リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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ミッドチルダで次々と農園を荒らす謎の怪人物ファーム・イレイザー(菜園消去屋)なる者が出没すると聞き、自身が機動六課の隊舎屋上で運営している菜園も荒らされないか気が気でならない野菜オタク…もとい野菜に全てを捧げる男 片倉小十郎。

そんな小十郎の警戒をあざ笑うかの如く、ある夜、菜園の手入れをしようとした小十郎と助手のキャロの前にうごめく怪しい陰が……
果たして、ファーム・イレイザー(菜園消去屋)の正体とは…そして小十郎の手塩にかけた菜園の運命は…!?

キャロ「リリカルBASARA StrikerS 第四十二章 皆さん、野菜は一日に350グラムは食べましょうね」

フェイト「……なんでここで生活の豆知識を…?」

キャロ「いや…小十郎さんから、どうしてもこれを言ってくれって頼まれたものですから…」


第四十二章 ~野菜を守れ! 機動六課屋上菜園大防衛線! 後編~

海から吹く潮風が静かに駆け抜ける屋上菜園の中心で、小十郎は黒龍を構えながら、目を閉じて、近くにいるであろう、ファーム・イレイザー(菜園消去屋)の存在を索敵していた。

勿論、生け捕りにするつもりでいるので刀は峰を返して構えている。

 

「どこだ……どこに隠れていやがる……? さっさと出てきやがれ! この俺の畑に盗みに入るたぁ、ふざけた野郎だ……!」

 

憤怒の形相を浮かべながら刀を構える小十郎の姿を少し離れた場所から見守るキャロは、心做しか任務で敵と対峙している時よりも気迫があって怖いと感じた。

 

(こ、小十郎さん…誰か呼んできましょうか?)

 

(いや…無駄に人を呼べば、かえって敵に逃げる隙を与える事になりかねねぇ。 ここはヤツの姿を捉えるまでは下手に動かない方がいい)

 

小十郎が耳につけた念話用インカムを介してキャロに指示を出していたその時、不意に顔に吹き付ける風から、ある一定の方向に微かに人の気配らしきものを感じ取った。

 

「ッ!? そこかっ!!」

 

小十郎が黒龍を振り下ろし、一閃した先にあったのは、成人男性一人分すっぽり隠れる程に高く伸びた茄子の苗木が並んだ茄子畑だった。

一刀両断に切り裂かれた苗木の向こうにいたのは…

 

「うぉっ!?」

 

「や、やば! 見つかった!?」

 

先日、機動六課のロングアーチに配属されたばかりの戦国武将の一人 前田慶次と、機動六課部隊長 八神はやての2人だった。

 

「んなっ!?…前田!? それに八神!?」

 

「はやて部隊長!? 何やっているんですか!?」

 

まさかの人物の登場に意表を突かれた表情を浮かべる小十郎とキャロ。

対する慶次とはやては冷や汗を拭いながら、慌てて弁解しだす。

 

「い、いやな。今夜は月が綺麗だし、お月見ついでに慶ちゃんをミッドの夜空の天体観測にでも誘おうかと思って…」

 

はやてはそう弁解しながら、どこからか持ち出してきたのであろう天体望遠鏡を掲げて、証拠の品として見せた。

 

「そうそう。ほら、今夜は月が綺麗だし、気持ちがいいじゃない?」

 

小十郎の気を解すつもりなのか、彼の放つ殺気に反して、能天気で軽快な口調で言葉を重ねてくる慶次。

しかし、そんな事で小十郎の昂ぶった心は簡単に冷める筈がなかった。

 

「俺の畑で天体観測とはな……お前達の言い分はよくわかった。今回は大目に見てやるから“盗んだもの”を全部返せ!」

 

「へっ!? ぬ、盗んだもの…?」

 

「なんの話?」

 

困惑した様子で尋ねるはやてと慶次の2人に、小十郎は今にも斬りかからんばかりに鬼の様な形相でズイッと詰め寄って更に詰問した。

 

「あくまでしらを切るつもりかッ!? そっちがその気でいるなら、いくらお前らが腐れ縁や食客先の主と言えども、俺も容赦しねぇぞ!?」

 

小十郎の威嚇に、慶次とはやては冷や汗を浮かべながら必死になだめようとする。

 

「ちょ、ちょっと待ちなよ! 俺達はなんにも盗んでないよっ!」

 

「そ、そうやって! わたしも慶ちゃんもちょうど屋上に上がってきたら、なんか小十郎さんが一人でえらい殺気立ってたから、怖くてよう動けへんかってん! 勿論、畑の野菜には一切手ぇつけてへんよ!」

 

「…………………」

 

2人の弁解を小十郎は唸りながら聞いていた。

どう見ても、信用していない様子に更に冷や汗が出てくる。

 

「ほ、ホントだって! 信じてくれよ!」

 

「………いや、信用ならねぇな…お前ら、とりあえず服を脱げ」

 

「「「えっ!? ええええぇぇっ!!?」」」

 

いきなり、とんでもない事を言い出した小十郎に、慶次とはやてだけでなく、話を聞いていたキャロでさえも驚愕する。

 

「懐に隠し持ってる可能性だって十分考えられるんだ。こうなったら、身ぐるみ剥がしてでもしらみつぶしに探させてもらう!」

 

「そ、そんなご無体な!?」

 

「ちょ、ちょちょちょ! 竜の右目ってば! 俺はともかくとしても、はやては女の子なんだから、そいつはいくらなんでもマズいって!」

 

「安心しろ。八神の方はルシエにやらせる。ルシエ、八神を畑脇の物置小屋に連れて行って、そこで徹底的に調べ上げろ。着ているものを全て剥がして、盗んだ野菜を見つけ出すんだ」

 

さも2人が犯人であると確信づいた様子で指示を出す小十郎に、キャロが必死で仲裁に入った。

 

「ま、待って下さい小十郎さん! 部隊長も慶次さんもこう言っていますし、少しくらい信じてあげましょう! それにお二人がいたのはさっき盗まれた葱畑とは反対の茄子畑だったんですよ! それから畑は小十郎さんがずっと目を配ってましたし、状況的に考えても、お二人に野菜泥棒は無理かと思います」

 

この場の状況から冷静に自らの推理を述べてくるキャロの話を聞いて、さしもの小十郎も少し冷静さを取り戻す。

 

「む…むぅ……確かにそう言われると、そうかもしれんが…」

 

その時だった…

 

 

バリ…バリ…バリ…

 

 

「!?」

 

小十郎達の耳に、確かに聞こえてくる咀嚼音。

 

「!?…まさか!」

 

4人が慌てて音の聞こえた方に駆け寄ると…

 

「んな!?」

 

茄子畑の一角に生えた苗に実っていた丁度食べ頃のナスの一つが半分齧られていた。

 

「またやられてます!」

 

「くそ! 盗らずに食いやがるとは…通の仕業か!?」

 

キャロが驚く傍で、小十郎が怒りに震えながら、誰に向けるともなく叫んだ。

 

「なっ? 俺達じゃなかったろう?」

 

「よかったぁ…危うくわたし、もうちょっとでキャロに手篭めにされるところやったわぁ…」

 

「そ、そんな事しないですよぉ!」

 

なにはともあれ、これで一先ず野菜泥棒の疑いが晴れた慶次とはやては、胸を撫で下ろしながら、小十郎と一緒に食べられたナスを凝視する。

 

「う~ん。このちっちゃい歯型は…どう見ても子供だぜ?」

 

慶次はナスの齧った跡を見ながら、冷静に言い当ててみせた。

 

「っとはいっても、機動六課(ウチ)に子供って言えば、キャロかエリオの2人くらいやし、キャロはずっと小十郎さんと一緒にいたから…」

 

「ま…まさか、エリオ君が…!?」

 

はやての推理を聞いたキャロが、少しショックを受けた様な表情で尋ねてくる。

確かにフォワードチームの中でもスバルに次ぐ大食漢なエリオであれば、腹を空かせて野菜泥棒なんて意地汚い事もやりかねない。

 

「否、俺がここに上がってくる前にはやてんところに行こうとしてた途中で、エリオが真田の兄さんと一緒に浴場へ行くのを見てたからそれはないよ。しかもなんか、風呂で『長湯の我慢比べ勝負』をするとかで2人してかなり張り切っていたからな…ここで野菜泥棒なんてする暇はないよ」

 

「あら~…あの熱血兄弟ってば、またそんなしょうもない遊びしてるんかぁ? ほんま仲えぇんやから…」

 

「まったく…モンディアルならともかく、真田までいい年して何やってんだか…」

 

幸いにもその仮説は慶次の証言によって直ぐに否定される事となった。

そのアリバイの内容に若干呆れながらも小十郎は、再度犯人の考察に集中する事にした

 

「まさか…ファーム・イレイザー(菜園消去屋)は子供なのか…!?」

 

「いやいや。それはいくらなんでも無理あるでしょ」

 

「それにこないだの“潜伏侵略事件”があってからは、隊舎の警備システムもシャーリーが主導になってより一層強化されているから、万が一にも侵入者があればすぐに反応があるはずやで?」

 

小十郎の憶測に、慶次とはやてが異議を唱えたその時…

 

 

ガサガサ……ゴソゴソ……

 

 

「「「「ッ!!?」」」」

 

三度、菜園に響く謎の物音…それも今までよりも明らかに大きい物音に小十郎達の動きがピタリと止まる。

 

 

ガサガサ…ゴソゴソ…

 

 

その物音は小十郎達がいる茄子畑から少し離れた場所にあるキュウリ畑から聞こえた。

 

ファーム・イレイザー(菜園消去屋)めっ! ナスを食らって、次はキュウリを狙うたぁ…コイツは相当な野菜通の野郎だ!」

 

「…なんで、ナスの次にキュウリ狙うのが、野菜通なのかよぅわからんけど…」

 

「ホント、よくわかんねぇなぁ…野菜の世界って……」

 

はやてと慶次が小声でツッコむのを背に、小十郎は抜身の黒龍を構えながら、ゆっくりとキュウリの苗が綺麗に整列した畑の近くに忍び寄った。

そして、後ろにいるはやて、キャロ、慶次の3人に目で合図を出しながら、黒龍を振りかぶる。

 

「そこまでだ! 曲者め!!」

 

キュウリの苗棚を縦に両断(勿論、実ったキュウリには一切傷一つつけていない)し、振り払い、その先に隠れているであろう物音の主の正体を暴いた。

そして、4人の前に見えたのは―――

 

「うおっ!? や、やべっ!? 見つかった!?」

 

「ヴァ―――」

 

キャロが呻くように言った。

 

「ヴァイス陸曹!?」

 

キュウリ苗棚の向こうに隠れていたのは、機動六課のヘリパイロット、ヴァイス・グランセニックであった。

苗と苗の間の地面に膝立ちしながら、スコップで足元に小さな穴を掘っており、更にその脇に何やらビニール袋にいれた何かが置いてあった。

 

「な、なにやってるん? ヴァイス君」

 

「ぶ、部隊長まで!? い、いや。これはちょっと…あの……」

 

菜園の主である小十郎だけでなく、はやてまでいる事に更に驚いたのか、慌てて弁解しようと言い淀むヴァイスだったが、そこへ小十郎が鬼のような形相で詰め寄り、そして容赦なく胸倉を掴むとグイと上へと持ち上げた。

 

「グガッ―――!?」

 

「……まさかテメェが俺の野菜に手ぇつけやがったファーム・イレイザー(菜園消去屋)だったとはな!! さてはヘリポートの土地を奪われた恨みで、野菜泥棒を働いて嫌がらせしようって魂胆か!?」

 

「ひぃぃっ!?…な、なんの話ですかぁ…!? ファーム・イレイザー…!? 野菜泥棒…!? 俺は何も盗んでないっすよ…!?……ぐえぇぇ! ぐるしい…」

 

「今更、しらを切っても手遅れだ! 俺の野菜を盗み食いしてどうなるか…覚悟はできてるだろうな!? あぁ?!」

 

「う、嘘じゃないですって…! 本当に何も盗んでないですってぇぇぇ……!!」

 

立つ地面を失ったヴァイスが苦しそうに足をジタバタと動かす。

見ると小十郎の左手には峰を返した黒龍が握られている。

 

「りゅ、竜の右目ってば!! 落ち着きなよ!! まだヴァイスの兄さんが盗んだって証拠はないんだから!!」

 

あわてて慶次が小十郎を必死になだめてヴァイスを助けようとするが、大事な野菜を盗み食いされた小十郎の怒りは相当なものであり、慶次一人では止められなかった。

 

「そ、そうやって小十郎さん! まずはヴァイス君がここで何をしていたか話を聞いてからでも遅ないから! なっ?」

 

同じく先程、理不尽なまでに一方的に疑われたはやても一緒になって小十郎を止める。

 

「は、はやて部隊長の言う通りですよ。ここはお話を聞きましょう? ね?」

 

「………」

 

この面子の中では一番小十郎を宥められる存在であるキャロの制止を受けて、ようやく考えを改めた小十郎はチッっと舌打ちをするとヴァイスを地面に落し、黒龍の鋒を突きつける。

 

「テメェが野菜を盗んでいないというのなら、ここで一体何をしていた?! 正直に答えろ! さもなくば、ここで…」

 

「げほっげほっ! い、言います! 正直に言いますからそれだけは勘弁してつかぁさい!!」

 

ヴァイスは必死に懇願しながら、地面に掘っていた穴の脇に置いてあったビニール袋から、大きめの厚手の茶封筒を取り出し、中から1枚のDVDを取り出して、小十郎に渡した。

 

「……『おケツの刃 ~無限ア◯ル篇~』…?」

 

それは、どれも某有名なアニメ作品のコスプレをした女性達が如何わしい事をしている様子がパッケージに写されたDVD…所謂AV(アダルトビデオ)であった。

当然、これを見た小十郎達は、キャロには絶対に見えない様に細心の注意を払いながら、ヴァイスに詰問する。

 

「おい。俺の菜園でこんなものをどうするつもりだったんだ?」

 

「い、いやぁ…実はちょっとこないだ友達からそれもらったのはいいんですけど、運悪くその日、寮母のアイナさん立ち会いで、寮の一斉点検みたいなのが入っちゃって、それ見つかると気まずいから、どこかに隠さないといけなくなったんだけど、この屋上の菜園なら殆ど人も来ないだろうと思って、ビニールで梱包してここに埋めてたわけなんですよ」

 

「それで?」

 

小十郎が軽蔑の眼差しで見つめながら尋ねた。

 

「ずっと掘り出して取り戻すタイミングを見計らっていたんだけど、今日辺り大丈夫かなと思ってこっそり忍び込んで掘り出していたら、片倉の旦那達が来ちゃって、どうしようか悩んでたんだけど…エヘヘヘっ…」

 

「……ってか。これ…アンタの趣味……?」

 

慶次が完全にドン引きしながら聞いた。

 

「い、いや…趣味というか…それ、なかなかすっげぇプレイものですごいって薦められたもんだから俄然興味が湧いてさぁ…特にパロディ元ではヒロインの口に嵌めてた竹筒が、このAVではなんとお尻の―――」

 

「ヴァイス君!!」

 

はやてが声を張り上げてヴァイスの話を遮りながら、傍らで何の話をしているのかわからずに困惑するキャロに目で示しながら、非難の眼差しを向ける。

その意図に気づいたヴァイスが慌てて話を本題に戻した。

 

「ま、まぁそういうわけで、俺は野菜盗んでいないので、“シロ”っすよね? それじゃあ、俺部屋に戻って、さっそくコイツを見よ~っと―――」

 

苦笑しながら、ササッとAVを小十郎の手から回収して撤収しようとしたヴァイスだったが―――

 

「違う意味で“クロ”だろうが!! ボケコラカスゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

小十郎は思い切りその背中に蹴りをかました。

 

「ぐらはむっ!?」と奇怪な悲鳴を上げながら、キュウリの苗木の下に盛り上げられた土に頭からツッコんだヴァイスに、小十郎が容赦なく足蹴で追い打ちをかけた。

 

「テメェ! 神聖な俺の畑によくもそんな汚いものを隠しやがって! 何が『おケツの刃』だ! そんなにケツに興味があるなら、テメェのケツで遊んでろ! 八神!前田! ちょっとの間、ルシエの耳と目を塞げ!!」

 

怒り心頭の小十郎だったが、流石に菜園にいた理由を聞いたはやてや慶次は,

今度はヴァイスを積極的に助けようという気持ちは起きなかった。

言われたとおり、はやてはキャロの耳を手で塞ぎ、慶次は片手で目を隠して、キャロにこれ以上、この光景を見せないように配慮する。

 

「わ! ちょ、何するんすか!? ちょっと、なんでズボンと下着下ろして…ってそれ、ごぼう!? ごぼうっすよね!? 何!? それどうする気!?…ちょっとまさか!? そ、それはダメだって! そんなもん入れたら、それこそ俺のケツが『無限ア◯ル』に――――あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁっ!!!!?

 

そして、屋上菜園にヴァイスの苦悶と僅かばかしの快感を含んだ絶叫が響き渡ったのだった。

 

 

「グランセニックの野郎! ふざけやがって! 俺の畑は思春期のガキの寝床じゃねぇんだぞ!」

 

尻にごぼうを突き立てたヴァイスを屋上から叩き出した小十郎は憤然としながら、畑の捜索を続けていた。

 

「でも、ヴァイスじゃないとしたら、一体誰が野菜を盗んだり、食べたりしたんだろうな?」

 

慶次が言った。

4人は畑の脇に設置された用具入れ兼休憩所であるプレハブ小屋に集い、休憩も兼ねて再び振り出しに戻った菜園荒し(小十郎はファーム・イレイザー(菜園消去屋)であると断定していた)の犯人を推測していた。

 

「ひょっとして人間ではないかもしれませんよ? それこそカラスとか、お猿さんだったりして…?」

 

キャロの口から出た「お猿」というワードに小十郎がピクリと反応し、慶次の方を向く。

 

「そういえば、前田…お前が飼っている小猿の夢吉も歯型付けさせたら、子供くらいのサイズになるよな?」

 

「ち、違うって! 右目の旦那! 夢吉はちょっと手癖悪い事もあるけど、人様の野菜に手を付ける事はねぇってば!………多分な」

 

「それに…」と言葉を繋ぐ。

 

「夢吉はさっき、ザフィーラと一緒に食堂で、缶ビール片手に野球中継観てたから、野菜泥棒なんて出来るわけがないっての!」

 

「慶次さん…さらっと言ってるけど、夢吉君って一体いくつなんですか?」

 

「やってる事、完全に唯のおっさんやな…っていうかザフィーラまで何しとんねん…」

 

さり気なく相棒のギャップの在りすぎる行動を説明する慶次に、キャロもはやてもますます、あの夢吉という小猿のキャラがわからなくなってくるのだった。

一方で、小十郎は、またしても容疑者がなくなった事に不服そうに頭を掻きむしる。

 

「アリバイ成立か…それじゃあ一体誰が……?」

 

小十郎が言った時だった―――

 

 

ガサガサガサ……

 

 

またしても、畑から何かがうごめくような物音が聞こえた。

4人が一斉に反応し、プレハブ小屋の唯一の出入り口の方を見据える。

 

「……聞こえたか?」

 

「はい」

 

「あぁ」

 

「間違いなく、誰かが畑におるな」

 

キャロ、慶次、はやての同意を確認すると、小十郎は一旦鞘に収めていた黒龍を再び抜きながら、プレハブ小屋の電気を消して、音を立てぬ様に引き戸を開けた。

 

「また誰か秘密の物を隠したり、掘り出しに来ていただけやったりして…?」

 

はやてが小声で言った。

 

「もしそうだとしたら、それはそれで許しがたい。俺の畑はリスの巣穴じゃねぇんだぞ」

 

知らぬ内にヴァイスに畑をAVの隠し場所にされた事が相当癇に障ったのか、小十郎は黒龍を握る手に力を込めながら、今回の音の発信源…メロン畑の方に向かって忍び足で近づいていく。

 

「なんで野菜畑にメロン…?」と不思議に思う父兄もいるかもしれないが、小十郎はミッドチルダで初めて知った豊富な果物にも魅了されたのか、それまで日ノ本でも栽培していた野菜に加え、これら果物の栽培にも熱を入れるようになっていたのだ。

中でも特に今、力を入れている果物のひとつがメロンであった。

 

メロンの苗木が並ぶ苗棚の脇に忍び寄った小十郎が、目で尋ねる。

それに対して、キャロ、はやて、慶次が頷くのを見て、小十郎はサッと苗棚の向こうにいる侵入者の前に躍り出た。

 

「そこにいるのは誰だ! そこで何をしてやがる!?」

 

怒声を上げながら小十郎は片手に黒龍を、片手に懐中電灯を手に取り、メロンの苗棚の隙間の通路を灯して、そこにいる侵入者の姿を捉えた。

 

「て、テメェは…!?」

 

唸る小十郎の後ろから覗き込んできたはやて達も、その人物を見て驚嘆の表情を浮かべる。

そこにいたのは、なんと―――

 

「……!? シグナム!!?」

 

シグナムだった。

意外な人物が畑にいた事もそうだが、今驚くべきはそこではなく、彼女が身に纏っている衣装だった。

いつも見慣れていた騎士甲冑の様なバリアジャケットでも、管理局の制服でもない…

いつも後手に縛ってポニーテールにしている筈の長髪をストレートに伸ばしたロングヘアーにし、その上にはオレンジ色とルビーが輝くティアラ、後頭部には可愛らしく赤いリボンを結んでいる。

はちきれそうな巨乳の谷間が見え、ひらひらとなびかせる薄いピンク色に小さな光が輝くのドレスを着こなす美しき西洋の国のお姫様のような姿だった。

 

「か…かか、片倉!? そ、それに主はやて…キャロに前田まで……!?」

 

「……えっと……失礼ですけど、シグナム副隊長………ですよね…?」

 

目の前に立つ場違いにも程がある装いをした人物が自分の上官と同一人物であるとにわかに信じられないキャロが、恐る恐るシグナムらしき謎の貴婦人に向かって問いかける。

 

「し…シグナムって…誰の事でしょうか…? 私はただの通りすがりの唯の姫“シム子”ですわ」

 

「やめろ。いろんな意味で痛々し過ぎて見ていられん。それより、一体その格好はなんだ? 夜遅くに俺の畑でそんな格好して徘徊するのがお前の掲げる“騎士道”というやつか」

 

小十郎が黒龍を鞘に収めながら、呆れのこもった声で問い詰めると、シグナムは元の口調に戻って弁解した。

 

「ち、違う! これは違うのだ! これは…つまり…あれだ。騎士たるもの時には守られるべき立場である“姫”からの目線で見る世界も経験しておく事も大事という古代ベルカの教えで…」

 

最早、意味不明な言い訳である。

 

「騎士が“姫”の話でもすりゃ信じてもらえるとも思ってんのか? もしテメェのいう風習が本当にあるとするなら、古代ベルカっつぅのはザビー教国(豊後の大友領)みたいなアホ丸出しの国と軽蔑させてもらうぜ」

 

容赦のない物言いで問い詰める小十郎にシグナムはたじろいで、後ろに仰け反る。

すると、その拍子にシグナムのドレスのスカートの裾から一冊の雑誌が落ちた。

どうやら、小十郎に見つかった際に咄嗟に隠していたものであろう。

 

「ん? それなんですか?」

 

「あっ!! それは…触ってはダメだ!キャロ!」

 

シグナムが制止する間もなく、雑誌を拾い上げたキャロは懐中電灯の灯りに照らして、その全容を晒した。

 

 

「「……『月刊 プリッチャ! ~女っ気のない貴方も今日からこれで女の子! 可愛さと色気で男子をイチコロにしちゃうファッション全部見せます大特集号~』…?」」

 

 

見るからに胡散臭い謳い文句の書かれたその雑誌は、明らかに10代前半から半ばの少女向けのファッション誌であり、その表紙にはゴシックロリータ調のファッションに身を包んだ少女達が華やかに写っている。

外見年齢は19歳。実年齢は人間の粋ではないシグナムにはあまりにお門違いな代物だった…

 

「「…………………」」

 

その表紙を見て、なんとなく小十郎とキャロは察した。

 

おそらくシグナムは、密かにコンプレックスに思っている『女っ気があまりない』事を克服しようと思ったが、その内容故に相談する相手が思いつかず、闇雲にファッション誌を見て勉強し、雑誌にあったゴスロリ系に挑戦しようとしたものの、チョイスした雑誌の適応年齢と自身の年増―――ゲフンゲフン! 年月を多く経験してきた事による価値観の若干のズレなどの数々の要因が重なった結果、今の奇怪なファッションを完成させてしまった。

そして、極力人に見られる心配がなさそうな場所を探って、ここへ来て一人ファッションショーをやろうとしたところへ小十郎達に見つかった…というのが事の真相であろう…

 

「お、おぉ……どうやら、シグナムは野菜泥棒じゃなさそうだな…」

 

「え、えぇ……勿論、ここで見た事は私達きっぱり忘れますから……」

 

「……………す、すまない…片倉…キャロ…」

 

気まずそうに本題だった野菜泥棒の事を引き合いに誤魔化そうとする小十郎と、苦笑を浮かべながら言葉を添えるキャロ。

明らかに2人に気を使わせている事に気づきながらも、それでも顔から火が出るほどに恥ずかしい想いをしたシグナムは感謝せざるを得なかった。

 

しかし、そんな忖度すべき空気の中、今まで黙っていたはやてと慶次は…

 

「「ぷっ…くくっ…くはは! アーハッハッハッハッハッハッ!!!!」」

 

笑いを堪えきれずに盛大に吹き出し、それから大口を開けて笑い出した。

たちまち場の空気が凍りつく。

 

「び、びっくりしたわぁ! まさか、シグナムが……シグナムが女の子らしく振る舞おうなんて殊勝な事考えてたやなんて…で、でもその格好は…ヒーッ! ヒーッ! くるし~~~!」

 

「でーへっへっへっ!! い、いや笑っちゃ悪ぃのはわかってるけどよぉ! どうやったら、ゴスロリがそんなお姫様みたいな恰好に行き着くわけ! これってあれ? 一種の願望的なもの!? 自分の意志って奴? だっははははははっ!!!」

 

「や、八神! 前田! お前らいい加減にしろ!」

 

今のシグナムに言ってはならないことをズケズケと言い放つ、はやてと慶次を小十郎が慌てて窘め、制止したが時既に遅かった…

見ると、シグナムは両目から滝のような涙を流し始める。

 

「えっ!? し…シグナム…さん…?」

 

「酷い……そんな言い方しなくても良いでしょ!!」

 

小十郎は唖然としながら、シグナムに声をかけようとしたが、彼女の暴走は止まらない。

 

 

「お姫様に憧れたっていいじゃない!………女の子なんだも~~~~ん!」

 

 

普段の声よりも何オクターブも高い聞いたこともない程のソプラノボイスを炸裂させながら、年甲斐もなく大泣きするシグナムに小十郎もキャロも驚愕し、そしてドン引いた。

 

 

「ちょっと待てぇぇぇぇ!! お前そんな事言うキャラじゃねぇぇだろ!? 完璧にキャラ壊れてるぞ!」

 

「シグナム副隊長! どうか正気に戻って下さい!!」

 

「そうやってシグナム。今どきの女の子ならそこは『ぴえん』って泣かな」

 

「いやいやはやて。ここは『ぴえん超えてぱおん』の方が―――」

 

「テメェらはもう黙ってろっ! バカ部隊長にバカ風来坊!!」

 

 

「ぴえ~~~~~~ん!! …超えて、ぱお~~~~~~~~ん!!」

 

 

「お前も、本当にそれで泣こうとすんじゃねぇぇぇっ!!」

 

 

 

 

……っとこうしてまたも混沌とした喧騒と叫び声が夜の屋上菜園に反響するのであった。

 

 

 

 

小十郎達が屋上で、号泣しだしたシグナムを宥めていた頃―――

機動六課隊舎のすぐ近くの防風林では不自然に盛り上がった土が崩れ、人間が一人分やっと通れそうなサイズの穴が開いていた。

その穴の中から、ゆっくりと“それ”は這い出てきて、そして目の前に聳える隊舎を見据えると、腹の中から獣のうめき声の様な音が鳴り響いた。

 

「ある……この先に………“片倉印の野菜”が……」

 

自分が食らうものの中でも指折りに美味なその味が近い事を感じた“それ”の空腹は最骨頂に達しようとしていた……

 

 

 

 

「ったくどいつもこいつも…人の畑をなんだと思っていやがるんだ」

 

と、相変わらず一人憤慨する小十郎。

 

「ここは恥ずかしいコレクションの隠し場所でも、一人ファッションショーの舞台でもねぇ。野菜の殿堂だって事をここの連中はいまいち理解していないようだな」

 

「いやいや、その“野菜の殿堂”ってのもまた違うと思うけど…」

 

プレハブ小屋の中に設置された畳四畳分の休憩スペースの上で胡座をかきながら、慶次は既に半ば退屈してきたのか、スマホを片手に操作しながら片手間に話を聞いていた。

結局、あれからどうにかシグナムを宥める事に成功した小十郎達は一先ず、シグナムにプレハブ小屋を貸して、はやてとキャロにも手伝わせながら、いつもの管理局の制服に着替えさせた後、隊舎の中に返したものの、自分の恥ずかしい一面を知られた事がよっぽどショックだったのか、柄にもなく肩を落し、重い足取りで帰っていく姿が非常に痛々しく感じられた。

 

「まぁ、とにかく…やっぱり、野菜泥棒の件は単にネズミかカラスの仕業とちゃうか?」

 

「そうですよ小十郎さん。普通に考えて、この隊舎で野菜の盗み食いする人なんていませんよ」

 

「う~ん…しかしだな…」

 

はやてやキャロの言葉を聞いても、まだ納得できない様子の小十郎であったが、プレハブ小屋の壁にかけられた時計を見ると、時刻はもうすぐ23時…隊舎の消灯時間も迫っていた。

これ以上、キャロや慶次、はやてを振り回すわけにもいかない事は、いくら野菜狂いの小十郎とて弁えている。

 

「…そうだな。一先ず、今宵はここまでか……」

 

小十郎は不承不承ながらも、今夜の屋上菜園の見張りと野菜泥棒の取締の切り上げを決意するのだった…

 

「あぁ~あ。結局、天体観測は出来なかったし、竜の右目の野菜を狙う命知らずな野菜泥棒の顔も拝めなかったし…残念だねぇ~」

 

「まぁまぁ、その代わり、シグナムのオモロイ一面見れたんやから良しとしようやないの? プププ」

 

そう言って、はやてはスマホに収めた『シム子』姿のシグナムの写真を見て、また吹き笑いしていた。

一番知られたくない人にとんだからかいネタを掴まれてしまったシグナムに対して、小十郎は深く同情しながら、プレハブ小屋の引き戸を開けた。

その時だった―――

 

 

 

 

ガサ…ガサ…ガササ……

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

小十郎達の耳にまたまた聞こえてきた謎の物音。

だが、これまでヴァイス(秘蔵のAV隠しの無限ア◯ル野郎)シグナム(勘違いゴスロリ姫シム子)ときたせいか、慶次やはやて、キャロは言わずもがな、小十郎でさえも、流石に半信半疑の色が濃い反応だった。

それでも、一応畑の中に怪しい動きがあった事には変わりない為、調べる必要はある。

小十郎は、何度目かわからない黒龍を鞘から引き抜いて、音の出どころに向かって忍び寄る。

そして…

 

「こ、コイツは!?」

 

「な、何ですか!? 小十郎さん!」

 

「見つけたん!?」

 

慌てて小十郎の後を追う慶次、はやて、キャロ。

その場所は先程、取らずに直接食われる被害に遭った茄子畑の裏手だった。

そして、キャロ達の視界に、膝立ちしながら見下ろす小十郎と、その脇に整列して並んだ茄子の苗の根本に横たわる小さな影の姿が入ってきた。

 

「誰だい? 猫か? カラスか?」

 

慶次が尋ねる言葉を耳にしながら、キャロ達は小十郎の元に駆け寄り、ゆっくりと近づいてその正体を確認すると―――

 

 

 

「きゅる~……きゅる~……zzz」

 

「ふ…フリード!?」

 

 

 

そこにいたのは、キャロの使い魔の竜 フリードであった。

大きくなった腹が満腹である事を証し、その周囲には食べ散らかされたナスやネギの残骸が数個転がっている。

当の本人はお腹が一杯になったからか仰向けになって寝ていた。

この状況を見てその場にいた全員が、フリードが野菜泥棒の犯人であるという事をすぐに理解した。

 

「あ、あちゃ~…犯人……フリードやったみたいやな……」

 

「て…テメェか…」

 

小十郎は震える声を上げながらフリードを睨みつける。

キャロはその様子を見て、顔を青ざめ、ガタガタ震え始めた。

 

小十郎のこの様子からして、明らかに怒っている事は一目瞭然であろう…キャロはまさかの自分のパートナーが野菜泥棒していた事に驚かされつつ、小十郎にどう弁明しようか必死に頭をフルに働かせて考えるが、答えが見つからない。

慶次とはやてもかける言葉が見つからず、冷や汗を浮かべながら事を見守っていた。

 

そして、小十郎はゆっくりと寝ているフリードに近づくと、片手を伸ばした。

 

「「ちょ、小十郎さん!」」

 

「竜の右目!」

 

これから小十郎が行おうとする野菜泥棒=フリードへの恐怖の制裁を想像してキャロが悲鳴に近い声を上げ、はやてや慶次も慌てて小十郎を止めようとする。

 

すると小十郎は……

 

 

 

………お前は味がわかる奴だな…♡

 

 

「「「えぇっ!?」」」

 

 

なんと普段の小十郎からは考えられない、周りに花の舞うような笑顔を浮かべると、フリードの腹をポンポンと優しく叩いた。

 

「うまかっただろ? どうやらナスもいい出来に仕上がったらしいなぁ…」

 

小十郎はそうつぶやきながら、笑顔のままキャロの方を振り向いて…

 

「大事にしてやんな……」

 

優しく微笑みかけた。

 

「えっ!? あの…小十郎さん?」

 

まさに予想外過ぎる小十郎の反応にキャロは思わずポカーンとした表情を浮かべた。

 

「えっと、なんというか……自分の野菜を美味そうに食ってくれたから嬉しかったんだと思うよ」

 

慶次がキャロの耳元でささやくように、補足を入れる。

 

「…ほんま、小十郎さんの中の野菜の価値観ってよぅわからんわぁ…」

 

はやては呆れた口調で呟くのだった

 

「……けどまぁ、よかったじゃないの。これで野菜泥棒の正体も判明したし、これで万事解決―――」

 

そう慶次がそう言って〆ようとしたその時だった―――

 

その時だった。

突然けたたましい警報音が鳴り、はやての前に『INTRUBER』の文字が書かれたホログラム画面が投影される。

 

「こ、これは…“不審人物警戒態勢”の特殊アラート!?」

 

「なんだと…つまり、侵入者か!?」

 

小十郎の問いかけに頷きながら、はやてはホログラムコンピュータを操作して司令室と繋いだ。

 

「グリフィス君! 一体何事や?」

 

《部隊長! 先程、中庭の監視カメラが不審な人物をとらえ、確認したところ何者かが穴を掘って、敷地内に侵入した痕跡があるのが確認されました! もしかしたら、豊臣の間者の可能性もあるので、念の為に警戒態勢をとりました!》

 

通信越しにグリフィスの報告を受けている間に、はやてや慶次、そして柄にもなく朗らかになっていた小十郎も、いつしか「仕事」モードの顔に変わっていた。

 

「わかった。とりあえず、フォワード全員と各分隊長、副隊長へロビーに集まるように指示を出して。直ちに隊舎内をくまなく捜索や」

 

《了解です》

 

通信を切ったはやては、この場にいる3人に指示を送った。

 

「聞いたとおりや。キャロ(ライトニング04)小十郎さん(イレギュラー03)はロビーにて他の前線メンバーと合流後、施設内部、周辺をくまなく捜索。慶ちゃん(ロングアーチ06)は私と一緒に司令室で戦術立案のサポートをお願いします」

 

「了解!」

 

「承知!」

 

「任せとけって!」

 

そして、4人はそれぞれ行動を開始―――

しようとした時、眠ったままのフリードを抱え上げたキャロが、農作業を手伝った際に愛用デバイスであるケリュケイオンを着替えと一緒にプレハブ小屋の中に置いてきてしまった事を思い出した。

 

「いけない! 私、ケリュケイオンをプレハブ小屋に置いたままでした! 皆さん! 先に行っていてください!!」

 

「わかった。遅れるなよ」

 

頷き、了承した小十郎を先頭に、はやて、慶次と続いた3人は屋上の出入り口から、階段を降りていくのだった。

 

一人、屋上に残されたキャロはプレハブ小屋の中に入って、中に置かれていたケリュケイオンを手に巻くと、フリードを片手に抱えたまま、急いで小十郎達の後を追いかけようとした。

ところが…

 

 

バリバリバリ…モグモグモグ……

 

 

「えっ!?」

 

屋上の出入り口に向かおうとしていたキャロの足が、思わず止まり、誰もいない筈の菜園を振り返った。

 

 

バグッ……ムグッ…ムグッ…ガリバリボリ…

 

……否、いる。

誰かが間違いなく、この畑にいる。ひっそりと獣のように息を潜めて…畑に成った野菜を食べている。

 

まさか…いや、十中八九間違いない。

今しがた、警戒態勢が発令された“侵入者”だ。それも、小十郎が先程まで血眼になって追っていた件のファーム・イレイザー(菜園消去屋)である可能性が十分、いや十二分に高い…

 

(まさか、小十郎さんがいないこの時に…!?)

 

まさかの事態に応援を呼ぶべきか迷うキャロだったが―――

 

 

ガサゴソ…ガサゴソ…

 

 

「!?」

 

突然、キャロの近くにある大豆の苗の列の後ろ辺りで、人らしき影が動くのがはっきり見えた。

そこは確か人参畑がある辺りである。

 

「だ、誰ですか!? そこにいるのは!?」

 

キャロが条件反射的に叫びながら、ケリュケイオンをセットアップし、人参畑に向かって一発の牽制用の魔力弾を片手から発射した。

勿論、人参や大豆を間違って吹き飛ばさないように細心の注意を図っている。

 

「ムガッ!?」

 

すると大豆の苗の向こうから、寄生が聞こえると共にサッと青緑色の影がキャロの前に飛び出してくる。

 

「―――!!?」

 

キャロは思わず、硬直した。

畑の中から躍り出てきたのは、全く見たことのない奇怪な身なりをした男だったからだ。

青緑色を基調にした色合いに、縁に獣の毛皮らしき装飾をあしらったマタギの服装の様な戦装束姿に、毛虫の様な形の前立てがあしらわれた編笠―――

栗色の髪を乱雑に切った短髪と、金色に輝く野性味溢れる瞳、その右目の部分に斜めに走った刀傷―――

そして獣の牙のように鋭い鋭利な八重歯が、特徴的な小柄な少年…否、少年から青年になったばかりの年頃…おそらくスバルやティアナと同い年か少し上と思われる彼の手には、今しがた人参畑から失敬したものらしき土塗れの人参が握られていた。

 

「………ガリッ! バリバリバリバリ!!」

 

そして、その土に塗れた人参を何と青年は躊躇う事なく齧りつき、バリバリと食べたのだった。

その行動にキャロは思わずドン引きし、一歩後ろに下がる。

思わぬ事で驚かされながらも、とりあえず青年を尋問しようとする。

 

「…貴方は一体誰ですか?」

 

「…………ボリボリボリ…」

 

キャロが恐る恐る尋ねるが、青年は人参を咀嚼するばかりで何も答えない。

 

「あの…」

 

キャロが再度、声をかけながら一歩踏み出そうとしたその時。

 

「俺の大好物……食べるのを邪魔する奴は………許さねぇ……」

 

「えっ!?」

 

やっと青年が口を開いた。

しかし、その言葉の内容は明らかにキャロに対する敵愾心が感じられるものだった。

キャロは危機感を覚え、いつでも戦える様に臨戦態勢をとろうとしたが、その前に青年は背中に両手を回すと、背中に隠していたのか二本の長物を取り出してきた。

 

「ッ!?……白鞘の刀に……木刀!?」

 

青年の手に握られていたのは曲線のかかっていない刀身が特徴の白鞘の直刀に、大太刀程の長さの木刀だった。

剣士…にしては奇妙なチョイスの武器を構えた青年に呆気取られながらも、キャロは慌てて、対応できる武器はないかと辺りを見渡す。

正式に魔剣士としての訓練を受ける事となり、指導も受けているキャロであるが、まだ自分の魔剣士としてのデバイスは完成しておらず、今自分が持っているケリュケイオンだけでは青年の構える白鞘直刀や木刀に応対できない。

 

「ッ!? キュクルーーッ!!」

 

主の窮地を察してか、今しがたまで気持ちよさそうに眠っていたフリードが目を覚まし、キャロを庇うように青年の前に立ちはだかって、威嚇の咆哮を上げた。

その隙にキャロはプレハブ小屋の入り口の脇に立て掛けてあった籠の中から、訓練用の木刀を取り出した。

これは本来、農作業用の鍬や鋤を入れる為のものだが、時折、小十郎が思いつきや時間つぶしから剣術の訓練ができるように、2、3本木刀もいれていたのだ。

 

青年は木刀を取り出して構えてきたキャロ、そして彼女の前に浮遊するフリードを無言で一瞥する。

強い海風が吹き抜ける中、不意に―――

 

 

グウウゥゥゥゥゥ…

 

 

青年の腹の音が鳴った。

 

「えっ…!?」

 

「そいつ、新種の鳥か?…焼き鳥にしたら“美味そう”だな……」

 

「キュルッ!!?」

 

「や、ややや、焼き鳥ぃぃぃ!!」

 

青年の言葉を聞いて、キャロもフリードもぎょっとした。

この謎の青年は相当に腹が減っているようだが、なんと子竜のフリードを『鳥』と勘違いして食べようと考えている様子だった。

 

「私のフリードを焼き鳥になんかさせません! っというか、フリードは鳥じゃなくて“竜”ですよ!!」

 

キャロは抗議の声を上げながら、ケリュケイオンからピンク色の魔力弾を発射する。

それに合わせるようのフリードも口から火炎弾を放射して青年を攻撃した。

しかし、青年は猿の様に軽やかなバックステップを披露して、魔力弾と火炎弾を避け、それでも回避しきれないものは両手に持った白鞘直刀と木刀で弾いてみせた。

攻撃を防ぎながら、青年は不服そうな表情を浮かべて言った。

 

「“竜”だって? チィッ! ツイてねぇ…!! 竜は“伊達”の神彫磨亞苦(シンボルマーク)だから、おいそれと食うわけにゃ、いかねぇんだよな…!!」

 

「えっ!? 今、“伊達”って言いました…!?」

 

喧騒の中で聞こえた青年の言葉に反応して、攻撃の手を止めて、再度問いかけようとするキャロ。

だが、青年の方は今の攻撃ですっかり、“戦闘モード”に入ってしまったようで、キャロの攻撃が止まったのを確認すると、そのまま直刀と木刀を構えて、駆け出してきた。

 

「キュクルッ!!」

 

敵対者が迫っているのに応戦の指示がないキャロに、フリードが警鐘を鳴らすように吠える。

その声にキャロが気づいた時、既に目の前には直刀と木刀を振りかぶりながら、飛びかかってくる青年の姿があった。

 

「キャアッ!?」

 

キャロは手に持っていた木刀を上段に構え、振り下ろされた二振りの刀(+木刀)を受け止めるが、その力の強さに圧され、思わず吹き飛ばされそうになる。

 

(ブーストアップ!)

 

しかし、そこは伊達に、日頃から補助魔法に特化しているキャロである。

攻撃を受け止めると同時にケリュケイオンに補助魔法の『ブーストアップ』を念じ、防御姿勢に強化のアシストをかける事で、本来ならあっけなく吹き飛ばされてしまうこの一撃をどうにか耐える事に成功させた。

 

一方、青年は一見無垢な少女であるキャロが自分の渾身の斬撃を受け止めた事に一瞬驚いていた。

 

「…唯のガキと思ってたけど…剣術の鍛錬は積んでいるんだな?」

 

青年は身体を独楽のように高速で周しながら、後ろに飛び引くと、キャベツ畑のど真ん中に着地した。

 

「面白ぇ! いきなり、わけのわからないへんてこな世界に来てから、まともに敵らしい敵と戦ってなかったからな! “兄ちゃん”達を見つけるまでの肩慣らしに丁度いいってもんだぜ!」

 

そう言って青年は、足元に実っていたキャベツをひとつもぎ取ると、葉を一枚も捲る事なく、無我夢中に齧りつき、食べてみせた。

土がついていようが、余計な葉があろうが、お構いなしに、野菜を手当り次第に狂い食らうこの青年…とんでもない悪食である。

 

しかも、彼が今食べ散らかしているのは、事もあろうに野菜に関しては一癖も二癖も…否、百癖も千癖もこだわりの強い片倉小十郎が手塩に育てた野菜である。

そんな小十郎の野菜をこんな無残に食い散らしたなんて事がバレたりしたら、文字通り極刑は免れないであろう…

 

「ま、待って下さい! とりあえず私の話を聞いてくれませんか!?」

 

「…話を聞くなら……ここの野菜全部食っていいのか?」

 

「えっ…!? そ、それは……」

 

あまりにも無茶振りな青年の交換条件に、キャロは言葉を詰まらせる。

すると、青年は「ヘッ!」と鼻で笑いながら2個目のキャベツをもぎ取り、食べた。

 

「ここの野菜は間違いなく、俺が探し求めていた大好物『片倉印の野菜』! ここへ来てから、ずっと代わり映えのない平凡な味の野菜ばっか食ってきてむしゃくしゃしてるから、今はコイツを腹いっぱい食うまで、俺は誰の指図も受けねぇよ!!!」

 

「えっ!? どうして貴方がこの野菜の事を!? それにさっきは『伊達』って言ったり…ホントに貴方は一体誰なんですか!?」

 

しかし、青年はキャロの質問に答える事なく、再び直刀と木刀を構え、キャロに向かって駆け出してきた。

青年の様子に、今は何を言っても無駄であると踏んだキャロは、一先ず説得は諦めて、青年を少しでも大人しくさせるべく、やむを得ず応戦する事にした。

両者は正面から、それぞれ得物を打つけ、組み合った。

 

「オラァァ!!!」

 

「うぅっ……!」

 

突進と共に繰り出してきた兜割りを今度は八相の構えで受け止める。

それでも、やはりスタミナの差がある分、どうしてもキャロの方が不利になってしまう。

キャロの小柄な身体はそのまま数メートル程後方に押し戻されてしまう。

どうにか、フリードが背後に回って、キャロの背中を押す事で威力を相殺に近い形に持ち込んだ。

 

「やるなお前! だが、美味いもん食った時の俺はこんなもんじゃすまねぇぜ! 受けてみやがれ! “三牙月(みかづき)流…『とにかくきる!』“」

 

「それが技の名前!?」と思わずツッコんでしまいそうになる程に珍妙な技名を唱えながら、青年は上下右左と全ての角度からの怒涛の素振りの乱撃を繰り出してきた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

その攻撃は、『三牙月(みかづき)流』なる大層な名前に反して、ただデタラメに直刀や木刀をぶつけてるだけであるが、青年自身の優れた身体能力を併せる事で、まだ剣士としては駆け出しなキャロにはいなしきれない程の大技として一応完成していた。

キャロはどうにか木刀で繰り出される打撃を弾いていくが、やはり完全に防ぐことはできず、肩や脇腹などに木刀が当たる。

その威力はバリアジャケットで防護されてなおも、なかなかに痛む程のものだった。

 

(うぅ…この人…技はデタラメだけど、力は強い…! このまま耐えているだけだと、やられちゃう…!)

 

「ヒャッホォーーー!!! やっぱり、大好物を食った時は、力が出るもんだなぁ!!」

 

自分が優位に立ったのを理解したのか、青年は少し調子に乗りはじめており、同時に唯でさえ乱雑な攻撃の手に更に大きな隙が生じ始めていた。

その隙間をキャロは見逃さなかった。

 

「片倉流…基礎技法 “竜頭”!!」

 

「なぁっ!?」

 

キャロは前方に跳躍すると木刀を突き出して、鋭い刺突技を放った。

これは、師・小十郎から伝授された刺突技の一番初歩の技であり、キャロが現時点で唯一完璧に習得済みの技であったが、それでもその身軽さと『ブーストアップ』で強化された身体能力を生かして、常人であれば目に止める事のできない速さを実現していた。

 

それでも、青年はサッと身を翻して、突き出される木刀を回避してしまった。

しかし、その顔は何か違う意味で驚きを隠せない様子だった。

 

「……なんでお前が、その技を使ってんだ?」

 

地面に着地し、直刀と木刀を構えたまま、青年は怪訝な顔つきで尋ねる。

 

「ここの畑の野菜といい…お前の使う技といい……そしてこの隊舎から感じる“匂い”といい……やっぱり、 ここに“兄ちゃん”と“小十郎の兄貴”がいるのか!?」

 

「!? “兄ちゃん”…!? 小十郎の…“兄貴”!?」

 

キャロの脳裏に青年の言葉がパズルのように組み合わせていく。

今しがた聞いた事に加え、先程耳にした『伊達』…これを組み合わせていくと、この青年の正体は――――

 

「もしかして貴方は…奥州伊達軍の――――」

 

だが、青年の方は少々短慮が過ぎるのか、キャロの返答を待たず内に、より一層強い闘志を見せながら、構え直してきた。

 

「上等!…ガキだと思って手ぇ抜いてるつもりでいたけど、兄ちゃん達の事何か知っているというのなら話は別だぜ!…ここでテメェを打ち負かして、是が非でも兄ちゃん達の居所吐いてもらうからよぉ!!」

 

そう言うと、青年は一度、片手に持っていた木刀を地面に突き立てると、腰に横向き下げていた刀袋を取り出すと、その紐を解いて、中に仕舞っていた三本目の刀剣を取り出してきた。

 

それは、他の二本どころかキャロがこれまで見てきた刀の中でも特異な形状のものだった。

その刀剣はなんと鞘も鍔も柄も無く、そればかりか鍔や柄に挿す為の茎と呼ばれる部位や目釘穴さえも作られていない端から端まで全て刃だけで構成された刀だったのだ。

一応申し訳程度に刀身の真ん中当たりにサラシを巻きつける事で手に取っても傷つけないように配慮されている部分はあれども、それでも常人であればとてもではないが振るばかりか持つことさえもままならない代物である。

 

しかし、青年はそれを躊躇う事なく、右側の裸足の足の親指と人差し指の間に挟むようにして掴むと、そのまま地に突き立てた木刀を握り直して、片足立ちで3つの珍刀を構えてみせたのだった。

 

「えっ!!?」

 

躊躇う事なく、実に非効率的な構えを見せた青年にキャロは思わずあっけにとられる。

 

「ヘヘヘッ…これこそ、俺の三牙月(みかづき)流の真骨頂だ。コイツを構えた以上…悪ぃが全力でいくぜ?」

 

「えぇっ!? でも…その構え方、逆に動きづらいんじゃないですか?」

 

キャロは思わず心配する様な事を言うが、青年は返事を返す代わりに刃だけの刀…無柄刀(むえとう)を掴んでいない方の足だけで、地面を蹴るとまるでホッピングで跳ねたかのように今まで以上に軽やかな大ジャンプを決めてきた。

 

三牙月(みかづき)流…『さんだんおち!』」

 

「だから、技名のセンス!」とツッコみたくなるような技名と共に一気にキャロの目の前まで迫ってきた青年は、直刀と木刀をそれぞれ順に薙ぎ払ってくる。

キャロはこれをどうにか木刀で弾き凌ぐが、青年はそれを待っていたと言わんばかりにニッと八重歯をむき出して笑みを浮かべる。

そして、無柄刀(むえとう)を掴んだ足を横に払うようにして、華麗な回し蹴りを繰り出してきた。

 

回し蹴り自体の威力に加え、指で掴んだ刀が振り回された事による遠心力も利用し、蹴りの際に起こる僅かな風の威力を倍増しして、かまいたちの如き風の刃が巻き起こり、守りの構えを取っていたキャロを直撃した。

 

「キャアッ!!?」

 

「キュクルーー!!」

 

キャロは風の刃の切断効果こそ相殺すれども、その風圧は相殺する事ができず、後ろにいたフリードも巻き込んで、人形のように吹き飛ばされ、数メートル後ろの屋上菜園の外の地面に叩き落とされた。

そのはずみで、木刀が手から取り落とされて数回地面を跳ねながら遠くの方へと転がっていってしまう。

 

「もらった!」

 

青年は足を蹴り上げて、無柄刀を宙に投げ飛ばすと、今度はそれを口で咥える…所謂、某『海賊狩り』の様な構えをとってみせた。

 

三牙月(みかづき)流奥義…“まぐなむすとらいく”! こいつで決めるぜ!!」

 

青年は無柄刀を口に加え、直刀と木刀をそれぞれ手の中で回転させながら、キャロに向かって駆け出してくる。

キャロは大技を放ちながら迫ってくる青年の姿を見据え、傍らに倒れていたフリードを抱えながら、敗北を覚悟して強く瞑った。

 

「そこまでだ! 侵入者め!!」

 

不意に屋上菜園に怒声が響き渡ったかと思いきや、キャロの背後からひとつの影が飛び越えて、対っていた青年の元へと飛びかかる。

 

「ぐぎゃあっ!?」

 

同時に、刃を返した状態で放った十字の斬撃(峰打ち)を繰り出すと、今度は青年の方が人形のように軽々と吹き飛ばされて、畑の向こう側へ墜落していった。

 

最早、助太刀に入った人物について説明は不要であろう。畑の主、小十郎である。

侵入者の捜索の為にロビーに集まったはいいが、一向に降りてこないキャロを案じていた矢先に屋上から聞こえた剣戟と喧騒に只ならぬ事態を察し、引き換えしてきたのだ。

当然、彼の後からは……

 

「「「キャロ! 大丈夫!?」」」

 

「怪我はない!?」

 

スバル、ティアナ、エリオのフォワードチームに、政宗ら六課在籍の戦国武将陣の内、ロングアーチにいる慶次を除いた5人、そしてなのは、フェイト、ヴィータ、シグナムら隊長・副隊長陣と前線メンバーのほぼ全員が続いて屋上へやってきた。

 

フェイトとエリオがキャロとフリードの怪我の具合を案じている間に、政宗達は敵に一太刀浴びせた小十郎の下に駆け寄る。

 

「政宗様。手加減はしましたが、おそらくもう派手に抵抗は出来ますまい。奴は茄子畑の裏に…」

 

「よし。あとはアタシらに任せろ。スバル、ティアナ。手伝え」

 

「「はい!」」

 

既にバリアジャケットに着替えていたヴィータがそう言うと、同じくバリアジャケット姿のスバル、ティアナを伴いながら、先陣を切って茄子畑の裏に回り込むと、一斉に侵入者がいるであろう苗木の中へと飛び込んだ。

 

「あっ! いたぞ!」

 

「こらぁ! 無駄な抵抗はやめなさい!!」

 

「大人しくしろ…ってば!!」

 

「あ痛ててて! くそぉ! 離せ! 離しやがれ!」

 

茄子の苗木の向こうから聞こえるヴィータ、スバル、ティアナの声に混じって聞こえてくる侵入者の声に武将達が怪訝な顔つきを浮かべる。

 

「Ah?」

 

「ん?」

 

「この声って……」

 

「どこかで…?」

 

「聞き覚えがあるような……?」

 

政宗、小十郎、幸村、佐助、家康が、聞こえてくる侵入者の声にそれぞれ強いデジャブを感じているような反応を示していた。

そこへ、茄子畑の中からヴィータと、侵入者を両脇からそれぞれ取り押さえたスバルとティアナが出てきた。

 

「手こずらぜやがって! ドロボー野郎!」

 

「管理局施設への不法侵入、公務執行妨害の現行犯で逮捕します! えへへへ…これ一度言ってみたかったんだよねぇ」

 

「真面目にやりなさいスバル! コイツも豊臣の間者だったりしたらどうするのよ!」

 

ティアナのその言葉を聞いた青年が、心外だと言わんばかりに吠え始めた。

 

「はぁ! 豊臣ぃ!? ふざけんな! 誰があんな山猿共の仲間になるかっつうの! 奥州伊達軍を舐めんじゃねぇぇぇ!!」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

青年の口から出た言葉に、彼を取り押さえていたスバルとティアナ、そしてなのは達は思わず動きを止める。

 

「い、今なんて言った…? 奥州伊達軍…?」

 

ヴィータが問い返す中、青年の声、そしてその姿格好をはっきりと目に留めた武将達…特に政宗と小十郎が、驚きと呆れ、そして嬉しさを含めた声で呼びかけた。

 

「お前……もしかして、“成実(しげざね)”か…!?」

 

「えっ!?」

 

政宗の呼ぶ声に意表を突かれ、驚く青年の下に、小十郎が近づき、彼の被っていた編笠を取って、その顔をはっきりと晒してみせた。

 

「こ、これはしたり! まことに…成実殿ではござらぬか!?」

 

「本当だ! 久しいな! 成実!」

 

「成実」と呼ばれた青年の顔を見た幸村や家康もそれぞれ、驚きと喜びに満ちた声を上げる。

一方、青年の方もまた、家康や幸村、佐助、そして小十郎、政宗と一瞥してその顔を確認すると…

 

「に………にに、に…………」

 

「に?」

 

 

「“兄ちゃーーーーーーーーーーーーん”!! “小十郎の兄貴”ぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

「うわっ!」

 

「きゃあ!」

 

突然、弾んだ声を上げながら、取り押さえていたスバルとティアナを振り払い、政宗に飛びついた。

これがスバル、ティアナのような美少女やエリオ、キャロのような幼い少年・少女がやれば、ライトノベルやギャルゲーなどでよくありがちな展開で見栄えも良いが…これをやっているのは、少年…っと呼ぶには少し年を重ねすぎた青年であり、決して見栄えが悪いわけではないが、それこそこういうジャンルを好む腐女子以外はあまりそそられない光景であった。

 

「ちょ…待…」

 

「兄ちゃん! 兄貴も! 無事で…無事でよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! やっぱり俺の鼻は正しかったみたいだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「わかった! わかったから、政宗様から少し離れろ!!」

 

小十郎は慣れた様子で、政宗にがっしりとしがみつく青年を引き離そうとするが、青年は断固として政宗から離れようとしない。

 

「そりゃ離れたくなくなるってばさぁぁぁぁ! 天下分け目の戦に伊達軍総出で出陣した兄ちゃんも兄貴もいなくなったって聞いて、居ても立ってもいられなくて、日ノ本中探そうとしたら、いきなり訳のわからない光に包まれたと思ったら、見たこともない変な世界に来ちまうし…ここの野菜はどれも平凡で美味くねぇし…もぉ今まで俺散々だったんだからよぉぉぉ! 一体何がどういうわけ? ちゃんと説明してくれよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「お…OK、OK! 積もる話なら後でするから、まずは周り見ろ」

 

まるで飼い主に久々に再会した犬のように大喜びする青年を何とか宥めようとする政宗。

そんな、政宗達の会話を呆然と聞いていたなのは達。

何も知らないなのは達は、一から十まで状況が理解できずに困惑しっぱなしだった。

 

「えっと…この子は、一体誰なの?」

 

なのはの問いかけに、応える余裕がなさそうな政宗達に代わって、幸村と家康が説明した。

 

「うむ…某達も伊達軍との合戦の折に何度か相見えた程度なのでござるが……()の御人の名は“伊達 藤五郎 成実”殿。片倉殿に並ぶ、奥州伊達軍の幹部でござる」

 

「更に言うと、独眼竜の“義兄弟(おとうと)”だ」

 

「「「「「お…おとうと!!?」」」」」

 

歓喜の嬉し涙を滝のように流して騒ぎ立てながら、胸元を激しく揺さぶり動かす青年…伊達成実とそれに揺さぶられ、呆れながらも至ってクールな振る舞いを崩さない政宗の対照的な二人の様子を見比べながら、なのは達は驚嘆の声を上げるのだった…

 

 

 

 

奥州伊達軍といえば、その大胆不敵な行動力とカリスマ性で一軍を率いる筆頭 “伊達政宗”と、そんな政宗を支え、知略・武芸共に抜きん出た才能を誇る副将 “片倉小十郎”の2人の存在が日ノ本中にその名を轟かせていたが、実はもう一人…政宗や小十郎程ではないものの、伊達軍には知る人ぞ知る名物の“特攻隊長”の存在があった……

 

その名は、伊達藤五郎成実―――

 

政宗と同じ伊達家の血を継いだ“兄弟”であり、まだ17歳という若さで伊達軍の一番槍を務める血気盛んな若武者だった。

伊達家宗家の跡取りである政宗と違い、伊達一族の家人と農民の娘との間に生まれた半士半農の出身ながら、ある経緯を経て、伊達家に引き取られてからは、政宗と小十郎から実弟同然に育てられ、唯一心を許せる肉親として大事にされ、自身も政宗達を心から慕ってきた。

 

敬愛する政宗の天下取りの為にその力を捧げる事を決めてからは、農民生まれ故に養われた打たれ強さと、伊達一族の遺伝子である武人としての才能を併せる事で、政宗、小十郎の主導の下、天下統一に向けて躍進する伊達軍に貢献し、目覚ましい活躍を重ね、いつしか伊達軍をよく知る者の間では『“智”の小十郎と“武”の成実』、『竜の牙』の二つ名を与えられるまでになった。

 

当然、幸村が属する武田軍や家康率いる徳川軍と交戦した折に、それぞれ彼らとも刃を交わした経験があった。

特に幸村とは、政宗の好敵手という事で執拗に突っかかろうとしたが、やはり幸村にはまだ及ばなかったのか、その都度返り討ちに遭い、また政宗から「アイツは俺の大事なRivalだから絶対に手を出すな」と厳命された事もあって、その後は極力手を出さないように気をつけるようになった。

 

 

そんな成実だが、何故政宗、小十郎がミッドチルダに飛ばされるきっかけになったあの信州上田における武田軍との合戦に参陣していなかったのか…?

 

それは関ヶ原の合戦の直前まで遡る。

徳川軍率いる東軍、そして石田軍率いる西軍…日ノ本を二分して争う事となった天下分け目の戦に際し、東軍側に与する事を決めた伊達軍には東軍本陣よりふたつの使命が科せられる事となった。

 

一つは信州上田にて、関ヶ原の合戦に赴く東軍本隊を西から攻め来る西軍本隊と挟撃する策を図ろうとしていた真田幸村率いる武田軍、そしてその武田軍の主力である真田昌幸率いる真田軍の両軍を足止めし、武田・真田両軍の計略を阻止する事―――

 

そしてもう一つが、西軍の北陸方面軍の主力として徳川方へ就いた越中、東北諸国の諸大名制圧を図ろうとした豊臣五刑衆第五席 上杉景勝率いる上杉軍の進撃を阻止する事だった―――

 

どちらも結果次第では関ヶ原にいる東軍主力の戦況さえも大きく左右する重大な任務だけあって伊達軍…ひいてはその軍略を一手に任されている小十郎は考えに考えた末に伊達軍を2つに分ける策を練った。

そして、信州方面の武田・真田両軍への牽制隊を政宗と小十郎が…越中方面の上杉軍への迎撃隊を成実がそれぞれ率いる事を思いつき、その大役を自ら成実に命じたのだった。

 

勿論、成実としては兄と慕う政宗や小十郎と共に行きたいのが本心であったが、それでも東軍…ひいては伊達軍の命運を賭けた大事な使命を任された嬉しさもあって、二つ返事で了承した。

 

とにかく、自分にできる事で政宗や小十郎の力になれるのならどんな事でも惜しまずに協力する。

それが成実の掲げるポリシーだった。

それはある事情から、政宗達に救われた恩義であり、それ故に政宗や小十郎が自分を信頼して、大役を任せてくれるのであれば、それを断ろうだなんて気持ちは微塵も起きなかった。

 

こうして、成実は伊達軍の別働隊を任され、伊達軍とはあまり馬の合わない隣国で同じく東軍方に就いた『羽州の狐』の二つ名を持つ“最上義光”率いる最上軍と一先ずの休戦と共闘の協定を結び、共に最上軍の支城の一つ『長谷堂城』まで迫ってきた上杉軍との合戦に挑む事となった。

 

これが世に言う関ケ原の戦いから連なる天下分け目の合戦の一つ『慶長出羽合戦』である。

 

激戦の最中、どさくさ紛れに味方である筈の最上軍に伊達領を侵攻されそうになったり、敵主将 景勝の猛攻を前に一時は撤退を余儀なくされるなど、トラブルに見舞われながらも、最終的にどうにか上杉軍のこれ以上の侵攻を阻止し、越後に撤退させる事に成功した成実率いる伊達軍別働隊であったが、その勝利を喜ぶ間もなく、信州に向かった伊達軍本隊から火急の知らせが入った。

 

 

―――総大将 伊達政宗、副将 片倉小十郎……敵将 真田幸村、猿飛佐助、真田昌幸、真田信之と共に信州上田の地にて消息を断つ也―――

 

 

この知らせを受けた成実は伊達軍の留守を信頼を置く家老達に任せ、すぐさま単身、信州上田に向かって旅立った。

その道中、関ヶ原では東軍総大将 徳川家康、西軍総大将石田三成をはじめ、名だたる武将達が同じ様に姿を消し、また日ノ本各所で繰り広げられていた天下分け目の合戦場でも同様に著名な武将が姿を消している事を知った―――

 

そして、間もなく政宗達の消えた信州上田に入ろうとしたその時…成実の前に突如謎の光が降り注いだかと思いきや、気がついたらそこは信州の地ではなく、2つの月が望む見知らぬ土地であった―――

 

成実はわけがわからなかったが、一先ず目についた食べ物をひたすら食らって空腹を凌ぎながら、見知らぬ筈の地に微かに感じた政宗や小十郎の“匂い”を頼りに宛もなく彷徨い、その果てに今日、この地にたどり着く事が出来たのだった…

 

 

「…っというわけ。わかってくれた?」

 

ロビーの休憩コーナーに集った面々に対し、話を終え、小十郎が用意した籠いっぱいの野菜を勢いよく喰らい始めた成実になのは達は呆気にとられながらも、一先ずは納得した。

 

「やはり、お主も例の謎の光を受けて、このミッドチルダにやってきたわけか…」

 

家康が頷きながら、自分達が飛ばされた後も日ノ本では同様の現象で特定の人間がミッドチルダ(この世界)に飛ばされている事を知り、何か考え込むように首を傾げる。

 

「つまり…最近クラナガン周辺を騒がせてきたファーム・イレイザー(菜園消去屋)ってのはお前だったわけか…」

 

ヴィータが呆れた様子で尋ねた。

まさか、世間を騒がせていた謎の怪人物の正体が、機動六課の仲間の身内だった事に脱力する反面、これでまた地上本部やその他の武装隊…そして被害にあった農家各家庭への弁解と補償でまた忙しくなるとため息をつきたい気分だった。

 

「その『ふぁーなんとか』とかいうのはよくわからねぇけどよぉ…俺はただ、腹が減ったから目についた美味そうな野菜を頂戴しただけだって。まぁ、どこの野菜も小十郎の兄貴の野菜に比べりゃ、素人(トーシロー)だったけどよぉ」

 

「よく言うぜ。聞いた話じゃ、苗や土まで食い尽くしてたそうじゃねぇか」

 

「いやいや。寧ろ、実よりも苗や土の方が美味かった畑もあったけどね?」

 

さらっととんでもない事を口にする成実に、なのは達は思わずドン引きする。

すると、小十郎がため息を漏らしながら、補足の説明を入れてくる。

 

「まぁ、見ての通り、成実はとにかく食い意地が張っていてな…普段から、虫だろうが、雑草だろうが、土だろうが、果ては石だろが…とにかく普通の人間ならまず食えねぇようなものまで平気で食らって、それでいて体調には何の問題もないっていう化け物並の胃袋の持ち主なんだ」

 

「どんな胃袋ですか!? 虫や草ならまだわかりますけど、土とか石なんて最早食べられる要素一ミリもないじゃないですか!?」

 

ティアナが青ざめながら、成実の常軌を逸する程の悪食ぶりに戦慄を覚える。

その成実であるが、既に籠に入っていた野菜を食い尽くし、今度は籠そのものをバリバリと噛み砕いて食べていた。

 

「ってストップ! ストーーップ! それは食べ物じゃないよ!!」

 

慌てて、成実から籠を取り上げようとするスバルと、その籠の味が気に入ったのか取られまいと、抵抗する成実との間で攻防が繰り広げられるのを見ながら、フェイトが呟く様に言った。

 

「それで…愛する政宗さんと小十郎さんの匂いたどってきたら、ここで食べ慣れた小十郎さんの野菜を見つけて、ついつい我を忘れて食べていたら、キャロに見つかって交戦していたわけだね?」

 

「やってる事殆ど、害獣と一緒だな…」

 

シグナムも呆れ顔でそう言った。

一方でなのはは、そんな成実の破天荒な振る舞いを聞いて、苦笑を浮かべながら成実の第一印象を呟く。

 

「でもそう言う常識破りなところは、政宗さんに似てなくもないような…」

 

「えっ!? 俺が兄ちゃんに似てるって!? 嬉しい事言ってくれるじゃん~! よっ! ごりょうにん!」

 

「それは全然違う時に言う台詞だ。成実…」

 

おどけながら話す成実に、小十郎がピシャリとツッコミを入れた。

そんな様子を見ていたキャロは、さっき刃を交えた時にはもっとワイルドな印象を受けていたけれど…こうして話してみると、けっこうお調子者で親しみやすい印象を感じた。

 

「それにしても、すまなかったなキャロ。 何も知らなかったとはいえ、ウチの成実がお前に手を上げるような事しちまって…おい、お前もちゃんとキャロに謝れよ」

 

「あっ…その……さっきは、ごめんな」

 

政宗に促された成実は言葉遣いこそ軽いものの、ちゃんとキャロに対して頭を下げて詫びを入れてきた。

やはり、小十郎の教育が行き届いているのか、やんちゃ然とした言動に反して意外に礼儀はしっかりしている様だ。

 

「い、いえ。私もフリードも特に大きな怪我もなかったし、気にしないでください」

 

「キュクル~」

 

キャロがそう言うと、フリードもそれに同調する様に鳴き声を上げた。

 

「…とにかく成実君はこれからどうしようか?」

 

「まぁ、政宗さんの身内って事だから、やっぱりこの部隊で身柄を預かる事になるだろうけどね…」

 

「まずは、この世界の事と、今の我々の状況を細かく説明しないといけないだろうな」

 

そう話し合うなのはとフェイトと家康だったが、当の成実はというと…

 

「なあ。その前に腹減ってるから何か食べさせてくれない?」

 

「はぁ!? お前、今しがた俺の野菜をしこたま食っただろ?!」

 

今まで散々食べていてまだ食い足りないのか、さらなる食糧を要求してきた。

そんな図々しい態度に小十郎が呆れながら窘める。

一方の成実も駄々をこねる様に小十郎に言い返した。

 

「だってさぁ、俺ここ数日ロクなもん食ってなかったんだよぉ! 兄ちゃん達を探してて…」

 

「土や石を平気で食えるような野郎がよく言うぜ…」

 

「まぁまぁヴィータ。 本当にお腹空いてるみたいだし、今は好きなだけ食べさせてあげよう」

 

そう宥めるフェイトだったが、キャロが唐突に意見してくる。

 

「でもフェイトさん。今の時間だと食堂はもう閉まってますけど…」

 

「あっ!? そう言えば…」

 

そう言いながら時計を見るフェイト。

今の時間帯は午後23時半を少し過ぎている。

言うまでもなく食堂は閉まっているばかりか、調理担当のスタッフ達もとっくに寮に戻って就寝していた。

 

「う~ん…困ったなぁ。どうしよう?」

 

なのは達が成実に与える食事をどうするか悩んでいると…

 

「お話は聞かせてもらいました!!!」

 

突然、ロビー響いたやけにテンションの高い声…

一同が声のした方を振り向くと、そこには何故かコックの衣装に身をよせたシャマルが立っていた。

 

「しゃ…シャマル先生!? その格好って?」

 

スバルが唖然としながらシャマルの格好を指摘すると、シャマルは自信満々にほくそ笑む。

 

「フフフフ…フォワードの皆…そして家康君達は知らないとは思うけど…実はこの私…以前は八神家の料理担当だったのよ」

 

「料理!? シャマル殿が?!」

 

家康は想像がつかなかったのか思わず驚いてしまう。

 

「あら? 私が料理作ったら問題かしら? 家康君」

 

「あっ…いや…そういう意味で驚いたつもりじゃ…」

 

シャマルに睨まれ、慌てて頭を下げる家康。

 

「フフ…まぁいいわ。それより成実君…だっけ? お腹空いてるんでしょ? だったらこの私が作ったご飯食べる? ちょうど皆の夜食用に用意していたの」

 

「「「「えっ…」」」」

 

なのは、フェイト、ヴィータ、シグナムが何故か顔を青くしながら問い返すと、シャマルはどこからともなく取り出した布がかかったルームサービス用のカーゴを差し出してきた。

 

「はい、どうぞ! シャマル先生特製サンドイッチ 略して“シャマサンド”!!!」

 

「「「「えええええぇぇぇぇぇ!!?」」」」

 

シャマルの宣言と共になのは、フェイト、シグナム、ヴィータが顔を青ざめながら、絶叫した。

 

「えっ!? ど…どうしたんですか!? 皆さん!?」

 

突然、この世の終わりのような叫びを上げたなのは達に、状況が理解できないスバル達フォワードメンバーや家康達は動揺する。

 

「しゃ…シャマル先生以外の六課メンバー全員集合!」

 

なのはがそう叫び、シャマル、成実を除く全員をロビーの隅に集めた。

 

「どうしたんだ? 急に」

 

小十郎が問いかけると、なのは達は身震いしながら譫言のように連呼する。

 

「いやいやいやいや…いくら成実君が悪食でも流石にシャマル先生の手料理だけはどんな事があっても食べさせたら無事じゃすまないよ…」

 

「ど…どういう事だよ?」

 

政宗が詳しく聞こうとすると、代わりにフェイトが答えた。

ちなみにフェイトはなのは達のように身震いはしてなかったが、それでも顔はかなり青ざめていた。

 

「ここだけの話なんだけど…シャマルさんの料理って“壊滅的”に不味いんだ」

 

「「「「「「「「えぇ!?」」」」」」」」

 

フェイトの言葉が信じられないのか、同時に驚きの声を上げる武将陣とフォワード陣。

 

「い…いくらなんでもそれは大げさじゃないの?フェイトちゃん」

 

「そ…そうですよフェイト隊長。さすがにそれは言い方が過剰過ぎますよ」

 

若干引きながらも冗談めいて話す佐助とティアナ。

だがそんな彼らに対し、シグナムがゆっくりと首を横に振って話す。

 

「いや…“本っっっ当”に不味いのだ。それは食べた者が命の危機に陥る程の…」

 

「「「「「「「「嘘!?」」」」」」」」

 

シグナムの言葉を聞いて、さすがにフェイトの話す事が過剰ではないと分かったのか、顔が青ざめる一同。

『食べた者が命の危機に陥る』という普通料理に関してなら、聞かないような表現を使う辺り、それ程に彼女の料理の腕は壊滅的という事が理解できた

 

「そ、そこまでの代物であるなら、流石に成実も…敵わないかもな……」

 

政宗がそう呟きながらシャマル達の方を振り向くと…

 

「はい。遠慮しないで食べて頂戴♪」

 

既に成実の前に『シャマサンド』なる代物が運ばれていた。

そのサンドイッチはパンこそ普通の食パンであるが問題はそれに挟まれた具だった。

真っ黒いダークマターのように黒ずんだ肉らしき塊…

芯や皮などのほぼ生ゴミ近い部位を使っているとしか言いようのない野菜…

本来、食べるものにかかるはずがない紫色の異臭を放つジャム(のようなもの)…

 

それを見た政宗達は絶望に満ちた表情を浮かぶ。

 

これを見たら、『100万年の恋もさめる』ではないが、料理に目がくらんでいた成実の目も覚めるだろう。

しかし…

 

「ひゃあああああ!飯ぃぃぃぃぃぃ!!飯、メシ、めしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

成実は少しも顔色を悪くせず、それどころか歓喜の声を上げた。

 

「ふふふ…遠慮しなくていいからどんどん食べてちょうだい」

 

「ひゃっはーーーーーー!! いっただきまぁぁぁす!!」

 

そう言って成実はサンドイッチの一つを手にとった。

 

「あっ! だめ! 食べちゃうよ!!」

 

「s…Stooooooooop!! 成実えええぇぇ!!!」

 

なのはと政宗が必死に成実止めようとしたが…

 

「ばく!」

 

一歩遅く、成実はシャマサンドを口に入れてしまった。

 

「ああああ! もうだめだぁぁぁぁぁ!!」

 

「くっ!…政宗、すまない…大事な弟を仲間に殺させてしまう事になりそうだ…」

 

ヴィータは頭を抱えて絶叫し、シグナムは十字を切りながら謝罪の言葉を話す。

 

哀れ…成実は政宗、小十郎と再会して、わずか1時間も経たない内に現地の悪い食べ物にあたって死亡…

そう誰もが想像した…

 

 

しかし…成実は……

 

 

「………うめぇ!!! なんだこれ!? 超うめぇんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「「「「「「「「えぇ!?」」」」」」」」

 

信じられない言葉を言い放ちながら、顔を輝かせる。

もちろん、拒絶反応など一切起こしていない。

 

「う…うそだろ!? なんで!?」

 

「成実!? 体に異常はないのか!?」

 

訳が分からないヴィータと小十郎は、取りあえず成実の下に近づいて安否を確かめる。

すると成実は全然平気な様子で2人の方に振り返る。

 

「何言ってんの兄貴? こんな“超美味い物”食って、身体悪くするわけねぇじゃん! これ、すっげぇ美味い!」

 

「うそおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

成実の言葉を聞いて、電流が走ったような衝撃を受けるなのは達。

自分達が恐怖感を抱くほどの不味さを誇るシャマルの手料理…

それをあろうことか『超美味い』と絶賛するだけでなく、それを平然と口に運んでいく…

成実の異常を超えた味覚に、一同はドン引きする。

すると、成実はシャマサンドの一つ、端っこ野菜だけが使われたサンドイッチを手にとった。

 

「そうだ。よかったら兄貴も食ってみなよ」

 

「えっ!?」

 

そう言われた小十郎が理解する間もなく、彼の口の中に成実は摘まみ上げたシャマサンドを放り込んだ。

 

 

 

「……………ぐべぇあひぎぃぃぶじぇぇぇぶるぁぁぁぶぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

刹那、小十郎が口だけでなく鼻や耳から血を噴き出し、嫌な汗を流しながら仰向けにぶっ倒れた。

これこそ、シャマルの手料理の恐ろしさの本来のあるべき姿であった…

 

 

「「「「「小十郎さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーん!!!」」」」」

 

「小十郎おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!」

 

「「「片倉ぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」

 

「片倉殿ぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

「「片倉の旦那ぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!」」

 

 

失神した小十郎に、なのはや政宗達は絶叫して駆け寄る。

 

 

「小十郎さん!しっかりして! 小十郎さん!」

 

なのはが必死に小十郎に声を掛ける。

 

 

「お…俺の歩んだ道か…まあまあの長さ、だな…」

 

「小十郎! しっかりしろ! 主より先に死ぬ右目があるか?! 小十郎おぉぉぉーーーーーーーーーー!!」

 

政宗の悲痛な叫びが食堂内に響く。

 

「な、なのは! 早く小十郎さんを医務室へ!」

 

「そ…そうだね! スバル、ティアナ!家康さん! 手伝って!!」

 

フェイトに促されてなのはが叫ぶと、すぐさま家康、スバル、ティアナと4人がかりで、泡を吹きながら真っ青の顔になり白目になって失神している小十郎を抱え上げると医務室へと運んでいき、その後ろから残る面々が続いて、一同はロビーを慌ただしくを出て行った。

 

「あれ? 兄貴どうしたんだ急に…?」

 

「あらあら、片倉さんってばあまりに美味しくて失神しちゃったのかしら? うふふ…」

 

そして、ロビーには何が起きたかわからずに困惑する成実と、自らの料理の殺傷能力を自覚していないのか呑気な事を言って自画自賛するシャマルだけが残された。

 

竜の右目を一撃でノックアウトさせる威力のあるシャマルの手料理…

そんな恐ろしい代物を顔色一つ変えず食べるだけでなく、「美味しい」と絶賛する。

 

 

ある意味とんでもない人物がやってきてしてまったのかもしれない…

そう誰もが思いながら、機動六課の夜は更けていくのだった……

 




っというわけでようやくリブート版でも参戦しました我らが悪食バカの成実!

オリジナル版よりも早く登場した事で、今後の長編にもどんな変化が齎されるか楽しみにしててください。

とりあえず、今は「次の長編では早速成実にも大活躍させる予定』とだけ言えます。
にしても、作者の自分が言うのもあれですが、土や石、シャマルの手料理さえも躊躇いなく食べきる成実の強靭な胃袋が欲しいものですね(作者は胃弱)w
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