リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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今回のエピソードはリリバサオリジナル版の前半部でも個人的に特に気に入っていた話のリブート版ですが、リブートに当たって、オリジナル版では次の長編から登場していたオリジナル版においてはオリキャラ屈指の人気を誇っていたあのキャラクターを先行させる形でこのエピソードに登場させる事にしました。

新しくなったあのキャラクターの破天荒さ、そして野菜に狂う小十郎の暴走をお楽しみ下さい。

小十郎「リリカルBASARA StrikerS 第四十一章 お前ら、野菜を食え!」

シグナム「どこぞのヴィーガンのキャッチフレーズか…?」


第四十一章 ~野菜を守れ! 機動六課屋上菜園大防衛線! 前編~

“それ”が最初に目撃されたのは…一週間前の夜

首都クラナガンから内陸へ向かって30キロのところにある、とある貸し農園だった―――

 

およそ500メーカー程の広大な敷地を何区画かに分割して、菜園として第三者に貸し与える形で、日頃農作業とあまり縁のない都心部に住む人達にも農業を手軽に楽しんでもらおうというこの事業は、今ミッドチルダにおいてそれなりに人気となっており、日曜大工ならぬ日曜農夫を趣味とする都会人が増えていた。

 

貸し与えられ、それぞれに耕された菜園にはニンジン、大根、トウモロコシ、トマト、玉ねぎ、キャベツ、レタス、ほうれん草、サヤエンドウ、ラディッシュ、スイカ―――様々な野菜が豊富に実っており、そのどれもが食べごろを迎えていた。

しかし、収穫まではもう2、3日置く必要がある…その時こそ、最高の出来の野菜が収穫できる…その為にも今すぐに収穫したい衝動を抑えなければならなかった。

 

だが、そんな人間側の事情も農園の周囲に住む動物達は知る由もない…

土地に実った“ごちそう”を前に絶えず、よだれを垂らしながら徘徊する猿や野うさぎ、イノシシ、鹿、コヨーテ…無造作に食い散らかそうと虎視眈々と狙いを定めながら農園の周囲を飛び回るカラス…

常日頃から用心すべき野菜の“天敵”達だが、なかでも特に警戒を緩めてはいけないのがまさに収穫を目前に控えた今であった。

当然、菜園の借り主達はそんな害獣達から自らが手塩にかけて育てた野菜を守る為にそれぞれに工夫を凝らして対策を練り、そして興じていた。

 

この農園で一番大きな畑を借りているヴィッツ夫妻もまたその一人だった…

 

「ふぅ…これだけカカシを立てておけば、下手に動物に押し入られる事もないわね?」

 

「…それにしても、アリソン。これは少し立て過ぎじゃないかい?」

 

時刻は夜9時30分…農園オーナーによって敷地の門が施錠される30分前のギリギリのこの時間である今、農園にいるのは夫グレイと妻アリソンの2人だけであった。

貸し農園のどの菜園よりも広大な敷地と、豊富な種類の野菜がたわわに実った菜園に、既に数十本も立てかけられた案山子を前に、満足気に話すアリソンに対し、グレイはやや呆れながらボヤくのだった。

 

「何を言ってるの? せっかくここまで育ててきた野菜が、ここらで動物に食い荒らされたりでもしたらどうするのよ? そうなったらここまで苦労して積み上げてきたものが全部水の泡になってしまうのよ? あなたのホームシアターみたいに…」

 

「うぐ…そいつは言わないでくれよ……」

 

ついこないだ受けたばかりの心の傷を抉られ、グレイはがっくりと項垂れた。

 

約半月前…時空管理局のとある特殊部隊の一人が起こしたという『クラナガンの暴れ竜事件』なる暴走騒動に、不運にもヴィッツ夫妻の自宅も巻き込まれる事となり、自宅に突っ込んできた数台のバイクによってリビングだけでなく、グレイが趣味で造り上げていたホームシアターまでも一瞬で壊されてしまったのだった。

自宅の損害自体は保険に入っていた事に加え、管理局からの補償もあって問題なかったが、それでもグレイ自慢の映画のDVD、BDコレクションの殆どが壊され、しかもその大半が既に絶版品でめったに手に入らない希少品だった事もあって、グレイの夢だったホームシアターは実質、再起不能となってしまったのだった。

 

それでもどうにか、前向きに考えていこうとしたグレイは、妻のアリソンの趣味であった農園に興味を懐き、彼女が借り受けている菜園の手入れに行く際に今までは、家で映画を見て待っていたものを、一緒に出向く事で自分も新しい趣味の世界に触れようとしていたのだった。

 

「あんな想いをするのは二度とごめんでしょ? だったら、私の野菜が食い荒らされない様にしっかり守りを固めておかないと」

 

「そうだな…わかったよ。もう大事な楽しみを目の前でまざまざと奪われるような事はごめんだ」

 

グレイはそう言うと、アリソンの指示で菜園の脇に停めた車のトランクから今度は防鳥用のネットを取り出そうとしていた。

その時だった……

 

 

 

 

キィィィィィィィィィィィィィンン…

 

 

 

「うん?」

 

突然、グレイの耳に奇妙な物音が入ってきた。

まるで何か物体が取んでいるかのような甲高い物音が真上…空の上から聞こえてくる。

グレイは空を見上げ、音の在り処を探すように見渡した。

 

「? どうかしたのグレイ?」

 

「いや…今何か奇妙な音が―――」

 

 

 

キィィィィィィィィィィィィィンン!…

 

 

 

「…!? 何? この音………って、えぇっ!?」

 

さっきよりもはっきりと聞こえてくる物音にアリソンも気がついたのか、夫に続いて空を見上げ、そしてある方向を見据えた途端に驚愕の声を上げ、そして慄いた。

グレイが慌てて彼女の視線の先に目をやると…

 

 

キィィィィィィィィィィィィィンン!

 

遥か上空から、一筋の光がこちらに向かって落ちてきているところであった。

一瞬流れ星かとも思えたが、それにしては随分大きい…さらによくよく見てみるとそれは隕石などではなく、手足と頭の五体で構成されているように見えた。

まるで…

 

「に、人間だ!?」

 

グレイが思わず仰け反りながら悲鳴を上げる。

空から降ってきていたのは紛れもなく“人間”だった。

一瞬スカイダイビングかとも思ったが、こんな夜更けにスカイダイビングをしようと考えるような命知らずなバカがいるわけがない。そもそも落ちてきている人間は、パラシュートなんて付けていなければ、魔導師が着るバリアジャケットも身につけていなかった。

 

「グ、グレイ!? あれは一体何なの!?」

 

「わ、わからん! とにかく逃げ―――」

 

グレイとアリソンが慌てて、自家用車を停めた方向へ向かって駆け出して退避すると、まもなく空から降ってきた“人間”は爆音と共にヴィッツ夫妻の菜園の一角にあるトウモロコシ畑に落下した。

 

ドオオオオオオオオオオオォォォォォォン!!

 

その衝撃で、よく耕された菜園の土と決して少なくない数のトウモロコシが苗ごと吹き飛ばされ、100メートルは離れている筈のヴィッツ夫妻の車のバンパーに巻き上がった土砂と2、3本のトウモロコシが雨のように降りかかった。

 

「キャアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!」

 

「う、うちのトウモロコシが!? ワシの車がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アリソンは悲鳴を上げながら身を屈め、グレイは地面に叩き落されて台無しにされたトウモロコシと砂埃まみれになった愛車のワゴンを見て悲痛な声を上げた。

そして白煙が舞い上がるトウモロコシ畑を一瞥すると、急いでワゴンのバンパーから護身用として、管理局にデバイス登録済みしてある上下二連式のショットガンを取り出してきた。

 

「アリソン! お前は車の中に隠れていなさい! ワシは何が落ちてきたのか突き止めてくる!」

 

「グレイ! お願いだから無理しないで!」

 

自分を案ずるアリソンの言葉を背中に受けながら、グレイは整備された菜園の中の小道を駆け抜け、トウモロコシ畑の近くにやってくると、まずは柵で覆った畑の外から中を伺いながら声をかける事にした。

 

「お、おい! そこに誰かいるのか?!」

 

「…………………グルルルルゥ……」

 

「ッ!!?」

 

一瞬隙間なく無造作に生え揃ったトウモロコシの苗の向こうから聞こえてきた獣の様な声に背筋が震え上がりそうになるグレイだったが、しかし、確かに畑に落ちてくる直前に見たそれは人間だった事を思い出すと、ゆっくりとショットガンを畑に向かって構え、安全装置を指で外すと、そのまま引き金にかけて、いつでも発射できるようにした。

 

「誰だ!? お前が“人”であるのはわかっているぞ?! さぁ! そんな動物の鳴き真似なんかしていないで、おとなしく出てこい!」

 

グレイはショットガンを構えたまま、畑の中にいる“何か”に向かって投降を呼びかける。

 

「今すぐ出てくるというのなら、何も咎めるつもりはない! だから、おとなしく―――」

 

「…………………ガウウゥゥゥゥ…ッ!!」

 

「ッ!!?」

 

一際大きい唸り声に慄き、思わずショットガンの引き金を引きそうになってしまいながらグレイはギリギリそれを抑えると、今度は少し怒気を含んだ声で再度畑に向かって叫ぶ。

 

「ふざけるな! こっちにはデバイス登録済みの銃があるのだぞ! いつまでもそうやってワシをからかおうっていうのなら、お前の腹に風穴が空く事になるぞ! それでもいいのか! おぉ?!」

 

 

ガサガサガサガサガサッ!!

 

 

「ひぃっ!?」

 

グレイの威嚇に反応する様にトウモロコシの苗達が激しく揺さぶられ、大きく振動する。

その様子を見て、小さく悲鳴を上げて輿を抜かしそうになりながらも、グレイは精一杯の勇気を示すようにショットガンを畑に向けたまま、少しずつ…本当に数センチずつながらも、何かが潜んでいるのは確実であるトウモロコシ畑に近づいていく。

すると畑の中から何か人の言葉の様なものが聞こえてくる。

 

「………ハラヘッタ……クイモン……ヨコセ……」

 

「……『腹減った』…? 『食いもん寄越せ』…?」

 

もしかして、畑の中に潜む“何か”は空腹なのか?

 

そう推察したグレイは、どうにかこの未曾有の事態を前にどうにか穏便に事が片付くようにある決心をした。

 

「は、腹が減っているのか? それならちょうどよかった。ここはワシら夫婦が営んでいる菜園だ。少しくらいなら野菜を食べさせて構わないぞ?」

 

「…………ヤサイ…ッ!? タベテ…イイノカ…!?」

 

畑の中から先程よりもはっきりとした言葉で、“何か”が好意的になりつつある口調が返ってきた。

「しめた」と思ったグレイはここで一気に畳み掛けて懐柔しようと考える。

 

「あぁ。だから、おとなしくそこから出てきて―――」

 

ところが、グレイのその言葉が終わらない間に―――

 

 

「ウガアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!! ヤサイダアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」

 

バリバリバリバリバリバリバリバリ!! ボリボリボリボリボリボリ!!!

 

 

突然、活気の付いた若者らしき雄叫び、そして咀嚼音と共に、トウモロコシ畑の苗が激しく揺れ動き、高々と伸びた苗の列の向こうから、次々に食い散らかされたトウモロコシの芯が流星雨の様に飛来してきた。

 

「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇ!! い、一体何をしとるんじゃあああぁぁぁぁぁ!!? だ、誰が今すぐ食べていいなんて言ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

まさかの展開に驚愕のあまり、その場に腰を抜かしてしまったグレイは、瞬く間に畑のトウモロコシを次々に食い散らし始めた“何か”に怯えながらも、必死に制止して叫んだ。

しかし、“何か”はグレイの叫びにまったく気に止める事がないのか、芯だけとなったトウモロコシの残骸の流星雨はとめどなくグレイに目掛けて取んで来ていた。

 

だが、それから数秒と立たぬ間に、突然トウモロコシ畑の柵の下から、地面が筋を描くように隆起し始め、それはラインを描くように畑の小道を前進しはじめた。

それはまるでモグラのようであったが、それにしては大きい。

まるで小柄な人間一人分程の体格はあるであろうそれは、トウモロコシ畑から出ると、腰を抜かしていたグレイの脇を抜けて、今度は反対側のトマトとナスの苗がある畑に入っていった。

そして…

 

 

「ブゥワアアアアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーー!!」

 

バリバリバリバリバリバリバリバリ!! ボリボリボリボリボリ!!!

 

 

再び、雄叫びと咀嚼音が畑中に反響すると、今度はトマトやナスの食べ散らかした蔕が流星雨の様に飛んできたのだった。

 

「こ、コイツ! ワシらの畑の野菜を全部食い散らかす気か!? や、やめてくれぇぇぇーーー!!」

 

「グレイ! 一体どうしたの!? グレイ!――」

 

グレイが頭を抱えながら、悲鳴を上げていると、車に隠れていた筈のアリソンが慌てて駆けつけてきた。

…が、夫の周りに無残に広がるトウモロコシの芯やトマト、ナスの蔕の山を見て、自らが手塩にかけて造り上げた菜園で起きている窮地を察し、驚愕と恐怖、そして憤怒の感情が複雑に入り混じったような歪な表情を浮かべた。

 

「いやああああぁぁぁぁぁ!! 何よこれぇぇぇぇ!?」

 

「ウメエエエエエエエエェェェェェェ!!! ウンメェェェェェェェッ!!!」

 

「やめて!私の野菜を食べないで! このバァカ! グレイ! なんとかして!!」

 

「な、なんとかってどうすれば…!?」

 

相変わらず腰を抜かしたまま動けずにいる夫の不甲斐なさにしびれを切らしたアリソンは、グレイの脇に落ちていたショットガンを拾い上げると、トマト畑にいるであろう“何か”に向かって容赦なく引き金を引いた。

銃声とマズルフラッシュと共に散弾がトマトの苗を数本吹き飛ばしたが、アリソンは間髪を入れずに続けて引き金を引いて、2発目を発射した。

 

「早く出てらっしゃい! このバケモノ! よくも私の菜園を台無しにしてくれたわねぇぇ!」

 

「あ、アリソン! 気持ちはわかるが落ち着け!」

 

ようやく立ち上がる事が出来たグレイは狂乱する妻をなだめようと駆け寄るが、アリソンはそんな夫の腰に巻いていた弾帯からショットガンのシェルを2つ奪い取ると、慣れた手つきで、シェルの交換を行い、再び銃口をトマト畑に向けようとした。

その時、トマトの苗の向こうから人影らしき “何か”が天高く舞い上がった。

 

天上に浮かぶ2つの月の内のひとつをバックにして、はっきりとそのシルエットがヴィッツ夫妻の目に留まる。

暗闇のせいではっきりとは見えなかったが、青緑を基調とした毛皮のような古風な服を纏い、三角形の奇怪な帽子らしきものを頭に被ったこのミッドチルダには見かけない装束をまとったそれは明らかに人間…それもまだ少年から青年になったばかりの年若い男のように見えた。

 

「マダタリネェ…ココノヤサイ……ゼンブオレノモノダァァァァァァァ!!!」

 

だが、男の口から出る言葉は人間と言うよりも最早、飢えた獣のように片言だった。

 

「ヒイイイィィィィィ! や、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

その片言で聞こえた言葉の趣旨から、男がまだ菜園を食い荒らす気でいる事を察したアリソンは慌ててショットガンを天上に向かって構えた。

だが、引き金を引く間もなく、男は青緑色の一筋の旋風となってヴィッツ夫妻に向かって突進するように飛びかかってくる。

 

「ハラヘッタァァァ!! メシクワセェェェェェッ!!」

 

近寄ってくる旋風を前にアリソンは既に引き金を引く勇気を喪失し、グレイもせっかく戻った筈の足腰から再び力が抜けていく感覚を覚えた。

 

 

「「せ、聖王オリヴィエ様、どうか貴方のお慈悲と強き魔法のお力のご加護で、私達夫婦を、あらゆる魔の者、そして災難からお守りくださいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」」

 

最後は夫婦揃って信仰している聖王教の呪句を唱和して神に救いを求めようとしたが、その前に飛びかかってくる旋風を前に最後は声を裏返しながら絶叫するのだった。

夜の菜園にヴィッツ夫妻の悲鳴と、獣のような咆哮、そして一際激しい咀嚼音が響きわたった……

 

 

 

それから一週間後―――

機動六課・隊舎の食堂でいつものように朝食を食べていたなのは、スバル、フェイトと家康、政宗、幸村の6人は、備え付けのホログラムテレビであるニュースを見ていた。

 

ここ数日のニュースは、どの局の放送も最近クラナガン周辺で起きているというある奇妙な事件で持ち切りとなっていた。

 

《皆さん。おはようございます。KCB(クラナガン文化放送)リポーターのアリーナ・ライトキャップです。私は現在、正体不明の“何か”に襲撃されたという貸し農園に来ております。ご覧ください。こちらの農園には先日まで各契約者の方々によって様々な野菜が育てられていたそうですが…今はこのとおり、まるで荒野のように草木一本と残っていません》

 

ホログラムモニターには、赤髪のショートカットヘアの若い活発な雰囲気の女性レポーターが、ぺんぺん草も生えていない荒れ地と化した土地を前にして、この惨状を細かく実況していた。

そこは僅かに残されていた食い散らかされた野菜や苗木の残骸や、折れて倒れた柵や案山子がかろうじてその場所が農園であった事を暗示させる印となっていたが、それ以外はまるで、無残に穴ぼこだらけにされ、耕作用に耕された土さえも残っておらず、何も知らない者が見たら、農園というよりは戦場の跡地と勘違いするような悲惨な光景が広がっている。

 

《こちらは、この農園のオーナーの方から入手した事件発生前日の農園の様子ですが…沢山の野菜の苗が植えられた緑豊かなとても裕福な農園だった事がわかります。それが…たった一晩でまるで別世界のように変わってしまったのです! 一体誰の仕業なのでしょうか?》

 

レポーターの女性 アリーナが提示した写真には、確かに多種多様な野菜が豊作に実った充実した農園の光景が写されている。

とても、それが今彼女の立っている場所と同じ地であるとは思えなかった。

 

《KCBはこの一連の怪事件の最初のケースであるこの農園で起こった惨劇の現場を目撃したというヴィッツご夫妻にお話を窺う機会を得られました。ヴィッツさん。もう一度、事件当日の様子を詳しく話して頂けませんか?》

 

アリーナがマイクを向けた先には、すっかり顔を青ざめて、頬骨が浮き出る程にやつれてしまったグレイとアリソンの老夫婦2人の姿があった。

 

《あれは私と妻で借りていたここの菜園の野菜を手入れしていたところだったんだ。いきなり、あの“モンスター”は空から隕石みたいに降ってきてトウモロコシ畑に落っこちたと思ったら、モグラの様に地面を掘り進んだり、竜巻みたいに空を飛び回ったりして、次々に菜園にあった野菜を食べ散らかしていったんだ! 幸い、奴はベジタリアンだったのか、私も家内もこのとおり別に怪我はなく無事に済んだのだが…》

 

《いいえ! 無事じゃないわよ! 見てみなさい! 私がせっかく手塩にかけて育てた野菜達が!! 苗や土まで食べ尽くされたのよ!! しかもそいつ、私達の野菜だけに飽き足らず、この貸し農園全部の野菜を我が顔で食い荒らして行ったのよ! このあいだは主人が趣味にしていたホームシアターが壊されて落ち込んでいたから、新しい楽しみを作ってもらおうと、こうして日曜農業の世界に誘ったというのに……あぁ、なんて可愛そうな私達!》

 

夫に向けられていたマイクをひったくる様に奪いながら、アリソンがヒステリー気味に叫んだ。

そんな彼女の剣幕に怯みながらもアリーナはインタビューを続ける。

 

《し、心中お察しします…ところで、その“モンスター”というのは一体どういった姿をしていたのですか?》

 

《夜だったのではっきりと見えたわけじゃないのですが…とにかく“青緑色の毛皮”の様なものを着た人間のようなものだったが…だけど人間がモグラみたいに土を掘り進むなんて出来るわけがないだろうし…》

 

《そうよ! きっとあれは、人間の姿をした恐ろしい野菜喰らいのバケモノよ! 放っておいたら、ミッドチルダ中の野菜が食い尽くされてしまうわ!! 地上本部のレジアス総司令! 全国の農家の皆さんに非常事態宣言の発令をおおぉぉぉぉぉ!!》

 

《あ、アリソン!? ま、またヒステリーを起こしてるぞ! お、落ち着きなさい!!》

 

とうとう半ば狂乱気味になるアリソンをグレイが必死に宥め諭した。

 

《……え~…非常事態宣言は少々オーバーかもしれませんが、実際にこの農園を皮切りに、首都クラナガン近郊では今朝までの間に13件もの農園や一般家庭の菜園で同様の被害が発生しており、近隣の農家の間では “妖怪・ファーム・イレイザー(菜園消去屋)”という異名で大変恐れられているそうです。

尚、時空管理局地上本部は各農家や農園を所有している一般家庭に対して、十分に警戒する様呼びかけているなどして対処しているとの事で、近隣住民の方はくれぐれもご用心下さい。現場からアリーナ・ライトキャップがお送りしました》

 

 

背後でグロッキー状態になったアリソンが喚き散らすのをグレイが抑えるというなかなかショッキングな光景を最後に、アリーナの現場からの実況は終わって、映像はスタジオへと切り替わった。

 

「“ファーム・イレイザー(菜園消去屋)”かぁ…なんか怖いのか、バカバカしいのか微妙な事件だね。農園の野菜が一晩で食べつくされちゃうだなんて…」

 

「本当だね。それにしても、一体何の仕業だろう? 新種の魔法生物とか?」

 

珍しそうに見るなのはとフェイトだったが、家康や幸村はあまりこの事件に興味がないのか、なんともなさそうな様子でテレビを見入っていた。

家康達のいた戦国時代には農業が主な産業のひとつであり、それ故に畑を食い荒らそうとする泥棒や害獣による被害などは珍しくないばかりか、時には田畑を巡って領民同士の血で血を洗う争いも少なからず起きており、家康や幸村も何度かその仲裁を担ったことがあった程だ。

その為、今回の事件もそんなちょっと度が過ぎる野菜泥棒が怪我人を出さない程度に暴れまわっている程度にしか思わなかった。

 

「家康殿。これはやはり“(けもの)”の仕業にござろうか?」

 

幸村が何気なし気に家康に尋ねた。

 

「おそらくはそうである思うな。大体、あれだけ広大な敷地の畑の野菜を一晩で食いつくせる程の食欲を持った人間なんてそうそういる筈が―――」

 

家康がそう言いかけて、ふと隣にいるスバルを見て…

 

「ん? なんですか? ムグムグ…」

 

「………」

 

顔の前まで届かんばかりに叩く積み上げられたサンドイッチを涼しい顔をしながら食べ進める愛弟子の様子を見て言葉を詰まらせた。

それから、気恥ずかしそうにコホンと小さく咳払いをしながら、幸村の方に顔を戻す。

 

「…ま、まぁ一部例外があるとしてもだ。一週間で13件もの農園を荒らすだけの持久力や執念は、とても人間とは思えない程に並外れていると思うぞ…」

 

「いや…そうとも限らねぇぜ?」

 

話を聞いていた政宗がさり気なく言葉を零すように、会話に入ってきた。

 

「今のInterviewに出てきたOld ladyもそうだが…何故か野菜に対して異様に執念が過ぎて、時に理性を失ったり、人外な程のPowerを発揮するって例は、俺も一応身近に知っているからな…」

 

「えっ!? そんな人っているの!?」

 

なのはがちょっと呆れながら尋ねると、政宗がそれに応える代わりに、今しがた数人が入ってきた食堂の入り口の方を顎で示した。

 

「これだけ言っても何故わからないんだ!? リリエ! 事は急を要する事態なのだぞ!」

 

「だから聞き入れてくださいよ片倉さん! 貴方の言う設備にそれだけの予算を割いたりしたら、隊の他の経費が成り立たなくなっちゃうんですってば!」

 

入ってきたのはロングアーチのオペレーター兼経理担当のルキノ・リリエ。

そして、奥州伊達軍の副将にして、総大将 伊達政宗が唯一背中を預ける程の信頼を置く日ノ本でも名の知れ、ここ機動六課でも、相変わらずその実力、人柄共に多くの人間から一目置かれていた猛将 片倉小十郎であった。

 

この隊舎においては珍しい組み合わせの2人が、何やら激しく言い争いをしている。

 

「小十郎さん! 少し落ち着いて下さい!」

 

「…片倉。いい加減に諦めたらどうなんだ?」

 

後ろから、キャロが心配そうに、シグナムが呆れたような顔つきで後を追ってやってきた。

これはただならぬ事と察したなのは達はテーブルから立ち上がると、小十郎達の下に歩み寄って、言い争いの理由を尋ねる事にした。

 

「ちょっと、ルキノ。小十郎さんもどうしたの?」

 

「あっ! なのはさん! フェイトさん! 助けて下さい~~~!」

 

なのは達の顔を見た途端、ルキノはもうお手上げと言わんばかりに、すっかり困り果てた表情を浮かべながら、泣きついてきた。

 

「片倉殿。武士たるそなたが、かように女子(おなご)を泣かせるとは見損なったでござるぞ」

 

「ひ、人聞きの悪い事を言うな! 真田! 俺はリリエに設備予算について一言要請しようとしただけだ」

 

「「「「設備予算?」」」」

 

小十郎の口から出たワードに、なのは、フェイト、スバル、家康が声を揃えながら、首をかしげる。

すると、小十郎はなのは達に一枚のレポート用紙を差し出してきた。

それを手にとったなのはが文面に目を通すと、このような見出しが目に留まった。

 

 

『片倉流 屋上菜園防衛設備強化計画』

 

 

「………なにこれ?」

 

なのはの横から覗き込む様に見出しを黙読したスバルが冷や汗を浮かべながら、呟くように言った。

対して、小十郎は「よくぞ聞いた」と言わんばかりに得意げに話し始めた。

 

「お前たちも知っているだろうが、俺は八神の取り計らいでこの隊舎の屋上を借りて、野菜を育てている。そしてこのミッドチルダの気候や品質の良い土、そしてこの世界の野菜の素晴らしく効率性の良い性質のおかげで、耕作してからまだ1ヶ月と経たない内にもう初生りの時期を迎えようとしているのだ。しかぁしッ!!」

 

「「「「ひゃう!!?」」」」

 

「「お、おおっ!?」」

 

突然、クワッと憤怒の情を顕にしながら、声を張り上げた小十郎の気迫に、不意を突かれたなのは、フェイト、スバル、ルキノが少し飛び跳ねてしまい、家康や幸村さえも思わず仰け反いてしまう程に驚くのだった。

一方、政宗はというと、既に自らの“右目”のこの挙動の趣旨を理解しているかのように、ため息を漏らしながら退屈そうに話を聞いていた。

 

「ここ一週間の間、クラナガン郊外の各所に出没しているという “妖怪・ファーム・イレイザー(菜園消去屋)”の話は存じているだろう?」

 

「え、えぇ…」

 

フェイトが慄きながら答えた。

 

「正体はわからんが、そいつはなんと畑に実った収穫寸前の野菜ばかりか、その苗や、それを育む為に農夫が必死に耕し、肥料を撒いた土までも食い尽くすというとんでもないバケモノだそうだ!! そんな野菜にとって害…否、害と称するのも痴がましい! 忌むべき厄災ともいえる存在が、既に13もの農園を食い尽くしたというではないか!」

 

「は…はぁ…」

 

「なんて恐ろしい! そして、なんて腹立たしい話なんだ!! 農夫にとっては我が子と同様に尊い存在である野菜を、無慈悲に食い荒らす様な血も涙もない輩がこの世界にもいるってだけでも許せないというのに、それが事もあろうに俺の目と鼻の先でうろついている可能性があるという事だ!」

 

「だ、だからその話と小十郎さんのこの計画に一体何の関係が…?」

 

なのはがドン引きながら聞くが、その言葉が癇に障ったのか小十郎は目をキュピーンと光らせながら、鬼の様な形相をズイッとなのはに近づけながら、反論する。

 

「ここまで話してまだわからねぇか…? つまり、俺の大事な屋上菜園も、その“妖怪・ファーム・イレイザー(菜園消去屋)”に食い散らかされる恐れがあるって話だぁっ!!!」

 

「あっ……う、うん。よくわかりました……」

 

顔を青ざめながら、なのはが何度も首を縦に振って頷く。

どうにか、それに納得したのか小十郎は顔を離しながら、話を続けた。

 

「だから、奴が現れる前にこちらから仕掛けて迎え討つ準備が必要だ。その為に設備強化をリリエの申請したのだが…俺がいくら頼んでも承認してくれないから困っていたのだ」

 

「いや…片倉よ。それを承認してもらえるのは流石に無理があるぞ」

 

政宗同様に黙って話を聞いていたシグナムがここへきて、冷静に指摘を入れた。

それを聞いたなのは達は改めてレポート用紙に書かれた『片倉流 屋上菜園防衛設備強化計画』についての文面に目を通す。

 

「えぇっと…『厚さ5センチのレアメタル製の防弾障壁』!?」

 

「『自動索敵式熱レーザー照射タレット』15機!!?」

 

「『哨戒用小型A.I式空挺型ドローン』4台!!!?」

 

「『対人地雷』100個!!!!?」

 

「『レーダー感知式害獣用ボウガン』50台!!!!!?」

 

計画書に書かれた小十郎が菜園防御強化の為の設備や備品一式の申請リストをそれぞれ読み上げながら、呆気にとられるなのは、フェイト、スバル、家康、幸村。

 

「いやいやいや! これ菜園の防御設備じゃないですよね!? 国立銀行の貸し金庫でもここまで大げさな警備設備は付けませんよ!!」

 

「これ全部通そうとしたら、普通に予算が億単位は越えちゃうよ!!」

 

スバルとフェイトの言葉を聞いたキャロは恐る恐る小十郎に進言する。

 

「ほ、ほら。やっぱり予算的にも無理があるんですよ。ここは私やシグナム副隊長の提案したように普通に害獣用の電気柵や防御魔法によるフィルター施工で対策すれば…―――」

 

「いいや! それでは駄目だ! ファーム・イレイザー(菜園消去屋)を迎え討つにはそれだけでは力不足だ! ヤツの毒牙から俺の野菜を守る為にはこれだけの装備を整えておかねばならん! だからこそ、六課の経理担当であるお前になんとかしてもらいたいのだ! リリエ!!」

 

「そんな無茶言わないでくださいよぉ~~~! 大体、こういう話は最初に八神部隊長に言ってくださいよ!!」

 

「八神にはもう話した! そしたら『六課の経費の話は経理に相談しろ』との事だからお前に相談しに来ているのだろう!! とにかく野菜の危機なんだ! なんとかしろぉぉっ!!」

 

「ひいぃぃぃぃぃぃぃ!!! だから無理なものは無理なんですってばあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

とうとう耐えきれなくなり、涙目になりながら逃げ出したルキノを追いかけ、慌ただしく食堂を出ていく小十郎の背中を呆れながら見ていた政宗は、すぐにシグナムに向かって話しかけた。

 

「Shoot…シグナム。悪ぃが小十郎を止めてくれねぇか。最悪、ネギでも咥えさせてでもいいから黙らせてやれ」

 

「…何故ネギなのか知らんが承知した。というかお前が言わなくともそうするつもりだ」

 

シグナムはそう答えると急いで、小十郎の後を追って、食堂を出て行った。

その場に残されたなのは、フェイト、スバル、キャロは小十郎の意外な一面を見て唖然とした表情を浮かべていた。

 

「ま、政宗さん…あれどういう事なの?」

 

なのはが尋ねると、政宗は疲れた様にため息を漏らしながら、説明した。

 

「Sorry…実は、小十郎は俺の世話役になる前から農業…それも野菜作りに精をだしてやがってな…奥州でも自分専用の畑を幾つも持っていやがる程の熱の入れようだが…見ての通り、野菜の事になると時折、あぁして変な方向にOver heatする悪癖があるんだよ。特に自分の手掛けた野菜に危機が及んだ時とかな…」

 

「そ、そうなの!?」

 

「そうなんです。私もつい先日知ったのですが…」

 

キャロが補足を入れるように、ここ最近知ったばかりの小十郎の唯一無二の趣味 『野菜』に関して説明してくれた。

 

 

『野菜』―――

 

それは小十郎の趣味…と称するには余りにも情熱を注ぎ過ぎる、言わば魂の結晶…

彼が手掛けた農園に手の抜き所などというものは存在しない。

もちろん農薬の使用なんぞもってのほか(尤も戦国の世に農薬なんてあるわけないが…)。

よって産みだされた野菜は皆、味、品質、色艶…どれを取っても他の追従を許さぬ至高の逸品。

これを食べたら最後、他の野菜なんざ霞んでしまう…ある意味恐ろしい代物である。

さらに好都合だったのが、先程、小十郎の力説にもあったように、優れた品質と土地環境などが合わさって、一度苗を植えたり、芽さえ出れば、平均にしてわずか1か月程度でもう食べられるまでに育つという小十郎にとってはチートともいえるこのミッドチルダの野菜の性質だった。

小十郎ははやてからこの農園を与えられたその日のうちに、ミッドチルダ各地から取り寄せさせた野菜の苗や種、さらに良質な土や肥料、優れた農具などに自身の給料をすべて注ぎ込み、まさに完璧ともいえる資材を揃えた上で、この菜園を育て上げた。

 

そして、この間ここで収穫された野菜の第一陣を六課の食堂のメニューに出したところ、言うまでもなくその絶品ともいえる野菜のおいしさに六課のスタッフの間で大反響が起こり、小十郎の野菜は忽ち『幻の野菜“片倉印の野菜”』とブランド名を与えられるまでの特上品のお墨付きをもらい、その噂は管理局の他の部隊や、さらにはミッドチルダの一般人にまで広がる事となった。

 

 

「そういえば、最近妙に食堂のご飯の野菜が美味しくなった様に思えたんだよねぇ」

 

「片倉殿…ワシらの知らぬ内にそこまで菜園を発展させていたとは……」

 

「最早、ちょっとした事業だよ…」

 

スバルが一人納得したように呟く傍らで、家康とフェイトは、小十郎の執念ともいえる野菜への熱の入れ様にちょっと呆れながらボヤいた。

 

 

とにかく、当然ながらそんな幻の野菜が六課にある事を知ったら、それを食事に提供して好評価を受ける事で高い地位を得ようと企む、管理局高官などの名士に仕える野心家な調理人や、高く売って儲けようと企む欲深い商人が後を絶たず、連日小十郎の元へと買い付けに六課へと押しかけに来るのだった。

だが…

 

「ふざけんな!俺の野菜は金儲けや出世の為の道具じゃねぇ!!とっとと帰んな!」

 

…っとこんな調子で小十郎は相手の本質を見抜くと、有無を言わさず追い返すのだった。

中には『舌の肥えた美食家』を名乗り、野菜の事をよく理解している人間を装って小十郎に近づこうとする者もいたが、そんな連中に小十郎は…

 

「ほう…では、お前の舌が本物かどうか俺が徹底的に試してやる。そうすれば野菜を提供してやるぜ」

 

…っと言ったように、本当に野菜の味がわかっているのか厳しい試験を課し、あっけなくその化けの皮を引っ剥がすと、他の連中と共に追い出してしまうのであった…なんでも小十郎が野菜を他人に譲る基準は、その人物が野菜の良さを本気で理解しているかどうか。

当然、理解できない不届き者はおととい来やがれ!…っというわけである。

 

 

「いいか。ここは言わば“野菜の殿堂”だ。その殿堂で取れる野菜がほしけりゃ、この俺が認める程の…それこそ野菜を極めてから来るんだな!」

 

 

それが、決まって小十郎が調理人や商人達を追い払う際の謳い文句だそうだ。

まさに『取り付く島も無し』とはこの事である。

だがこれは決して小十郎がケチだからではない。

小十郎はその人物が野菜の良さを本気で理解しているかどうかで、自身の丹精込めた野菜を譲るべきか判断する。

もし、売り物にしたいなどの邪な欲の道具に自分の野菜を使おうとする奴は論外…これこそ小十郎の異常ともいえるこだわりなのであった。

 

 

 

「……まぁ、ここは“野菜の殿堂”じゃなくて機動六課なんだけどな」

 

政宗が呆れながらツッコミを入れた。

 

「まぁ、そんな調子ですから、例のファーム・イレイザー(菜園消去屋)事件の話を聞いてから、人一倍警戒しちゃって…あんな事になっているわけなんです」

 

キャロがそう言って説明を〆るのだった。

 

「な、なるほど…確かに野菜作りにかけては日ノ本一といっても過言でない片倉殿にとっては件の野菜泥棒は許しがたい事だろうとは思うが…」

 

「某も久々に見た気がするでござる…片倉殿のあんな熱血な姿は…」

 

小十郎との付き合いの長い家康や幸村も、野菜に関わる事となると普段の冷静沈着な『竜の右目』とは違う姿を目の当たりにして、失笑を浮かべていた。

 

「にゃはは…こ、小十郎さんって真面目一筋な人かと思ったら、意外にお茶目なところあるんだね…」

 

「“お茶目”っていうよりは…ちょっと変じゃないですか…?」

 

なのはとスバルがそんな事を話し合っているのを尻目に政宗は、ホログラムテレビのニュース番組でまだ続いていたファーム・イレイザー(菜園消去屋)についての報道を再度意味深に見つめていた。

 

「菜園を食い尽くすFarm Eraserか…まるで“アイツ”みたいな話だな…」

 

「? 政宗さん? 何か言いました?」

 

「…いや。なんでもねぇ。 ただのMonologだ」

 

ふと吹き出す様に呟いた言葉を聞いて首をかしげるキャロに対し、政宗はそれだけ答えると食べかけていた朝食を再開しようと、テーブルへと戻っていくのだった…

 

 

 

 

とにかく腹を満たしたい…―――

それは、ドコとも知らないこの異郷の土地にやってきてから“それ”が何よりも最優先に考えていた事だった。

 

 

ここへやってきてかれこれもう3回太陽が登るのを見たっけ…?

ってちょっと待てよ? 確か、5回だったかな?

あれ? 5の次の数って8だったっけ? ハチといえば、このあいだ巣ごと食ったスズメバチはなかなか美味かったなぁ…

って、ちょっと待て。何の話だったっけ?

 

そうだ。この訳のわからない土地に来てから太陽が登った数だった。ってどうでもいいやそんな事。

とにかく、何か喰いたい…できれば美味い野菜が……

 

とにかく何か食い物を求めて、彷徨う中で、好物の野菜がある畑を見つけては手当り次第食って、食って、食って食って食って食って、食いまくりながら、宛もなく彷徨ってきたものの…

正直、どれも腹には溜まるが味の方は微妙だった。

悪くはないのだ…しかし、野菜の中でもこれ以上のものはない至極の逸品を食べ慣れているせいか、どうしても他のトーシロー…要するにド素人の育てた半端な野菜の味はどれも霞んで感じてしまうのだった…

 

だからこそ、ここで野菜を食べれば食べる程、身体は自らが真に食べたい一品……

“片倉印の野菜”を欲していた……

 

あの野菜が喰いたい……あのこれ以上になく美味い野菜が……

 

そう考えていると、腹の虫が鳴り始め、空腹を感じ始めた。

そろそろ今日の5回目の食事…本夕餉の時間か……

 

“それ”は今宵の食糧を求めて、駆け出すのだった―――

 

 

 

 

時は既に日も暮れて、夜も更けてきた頃…

 

機動六課 隊舎屋上『機動六課菜園』―――

 

少し前までヘリポートとして使っていたこの敷地は、今やしっかり耕され、茶色い土が敷き詰められた農地へと変わっていた。

明らかに特殊部隊の隊舎には場違いともいえるこの敷地―――

ここは、この部隊に所属するとある人物が丹精込めて作った、色とりどりの『宝』が眠っている一種の宝物庫であった…

そしてその『宝』を育て、この場所の全権を有する長の地位に立つ人物は今日もこの場所を訪れていた。

 

「今夜もまた…いい月だな」

 

菜園の端に立ち、夜空に広がる2つの月を見上げるのは、勿論、小十郎であった。

この屋上農園こそ、小十郎が『野菜の殿堂』と称して、聖地の如く崇拝し、そして厳重に管理する場所―――

そして、滅多に見せる事のない彼の『もう一つの顔』が望める希少な場所であった。

 

フッ…♡

 

畑の一角に整列するように植えられたネギをそっと触り、頬の力を緩め、目を細める…

普段、仲間たちはおろか主君・政宗の前でもあまり見せた事がないであろう、やわらかな笑顔を浮かべる小十郎。

 

自らが土を耕し、自らが配合した肥料を散布し、種を撒き、水を撒いて、毎日休む事なく育て上げてきた野菜…

その野菜に触れ、順調に育っている様子を手で感じるこの時間こそ、小十郎にとっては数少ない“安らぎ”を得て、感じることの出来る一時だった。

 

ここが伊達領であろうが、ミッドチルダであろうが、この一時を過ごす為のこの場所はそう容易く荒らされたくはない。

ましてや、野菜を盗もうだなんて考える輩は見つけ次第、即斬り捨て御免!

 

そんな感じで、小十郎はこの屋上農園には厳しい立ち入り規制をかけて、ほとんど他人…例えこの六課の部隊長であるはやてであろうとも許可なしに入れる事はしなかった。

一部の人間を除いては…

 

 

「小十郎さん。お待たせしました」

 

「おぉ。来たか。ルシエ」

 

突然背後から幼い声がかかり、小十郎が振り返るとそこに立っていたのは農作業用のピンクのジャージを纏い、麦わら帽子を被ったキャロだった。

 

小十郎から剣術の指導を受けているキャロは、その縁あってか一度小十郎の野菜の手入れを手伝った事があったのだが、彼女は六課に配属される前に配属されていた辺境自然保護隊にいた頃、自家栽培の野菜を育てた経験もあった為、小十郎が舌を巻くほどの手際の良さを見せて、それ以来この農園に自由に入る事が許可された数少ない人間となり、それから積極的に小十郎の野菜の手入れや収穫を手伝っていたのだった。

 

「すまないな。こんな時間に手入れの手伝いをさせて」

 

「いえ、全然構いませんよ。私もこうしてここで畑の手入れをやっていると保護隊にいた時の事を思い出せて楽しいですし」

 

そう答えながら、畑を耕していくキャロの手付きは非常に手慣れたものである。

 

「それで小十郎さん。今日はどこまでやるんですか?」

 

「そうだな。取りあえずこれから植えるサツマイモと南瓜の畑の耕地が終わったら、明日食堂に納める朝飯の味噌汁の具用のネギと、お新香用のきゅうりとナスの収穫だ。それと…」

 

小十郎は手短に指示を送りながら、意味深に言葉を言い添える。

 

「例のファーム・イレイザー(菜園消去屋)を用心する手立てを打たないとな」

 

「あははは…小十郎さんってば、心配しすぎですよぉ」

 

苦笑するキャロを尻目に、小十郎はさっそく収穫する為のネギを仕分ける為にネギ畑に足を踏み入れた。

その時だった…

 

 

バリ……ボリ…バリ…

 

 

「んっ!?」

 

突然、小十郎の耳に入る微かな咀嚼音―――

だが聞き間違えるはずがない。

 

「あぁ?」

 

小十郎が音のした方を振り返ると、そこにはもちろん不審な人影はない。

だが小十郎はこの状況を見てすぐに何かがおかしいとわかった。

 

 

……バリバリ…ボリ…

 

 

「!!?」

 

今度は反対側からさっきと同じ咀嚼音が聞こえ、小十郎が再び振り返ると…

 

「!?…なに!?」

 

整列していたネギ畑の端の部分に植えられていたネギが数本無くなっていた。

それも根本から引っこ抜かれて―――

 

「ま……まさか……?!」

 

「小十郎さん。サツマイモと南瓜用の畑の耕地が終わりまし――――」

 

「静かに!」

 

「むぐっ!?」

 

そこへ、何も気づいていないキャロが戻ってきて声を掛けようとしたが、小十郎は彼女の口に手を当て、無理矢理に黙らせた。

慌てて、キャロは念話に切り替えて小十郎に尋ねる。

 

(ど、どうしたんですか? 小十郎さん!?)

 

(用心しろルシエ…“夜陰に紛れて収穫する者あり”だ…!)

 

小十郎はゆっくりと腰に下げた愛刀 黒龍に手をかけながら屋上農園の周囲を見渡し、人の気配がないか探っていた。

 

「えぇっ!? それってまさか…!?」

 

どうにか口元を抑えていた手を離してもらい、さっきよりも声のボリュームを抑えながらキャロが尋ねると、小十郎が小さく頷く。

既にその表情は戦場で見せる“竜の右目”の厳しい顔つきに戻っている。

 

「あぁ…どうやら現れやがったようだな……ファーム・イレイザー(菜園消去屋)…ッ!!」

 

小十郎の瞳に執念と敵意の炎が静かに燃え滾りはじめた…

 

 

 

 

 

 

その匂いを感じた時…“それ”は一瞬、夢幻かと思った…

だが、すぐにそれは現実だとわかると、この上ない歓喜と幸福で胸が一杯になった。

 

それは、ずっと探し求めていた懐かしい“臭い”…

大事な“家族”…そしてその“家族”が手掛けた至極の野菜…“片倉印の野菜”の臭い……

自分の探し求めているものがこの先にある……

 

手頃な木の上に登った“それ”は臭いのする方向……海の辺りに佇む広い箱のような形をした見慣れない建物…機動六課隊舎を見据えていた。

天上に広がる雲ひとつない双月に照らされ、“それ”はそのシルエットを薄っすらと照らした。

青緑の派手な色合いに胸元と両肩部分にファー(狢の毛皮)の付いたマタギを思わせる服装を纏い、毛虫の前立てが付いた蓑笠で隠れた顔の下から微かに見える口元の端をつり上げ、ダイヤモンドのように頑丈そうな白い八重歯をむき出してニカッと笑いながら、“それ”は呟いた。

 

「間違いない…あのへんてこな屋敷に“片倉印の野菜”と…“兄ちゃん”達が……!」




オリジナル版リリバサを読んだら、もう誰がやってきたのかわかりますよね?w

彼はオリジナル版では初めての東軍サイドのオリキャラで、しかも元々読者の方からアイディアを頂いたオリジナル武将だったので最初の頃はどんなキャラクターにするか全然定まらなくて色々と迷走したのですが、今回は既にキャラが定まっているせいか、心なしかかなり書きやすかったです。

さて、そんなわけでファーム・イレイザー(菜園消去屋)と小十郎の攻防は果たしてどんな事になるのやら?
後半戦をお楽しみにw
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