リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
そのスカリエッティに一方的に去られ、再び自ら抱える問題を苦慮する事となったレジアスにある大企業が接近する。
その裏にはある武将の暗躍が隠れていた……
オーリス「リリカルBASARA StrikerS 第四十三章 ……出陣ウキッ!」
レジアス「……なんだ? その語尾は…?」
オーリス「いえ……ちょっと中の人ネタを挟もうと思っただけですので…意味はありません」
0075年 6月某日付 クラナガンタイムス発表
ウエストランド・サンライズ社 新たに3種の新開発の技術特許を取得!
一般用量産型デバイス・時空巡航用造船部門のシェアナンバー1の軍需企業『ウエストランド・サンライズ社(以降、W.S社)』の
ちなみに、これらの急進的な会社の発展の裏側にはカトラーの姉でW.S社 顧問相談役のアクセラ・ウエストランドが、次々と斬新ながらも合理性の高い手腕で経営に携わっているからだとする声もあり、W.S社の社員や周囲の者の間では『実質的な会社の経営権はアクセラが掌握しているのでは?』という意見も少なからず見受けられる
当然、それはカトラー自身もかなりコンプレックスとして感じているようで、件の定例会見では同様の趣旨の質問を投げかけたフリーの記者に対して、露骨に機嫌を損ね、そのまま脇に控えさせていたS.Pに命じて会場からつまみ出させてしまった程だった。
ともあれ、W.S社がここ数ヶ月という僅かな間でこれだけの急激な発展を遂げる事となったのは何か相当な『天啓』を齎されたからに違いないと、我が社をはじめとする多くの報道機関は踏んでいる。
一体、W.S社を瞬く間に栄えさせている“天啓”とは何か…? “天啓”を得たW.S社は果たして今後、どのような方向に向かうのか、各方面から注目を集めている。
*
地上本部 首都防衛長官 レジアス・ゲイズ中将は、地上本部の最上階に近いフロアにある自身の執務室にて、ホログラムモニターに投影した今日の新聞記事の文面を一通り見終わると、最早それが平時の表情となっている仏頂面な面持ちで、モニターごと遮断した。
「バカバカしい…何が“天啓”だ。左様な絵空事に縋って繁栄できるものなら世話などないわ…」
レジアスは頭を振りながら、疲れた様子で愛用の執務用のデスクに肘を付き、顎を手のひらに乗せながら、ため息を漏らした。
レジアスは、今のニュース記事にもあった“天啓”をはじめとする都合の良い表現が何より嫌いだった。
いくら、魔法や並行世界といった科学的でない現象が現実として受け入れられている特異な世界であれど、実際は
そんな現実の中で、現在の地位まで上り詰めてきたレジアスは軽々しく奇跡だの運だの、それこそ天啓だのと宣う大衆メディアの軽薄な表現が嫌いだった。
とはいえ、ニュースで取り上げられていた企業のここ数ヶ月での発展や栄華を極める様は確かにそんな軽薄な表現を用いたくなる程のものである事はレジアスも認めていた。
ウエストランド・サンライズ・コーポレーション―――
通称「ウエストランド社」「W.S.社」とも呼ばれる同企業の前身は魔導師向けの量産型デバイス開発を主とする小規模な兵器開発企業『ウエストランド社』であったが20年前、当時ミッドチルダにおける魔導工学の最先端であった『アレクトロ社』を買収・合併し、企業の規模を拡大。
15年前に最新鋭の魔力駆動炉の開発によって、時空管理局より御用企業の看板を与えられ、その確固たる地位を確立し、今や名実共にミッドチルダ最大の軍事企業といっても過言ではなかった。
更に、ここ数ヶ月の間には製品開発、功績…様々な分野で次々と新プロジェクトを進め、そのどれも見事に大当たりさせ、瞬く間に会社の売上やその社会的地位を目覚ましく向上させ、こうしてここ最近はニュースで引っ張りだことなっていた。
「ふん…地上の治安を預かる我々が台所事情に苦心しておる裏で、そのスポンサーは懐を潤しとるわけか…いい気なものだ」
レジアスは自嘲を込めた皮肉を呟いてウサを晴らした。
栄華極まる民間企業と対象的に、人材も資金もカツカツな地上本部の現状が余計に惨めに感じてくる気がした。
その時―――
執務室のドアがリズミカルにノックされた。
「入れ」とレジアスが言うと、ドアが開かれ、秘書官で実の娘のオーリス・ゲイズが手に報告書や申請書の束を山積みに重ねたものを手に入ってきた。
「長官。今夜中に長官の承認を必要とする書類一式を持ってきました」
「うむ。置いておけ」
オーリスの手に積まれた書類の山を見て、小さくため息を漏らしながら、手短に指示を送ると、デスクから立ち上がり、首都クラナガンの摩天楼をはじめ、遥か果ての山々や大海原まで見通せる絶景が望める窓際の近くへと歩み寄った。
この長官専用執務室でレジアスが最も気に入っているのはこのパノラマを独占できる窓際であった。
現在の時刻は午後9時―――
外は摩天楼の夜景と、壮大な夜空が合わさって神秘的な世界を醸し出していた。
窓から見える景色を一望しながら、レジアスは振り返る事なく、書類をデスクの上に置いていたオーリスに声をかける。
「他には?」
「えっ?」
「他に何か報告すべき事はないのか?」
オーリスは意味深に顔を背けた。
どうやら、これは素直に報告するべきか言い淀んでいる様子だった。
「その…あまり長官にとってよろしくはない内容ですが…」
「構わん。話せ」
「…承知しました。では…ひとつは先日からクラナガン近辺の農家を騒がせていた
「……またあいつらか…」
レジアスはウンザリした様子でボヤいた。
「して…捕らえた犯人の処遇は…」
「それが…詳しい理由はわかりませんが、『犯人に十分な反省の傾向あり』、『被害農家への補償は既に完遂している』との事から。しばらく機動六課にて民間人協力者扱いとして身柄預かりとするそうです。勿論、これについて本局からも承認を得ています」
「フン…さしずめ、隊員の誰かの身内だったとか、そいつが戦力として使えそうだとか…そんな理由であろう? つくづく身内贔屓な部隊だ」
レジアスは苛立たしげに吐き捨てるが、一方では半ば諦めたような様子で顔を顰め、窓越しに見えるミッドチルダの景色を睨みつけた。
「この間の委託局員の暴走事件といい、自分達の身内の犯した不始末は本局の重鎮共に縋ってでも揉み消したいと思うような連中だ…まぁ、それも部隊長が部隊長であるのだから、仕方ない事だな」
レジアスが鬱憤を晴らすように六課に対する悪態をついた。
ただ、レジアスのこの悪態には一部解釈違いがある。
先の政宗が起こした『クラナガンの暴れ竜事件』の事後処理とフォローに乗り出した本局のミゼット・クローベル統幕議長が動いたのは事件を知った六課の後見人のリンディ・ハラオウン提督が動いてくれたからであり、決して六課側から縋ろうとなどしていなかった。
しかし、それでも明らかに寵愛されているとしか言いようのない六課の厚遇ぶりを散々見せつけられてしまったら、レジアスの様なゼロから今の地位を得るまで必死に成り上がってきた叩き上げな上に、予算も人員も限られた中で必死に組織をやりくりする人間にとっては腹立たしい事この上ない。
それでも、六課に対して強行的な手段を講じる事が出来ないのは、単に六課の後ろに本局の強いバックアップが控えている事だけが理由ではない。
癇に障る面々ではあるが、六課の実力、そして犯罪検挙における功績は確かなものであり、彼女らの活躍がミッドチルダの平和に少なからず貢献している事。
それだけは、レジアスも素直に認めていた。
だからこそ、ここで後先考えずに隊を取り潰そうとする浅慮な行動を起こすべきではないと最低限の理性がレジアスの行動をある程度抑止していた。
「実は機動六課の事でもう一つ…おそらくはこちらの方が長官にとってもあまりよろしくないお話かと思いますが…」
オーリスはより一層、顔を顰めながら報告した。
「……確かな動きがあったわけではないのですが…実は、“コアタイル”派に機動六課と接触を図る動きがあると部下からの報告がありました」
「なんだと…?」
レジアスが言葉を詰まらせた。
まさかここで機動六課以上に忌々しく思える存在の名が一緒に出てくるとは思わなかったからだ。
“コアタイル派”…それは地上本部においてレジアス率いる『ゲイズ派』と双璧を成して、一大派閥を作っている閣僚一派である。
その首魁である男の名はザイン・コアタイル―――
地上本部統合事務次官で、階級は少将。地上本部において長官のレジアスに次ぐナンバー2の座にある重鎮であった。
言わば、レジアスにとっては同僚でありながら政敵といえる存在であったが、それ以上に両者の間を隔てる決定的な差が『貴族魔導師』としての栄誉だった。
ザインが家長を務めるコアタイル家は旧暦時代より続くミッドチルダの由緒正しき大魔導師の末裔。世に“貴族魔導師”と呼ばれる名家達の中でも最も歴史古く、栄光ある家系であった。
そしてザイン自身も現役時代は“イレイザー・ザイン”の異名を持った地上本部の閣僚でも数少ない『大魔導師』の称号を与えられ、その影響力は時に
勿論、地上本部の人材不足を憂いで一族のコネを使って人員や資金の援助なども行っているものの、実際は援助と称した体のよい自分達の派閥形勢が目的であり、その結果、今や地上本部の半数近くがコアタイル家の支持者となり、それらを総じて『コアタイル派』と呼ばれる様になったのだった。
さらにたちが悪いのは、そのコアタイル派が、魔力を保有している者…すなわち魔導師こそが優等な存在であり、魔力を持たぬ者や魔法以外の戦術を頭から否定し、見下す…巷で『魔法至上主義』と呼ばれる悪辣な選民思想を掲げている事であった。
当然、彼らにしてみれば、非魔力保持者でありながら防衛長官のポストにあるレジアスは、本来そこに座するべきではない目の上の瘤の様な存在であり、そして魔法を使えない分際で偉大な魔導師であるザインよりも(形式上とはいえ)上の地位に立つ愚かしい不埒者として、陰で蔑視の対象として見做され、隙あらば蹴落とさんと画策していた。
言わずもがなレジアスにとっても、名誉ある魔導師の家系というだけで地上本部の長官である自分を差し置いて、このミッドチルダの支配者気取りで振る舞うコアタイルとそれに従属する魔法至上主義の魔導師達は忌々しく、腹立たしい事この上なかった。
その上、同じ腹立たしい存在でも、一応はミッドチルダの治安維持に大きく貢献してくれている機動六課と違い、コアタイル派や魔法至上主義の貴族魔導師達は血統と特権に胡坐をかいて、家柄と気位ばかりが高く、肝心の実戦能力が伴っていない無能者が多数派を占めているという本末転倒な状況なのが現実であった。
また、レジアスがコアタイル派に対して、未だに根に持っている事がひとつあった―――
十数年前…地上本部の戦力不足が深刻なレベルに達した際。
レジアスは恥を忍んで当時、一般閣僚だったザインにコアタイル家のコネを利用して、大規模な魔導師の採用で戦力の充実化を要請した事があった。
そのおかげで、一時はある程度の魔導師の人員を確保できたのだが、その先が良くなかった。
なんとザイン一派はこの時、加入させた魔導師達に軍閥を形成させ、やがてそれを特殊作戦軍に編成させる形でまんまと自分らコアタイル派の私兵戦力に仕立て上げてしまったのだった。
しかも、ザインはこの時の“借り”を利用して、一気に出世コースを駆け上がり、遂には現在の防衛事務次官としてのポストまで手に入れるという秀逸な策略で見事な一人勝ちを収め、結果的にコアタイル派の今日の影響力拡大に繋がる大きなきっかけになってしまったのだった…
レジアスとザイン―――
立場上では地上本部のトップとナンバー2であるが、その実、叩き上げの非魔力保持者と、生まれ持っての栄光あるエリート魔導師という水と油のような関係で、こうして絶えぬ事なき対立を繰り返してきた…
そんな摩利支天の敵といえるコアタイル派が機動六課と接触を狙っているという知らせは、まさにレジアスにとっては気が気でならない凶報と言っても過言でなかった。
「おのれザインめ…! この期に及んで、一体何を企んでいるのだ…!?」
「詳しい目的はわかりませんが…なんでもご子息と機動六課の誰かを『見合い』させる動きを見せているとか…」
「見合いだと…!?」
レジアスが再び言葉を詰まらせた。
「ぐぅぅ…地上本部の長官である私に何の報告や相談も無しに勝手にそんな話を進めおって!……まさか本局に取り入って、官僚の誰かに仲人をお願いしたのではないだろうな?!」
「いいえ。仲人は同じ地上本部のエミーナ・メアリング執政総議長にお願いしているようです。っというよりは、言葉巧みに上手いこと抱き込んだとの話です」
オーリスの報告を聞いて、レジアスは「ふぅ…」と安堵の息を吐きながら、窓際を離れ、デスクの椅子に項垂れる様に腰掛けた。
ちなみに『執政総議長』とは地上本部のお膝元である首都クラナガンにおける政治・行政についての責任者であり、地上本部の中では首都防衛長官、事務次官が、現代の日本でいう総理大臣、官房長官のポストであるとするなら、都知事に値するポストと考えてくれたらわかりやすいだろう。
現職のエミーナ・メアリング執政総議長は論功行賞と派閥順送りでこのポストに就いた所謂 『神輿に担がれるタイプ』の政治家であり、現状、ゲイズ派にもコアタイル派にも属していない中立派にあったが、それ故に自分の意志を持たず、周囲に流される形で、その時と場合によって保身目的から2つの派閥を行き来していたのが、今回はまんまとコアタイル派に先手を打たれ、味方に引き込まれたというわけであった。
「手回しだけは早いやつらだな…にしてもメアリングも、少しくらいは我々の面子を立ててもよいものを…あの風見鶏女め……ッ! しかしまぁ、それならば然程用心する必要はなさそうだな。機動六課の誰を見合いさせるかは知らんが、本局の後ろ盾も無しでは、六課側がこの見合いを素直に了承するとも思えん……如何にザインが偉大な魔導師であり、コアタイルが由緒正しき名家であったとしても、肝心の跡取り息子が…“あれ”だからな」
意味深に焦らす様な言い回しをするレジアスに、オーリスが自らの懸念を投げかけた。
「しかし…万が一にも見合いが成立してしまう可能性もあるのでは…?」
「フン…
嫌味を含んだ物言いでそう話すレジアスであったが、六課を目障りに思う彼も、六課が良くも悪くも“純粋”な正義に溢れた部隊である事だけは認めており、そんな六課が、慢心と欲、腐敗に満ちたコアタイル派に安々と屈するとは思っていない様子だった。
「……確かにそれも一理ありますが…念の為に、しばらく機動六課とコアタイル派のどちらからも目を離さない方がよろしいかと…」
「わかっておる。引き続き、双方の監視を怠るなと部下に伝えておけ」
「承知しました」
オーリスが一礼しながら応えていると、ピピピと執務室内に内線の受信を知らせる電子音が鳴り響いた。
「私だ」
《司令官。失礼します》
レジアスがデスクに内蔵されたホログラムモニターを投影すると、陸士隊の制服姿の女性局員が映された。
この局員は言うまでもなく、レジアスの派閥に属する局員であった為、レジアスもオーリスも少しも警戒する様子も見せなかった。
「何用だ?」
《はい。ウエストランド・サンライズ社の、アクセラ相談役から司令官に通信が届いております》
「フン…噂をすれば影ならぬ“噂を見れば影”か…よかろう。繋ぎたまえ」
ついさっき、ニュース記事で見た人物からの通信がきた事に、レジアスはやや皮肉を効かせた事を呟きながら、ホログラムコンピュータを操作する。
すると、画面には黒い長髪が特徴的な冷たい雰囲気を漂わせる女性の姿が投影された。
アクセラ・ウエストランド―――
造船業とデバイス開発を主力とするミッドチルダ有数の軍産複合体にして時空管理局の御用企業のひとつ『ウエストランド・サンライズ社』の創業者一族 ウエストランド家の令嬢でありながら、その明晰な頭脳と一族由来の経営の才能によって若干12歳でウエストランド社の研究開発部主任の地位を与えられ、やがて、弟でウエストランド家後継者のカトラーがC.E.Oに就任すると、自身もそれに連座して社長補佐役に昇進し、程なくして、より発言力の強い“顧問相談役”の任を預かるまでになっており、先程レジアスが読んでいたニュース記事にあるとおり、ウエストランド社は彼女の指示の下、動かされている状態にあった。
《ご無沙汰しておりますわ。レジアス中将。ご機嫌如何でしょうか?》
「ウエストランド社の相談役である貴様が一体何の用だ? つまらん新製品の押し売りが目的であるのなら、私は今忙しいのだ」
画面の向こうからアクセラの目の笑っていない社交辞令丸出しの笑顔に対し、レジアスは無粋な返事を返した。
《いいえ。最近はやや減ってはおりますが、地上本部からは武装隊向けの量産型デバイスや空域航行艦船の注文を定期的に受注していただき、我社と致しましても、安定した製品の供給やサービスが出来ますのも、単に中将のお墨付きのおかげ―――》
「見え透いた世辞と皮肉はよせ。そんな社交辞令を言っている暇があるなら、用件を早く言わんか」
アクセラの言葉を、レジアスは不機嫌そうな声で遮った。
だが、アクセラはレジアスのあからさまにぞんざいな応対に対しても、眉一つ顰める事なく、軽やかな口調で続けた。
《随分、ご機嫌が悪いようで…相変わらず、地上本部の人材不足に頭を悩ませているのですか?》
「……貴様に心配される謂れはない。いいから早く用件を言わんか」
まるで弁慶の泣き所を突かれたような面持ちでレジアスはアクセラに話を進める様に促すが、アクセラはまるでその反応を待っていたかのように微笑を浮かべた。
《落ち着いて下さい中将。本日はそんな中将に耳寄りなお話を持ってきたのです》
「儂の為に耳寄りな話だと?」
アクセラの言いたいことを察して、レジアスは重々しいため息を漏らした。
「やはり新製品の押し売りか? だったら、他を当たって貰いたい。知っての通り、我が地上本部は人材だけでなく資金も万年不足気味だ。ウエストランド・サンライズの量産型デバイスや次元航行船は低価格、低コストだからこそ地上部隊の戦力として貢献してもらってはいるが、だからと言ってこれ以上、無駄に貴様らの商品に投資する程、
《……その“持ち腐れそうになる宝を無くす”為の商品…だとしてもですか?》
「ッ!?」
アクセラの口から出た一言に、レジアスが反応する。
「どういう意味だ?」
レジアスの質問に対し、アクセラはホログラムモニターにある資料写真を投影する事で応えた。
そこに写されていたのはゴーグルと両耳を覆い隠すヘッドホン状のヘッドギアの付いたマウントディスプレイのようなデバイスだった。
読者の皆々様の為にわかりやすく説明すれば、『某宇宙を股にかけた格闘漫画に出てくるス◯ウターの両目バージョン』と称すれば、理解しやすい事であろう。
「それは…?」
《我が社の研究開発部にて、実用化に向けて研究が進められております次世代インターフェース型デバイス『
「なんだと…それはどういう事だ!?」
レジアスが驚きと期待に満ちた表情でアクセラを問い詰めた。
アクセラは少しも動じる事なく。笑みを浮かべながら、話を続ける。
《詳しい機能や具体的な構造に関しては、開発中につきまだ企業秘密とさせていただきますが…この商品は魔導師相手ではなく、貴方方“非魔力保持者”を対象とした商品となります》
「“非魔力保持者”を…? こんなものを使って一体何になるというのだ? よく言う『索敵機能』や『念話受信機能』とかそういうものか? だったら生憎、
レジアスのいうデバイスは、機動六課でもロングアーチや家康、政宗ら戦国武将陣に支給している片耳に装着する念話交信用デバイスの事である。
これは装着する事で擬似的な念話能力をデバイスが補い、魔力を持たない者であっても魔導師と念話で交信する事が可能となるのだ。
機動六課を含めた一般部隊に流通している同様の機種は、コスパ削減の為に念話交信機能以外の機能はオミットされたシンプルタイプだが、中にはメガネ型のデバイスと併用する事で、望遠機能などの戦闘補助の機能を備えた上級モデルも存在していた。
故にレジアスも、アクセラが薦めてきたこれをそれと同じものと思っていた。
しかし、アクセラは自信に満ちた面持ちを崩さなかった。
《確かに、内蔵している念話受信機能や索敵機能などはこれまで流通している既存モデルを更に強化させたものに過ぎません。しかし『
「では一体なんだ?」
《……魔力保有数が無い人間であろうとも、魔法を行使する事が可能となる…言わば、非魔力保持者を“擬似的な魔導師”にするわけです》
「「んなっ!?」」
アクセラの自信に満ちた言葉に、レジアスだけでなく話を傍らから聞いていたオーリスでさえも珍しくそのポーカーフェイスを崩してしまう程に驚きを見せる。
「そんな事が…!? 本局の技術部さえも長年研究を重ねても未だに実用化には至っていない方法を…民間の企業がどうやって…!?」
オーリスが動揺しながら呟くが、その言葉は画面の向こうにいるアクセラの耳にも届いていたようで、余裕に満ちた口調で返してきた。
《ある“偉大な御仁”の助力を賜り、メカニズムを解明した…っとだけ言っておきましょうか…どうですか? 素晴らしい技術でしょう?》
「ば、馬鹿を言うな! 貴様も知っている筈だ! 無許可の疑似魔導師の育成…それも管理局の認証も得ていない民間企業がそれを行う事は違法! それも第一級次元保安維持法違反の重罪であるぞ! それをあろう事か地上本部の長官である儂に直接暴露するなど正気か!? 貴様の返答次第では直ちにウエストランド・サンライズ社を『違法企業』と見做し、御用の看板を取り上げるばかりか、操業停止命令と緊急監査を発令する事だってできるのだぞ!?」
レジアスが画面に向かって唾を飛ばしながら、脅しをかける様に吠えるが、アクセラはまったく動じる様子はなく、それどころか、逆にまるで鬼の首を取ったかのように余裕の微笑を浮かべていた。
《……その地上本部の長官様が…広域指名手配犯の科学者の“元”スポンサーだったなんて事も明るみに出たらマズいんじゃないのでしょうか?》
「「ッッ!!!?」」
アクセラの一言にレジアス、オーリス親子が霹靂を受けたかの如く、完全に言葉を失った。
《ジェイル・スカリエッティ…彼とは我が社も昔、何度か技術顧問として招いて、知恵を借りたりしていた仲だったので決して知らない関係ではないのですよ…勿論、公式記録にはない“裏の世界”で、ですけどね…そんな彼に、まさか中将たる貴方が本局のさる“お偉い様”を介して、資金援助や捜査の妨害を図って支援していたなんて…とんでもないスキャンダルですわね…》
「ぐぅ……!」
《それにしても、ドクター・スカリエッティも随分、薄情ですね。散々、中将にはお世話になったというのに…新しい“お友達”が出来た途端にあっさり、中将との仲を切ってしまったのですから…その心中、お察ししますわ》
「貴様……何故そこまで……ッ!?」
苦虫を噛んだ様な表情を浮かべたレジアスが尋ねる。
《…先程も申しましたが…我々にはさる“偉大な御仁”が味方にいます。その人の知識、権謀、采配はまさにこの世に降り立った“神”の如し…故にあらゆる組織の事情を仕入れる事もお手の物というわけですわ。特に“闇の世界”の事情には…ね…?》
「“偉大な御仁”!? …まさか……ここ最近の
《えぇ…全てその人から授かった知恵の賜物です》
アクセラはまるで神を崇めるかのように満悦した笑みを浮かべた。
その笑みから、彼女がその“偉大な御仁”に相当心酔している事が伺い知れる。
「………貴様らの望みは一体なんだ?」
昂ぶる怒りを必死に抑えながら、レジアスが尋ねた。
だが、その激しい屈辱感は隠しきれず、無意識の内に身体が小刻みに震えていた。
《そんな恐ろしい御顔をなさらないでください。レジアス中将。少々不躾な物言いをしてしまいましたが、私は貴方を強請る目的で近づいたのではありません。お互いにとってプラスになる建設的なお話を持ってきたのです》
「建設的だと?」
《えぇ。つまりは、先日までドクター・スカリエッティと貴方の間に結ばれていた関係を…彼に代わって、我々『ウエストランド・サンライズ』が引き受けるという事です》
変わらず笑みを浮かべながら、アクセラは提案した。
「つまり…貴様らの違法行為が明るみにならないように儂に手を回せという事か?」
《そうですね。幸い資金の方はおかげさまで随分儲けさせて頂いていますので、援助の必要はありません。その分、貴方には時がくるまで我々に管理局の捜査が及ぶ事がないように、配慮をして頂けたら幸いかと…それから必要な場合はミッドに常駐している各部隊の動向や捜査記録などの横流しもお願いしたいですわ。無理にとはいいませんが…》
「……その代わり、貴様らの開発しているその次世代デバイスが完成したら、そいつを我が地上本部の戦力として差し出すというのだな?」
《えぇ。ご希望の数だけ、最優先で供給させて頂きます。そうなれば、地上本部を長年悩ませてきた人材不足の問題は確実に解消されるばかりか、コアタイル派や魔法至上主義者達に我が物顔でお膝元を歩き回られる事もなくなる事でしょう。ね? 悪い話ではないでしょう?》
アクセラが畳み掛ける様に話す。
レジアスはしばらく無言で考え込み、数十秒の間を空けた後に、アクセラに問いかけた。
「…ひとつだけ教えろ。貴様の言う“偉大な御仁”とは一体誰だ? どうやってそんな人物を味方にする事が出来たのだ?」
《残念ながら、その人は少々用心深い性格でしてね…あまり、顔見知りでない人物に自分の素性を知られる事は望んでいませんの。ですから、今はあの人に我々が献上した仮の名前だけ教えて差し上げますわ……『賢者アマテラス』…》
「賢者…アマテラス……!?」
《……勿論、貴方と私達の関係がより強くなって、賢者の信頼を十分に得られる事が出来た暁には、是非とも中将をあの人とお引き合わせしますわ。その頃には『
「………本当だな? ならば……協力しよう」
「司令…!?」
異議を挟もうとしたオーリスを手で制止しながら、レジアスは念を押すように頷き、了承の返事を返した。
《わかって頂けて嬉しいですわ。それではこれからお互いに友好的な関係となる事を願いましょう。かつての貴方とスカリエッティみたいに…ね?》
ひどく歪な笑みを浮かべながらアクセラは通信を切り、目の前のホログラムが消えた。
「くっ…!?」
レジアスはデスクを力強く叩き、悔しさを顕にした。
巷からは『英雄』と持て囃される一方で、自分がスカリエッティをはじめとする広域指名手配犯や裏社会の人間の力を借りている“黒い”一面がある事は他ならぬレジアス自身が誰よりも理解していた。
しかし、それは決して、単なる権威や利益などのつまらない動機ではない…全ては、優秀な戦力を独占する本局や、コアタイル派をはじめとする野党勢力と、その結果、著しい戦力不足に悩まされる地上本部と、その弊害をいつかミッドチルダの市民が受ける事になるのではという憂慮と、その現状を黙認できない強い正義感からである。
しかし、自分の正義を貫く為とはいえ、やはり外道な方法に手を貸す事は、レジアスにとっては激しい罪悪感となって、心身ともに蝕んだ。
先日、密かに支援していた広域指名手配犯 ジェイル・スカリエッティから協力体制の破棄を一方的に告げられた際、勝手な振る舞いに怒り、そして貴重な戦力確保のための望みが断たれた事に絶望する事となったが、一方では心のどこかでは、これ以上悪に与する必要がなくなった事で安堵している自分もあった事は嘘ではなかった。
それでも、根本的な問題は解決していない…そればかりか、スカリエッティからの技術提供がなくなった以上、地上本部の戦力確保の為の手段が完全に断たれた事で途方にくれる事となり、早急に新たな手段を探す必要に迫られていた:
そんな中、今日のウエストランド・サンライズ社からの新たな協力要請…っという名の実質的な“脅迫”は、レジアスにとっては再び自らを生涯悩まされる問題の1つを解決に導いてくれる切り札を得られた喜びと、正義の為に悪の手を借りるという2つの顔を持つ自分自身への葛藤とまたも向き合わされる苦渋の日々に戻った事を意味していた。
「司令…本気でウエストランド社と手を結ぶのですか? ミス・アクセラの言っていた『疑似魔導師』を作り上げるデバイスという話も、やはり本当なのか疑わしいところがありますし…」
「何も言うな! オーリス!」
「!?」
レジアスが声を張り上げて、娘を黙らせた。
「……あの女の言う話が本当か否か考察する以前に…奴らは我々の『正義』の裏の顔を知っておる…ここは素直に奴らを味方に抱き込んでおく事が得策である事はお前もわかる筈だろう?」
「は、はい…」
「それに…奴らの背後についているという『賢者アマテラス』なる者もよくわからないが…おそらく敵に回せば相当厄介な存在であろう…! 現にウエストランド社の最近の快進撃と、スカリエッティの事だけでなく“最高評議会”の事まで把握していたのが何よりの証拠だ! それだけの組織を動かす力や情報を集める力に特化した者となれば、只者ではない事は明らかだ!」
「で…ではどのように…?」
オーリスが尋ねた。
その目には明らかに不安と恐怖の色が浮かんでいた。
「しばらくウエストランドを泳がせる他あるまい…そして、どうにか奴らの信用を得て、奴らにあれだけの知恵を授けた“賢者アマテラス”なる者の正体を―――うっ!? うぅっ!!?」
突然、レジアスが胸を抑えながら苦しそうに唸り始めた。
この短時間の間で何十、何百ものストレスを身を以て体感したレジアスはとうとう持病の心筋症の発作を起こしてしまった。
「お父さ―――いや、司令官!」
オーリスが慌てて、レジアスに駆け寄り、倒れそうになった父親の身体を支えた。
「誰か! 救護班を呼んできて下さい!!」
オーリスの悲痛な叫びが執務室に反響するのだった…
*
時は同じくして、ミッドチルダ西部 産業都市アーキス――――
ここは、今飛ぶ鳥を落とす勢いで急速に発展しつつある大企業『ウエストランド・サンライズ・コーポレーション(W.S.C)』の総本山である。
元々は小さな漁村に過ぎなかったが、W.S.Cが村の一角に巨大な造船所を建設したのをきっかけに、街は同社と共に飛躍的に発展。
W.S.Cが時空管理局の御用企業の地位を確立してからは、それに伴う様に街も栄え、今ではミッドチルダで5本の指に入る企業城下町と呼ばれる大都市に成長していた。
当然、この街のいたる施設がW.S.Cによって整備・建造され、今や主たるインフラストラクチャー事業や学校・病院などの公共施設までもすべてがW.S.Cの独占下にあり、この街に限っては時空管理局よりもW.S.Cの影響力が高いとまでされている。
そんなアーキスの郊外の海沿いにウエストランド社の本社兼CEO一家の私邸である『ウエストランドH.Q』が存在した。
広大な敷地の中に様々な本社ビル、工場、プライベートビーチ、果ては軍港や孤島までも有するこの場所の中心地に本丸の如く聳える近未来風の造りの屋敷こそ、『ウエストランドH.Q』の本丸的場所であるウエストランド邸本館であった。
CEO一家のプライベートを配慮してか、屋敷は海に面した小高い崖の上に存在し、内陸側の周囲は背の高い木々に囲む形で隠されていた。
W.S.Cの人間でも限られた者しか立ち寄る事のないこの屋敷のとある部屋には先程、レジアスとのホログラム通信を終えたばかりのアクセラ・ウエストランドの姿があった。
「ふっ、こんな所かしら……」
巨大なラウンジのようなその部屋の一角に用意されたベッドのように巨大なソファーに腰掛けながらアクセラが一息の溜め息を吐いた。
屋敷の中でも一番広いその部屋は三方を広大な対魔法コーティングの施された特殊ガラスに取り囲まれ、そこから望む大海原は夜の闇に包まれてはいたものの、夜空に浮かぶ満点の星空と併せて非常に美しい景色を大パノラマで独占していた。
っと、そこへ部屋の数あるドアの内のひとつが開かれ、一人の男が慌ただしく入ってきた。
「姉さん! レジアスは上手く説き伏せる事が出来たんだろうね!? まさか、しくじって監査の手配をされたなんて事はないだろうな!!?」
黒がかった紫色のクセ毛な髪質のショートヘアにメガネをかけ、高級感あるベージュのスーツに身を包んだ見るからに神経質そうなこの男こそ、大企業『ウエストランド・サンライズ』
アクセラの弟で、年は彼女よりひとつ年下の28歳。
この会社においては“一応”トップにある男であるが、その素行を見ても分かる通り、CEOというポストに就いているわりには、とにかく商才も経営センスも、不安定な事この上ない…
それに、良く言えば用心深い…悪く言えば臆病者ときたものだから、姉のアクセラとしては歯痒い事この上なかった。
「落ち着きなさいよカトラー。心配しないで。全て、手はず通りに事が運んだわ」
「そ、そうか!? よかったぁ…ったく、あの
カトラーが喚くように文句を垂れるが、アクセラは意に留める様子もなく、涼しい顔を浮かべながらソファーの脇に置かれたミニテーブルの上に用意されていたワインをグラスに注ぎ、一気に飲み干した。
「アンタは肝が小さすぎるのよ、カトラー。それにレジアスをこちらに引き込む事を思いついたのは、私ではないわ。全ては“アマテラス”の差し知恵よ」
「!? け、賢者様が……!?」
アクセラの口から出た“アマテラス”の名を聞き、カトラーは驚きと恐怖を併せた様な表情を浮かべた。
「で…でも姉さん! そもそも今更、レジアスなんかを味方に付けてどうなるってんだよ!? 確かに『
「…わからないかしら? それが“アマテラス”の狙いよ」
「はぁ?」
教え子の間違いを正す教師のような口ぶりで話したアクセラに、カトラーは理解出来ずに怪訝な顔を浮かべる。
「…彼は…レジアスはいうなれば“愚直なマキャベリスト”…己の大義の為に、どんなに黒い事であろうともやり方を辞さない……だからこそ、私達が『
「ど…どういう意味だぁ?」
尚もアクセラの言葉の意図が理解できていないのか、困惑するばかりのカトラーだったが、そこへ―――
「左様な単調な意図も理解できぬ馬鹿に、それ以上仔細を語ってやる必要はない……」
不意に聞こえた姉弟どちらのものでもない冷たい声が部屋に響いた。
それを聞いたアクセラ、カトラー姉弟の視線は部屋のある扉に集中する。
「「っ!?」」
バンッ!と開かれた扉の向こうから入ってきた人物を見て、アクセラは表情を綻ばせ、カトラーは怯えを含んだ驚きの顔になる。
入ってきたのは、一人の男性であった。
端正ながらその身体に流れる血でさえも冷たく見える程に冷徹なオーラを醸し出した容姿に、緑色の衣装に翼のような長い甲冑―――
そして頭に被った長い兜…
この近代的な構造の屋敷には少々不釣り合いといえる様な衣装を纏った男がツカツカと靴音を立てながら部屋の中に入ってくると、カトラーは慌ててその場にひざまずいて、敬服した。
「こ、これは“賢者アマテラス”様! あ、貴方様直々にここへお出でになられるとは…!!」
それに対し、アクセラは慣れ親しむ様な笑みを投げかけるが、“賢者アマテラス”と呼ばれた男はそれを完全に無視しつつ、彼女の腰掛けるソファーの前にやってきた。
「……首尾は?」
アマテラスが口を開いた。
カトラーとはまるで違う余計な形容詞は一切加えない、要点だけを率直に伝えた質問であった。
「一から十まで貴方の思惑通りの結果よ。これでレジアスも地上本部も完璧ではなくとも、これからは貴方の思うままに動かせるわ。それで? これからどうするつもり?」
「……言うまでもなかろう」
親しげに話しかけるアクセラに対して、アマテラスは氷のように冷たい視線を投げかけながら返した。
「予定通り『
アクセラの言葉を聞くと、アマテラスはその射抜く様な視線を今度は背後に控えていたカトラーに向かって投げかけ、さも当たり前の様に言い放った。
「完成までの期限は
「に…に、に、二ヶ月ですか!?」
アマテラスの言葉を聞いたカトラーは顔色を青ざめながら仰天した。
「わ、わわわ、我が君! それは…流石に無理がございます故、何卒ご容赦を! 現在『
「勘違いするな。
「な、ならば尚の事無理があります!! せめてもう一ヶ月! 一ヶ月分だけご猶予の程を!! 生産ラインの確保や配給の為の人員や経費、その他諸々の都合を合わせなければ――――」
刹那、カトラーの細い首根っこをアマテラスが掴み上げた。
「ぐっ…!? ががっ……!!」
その細身の手からは信じられないような強い力に首が押し潰されそうな感覚を覚え、息ができなくなる。
カトラーは低い声で呻きながら必死に藻掻いた。
「黙れ。
「ぐげっ……がががっ…も゛…も゛う゛じわげ…ござ…っ!!」
気がつくと、カトラーの身体はアマテラスに腕一本で吊るし上げられていた。
すると、アクセラがゆっくりとソファーから立ち上がると、カトラーを掴み上げるアマテラスの元に近づき、
「まあまあ、そう怒らないの。 ここは間を取って“二ヶ月半”で手を打ってあげてもらえないかしら? 勿論、弟の拙い部分は私が補って、貴方の計略が狂わない様に配慮してあげるから…」
「ふん……覚えておけ。今そなたらの“企業”なる組織が繁栄しているのは、我が授けた術策があったからこその事。
それはそなたらが、我が“元の世界”に戻る為の知恵、そして我が御家の安泰の為の駒となる事を約束したが故の“同盟”に従って動いているまで……されど…仮に同盟を結んだといえども、我が使えぬと判断した者は誰であろうと切り捨てる……そなたの愚弟は勿論の事、そなたでさえもその1人である事を忘れるな。アクセラ・ウエストランド…」
ごく当然の様に冷淡に言い放つアマテラスだったが、アクセラはそんな非情な言葉でさえも予想していたというように、動じる事なく、微笑み返してみせた。
その様子を見たカトラーは藻掻きながらも、姉の予想以上の豪胆さに見ている自分の方が肝が冷えそうな感覚を覚えた。
そこへ、アマテラスの刃物の様な鋭利な視線が首を掴まれている自分に向けられた事で、カトラーの肝は本当に冷える。
「貴様もよく覚えておく事だな。カトラー・ウエストランド…
アマテラスはそう告げるとカトラーの喉から乱雑に手を離す。
地に落とされ激しく咳き込みながら、カトラーは弱々しく返事を返した。
「か…可能な限り、人手を増やし…わ、我が君のご期待に添えるよう尽くします故……」
「……始めから、そう言えばよいのだ。忖度の効かぬ
吐き捨てる様にまるで慈悲の心のない言葉を言い放つアマテラスに、アクセラは恐怖半分、感心半分に聞き入っていた。
恐い…恐すぎる…しかし、そんな恐い程に冷徹だからこそ、ウエストランド・サンライズ社を短期間の間にここまで一気に発展させ、そしてその地位を不動のものとする壮大な“計画”を推し進める事ができるのだ。
その為ならば、例え自分がこの男にとって数ある“駒”のひとつに過ぎなかったとしても、敢えてそれを受け入れ、力となるまで…
そうすることで、この男の神がかった知恵と権謀をこの男以外に利用できる唯一の立場になる事ができるのだから……
「アクセラ…あとはそなたに任せる。レジアスなる男と、時空管理局の動向から、くれぐれも目を離すな…」
「ええ…『
「フン……それから“恵瓊”の手綱を握る事と、“幸鶴”の教育もしかと忘れるな…奴らが何かいらぬ不始末を起こした場合は、代わりに貴様らが処罰を受けると思え…」
アマテラスはウエストランド姉弟に背を向け、来た時と変わらず統一した歩調で部屋を出ていった―――
ドアが閉じられ、人の気配がなくなった事を確認したカトラーは掴まれた首根っこを擦りながら姉の元に駆け寄った。
「お、おい! 姉さん! このまま本当にあの御方…否、あんな得体のしれない男にこの会社の主導権握られっぱなしでいいのかよ!? あの調子だと、いずれ俺達にさえ牙を剥くかもしれないぞ!」
溜まっていた鬱憤を吐き捨てる様に、カトラーは姉に向かって声を張り上げた。
だが、姉は慌てる事なくソファーに座り直すと、ワインのおかわりをグラスに注いだ。
「仕方ないでしょ。私達が役に立つ限り、あの人は私達に素晴らしい知恵を授け、このウエストランド・サンライズを栄華に導いてくれる。言わば、知恵の神=“プロメテウス”なのよ…」
「そ、そうかもしれないがっ…! クソッ! その“プロメテウス”に使いっぱしられた末に焼き捨てられる人生なんざ、俺は御免だぜ!」
カトラーは憤然としながらそう言うと、自分もワインをグラスに注ぎ、それを一気に飲み干す。
「そう心配する事もないわよカトラー。彼の目にあるのは“自国と御家の繁栄と安泰”のみ…その約束を掲げておく限り、彼も無下に私達を切り捨てる事はしないわ…」
アクセラは冷淡に事を述べ、そして自らが知恵の神と例えた男の事を思い返し、歪な笑みを浮かべた。
「私達はとてもよく似た関係……だから利害が一致する限り、お互いにとことん利用し合いましょうね…賢者アマテラス………いいえ、“毛利元就”…さん―――」
というわけで、成実に続き、オリジナル版よりも早く登場してもらう事になりました。BASARA一の冷酷策士 毛利元就様です。
どうしてこんなに早く登場してもらったかというと、このリブート版の感想でちょくちょく「元就様まだか?」「毛利軍を早く見たい」と熱心な声が何度かあったので、「じゃあ出してしまおう」という事で予定よりも随分早く本編に出てもらう事にしました。
とりあえず、元就様の立ち位置はリリバサオリジナルの第三勢力なのはオリジナル版同様ですが、リブート版ではレジアスら地上本部寄りな位置(原典StrikerSのスカリエッティとレジアスの関係)にあると思います。
勿論、後々西軍ともしっかり関わってきます。
そして、リブート版における毛利軍を物語る上で重要なキーワードとなる謎の新型デバイス『INSPIRE』と劇中元就の口から出たある名前の人物にも注目しておいてください。
さて、次回の長編の鍵となる人物も示唆させたし、そろそろ次回の長編を書き出していこうかな…?