、また何かを言った。

 

「キィ…キキキキッ。キッキィ!」

 

『人を見た目で判断しちゃいけねぇよ。“乳はでけぇが女っ気がちょっと足りてねぇ姉ちゃん”に“お下げのチビ助”』っと言っているぞ…」

 

「誰が『乳はでけぇが女っ気がちょっと足りてねぇ姉ちゃん』だ!!? っていうか貴様は“人”ではなく“猿”だろうがッ!!!」

 

「『お下げのチビ助』ってアタシの事かぁぁ!? ってかリインより小っちぇテメェにだけは言われたくねぇぇぇぇ!!」

 

シグナムとヴィータが憤慨しながら、それぞれレヴァンティンとグラーフアイゼンを振りかざして、夢吉に襲いかかろうとする。

それを見たシャマルが慌てて、シグナムを羽交い締めにして、リインがヴィータの前に立ちはだかって、それぞれ必死に宥める。

 

「やめなさいシグナム! 大人げないわよ!」

 

「ヴィータちゃん! 相手はこんなちっちゃな子猿さんなのですから、そんなムキになっちゃダメですぅぅ!!」

 

「うるせぇよ! っていうか、この猿本当にそんな事言ってやがんのか!? お前が勝手に超意訳してんじゃねぇだろうな!? ザフィーラ!」

 

ヴィータの矛先が、夢吉の言葉を翻訳したザフィーラへと向けられる。

 

「……我は左様な不躾な言葉を用いたりはせん…この猿の言っている言葉をそのまま訳しているだけだ…」

 

「いや、それにしてはどう考えてもおかしいっての―――」

 

「キィッ! キキキィッ! キッ、キキキキィ! キッキキッキキィキィキッ!」

 

ヴィータの言葉を遮る様に夢吉がまた何かを言った。

すると、その言葉にいち早く反応したのは何故かリインだった。

 

「えっと……

 

『てやんでい! 慶次の奴も普段から“命短し人よ恋せよ”って言ってるわりに、自分がその辺りの話になるとてんで音沙汰がねぇから、心配していたんだよ。丁度、そこの姉ちゃんは慶次好みの京美人だし、仲良くなったら良いなとオイラも思っていたところだったのさ!だから大船に乗ったつもりでオイラを頼りな!』

 

……って確かにこの子そう言ってるです」

 

リインの口から翻訳された夢吉の言葉を聞いたはやてや、ヴォルケンリッターの面々は唖然とした表情で彼女に注目する。

夢吉の見た目に反した言葉遣いが確証された事もそうであるが、それ以上に何故かリインが夢吉の喋った事を完璧に翻訳できた事に驚きを隠せなかった。

 

「な…なんで動物でもないお前が、その猿の言葉がわかるんだよ!?」

 

「えぇっ!? そ、そう言われても……なんででしょうか?」

 

何故かリインが、夢吉の言葉が判ったことにツッコむヴィータであったが、当のリイン本人も何故かわからずに困惑した様子を見せていた。

 

「ま、まぁとにかく、夢吉君がわたし達に協力してくれるっていうのなら、これ以上心強いものはあらへんわ。頼りにしてるな。夢吉君」

 

「キキィッ! キッキィッキキキッ!」

 

『任せときな!お嬢ちゃん! オイラの手にかかれば、お前さんと慶次の仲を結ぶ事なんざ、朝飯前よ!ベイビー!』…っだそうです」

 

「なんか…急に可愛くなくなって見えてきたんだけど…この猿……」

 

「あぁ…見たくなかったものを見てしまったような…そんな気分だ……」

 

リインを介して訳される夢吉のふてぶてしい物言いに、ヴィータとシグナムはげんなりした様子でそうボヤくのであった。

 

 

「それで夢吉君。慶次さんって、お菓子やったら何が好き?」

 

はやては夢吉に具体的な経緯を説明した後、本題である『慶次の好きなお菓子』について、リインやザフィーラの通訳を交えながら聞くことにした。

 

「ウキィッ!キキキィ!キッ!キッ!キキーッ! キキッ! キーキーキッ!キキキキキーッ! キィッ! キーキーキッ! キィッ! キキィキッキィッキキィッキッ!!」

 

『基本何でもOKだぜ? けど慶次は京の都暮らしが長かった為か色々と舌は肥えてるから注意しな。 ましてや“まつ姉ちゃん”というとんでもない料理上手の手料理を、鼻ったれの頃から食って来やがったからな。余計に味にはうるさい筈だ』…だそうです」

 

「まつ姉ちゃんって? 誰だよ?」

 

ヴィータが尋ねた。

 

「キキキキィッキーキ! キッキッキーキッ! キキキッ!」

 

「前田家総大将 “前田利家”さんの奥方様 “まつ”さん。慶次さんにとっては叔父さん叔母さんですが、実質的な親代わりになった人だそうですぅ!」

 

リインの通訳を通して、夢吉から聞き出したはやては、「ムムム…」っと唸り声を上げる。

 

「慶次さんのお母さん代わりの人は相当な料理上手…う~ん…これはちょっと思ったよりもハードルが高いかもしれへんなぁ…」

 

「しっかり! はやてちゃん! ここで諦めちゃダメですよ」

 

弱気になるはやてを励ますシャマル。

すると夢吉も…

 

「キッ! ウキキッ! キィ!キキキキッ! キキッキッ! キキキ! キィッ!キィキキキーッ!!」

 

『てやんでい!まだ行動を起こす前からくよくよすんじゃねぇ! 慶次は確かに美食家だが、食べ物を粗末にするような躾の無ぇ男なんかじゃねぇ!アンタが真心を込めて作ったもんなら、どんなものでも喜んで食うと思うぜ!だから、自信を持ちなベイビー!』…っと言っている」

 

今度はザフィーラが翻訳した夢吉の言葉を聞いて、はやての顔に自信が戻った。

 

「そっか、ありがとう。いやぁ、夢吉君は可愛い上にえぇ子やなぁ…」

 

「…言葉遣いは全っ然可愛くねぇけどな」

 

ヴィータがボソリとツッコミを入れた。

 

「せやけど…せっかくやから、戦国時代の日本にはないこの世界特有の食べ物で勝負したりたいわぁ。夢吉君、慶次さんこの世界に来てから食べたもので一番気に入ったものとかってなかった?」

 

はやてが尋ねると、夢吉は少し考える様な仕草をし、そして思い出した様に言い出した。

 

「キキキキキッ?」

 

『タピオカとか?』

 

「だから、それブームとっくに終わっているぞ…」

 

シグナムが何故か翻訳者であるザフィーラに対してツッコむ。

 

「キッキキキッ!」

 

『バームクーヘン』

 

「流石にここで手作りは…無理ね…」

 

今度はシャマルが苦笑しながら言った。

 

「キキキキキキッ!キキキィ! キキキッ! キキィ!」

 

『シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ…を御馳走になった時もえらく気に入っていたな』だと…」

 

「いやどんな菓子だよそれ!? ってか、どんな経緯巡ったら、んなもん食わせてもらえる機会あったんだよ!? お前らホントここ来るまでどんな旅してたんだよ!?」

 

ヴィータが声を張り上げてシャウトした。

すると、ザフィーラは不服そうな表情を浮かべ始めた。

 

「お前達。さっきから我らに対してツッコんでいるが…我もリインフォースも、ただ夢吉()の言っている事をそのまま訳して伝えているだけだ…」

 

「あっ…そ、そうだったわね。ごめんなさいザフィーラ」

 

「す、すまん…」

 

「なんか、つい癖が出ちまってよぉ…」

 

 

ザフィーラの指摘に我に返ったシャマルとシグナム、ヴィータが慌てて謝る。

一方はやては、名案が思い浮かばない事に、唸りながら頭を抱えた。

 

 

「ん~~~?…なんかそういう変にこだわり抜いたもんやなくてえぇからさぁ…なんかこう…慶次さんの心を掴む何か『押しの一手』! …的なものが欲しいんよ。慶次さんも使っとった技やけど…」

 

はやてがそう言っていると、夢吉が思い出した様に手を叩く。

 

「キキィッ!? キィッキキキキーキ! キキキッ! キィキキキッ!」

 

「? どうしたん?」

 

『そういえば、俺ぁこの世界の食べ物じゃ“バナナ”がお気に入りになっちまったぜ』…って言ってるですぅ」

 

リインが翻訳して伝えると、ヴィータが「はぁ?」と顔を顰めた。

 

「あのなぁ…お前の好きなもん聞いて、どうしろってんだよ? はやてが知りたいのはあの風来坊の――――」

 

「いや、ちょい待ち!」

 

ヴィータの文句を遮るように、はやてが声を張り上げる。

 

「は、はやて…?」

 

「それや! その手は使えそうや! それでいこう!」

 

どうやら夢吉のさっきの一言が、はやての脳裏に何らかの天啓を与えた様子であった。

突然、決意するかのように立ち上がる。

 

「はやてちゃん!? どうしたのですぅ?」

 

「今の夢吉君の言葉から、えぇものを思いついたんやって!! さっそく実行に移してみるわ!! ありがとうみんな!夢吉君も!」

 

はやては、ヴォルケンリッターと夢吉に礼を言うと、大急ぎで部隊長室を出ていった。

 

「は…はやて?」

 

「何か…名案でも思いついたのだろうか…?」

 

後に残されたヴィータとシグナムが唖然としながら言葉を交わしていると、夢吉はテーブルの上に乗ると、フッと小さく笑いながら呟く様に言った。

 

「キキィッキキキキィ……キィキィキッ!」

 

『“命短し、恋せよ乙女”…頑張りなベイビー』…だそうだ」

 

「……あのさ。さっきからいちいちその『ベイビー』って語尾みたいに取って付けて言うのやめてくれない? 微妙に癇に障るんだけど……」

 

主に似て中途半端に近未来文明を取り入れたせいか、キャラがおかしなことになっている夢吉にヴィータが憐れみ半分、苛立ち半分にツッコミを入れるのであった……

 

 

 

 

そして…1時間後―――

ちょうど、世間ではティータイムと言われる時間帯が近づいた頃…

 

「zzz…」

 

風来坊 前田慶次は、隊舎の日当たりのいい中庭にある木々にかけられたハンモックの上で午後の研修の合間に1時間の休憩を貰い、昼寝していた。

恋と喧嘩、祭りに美食、そして昼寝、それは慶次にとって、生きがいであり、人生そのものだった。

これぞまさに風来坊の生活…各地を自由に渡り歩く慶次ならではのライフスタイルだ。

 

ハンモックに寝転がり、時折小さなイビキを立てながら、慶次は心地よさそうに昼寝を満喫していた。

 

「うぅぅぅ……どないしよう~~~~?」

 

だが、そんな呑気な慶次を遠目に、はやては完成したお菓子の入った紙包を手に完全に困り果ててしまっていた。

 

「お菓子はできたけど、肝心のこれ渡す方法がわからへんと、どうしようもあらへんがな~~~~~!!」

 

はやては、ここへ来て『1対1でゆっくり話した事もないのに慶次にどうやってお菓子を渡すのか』という事を考えていなかったのだ。

最後の最後で、まさかの大問題発生に焦るはやて。

 

思い切って、慶次の眠るハンモックの近くまで寄ってみるはやてであったが、近づけば近づくほどかける言葉が見つからず、パニックになっていくばかりであった。

 

「アカン! 緊張してきてもろた……此処は一旦出直して…」

 

そう言って、慌てて踵を返そうとしたはやてであったが…

 

バキッ!!

 

「あぁっ!?」

 

うっかり足元に落ちていた太い樹の枝を思いっきり踏みつけてしまい、大きな音を立ててしまった。

「やばい」とはやてが思った次の瞬間、案の定ハンモックで眠っていた慶次が目をこすりながら、むっくりと起き上がった。

 

「う~~~~ん……あれ? そこにいるのって…はやてちゃん?」

 

「ひゃい!?」

 

起き上がった慶次から声をかけられ、驚くあまりその場で飛び上がってしまうはやて。

 

「け…けけけけけけ…慶次さん?! え…え~っと…慶次さんがえらい気持ちよさそうに寝てるから、私も一緒に寝たいな…って何言うてんねん私はぁぁぁぁぁ!?」

 

テンパるあまり、とんでもない事を口走ってしまった事に一人慌てふためくはやて。

 

「? どうしたんだい?」

 

明らかに挙動不審なはやてに首を傾げる慶次。

 

(こ…こうなったら、イチかバチや!!)

 

はやてはついに腹をくくる決心をした。

 

「け……慶次さん!!」

 

「ん?」

 

「こ、これ、たた食べてくれへん?!」

 

そう叫びながら、はやては慶次に紙包を渡した。

 

「これを?…俺にかい?」

 

「………う…うん」

 

はやてが頷くと、慶次はハンモックに腰掛けて、はやてから紙包を受け取り、包を開いた。

 

「ッ!? これって…」

 

包の中には手作りのバナナパウンドケーキが綺麗に整列されて詰められていた。

 

「これってひょっとしてバナナかい? 夢吉の奴がこっちに来てから一番ハマった果物の…」

 

「う、うん。 そのバナナの入ったパウンドケーキってやつや。 気に入らへんかったら別に無理しなくてもえぇけど…」

 

「いや。 頂くよ。ちょうど小腹が空き始めていたところだし」

 

そして慶次はパウンドケーキの一片を手に取り、口まで運んだ。

そして、よく味わうようにしてそれを食べる。

 

はやてはその様子を、じっと不安げに眺めていた。

 

「こいつは………」

 

「ど…どうやろうか? 口に合わへんかな?」

 

お手製パウンドケーキの味をどう評価されるのか、期待と不安が半々で胸が押しつぶされそうになるはやて。

すると慶次は…

 

「こりゃ、絶品だよ!」

 

「!? ホンマか!?」

 

開口一番に、はやてを褒めた。

 

「ああ。このふわりとした食感の中に、バナナのほのかな甘み…コイツは俺好みの味だぜ! この世界に来てから色々食ってきたけど、コイツは甘いもんじゃ一番イケるかもしれねぇな!」

 

「や…やったああああぁぁ!!」

 

慶次から絶賛の言葉を受け、大喜びするはやて。

すると、慶次はものすごい勢いで次々とパウンドケーキを食べ進め、ものの10分もしない内に完食してしまった。

 

「ご馳走さま。 はやてちゃん、アンタなんでも出来るんだな」

 

「うふふ♪ おおきにな!」

 

慶次に褒められ、顔を赤くしながら礼をいうはやて。

そんな2人の様子を片隅から見ている者達があった…

 

 

 

「キッ! キキキキィ!」

 

『ほらな。慶次なら粗末にはしないって言ったろう?』って言ってるですぅ」

 

夢吉の言葉を通訳するリインに、シグナムとシャマルも安堵の表情を浮かべていた。

 

「はやてちゃんも嬉しそうね」

 

「あぁ…これで少しは仲も縮まったか」

 

「ちぇっ…慶次の奴、はやてとイチャイチャしやがって…」

 

そう言って頬をふくらませて拗ねるヴィータを横からザフィーラがからかう。

 

「だから、やきもちなど焼くな。 ヴィータ」

 

「!? だ、誰がヤキモチなんか!」

 

「2人共、しぃ!ですぅ!」

 

ヴォルケンリッターとリインが見守っている事に気づいていない慶次は、何気なしにはやてに尋ねた。

 

 

「でも、なんではやてちゃんが、夢吉がバナナが好きって事を知ってたんだい?」

 

「それはその…夢吉君から教えてもうてん……」

 

「夢吉から…?」

 

慶次が訝りながら聞き返した。

 

「うん。うちのザフィーラ…ほら、あの青い大きな狼おったやろ? それに私の相棒のリインフォースⅡ…あの子達には夢吉君の言葉が解るみたいなんや」

 

「へぇ~! あの生まれたてのかぐや姫みたいな子と、青い山犬くんにそんな能力があるなんてなぁ! 今度、俺にも夢吉の言葉が解るように言葉教えてもらおうかな?」

 

 

「あ、“青い山犬”だとっ!? 我は狼だ!」

 

「“生まれたてのかぐや姫”って…リインの事ですかぁ!?」

 

慶次の発言に憤然となるザフィーラと、ショックを受けるリイン。

すると夢吉が…

 

「キキキキキィキ! キッキキ~キッキッ!」

 

「えっ? 『気にしなさんな。あれも慶次なりの愛嬌みてぇなものよ』って? ま、まぁ確かにかぐや姫って例えは、よくよく考えたら悪くはないですけどぉ…」

 

「『山犬』は納得できん!」

 

夢吉のフォローで照れくさそうに顔を背けるリインに対し、ザフィーラはまだ不服そうな顔を浮かべていた。

すると夢吉はザフィーラに向かって…

 

「キキィッ、キッキッキキキキッ! キィッ!」

 

「やかましい!」

 

「? なんて言ったんだよ?」

 

何かからかうような発言をしたのか、柄にもなく夢吉に吠えるザフィーラに、ヴィータが尋ねると代わりにリインが答えた。

 

「アハハ……『よぉ、そんな小っせぇ事いちいち気にすんなっての。せっかくでかい身体持ってるのに意外に堪忍袋はちっせぇな。ザフィ公さんよぉ』ですって…」

 

「……ザフィーラ。お前完全におちょくられるぞ」

 

ヴィータは呆れながら、再びはやてと慶次の方に視線を戻した。

 

 

「せやけど、夢吉君って見た目めっちゃ可愛ぇのに、中身は意外と漢らしいんやなぁ」

 

「そうかい? 確かにアイツはあぁ見えて意外と気概ある奴だしな。まぁ、男としてみれば、俺の方が男前だろう?」

 

「そらそうや」

 

いつの間にか少しずつ会話が弾み始めていく慶次もはやての様子を見た夢吉は何かを察したのか、ポンと手を叩いた。

 

「キキィ! キキキキッ! キッキッキィ!」

 

「えっ!?『そうか、なるほど。あの姉ちゃん可愛い顔して意外に策士だな』ですって?」

 

「どういう事? 夢吉君」

 

リインが翻訳すると、シャマルが尋ねた。

 

「キキキキキキッ! キィ! キキキーキッ!」

 

『あの姉ちゃんは、わざとオイラの好物を菓子にして慶次に食べさせることで、オイラを話題する事で慶次との会話を弾ませようとしたわけだ。つまり、オイラはダシに使われたって事だな』

 

リインを介して伝えられた夢吉の推測を聞き、シャマルとシグナムは納得したように頷いた。

はやてが閃いた作戦…それは夢吉の好物であるバナナを題材にしたお菓子を振る舞う事で自然と夢吉の話題に話を運び、そこから会話を弾ませるというものだった。

そして、それは見事に功を奏し、気がつくと慶次もはやても今の今まで一対一で対話した事がなかった程に会話が弾んでいる様子だった。

 

 

「へぇ~。はやてちゃんって京都人って感じの雰囲気してたけど…別に京出身ってわけじゃないの?」

 

「うん。わたし、子供の頃に両親を早くに亡くしてて、物心ついた時からなのはちゃん達の故郷の街で過ごしてきたんよ。そのお父さんとお母さんが京都の人やったからその影響でわたしもこうして関西弁使ぅとるっちゅう事や」

 

「へぇ~。俺なんて長い事京都(きょうのみやこ)で過ごしてきたけど、関西弁(みやこのことば)は結局身につかなかったけどなぁ…やっぱべっぴんさんじゃねぇと、肌に合わねぇ言葉なのかねぇ?」

 

「いややわぁ、そんなん関係あらへんってば。慶次さんって二言目にはお世辞言うんやから、もぉ」

 

「なんだい? 俺は別にお世辞言ったつもりはないぜ。それにさぁ…」

 

不意に慶次ははやての顔をじぃっと見つめてきた。

突然の事にはやては戸惑い、狼狽える。

 

「ど、どないしたん?! 急に私の顔を見て…」

 

「あんた…そんなに美人なのに、“恋”に生きたりしないのかい?」

 

「はぇっ!? こ、ここここ、恋ぃぃぃッ!?」

 

「「「「えええええぇぇぇぇぇぇッ!?」」」」

 

 

突然、胸に留めていたワードをまさか向こうから持ち出してきた事に、はやては頭の中が混乱しそうになり、離れた場所でそれを聞いていたヴィータ、シグナム、シャマル、リインも思わず揃って唖然となる。

 

「な、なななな!? いきなりなんちゅう事聞いてるん!? そ、そんな恋なんて…急に言われてもっっ!?」

 

その慶次の視線から逃げるように、はやては真っ赤に染まった顔から湯気を放ちながら、両手をバタバタと乱暴に振り回して、数十センチ後ろに仰け反る。

そんな彼女の反応を見て慶次は可笑しそうに笑った。

 

「そんなに狼狽えるって事はあれかい?…もしかして、“初恋”もまだだったり?」

 

「……アホッ!! そんなわけあらへんやろ! 私かて、恋のひとつ……あったような…なかったような……」

 

はやては最初こそ強気で言い返すも、次第に勢いを失い、最後にはボソボソと呟くような喋り口となってしまった。

そんなわかりやすいはやての態度に、慶次はますます可笑しくなった。

 

「なら分かるだろ? 恋はいいもんだって。 胸が熱くなって…そいつの事を思うとドキドキして…しまいには他の事にも気持ちが入らないなんてくらいにそいつを思っちまって…」

 

慶次の語る言葉に、はやては思わずドキリとしてしまう。

そう、慶次が語る恋煩いの症状(?)はいずれもここ数日の自分に当てはまる事ばかりだったからだ。

 

「だからよ。はやてちゃんもいい男見つけてさ…そいつのために生きて幸せに――」

 

「い、いい男なら……その……い、一応見つけたけど……」

 

慶次の言葉を遮ようとするはやてだったが、ボソリボソリと呟く様なその言葉からはいつもの覇気が感じられない。

 

「えっ!? そうなのかい?! それってひょっとして次元漂流者(戦国武将)の誰かとか?」

 

「そ、それは…ってか言えるわけあらへんがな!」

 

はやては必死で強気な態度を作りながら言い返すと、話題を無理矢理に切り替える。

 

「そういう慶次さんかてどないやねんな? 好きな人の一人か二人いるんやないの?」

 

はやてとしては軽い気持ちで言った一言であったが、その一言を聞いた途端、それまで陽気に笑っていた慶次の表情が、急にちょっと悲しそうな表情へと一変する。

 

「好きな人なら………一人だけいたよ。昔に…」

 

「ん?」

 

意味深な口調で答えた慶次に、はやても背後で様子を見守っていた守護騎士達も違和感を覚える。

 

「…けど、俺は結局その人に俺の想いを伝える事もできなかった……」

 

「えっ…!?」

 

はやては思わず呆気にとられる。

そして、半ば勢い任せていたとは言え、自分がとんでもない話題に足を踏み込んでしまったのだと思い、内心後悔した。

 

「…あれは俺がまだ元服して間もない頃だ…その頃の俺は、とにかく武士として名を上げるにはド派手で目立つような事をしようと考えてさ。幼馴染だったある“友達”と一緒に…まぁ俗に言う『野武士』の集まりみたいな徒党を組んで、国元の加賀以外のあちこちの国で見境なく暴れまわってたもんさ」

 

「慶次さんに…そんな時代が…?」

 

「あぁ…そんなある日、俺と“友達”は一人の少女に出会ったんだ。その子は身寄りもいないばかりか、自分の名前や素性されもわからないでいた。まるで一人だけ別の世界から来たみたいにさぁ。まぁ…日ノ本(俺らの世界)じゃそんな不幸な人間も珍しくはなかったからな…その子もまた、天下取りの傍らでその犠牲になった哀れな一人だったんだろうな…とにかく俺と“友達”はその子が僅かに覚えていた名前で呼ぶ事にしたのさ……“ねね”と…」

 

(? “ねね”…?)

 

慶次の口から出た“ねね”という名前にはやては何故か聞き覚えがあった。

家康達が六課に来てからというものの、彼らを元の世界に戻すのに役立つだろうと思い、改めて戦国時代に関する日本史を勉強し直していた中で、そんな名前の人物がいたのを思い出したのだった。

それは確かある戦国武将の正室だった人物の名前である事までは思い出せたが、それ以上の事がどうしても思い出せずにいた。

 

そんなはやてを尻目に慶次は淡々と話し続ける。

 

「行き場のなかったねねを仲間に加えてからも、俺達は色々と馬鹿やったり、大きな大名家相手に喧嘩売って暴れてはまつ姉ちゃんに説教されたり、利のところで皆でまつ姉ちゃんの作った夕餉を食ったり、宴会やったり…それまで楽しかった日々も更に楽しくなった。それは俺達の仲間の輪の中心にねねの存在があったからだ。それで…いつしか俺は一緒に過ごす、ねねに恋するようになった」

 

慶次はまるで思い出のアルバムを1ページずつ開いて見ているかのように、隊舎の上に広がる青く澄んだ空を感慨深く見つめていた。

 

「けど…ねねの心は俺じゃなくていつしか“友達”に向くようになった。一見、無骨ながらも実直なそいつの性格に惹かれたねねは、“友達”の事を恋い慕うようになり、そんなねねの一途な想いを知った俺は敢えて身を引いてねねと“友達”の仲人となって二人を結びつけたのさ」

 

そこまで聞いたはやては、納得したように頷きながら言葉を挟んだ。

 

「あぁ。それで失恋したっちゅう事かぁ。それで、その“ねね”さんとお友達はどないしたん?」

 

何気なく尋ねるはやてであったが、続けて慶次の口から漏れた言葉で、それが自分の予想したものよりもとんでもなく重い話題であった事に思い知らされる事となる。

 

 

「ねねは……死んだ。 俺の“友達”の手にかかって…」

 

「えっ!!?」

 

 

まさかの返答に、はやては目を見開いて驚愕した。

動揺と混乱のあまりに思わず額に汗が浮かぶ。

 

「ちょ、ちょっと待って! どういう事なん!? なんで!? 愛し合っていた筈やなかったの!? 仲良かったんよね?! それが…どうして!?」

 

思わず詰問するような勢いで問いかけるはやてに、慶次は悲しげな目を返しながら言った。

 

「俺と“友達”は、ある戦国の世に悪名を轟かせる一人の“梟雄”の噂を耳にしたんだ。そいつは己の欲望のまま、価値ある財宝や珍品を手に入れたいが為に、村や町をまるごと焼き払い、そこに住む罪のない人々を傷つけ、殺す事さえも躊躇しない、戦国の世においてこれ以上にない“悪党”だった…俺達はそいつに馴染みのあった村を焼き払われ、その敵討ちを討とうとそいつの根倉に殴り込みをかけた…だけど…」

 

慶次が話しながら拳を固く握りしめると、その言葉の重みが更に増した様に感じられた。

 

「俺も“友達”もその悪党の前に手も足も出ずに完敗した。特に“友達”は手酷くやられちまってな…どうにか動けた俺が、なんとかそいつを連れて、這々の体で逃げおおせる事に成功した……だが、ヤツの圧倒的な力、そして将としての覇気…いずれも俺達が今まで見たこともないくらいに強大で、そして邪悪だった……その邪悪な力こそが、“友達(アイツ)”を根本から変えちまって…ついには“覇王”だなんて戦乱の世を更にかき乱す存在になっちまったんだからな……」

 

慶次の何気なく言った一言が、はやて、そして離れて聞いていたヴォルケンリッターに緊張感を走らせた。

 

「“覇王”やって!? ッ!? ちょい待ち! …ひょ、ひょっとして慶次さんの“友達”って言うのは―――!?」

 

話しながら、はやては思い出す。

確か、“ねね”という名を持つ正室を持った戦国武将の名は……

 

「あぁ、俺の“友達”…そして“ねね”が愛した男は…後に武力をもって日ノ本を統一した天下人 “豊臣秀吉”だ」

 

慶次の言葉に、はやては開いた口がふさがらず、話を聞いていたシグナムやシャマル、ヴィータ、リインもそれぞれに眼を白黒させながら、唖然とした表情を浮かべていた。ザフィーラは目に見えて動揺する様子はなかったが、それでもはやてに語り続ける慶次の事を意味深に見つめていた。

 

「け、慶次さんが…石田三成が盲信する“覇王”の友達だったやなんて…」

 

まさか慶次が、自分達が今相対している勢力の元親玉と親友だったという衝撃的な事実を前に、話がついていけない様子だった。

 

「“覇王”になる前のアイツ…秀吉はそうじゃなかった。愚直だけど、真っすぐで気の優しいいいヤツだった。…けど、その敗北で受けた自分の無力感がアイツを変えてしまったのさ…」

 

それから、慶次は秀吉と自分、そしてねねの間に起こった“悲劇”について語り始めた。

 

「その事件をきっかけに秀吉は「力」を貪欲なまでに追い求めるようになっちまいやがった。最初は一緒に率いていた野武士一味の中から特に腕利きの野郎を引き抜いて、正式に『豊臣軍』として編成して、それを率いて本格的に天下取りに名乗りを上げるようになっちまって…俺やねねがいくら忠告しても聞く耳をもたなくなり、いつしかその時の仲間は離れちまった…そして、秀吉はとうとう超えてはいけない一線を超えちまいやがったのさ」

 

「超えてはいけない一線って…まさか…!?」

 

はやてが恐る恐る尋ねると、慶次は苦々しい表情で頷いた。

 

「秀吉は自分の天下統一へ覇の道を進むに当たって“愛”や“情”が足枷になると考えやがった。 そして、愛する存在のいる自分もまた、大きな弱点を抱えていると考えやがったアイツは…ねねを殺したんだ」

 

「……酷い!」

 

はやては思わず、口に手を当てて言葉を失ってしまった。

 

「俺は…許せなかった……!! ねねが秀吉を選んだ時…俺は正直悔しい気持ちもあった…けど、アイツならねねをずっと幸せにしてやる事ができる。そう信じたからこそ、俺はアイツらを一緒にしたんだ。けど…秀吉(アイツ)は……ねねよりも天下を選びやがった…愛する人よりも“力”を選びやがったんだ!!」

 

慶次はやり場のない怒りを拳に込めて、ハンモックをくくりつけていた木の幹を一回強く打った。

衝撃で木が揺れ、木の葉が何枚かパラパラと落ちてきた。

 

「だけど…ねねは最後まで俺にこう言いやがったよ。 『秀吉(あの人)を恨まないで…』って…アイツも馬鹿みたいに優しい奴だったからさ……」

 

「慶次さん…」

 

「ねねの死をきっかけに俺と秀吉は袂を分かった。結局、それっきり会う事もないまま、秀吉は“覇王”として家康に討たれて死んじまった…こうして俺の人生最初の恋物語と友情物語はどこまでも救いようのない結末…この世界で言えば『バッドエンド』を迎えちまったわけだよ」

 

 

慶次はもう一度空を見上げながら、小さくため息を漏らした。

 

「だから…誰か好きな人や大切な人の為に戦っている人間がいれば、そいつには俺みたいな目に遭って欲しくはねぇ。だから、俺はそんな人達には積極的に力を貸そうと思っているのさ。ちょうど、はやてちゃんみたいな人とかさ…」

 

「わ、わたし!?」

 

不意に名前を呼ばれ、はやては思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「そう。はやてちゃんの機動六課の皆…とりわけ前線部隊や守護騎士(ヴォルケンリッター)の皆を見守ったり、話をしているはやてちゃんの目…あれは間違いなく『大切な“家族”』を守るという強い信念を持った人間の目だ。俺はそんなアンタの強い意志が気に入って、この機動六課に協力する気になったんだぜ?」

 

「慶次さん……」

 

そう話す慶次の表情からはもう悲しみや怒りといった負の感情は消えて、いつもの優しく、爽やかな笑顔に戻っていた。

 

「っと。ちょいと白けちまう様な話だったかな? ごめんな。せっかく美味い菓子を作ってくれたのに」

 

慶次はそう謝りながら、隊舎に戻ろうとする。

するとそんな慶次の背中に向かってはやてが叫んだ。

 

「慶次さん!」

 

はやてに呼ばれて足を止める慶次。

 

「私……頑張る! その“ねね”って人の分まで生きて、この機動六課の部隊長として、大事な家族や友達を護ってみせる!」

 

はやてはそう言いながら、一歩慶次に近づいた。

 

「もちろん、なのはちゃん達や守護騎士(ヴォルケンリッター)の皆だけやない…ロングアーチ、その他のスタッフの皆…家康君達…そして…慶次さんも! 今は私の大事な“家族”なんや! だから……慶次さんも遠慮なく私を頼ってくれたらえぇで!」

 

「…………」

 

話を聞いていた慶次は、初め呆気にとられた様子で聞き入っていたが、やがて…

 

「プッ! ククッ…アッハハハハハハハハッ!!」

 

突然、腹を抱えながら大爆笑し始めた。

その様子にはやてだけでなく、見守っていたヴォルケンリッター達も唖然とした顔になる。

 

「け…慶次さん!?」

 

「アハハハハハハハハッ! 久しぶりだよ! アンタみたいに心のまっすぐな見ていて気持ちのいい()と出会ったのは! こりゃあ、ますますこの世界に飛ばされてきて良かったかもな!」

 

慶次は一頻り笑い終えると、爽やかな笑みを浮かべながらはやての頭にそっと頭を乗せると、優しく撫で始めた。

急な事に驚いたはやては目を丸くしたまま、頬を赤らめ、ヴォルケンリッター…特にヴィータも大口を開けたまま唖然となる。

 

「できるさ…はやてちゃんならきっと。勿論、俺も力を貸せる事があればできる限り協力を惜しまねぇからさ」

 

微笑みかける慶次に、はやても笑顔を返した。

 

「おおきにな…慶次さん!」

 

はやてが礼を述べると慶次は頷きながら、はやての頭から手を離した。

 

「さぁって。そろそろ戻ってシャーリーちゃんの講義受けないと…」

 

「あっ! あの…慶次さん!」

 

今度こそ隊舎に戻ろうとした慶次であったが突如、はやてに呼び止められた。

 

「ん?」

 

「あ…あの…ちょっと図々しいお願いなんやけど……よかったら……私の事はちゃん付けやなしに“はやて”って呼び捨てで呼んでほしいんや」

 

「えっ? どうしてだい?」

 

不思議そうに尋ねる慶次にはやては、片耳を触りながら目を逸らすような仕草を交えつつ、言い訳めいた様に話した。

 

「その…慶次さんって『部隊長警護役』で、言うてみれば他の隊員の皆よりも私と一緒に行動する事が多いわけやし…ここはお互いにもう少し気を置かずに接しようかと思ってんけど…あ、あかんかな?」

 

上目遣いになりながら恐る恐る尋ねるはやて。

それを慶次はニッと笑いながら頷いた。

 

「いいぜ。それじゃあ、アンタも俺の事は“慶次さん”じゃなくて、好きなように呼んでも構わないぜ」

 

「ッ!? ほ…ほんまに!?」

 

慶次の言葉に、驚きと喜びの表情を浮かべるはやて。

 

「じゃ…じゃあ………“慶ちゃん”って…呼んでも構わへんかな?」

 

「………勿論、改めてよろしくな。“はやて”!」

 

「「「「「――――ッ!!」」」」」

 

慶次の言った言葉によって、はやて、そして離れた場所で見守っていたヴォルケンリッター達が一瞬固まった。

慶次のその一言は、はやての懸念していた緊張や距離感を一気に取り払うのには十二分といえる効果を発揮した。

 

「―――ッ!? うん!!」

 

はやてが更に満面の笑顔を湛えながら頷くと、2人はそれから堰を切ったように朗らか且つ親しげに話しながら、連れ立って隊舎の中へと戻っていくのだった。

静かになった裏庭に残されたシグナム達はそれぞれポカーンとした表情を浮かべていた。

 

「えっと、なんていうか…思いの外、急接近したみたいね。はやてちゃん」

 

「ちょっと、急接近し過ぎているような気もするが…?」

 

「ま、まあ、そこははやてちゃんらしいという事で…いいんじゃないですか?」

 

「……いい…のかな……やっぱりなんか納得できねぇというか……」

 

思い思いに感想を述べるシャマル、シグナム、リイン、ヴィータに対し、夢吉はザフィーラの頭の上に乗ったまま、フッと気障っぽく溜息を漏らした。

 

 

「キッキッキキキキッキッキィ…キッキッキキキッキキィ…」

 

 

「……『愛は雲だ、色んなカタチがある』?…お前はどこぞのポジティブツッコミが得意なホスト風芸人か……」

 

 

やはりその愛らしい風貌に似つかわしくない夢吉の言葉を翻訳しながら、ザフィーラはツッコむのだった…

 

 

それから更に数日経った後の昼休み―――

 

「はい。 王手♪」

 

「うぎゃあああああああああああああああ!!? ま…また負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

隊舎・食堂の一角にあるテーブルでは、すっかり親しくなったはやてと慶次が、仲良く将棋を指している姿があった。

 

「おいおい、はやて~。 これで4連続負けじゃねぇか。 もっと本気でかかってこいよ」

 

「かかっとるって! でも慶ちゃんってば、途中で絶対に飛車も角も取ってまうやん! そうなったら勝ち目なくなってまうのもわかるやろ?!」

 

「キキィッ! キキキキ!!」

 

一局を終えて、将棋盤の上に駒を並べ直しながら、はやてはぶーたれながら文句を返した。

すると、慶次の傍でこの対局を見守っていた夢吉も、はやてに同情するように慶次を窘める。

 

『慶次。もう少し手加減してあげな』って言ってるですぅ」

 

それを通訳するのは夢吉を並んで見守っていたリインであった。

 

「何言ってんだい夢吉。 こういう勝負ってのは、下手に手加減してやるのが一番失礼なんだぜ。喧嘩も将棋も全力でかかるのが勝負の華ってね♪」

 

「うわっ! 慶ちゃん大人げな!」

 

「大人げないですぅ!慶ちゃんさん!」

 

「へっへ~ん。大人気なくて結構で~す!」

 

すっかり親しげに談笑している慶次とはやての姿を見て、ポカンとした表情を浮かべるのは、彼らから少し離れた席に座るなのはとフェイトだった。

 

「えっと…はやてちゃんと慶次さんって、あそこまで仲良かったっけ?」

 

「ってかもうあれはもはや、友達以上の関係って呼べるような…」

 

二人が茫然としてるところをシグナムが近づいてきた。

 

「察しがいいな。2人共」

 

「シグナムさん」

 

「シグナム」

 

シグナムははやて達に聞こえないように小声で話しかける。

 

「あぁ、二人の言うとおり、実は主と前田は、ここ数日で急に仲良くなってな…」

 

そう言って二人に3日前の出来事を説明したシグナム。

 

((えっ…ええええぇぇぇぇぇ!!?))

 

他の皆に気付かれたらまずいので、なのはとフェイトは念話を使って驚きの声を上げる。

 

「はやてちゃんが…慶次さんに?」

 

「意外だなぁ…はやてが一目惚れするなんて…」

 

友達であったとしても、自分達も気づかないうちにはやてが初恋を経験した事に驚くなのはとフェイト。

するとシグナムは2人をからかうように耳元で囁いた。

 

「今更何を言ってるんだ? 主もお前達も、もう19歳だ。恋のひとつやふたつ経験したって別に変な事ではないぞ」

 

するとシグナムはなのはの方に目を配りながら、彼女にだけ念話で話しかけてきた。

 

「それに…お前も既に気になってる人間がいるんじゃないのか? あそこに…」

 

そう言ってシグナムが視線を向けた先には……

 

「政宗様! また整備班の若い連中に稽古をつけると言って、散々叩きのめしたそうですね!? そういう無茶な行為は慎むようにと何度申し上げたらお判りか―――」

 

「Ah~…また説教かよ。小十郎…heavyだぜ……」

 

小十郎の説教に対し、うんざりした様子で昼食を食べる政宗の姿があった。

それを見たなのはは、慌てて顔を反らした。

 

(お前もここしばらくの間、やけにアイツの事を注視する事が増えているみたいだが…?)

 

「し…シグナムさん! 変な事言わないでくださいよ!」

 

シグナムが微笑を浮かべながらからかう様に尋ねると、なのはは顔を赤くしながら彼女の肩を叩く。

 

「? なのは、どうかしたの?」

 

フェイトが怪訝な面持ちで2人のやり取りを見つめた。

 

「にゃっ!? にゃにゃにゃ、にゃんでもないよ! フェイトちゃん! にゃはははは~~~!!!」

 

「?」

 

不自然な笑いで誤魔化そうとするなのはだったが、それは最早誤魔化しになっておらず、フェイトは親友の不審な挙動に余計に首をかしげるばかりだった。

 

 

(やれやれ…主といい、なのはといい、こういう事にはてんで不器用な者ばかりだな…)

 

 

そんな2人のやり取りを見ながら、シグナムは苦笑を浮かべるのだった……




っというわけで、まさかの夢吉を思いっきりキャラいじっちゃいましたw
あんな可愛い顔して、喋ってる内容がジジ臭かったら正直引きますよね?ww


次回は、西軍サイドのサブストーリーにする事を予定していますので、お楽しみに。

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